● 劇薬の魔法使い 黒いローブに、赤い髪、黒目の大きな瞳は丸く、にやけた口元には牙のような歯が並ぶ。キシキシと、喉の奥を軋ませるような不愉快な笑い声をあげ、その女はゆっくりとイルミネーションに彩られた夜のテーマパークを歩いていった。彼女に従うように、列をなして彼女の後ろに続くのは虚ろな目をして、にやにやと笑う無数の男女。恐らく、テーマパークに遊びに来ていた客達だろう。 彼らは、黒いローブの女、アザーバイド(ポイズナ)に操られている。 その日が、雨天で、またひどく寒かったことが幸いだったと言えよう。客足は少なく、ポイズなの被害者は比較的少ない。それでも、100名近いだろうが、快晴であればこの3〜5倍の人数が被害にあっていたかもしれないと考えれば、この程度の数値で済んで幸運だった。 「キシシシ。こいつらの心臓と血じゃ、大した毒にも薬にもなりゃしないねぇ」 くるん、と首を回して背後を見やって、ポイズナは笑う。 数秒ほど、支配下に置いて人間を長め、やがてすぐに興味を失ったように前へと視線を戻す。ポイズナの向かう先は、このテーマパークの最奥に位置する大きな建物であった。城に似た外観のホテルであり、テーマパークの目玉でもある。これでもかと飾り付けられたイルミネーションが、眩い光を放っていた。 「緑の毒は熱の毒」 ぴん、と立てた右手の人差し指から緑色の液体が零れる。 「紫は猛毒で、赤は混乱」 指から溢れる毒は、緑から紫、赤へと次々に色を変えていった。 「黄色は呪縛で、青は相手を弱らせる」 指から滴る毒液を、長い舌でべろりとなめとりポイズナはくっくと肩を揺らした。 「足りないねぇ……。最強の毒薬にはほど遠い。もっともっと、血と心臓が必要だ。それもとびきり、強いやつの血と心臓が」 待ってりゃ来るかね、強いやつ。 そう呟いて、ポイスナはホテルのエントランスへと入っていった。 大きなソファーにゆったりと腰掛け、彼女はそっと目を閉じる。 エントランスの端には、彼女が潜って来たDホール。目を閉じ、眠っているようにぴくりとも動かないポイズナではあるが、その口もとには、にやにやと不愉快な笑みを浮かべていた。 彼女は確信しているのだ。 今まで、いくつかの世界をまわって血と心臓を集めて来た経験が、彼女に告げる。 どこの世界も、他所の世界からの来訪者に厳しく、待っていれば向こうから接触しに来てくれる、と……。 だから彼女は、待っていた。 毒薬の材料が、向こうから自分の前に現れる、その時を。 テーマパークに罠をしかけて、ただ、じっと……。 ●ポイズナという名の魔女 モニターに映ったポイズナを一瞥し、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は溜め息を零した。 「彼女の見立て通り、というのが癪だけど、このまま放置するわけにはいかない。ポイズナの潜伏場所はテーマパークの最奥にあるホテルで、時間帯は夜だけど幸いなことにイルミネーションなどにより視界もバッチリ」 問題は、とイヴはモニターを切り替えた。 「100人近い人数の一般人。ポイズナに支配されているみたいで、こちらの邪魔をしてくるみたいね。ポイズナの毒を持っているみたいだけど、身体能力は普通の人間のままだからあしらうのは簡単」 簡単すぎて、怪我をさせてしまう可能性も高い。リベリスタの力で対処すれば、不慮の事故で死亡させてしまうこともあるだろう。かといって、手を抜けばその文、ポイズナの毒を受ける確率が高くなる。 「さらに、一般人に加えてポイズナが毒から生み出したトカゲが徘徊している。体長数十センチほどの大きなトカゲで、他のトカゲと合体したり、爆発して毒をまき散らしたりするみたい」 一般人は、ただがむしゃらに襲いかかって来るだけだが、トカゲ達はある程度ポイズナと意思疎通ができているようだ。その分、数はそこまで多くはない。 ポイズナの攻撃手段の1つ、或いは監視役や先兵といった所だろうか。 一般人と毒トカゲをクリアして、やっとポイズナの待つホテルにまで辿り着ける。ポイズナはそのホテルから動くことはないだろうから、補足して、戦闘に持ち込むことはそう難しくないだろう。 エントランスは広く、天井も高い。テーブルやソファー、調度品が邪魔ではあるが、戦闘不可能という程ではない。 「ポイズナの攻撃方法は主に3つ。毒の爪での攻撃と、毒トカゲを生み出す能力、それから見かけに寄らず高い格闘技術を持っているみたいね」 ポイズナの一撃には[圧倒][隙][ノックB][ブレイク]の追加効果が備わっている。純粋なダメージは毒による攻撃よりも高い。 「Dホールはまだ開いているみたいだから、追い返すか、始末するかはお任せするわ。それじゃあ、気をつけて。幸運を」 それにつけても嫌な笑顔ね、とそう呟いて。 イヴは仲間達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月21日(水)22:18 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 4人■ | |||||
|
|
||||
|
|
●ポイズンウィッチの箱庭 城を模したホテルの屋上。ポイズンウィッチはほくそ笑む。 眼下に並ぶ自分の兵隊たちを一瞥し、テーマパーク内に放っていた毒トカゲから報告を受ける。彼女の目的は毒薬の材料収集であり、その為には人の血と心臓とが必要になるのだ。 毒トカゲから報告されたのは、テーマパーク内に侵入してきた何者かの存在。 異変を察知し、その上で自分から足を踏み込んでくるのだからよほど実力に自身があるのだろう。 いい材料が集まりそうだ。 そう思い、彼女はくすりと笑みを零すと、ゆっくり屋上を降りて行った。 ●毒に侵されたテーマパーク テーマパークの正門を潜ると同時に、イルミネーションに照らされたテーマパーク内をぞろぞろと歩く人影が目に入った。 真っ先にそれに目を止めたのは『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)だった。にこりと微笑み、片手でナイフを弄ぶ。 「マッドな魔女さんに操られた人達から逃げ延びよ!とか、ちょっとそういう趣旨のアトラクションみたい! なんてね! 早く一般人さん達を解放してあげなきゃ!」 くるり、とナイフを放り投げしかしすぐにそれを仕舞った。テーマパーク内に潜伏しているポイズンウィッチこと(ポイズナ)相手ならともかく、単なる一般人相手にナイフを振るうつもりはない。 「テーマパークには仕事じゃなくて恋人と来たかったですよう、やーん」 きらびやかな装飾と、楽しげな園内BGM。物悲しげに辺りを一瞥しながらも『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は自分の役目を忠実にこなす。 千里眼で、テーマパーク内を見渡し園内を彷徨う一般人や毒トカゲの姿、撒き散らされた毒の罠、それからパーク最奥にあるポイズナの潜伏場所を探す。 最も効率的なルートをいくつか割り出し、それを仲間へと伝えた。 翼の加護を用意してはいるが、出来るだけ一般人には見つかりたくない。空を飛べば、否応なく目立つことになるので、それは最後の手段だ。 一般人との戦闘は避けたいが、そのせいで一般人をポイズナの元にまで引き連れて行くことになっては本末転倒。より激しい攻防に巻き込むことになってしまう。 「後は一般人を回避しつつ進撃ですね。ダメージを受けるのは避けたいです」 アイスブルーのレンズが嵌った暗視ゴーグルを下ろし『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)はゆっくりと前に足を踏み出した。 幸い、こちらへ進撃してくる一般人達との距離はまだ離れている。急げば、彼らを大きく迂回して姿を隠すこともできるだろう。 だが、その時。 「足元っ! トカゲです!」 果たして、どこに潜んでいたのか。 するするとあばたの足元に駆け寄った小さなトカゲが、彼女の顔めがけて跳んだ。その身体は、一瞬にして風船の如く膨れ上がる。自爆し、毒を撒き散らすつもりだろう。 トカゲが爆発するその寸前、あばたの身体を掠めるようにして振りあげられた剣がトカゲの身体を空高くへと弾き飛ばした。 数秒後、上空で「パン!」という軽い破裂音が響く。降り注いでくる毒液を走ってかわしながら『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)は微笑んだ。 「魔女が企むことに良いことなんてありはしません! 最強の毒薬などど……耐猛毒をもつわたしに通用してたまるものですか。彼女の野望を成し遂げる前に可及的速やかに撃破するだけなのですっ」 毒など通用しない、と言いながらも降り注ぐ毒液には一滴たりとも触れないよう、軽いステップで駆けて行く。毒の影響を受けないとは言え、得体の知れない毒液など浴びたくはないのだろう。 そのまま、イスタルテを先頭に一行は園内を進むことにした。 幸いなことに、操られている一般人達の身体能力や感知能力は、あくまで一般人の域を超えていない。一度身を隠してしまえば、あとは千里眼を使って死角を移動することなど造作もなかった。 問題があるとすれば、万が一戦闘になってしまった場合、誤って大怪我をさせてしまう可能性も高いことだろうか。 それから、もう1点。 「トカゲが3匹。こいつらをやり過ごすのは難しいですね」 進行方向から1匹、左右から2匹。ただ漠然と侵入者を襲ってくる一般人と違って、毒トカゲにはある程度連携して行動する程度の知能があるらしい。 おまけに、自爆した際の破裂音を聞き付け、近くの一般人を呼び寄せる役割も兼ねている。 所々に撒き散らされた毒の罠は、どうやらトカゲが自爆した跡にできるものであるようだ。範囲は狭いが、近くを通ると[毒]の影響を受ける。避けて通るのが無難だろう。 終のナイフが一閃。 ほぼ同時に、あばたは銃を振り抜いた。 居合い抜きの要領で、麗香の剣がトカゲを両断する。 トカゲが毒を撒き散らすよりも速く、4人は全速力で毒液の範囲内から抜け出した。 少しずつ、4人はポイズナの潜伏しているホテルへと近づいていく。城に似た形状のホテルで、このテーマパークのメインシンボルでもあった。 それと同時に、異変を感じる。 一般人や毒トカゲが、城の傍へ向かって進んでいるようだ。 城に近づくにつれ、人口密度が高くなる。毒トカゲの数も多く、身を隠せそうな場所には毒液が撒かれていたり、予め毒トカゲが潜んでいたり、とどうやらリベリスタ達の接近は既にポイズナにばれているようだ。 千里眼を用いて、警戒しながら進んではいるが、極度の緊張状態がそう長く持続する筈も無い。 ほんの一瞬。 植木の影に隠れ、数名の一般人をやり過ごした直後にそれは起こった。 パン! と、風船の割れるような音。 降り注ぐ毒液が、4人を濡らす。植木の枝に毒トカゲが隠れていたらしい。破裂と共に毒液が飛び散り、その音を聞きつけた一般人が一斉にリベリスタ達の隠れ場所へと視線を向けた。 ぞろぞろと、一般人が集まってくる。毒トカゲもだ。目の前で爆散した毒トカゲを、4人は一時的に散開して回避する。 短い悲鳴をあげたのはイスタルテだ。その腕や首に、一般人の手が伸びる。怪我をさせないようにそれらを振りほどき、彼女は周囲に視線を巡らせた。千里眼を使っている余裕はない。散開した仲間達のもとにも、一般人や毒トカゲが集う。 次々集まってくる一般人に視界を塞がれ、仲間の姿はすぐに見えなくなった。 「翼の加護を! 一気に城まで行きましょう!」 姿の見えない仲間達に向け、イスタルテは叫ぶ。それと同時に翼を広げ、彼女は空へと舞い上がった。 イスタルテの後を追うように、淡い燐光が飛び散った。燐光は、効果範囲内にいた他の仲間へと収束し、その背に小さな翼を生み出す。 眼前を塞ぐ一般人を無理矢理に押しのけ、あばたは人混みから飛び出した。追ってくる一般人に銃を向けそうになり、寸での所で引き金から指を離す。 代わりに、眼前に迫った男の胸を足で蹴り退けてイスタルテに付与された翼を広げた。 「こちらは暴徒の鎮圧が目的なのですから、多少は乱暴な真似をしますさ」 そのまま空に舞い上がる。 そんなあばた目がけて、毒トカゲが1匹跳び込んできた。装備によって毒を受ける心配はないが、ダメージまでは無効にできない。 毒トカゲの身体が膨らみ、爆ぜる。 その寸前、横合いから伸びた短剣が毒トカゲに突き刺さった。冷気を纏う短剣だ。毒トカゲの身体が凍り付き、地面に落ちて砕け散った。 「物影でやり過ごすのも限界かな。囲まれているし」 そう言って、あばたを追い越していったのは終である。 ナイフを両手に構えたまま、終は一目散にホテル目がけて飛んで行く。既に、イスタルテの姿は遥か遠くへ進行していた。 眼下に群れる一般人を一瞥し、あばたもまた仲間達の後を追う。 「すいませんちょっと通りますよ……っ!」 目の前を塞ぐ男性を蹴り飛ばし、横から迫る中年の首に手刀を振り下ろす。押しのけ、蹴り退け、時には強引に間へ割って入るようにして麗香はやっとのことで人混みの中から這い出した。 素早く辺りに視線を巡らせ、自分以外の仲間の姿が見えないことを把握する。 遥か遠くに、空を飛ぶ人影が見えた。どうやら自分は、翼の加護の恩恵に預かり損ね、置いてけぼりを喰らったのだと知る。 僅かに思案し、彼女はこのまま暫くの間一般人の目を引き付けておくことを選択。 「その後は、中央突破より遠回りしたほうがいいかな。福男にはなり損ねたなー」 そんなことを呟いて、麗香は迫りくる毒トカゲを剣で切り裂く。 毒には耐性のある麗香だが、トカゲや一般人が持つ毒の中には無効化できないものも含まれているのだ。仲間と分断された今、動きを封じられてしまうのはまずい。 そう考えた麗香は、じりじりと後退しながら素早く周囲へと視線を巡らせるのだった。 片手で構えた巨大な銃の引き金を、あばたはそっと引き絞る。音はなく、言葉もなく、ただただ殺意のみを込められた静かな弾丸が射出。ホテルのドアを撃ち抜き、その先に立つポイズナを強襲する。 『なんっ! いきなりとんだご挨拶ね!』 ドアが吹き飛ぶと同時に、ポイズナは床に倒れ込むことであばたの弾丸を回避した。あばたは、銃口をポイズナに向けたまま、静かに呟く。 「潜伏する標的を鎮圧する特殊部隊のような気分ですね。後片付けをして帰るか、ここで死ぬか。2つに1つです」 撤退勧告。あばたが台詞を言い終えるよりも速く、終はホテルに跳び込んでいた。 床を蹴って、滑るような低姿勢でポイズナに肉薄。両手に構えた刃を振るう。 「取りあえず氷像狙ってグラスフォッグ!」 『ご挨拶ね。活きがいいのはありがたいけど、とりあえず止まってくれるかしら』 小さく跳んで、ポイズナは終の斬撃を回避した。同時に、長く鋭く伸びた爪で終の肩を引っ掻くように切りつける。 僅かに飛び散る血が、ポイズナの頬を濡らした。 ポイズナの着地に合わせ、終はナイフを真下から上へ振り上げる。 だが……。 「……う、ぐ」 ナイフがポイズナに命中する寸前、終の全身から力が抜けた。 否、正確に言うのなら力が入らなくなった。筋肉が動かなくなった、と言った方が正しいか。 自分の身に起きた異変が[呪縛]の状態異常によるものだと理解した時にはもう遅い。 『心臓は後で貰うわね』 耳元で囁くポイズナの声。甘い吐息が鼻腔をくすぐる。 次いで、終の背にポイズナの回し蹴りが叩き込まれた。腰骨がズレたのではないか、と思うほどの衝撃。内臓に直接ダメージを受けたような激痛。 翼の加護が掻き消え、彼の身体は吹き飛ばされた。 壁に叩きつけられた終が地面に倒れる。助けに入るイスタルテの眼前に、毒トカゲが飛び出し爆散。あばたが銃弾を放つが、ポイズナの動きは素早く捉えきれない。 ほんの一瞬。 その一瞬の隙を突いて、ポイズナは再度、終の眼前へと駆け寄った。 毒液を浴びながらイスタルテは飛んだ。 ホテルの入口を封鎖しているほんの十数秒の間に、終が壁へと叩きつけられていたのだ。さらに、ポイズナは終に追撃を加えるつもりらしい。 そうはさせない、と手を伸ばすものの、彼女の視界は頭から浴びた毒液のせいで僅かに歪んでいた。正確な狙いを付けるのは難しいだろう。 その一瞬の躊躇いが、命取りとなった。キシシシ、という金属が軋むような笑い声。耳触りだ。ポイズナの笑い声だと気付いた時には、もう遅い。 ポイズナによって生み出された毒トカゲが、ソファーの影から数匹飛び出し、イスタルテの背に張り付いたのだ。 一斉に毒トカゲが爆発。衝撃がイスタルテの身体を揺らす。翼に走る痛み。床に倒れ込んだイスタルテが目にした光景は、終の顎にポイズナの足刀が喰い込む瞬間だった。 一瞬、意識が飛んでいたらしい。 背中に走る激痛に思考が麻痺する。ポイズナの一撃を受け、壁に叩きつけられたことを思い出す。当たり所が悪かったのか、目の前が赤い。額から流れた血が、眼球を濡らす気色の悪い感覚と、耳触りな笑い声。 「笑い声……?」 やっとのことで焦点の定まった終の視界に、黒い何かが映り込む。 それが、ポイズナの脚だと気付いた瞬間、終の顎に衝撃が走った。顎を蹴りあげられ、身体が宙に浮き上がる。視界が真っ黒に染まった。意識が遠のく。 更に、顎にもう一撃。痛みはすでに遠のいた。衝撃だけが頭を揺らす。ごぼり、と口の端から血が零れた。 意識が途切れるその寸前。 強烈な一撃が、終の腹部に叩きこまれた。 意識を失い崩れ落ちる終を一瞥。戦闘不能だろうが、まだ息はある。トドメを刺そうとその喉に手を伸ばしたポイズナの耳に、一発の銃声が届く。 咄嗟にその場を飛び退くが、間に合わなかった。肩に走る激痛と熱。地面を転がり、ソファーの影に身を隠すが、銃声はさらに数発鳴り響き、ソファーを数秒で残骸へと変えた。 あばたの放った銃弾は、明確な殺意をもってポイズナの元へと襲い掛かる。 ●毒の魔女 『トカゲども! あの銃を持った女を狙いなさい!』 痛みを堪え、ポイズナは新たな毒トカゲを生み出した。地面を這い、壁を這い、天井を這い、無数の毒トカゲがあばたの元へと駆けて行く。 一斉に飛び出した毒トカゲを避けるべく、あばたは引き金から指を離した。 しかし……。 「そのままで。これ以上仲間は倒させません」 翼を広げ、イスタルテがあばたの前に飛び出した。吹き荒れる魔風が、毒トカゲを吹き飛ばす。爆散した毒トカゲの身体から、大量の毒液が飛び散った。 降り注ぐ毒液が、あばたとイスタルテの身体を濡らす。強い痛みや、燃えるような熱さが2人の身体を蝕んだ。それでも、あばたはまっすぐソファーの影に隠れたポイズナに視線を向け、銃の引き金を引き続ける。 ポイズナの動きは速い。しかし、弾幕が途切れなければ、その速さも活かすことはできないだろう。姿を現したなら、今度こそ楽に死なせてやろう、とそう思う。 そうでなくとも……、打つ手はある。 一度は戦闘不能になった終が、どうにか意識を取り戻し、ふらふらになりながらも立ち上がるところだった。 立ち上がった終がこちらに迫ってくる。ポイズナは、ソファーの影に隠れたままそれを見据える。次々と撃ち込まれる弾丸のせいで、自由に動きまわることもできない。 それならば、一人ずつ処理することにしよう。そう決めて、ポイズナは再び狙いを終に定める。まずは1人。今度は確実に息の根を止めると決めて。 あばたの背後で、封鎖していた筈の入口が開く。 ポイズナに操られた一般人が入って来たのか、とあばたは一瞬背後を振り返った。 しかし、そこに立っているのが麗香だと知ると、ほっと安堵の吐息を零した。 「魔女~。福男がやってきましたよ。あなたのさいきょうの毒薬をつくるという妄想から解放してあげるシアワセの使徒です」 毒液による[業火]の影響か、麗香は身体に大きな火傷を負っていた。呼吸を乱し、大きく肩を上下させる。 毒トカゲを退けたイスタルテが、麗香へ向けて回復術を使用した。麗香の身体を、淡い燐光が包むと同時、麗香は剣を引き抜き駆け出した。 まっすぐ、ソファーの影のポイズナ目がけ。 麗香の身体を、イスタルテが持ち上げ飛んだ。 それと同時、あばたは銃の引き金を引く。音もなく撃ち出される殺意の弾丸は、一直線にソファーの脚を撃ち抜いた。 既にボロボロだったソファーは、その一撃で完全に崩れる。 覚悟を決めたのか、ポイズナがソファーの影から飛び出した。鋭い足刀が狙う先は、ポイズナへと接近する終の喉元。 天井スレスレまで上昇していたイスタルテは、麗香の身体をポイズナ目がけて放り投げる。 「はあぁぁぁぁぁぁ! でどんな罠があろうともやはり肉薄するのはわたしなのです」 麗香の放つ大上段からの斬撃が、ポイズナの脳天目がけて振り下ろされた。ポイズナは、横目でちらりと麗香を見ると、その場で片足を支点にバレリーナよろしくくるりと回転。 終を狙っていた足刀を、麗香へと向ける。 麗香の剣とポイズナの脚が交差。剣の切っ先がポイズナの頬を切り裂いた。 ポイズナの足刀は、麗香の胸に突き刺さる。 キシシ、と軋んだ笑みをポイズナは零し……。 それと同時に、彼女は気付く。 口から大量の血を吐きながら、それでも麗香が笑っていることに。 彼女の目的は、ポイズナの命ではなくただの囮であったことに。 背後に迫った終が、両手に握った刃を振り抜いたことに。 そして。 冷たい刃の感触が、ポイズナの首に触れる。次いで、熱を、痛みを、衝撃を。くるりと反転する視界。ブラックアウトする意識。 首を失った自分の身体を見下ろして、彼女は自分の死を知った。 血だまりの中に倒れ伏したポイズナの遺体を回収し、Dホールから元の世界へと送り返す。 ポイズナが死んだと同時に、一般人の支配は解け、毒トカゲも消えていた。 任務の終了を確認し、4人のリベリスタは誰にも気付かれないように、そっとホテルを立ち去るのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|