●全てを喪った男・全てを棄てた男 町が次々と爆発を起こし、窓ガラスや建材片が道路へと降り注ぐ。 悲鳴を上げて逃げ惑う人々の中を、赤いマントの男が歩いていた。 全身を覆う怪物のようなスーツに直接マントが接続されているのだ。彼は唯一自分のものである獅子の頭を爆風に晒し、ニヤリと笑った。 「我が主、聖四郎様の悲願達成は近い。者ども、この場にいる命ある者すべてを殺害し、サクリファイスとするのだ! かかれ」 獅子の男が腕を振るや、全身黒ずくめの戦闘要員たちが簡易式のガンブレードを手に走り出した。 逃げ遅れた大人や娘を庇う母。命乞いする老人たちを次々に取り押さえて一箇所に集める。 戦闘員たちが剣を振り上げ、獅子の男は両手を掲げた。 「捧げよ生命、今宵殺戮の宴なり!」 剣が一斉に振り下ろされ――。 否。 戦闘員たちが突如火花を散らし、一斉に撥ね飛ばされた。 黒煙の中からの銃撃。それもかなりのパワーと精密さをもった射撃である。 「何やつ」 腕を下ろし、黒煙の向こうをにらむと、中から一人の男が現われた。 人の良さそうな顔。 やぼったい丸眼鏡。 ぼろけた警察官の制服に、赤茶けたロングコート。 手には古い銃が握られていた。 「お前は、三尋木から追放されたという」 「十・十十(マジル・ジット)……と言います」 「そんな奴が何の用だ。何が目的だ!」 戦闘姿勢を整えなおす獅子の軍団。 それに対しジットは眼鏡を外して髪をあげ……額の傷を晒した。 「残念ながら、名前以外何も覚えていないのですよ。私が何者だったのか、なぜ、誰から、どこへ逃げていたのか。ただ分かっていることはあるんですよねェ」 眼鏡を投げ捨て、胸に填まった装置に手をかけた。 「目の前の犯罪行為を、『俺』は決して見逃さない! ――『溶射』!」 途端、コンマ零一秒の速度でジットの全身をメタルスーツが包んだ。 かつてこの世界に、正義のために全てを敵に回した男が居た。 彼はリベリスタも、フィクサードも、世界をも敵に回し、最後は自らの命を惜しんでみっともなく逃走した。 命の危機におびえ、失墜した名誉にふるえ、希望のない未来にないた。 そんな彼が全ての三尋木の追ってから逃げ続け、生死の境をさまよい、記憶までも喪った時……六道派のある人物が彼の身体を改造した。 それが。 「革醒刑事ビッグバン! 罪を償え、そのためになら俺は、この手を悪に染めも構わない!」 「おもしろい。直刃に逆らう者よ、ここで死ぬがいい!」 ●逆凪と直刃の抗争劇 最大フィクサード勢力こと逆凪は、黒覇派と聖四郎派に分かれた抗争の中にあった。 聖四郎派は直刃と名乗り、多くのフィクサードやアザーバイドを吸収。ついに『世界』へ手を伸ばし始めたのだった。 世界へ最短距離。その一つが今行なわれている――『逆凪黒覇暗殺計画』である。 「計画の全容まではわかりません。しかし、直刃のフィクサードたちに配られたアーティファクト『proscriptio』が鍵であることは間違いありません。そして、このアーティファクトの能力……周囲の人間を死亡させ、力に変え、アザーバイド召喚の代償とすることも」 アーク・ブリーフィングルームにて、フォーチュナはそう語った。 今回現場となるのは静岡県のとある街である。 オフィスビルや商店の並んだこの土地で激しい破壊活動を行ない、多くの死者を出すことが直刃の目的だ。 「ここへ派遣されているのはかつて裏野部参加組織ストーン教団に所属していた通称『紅蓮獅子』と、その部下の戦闘員フィクサードたちです。紅蓮獅子は直刃の力を利用したことで大幅にパワーアップし、強力なフィクサードになっています」 彼らは集めた『死』を代償とし巨大な獅子型アザーバイドを召喚するつもりでいるという。 「彼がアーティファクトに設定した内容によれば、召喚自体は彼を倒せば止められるようです」 と、ここまでの内容を話したところで、リベリスタたちは付随した資料に目をとめた。苦い顔をするフォーチュナ。 『革醒刑事ビッグバン』についてである。 「それは三尋木の白京地という者から寄せられた資料なんです。内容は確かなようですが……」 開いてみると、彼の経緯について書かれていた。 革醒刑事ビッグバンことマジル・ジット。 元三尋木幹部、神秘犯罪に対抗する国営組織公安零課の課長を務め、アークとも因縁浅からぬ人間である。 彼は15年前におこした殺人の証拠を警察官僚である白京地に押さえられ、白京地とアークの両方から命をおわれる状況に陥っていたが……逃げ延びる過程で記憶喪失になったという。 「六道派のある研究員が彼を拾ってアーティファクトを付与し、逆凪に預けたそうです。流石に逆凪には手を出せませんから今まで生きながらえていたようです。今回の彼の目的は黒覇暗殺の阻止です。人々を守ることを目的とはしていませんし、戦いは彼にとって『必要悪』ですから、戦闘による被害は少なからずあるでしょう」 フォーチュナは咳払いをした。 「直刃派の『紅蓮獅子』、逆凪派の『ビッグバン』。両方を相手にすることは状況的にも難しいでしょう。ですから、どちらかに合流することになるのですが……選択は皆さんに任せます。話し合って、決めてください」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月07日(土)22:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●正義は犠牲のうえに立つ 「ゆくぞ紅蓮獅子。スタンショット!」 銀色のスーツを纏ったマジル・ジット、もとい革醒刑事ビッグバンは特殊に改造されたと思しき古い銃を構え、紅蓮獅子の戦闘員へと走り出した。 彼の乱射するエネルギー弾を次々と払いのける戦闘員たち。 そのすぐそばには、彼らによって集められた一般人たちがうずくまっている。今さっき殺されかけたばかりで、今もまだ助かったわけではない。 「い、いやだ。死にたくない!」 ビッグバンに気を取られている間にと逃げ出す男や老人たち。 娘をつれた女も一緒に逃げだそうとしたが、途中で女が躓いた。 「お母さん!」 先を走っていた娘が駆け寄ってくる。見れば足を怪我していた。 紅蓮獅子はそんな二人を見つけて鼻で笑った。 「お前たちは聖四郎様の糧となる身。逃げることはゆるさん」 巨大な剣を担ぎ、のしのしと歩み寄る。 恐怖におののく少女。それを庇って身を丸める女。 剣にエネルギーを漲らせ、振り上げる紅蓮獅子。 戦闘員たちに取り囲まれながらも、はたと振り向くビッグバン。 「や、やめろ!」 「死ねい!」 紅蓮獅子との距離が10メートルをきった、その時。 複数に分裂した少女の残像が紅蓮獅子を襲った。『もっそもそそ』荒苦那・まお(BNE003202)である。 「なにっ!?」 よろめく紅蓮獅子。 まおは高速回転をかけて着地すると、母子の前に立ちはだかった。ちらりとビッグバンに目配せをする。 「お仕事、させてもらいます」 「仕事だと? フン、邪魔者が増えたか。貴様らを殺せば、一般人よりも更に強力なエネルギーが手に入る。聖四郎様もお喜びになるだろう。やれい!」 陣形を切り替え、まおとビッグバンへ同時に襲いかかる戦闘員たち。 まおは帽子とマスクを指でなおし、再び身構えた。 ●正義の悪は正しからず ビッグバンやまおが戦闘に突入した頃、『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)は一般人に紛れて避難誘導をはかっていた。 転んだ男性を抱えおこし、安全な方へと促す。 「一キロは離れといて。それで屋内に入って、暫く出てこんようにな。ここは危ないから」 「あ、ありがとうございます!」 「元気なやつは怪我したやつに手をかしてやんな。今だけでいいからよ」 足を引きずって走る男を指さし、『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)は近くを走る別の男に呼びかけた。 付近一帯は突然の爆発とフィクサードの襲撃に対し酷いパニックに陥っていたが、銀次や椿が避難誘導にかかったことでかえって冷静さを取り戻していた。 むろん彼らのようなコワモテ(ここに椿を含めてもよい)たちが呼びかけたからというのも勿論あるのだが、『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)が警察を名乗ってふれまわったことも確実に効いている。 その遥平は、家族の居ない家の中に取り残されてパニックになった子供を千里眼で見つけ、腕に抱えて飛び出してきたところである。 「この子を頼む。逃げる方向はあっちだ、間違えるなよ」 「は、はい! どうも!」 子供の手を引いて走って行く女性。それを見送り、遥平は煙草を口にくわえた。 銀次が駆け寄ってくる。 「そっちはどだい刑事さん」 「ああ、この辺で取り残されてる奴はいねえよ次の場所に移るぞ」 椿にも呼びかけ、三人そろって走り出す。 その途中で、酷い爆発音が耳をついた。 ビッグバンたちが戦っている方角だ。 「マジル・ジットか。あの野郎がこんな面白ェことになったたぁな。だが、生きてちゃ邪魔になる手合いなんだよなァ」 「一般市民の救出は後回しやもんなあ」 頭をぐしぐしとやる椿。 「まあジットさんの理想というか、正義がかたよっとるんは今に始まったことは無いけどな……記憶喪失になっても本質は変わらんいうことやろか」 「どうかね。アイツは今のほうが、刑事らしい気がするぜ」 次はあっちだと指さす遥平。 銀次はこきりと首を鳴らした。 「まあ、直刃逆凪で共倒れになってくれんのが理想なんだが……」 「かもな。いや……まて」 千里眼を機動し、遥平ははたと足をとめた。 ●正義は世のためひとのため 「お巡りさん、助けてください! 何があったんです!」 「説明は後でする。今は避難が先だ」 警官に偽装した『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)にさとされ、男はこくこくと頷いた。 彼に続いて、市民たちが慌てた様子で逃げていく。 この非常事態にあって、それらしい格好をした男がこちらへ逃げろと言ったのであれば、普通それに従うものである。避難誘導はきわめてスムーズに進んでいた。 通信機を耳に当てる櫻霞。 「櫻子、聞こえるか。西側のオフィスビルの三階に女性が取り残されている。足に怪我をしているから、手を貸してやれ」 『了解。こちらは任せてください、櫻霞様』 一方で、『梟姫』二階堂 櫻子(BNE000438)は櫻霞の千里眼ナビゲーションにそって取り残された人々を救い出してまわっていた。 言われたとおりに階段を駆け上がってみれば、倒れた棚に足を挟んで動けなくなっている女を発見。急いで棚をひっくり返し、女を引っ張り上げる。 「この辺りは危険です。誘導に従って避難して下さい」 「あ、ありがとう……他にひとは」 「大丈夫です。つかまって」 女に肩を貸し、素早く屋外へと脱出する櫻子。 そこには櫻霞が待っていた。 「その女性で最後だ。次へ行くぞ」 「はい」 近くの人に女を任せ、次のエリアの避難誘導にと走り出す二人。 その途中で、酷い爆発音が耳をついた。 ビッグバンたちが戦っている方角だ。 「命惜しさに逃げ出し、逃げ延びたというのに、記憶の喪失が彼を戦場に向かわせてしまいましたのね……」 「それであのヒーローアクションか。現実はフィクションのようにご都合主義じゃない。市街地のどまんなかで戦闘なんざやらかせば犠牲がふえるだけだ」 「……ええ、これ以上被害を大きくするわけには、いきませんものね」 櫻霞は千里眼を起動し、戦闘の様子を確認した。 「避難が終わるまではあっちはノータッチだ。……ん、あれは?」 ●正義という名の自殺行為 遥平と櫻霞が千里眼でそれぞれ見たのは同じ状況だった。 「ぐああっ!」 戦闘員の連係攻撃に晒され、ビッグバンは全身から大量の火花を放ち膝を突いていた。 銀色のスーツが消失し、うつ伏せに倒れるマジル・ジット。 「フン、多少はホネがったようだが、所詮はその程度。この紅蓮獅子団、たった二人で刃向かえると思ったか」 「うう……」 一方で、まおもまた満身創痍の様子だった。 戦闘員12人と紅蓮獅子を相手にするのは分が悪すぎる。一旦退くべきかと考えたところで、柱の陰に小さな子供が隠れていたのを発見した。 「どこを見ている。む? なんだ、まだ人間が残っているではないか」 「だめです、逃げて!」 割り込もうとしたまおを、紅蓮獅子は大剣一閃で払いのけた。鮮血を散らして子供のほうへ転がるまお。 恐れおののきしりもちをついた子供に、紅蓮獅子はゆっくりと歩み寄った。 まおは身を挺してでも庇う覚悟で膝立ちし、腕をひろげる。 「逃げてください。生きてください!」 「無駄だ。人間にそんな度胸があるものか。貴様も共に死ぬがいい!」 エネルギーを漲らせた剣を振り下ろす紅蓮獅子。 目を瞑ったまお――の前に、マジルが割り込んだ。 肩から派手に切り裂かれ、崩れ落ちるマジル。 「……なんで」 「殺人は、犯罪ですよ」 割れた眼鏡を落とし、マジルは血まみれの手を震わせながら顔を撫でた。 ちらりとまおに振り返る。 「子供をつれてお逃げなさい」 「でも」 「市民の安全なんていうのは、お巡りさんや自衛隊や、きみみたいな親切な人に任せておけばいいんです。しかし私はねェ……犯罪をねェ、見過ごすわけにはいかないんですよ」 胸に手を当て、立ち上がるマジル。 左腕は、既になかった。 「彼はつかまえ、裁判をうけさせ、罪を償わせる。そうしなければ、私は『俺』で無くなってしまうのだ――『溶射』!」 まおは子供を抱え上げ、その場から走って逃げた。 後ろで爆発が起きたが、振り返らなかった。 ●正義と悪はおなじもの 一方その頃。 「ここは危険です。人々の避難誘導をしてください。残った人々を裏口から避難させ、あちら側は封鎖するように。……あ、いや。封鎖はオレがやっておく」 「わかりました。お気をつけて」 『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)によって魔眼をかけられた警備員は、こわばった表情で裏口へと走り出した。 頷いて見送る竜一。 「これでなんとか、避難は終わりそうだな」 「少なくとも一番危ないエリアは解放できた。もう一息ってところだろ」 『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は警備員から借りてきた鎖を戦闘エリア側の扉に巻き付け、あやまって出て行かないように固定した。 「ひとりの男のつまらない野望のために、罪の無い人たちを殺させてたまるか。俺に出来ることは、全力でやる」 「オレも同じ気持ちだ。ただ神様じゃあないから、全てってワケにはいかないんだ。だから手の届く範囲のすべては、守ってみせる」 壁にせをつけ、竜一は強く自分に言い聞かせた。 と、その時。 「壁から離れろ!」 竜一の首根っこを掴んで、義弘は反対側へと放り投げた。 直後、壁が外側から破壊され、男の死体が転がり込んできた。 男。マジル・ジットの遺体である。 心臓部がえぐり取られたように穴が空いている。 「……こいつは」 「フン、見つけたぞ。人間を逃がしているというのはお前たちだな?」 駆け込んでくる戦闘員たちに身構えていると、紅蓮獅子がゆっくりと屋内に入ってきた。 手には青白く光る正十二面体が握られていたが、紅蓮獅子はそれをめきめきと握りつぶして破壊し、ついでとばかりにマジルの遺体に剣を叩き付けた。 激しい爆発がおき、跡形も無く破壊される。 「こいつ! なんてことすんだ!」 起き上がり、武器を構える竜一 敵の数は……戦闘員10人と、紅蓮獅子。こちらは二人。 いくらなんでも分が悪すぎだ。 「どうする、義弘」 「ここの避難は終わってる。できれば逃げたいが……」 「逃がすわけがなかろう!」 剣に炎を纏わせ、辺り一帯を次々に爆発させる紅蓮獅子。 義弘は歯を食いしばって防御姿勢を固める……が、そこへ戦闘員たちが一斉攻撃をしかけてきた。 五人がかりで集中射撃を仕掛け、更に五人がかりで連続斬撃を仕掛けてくる。 いかな鉄壁の義弘とはいえ、ノーダメージというわけにはいかない。どころか急激に体力をえぐられていった。 「……俺が、盾だ」 瞳に強い炎をともし、つきかけた全身のエネルギーを再び充填させる。 そんな彼めがけ、紅蓮獅子は強烈な斬撃を叩き込んできた。 思い切り吹き飛ばされる義弘。 「義弘、下がれェ!」 竜一は彼にしてはひどく乱暴な口調で叫ぶと、凄まじい衝撃波を放った。 衝撃は義弘の横を抜け、銃撃していた戦闘員たちをまとめて吹き飛ばす。 「直刃という鎖に繋がれた獅子よ。その闇の鎖を断ち、天へと還してやる!」 再び刀を構え、衝撃波を放つ竜一。 「甘い!」 対する紅蓮獅子は剣を激しく振り下ろし、衝撃自体を爆破させ、破壊した。 ……が、しかし。 爆発が晴れたあとには、竜一も義弘も忽然と姿を消していた。 「……フン、逃げたか。まあいい、他にもいるかもしれん。探すぞ!」 ●よろしく正義、あばよ正義 大型バイクを放り捨て、椿はぱしぱしと手を払った。 「さてと。これで西側の避難は完了やな! ジットさんとこいこか」 煙草を携帯灰皿にねじこみ、苦々しい顔をする遥平。 「いや、その必要は――」 「その必要はない!」 路地の横から紅蓮獅子とその一団が現われ、椿たちの行く手を塞いだ。 大剣を振り上げる紅蓮獅子。 「どうしても会いに行きたいなら送ってやろう。地獄へな!」 「地獄へ落ちンなぁテエェだ!」 鋭い斬撃が、紅蓮獅子の背中へあびせられた。 「なっ、いつのまに後ろへ!」 「テメェらが近づいてくることが分からねえわけねえだろうが! むしろこっちが近づいてやったんだよ!」 「くぅ、油断したわ。だが次はないぞ!」 振り返り、剣を叩き付けてくる紅蓮獅子。銀次はそれを刀で受けるが、圧倒的なパワーに押しつぶされた。 ここぞとばかりに銃を構えた戦闘員が銀次へ集中射撃。 たちまち血煙に消える……かと思いきや、銀次は根性(フェイト)でこらえ、刀を杖にして踏ん張った。 「タダで倒せると思うなよ、おらァ!」 目をギラリと見開き、戦闘員たちへ襲いかかる。 次々に戦闘員たちを殴り倒す中、遥平と椿も銃を抜いて攻撃し始めた。 「新品の千年呪葬弾だ。たんと喰っていきな」 「ジットさんのこと調べられんくなったのは残念やけど、タダじゃ帰らんよ」 戦闘員二名が力尽き、その場に倒れ込む。 紅蓮獅子はそれを無視して、例の一帯爆発を起こした。 咄嗟にガードする椿たちだが、それもむなしく吹き飛ばされる。 電柱に後頭部をぶつけ、遥平は歯を食いしばった。 「……クソッ!」 彼が、マジルを認められた唯一の瞬間が死ぬときだったなど。 もし近くにいたならば、助けに行きたかった。 「どうした人間。貴様らも死んで聖四郎様の糧となるか」 「誰がンなこと……うぐっ」 根性で立とうとする銀次……だが、身体に力が入らずその場に崩れ落ちた。 「遥平さん」 「引き際みたいだな」 椿と遥平は同時に銃を乱射すると、二人がかりで銀次を抱えてその場から全力で撤退した。 一方その頃。 「櫻霞さま……?」 「いや、大丈夫だ。こっちはバレてない」 櫻霞は櫻子にほんのりと優しげな視線をなげかけてから、あたりの様子を千里眼でうかがった。 紅蓮獅子たちは『他に仲間はいないか』とばかりにキョロキョロとあたりを捜索している。 竜一は戦闘不能になった義弘をかついで一旦戦線を離脱。 椿と遥平も同じく戦闘不能になった銀次を抱えて戦線を離脱した。 「ビッグバンとやら、ろくに敵を消耗させられなかったようだな。竜一たちはばらけているところを各個撃破された形か……」 「一般人救出にリソースを割きすぎたでしょうか」 不安げに見つめてくる櫻子に、櫻霞は小さく首を振った。 「いや、連中の誰が潰れようと知らんが、一般被害が出るのはまずい。むしろ一般人への被害がゼロにまで軽減できたことを喜ぶべきだろうな」 「ある意味では、作戦は成功した……と?」 「そういうことだ」 話している間にも紅蓮獅子の一団がこちらへ近づいてくるのが見えた。 何かに感づいたらしい戦闘員のひとりがいち早く駆け寄ってくる。 「戦闘可能なメンバーは六人弱。対して相手は紅蓮獅子含めて九人か。分が悪いな、退くぞ」 「ですが……」 袖を掴む櫻子。 櫻霞はまばたきを一つして、櫻子の髪にふれた。 「死んで奴らに利用される筋合いはないんでね。おまえをくれてやるつもりも、勿論ない」 「……そうですね」 櫻霞と櫻子は戦場に背を向け、撤退を始めた。 作戦終了。 本作戦における死亡者はゼロ人と記録されている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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