● 今年お正月らしい事したっけ……。 少女の嘆きは天まで届いた。 ●ここから先ぶっちゃけオフレコだから 「ヤッホー!! いやあ本当にやってしまうとは。幼子だったアークがみるみる育って……年月は早いわねぇ!」 剣林残党と言えばいいのか。 戸部馨というフィクサードがアークを訪ねて来た。 アークに会う前の彼女であれば、「たのもー!!」とか言いながら抜き身の太刀をぶっさげて正面突破して来たに違い無いが、今は友人やアークに生かされた命が惜しい。 今は、其処ら辺のコンビニで買って来たのか。ビニール袋に酒瓶とおつまみとアーティファクト鋼心丸が入っている。格好はジャージに下駄の完全干物女状態だ。戦闘の『せ』の字さえ感じさせない。 「なぁーんでこんな所に、フィクサードがいんのよ帰れ!! 場違いよ!!」 二の腕組んで、仁王立ちの赤神朱里が華やかな金髪ツインテールを逆毛立たせて威嚇していた。 そびえ立つ中指を強調する朱里の顔には、嫌というほど三尋木所属という文字が消せないのだがさておき。 「まあいいからいいから、日本最強を倒したらここが日本最強の組織なのかしら? 逆凪とタイなのかしら?? そんな事より飲もうぜ、私にゃあどうでもいいわ」 「し、仕方ないわねえ……」 ずい、と前に出されたビニールを乱暴に受け取った朱里は、ツンとそっぽを向いた。 そんな光景を天高く黒と白のフライエンジェが見ていたワケで。 「敵勢力が攻めて来たわ!」 「え、マジ? ヤバイじゃーん、神威撃っちゃおうよ」 「剣林で顔見たことある馬鹿だわ!」 「あ、そう? ふーん。殺しちゃっていい感じの人種って事だね。もれなく死体は僕が回収したい」 「杏理に伝えないと駄目だわ! 祭りの気配だわ!」 「その祭りって血祭り? 酒祭り? すんごい酒の臭いしかしないんだけどお祭り好きめ」 「―――ハッ」 其処で夢から覚めた。牧野杏理は布団を乱しながら、なんだ夢かと―――。 「最高の正夢だよね、未来日記ちゃん」 「杏理! おはようだわ!」 「ですよねー、おはようございますなんで家にいるんですかお二人様?」 ニコォと笑った架枢深鴇とマリア・ベルーシュが、一斉に外へ指を向けた時。 「やっほー!」 という声が聞こえた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月08日(日)22:11 |
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■メイン参加者 16人■ | |||||
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● ビルの間の摩天楼を飛ぶ影。 鬼ごっこのようなその光景。相手の背を追うのはアラストールだ。 前方より放たれた弾丸がアラストールの頬を掠っていく。あえて避けなかった、避ければその分相手から引き離されてしまうからだ。 ずし、と重い片手に乗った武器を振るい屋上に到達する敵ごとビルを切り崩す――のだが、 「む」 腹部にじわりと浮かんだ赤い点。刺さった弾丸が突き抜け。 次に目が覚めればアークシュミレーターの中であった。 常在戦場、治にありて乱を忘れず 食える時に食事して、生涯学びて生きるなりけり 守れるべきものを護れるようになるまで、アラストールは鍛錬を怠らない。されど、遠くで聞こえる華やかな声達に、口元を緩めた。 「聖堂でお会いするのは久しぶりです……お正月早々大変でしたからね」 「こうやってゆっくりできるのは久しぶりね。だって、前ここに来たのって……」 言葉に詰まったシュスタイナが聖に背を向け、火照る顔を抑えた。彼に魅せないように、と。 対して彼は涼しい顔のまま、にこりと笑い『あの時はお手伝いをどうも』と、珈琲を淹れる準備をする。 「恋人になって、ほんの数日のように思ってましたが……デート位はしたかったんですけどね」 ほんのり香る、珈琲の。甘い砂糖が少しずつ溶けていくのを二人で目にしながら、ふと聖はシュスタイナを見つめた。 「デートは嫌でしたか?」 「え?」 硬直したシュスタイナ。悪い意味では無く複雑な表情ひとつ落した後、シュスタイナは両手を振りながら、背中の羽を周囲に撒く勢いで否定した。 「あ、嫌とかじゃなくて! 改めてそう言われると落ち着かないというか! そもそも、実ると思ってなかったから今夢の中にいるみたいで。だから」 水分を多く含んだシュスタイナの瞳。雫を零す事は無いのだが、代わりにぎゅっと聖の袖を掴んだ。 震えているのだろうか、彼女の小さな手から伝わるのは恐怖か、不安か。 「夢じゃありませんよ? 大丈夫、消えて無くなったりはしませんから」 「こうやって、温かさを感じられるくらい。……近くにいて頂戴」 見上げられた彼女の目線は一途に彼を見ていた。彼として、何を彼女にしてやれるかそんな事はもう解っている。 「私は、此処に居ますから」 「マリア、新年明けましておめでとぉ!」 「!? あ、あけましておめでとう?」 恐らくこんなシナリオの中では無ければ、ほぼ毎日会っているかもしれない二人であるからか。新年の挨拶に、マリアは驚いていた。 して。 先日施設へ移らないかという話があった。監視されている檻よりは、施設の方が大分良いのは言わずもがなであり即返事ではあったが。 最近では屋敷へ移り住んでいた椿。其の広さが在ればきっとマリアも――。 「あ、あのなマリア、一つ提案があるんやけどな……」 「なあに」 親子であるが故に、今まで退いていた一戦を踏み越えてみようかと……というので。 自分抱きしたマリアがおちゃらけて言った。 「まさか、マリアと結婚!?」 「いやそれは違うで絶対」 ● 「久しいな、賊軍との戦いの時以来か」 「……いい具合の力の抜け方ですね。変に張り詰めていた時よりはずっといい」 拓真と悠月は馨の背中に向けて話しかけた。 「あら夫婦。其処に座れェ!! 飲むぞ」 守護神から奪った酒瓶を、床にドンと置いた馨であった。 「武道は孤高では意味がない」 私の事?と言いたげであった馨であったが、続くであろう話に馨は黙って拓真の話を聞いた。 他者が居てこそ、成立する切磋琢磨を語りつつ拓真は酒を一口呷り。 「奴とは……叶う事ならばずっと高め合いたかった。奴以上に俺を戦いに駆り立てる男は現れる事は二度と無いだろう」 「そうか。奴も金輪際思い続けてくれる奴が居て浮かばれるだろう」 「死ぬ事になろうとも奴の斬手に倒れるのなら本望。そう思っていた」 と。横眼で見た拓真がぎょっとした。馨が大粒の涙を流しながら、次の瞬間赤子のように泣きだした。 「くっ、九朗ーーーッ!! すまない私が四国にさえいなければ……!!」 「落ち着け」 暫くして。 「馨さん……品物の事、何処で知ったのです?」 「ああ、九朗の敵絡みで追ってたらゲロったのよ。あの黄泉ヶ辻のフィクサード……なんて名前だっけ、上下両輪、だっけ」 「ふむ……」 「まだ女王蜂が産み落とした双子の姉弟が見つかってないみたいだしね」 「なあに、難しい話なの?」 退屈だ、と。マリアが悠月のお腹あたりに腕を巻きつけてごろんと回った。 「そういえば、ベルは馨さんの事を知っているのですね?」 「そうよ! 偉いでしょう?」 マリアは馨に向けて、べーっと舌を出した。 同じ盃の酒も微量の雫。拓真は盃を傾け、名残惜しそうにしつつ。 「仇を討つなら何時でも来い。俺は逃げも隠れもしない、我が身の恥は……俺を認めた男の恥になる故な」 「何時か、必ず」 「ちわーす! 新田酒店でーす!」 仕事中です。と言わんばかりのラフな服装で、片手はお猪口を持ったような手の形で、もう片方の手は酒瓶が。 「正月、酒盛りとくればやっぱり日本酒でしょ。正月はやっぱり縁起物。色んな限定酒があるんだよね」 テーブルの中央にまるでボーリングのビンの様に並べられた酒ビンたち。 以下、プレを其の儘使用。 「例えばこれ、青森の油川の蔵元なんだけど、干支にちなんだ羊のラベルなんだ」 「わあ、新田さん沢山もってk――」 「それと、少ししか出荷されない斗瓶取りの純米大吟醸。うちも6本しか入荷しなかった」 「なるほど6本……すご――」 「こっちのは正月2日に絞って瓶詰めしたお酒だよ。蔵元は東京の西のほう、奥多摩の豊かな自然の中にある蔵だね」 「奥多摩ですか、静岡から遠いですね」 「杏理ちゃん。もう彼止まれないから反応しないで収まるまで待って」 「他にも色々、新酒の生原酒を持ってきたよ。未成年には、吟醸酒の酒粕から作った本格派の自家製甘酒だ」 「甘酒!」 「そうそう、杏理ちゃんも飲めるよ。深鴇さん、もちろん飲んでいくだろ?」 「嗚呼、もう僕お家帰れないフラグだね☆ 僕ねえ。明日に残らないで、かつ辛口ですっきりしたやつがいいけどなんかある? にしても最近スパークリングの日本酒増えたねえ、あれ僕あんまり好きじゃなーい」 「戸部さんも飲んでいくだろ? なあに、昨日の敵は今日の友、ってね」 「元黄泉ヶ辻もなんでもいるよ☆」 「すまない、快。戸部はもう壊れてしまった」←拓真 「九朗……っ、すまない、私が不甲斐ないばかりに! くそぅ、新城拓真ぁ、そこまで九朗を思っていてくれただなんて感激したわ!! 新田快、酒を注げぇ!!」 「絡み酒だ、これはチェイサーが無いとね」 賑わう中の雰囲気、シンシアは黒髪と金髪の後姿に手を伸ばした。 「杏里ちゃんとマリアちゃん! お久しぶり、元気にしてました?」 「こんにちは、シンシアさん。杏理は元気ですよ」 「マリアもー!」 二人の反応ににこ、と笑うシンシアだが心の中では『マリアちゃんが病気なとこあまり想像できない』と汗を流した。 「シンシアさんもモツ鍋は如何ですか?」 何故此処にモツ鍋があるのかはさておき。 「なにそれ? 美味しいの?」 ふとした杏理の一言にシンシアの瞳が丸くなる。彼女はフュリエ、彼女等の世界に鍋という文化は無いだろう。 日本の文化に触れ、好奇心を刺激されたシンシアのチャレンジ精神は大いに反応した。 「じゃあ、俺も頂こうか」 其処へ来た義弘。 マリアが興味津々にお酒の瓶へ手を伸ばしかけていた所で、義弘が瓶をひょい、と持ち上げた。 「駄目だぞ、未成年は」 「むー」 「もうちょっと経ったらだな」 膨れたマリアの頬をつん、と突いたシンシア。駄目絶対、未成年禁酒。 「いやーナイスツッコミ。僕も見ててスカっとしちゃった、カッコイイね侠気の盾クン」 「くん、と呼ばれる歳でも無いけどな」 「まあまあ、僕なんでもかんでもクンチャンだから☆」 座っていた義弘の背に体重が掛かる。酔っぱらった深鴇が彼の背中に背中を合わせて、背もたれに。 「飲み過ぎだぞ」 「顔は真っ赤だけど意識はあるよ」 「駄目なパターンだ」 「潰れちゃったら、侠気の盾クンが解放してくれるかなーって」 「仕方ないな」 にっこり笑った深鴇に対し、義弘はやれやれと肩を落とした。 「はい。マリアちゃんと杏理ちゃんはオレンジジュース追加。深鴇さんにはウーロン茶」 「遂に酒が注がれなくなった☆」 気の利くシンシアは、マリアから順番にジュースを渡していく。其れを見ながら、小雷が呟く。 「いるべき場所にあいつがいない。あいつがいたならば、もっと楽しめたのだろうな」 遠くを見ながら、彼が望んだ幻想を思い返す。今、もし、此処に居たとすればきっとこう言っていただろう――― 「楽しんでないの?」 ――と、其の前にマリアの目線がぐいと小雷を見上げていた。そういう訳では無いと苦笑いひとつ見せた小雷。 こんなとき、酒はまだ飲めないがマタタビなら……いやいや、どこまでも獣に染まってはいけないだろう。感傷には浸っていられないとマリアの頭を撫でた。 が、せおりがマリアを奪っていく。 「まーりあちゃーん! あっそびっましょー!」 まるで落ちていたボールを拾った勢いで拾い上げて、マリアも何が起きたと目を丸くして。 「あ! 飲み物はサイダーね! のんあるこーる!」 「オレンジジュース!」 「じゃあ、オレンジシュースとサイダーミックスで!!」 変わらず明るい台風の様な娘だ。せおりは膝にマリアを置きながら、ふと馬刺しの最後の一切れに手を伸ばし――。 「あっ、(箸が)通ります」 一歩早く、快の箸が其れを攫って行った。 (´ι _` ) 己が命の管理は完璧と誇る竜一であるが、横眼から見えているユーヌの視界には明らか重傷に重傷を重ねた彼の姿が見える。 「消毒にはアルコール。後は、わかるな?」 「まぁ、百薬の長だ。お酌ぐらいはしてやろう」 それとも傷口に酒を吹き付けた方がいいか?と挑発的な目線をするユーヌに、口に含んだ酒を吹き出しそうになった竜一であった。 其の内酔いが回った竜一は、ユーヌの膝の上にごろんと頭を乗っけて、彼女は其れを撫でた。 「ユーヌたんも重傷なので無理しないように。ユーヌたん、わりと無理するからね、心配」 「私は別に無理してないが、竜一が無茶するときはするかもしれないけどな?」 ふと、撫でる腕の肌の上に赤い線ひとつ。彼女の腕を取った竜一は、線をなぞる様にしてアルコールを含んだ舌でなぞる。 舐めるだけならいいだろうし、これは消毒という名の好意的行為。アルコールに未成年者が触れた所で違反もくそもない。 「まったく体中嘗め回す気か?」 「まったくもう、ユーヌたんに傷つけていいのは俺だけだってのに!」 真っ黒なユーヌの瞳が少し緩んだ所で、竜一を傷つけていいのは私だけ、と言い返してやろうか考えたが飲み込んだ。思い出す彼の妹の気持ちが今ではユーヌには解るのかもしれない。 起き上った竜一が頬の傷を舐めた――まだまだ二人のスキンシップは終わらない。あれ此処、公的場じゃなかったっけ。 「……なんだこれ」 義衛郎が到着した頃には周囲は惨劇の後であった。 「兵どもが夢の後……って感じか」 漂うのは酒の香り。部屋一面が、其れで満たされている。 下を見ればゴミだらけ。開いた酒ビンがごろりと転がり、紙皿紙カップの群。其れをゴミ袋へひとつひとつ放り投げつつ、遠くの壁に隠れてこっちを見ている影ひとつ。 「あー、其処の白い翼の綺麗なベルーシュさんが、手伝ってくれないかなあ」 「嫌よ。マリアの白い翼が汚れたら嫌でしょう?」 「あとで洋菓子を奢るんだけどな」 「此処から片づければいいのかしら!!」 サムズアップしながらゴミを拾ったマリア。義衛郎も手慣れたもので、彼女の扱いは一流と見た。 暫くして。 「お手伝い、ありがとうございました。乾杯」 「かんぱいだわ!」 グラスが当たり、甲高い音が響く。義衛郎の手にはお酒、マリアの手にはジュースが光に当たって輝いていた。 帰り道、ほろ酔い気分で或る意味敵の本拠地を大胆不敵に闊歩する馨――が、只で帰れるはずは無かった。 「戸部馨君かね?『閃刃斬魔』、と名乗れば要件はわかって貰えるかね?」 「げッ、蜂須賀ァ!」 「なに、本気で殺し合おうなどとはしない。流石にアークの同胞を斬ってここを追い出されでもすれば障りがある」 一歩一歩、カツカツと足音を鳴らして歩いて来る長身に、馨は微動だにせず残った酒を飲み干した。 「君もすぐにわかるだろう。ここにいれば強敵と戦うには事欠かない」 「バロックナイツに七派ねぇ……で、いいよぉかかってきんしゃい」 「『閃刃斬魔』、推して参る」 刹那の間、馨の視界から消えた朔が死角から刃を振り落す。馨は後ろに回転しながら高音の金属でも擦れたかのような音が響いた。 「『切り裂き魔』戸部馨。綺麗に剥いてあげちゃいたい!」 おまけ。 「悠月、今日もマリア、あるこーるのめなかったわ、大人ってずるいわ」 「もう少しですよきっと」 膝を抱えて愚図るマリアが其処に居た。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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