●囚われの姫、二人 「もう、だめ……。耐えなきゃいけないって分かってるのに……体が……」 エリューションに囚われた『突撃鉄球れでぃ』水無瀬 夕子(nBNE000279)は熱っぽい声を出していた。下半身の自由を奪われ、頬を上気させてエリューションの為すがままになっている。 否、逃げることは出来る。だが夕子はそれが出来ないでいた。物理的な拘束はない。強く意思を持てば抗うことは出来ただろう。……だが、エリューションから与えられるモノに抵抗の意思を奪われ、力なく体を揺らしていた。 体が熱い。その熱に抗うことが出来ず、そして与え続けられ。このままでは駄目だとわかっているのに―― 「ふっふっふ。この気持ちよさに身を捧げてしまうでござるよ」 同じくエリューションに囚われた『クノイチフュリエ』リシェナ・ミスカルフォ(nBNE000256)が夕子に語りかける。彼女はエリューションへの抵抗を諦め、その身を預けている。完全に脱力し、心地よく息を吐いていた。 「駄目よ……私はリベリスタなの。エリューションなんかに、負けたりしない! 負けちゃ……だめ、なのに……」 「抵抗したって無駄でござるよ。さぁ、その制服を脱いで楽になるでござるよ」 「う……うん……」 頷き、制服を脱ぐ夕子。楽になったのか上気した息が漏れた。 それは抵抗を諦めた証。二人のリベリスタはエリューションの能力の前に、陥落したのであった。 ●アーク 「Eゴーレム退治に向かった先発隊が陥落しました。救出と共に討伐をお願いします」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の説明と同時にモニターに映し出されるのは、 「……リシェナと水無瀬が部屋でコタツに入って寝ているように見えるが」 「あの炬燵がエリューションです」 脱いだ制服の上着もだらしなく投げ捨て、夕子とリシェナはコタツに入ったまま眠っていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年02月01日(日)22:42 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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●炎の儀式に挑む者たち 勝兵はまず勝ちて後に戦いを求め、敗兵はまず戦いて後に勝ちを求む、という。 勝つ者は戦う前に入念な準備をして、勝利する体制を整えた後に戦いを始める。勝負とは戦う前から始まっているのだ。それを怠れば―― 「くかー」 「もうたべられないでござるー」 コタツで寝転がる夕子とリシェナのようになるのは当然といえよう。 「準備は万端だ」 そう豪語するのは『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)である。用意した様々な道具をてきぱきと展開していく。 まずは座椅子。背もたれに背中を預けることで、楽な体勢をキープできる。肩こりや腰痛などは一点に負担がかかるから起こるのであって、そういった工学にのっとって作られた椅子は何時間座っても体が痛まないらしい。姿勢大事。 そして内線電話。室外からサポートしてくれるアークスタッフへの連絡を取ることで、コタツから出ることなく物資を調達できる。 さらには会議室からTVとDVDプレイヤーまで持ってきている。だらだらコタツで過ごすには必要なものだ。 「ええ、サポート体制もばっちりです」 と 四条・理央(BNE000319)も影を立体化させながら頷く。持ってきた眠気覚まし用のコーヒーを淹れながら、コタツに入って暖を取る。いつも使っている破界器を影人に渡す。 「あ、眠そうになった人の額を槍で冷やしてあげてね」 物騒な言葉だが、槍は氷の力を宿している。そうでなくても穂先は冷えて普通に冷たいのである。まぁ、事情を知らなければ怖い話だが。 「思ったよりも……大きい……」 四人用コタツかと思っていた『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は、思ったよりも大きなコタツに安堵していた。最初はコタツに入れず外で待機かと思っていたのだ。いの一番にコタツに入りのんびりする。 「寝てる二人には毛布を――」 「起きろー!」 「にょあああああ!」 毛布をかけようとした快の紳士的行為は『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)が夕子に襲い掛かったことで中断された。比喩的表現ではあるが、寝てる乙女の体を揉みあげる行為は襲うといってもいいだろう。 「何するの!?」 「リベリスタの心を忘れてしまわぬよう、起こして上げたのだ!」 夕子の言葉に胸を張って答える明奈。一秒の沈黙の後、夕子は半眼で追求を重ねる。 「本音は?」 「いやほら、このメンバーツッコミ不在じゃん? ツッコミ担当が欲しくて」 ひどい理由もあったものである。 「コタツで寝ていると脱水による体調不良になりますよ」 医者である『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)はリシェナを起こし、お茶を淹れていた。十分な水分を取ることで脱水症状は防げる。起きてからでは回復は難しいのだ。これもまた入念な準備の一つといえよう。 「あー……よく寝たでござる」 目を覚ますリシェナ。ぐっすり眠ってねむけも吹き飛んだようである。 先発の二人が眠ってしまったことにより、時間はリセットされる。ここから八時間の耐久戦。一日の三分の一を費やす勝負の始まりである。 DVDのスイッチを入れ、映画が始まった。 ●映画『炎に踊る者たち』序幕 A『火事だー! くそ、下の階はもう火の海だ!』 B『最上階にヘリポートがあったはずだ! 皆急げ!』 C『畜生、火の回りが速い! 早く上に逃げないと巻き込まれる!』 D『この火の回り方は異常だ。どういうことなんだ……?』 ●勝負開始! 勝負とはいつでも訪れる。そしてそれはいつだって気が抜けないものだ。 例えコタツに足を突っ込んでいても、負けられない勝負というのは存在する。他人から見ればばかばかしい物だが、全神経と知恵を振り絞って挑むことに意味がある。己の手札に出来る最大限のことを思考し、状況を見極め動く。 「こいこい、するよ」 「やめてー! もう十点確定じゃないのよー! しかも牡丹もってそうだし」 天乃の一言に夕子が絶叫する。花札を手にしながら、やばいやばいと汗を流していた。 天乃が持ってきた花札を、交代で行っていた。別に負けたら罰ゲームとか言うことはないがやるからには真剣に。常にクールな天乃とゲーマー脳の夕子。結果は天乃が圧倒的に勝っている。 「月見酒ありルールはやっぱりきついー」 「文句、言わない……はい、猪鹿蝶、こいこい」 「まだ続くの!?」 このままでは持ち点数が空になる。夕子は必死に逆転の手を考えていた。 「任務なんだけど何とも平和な光景だよね」 理央はその光景を見ながらミカンを口にしていた。コタツでぬくもりながら皆で歓談する。平和な日常そのものだ。崩界以外の実害もなく、エリューション事件とは思えないほどのんびりできる。 もっともいい加減な気持ちで挑むつもりはない。八時間寝ずにコタツに入る。その任務を忘れないようにコーヒーに手を伸ばす。少し苦いがすぐに頭がすっきりし、眠気も晴れていく。理央はかばんの中から本を出し、ページをめくった。周りはそれなりに騒がしいが、それでも読書をするにはいい時間だ。 「ミカンもおいしいですし。半分以上、息抜きの任務になりそうだよ」 「本当に美味しいでござる」 もぐもぐとミカンを食べながらリシェナが頷く。ラ・ル・カーナ異変からボトムチャンネルに着ている彼女は、こちらの文化に染まっていた。……クノイチスタイルは兎も角。 「そういえば寒いのにその服なのですか?」 そのクノイチスタイルをみながら凛子がリシェナに問いかける。冬の風にはつらそうな服だが、リシェナはあまり寒そうな様子を見せたことはない。 「心頭滅却すればなんとかかんとかでござるよ」 「無理はなさらないでくださいね。風邪を引いてしまう前に温まるのが一番です」 医者である凜子は温かいお茶を勧めながら言葉を付け加える。アザーバイドであるフュリエに果たして医学がどこまで通じるかは分からないが、それでも寒い中薄着でいていいものでもないだろう。 「風邪引かないようにするにはどうすればいいでござるか?」 「基本的には手洗いうがい。体を冷やさずにいることです。ビタミンCを摂取して免疫強化をおこなうのもいいでしょう」 外出前と後は手洗いうがい。重要なことである。 「あー……負けたわ」 「三タテとかどれだけ運が悪いのよ」 天乃にボロボロに負けた夕子が倒れこみ、そんな夕子に声をかける明奈。 因みに彼女の格好はジャケットとパンツスタイル。ジャケットは体を冷やさない為のどてら代わり。パンツスタイルは直でコタツにあぶられない為の対策である。入念な準備をしながら見た目にこだわるのは、流石アイドルといえるだろう。 そんな明奈の準備万端の姿を見て、夕子は指差し問いかけた。 「……なんでジャケットの中はカッターシャツなの……? 微妙に胸元開いてるし」 「視聴者へのサービスに決まってるじゃん!」 「神様は不公平だと知ってはいたけど!」 ほぼ同年代の胸元を見せ付けられ、怒りに拳を握る夕子であった。貧富の差とはいつの世も存在する。 「まーまー。気を取り直しておでんでも食べよう! おでん鍋でろー」 明奈の言葉がトリガーとなって、コタツの上におでん鍋が現れる。煮だっているほどではないが、熱そうなおでんだ。 (熱々のおでんに手を出したりしろってバラエティの神々が言ってる。そう。これはアイドルである私の使命!) おでんを前によからぬことを考える明奈。アイドルとは何だったのか。 「それにしても、女性ばかりで男は俺一人とか役とk……じゃなかったちょっと緊張するね」 快が熱燗を手にして口を開く。おでんを食べながらの熱燗、そしてコタツ。これこそ日本人の冬の幸せである。醤油と鶏がらベースの汁が染み入った具を頬張りながら、人肌ほどに暖かいお酒を口にする。 口の中で飽和するおでんの味と五郎六腑に染み渡る日本酒が体の中から熱を発し、コタツの程よい熱が外から体を温める。外の空気で冷えた体と心を同時に癒しながら、空腹も満たされる。これを幸せと呼ばずしてなんというか。 「そういえばちくわぶって竹輪の一種でござるか?」 ちくわぶを箸でつまむ快に問いかけるリシェナ。 「いいや。ちくわぶというのは関東系おでんの具でね。『竹輪麩』と書くんだけど材料や生成方法から竹輪でもなく麩でもないんだ。 食べ方も十分に煮込んで汁を吸い込んだほうがおいしいが、煮過ぎると形が崩れてしまう。食べるタイミングが重要な具なんだ」 快の説明におー、と頷くリシェナ。ボトムチャンネルの文化は奥が深い。 わいわい楽しむ間にも、時計の針は少しずつ進んでいく。 ●映画『炎に踊る者たち』中篇 A『炎の中から消火斧を持った殺人鬼が!(あいつは、まさか生きていたのか……!?)」 B『俺達を追いかけてくる。話し合うつもりはないようだな(まさか、火をつけたのが私だと知っているのか? ならばあいつは葬らないと)』 C『みんな早く屋上へ行くんだ!(屋上は閉鎖されている。助かる為には耐火金庫の中に入るしか。酸素の問題もあるし。他の人は死んでもらおう)』 D『炎……血……ふはははははは! 赤い、赤いぞ!』 ●戦え僕らのリベリスタ! 「おおっと、そろそろ一時間か。影人を作り直さないと」 理央は時計を見て、符を取り出す。一時間毎に効果の切れる影人を八体作り、また読書に戻る。DVDの内容が物騒になってきたり、コタツを囲む人たちの宴が騒がしくなってきたりするが、まぁアーク所内(のギャグシナリオ)では日常茶飯事かと思いなおし、読書の世界に没頭する。 「熱くゆだったおでんを前にアイドルがいるわけなのだが!」 「だが?」 明奈の前に現れたおでん。夕子に箸を渡し、手を床に着く明奈。 「これをアーンして食べさせてはくれないだろうか」 「……何故!?」 「いーじゃん。私と夕子ちゃんの仲じゃないかよー。色々えろい死線を潜ってきた戦友じゃないかー」 「ぐ……一回だけだからね!」 納得したのかえろい死線を思い出し口封じに走ったか。ともあれ夕子は口を開けて待つ明奈におでんの具を近づけていく。なんとなく恥ずかしい。 「キャー! 熱い、熱い!」 アイドルらしくかわいらしく悶える明奈。カメラ目線を気にしたナイスリアクションである。食べ物は粗末にせずきちんと食べるところが昨今の事情。 「よし、お返しに私も夕子ちゃんに食べさせてあげよう」 「いらない! 熱いの苦手だから!」 遠慮するなよー、と嬉々として迫る明奈。これはこれで仲がいいのかもしれない。 「いい漫才ですね」 そんな様子を見ている凜子。編み物をしながら、回りの騒ぎを見て微笑んでいた。 「芸人じゃないわよ。アイドルなんだから」 「アイドルの定義を考え直したほうがいいと思うわ」 おでん攻防戦の最中に言葉に答える明奈と夕子。明奈としては拘るポイントのようだ。 「しかし興味深いですね、この鍋。少し試して見ましょう。 ふぐ鍋とか食べたいですね」 おでんが消失して、ふぐ鍋が現れる。熱々の鍋の中から広がる香りが、皆の鼻腔をくすぐった。 「成程、鍋の類は一つずつしか現れないようですね。味もそれなりのようです」 取り皿に出汁を掬い、味を確認する凜子。すこし塩が足りないかな? 近くにあった(これも出てきた)塩を振り撒き、軽く取り箸でかき混ぜる。再度味見をして、いい塩加減であることを確認する。 「どうです、星川さん。一口」 「ん……いただく、よ」 凜子がよそったふぐ鍋を口にする天乃。一息ついて、席を立ち移動する。 「ちょっと、そっち寄って」 「ん」 天乃が快の隣に移動して、酒を注ぐ。 (こうして、ゆっくりと鍋を囲むのも、お酒を飲むのも……もう無い、かもしれない) 酒を口にしながら、そんなことを考える天乃。戦いの中、自分自身の『死』が見えてきている。遠からず、自分も死神の世話になるのかもしれない。そんな予感があった。 「天岩戸のときにも言ったが――」 快が天乃の御猪口に酒を注ぎながら言葉を続ける。 「お前は戦いすぎだ。たまに、じゃなく適度に身体を休ませろ」 「何も……言って、ないけど」 「考えてることなんて分かる。どれだけ付き合ってると思ってるんだ」 快も天乃も、アークでの戦歴は長い。同じ戦場で戦うこともあっり、互いに気心は知れている。 快は誰も傷つけない理想を求め、天乃は激しい戦闘を求める。気質の異なる二人だが、憎みあっているわけではない。異なっているからこそ、理解できることもあった。 「戦うなとは言わない。それがお前のリベリスタとしての道ならな。 だが忘れないでくれ。お前が死んだら哀しむ人がいる」 「それは、わかってる」 淀むことなく――途切れがちな口調はいつものことだ――天乃は快の言葉を認める。他人の心配がわからないほど周りが見えていないわけでもなければ、それを余計なお世話と突き放すほど冷たくもない。快も一般論ではなく、本当に自分がいなくなれば哀しむだろうことはよくわかっている。 それでも―― 「生き方は、返られない」 我戦う、故に我在り。戦闘の中でのみ『星川・天乃』は自分自身の存在を実感できる。武士道とは死ぬことと見つけたり。命を疎かにするのではなく、死線を潜る覚悟で挑む道こそ我が道だと。それが自分の生き方なのだ。 快は無言で天乃の御猪口に酒を注ぐ。無言で互いの御猪口を掲げ、かつんとぶつけた。 「乾杯」 「何……に?」 「未来に」 「ん……乾杯」 五臓六腑に、乾杯の味が静かに染み入る。 ●映画『炎に踊る者たち』終章 A『待ってくれ! 確かにこのビル火災はうちの会社の薬品に引火したものだ! だが火気の類は持ち込んでいないんだ! だから私を殺さないでくれ!』 B『許すな、殺人鬼! 全ての原因はヤツにある!(このままAに放火の罪も擦り付けてしまおう。これで俺は助かった!) ……え? 屋上にヘリが……ない? 来た道は……閉ざされてる、だと?」 C『これで屋上に行った者たちは戻って来れまい。全員殺人鬼ごとそのまま火に撒かれてしまえ! 俺はこの耐火金庫の中に隠れて――え、なぜお前がここに!?』 D『極限状態における人間心理。生存本能とむき出しの欲望。これこそが、芸術! 逃げることなど出来ないと知れ! ふははははははは!』 ●戦い終わって そして八時間が経過する。任務終了のアラームが鳴り、Eゴーレムは物言わぬコタツとなった。 「コタツと酒とおでん。確かに強敵だったが、素敵な環境ゆえに眠ることが出来なくなる。それは俺にとってありえない選択だ。 残念だが、エリューション、You're not my match(相手が悪かったな)」 快がまだまだいける、という顔をしてコタツから出る。この程度、一昨年のクリスマスに比べればイージーミッションだ。 「交代でOKだったのなら、影人に入らせてても問題なかったんじゃない?」 理央はそんな事実に気付き、まぁのんびりできたからいいやと伸びをした。実際に影人でOKだったかどうかは、今となってはわからないことだ。 「耐えた! 八時間夕子ちゃんとキャッキャウフフして寝ずにいれた! アイドルは触手……じゃない、コタツなんかに負けない!」 「変な誤解を生む様な表現はやめて」 眠そうな目でガッツポーズをする明奈。力なさげに突っ込みを入れる夕子。お互い気力の限界のようだ。ハイテンション維持と、グロッキー寸前の二極端だが。 「皆さん、脱水症状になる前にスポーツドリンクを飲んでください」 凜子が全員にスポーツドリンクを渡す。汗をかいたときにはこれが一番。塩分と一緒に水分も補給し、コタツで熱された体を適度に冷やすと同時に活気を戻す。 「さ……行く、か」 天乃は筋肉をほぐして先に外にでる。のんびりする時間はこれで終わり。ここから先は、戦いの時間だ。無表情な表情だが、その瞳は既に戦場を見ていた。 そしてリベリスタたちは扉を出る。あるものは戦いに、あるものは日常に帰るべく。 この一時が、そのための潤いでありますように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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