● 広い境内に満ちる甘い匂いと、西日を受けてしっとりと美しく輝くフルーツとチョコレートの波。中にチーズも紛れてはいたが、足の速い生クリームの姿だけは見当たらない。 これらはすべて、頭に『クリスマス』を冠するケーキである。大きさはすべて5号サイズ(4~6名分)。 何故か大きなどら焼きが、西洋ケーキの横にしっかり並んでいるのはご愛嬌。 「どうすんだよ、これ……」 「どうするって言われても……残りは焼くしかないんじゃね?」 ずらりと並んだケーキを前にしてため息をつくのは、浜辺の古民家カフェ『万華鏡』のオーナーと茶房・跳兎の店主『まだまだ修行中』佐田 健一(nBNE000270)の二人である。 健一が、ひい、ふう、みい、と数えてみればケーキ(と巨大どら焼き)は108つあった。 下手なダジャレを口にしようとしたところで、近くの寺で突かれた鐘がボ~ンとなる。 「まいったなぁ……」 25日夜からの半額セールを、26日の終日たたき売りを過ぎてなお残るこれらは、すでに廃棄処分が決定していた。まだ食べられる。だが、さすがにもう店では売れない。 捨てるのはもったいないから、と男二人で食べてたべて食べまくったが、特注のテーブルにずらりと並べられたケーキは一向に減らなかった。 どちらの腹も見苦しいほどに大きくせりだしている。 「……もったいないよね」 「誰か食べに来てくれないかなぁ……」 とはいうものの。クリスマス当日にみさなんケーキは食べているはず。加えて何かと忙しい年末に――今年はとくに先の『黒い太陽』襲撃の後始末で忙しいのに、賞味期限ぎりぎりの余りものを食べに来てくれる好きものがいるかどうか。 そうだ。と健一が手を打った。どうせ思いついたのは碌なことじゃない、と思いつつ、カフェのオーナーが横目で健一を促す。 「煩悩の数と同じく108つあるから、ケーキを食べながら煩悩供養、大懺悔祭とかイベント打つのはどうかな?」 なんじゃそら。 「食べる前にひとつ、例えば『先週のオネショは弟じゃありません、僕でした。ごめんなさいお母さん、弟くん』とか告白し、5号サイズのケーキ一つ食べきると許される……許されたことになる、とか」 煩悩じゃねーだろ、それ。と冷静に突っ込みを入れるマスター。 「それなら『浮気していました。許してください』とかのほうが……まあ、どうでもいいけどさ。そんなんで人が来るかね?」 「ただケーキを食べに来てくれるだけでもいいよ。燃やして捨てるよりよっほどマシ」 健一は早速、登録してあるアドレスに片っ端から、タイトルに『拡散希望』とつけたメールを送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月11日(日)22:49 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 7人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「人が来ないなぁ~」 「ほんと人気ないよね、佐田くん。で、いまからひとりでケーキやけ食いしますってか?」 ばた、と倒れる健一。 涙を流して地面に横たわる健一の目の前に、すっと白いてのひらが降りて来た。なにやら黒い丸薬が2粒乗っている。 「胃薬どうぞ」 「あ、キミは……レティシア!!」 跳ね起き、勢い余って妙齢(?)のフュリエに抱き着こうとした健一を、マスターが寸で間に入って止める。 セクハラ、ダメ。 レティシアは最初にフルーツタルト(5号サイズ)2個食べる宣言した。健一が走ってケーキを取りに行く。 おっとり調子のフュリエはパイプ椅子に座ると、相棒のフィアキーをテーブルの上に立たせ、寒さ対策にと、手渡された毛布を膝に掛けた。マスターが入れた紅茶を片手に、ホークでケーキを上品に小さく切り分けて口に運んでいく。 「……まあ、なんて美味しい♪」 「だろだろ? 食べずに焼き捨てるなんてもったいないだろ? で、もくもくと食べるだけってのもアレだし何かお喋りしない?」 「えっと……罪の告白ですか?」 レティシアは紅茶を一口して、優雅に小首をかしげた。 「ありませんわ。だって、悪いことしていないんですもの。やだ。疑うんですか? ひどい……」 生まれてこのかた何もしていないことはないだろう、と健一は内心で突っ込みを入れたが、もちろんそんなことは口にはしない。ようやく現れた助っ人なのだ。逃がしてなるものか。 健一はマスターに目配せすると、そそくさと二個目のケーキ(やっぱり五号サイズ)をレティシアの前に運んだ。 二個目を半分近く食べ終えたところで、ホークを口へ運ぶスピードが目に見えて落ちた。「……ん、ちょっと苦しいですわ。が、がんばって食べますけど」 「頑張って。あ、いま紅茶いれるからね」 「あ、そういえば……この前のことですけど……あるDVDを借りてみたフランス映画の結末をお友達に話したらものすごく怒られてしまいましたわ。「おまえは浜む……なんとか、かって」 関西ネタできたか。 「ダメでしたかしら?」 「うん。それは、ちょっと……アレかなぁ」 知らない人のために解説すると、この“浜む……なんとか”氏は映画の冒頭からエンドロールまで全部まるっと喋ってしまうことで有名なタレント兼映画評論家である。この人物に例えられたということは、ただ結末を話して聞かせただけではないだろう。その友人は、もうDVDを見終えたような気分になったはずだ。 「冒頭の盛り上がる部分だけ、説明してあげるといいんじゃないかなぁ。起承転結の承の障りぐらいまでにして」 ちなみにそのDVDのタイトルは、マスターが聞くとレティシアはフランス映画の名作を上げた。 「あ、その映画知ってるよ」 いつのまにか、せおりが健一たちの前に立っていた。 せおりはパイプ椅子を開いてレティシアの隣に座ると、「あの映画、面白いストーリだったよね」と女二人で盛り上がる。旦那と愛人が正妻を、と思っていたら実は正妻と愛人が裏で結託していて……云々。 「あー、せおりちゃんは何食べる?」 健一はいつまでも終わりそうにない女子トークを無理やりぶった切った。早くケーキを処分しないと日が暮れてしまう。 「レアチーズケーキを。消化促進のフェンネル茶でお願いします」 「おー。やる気だねぇ」とマスター。 ちなみにフェンネル茶とはフェンネルの種子を使用したお茶で、カレーのようなスパイシーで甘味のある香りがするそうな。味はさっぱりしているらしいが……ケーキにあうの? マスターが茶を取りに店へ戻っている間に、レティシアはせおりと映画について楽しくお喋りしながらなんとか二個目のフルーツタルトを平らげた。 「おまたせ~」 入れたてのフェンネル茶とレアチーズケーキ(五号)がせおりの前に置かれた。 「9月にキースさんと手合わせした後、滞在先に押しかけようとしたらアークの職員に取り押さえられました!」 ホークを手にしたかと思うと、あっという間にケーキが消えてしまった。 続けて二個目、イスパハン。 「職員の人を力任せにノックバックしたので減俸されました!」 ここで、外野から「こらー」と声が上がる。一般職員にノックバックはいかん。つーか……。 健一の頭の中に、なにかにつけて某楽団員の名前を連呼する少女の姿が浮かんだ。他にもいろいろ噂は聞く。 「アークの女の子たちはどうしてフィクサードの男を追いまわすのかなぁ。三高平市にたくさんいい男がいるのに。例えばお――」 「それはないのだ。ないない」 出た。と小さく呻いて振り返ったところ、チコーリアが多くの友達(30人)を連れてきてくれていた。担任の先生も一緒についてきている。 よし、と小さく脇で拳を握ると、健一は先生に小さく会釈した。 「あ、学校と言えば……理系科目のテストで赤点取って補習になりました! 理系女子のお姉ちゃんの仏壇を直視できない!」 せおりが立て続けにイスパパンを二個平らげた。 「チコたちも食べていいですか? クラスのおともだちは六人で一つなのだ」 小学生にまけるものか、とせおりはケーキを食べるスピードを上げた。 変化をつけてシブースト、またイスパハン、シメはやっぱりイスパハン……で、なんと八個完食! 「最近、髪の毛とかに気を遣いだしたら色気づいてきたって言われました」とか、「木刀素振りの回数増やしたら胸がきつくなった!」とか、肉食系女子街道まっしぐらだね。 せおりはいらぬ突っ込みを入れた健一を『アクセルバスター』でぶっとばした。まあ、奴も一応覚醒者だし大丈夫だろう。 ● 「美味しくて幸せー♪」と、ちょっぴり膨らんだお腹をさするせおりに変わって席についたのはチコーリアだ。 連れて来たお友達と先生はすでに切り分けたケーキをわいわい賑やかに食べている。 チョコレートケーキを前にして、「給食のパンを机に入れたままにして、カビカビにしてしまいましたのだ。ごめんなさいなのだ」と告白。 「あー、それ、俺も覚えがあるなぁ」と健一。ランドセルの底に入れたままカビさせたこともあるらしい。 さすがに胃が小さいのか、チコーリアはチョコレートケーキを平らげた時点で口を押さえていた。 「次、チーズケーキにしますのだ。うぷ……」 大丈夫? 無理しないでね。 気づかう健一に親指を立てて試合続行を告げると、チコーリアは担任教師のほうをちらりと見た。 うん……まさか、またあの楽団員のことで何か言いだすんじゃないだろうな。 そんなことを考えたのも、チコーリアがファゴットを持って来ていたからだ。 自分でも吹きたいと買ったらしい。「糸遊のファゴット」と名をつけたのだ、と可愛らしく頬を染めて言った。 予想は外れた。が、ほっと胸をなでおろしたのもつかの間―― 「ドアにチョークがいっぱいついた黒板消しを挟んだのはチコなのだ。漫画で見てやりたかったのだ。先生ごめんなさい」 とたん、担任が目を尖らせる。すかさずフォローに走る健一。 そんな健一に感謝したのか、チコーリアは三つ目に巨大どら焼きを指定してきた。 「あ、お茶くださいなのだ。あんこを避けて外側だけ食べるのだ。和菓子屋さんごめんなさいなのだ」 「えー、いや……あ、あんこも食べてほしいなぁ」 「いらないのだ」 和菓子屋としてはしょんもりである。とほほである。 ともあれ、チコーリアはケーキを三つ、不完全ながら食べきった。 「あれ、ずいぶんにぎやかだね」 続いてやってきたのは、モヨタとナユタの鯨塚兄弟だ。 兄のモヨタは烏龍茶のでかいペットボトル持参、弟のナユタは緑茶をアニメロボットの書かれた水筒に入れて持って来ていた。飲み物持参とは、やるな。 「来てくれてありがとう! ささ、なんでも好きな物食べてよ。ケーキしかないけど食べ放題だよ」 「わーい、ケーキ食べ放題! 栗のお菓子ならいくらでも食べられちゃうもんね」と、ナユタが目を輝かせる。 「食えるだけ食ってやる」 モヨタの頼もしい発言に小躍りする中年二人。 「あ、ちなみにいまの最高得点(?)はせおりちゃんの八個だよ」 鯨塚兄弟の目が点になり、口が「んがー」と開く。たき火に当たっていたせおりが、兄弟の視線に気づいて手をふった。 「えと……そだ、これ残ったら母ちゃんへお土産に持ってっていい? 母ちゃんも甘いもの好きだし」 「そーなんだ。いいよいいよ。持って帰って。ただ、今日か明日にでも食べないとダメだよ」 健一の持ち帰りOK発言を聞きつけた小学生たちが、自分たちも家族に持って帰る、と騒ぎ出した。中でも一番やかましかったのはチコーリアだったのだが……。 おかげさまで、ここまで持ち帰り分もふくめて五十一個のケーキが廃棄処分から免れている。 「じゃあ、のこり五十七個だな。よし、おいらたちも頑張って食べるぞ!」 【一回戦】モヨタ: ザッハトルテ vs ナユタ: マロンタルト 先にケーキにホークを突き刺したのは兄のモヨタだ。 「オイラ革醒した時から外見年齢10歳のまま止まってたの。今までみんなに黙っててごめん!」 うん、こめん。見たら分かる。 「ちっとも背が伸びないのとかなんか恥ずかしくてさ、『「まだまだこれからだ!』なんて言ってたけど」 横でナユタがププっと笑った。 「ぷぷ、にーちゃんオレに身長追い越されたこと気にしてるの?」 「ちょ、ナユタ笑うな!」 兄の威厳にかけて「気にしている」なんて断じて認めん、と思ったかどうか分からないが、モヨタはザッハトルテをパワフルにドカ食いしてその場を誤魔化した。 ナユタがマロンタルトにホークを入れる。 「にーちゃんが冷蔵庫にとっといたちょっといいプリン食べてごめん!」 「あのプリンやっぱりお前が食ってたのか!」 時効、時効、と兄の平手をかわしながら、やはりパワーショベルのごとくホークをパワフルに動かしてマロンタルトを切り崩す。 兄弟のどちらもあっさり一個目を食べきった。 【二回戦】モヨタ: アップルパイ vs ナユタ: 栗入り巨大どら焼き 「あの夏の日、冷凍庫に入ってた最後のアイス。ナユタのだと知らずに食ってごめん!」 兄の告白を、オレもにーちゃんのプリン食べたし、と鷹揚に赦すナユタ。じゃあ、次はオレだね、と巨大どら焼きを両手で持ち上げた。 「こないだにーちゃんのゲームやろうとこっそり借りて、間違ってセーブ消しちゃった……」 「……あれもお前だったのか」 どら焼きにかぶりつく弟の横で、モヨタがプルプルと震えだす。 「せっかくレア妖怪ゲットしてたのにー!!」と叫ぶや否や、パイプ椅子を倒す勢いで立ち上がった。 モヨタのチョップがナユタの頭に炸裂する。 「なんだよ、にーちゃんだってオレのおやつ食べてんじゃん!」 あのアイスは期間限定だったのにー、と立ち上がった。やっぱり許せないらしい、食べ物の恨みは深い。 アイス、プリン、と互いに叫びながら取っ組み合いの兄弟ケンカを始めてしまった。 阿鼻叫喚。 お持ち帰り分を潰されてはたまらない、と小学生たちが一斉にケーキに群がる。逃げ回る。 「こらーっ!!」 怒声一喝。しーんと静まり返る境内。 「神社の境内で騒いじゃダメだろ。みんなで仲良く食べよう」 夕日をバックに立つ影は、アークの守護神こと新田・快だった。 ● 鯨塚兄弟はテーブルを快に譲ると、飲み物を持ってケーキを並べたテーブルへ移っていった。どうやら殴り合いのケンカはやめて、大食いでケリをつけることになったらしい。 「いや~、さすが快くん。守護神さま!」 守護神はまったく関係ないから、と快は苦笑いした。 席に着くなり、健一に残りのケーキの数を確認する。 モヨタとナユタが頑張ってあと十個は食べてくれたとして、残り四十三個。すでにこれだけは、と願っていた五十四個はクリアしていた。が、ここまで来たら、と思わなくもない。 「さっき、FAに綾乃さんから連絡が入って、もうすぐ来てくれるって。オレとマスターももう少し頑張るし、せおりちゃんとレティシアも一つぐらいお持ち帰りしてくれると思う」 快は胸の前で腕を組んだまま唸った。一人当たりのノルマを割りだしているらしい。 「って、この人数だと一人あたりのケーキのノルマ、8個なんだけど……」 「ちなみにせおりちゃん、八個食べきったよ」 聞こえていたのか、快たちに向けてVサインするせおり。 「ええい、ままよ!」 快はテーブルの上に手を伸ばすと、おもむろにホークを掴んだ。 「罪を数える? 余計なことを考えている余裕など、あるものかよ!」 とにかく重たいケーキを優先と、力ずよく宣言して闘食を開始した。 「引退したけど、元ラガーマンだ。それなりに大食いなんざぜ、本気出せばさ!」 さあ、始まりました。第一回、三高平ケーキ大食い選手権。大食いの栄冠は誰の頭上に輝くのでありましょうか! 健一の悪乗りにつられたか、なぜか沸き起こる拍手。 運ばれてきたガトーショコラを前に、快はテーブルにグリューワインを入れた保温ボトル置いた。そのとなりに紅茶のリキュールとブランデーを並べる。 「酒の力を借りて、もったいないお化けを供養する!」 マスターがすっと、ワイングラスを差し出す。脇にさりげなくシナモンスティクを添えて。 ほろ苦いチョコと赤ベースのグリューワインはよく合うだろう。てか、お洒落だね。 「さあ、行くぜ。ピリオドの向こう側へ……!」 ザッハ、ザッハ、ザッハ、ザッハ、ザッハと怒涛の五連食!! 五つ目にマスターが用意した辛口の日本酒(ちなみに仕入先は新田酒店)でチーズケーキを食べて、口の中をリセットしたあとに快はフルーツタルトを指定した。 持参した紅茶のリキュールを使って、慣れた手つきでカクテルを作る。 「さあ、快選手。六個目の五号サイズに突入です。現在一位は八個完食の水守せおりさん17歳。この記録を超えることができるのでしょうか!?」 「ラガーマンの意地にかけてここは負けられませんよ」 快は後ろで無責任に煽る中年二人組を無視してフルーツタルトに挑む。 (五個……五点。トライは決めた。ここでゴールキックを成功させて……な、七点。くっ、足りん! いや、まだだ。まだ時間はある! 逆転は可能だ) ただひたすら。ボールを胸に抱き花園を走る自分を想像し、フルーツタルトを二個完食した。 あ、花園はお花が咲き乱れる楽園じゃなくてラクビ―場の名称だからね。 快は男子最後の意地を持ってシフォンケーキを二個分口に押し込むと、ぱたりとテーブルに伏せた。 「ここが、ピリオドの向こう側、か……(死)」 ● 「うわー。なんか悲惨な状況になってるわね」 やってくるなり綾乃はテーブルに伏した快の頭をつんつんとついた。ぴくりとも動かない。 快が座るパイプ椅子の背をむんずと掴むと、うおりゃ、と声をあげて豪快にひっくり返した。 ふふふ、と笑いながらレティシアがやって来て、そっと胃薬(と本人は言っている)を二粒、地面に頬をつけた快の鼻先に置いていく。 健一はそっと勇者・快の背に毛布をかけた。ありがとう、ラガーマン! 「それじゃあ、早速。1個目!」 ケーキなら何でもいいわ、と綾乃はあえてケーキの指定をしなかった。 「合コンで知人から習った知識使ってスッチーのフリしてました! パイロットが男性側に居て付け焼き刃の知識が速攻バレました! ごめんなさい!!」 取材前のデータ収集は基本だろ。それでいいのかジャーナリスト、三十一歳。 綾乃はさらりと肩にかかった髪を背に流すと、左斜め後ろに立っていた健一のみぞおちに肘を決めた。トシを言うんじゃない! 「次、2個目! 婚活サイトで「趣味は華道です」とか大嘘書きましたごめんなさい! でも男の人誰も引っかからなかったからいいですよね!」 そりゃ、華道なんてやってそうな見ため―― チーズケーキの最後のひと欠片をホークで口に入れると、すかさず右斜め後ろに立っていたマスターのみぞおちに肘を決めた。うるさいわね! 「3個目! というか婚活サイトに年齢24歳って書いてます! 写真はジャーナリスト関係の知り合いで写真編集できる人に程よく弄ってもらって、嘘にならない程度にお肌とか誤魔化しました!」 頬にチョコと栗の欠片をつけたモヨタとナユタが声を揃えて、「うわー、詐欺だー」と呟いた。きっと睨み付けて黙らせる。 「4個目! 年収700万円以上で、有名大学出てて、野性味と包容力があって、ルックスが並以上、って贅沢じゃないですよね!ですよね!!」 せおりがたき火に手をかざしながら、こくこくと頷く。バロナイのキースは周知のとおりハンサムでもっともっと金持ちだろうから……せおりの方が高望み? 「よねー!!!」 と、思わぬ援軍の登場で綾乃が勢いづいく。 復活した健一は、すかさず綾乃の前に巨大どら焼きを置いた。 「五個目! これを食べきると、和菓子店職人兼オーナーともれなく結――」 その姿は一番星目指して駆け上る、いぶし銀の昇竜のごとく。 綾乃は見事なアッパーカットを決めて、あつかましくも自分を売り込もうとした健一を倒した。 結局―― 健一たちはレティシアとせおりにもお持ち帰りを一つずつ押しつけた。自分たちは二個その場で平らげて…… 「全部なくなったのだ! よかったのだ!」 チコーリアの宣言で、無事終了。 パチパチパチ。 最後にみんなでたき火を囲んで、温かい飲み物でシメましたとさ。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|