● 国内主流七派。裏野部が四国で起した戦乱により壊滅し、三尋木は国外へと拠点を変えた。 残る五派は逆凪、恐山、六道、黄泉ヶ辻、剣林。 勢力バランスを勢いよく崩した日本国内の神秘界隈は凪ぐ風が吹き荒れたかのように混乱を巻き起こす。 剣林百虎は言う。この嵐はそうは止まず、野望の為に何処も進んでいるのだと。 『最強』を目指す彼らが見せた大規模な動きこそ、この霊峰富士で行われるものだ。 「蓬莱」 霊峰より通ずる異界の名。封じられたその場所を『剣林』が手中に収めんとしているのだと先日捉えたフィクサード、武蔵トモエは告げた。 かの神秘世界の力を使用し戦力を強力にしようとする。先に行われていた崩界度を上げると言う。 何としてでもその行動は止めなければならない。崩界の進行は著しい上にフィクサードの戦力増強は毒でしかないのだから。 「『蓬莱』――古代中国に置いて神仙が住むとされる場所の名前ね。剣林百虎の所有する『盤古幡』もこの世界の者だと言われてるわ。 恐らく、神秘の力を簒奪しようとしてるのね。直接的だ確実だわ」 『最強』を目指す剣林にとっては力を補強することだって目的の一種だと『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は言う。 「裏野部……『賊軍』の様に無意味な破壊を行う事は無いでしょうけれど、力を証明する為の戦いが勃発するであろうことは」 有り得ると世恋は言う。その状況は神秘の混乱を更に大きくするだけである以上は何としても避けねばならないだろう。 剣林派はこの力を手に入れる為に霊峰富士へと『本隊』と呼ばれる最精鋭部隊を導入している。 剣林は力を求める相手である以上、手強い事は想像に難くない。『蓬莱』からのアザーバイド達が風穴を徘徊している中、穴を奪われぬ様に剣林を止めるのがアークの仕事となる。 「皆に相手して貰うのは剣林のフィクサード。 蓬莱へ続く穴の封印を破壊する儀式を行っている百虎の下へと行く道を護って居る彼等を倒してきて欲しいの」 調査を続けていた彼らには地の利がある。だからこそ、不利をし居られるのは仕方がないだろう。 精鋭たる『本隊』のメンバー達は、革醒者との死闘を楽しみにし、更なる力を求めている事がよく分かる。 「彼らは剣林。死闘がある以上は士気が高い――皆、気を付けてね?」 ● 風穴を覗きこみながら少女は「すごいね、おとうさん」と振り仰ぐ。 剣林の本隊に混ざり込む様に存在する猿のリュックサックを背負った少女は唇に笑みを乗せて小さく微笑んだ。 「おじさんが頑張ってるんでしょう? なら、そらたちも応援しなくっちゃね」 饒舌な彼女へと巨体を縮めこませたような男が小さな声で彼女に「静かに」と低い声で呟いた。 唇を尖らせた雨宮・宙は父親とこの場所に居る。本隊と呼ばれる精鋭の父の補佐として訪れたのだろう。 周囲に打ち捨てられた刃は一般人に公開されない未知の領域であり、革醒者達が訪れた痕跡を思わせる。 この地を護るために訪れたであろうリベリスタの刃を蹴り飛ばし、少女は丸い瞳を細めてけらけらと笑う。 「弱者は死ぬ、ってのは昔からの決まりだもの」 風穴からひょこりと覗く白き妖へと宙は「ねえ? かべどん」と微笑みかける。 縊鬼と呼ばれる中国の伝承の妖は己をこの世界に顕現させる為の身体を探すかのように白い靄の姿で漂い続けている。 この場に訪れるリベリスタなら美味しく頂いて良いんだよと彼女が手首に付けた『はれのち』で靄を制御する様に微笑んだ。 「強い人がくるんでしょ? 楽しみだね。アークかあ」 今日はどんな人と会えるんだろうねと小さく微笑んで。 靄は世界を喰らう様に手を伸ばし続けている―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月11日(日)22:53 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 風の音が鼓膜を擽る霊峰富士、風穴。 「アークだと思った? 残念、元・剣林の布都の仕上ちゃんっすよ!」 にんまりと。唇に乗せた悪戯っ子の様な笑みは『無銘』布都 仕上(BNE005091)のスタンダード。 蛙のレインコートに身を包んだ剣林筋の箱入り娘は魔力鉄甲に包まれた掌を振り上げ、行く手を阻む剣林へとアピールを一つ。 彼女の仕草ににんまりと笑みを浮かべた雨宮・宙は「こんにちはぁ」とクラスメイトに語りかけるかのように微笑んで見せた。 「そらちゃん、結局『かべどん』連れて来たのかよ!」 「んふふ、かわいいでしょ」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の言葉に子供らしく笑顔を浮かべる剣林の箱入り娘は傍らの白い靄を思わすアザーバイドへと視線を送る。他人に取り付き首を絞めて殺める――中国妖怪の一つ『縊鬼』は何も語ることなく、宙の背後に漂っているばかり。 「可愛い……かは、分からないが。トモエから聞き出した情報は確かなようだな。『蓬莱』……なんの因果か」 故郷を思い返し、『善悪の彼岸』翔 小雷(BNE004728)は歯噛みする。バンテージに微かに滲んだ赤黒い染みは彼が此処まで戦ってきた証なのだろう。しっかりと包み込まれた指先が微かに震えていた。 「魑魅魍魎を呼び出し、制御して手駒にするなど、莫迦げたことを……その行いが崩界に導くと言う事を何故気付かない?」 「そらたちは『フィクサード』だもの。優しいから教えてあげるけど……そらたちは崩界なんて気にしてない」 フィクサードとリベリスタ。その在り方の違いは尤もな理由を持って説明された。 世界を護る正義の味方がリベリスタと言うならば、その正義と言う名の大義名分のもとで崩界因子を断罪する。大を護るために小を切る、在り方として人々は迷い苦しむであろうが世界を護るためには少なからずとも犠牲は致し方なし――そう判断するのが今のアークの在り方だ。 「崩界を気にするなら、君は『やっぱりリベリスタ』だね」 「……まっ、何を言ったって仕上ちゃんたちが『アーク』で『リベリスタ』って事に違いは無いっすけどね」 それは生まれでもなく思想。フィクサードの家系でありながら思想をリベリスタとして持った仕上の言葉は重い。 ぐ、と拳を固めた小雷をちらりと見やり『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は槍の穂先を鵜飼脩一へと向けた。切れ長の瞳にちらりと見えた感情は騎士道を探究するユーディスが『武術家』足り得ぬ行動をとる剣林を疑問視するかのよう。 「まさか、異界の力を手に入れよう……などと、剣林が言い出すとは思ってもいませんでした。 実に『剣林』らしからぬ印象ですが――どうお考えなのですか?」 「……仇花であれど咲かぬ蕾に意味などあるまいに」 問い掛けに、低く答えた雨宮・毅の声は忠義を尊ぶその武術家らしさが滲みでる。こお、と吹き荒れた風に靡く髪を抑えてユーディスは緩く瞼を伏せ、返答の代わりとした。 毅と宙の姿を毅然とした態度で見つめていた『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は一定の形状から変化する神秘の術杖を手にし紫苑の瞳を細める。風に揺れた黒いレースは少女らしさを感じさせる。 少女は、胸の内に渦巻いた想いを吐露するかのように毅と宙を見遣り、視線を逸らす。 「目の前で自分の身内が殺される。倒される――なんて状況……教育上には宜しくないんじゃない? 幼い子が戦場に立つのってどうなの? って誰だって思う事でしょう?」 シュスタイナの言葉に戦場指揮をとる宙はへらりと笑う。シュスタイナよりも2つ程度年上。些細な差であれど、実戦経験はより過酷な道を歩むシュスタイナの方が上だろう。身内と告げた言葉に片割れを思い返し、浅く息を吐く彼女へと宙は目を細めて小さく微笑んだ。 「殺されなくっちゃ済む話でしょ。自分の事、心配したら?」 「シュスはしなないぞー」 ばあ、と虚ろな瞳に何の色も映さずに両手をぱたぱたと動かした『存在する不存在』疊 帶齒屆(BNE004886)は仕草だけでその存在をアピールし続ける。 ユーモア溢れる帶齒屆の言葉にそうかと小さく囁く、刹那――地面を踏みしめたのは。 ● 持ち前の勘を生かして前線を押し上げる様に。短いスカートから伸びあがるスパッツに包まれた両脚に力が籠められる。 「あの大将が大穴こじ開けるとは思わなかったっすね」 にぃ、と唇を吊り上げて。レインコートを揺らした仕上が前衛を潜り抜け、背後に漂う縊鬼へと破壊的衝動を叩きつけた。その速力に瞬き、咄嗟に振り仰いだ毅へと仕上がその掌を上空へと大きく翳し誘う様に手招いた。 「泣いても笑っても今の剣林にとってはこれが最後の祭り! 派手に花火(けんか)を始めるとするっすよ!」 「無論だ。布都の」 好戦的に唇を吊り上げる毅の声音に頷いて弓を引く娘の焔が降り注ぐ。炎の雨に俯瞰気味に眺めていたシュスタイナが柳眉を寄せ、焔に濡れた己の肌へと視線を落とす。 声は無く、前線へと攻め込むユーディスの槍が狙いを付けたのは白い靄。崩界因子たる異界の存在へと狙いを付けた彼女の視界にちらついたのは鵜飼の姿。 「鵜飼さんの師が宙さんの父。成程、何故知り合いだったのかが不思議でしたが、そういう繋がりですか」 「こちらもお嬢の我儘(しじ)を無碍にはできないんだ」 皮肉交じりに告げた鵜飼の瞳の色に、ユーディスは「退く気は無い、のですね」と呟く。 しかして、一番最初にリベリスタが叩きたいのは彼らフィクサードではない。立ち替わる様に前線へと飛び出した小雷が拳を固め、毅の体へと破壊的衝動を叩き込む。 受けとめ、破壊の神の如き戦気を纏った毅がくつくつと咽喉を鳴らす。刃の切っ先が敵と捉えたのは正面に位置する小雷の姿。 少年は緊張にピンと張りつめた糸の様な思考を感じとりながらも、『殺さず』を信念とするように咽喉を震わせた。 「あれはお前の娘か。下手をすればあの娘も命を落とすぞ?」 「笑止。『死にたくない』等と世迷い事を漏らす様な娘に育てた覚えはない」 思想の違いか、それとも強がりか。判別が付かぬとも大切な一人娘を引き合いに出されては更なるやる気を満ち溢れさせるのみ。 平衡感覚を整える様に、脚力と身体の重心位置を補佐する靴の感覚を確かめて夏栖斗が魔女の魔力の込められたトンファーを振るう。散る花弁を思わせた武技は紅桜を纏い、そのままに鵜飼へと張り付いて行く。 「鵜飼、これで三回目か、やりあおうぜ。まさか、嫌だとは言わないよな?」 にんまりと笑った夏栖斗の唇から毀れおちた吸血鬼の牙。薄らと放った闇のオーラに舌なめずりを見せた鵜飼が夏栖斗へと飛びかかる。 踏みしめた砂が靴底から剥がれ落ち、砕くかのように叩きつけられたその衝撃に夏栖斗が小さく呻く。しかし、混戦状態になるその戦場さえもが『幸福』かの様に笑う鵜飼へ夏栖斗は正義感を塗り固めた笑顔に罅を入れた。 「お前が本気なら僕だって本気で行く。アーク、御厨夏栖斗。きちんと名乗ったことなかったよな?」 「剣林、鵜飼脩一。アークのヒーローやってるんだってな? なら、思想は真逆、どちらの信条が勝るのか」 打ち交わす拳の影で伸びあがった掌は白い靄を思わせてリベリスタの首筋を狙う。 攻勢に徹するユーディスが槍の穂先で弾くその手がゆっくりと帶齒屆を狙い、ぎりぎりと締めつけた。 「うわーしぬー」 平然とした表情で、茶化す様に告げた帶齒屆のアホ毛がぴょいんと跳ねる。避けることを得意としないマグメイガスは己を苛む者は無いと両の手を振り上げる。 支援約を一手に引き受けたシュスタイナは形状を変化させる杖で地面を叩き浮かびあがって翼を揺らす。 魔力の舞う風の渦が狙いを定めたのは矢張りアザーバイド。柳眉を逆立てたのはその危険性が故。 「戦闘不能になったら、誰か私の後ろまでその人を投げて頂戴! 縊鬼に好き勝手される訳にはいかないわ。後ろで護るから――私がその視界、塞いで上げる」 挑発的な言葉は、猫の如き少女の唇から毀れ落ちる。靱やかに地面を蹴って、周囲を俯瞰する彼女の目の前で気配を消して魔力の渦の中で蠢く帶齒屆の表情は変わらない。 煽るかのような仕草を感じとってか些か眉を顰めた毅が振るい上げた刃が小雷の身体へと最強の破壊力を持って叩きつける。骨の軋む音にくぐもった声が漏れ小雷の膝が震える。 「貴様ほどのまっすぐな人間なら分かるはずだ……、この闘いは無意味だ!」 「無意味なんて決めるもんじゃないでしょ?」 丸い瞳の少女は笑う。必殺を持って叩きつけるその剣戟に絶対者たる彼は、堪えうる事が出来ない。 運命を燃やしてでも立つと決めた小雷の前に存在する鵜飼の師たる男は狙いをシュスタイナに定めたかのように目を細めた。 地面を踏みしめて、焔を散らしたトンファーから仇花を散らす夏栖斗は鵜飼の拳を受けとめる。互いに譲らぬ様に、拳を合わせる二人の視線はその先――後方へと向けられる。 夏栖斗を貫いて、帶齒屆へ。鵜飼を貫いて、『かべどん』へ。苦笑を混じらせてカベドンって何かわかる? と告げた日と夏栖斗の表情は違う。 「正直言えば、最強には興味は無いんだよ。僕とお前はそれが違う。 ――ただ、護るために力は必要だと思って。強くなる為にずっと力を磨いてきた」 「誰ぞを護る為の力として最強を目指すならば、俺は誇りを護るためにこの地に立つ」 毅然とした態度で行って退けた彼の眸にチラついた、矜持に夏栖斗は淡く笑みを浮かべた。 ● 幾度も交わす拳の中で、剣を叩きつける様に振るい上げた毅に小雷は危機的な状態から一度は脱した。 回避能力よりも、辛うじて避けたのは幸運と言う事だろう。癒しに手を回すシュスタイナが宙の撃つ矢に身を焦がれつつも回復を送るのは絶対的に誰も死なせぬと言う意地。 意志を映し出すかのような『貫く物』の穂先が縊鬼を貫けば、仕上がするりと風下から飛び込んだ。 「良くも知らねー借り物の力従えて何が楽しいんすかね、ホント。 イイからそんなオモチャ使ってないで掛かって来いよ。ねぇ、元同輩?」 別の相手と闘いながらも、それでもその言葉が出るのは『剣林』が相手だからなのだろう。昂る想いを抑えきれずに叩きつけた掌にアザーバイドが身体を捻り、後衛を狙わんとする。 その動きは遠距離攻撃で着実に相手の『後衛』を落とさんとする指揮官の意図が見え隠れしていたのだろう。 ふ、と視線を逸らし、十字の光りで撃ち抜く様にユーディスが縊鬼の意識を奪う。 「――此方ですよ。異形の」 囁く様に告げる騎士の髪が大きく靡き、両の手を幾度も伸ばしたアザーバイドの腕を切り裂く様に槍を振るい上げる。 彼女にこの槍を与えた魔神は『拾い物』だとこれを称した事だろう。焼き尽くすかのように、己の心を映し出す。まるで彼女の騎士道の様ではないかと詩的に朗々と告げた宙がけらけらと笑みを浮かべた。 「随分余裕じゃないっすか。オモチャなんざ使ってちゃ剣林の名が廃るっすよ?」 唇に乗せた余裕の笑みに宙が笑う。指揮能力を有する両陣営は競り合っていた――その瞬間までは。 辛うじて避け続けていた小雷が膝を付く。運命に抗う事さえも押さえつけた必殺の剣戟が、彼の身体を薙ぎ払いその意識を刈り取った。 「ッ――早く!」 声を荒げたシュスタイナが周囲に広げた魔力の渦は確かな意志を持ったもの。ふわりと浮きあがった帶齒屆が彼の身体を抱え上げ、不安を映した夏栖斗が鵜飼をも越えて、周囲を巻き込まんと挑発的な仕草を見せる。 「鵜飼、敗北の悔しさは僕だって知っている。負ける事で、誰かを喪うなんてもう御免なんだ!」 その声に顔をあげたユーディスがその柳眉をひそめたのは仕方がない。打ち払われた焔の矢に、行く手を阻む物が居なくなった毅がまっすぐに走り寄ったシュスタイナのすぐ傍。 速効の手段で攻め込まれた前線に、身体が引いたのは少女の感じた恐怖感。後衛に居ながら、前衛と敵対する不安感はその胸を締めつけた事だろう――しかし、彼女は怯まない。 「好き勝手なんて、させてやらないわ」 ぬるりと手を伸ばすアザーバイドを打ち払う様に仕上が振り上げる拳がクリーンヒットする。じわじわと癒し続ける宙はノーマークの侭、楽しげに周辺を眺めていた。 地面を踏みしめる。拳を突き立てて仕上が頬を掠めた射撃にも気を止めずに膝に力を込める。 踏み締めたその両脚の筋肉が軋む。噛み締めた奥歯ががちがちと鳴って、声を飲み込んだ彼女の眸に強い色が灯された。 「弱者のままじゃ居られない。この程度で止まる心算は無いんすよ――最強と言う輝きを手にするまでは!」 アザーバイドを殴りつけた拳に血が滲む。ユーディスを対称に定めたアザーバイドの拳は幾度も幾度も彼女の柔肌を傷つけた。 嬲る様に振り翳された腕を避け、突き立てた切っ先は背後で倒れた仲間を狙われぬ様にと言う気心。盤面を塗り潰さんと果敢に攻め立てる彼女ら二人を相手にするアザーバイドが弱りだす。 「かべどん!」 悲痛な声をあげた宙へと反応することなく、攻め続ける毅の攻撃を受けとめたのは、シュスタイナを護るべく立ちはだかる帶齒屆の姿。 「秘儀、死臭ごっこ!」 じゃん、と手を振り上げた帶齒屆が前線に攻め込む毅から護るべく懸命にその攻撃を受けとめる。 脆いから、何回か延命を試みる。運命さえも投げ出してシュスタイナに傷一つ付ける事無い様に帶齒屆はその両手を広げる。 刹那、叩きつけられた剣戟は一撃、回避能力の低い帶齒屆の身体へと強い当たりで叩きつけられる。 「勝つだけが総てじゃねけよ。ただ、勝だけの、強いだけの人間に意味なんてない!」 「じゃあ、負けてなよ。弱者」 冷徹な、それこそ少女の本質だというように彼女はにこりと微笑む。打ち倒したアザーバイドの影からくるりと振り仰ぐ仕上が目指した毅の許。 ユーディスが接敵し、毅へとその手を叩きつける刹那、帶齒屆の身体がぐらりと揺らぐ。 「あ、」と息を飲んだシュスタイナが癒しを送り、夏栖斗が毅の横面を殴りつける。倒れた『かべどん』に怒り心頭の宙が癒しからシフトして攻勢に転じた事を皮切りに、乱戦状態になった盤上をユーディスが謀る様に視線を揺らす。 「あんたは、強くなって、その先に何を見る? 僕は誰かを護るために強くなる。だからあんたを倒して――」 「笑止、『護る』なら娘(そら)を護るそれだけだ。おやっさんが力を手にし、世界を統べる時が来たなれば」 背に突き刺さる槍の感触に男は笑う。剣豪は、それこそ本領発揮だと言わんばかりの勢いで刃をシュスタイナへと振り下ろした。 「その時こそが本領発揮じゃろて」 踏み込んだ鵜飼の拳が夏栖斗を狙う。攻撃を流し、そのままに果敢に攻め続ける夏栖斗のトンファーの一撃に額から流れる血を拭い毅が跳びこんだ。 ふわりと飛びこんだ仕上が叩きこんだ衝撃に、彼女の身体を貫いたのは宙の放った射撃術。 (……戦闘不能が出たなら、護らなくっちゃ――私が、皆を煩わしてはいけない……!) 歯噛みして、少女は浮き上がったままに仲間達へと万全の癒しを与えて行く。削り取る様に、意識を奪ったのはやはり、振り翳された巨大な刃。 筋肉の軋む音に夏栖斗が唸る。エンジンはフルスロットル。止まらないと振り上げた拳を塞いだ鵜飼が唇に笑みを乗せる。 「お前の相手は此方だ」 「鵜飼……!」 はっと顔をあげたユーディスへと振り翳された刃に、彼女の骨が軋む。滴り落ちた血が、風穴にごうと吹き荒れる風に攫われる。纏った白いコートが血に濡れ、泥に汚れようとも、槍を零さぬ彼女へと毅の刃が勢い良く振りおろされた。 火力は万全。攻めるのみ。足を止めることなく踏み込む仕上を狙い打ったのは戦闘意欲を洗い流すかのような雨。突き刺さる様な槍が『宙』から突き刺さり、唇から溢れた血が、勢いよく滴り落ちた。 「負けないっすよ……?」 「強気なこ」 饒舌な宙が見せた余裕は攻撃の対称には余りに当てはまらなかったが故だろう。 流れる様に攻勢に転じた剣林の数とリベリスタの数は同じ。毅の攻撃に、唇を噛み締めて「雨宮!」と鋭く呼んだユーディスの体力をじわりじわりと削り取るのはやはり剣豪か。 生きること等、戦場に居る以上は愚問だと問い掛けを切った毅が攻め立てる。 ごうごうと鳴り響く風を耳にしながらも、勝ちを確信していたであろうリベリスタへと少女は笑う。 「まだ、続けるの?」 ふらり、と揺れた仕上がその拳を振り上げる。切れた唇の端から流れ出た剣林の血に、少女は好戦的に笑みを乗せる。 ひたりと首筋に宛てられた切っ先にユーディスは瞬いて、そっと槍の穂先を下ろした。 とん、と付いた膝に仕上が小さく声を漏らす。運命を消費して、傷を抑えたユーディスが見上げた先で剣林が好戦的な笑みを漏らした。 毅に鵜飼、宙。三人を相手にこれ以上戦うのは、持久戦になれど、厳しい事だろう。 傷を負い、膝を震わせた夏栖斗がちらりとみやった剣林の顔は満足げ。しかし、どこか寂しげな色を感じさせたのは微かな感傷か。 攻めあぐねた仕上が拳を下ろすと同時、風穴の向こうがごうごうと音を立てる。 おじさんだぁ、と楽しげに微笑む宙は剣林の男たちの矜持を感じとる様に瞳を伏せった。 戦乱の風は、只、富士の風穴に吹き荒れる―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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