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ゆめいろをうしなって


 ――――あなたの好きな色はなんですか?

「ちょっと、マルコ。何よこいつら」
「さぁ? でも、僕達を攻撃しようとしているのは確かだね」
 白い翼を持った少女、リスティ・メイティと時計ガエルのマルコが怪訝そうな顔で、全身に警戒信号を出していた。彼女達の周りを取り囲んでいるのは、暗褐色の不定形な生き物。
 その化け物は獰猛な獣の形を取ったと思えば、次の瞬間には凶鳥の姿に変幻する。
「聖白老様にお知らせしなきゃ」
 化け物の頭上を抜けて飛び立とうとしていたリスティをマルコが別方向に引っ張った。
「きゃ!? もう、何するのよ!」
「……リスティ、行っちゃダメだよ」
「どうして? こいつらヤバイ感じよ? 聖白老様か聖黒老様に連絡……」
「何て連絡する? こいつら『色』を持ってるんだよ?」
 この世界は二色世界。白の時間と黒の時間が交互に訪れる色の無い世界だ。
 世界を支える基礎となるのが聖白老と聖黒老という二人の老人。彼ら力のお陰でこの世界は均衡を保っているのだ。
 そして、少女はクラスでも飛び抜けて聡い子供であった。
 色の無い世界で色が存在してしまう理由。
「まさか……」
「こいつらから血の匂いがする。今、戻るのは危険かもしれない」
「そんな! じゃあ、どうすれば」
 リスティは聡い。
 以前、ボトムチャンネルに迷い込んだ時もすんなりと意思疎通を行い運命の旋律を得ている程に。
 けれど、同時に子供でもあった。絶対的経験値が未だ足りないのだ。
「行くよ。あの人達なら助けてくれるかもしれない」
「あの人達って……きゃっ!?」
 化け物の爪がリスティの腕を切り裂く。傷口から飛び散ったのはブラッディ・レッド。
「リスティ!? 大丈夫かい?」
「嘘……」
 白の少女は自分の腕から流れ出る赤い血に動揺を隠せない。二色世界の住人であるリスティから赤い色が噴出する等、本来ならば有り得ない事象なのだ。
「さあ、行くよ!!!」
 マルコはひょいとリスティの身体を持ち上げ加速する。

 この先にあるのは世界の端。
 白の時間と黒の時間が入れ替わる瞬間に有色の光が浮かび上がる場所。
「やっぱり! 狭間の時間じゃないのに有色の光が出てる!」
 有色の光の先にあるのはディメンションホール。ボトムチャンネルとの世界移動の門だ。
「あいつら追いかけて来てる! このまま行くよ!!!」
「分かったわ!」
 飛び込んだ先に見えたボトムチャンネルの光景は、夜明けの光と夢色羊が旅立って行く所。
 ――ああ、やっぱりこの世界はいつ見ても色に満ち溢れている。


「朝早くにすみません。至急、彼女達の救援に向かって下さい」
 早朝のブリーフィングルームの温かい風が『碧色の便り』海音寺 なぎさ(nBNE000244)のイングリッシュフローライトの髪を撫でていく。
 二色世界と呼ばれる異世界は色調というものが一切無い。白と黒。それに準ずるグレーで構成されている世界だ。白の時間と黒の時間が交互に訪れ、ボトムチャンネルで言うところの昼夜の意味合いを兼ねる。日暮れの時間を狭間の時間という。
 その狭間の時間に世界の端に現れる有色の光はしばしばボトムチャンネルへと繋がるらしい。
 以前にも、救助対象である少女、リスティ・メイティと時計ガエルのマルコはこの世界へとやってきた事があるのだ。
「今回は、ちょっと大変な感じだな」
 リベリスタが眉を寄せる。
「はい。何者かに追われている様です」
 以前の様に彼女を案内するだとかアザーバイドを探すだとかでは無い。戦闘が発生してしまう事を意味していた。
「いったい何者なんだ? 目的も全く分からねぇな」
 一応、便宜上はアザーバイドとなっている化け物はリスティ達を弄ぶように追い回しているらしい。
「恐らくこのままだと彼女達は殺されてしまいます。なので、その化け物から彼女達を守って下さい。お願いします」
 海色の瞳はリベリスタを真摯に見つめ、彼らをそっと送り出した。


「助けて……! 誰か」
(赤い血が私の身体を覆い尽くす前に。お願い、助けて――)



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:もみじ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年01月25日(日)22:38
 もみじです。お久しぶりのお転婆娘のお話。

●目的
・敵性アザーバイドの撃破。
・リスティ・メイティとマルコの救出。

●ロケーション
 早朝。人気のない森の中の公園。足場光源共に問題ありません。
 リスティとマルコが敵から逃げまわっている所でリベリスタは到着します。

●敵
 いずれも不定形な身体を持つアザーバイド達。
 リスティとマルコを攻撃しようとしています。目的等は分かって居ません。
 リベリスタが攻撃を仕掛ければ意識はリベリスタへと向くと推測されています。
 対応非戦スキル等で意思疎通は出来るかもしれませんが理解出来るかは不明です。
 敵アザーバイドを二色世界へ送り返すのは止めたほうが良いでしょう。

○アザーバイド『カオスビースト』
 様々な獣をでたらめに繋ぎ合わせた様な姿で次々と変幻します。
 能力は総じて高めです。
・ブラックブレイド:物近単、流血、ダメージ大
・ダークブラスト:神遠単、ブレイク
・シャドウメルト:自付、物理無効、自身の回避低下
・BS耐性(BS発動に150%必要)
・特殊機動に類似する能力
・飛行戦闘に類似する能力
・DA45%

○アザーバイド『リクイドファング』×2
 多足歩行する奇妙な水状の姿です。
 そこそこ俊敏です。
・スプラッシュバイト:物近単、出血、毒、致命
・ストライク:物近単、麻痺、鈍化
・精神耐性(精神BS発動に150%必要)
・態勢耐性(態勢BS発動に150%必要)

○アザーバイド『デューンフライヤ』×2
 砂の翼の様な姿です。
 タフですが鈍重です。
・サンドブロウ:物近単、低命中、高CT、ダメージ大
・サンドブラスト:物遠複
・精神耐性(精神BS発動に150%必要)
・態勢耐性(態勢BS発動に150%必要)

○アザーバイド『ワードミスト』×2
 次々うつろう文字の様な姿です。
 攻撃力が高めです。
・神遠単:凍結、感電、ダメージ大
・神遠範:呪い、呪殺、ダメージ大
・精神耐性(精神BS発動に150%必要)
・態勢耐性(態勢BS発動に150%必要)。

●救助対象
 リベリスタが現場に到着した時は二人共傷だらけです。回復をした方が良いでしょう。
・アザーバイド『リスティ・メイティ』
 見た目は10歳程の女の子です。白いです。ボトムの言葉は大体理解している様です。
 戦闘能力は殆どありません。背中の羽根で飛ぶことが出来ます。
 フェイトを得ています。攻撃されて怯えています。二色世界の事が気がかりです。
・アザーバイド『マルコ』
 時計ガエル。リスティの相棒。頭の上に時計が付いたカエルの様なものです。
 戦闘能力は殆どありません。お転婆な少女のフォロー役。意外と力持ちな様です。
 フェイトを得ています。二色世界の事も気になりますがリスティを守る事で精一杯です。

●コメント
 メルヒェンシリーズなのに緊迫の展開。
 あまり深く考えずに殴って頂ければと思います。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
★MVP
フライダークホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
ノワールオルールナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
ハイジーニアスダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
ハーフムーンホーリーメイガス
綿谷 光介(BNE003658)
アウトサイドインヤンマスター
伊呂波 壱和(BNE003773)
ノワールオルールクロスイージス
浅雛・淑子(BNE004204)


 東雲色の空から降り注ぐ朝日が暗褐色の肢体をくっきりと映し出していた。
 皮膚の奥は流動的で常に生き物が這いずる様な動きが見て取れる。
 生理的な嫌悪感がリスティ・メイティとマルコの背筋を通り抜けた。
「あいつら気持ち悪いわね」
「吐き気を催すね」
 少女達から発せられる言葉は暢気なものであったが、既に全身は傷に覆われている。
 特にリスティを庇って移動するマルコの背中は無残なものになっていた。それでも二人が無事に立っていられたのは奇跡的な世界の意志が働いたのだろう。
 けれど、それももうお終い。
 木々の中を進んでいた時ならば隙もあったかもしれない。
 しかして、開けた公園に飛び出してしまえば視界を遮るものも無くなってしまう。
 上空へ飛び上がったとしても飛行するカオスビーストに背後から攻撃を受け撃墜されてしまうだろう。
 少女の視界に暗褐色の鋭い爪が映り込む。
「――っ!」
 命が終わる予感に少女は身体を固く強ばらせた。

「可愛い子のピンチに颯爽と参上、私です」
 けれど、振ってきたのは肉が裂かれる音と女の声。
 リスティが目を開ければ光の中にエメラルドグリーンの瞳をした『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)那由他・エカテリーナが居た。
「お二人共、お久しぶりですね。私達が来たからには、もう安心ですよ?」
 少女が視線を巡らせば、那由他だけではない。ボトムチャンネルで触れ合った久しい友人達が居るではないか。
「嘘。……あなた達。どうして」
 何故此処が分かったのか。何故身を挺して庇ってくれるのか。
 少女の表情が安堵の色に変わっていく。二人きりではない事がこんなにも心強いなんて。
「リスティちゃんとマルコ君がピンチと聞いては放っておけませんからね」
 那由他は敵からの攻撃を受けながらも平然と立っている。
「ねぇ、痛くないの……?」
「ふふふ。どうでしょうか」
 皮膚を切り裂く鋭い爪と飛び散る赤い血。
 つい先程まで少女自身が受けていたものだ、痛くないわけ無い。
 那由他は少女達を抱えて敵から遠ざかる様に走りだした。
『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介は前衛を抜けてリスティへと走りこむ敵の前にその身体を晒す。
「不意を衝かせはしません!」
 魔導書「羊幻ノ空」から浮き上がった魔法陣は一面を覆い尽くす白い羽根を溢れさせた。
 それは仲間の背中に小さな翼を宿す術式。
 殺戮の色。害意の色。
「残念ながら世界には、あまり楽しくはない色が存在するのも事実です」
 それでも、二色世界の少女には『色』を好きでいて欲しいから。
 ――いま、ボクにできること。
「塗りかえてみせますね。手の届く範囲を、ささやかに」
 光介は境界線の青い瞳で戦場を見据えた。
 翼の加護を受けて『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)はLa regina infernaleを振りかざす。
「リスティさん、楽しい形でこちらの世界に来たかっただろうに」
 フェアリー・ローズの瞳が憂いの色を見せた。
 いつもであればボトムチャンネルで図書館を回ったり、お茶会をしたり、ふわもふを探したり、平穏な時間を過ごしていたはずなのだ。命の危険に晒されるなんて思ってもみなかったのだろう。
 そんな彼女達を一刻も早く助ける為にアンジェリカは力を解き放つ。
『赤い月』が魅せる幻想的で不吉な光は敵の頭上で静かに煌いた。
 この化け物達が何なのかアンジェリカには分からなかったが、弱き者を虐げる行為は許せるものではない。其処にどんな事情があろうとも他者を害して良い理由にはならないのだから。
 アンジェリカの攻撃を受けた敵の意識がリスティから外れる。
「今のうちに安全な場所へ逃げて!」

「お待たせしてごめんなさい……もう大丈夫」
「シエル!」
 リスティの言葉に微笑みを返した『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は裾から巻物を取り出した。
 シエルが紡ぐ呪文に沿う様に開かれた傷寒論-写本-が中空へと舞い上がる。
 紫苑の色を写しだした破界器に一陣の青い光が差し込んだ。
「――曇天の灰を突き抜ける優しい光(ぬくもり)、大いなる癒しを此処に……神々ノ指先!」
 以前であればその身を少なからず蝕んでいた神の意志も新しく取り入れた恋人の術式があれば何度だって打ち続けられる気がする。その想いがシエルの力を大きくしていくのだ。
 リスティとマルコ、仲間達の傷が癒やされていく。
「もう大丈夫よ。後は任せて、どうか下がっていらして」
「淑子も……」
 フィエスタ・ローズの瞳で優しげな声をリスティに掛けた『約束のスノウ・ライラック』浅雛・淑子(BNE004204)。
 本当ならば今直ぐに駆け寄って手を握ってあげたい。異世界の友人の存在を確かめたい。
 しかし、淑子は薔薇の瞳を敵へと向ける。
 誰よりも何よりも友達が大切だから。自分のするべき事をする。
 まだ自由に動けるカオスビーストの前に立ち行く手を遮る淑子。
 繊細な装飾が施された大戦斧から打ち出される聖なる光はワードミストを穿ち雷陣を纏わせた。

 白い少女に向いていた敵意は攻撃を最初に命中させたアンジェリカへと向けられていた。
「痛――っ!」
 切り裂かれた脹脛に咲いた血花から流れ出る赤色。
 迫り来る敵の牙がアンジェリカの首を胸を穿つ。明らかな致命傷。
 崩れゆくフェアリー・ローズの視線の先には異世界の白い少女。
(ああ、良かった)
 もし、アンジェリカが受けた集中攻撃をリスティが貰っていれば、確実に彼女の命が失われていただろう。だから、黒姫を纏った少女は思ったのだ。
 この牙が自分に向いて良かったと。
 無情に虐げられる悲しみではない。身体を苛む痛みに代えがたい意味があるのだから。
「ボクは、負けないよ!」
 膝を着いた彼女の瞳と同じ色の運命の炎が小さな身体を包み込む。


「好き勝手は許しません!!!」
 黒漆大刀から吹き上がった大呪はシャドウメルトを自身に施していたカオスビーストとワードミスト1体を縛り付けた。
 ――大呪を実戦で使うのは初めてですが、鎖のイメージを強く意識して敵を縛り上げるように。
 呪印の更にその先へ。
 本来であれば呪文詠唱に時間が掛かる大技も『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)の手に掛かれば一手の内に放たれる。
 それだけでは留まらない。
 幻想種ケルベロスを宿した壱和の身体がその因子を体現する様に分裂する。
 否、それは壱和が戦場の片隅で既に創りだしていた影人だった。
 二体の影人は那由他に代わりリスティとマルコを命の危険から遠ざける。
 壱和はリスティ達に会うのは初めてで、彼女達の世界の事も殆ど知らない。
 しかし、助けを求めているのなら救うのが道理。迷う必要等無いのだ。
「何が起きてるのか気になりますが、まずは敵を倒してから」
 那由他は三日月の唇を浮かべて先ほどまで腕の中に居た少女の感触を思い出す。
「ふふふ、リスティさんが良い匂いと綺麗な彩りをしていましたから、ちょっと気分が高揚してしまいました」
 戦場の外へと逃れた白い少女には聞こえないであろう呟き。
 エンバー・ラストの赤に染まる彼女の肌は血の色とは対照的な白。――綺麗な彩り。芳しい血の匂い。
 考えるだけで頬が染まる想いだ。
「駄目ですよー、ああいう可愛い子を壊すのは私の楽しみなんですから」
 碧の少女も月の座も自身で壊さなければ意味が無い。
「それを奪うような酷い子は、殺してしまっても仕方ないですよ、ね?」
 那由他のディアマンテは彼女の血を啜り、不吉のルーンを槍身に宿す。
 穿たれたワードミストの片割れは弾け飛んで地面に暗褐色の墨をまき散らした。
 アンジェリカは敵を抑えつつ漆黒の鎌を振るう。
 不吉の月は彼女の意志を継いで敵の身体に傷を植え付けて行った。
 ――敵にも理由があるのかも……されど私の友人達の命を奪おうとしている。
 シエルは伏せていたラセットブラウンの瞳を静かに上げた。
 癒やし尽くすという事が存在理由の彼女がその破界器を敵へと向ける。
「しかるべき裁きを受けて頂きます」
 その視線は鋭く研ぎ澄まされていた。
「人々の叡智の先に求められし選択の刻限。悪しき根源を殲滅せんとする大いなる神の光を此処に!
 神聖の裁き(ジャッジメントレイ)!」
 シエルの身体は浮き上がり鮮烈な閃光を放つ。
 彼女の傷を癒やす力は方舟の中において一二を争うものだ。
 その力がそのまま攻撃へと転換された威力の凄まじさは傷を負っていたとは言え一瞬にして敵二体を屠り、残りの敵の体力を削ぎ落した。
「わぉ……あなた達、強いのね」
「すごいよ!」
 そういえばリスティ達に戦いを見せるのは初めてだった。
「はい。だから、安心していてくださいませ。――私達は強い」
 シエルの言葉にリベリスタ達は頷いて見せる。自身と敵との力量を測る術も長い戦闘経験で得たものだ。
「大丈夫です。ボク達が必ず守りますから」
 壱和が安心させるように微笑む。壱和の気持ちを汲み取って影人が優しくリスティ達を抱きしめた。

 ――――
 ――

「迷える羊の博愛は境界線の青から降り注ぐ癒しの風!」
 光介の術式はエルヴの光を灯して仲間の傷口に優しく降り注ぐ。
 そして、羊少年はホリゾン・ブルーの瞳でカオスビーストを見上げた。
 異世界の神秘を覗き見る為に。
(彼らの出自は? もちろん二色世界の住人ではないはず)
 当たりを付けて解析を試みる光介。敵は二色世界の住人ではないのだろう。
 狭間の時間以外は閉じていた筈の有色の光(世界移動の門)が出ていたのはこのアザーバイドが原因だということが垣間見えた。二色世界に対して優位の属性であるらしい。
(だから、彼らは二色世界で色を失わなかった? じゃあ、リスティさん達に起こった変化は……?)

「あなた方は何? どこから来たの? どうして彼女達を狙うの?」
 淑子がカオスビーストに問う。仲間には聞きとれない異界の声が彼女の耳朶に届いた。
『あぁ? 何だテメェ、喋れんのかよ! ゲハハハ! 俺様達はなぁ、アイツを喰らいに来たのさ!』
「どういう事?」
『アイツらの世界はな、俺達の世界のエサ箱なんだよ! ゲハハハ!』
 耳障りで下衆な笑い声が淑子の鼓膜を揺らす。
『でもよぉ、ちょっとこの前……あー、アイツらの世界の時間の流れに直すと200年ぐれぇ前? 食べ過ぎちゃってよぉ。壊れちまったんだよ。親父にも怒られるし食べれなくなるし。もう腹減って死にそー!』
 まるで、子供がおやつを食べ過ぎて叱咤を受けたかの如く、陽気に言う彼らの言葉に淑子は眉を寄せた。
『んで、もう良いかなーって覗いたら、あんまり無かったけどつまみ食いするぐらいは行けそうだったんだよ。な? 分かるだろ? ちょいとペロリってするぐらい良いじゃねぇか。俺様ずっと我慢してきたんだからさぁ!』
『ソーダ! オレ達ハラペコなんだぞ!』
 カオスビーストに加勢する様に残っていたデューンフライヤが声を上げる。
「……さい」
『あぁん? 何だって? 聞こえねーよ』

「――――黙りなさい!!!」

『ひっ! お前、俺のカーチャンかよ。びっくりさせんじゃねぇよ』
「無駄に命を弄ぶ必要なんて何処にもないでしょう!」
 淑子は神気を帯びた大きな斧を振り上げてデューンフライヤに十字の鉄槌を下す。
『チッ……!』
 兄弟達が動かなくなり、自身の不利を悟ったのか攻撃を受けたカオスビーストがディメンション・ホールへと向きを変えた。
「嫌な匂いがプンプンしますし、見逃しませんから!」
 猟犬が吠える。壱和の黒い長ランが風に翻った。
 ケルベロスの背後にあるのはダーク・ヴァイオレットの世界の境界線。
 その前に立つのは宛ら三つ首の牙を持つ地獄の番犬か。
 大きな尻尾を揺らめかせ、するりと構えた黒の太刀の刀身に映り込む壱和の瞳。
 その中に垣間見えた泣き虫な自分は、今はもう必要ないと構えを握りこむ。
 ――守りたいものを守れるように。ボクに出来る全力で。
 太刀を頭上に。空を切る旋風は陣を為す。現れた漆黒の番犬が首を擡げた。
 やはり、壱和の呪念は犬の形を取るのだろう。
「大呪封縛鞭!!!」
 カオスビーストの身体に纏わり付いた三匹の番犬はその身を鞭へと変幻させ、締め上げるように絡みつく。
『クソ! 離しやがれ!』
 淑子の耳には敵の叫びが言葉として聞き取れていた。
「貴方に逃げる場所はございませんよ」
 シエルは敵を二色世界に返すまいとダーク・ヴァイオレットの境界線を閉じていく。
 フェイトを得ているリスティ達の帰還方法は後で探せば良い。それよりもこの凶悪なアザーバイドを二色世界に返す方が危険であるのだから。

「リスティさん達を苛める奴はボクが許さないよ!」
 白い小さな翼で空へと舞い上がったアンジェリカはカオスビーストの身体を地面の様にして駆け上がる。
 くるりと回した ”地獄の女王”を敵の首元へひたりと付けた。
 大鎌の刃に模されたプロセルビナは死と再生の象徴だという。刈り取った魂の幸福な転生を願う想い。
『ひい! やめろぉおお!』
「次は良いところに生まれておいでね」
 断頭刃の落ちる音がした。


「頼って下さってありがとう。……ご無事で、ほんとうによかった」
 淑子はリスティをぎゅうと抱きしめる。
 彼女の母が幼子にしたように、慈しみと暖かさを持って優しく包み込んだ。
 いつ、攻撃が飛んでくるかもしれない恐怖はリベリスタが排除してくれたのだ。緊張していたリスティの身体から力が抜けていく。
「あ……ありがとう。淑子」
 スノウ・ライラックの髪が少女の頬に落ちて、リスティは淑子の腕にしがみついた。
 それに応えるように淑子もまた力強く抱擁する。
 ――大切な、大切なお友達。失わなくてよかった。
「傷は大丈夫?」
 アンジェリカは座り込んでリスティに目線を合わせる。少女の肌には自分と同じ様に痛々しい傷が残っていた。
 歴戦のリベリスタであるアンジェリカにとっては重傷にもならない攻撃も、一般人と変わらない程度の戦闘能力しか持っていないであろうリスティは全治1ヶ月程にも及ぶ大怪我に匹敵する。
「痛いけれど、なんとか大丈夫。でも、マルコが……」
 リスティの腕の中に抱え込まれたマルコは意識を失っていた。外傷こそシエルと光介の回復で抑えられているものの、打撲や失血により無残な状態なのは見て取れる。正しく『重傷』であろう。
「マルコ君頑張ったんですねぇ」
 エメラルドの瞳を細めて那由他がリスティとマルコの頭を撫でる。
 ――ああ、何て素敵な時間。可愛いなぁ。もっと撫で回したいですねぇ。
「リスティちゃんもよく頑張りました」
「うん。無事で良かったよ」
 撫でられているリスティの表情を見てアンジェリカもほっとした様子で微笑み掛けた。
「それにしても、あのアザーバイドたちはいったい何だったんでしょう」
「アザーバイド?」
「ああ、ボク達の世界では異世界の人々の事をアザーバイドと言ってるんです」
「私もアザーバイド?」
「そうですね」
 リスティの疑問に光介が応える。
「カオスビースト達はどうやら、二色世界に優位性を得ているようでした。有色の光が狭間の時間外に現れたのも彼らの仕業みたいですね。」
「あの人達はリスティさんの世界の事を、その……『エサ箱』と呼んでいたわ。200年前に食べ過ぎて壊れたとも」
 淑子と光介が読み取った情報を仲間へ伝達する。敵アザーバイドから読み取れたものはリベリスタにとって断片的な情報でしか無いが、リスティにとっては違う可能性があるからだ。
「何かご存知かしら?」
「『エサ箱』……まさか!?」
「知っているの?」
「私達が小さい頃から語り聞かされている創世の物語の一つにそういうお話があるの。色彩に溢れた世界に突然現れた異世界の化物は『エサ』の如く人々を喰らって行き、それを憂いた勇者が現れて打ち倒し、世界に平和が戻りました……って話が。でも、それは物語の話で、本当に起こった事じゃないわ。お伽話なのよ!?」
「実話を元にして作られたお伽話は多いと聞きます」
 シエルはリスティにラセットブラウンの瞳で優しく諭す。
「嘘……。あれが、あのお話が現実だというの? 嘘よ。私達の世界は元から二色世界。あなた達の世界にもあるでしょう? 創世の物語が。それを全て真実だと言えるの!?」
「リスティさん、大丈夫よ。落ち着いて」
 淑子の柔和な声に少女は、はっと目を開いた。
「あ……、ごめん。取り乱したわ。シエルも皆もごめんなさい」
「私は大丈夫ですよ。ご心配なさらずに」
 シエルの指先はリスティの手を暖かく包み込む。
「無理もありません。全部が突然だったんですから。今日の所は身体をゆっくり休めましょう」
 壱和の声にリベリスタは立ち上がった。
「皆、ありがとう」
 友人達の言葉が心にしみる。
 アンジェリカはふとリスティの腕から流れる血を見た。
 ――赤い血が出ているのを不思議がっていたけど、何度かこちらへ来ている内にこちらに影響されたのかな?
 彼女の疑問符はリスティにさえ分からないのだろう。
 淑子と光介も各々の想いを胸に帰路へと着く。
 これで解決という訳にはいかないであろう友人の世界の変調と原因。全く活路を見いだせない訳じゃない。
 けれど、それを探る事は彼女たちが動けるようになってからでも遅くないだろう。
 今は只、願うばかりで。
「取り戻してくださいね。平穏の色を」


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 メルヒェンシリーズ、緊迫の展開でした。
 しかし、リベリスタは強かった。為す術もなくやられてしまいました。
 絶大な威力を誇ったシエル様にMVPを。
 ご参加有難うございました。もみじでした。