● 『ザ、ザザー………うらのべ、うらのべ? いちにのさーん! どんどんぱふぱふー!! さぁ、始まりました、裏野部ラジヲ! 本日は誕生日パーティで、空は血の雨、大地は紅く染まるでしょう! ――えっ、誰の誕生日かって? 忘れたなんて言わせない。思い出して、もう一度。 何処よりも危険で、何処よりも殺して、何処よりも過激な存在を』 ● 「忘れられるわけないよね。ぎらぎらしていて、誰よりも鋭く尖っていたもの。あんな男、そういるもんじゃないよ」 誰の事か。裏野部一二三のことである。あのような男がぞろぞろいたなら、世の中が困るどころかとうに日本は沈んでいただろう。 それはさておき。 間宮 優(まみや ゆう)は復活した裏野部ラジヲを聞きながら、黒い唇から口笛を吹かせ、総合指令棟のがらんとした廊下を射場へ向かって歩いていた。 場所は種子島宇宙センター。言わずと知れた日本最大のロケット発射場だ。 この日は、同センターから国際宇宙ステーションに向けて補給機「こうのとり」が打ち上げられる予定になっていた。 「予定は未定。ロケットは急遽、宇宙ではなく三つ池公園は閉じないビッチな穴につっこみまーす!」 優は打ち上げに必要最低限の人数を誘惑して残し、ほかの職員は皆殺しにしていた。これまでに品物之比礼で吸い上げて蓄えた力によって、洗脳は第三者がとくことができないほど強力なものになっている。優のいいつけに従って、死んでも制御盤を守るだろう。 軌道変更の複雑で高度な計算とプログラムは、大枚はたいて六道の研究員にやらせた。だから打ち上げは間違いなく行われるはずだ。目的地を外して着弾したら、ひとり残らずぶっ殺してやる。 「誕生日にケーキとロウソクはつきものだよね。てなわけで、とびっきり派手なロウソクを丘にぶっ立てて吹き飛ばしちゃうぞ。あの世の一二三さまもきっと喜んでくれるだろうねぇ。ああ、楽しみたのしみ」 「こうのとり」は直径約4m、全長10m弱。優は配下の者を使ってロケット先頭の「補給キャリア」から補給物資をすべて取り出して捨て、代わりに大量の爆薬を詰め込んでいた。 万が一にもロケットが市街地に落ちれば大惨事になることは間違いない。崩壊度が増した今、閉じない穴を直撃されればどうなることか―― 「地球が滅びようが僕の知ったことじゃないね。パーティは派手なほど楽しい」 廊下に響く裏野部ラジヲを聞きながら、刺青の男はくつくつと笑った。 ● 「緊急事態です。種子島宇宙センターが謎のフィクサード集団によって乗っ取られてしまいました!」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)の声は焦りにかられて震えていた。 「彼らは今から3時間後に打ち上げ予定の宇宙ステーション補給機『こうのとり』を使って、こともあろうに三つ池公園の閉じない穴に攻撃を仕掛けようとしています。急ぎ向かって打ち上げを阻止してください!」 集まったリベリスタたちへ投げるようにして紙の資料を配る。 「打ち上げられてしまえば我々では対処できません。一応、自衛隊へは連絡をいれていますが……」 打ち上げの様子を撮影するために、テレビ局の報道カメラマンたちが複数待機している。中には打ち上げを生中継する局もあるようだ。他にも島には観光客が大勢いるらしい。 「高い予算を割り裂いて作られた国産ロケットを自衛隊が税金を使って撃ち落す、なんてことになれば世論が沸騰し、日本の政治は大崩壊するでしょう。それだけで済めばまたマシです。撃ち落した場所次第では、甚大な被害が予想されます。まして三つ池公園の閉じない穴に着弾されたら――」 ゆえに、何が何でも打ち上げ前に阻止しなければならない、とフォーチュナーは青い顔をして言った。 「不測の事態で打ち上げが延期、というのはよくある話です。どうか、みなさん頑張って阻止してください。お願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月24日(土)22:41 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 細いヒールがリノリュームの床に規則正しく音を刻む。 「裏野部の残党ですか。良からぬ事をいつも考えるものです」 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330) はコンパクト手鏡をアクセスファンダズムの中にしまうと、手入れの行き届いた長い指の先で赤いフレームのメガネを押し上げた。無人を確認し、角を曲がって颯爽と歩きだした姿は回診に出た教授……といった雰囲気だ。品物之比礼対策に用意したサングラスの一部が胸元のポケットから見えてさえいなければ、ますますそれっぽくなる。 が、ここは大学病院ではない。種子島宇宙センター、総合指令棟の中である。後ろに連れて歩く五人の男女もまた、白衣を着ていなかった。 「もー、お祝い事はおっさん担当じゃ無いんだけどなあ」 そう愚痴った緒形 腥(BNE004852)は、白衣を羽織っているどころか全身黒ずくめ。フルフェイスのヘルメットまでかぶっている。 「そういえば、今日は一月二十三日でしたね」 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎は白衣の後ろで、上着の内ポケットから取りだした手帳をぱらりとめくった。 「ああ、やっぱり。裏野部一二三の誕生日です」 「死んだ人のお誕生日? お祝いするのは変なのだ」 『きゅうけつおやさい』チコーリア・プンタレッラは、義衛郎の腰に吊るしたLEDランタン――太陽神ベレヌスの光の動きを後ろから目で追いつつ、子供らしく素直に疑問を口にした。 チコーリアの横には、茶色の犬が一匹寄り添い歩いていた。犬は種子島宇宙センターの敷地に入る前にファミリアで呼び寄せた雑種だ。首輪はつけていない。野良犬なのだろう。 「ワンちゃんもそう思うのだ?」 犬は返事の代わりに大きな欠伸をした。 「裏野部一二三……神へと至ろうとした男か。直接は会わなかったが、まぁ忘れられる存在では無いな」 『Killer Rabbit』クリス・キャンベルの声は平らだった。何か思うとこがあるのか、表情も心なしか固い。 「それにしても、誕生日に故人を偲ぶならばもっとしめやかにしてほしいね。血みどろのパーティーは御免だよ」 腥は肩越しにクリスへ顔を向けた。 「まあ良いさ。須らく挽いて供えてやろうかね、一二三は肉好きそうな顔してたし? それが身内なら、なお喜ぶだろうよ」 ……あれ、なんか違う、と首をひねりつつ、フェイスガードの下から意地の悪そうな笑いを漏らす。 ああ、殺りたくてしかたないのさ。ご招待ありがとうさんよ。 腥が人を食ったような調子で話を締めくくりにかかれば、それに乗って騒ぐのが肉食系――『天船の娘』水守 せおり(BNE004984)だった。 「獲物が多くて私ワクワクしてきたぞっ!」 そう声を弾ませるせおりは、最近体得したばかりの技を早く試してみたくてしょうがないのだ。 「ええっと、まずは制御室。それからロケットの射場……んもう! あっちもこっちも忙しいなあ!」 ぎらり。剥きだされた鮫の鋭い牙に、野良犬が怯えて吼えた。 「しっ、静かに。着きましたよ」と義衛郎。 「あのドアの向こう側が管制室です」 「被害が出る前に終わらせましょう」 凛子の宣言に全員が頷く。 重々しい頷きもあれば、軽い頷きもあり―― 「さあ、パーティーを始めようじゃないか」 ● 管制室は意外と狭かった。 ドアを開いて部屋の中に飛び込んだところ、リベリスタたちは裏野部残党とまともに向かい合う格好となった。 「なんだ、てめーらは! ぶっ殺すぞ!」 青いジャンパーを着込んでいても、薄い唇から粗野な脅し文句を発するならば、それが宇宙センターのスタッフであるわけがない。 問答無用とばかりに義衛郎が、愛刀を振るって立ち塞ぐ男を切捨てる。 続く腥の動きも素早かった。相手を選んで時間を無駄にしない。空間に残像をにじませながらドアに顔を向けているものを次々と的にして撃っていく。 「そら、よ!」 クリスがフラッシュバンを放った。 白い光が管制室いっぱいに満ちる。 「暴れられると面倒だ。しばらく固まってな」 光が薄れて色が戻りだすと、チコーリアは野良犬をドアの外に残して室内に飛び込んだ。ショックを受けて固まったフィクサードの横を駆け抜け、スタッフに近づいて後ろから思いっきり椅子を引いて後ろに倒した。 「ごめんなさいなのだ。しばらく我慢しててほしいのだ」 小さな体で一生懸命、倒れたスタッフを制御室の外へ運び出す。 クリスもまたチコーリアと一緒になってスタッフを運び出しにかかった。機械は直すか作ればいい話だが、人となるとそう言うわけにも行かない。人が蓄えた技術と経験はすぐに取り戻すことができないのだ。 「なによりも貴重なものだからな、人材は」 「なのだ!」 解っていっているのか……元気よく相槌を打ったチコーリアに、毛むくじゃらの手が伸ばされた。 「わぁ、何するのだ!」 襟首を掴まれて持ち上げられたところを、凛子の放った魔矢に救われた。毛むくじゃらの腕をした男は、ぎゃ、と短い悲鳴を上げてチコーリアを離した。 「水守さん、いまです!」 ボディガードよろしく盾となっていたせおりの背を叩く。 「いくよー! 私の新必殺技!」 つきだした両の腕の先で、呼び集められた水気が渦を巻く。 「お前ら全部、海のもずくだっ!! 反論は許さないっ!」 凄まじい勢いで渦から水が放たれた。海神ポセイドンの槍をほうふつさせるような、圧倒的な威力でせおりの放つ水流が裏野部たちを突き倒していく。 苦し紛れに何人かが攻撃を放ってきた。 もともと似たような実力の者たちばかりが集まっていたのか。ほぼ同時に行われた反撃は威力こそ低かったものの、連動することでトリッキーな動きをみせてリベリスタたちを惑わる。一瞬の戸惑いが回避の遅れに繋がった。 「……く、これが窮鼠猫を噛む、というやつか」 傷ついた右腕を押さえて止血する義衛郎。 腥はヘルメットに手をやってひびの入り具合を確認した。 部屋の真ん中で背中を合わせて、武器を構える。 「ただのマグレだとおっさんは思うけどね。単なる偶然……って、氷河ちゃん。これ、直る?」 さあ、どうかしら。冷静に返しながら、凛子は癒しの術をおこなった。 「私が傷付け、私が癒す」 神聖なる息吹が仲間の傷を癒していく。 「うー、意外としぶとい。しつこい男は嫌い!」 せおりは不機嫌さを丸出しにしていた。アークリベリオン必殺の技なれば、雑魚など一撃で吹き飛ばせるはず。立つのが精いっぱい、というのであればまだしも…… 「目障り」 「同感だ」 せおりが再び水流を放つ。 クリスの二丁銃がトドメとばかりに火を噴いた。 ● チコーリアはあらかじめ用意していた縄がなくなると、どこからか書類を綴じる黒い細紐を探し出してきた。 野良犬をじゃらしながらまだショック状態のスタッフをコロンと転がして、腕を後ろに回し、両手の親指を細紐で縛る。 「ずいぶん……マニアックなことを知っているのね」 凛子が少々引き気味の声でいうと、チコーリアはにっこりと笑った。 「学校の図書館で借りた束縛本に書かれていたのだ!」 「こ、束縛……」 「へえ~、いまどきの小学校には図書館にそんな本が置いてあるんだ」 こんど借りにいこうかな、とせおりが関心を示せば、制御室の中から義衛郎が公務員らしい生真面目さで「そんなはずがあるわけないでしょ。誰かのいたずらですよ」と怒鳴った。 「こうして役に立ったんだ。いいじゃないか」とクリス。 「よくありません! 小学生が読むような内容の本じゃない。すぐに回収しないと!」 いかにも面倒そうに腥が手を打つ。 「あ~、はいはい。この話はもう終わり。須賀ちゃん、集中して」 打ち上げ八分前になって室内に合成された女性の声が響き、秒読みが開始された。 480……470……469、468―― 「カウントダウンが始まったけど、そのプログラム大丈夫なの?」 モニターに映るロケットを見つめながら、凛子が胸の前で腕を組んだ。コンピュータープログラムは専門外だ。ここは任せるしかない。そう思っていても、読み上げられる数字が若くなるにつれて胸の内で不安が増していく。 ロケットにはすでに燃料の装填は終了しており、あとは打ち上げを待つばかりとなっていた。 「義衛郎?」、とやはりモニターの前でキーボードを叩きながらクリス。 「大丈夫。もう少しだけ待ってください」 「そうか。こっちもヤツを捉えるのにもう少し時間がかかりそうだ」 クリスは電子の妖精を使って死んでいた監視カメラの一部を復活させると、画像を細かく切り替えて、この大それたパーティーを企画実行した間宮優の位置を探っていた。 実はセンター突入前に電子の妖精を使って通信を遮断するつもりだったのだが、そちらのほうはすでに間宮たちが行っていた。 それもそのはず、ロケットの打ち上げ数時間かけて行われる。ロケットが運ぶ荷の積み替えをしようと思えば、最低でも1日前から行動を起こさなくては間に合わない。その間、騒ぎになれば困るのは間宮たちで、内外から集まっている報道陣や多くのスタッフたちをたばかるための偽装工作は必須だったのだ。 それでも海外の、とくにNASAはさすがに間宮たちでは誤魔化しようがないはず。が、こちらもアークが万華鏡から予知を得ると同時に日本政府を通じて打ち上げ延期と、ダミー画像の放送をアメリカ政府に頼んでいた。 遠く離れた望遠台ではいまごろ、何も知らない報道陣が一斉に射場へ向けてカメラを構えているだろう。 「見つけたぞ」 クリスはみんなにも見えるように、制御室の正面モニターに画像を送った。 間宮は机の上に足を投げ出して、巨大なモニターに映るロケットを見ていた。 「そこ、どこ? なんか、ここと似ているけど?」 整った鼻に深くしわを寄せて、せおりが唸った。美人が台無しである。 実は、リベリスタたちが飛び込んだ総合指令棟は主に発射の最終判断を行う場所である。ロケット発射制御はそこから2キロ近くはなれた射場の発射管制塔で行われるのだ。 間宮はそこにいた。 「大変なのだ。急がないと、なのだ」 チコーリアの横で野良犬が吼えた。 ● 真上から見ると八角形をしている発射管制塔は、第一射点からたった五百メートルしか離れていない。爆発に巻き込まれる可能性がある、ということで地上一階、地下十メートル地下二階のこの建物は分厚いコンクリートで覆われている。 通常であれば約150名のスタッフが詰めている最下層の制御室を、たったひとりの男が独占していた。 ――間宮 優 裏野部の残党の一人だ。 間宮は特に熱心な一二三信者ではなかったが、破壊と人殺しとパーティーが大好きな人間である。今までのように気の向くまま生きていられれば何も問題はなかったのだが、裏野部というバックを失ったとたん、間宮にとって世界は急に息苦しくなった。 「それもこれも正義の味方ちゃんたちが大きな顔をしだしたからさ」 腐っていたところに不死偽・香我美(ふしぎ かがみ)から声がかかった。顔の刺青――品物之比礼は香我美から譲り受けたものだ。曰く、優は四国の戦いに参加していなかったから蛇を持っていないでしょ。これで派手にやって、というのが香我美のオーダーだった。 「ん~、しかしもったいない。ばけものになっちまう前に一発やらせてもらえばよかった」 馬鹿を言いながら、間宮は中央から右端のモニターに目を移した。 フレームデフレクターが写っていた。ロケットの下に穿れた深い穴に通ずるそれは、ロケットから吐き出された燃焼ガスを海側へ逃がすための通路である。 残念なことにモニターには映っていないが、間宮はその通路に用済みになったスタッフたちを生きたまま立たせていた。 ロケットの液体燃料は一旦点火されると一気に3000度近くまで跳ね上がる。 「一二三さま、お肉すきだったよね? まっ黒焦げだけどたくさん送るよ」 間宮はバランスを崩して椅子から転がり落ちると、げらげらと笑いながら床の上を転げまわった。 302、301、300――300、299、298…… 発射5分前。自動カウントダウンが始まった。以後は人の手を離れて、コンピューターがすべて制御する。システムの電源が外部から内部に切り替えられてしまえば、もう打ち上げは止められない――はず、だったのだが。 「あん?」 ゼロ、という合成音を聞いて、すぐにロケットが打ちあがる爆音が聞こえるかと思っていたら肩すかしを食らった。 立ち上がってモニターを見ると、相変わらずロケットが写っているではないか。 『アークだ!! アークが来た!』 無線機の報告で一瞬にして真相を掴んだ間宮は、鬼の形相で制御室を飛び出した。 ● 「簡単には参りません」 目さえを合わさなければ何も恐れることはない。凛子は車の中で眼鏡を外して、サングラスをかけなおしていた。 ちっ、と舌打ちする間宮からサイドステップで距離を取る。 絶対者の義衛郎と腥が間に割って入り、盾となった。 間宮の相手をふたりにまかせ、左右からデュランダルに切り込まれて膝を折ったチコーリアに向けて治療を開始する。 「治癒の吐息よ」 清らかな風がチコーリアを包み込み、風が引き込んだ柔らかな光がたちまちのうちに傷を癒していった。 「うええ……痛かったのだ。お返しするのだ!」 チコーリアは足元で魔法陣を展開すると、死に神の鎌を頭上に呼び出した。えい、と腕を振り落してデュランダルの片割れから生命エネルギーを吸い取る。 元気な様子に凛子がほっと胸をなでおろした。それものもつかの間の事、野良犬が激しく吼えて危険を知らせる。 「おおっと、そうさせないよ」 クリスは凛子の影から姿をあらわした間宮に銃口を突きつけた。 「おやぁ、ウサギちゃんじゃないか。うれしいな。また抱かれたくて、わざわざここまで会いに来たのかい?」 「誰が!!」 あのとき受けた屈辱の仕返しとばかりに、クリスは強く引き金をひきしぼった。撃ちだされた魔弾は弾幕のごとく。間宮の姿を覆い尽くしたかのように見えたが、間宮の逃げ足がほんの僅か、勝っていたようだ。 「いや、ちゃんと当たったみたいだよ」 せおりが血の痕を指さす。 血痕のひとつひとつがかなり大きい。クリスの攻撃は確実に間宮を撃ちのめし、弱らせているはずだ。だからこそ尚の事、気を引き締めなければならなかった。 「刺青要らずで、口づけじゃなく刀を刺して使えたなら、生命強奪の能力も魅力的なんだがね」 義衛郎は絶対者であるにも関わらず用心を重ねていた。可能な限り間宮と目を合わせず、姿が見えるときはその動きから次の行動を判断するという姿勢は崩さず。万が一の場合は自分の腕を斬り付けてでも正気を保つ、という意気込みでいる。 それゆえに自然と他の敵の動きも早々に見切っていた。 拳を振り上げて向かってくるビーストハーフを半身で交わし、すれ違いざまに胴を薙ぐ。 倒れた覇界闘士に腥が切れ味鋭い脚を振るってトドメを刺した。 「追加で間宮に喰わせる気は無いんでね」 未練たらしくこの世にしがみついてないでさっさと去ね。 「まったくなのだ、チコもおじさんと同感なのだ」 チコーリアは赤い血をしたたらせる手首から、しなやかに唸る黒い鎖を解き放った。黒き波は離れたところで大技を繰りだそうと詠唱をおこなっていたマグメイガスもろとも、傷つき弱った敵を地上から一掃した。 「ああもう、よくも台無しにしてくれたな。だいたいお前たちなんて呼んでない。お前たちは静岡のあの穴にロケットを撃ち込んだ後で招待するつもりだったのに!」 ほんとうにお邪魔虫だね、リベリスタ。 間宮は建物の影から滑り出ると、せおりに素早く近づいて肩を掴んだ。強引に真正面を向けさせて―― 股間を手で押さえ、ぐぅ、と情けない声を出してうずくまる。 せおりは間宮が再び影に身を隠すと同時に目を閉じていた。横から肩を掴まれた瞬間に相手の正体を知ったせおりは、いまが絶好のチャンス、と膝を鋭く突きあげたのだ。 「操ろうたってそうはいかないしぃー、人魚をホイホイしようと思ったら王子様になって出直してね」 せおりは義理の妹のピンチにあわてて駆けつける義衛郎を、立てた親指で指示しながら地面にはいつくばる男に向けて見得を切った。 私の心を操りたいならまずはあのお兄ちゃんにアポを取ってから、と。 「ウンとは言わないこと間違いなーし!」 よたよたと立ちあがった間宮の背後を取ったのは腥だった。 「おっさんは御祝の仕方はよく知らんのでね、お宅がクラッカーか爆竹代りに祝ってやれば良いんじゃないかな」 首から下に蹴りをくれて背中をずたずたに切り裂く。 「私がお前を祓い清めてあげる!」 歯を剥き出しにして迫るせおりに慈悲はない。 「全力全壊! ステアウェイトゥヘヴンっ!」 ● 数十時間後。 リベリスタたちは危険指定区域から離れた宇宙ヶ丘公園で、カウントダウンを聞きながら一般の人々とともにロケットの打ち上げを見守った。 暗い海を背景に白い煙が盛大に吐きだされた直後、轟音をとどろかせながらコウノトリを乗せたロケットが天を駆け昇って行った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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