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お猫様。放浪癖とストーカー。

● お猫様の放浪癖
 雪のように真白く、艶やかな毛並み。額には金色の三日月模様。細く、しなやかな体躯は、小さいながらも威厳を備え、一見してそこらの猫とは一線を画すことがよく分かる。
 異世界から来た、猫の女王たる存在が彼女アザーバイド(お猫様)であった。
 そんな彼女が、ボトムの世界に足を運ぶのは今回が初めてではない。
 生来の放浪癖は、彼女の悪癖と言えるだろう。何度目の来訪かは不明だが、どうやら彼女は、この世界が気に入っているようだ。
 今回も、偶然見つけたDホールに飛び込み、彼女はこのボトムへとやって来た。そして彼女は、ふと思いついたあることを試してみようとする。
 あること。それは、所謂“変化の術”と呼ばれる能力である。
 自分の目で見て、観察した対象に、自分の体を変化させる。そういった能力である。お猫様は、道行く一般人を植え込みの中からじっと観察し、そしてついに術を発動させる。
 ほんの一瞬。瞬きの間に、植え込みの中のお猫様は、人へと姿を変えていた。
 水色の和服をまとい、白い長髪を風に揺らす美しい少女だ。
 その頭頂部には、猫の耳が2つ、ピョコンと飛び出している。額にも三日月の形をした痣がある。その赤い目も、よくよく見れば猫のそれだと分かるだろう。しかし、姿形は人間のそれであった。
 そっと、お猫様はショーウィンドウに映った自分の姿を観察する。
 耳と目以外は完璧に人間のそれと同じだ。変化はほぼ成功と言ってもいい。
 試しに「あーあー」と声を出してみる。猫の頃と同じ、鈴の鳴るような美しい声音に満足の笑みを浮かべ、うふふ、と含み笑いを零した。
「成功だにゃお。我ながら、美しい姿に変化できたのにゃお」
 うっとりと、ガラスに映った自分の姿を眺めるお猫様を、通行人は訝しげな、或いは興味深そうに眺めている。人目を引く外見をしていることに加えて、その行動は明らかに不審であった。
「おお。目立ってしまっているのにゃお。これはよくない」
 今までの経験から、彼女は即座に理解した。
 むやみやたらと目立つ行為は、碌な結果に繋がらない、と。
 猫の俊敏さを持って、人の姿になったお猫様は素早く人目に付かない場所へと駆けていく。
 そんな彼女の背後を、3匹の黒い犬がつけていることには、気付かないままに。
 お猫様は、意気揚々と人間社会を楽しむべく、これから何をしようか、などと今後の予定を思い描くのであった。

● 迷い猫と猟犬ストーカー
「アザーバイド(お猫様)を元の世界に送り返すこと。それと、お猫様を追って来た(黒犬)を撃退すること。お猫様に、この世界に来る事の危険を教え、送還。Dホールを破壊すること。以上が今回の任務の主な内容」
 忙しいのに、と不満気な溜め息を零し『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はモニターを切り替える。
 モニターに映ったのは、水色の着物を纏った少女の姿。楽しげに、しかしどこか怯えるように、きょろきょろと視線を彷徨わせながら彼女は街の外れを歩いていた。
 いきなり街中、特に人の多い区画へと歩を進める勇気はないらしい。
 けれど、興味津々といった様子からするに、いずれは我慢できずに人混みの中へと足を踏み入れることだろう。
 人に化けたとはいえ、彼女の本性は猫である。
 姿形は誤摩化せても、性格は猫の頃のまま。臆病で、しかし好奇心旺盛。放浪癖があり、トラブルの中に自ら飛び込む。そういった性はなおらない。
「放浪しているだけなら、捕まえて送り返せばいいんだけど……。どうやら彼女は、何者かに追われているみたい」
 そして厄介なことに、お猫様自身は、自分が追われていることに気付いていないようなのである.
 お猫様を追っているのは、3匹の黒い犬だ。
 ドーベルマンに近い外見をしているが、どうにも、ボトムの世界には存在しない犬種のようにも見える。そもそも正真正銘の犬なのかどうかも怪しい所だ。
 恐らく、お猫様と同じ世界から来たアザーバイドだろう。
「黒犬達も、お猫様同様に人へと変じることができるようね。もっとも、お猫様と違い、外見を人間に近づけることは出来ない。狼男をイメージしてもらえばいいかしら」
 半人半獣の凶悪な外見。獣の俊敏さ、力強さと、人としての器用さを兼ね備えているものと考えればいいだろうか。
 獣と獣人の姿を使い分けることは、戦闘においても有効な戦術になると考えられる。
「お猫様を追っているみたい。街中で襲いかかったりは、今の所していないけど……。いつまでもそうとは限らないから」
 出来るだけ早めに、お猫様を保護するべきだろう。
 黒犬達は、お猫様の後を付かず離れず追って来ている。交戦を避けることはできないだろう。お猫様には、戦闘能力などないので、出来れば庇うか、安全な場所に匿うかしたい。
「黒犬達の通常攻撃には[連][ブレイク][流血]などの追加効果が確認されている。また[弱点][致命][石化]効果のある攻撃も。数は少ないけど、結構強いから、注意してね」
 黒犬に言葉が通じるかどうかは不明だが、お猫様は多少なりとも人語を介し、発することができるようだ。
 コミュニケーションの手段が多いに越した事はない、とイヴは考える。
 黒犬が、何のためにお猫様を追っているのかは判然としないが、この世界で暴れまわることを許すわけにはいかない。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2015年01月13日(火)22:19
お疲れさまです、こんばんは。
病み月です。そろそろ一年が終わりますが、皆さん、いかがおすごしでしょうか? 
今回のミッションは、異世界からやって来た迷い猫を、元の世界に送り返すこと。ターゲットは、好奇心旺盛でビビり屋の猫の女王と、それを追いかける黒犬です。
遭遇時、お猫様は一般人に絡まれているかもしれません。
また、人混みの中で黒犬に襲われることもあるかもしれませんので、ご注意ください。
それでは、以下詳細。

● 場所
駅からほど近いビル街。ビルの中に埋もれるようにして商店街がある。お猫様は、駅から商店街沿いに西の方へと向かっている。トラブルが有れば、人気のない商店街へと逃げ込むつもりらしい。
時刻は夕方。もうじき日が暮れる。
ビル街の中には、空き地や空き屋がいくつか見受けられる。また、駅の傍には公園が、ビル街を抜ければ人気のない住宅街へと辿り着く。
お猫様を追っている黒犬達も人気の多い場所でお猫様を襲うつもりは、今の所ないようだ。
Dホールは駅の裏に開いている。

● ターゲット
アザーバイド(お猫様)
白い猫のアザーバイド。額に三日月模様がある。
現在は、人間の少女の姿に化けている。形は人間だが、耳と目は猫のまま隠せていない。また、着物に白髪という外見上の特徴と可愛らしい容姿のせいで、ひどく人目を引く。それを嫌がり、物陰や死角を移動中。
好奇心旺盛で、遊び好き。放浪癖もある。しかしビビり。
人の姿をしている間は、人の言葉を話せる。
猫の状態でも、言葉を解するが会話はできない。

アザーバイド(黒犬)×3
ドーベルマンに似た外見の大型犬3匹。お猫様を追っているようだ。常に3匹一緒にいるわけではない。
また、半獣型の姿に変じることも可能。
黒犬状態では、素早さや回避に優れる。
人形では、攻撃や命中に優れる。
目的は不明だが、お猫様を付け狙っている。人気の多い場所での戦闘は避ける傾向にあるようだが、必ずしも人目をはばかる、というわけではないらしい。
通常攻撃に[連][ブレイク][流血]の効果が付与されている。
【ブラックバウンサー】→物近複[弱点][致命][石化]
黒いオーラを纏った連続攻撃。

参加NPC
 


■メイン参加者 7人■
ハイジーニアスデュランダル
雪白 桐(BNE000185)
アウトサイドアークリベリオン
藤代 レイカ(BNE004942)
ハイフュリエホーリーメイガス
カトレア・ブルーリー(BNE004990)
アウトサイドマグメイガス
月草・文佳(BNE005014)
ハイジーニアスソードミラージュ
院南 佳陽(BNE005036)
ジーニアススターサジタリー
京凪 音穏(BNE005121)
アウトサイドマグメイガス
芹南 葵(BNE005125)
   

●迷子の猫姫
 イルミネーションの明りに誘われ、白い着物に白い髪、あどけない表情の少女はとてとてと駆け足で街を進んで行く。猫のようなアーモンド形の瞳には、きらきらとした好奇心の色を濃く映し、僅かに開いた小さな口からは白い吐息を吐きだしている。
 絵本の中から抜け出して来たような可愛らしい外見もさることながら、なによりも目を引くのは艶やかな髪の上にのった猫そのままの三角耳だろう。本人も、自分の容姿が人目を集めることを自覚しているのか、物影に隠れるようにして移動していた。
 アザ―バイド(お猫様)。その本性は、白い猫だ。
 好奇心旺盛で、冒険と悪戯好きな猫の姫君。少しだけ臆病な彼女は、しかし勇気を出して人の姿に化け、街へと足を踏み入れた。
 そんなお猫様の背後を、黒い犬が3匹付けて来ていることに、彼女はまだ気付かない。

●猫と犬とリベリスタ
 冷たい空気と、人の群れ。イルミネーションの施された駅前の広場に集うのは7人のリベリスタ達。
 近くにお猫様の姿がないことを確認し、散開した。一刻も早くお猫様を見つけ、元の世界へと帰って貰う必要があるのだ。
「なにも問題なければこういう遊びに来られる方は歓迎なんですけど……」
 雪白 桐(BNE000185)は、集音装置で周囲の会話に耳を澄ましながら街を進む。幸い、お猫様は目立つ外見をしている。人目につけば、その容姿を取り上げて噂話の台にあげることもあるだろう。
「なんたってこんな寒い季節に猫が……そこまで意識してない?元の世界のコタツで丸くなっててくれれば話は早いのに!」
 桐とは別方向、路地を覗きこみながら藤代 レイカ(BNE004942)は白い息を吐きだし、両の腕を擦る。冷え込んだ空気が身に染みる。お猫様も、さぞ寒く、心細い想いをしているだろう。口では不満を述べながらも、彼女の懐には牛乳の瓶が納められていた。温めて渡せないのが残念だが、彼女は彼女なりにお猫様の身を案じている。
「可能であれば黒犬さんに事情を聞いてみたいかな、と思うのですが。どういう事情でお猫様と黒犬さんが戦ってるのかは判りませんし」
 カトレア・ブルーリー(BNE004990)は、建て物の影に目を向けお猫様の姿を探していた。彼女がこの世界に怯えているというのなら、出来るだけ人目に付かず、それでいて人ごみからほど近い位置に隠れているのではないか、と彼女は考える。
 それと同時に、彼女はお猫様を追っているという黒犬達の姿も探していた。目的は分からないが、こんな街中に3匹も大きな犬が歩いているのだ、目立たない筈もない。

 人の流れに逆らわず、『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)と院南 佳陽(BNE005036)は肩を並べて通りを歩む。彼女達が選んだ捜索場所は、人気の少ないホテル街である。
「んーあたしネコだから」
 ちらり、と文佳は佳陽の方へと視線を向けて妖しく微笑む。佳陽は、小さな溜め息を零す。
「成る程、私は「タチ」であると。正しいかは兎も角、そういう隠語は人前で使うものでしょうか……?」
 どことなく呆れの色を窺わせる声音でもって、佳陽はそう呟いた。
 奇しくも場所はホテル街。この辺りにはいないんじゃないかなー、なんてことを佳陽は思う。

「文佳さんに実践と言われてついて来たのはいいけど何をすればいいのかなあ。足手まといにならないといいんだけど」
 きょろきょろと視線を巡らせながら、京凪 音穏は溜め息を零す。実戦経験の少ない彼女にとって、アザ―バイドの捜索や、それらとの戦闘などはまだ慣れない。
 キョロキョロと、歩道橋の上から街を眺める音穏の隣には芹南 葵(BNE005125)が立っている。どことなくぼんやりとした視線を街へと注ぐ彼女の動きが、ぴたりと止まった。
「あー、居た?」
 視線の先には、ビルとビルの間に挟まれたような小さな公園がある。暗視の能力を活性化していなければ発見できなかっただろう。
 お猫様を見つけると同時、葵は音穏の襟を掴んで一目散に駆け出していた。

 好奇の視線や、コソコソとした話声に気押されてお猫様は公園にまで逃げて来ていた。ここからなら、人の視線に晒されることなく心を落ち着かせることができると思ったのだ。
 街の様子を見ることもできる。街のネオンの光は、お猫様にとっては眩しすぎる。しかし、好奇心旺盛な彼女からしてみれば、見慣れない服装の人間も、眩しすぎる光も、道を走る車も、何もかもが珍しく、そして見ているだけで心踊るような楽しいものであった。
 今は、小休止といった所だろうか。公演にベンチに腰かけ、空を見上げる。
 その時だった。
 ぐるる、といううなり声が彼女の耳に届いたのは。
「…………ひっ」
 赤い目をした黒犬が3匹。お猫様の周りを囲んでいた。いつの間にここまでの接近を許したのか。逃げるにしても、周囲には木などなく、走って逃げても追いつかれるだけ。
 知らず知らずのうちに、瞳には涙が溜まっている。視界が歪む。悲鳴をあげる余裕もない。
 黒犬のうち1匹が、お猫様に向かって飛びかかった。

 振り下ろされる鋭い爪が、お猫様のあどけない顔に届くその直前。
 公園に到着した葵は、手にした杖を力一杯に投げつけていた。
 ガツン、と鈍い音。おそるおそるお猫様が目を開ける。
 視界に映ったのは飛び散る火花と、突然の乱入者を警戒しお猫様から距離をとるべく背後に跳び退っていく黒犬の姿であった。
「そうかー猫さんなのかー。私は狐さんだよー。もしかしたらタヌキさんかもー? でもこの世界のタヌキさんは黒犬さんより凶暴だからねー。きっと猫さんを見つけたらぐつぐつにゃーにゃーって鍋にいれて煮物にしちゃうからね。悪いことは言わないから、怖い黒犬さんが居なくなったら、見つかる前にこっちの世界から帰ったほうがいいよ」
 のほほん、とした笑みを浮かべて葵はお猫様に視線を向ける。地面に落ちた杖を拾うべく腰をかがめれば、金色の髪が風に靡いてお猫様の頬を撫でた。
 以前何度か、この世界に遊びに来たことのあるお猫様は彼女のような存在を知っている。
 リベリスタ、と名乗っていた筈だと思い出し思わず安堵の吐息を零す。
 緊張が解けたのか……。
「こ、こわかったよぉぉぉ!!」
 と、舌ったらずな悲鳴をあげてお猫様は白猫へと姿を変えた。

 3体の黒犬と対峙するのは、杖を構え魔方陣を展開した葵である。
 距離を詰めてくる黒犬のうち1体は、すでに半人半獣の状態に変化している。獣の攻撃性と人の器用さを兼ね備えた状態である。
 3対1。葵の額に冷や汗が浮かぶ。葵に次いで公園に飛び込んでいる音穏はというと……。
「ウシャシャシャシャ!!」
 なんて奇声をあげながら、楽しそうに白猫の姿へ戻ったお猫様と戯れていた。

「さがっててくれるかなー?」
「あ、そうね。ここは危ないから向こう行きましょ」
 お猫様を胸に抱き、音穏は急ぎ足で後方へと下がっていく。それを見て、黒犬達は一斉に駆け出した。どうやら狙いは、あくまでお猫様であるらしい。
「マジックミサイル行くよー」
 しかし……。
 葵の周囲に展開した無数の魔法陣を前にして、黒犬たちはその動きを止めた。

 展開された魔方陣から、光弾が飛び散る。それら光弾が、黒犬たちを襲う。流星の如き光弾の雨を、黒犬達は持ち前の反射神経と機動力を駆使してそれを回避。そのままお猫様を追おうとする。
 だが……。
「猫と犬は。まあ、仲が悪いことも割とよくあるみたいだし?」
 禍々しい魔力を放つ銀の弾丸が、まっすぐに黒犬の脚を射抜いた。そのまま銀弾は、地面に命中。敷き詰められていたブロックを打ち砕き、破片を散らす。
 連絡を受け公園に到着した文佳による射撃である。
 さらに、目にも止まらないほどの速度で公園に駆け込んできた佳陽が光弾の降り注ぐ最中を駆け抜け、黒犬の1体を2本の扇子で打ち据えた。
「戦闘不能とは言いませんが、せめて私の脚を止めないことには、他の仲間への攻撃はできませんよ?」
 反撃に振りあげられた黒犬の爪をバックステップで回避し、佳陽は口元に笑みを浮かべる。
 さらに、杖を構えた葵の背後から1発の弾丸が半人半獣の状態になっていた黒犬を襲う。
「当たったら痛いで済まないわよ!!」
 黒犬は、咄嗟に半人化を解くことで弾丸を回避したが、その隙に降り注ぐ光弾をその身に浴びることとなった。
 悲鳴をあげ、黒犬が地面を跳ねる。弾き飛ばされた黒犬を追うことをせず、リベリスタ達はお猫様と音穏を守るように陣形を立て直す。
 リベリスタ達に対峙する3体の黒犬の背後から、残る3名のリベリスタが到着したのは、その直後だった。

 黒犬たちが再度攻勢に出るよりも早く、まんぼうに似た大剣を手に桐が公園内へと斬り込んで行った。目の前のリベリスタと、お猫様に意識を向けていたことが災いしたのか、黒犬は最短距離で駆け込んできた桐に気付くのが遅れたようだ。
「異世界でも猫と犬って仲悪いんですかね?」
 剣を一閃。黒犬の胸を切り裂いた。飛び散る鮮血が白い髪を赤く濡らす。そのまま、剣の重量に身を任せ、遠心力を利用しくるくると回転。近づく他の黒犬を牽制する。
「やっほーお猫様。貴女を黒い犬から護るために来たわよ~」
 更に、刀を構えたレイカも戦場へと飛び込んでくる。大上段に構えた刀を、手近な黒犬へと叩きつけた。黒犬は、一瞬で半人化し両の爪でレイカの刀を受け止める。
 一瞬の膠着状態。レイカの背後に黒犬が迫り、その爪で彼女の背を引き裂いた。絶対者を持つ彼女に状態異常は付与されないが、傷を追うことによる流血と痛みは避けられない。
「……っぐ!!」
 レイカの身体が大きくよろける。刀と爪との膠着状態が解けたその瞬間、半人半獣化していた黒犬の全身を、真黒いオーラが包み込む。
 黒いオーラを身に纏い、飛び跳ねるように公園内を駆けまわる。擦れ違い様に、黒犬は桐とレイカを切り裂いた。飛び散る鮮血を浴びながら、黒犬が吠える。
 地面に倒れたレイカが視線をあげる。その目に映ったのは、石化した桐の姿であった。

 傷ついた仲間と、怯えるお猫様。それを追う黒犬の姿は禍々しい。
 杖を振り上げ、カトレアは短い呪文を唱えた。魔方陣が展開され、淡い燐光が降り注ぐ。
「もしかしたら彼らの世界では「お猫様」のほうが悪い存在なのかもしれませんが、こちらの世界では暴れる犬さんのほうが困るので」
 降り注ぐ燐光が、傷ついたレイカの身体を癒し、石化した桐の状態を回復させる。
 倒れた2人を尻目に、黒犬たちは半人化して駆け出していた。空に向かって吠えながら、黒犬はまっすぐお猫様の元へ。葵の放った光弾の雨を回避しながら、ただただまっすぐ、自分達の任務を実行する為に……。

●猫の世界の姫君
「うふ。うふふふふふふ」
 白く艶やかな毛並みに顔をうずめ、お猫様を撫でまくる音穏。にやけた顔に緊張感など微塵も感じられず、傍で仲間達と黒犬が戦闘を繰り広げてさえいなければ、猫好きの微笑ましい日常、といった様子である。
 うなー、と迷惑そうな声で鳴いてお猫様は人の姿へと変化。抱きついたままの音穏を少しだけ押しのける。残念そうな表情を浮かべ、しかし音穏は思い出したようにお猫様へと問いかけた。
「ね。そういえば、あの黒犬たちってなんなの? 知り合い?」
「うなー……。知り合いじゃないけど、テロリスト? じゃないかにゃー。わたし、これでも御姫様なの」
「……………………………御姫様なのに、1人で出歩いてるんだ」
 呆れるやら、関心するやら。
「ま、いいや。テロリストなら、倒しちゃっていいよね。片付いたらいてくれたらあとでたっぷり遊ぼうニャー」
 お猫様の頭を撫でて、音穏はゆっくり立ち上がった。

「大丈夫だよー。ここに居る人達はアタシ以外強いからねー。敵なんかあっという間にダウンさー」
 お猫様に頬笑みかけて、葵は杖を宙に振るった。描かれた魔方陣から、眩い閃光が解き放たれる。バリバリという電気の音が響き渡る。視界を真白く埋め尽くすほどの電光が、3体の黒犬に襲いかかった。

 電光をまともに浴びた黒犬は1体。高速で駆け寄った佳陽の扇子が、黒犬の顎を打ちすえた。
 黒犬の身体が宙に浮く。
「言葉が通じるかどうかわかりませんが、大人しく引いてはくれませんか?」
 そう訊ねた佳陽の背後に、別の黒犬が迫った。鋭い爪で、佳陽の肩と首を引き裂く。深い裂傷から飛び散る鮮血をその身に浴びながら、文佳が叫ぶ。
「このっ!! このメンバーをあっさり突破できるとは思わないでよ!」
 展開された魔方陣から、銀の弾丸が放たれる。佳陽を切り付けた黒犬を銀の弾丸が撃ち抜いた。
 佳陽と文佳の攻撃で体勢を崩した黒犬2体の背後から、武器を大上段に掲げたレイカと桐が駆け込む。
「こっちで騒ぎを起こされるのは困るのよね」
「あなたたちのせいで、お猫様の為に用意していた牛乳が駄目になりました」
 レイカの刀と、桐の剣が同時に振り降ろされた。鋭い一閃が、2匹の黒犬を切り裂く。その命が尽きる寸前、黒犬たちはレイカと桐とを切りつける。
 しかし即座に、降り注ぐ淡い燐光が傷ついた仲間たちの傷を癒していく。カトレアの治療術だ。
「やっぱり回復はこまめにしませんとね」
 そういってカトレアは、薄く微笑む。
 残る黒犬は1匹だけだ。

 葵の真横を、滑るようにして黒犬が駆け抜ける。
 悲鳴をあげるお猫様を守るように、大口径の銃を掲げた音穏が立ちはだかる。
 真黒いオーラを纏った黒犬の爪が、音穏の喉へと突き出された。
 音穏は、右手に握った銃をまっすぐ持ち上げ黒犬の額へと狙いを定める。
 乾いた銃声。
 黒犬の動きが止まる。
 否、止まったのは黒犬の動きだけではない。お猫様も、リベリスタも、全員の動きが、時間が停止したかのような静寂。
 黒犬の爪が、音穏の喉に喰い込んでいた。
 つつ、と赤い血が滴り地面を汚す。
 音穏の放った弾丸は、正確に黒犬の額を撃ち抜いていた。ぐらり、とその身体から力を失い黒犬は地面に倒れ伏す。
 それっきり、黒犬は二度と動き出すことはなく。
「だから言ったでしょ。当たったら痛いじゃすまないって」
 と、そう呟いて音穏はその場に膝をついた。
 そんな音穏に、悲鳴のような泣き声をあげながらお猫様が飛び付いていく。荒い呼吸を繰り返す音穏の背中を、猫の姫君は、強く強く抱きしめたのだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
お猫様は無事に救出され、黒犬は討伐されました。お猫様はその後、この世界を満喫して元の世界へと送り返されました。
依頼は成功です。
お猫様は、満足して帰って行ったようです。

この度は、ご参加ありがとうございました。
それではそろそろ失礼します。縁がありましたらまた別の依頼でお会いしましょう。