●禍・厄・災 霊峰富士山への道を、籠をかついで歩く異常な集団があった。 異常さの最たるは、異常にせの低いもの、顔の形のおかしなもの、腕のないもの、膝が逆についているもの、片目のないもの、口が斜めについたもの、などなどなどだ。 彼らを明確に示す言葉を選べない。現代の盲目的モラリストたちによって呼び名すら剥奪されたからだ。 剥奪されたものは他にもある。職、家、家族、未来、希望。人権すらないものも珍しくない。 だがそんな彼らが唯一手に入れることが出来たのが、神秘の力であり非常識的武力であった。 「そんなアタシらがさァ、こんな大役を任されるなんて……ねえ旦那ァ」 籠の中から一人の女が顔を出した。 ひょっとこを真っ白に塗ったような仮面を被った女である。幕の隙間からのぞき見えた下半身は人間のそれでなく、タコのそれであった。 「フン、当然のこと。剣林もようやく俺様の真なる価値に気づいたのだ。ぐっふふふ」 籠の前を担いでいた男が鼻息を鳴らす。 首から上が全て牛になった大男である。 「蛇の様子はどうだ」 「ダメだねェ。さっきから『あーくぅあーくぅ』ってそればっかだよ。前からずっとこうさァ。大丈夫かねえ旦那ァ」 「フン、どうとでもなるわい。そんなもの」 ちらりと振り返る。 籠の隅で下半身がまるごと蛇になった女が爪を噛みながらぶつぶつと何か唱えている。 先日アークと戦って以来ずっとこうだ。 もとより虚言妄想奇異痴行のたえぬ異常者ではあったが、より酷い。 「よっぽど酷いめに合ったのかねェ、かわいそうにィ」 「フン。どうでもいいわそんなもの。今回の仕事は剣林の本隊任務なのだぞ。こいつをこなせば昇進は間違いない。ぐふふ、亡き『笑ノ面』も喜ぶというものよ」 顎を撫でる牛の男。 蛸の女は仮面を少しばかり外し、泣くような憂うような、複雑な顔をした。 「その頃にゃアタシら……どのみち死んでるんだけどねェ」 彼らは剣林興行隊。 『蛸ノ面』。 『牛ノ面』。 『蛇ノ面』。 行き場を喪い、死ぬまで生きる。捨て駒集団である。 ●剣林最終局 「三尋木の撤退や裏野部の壊滅など国内の勢力バランスは崩壊を続けています。次は……そうですね、剣林になるでしょう」 眼鏡の男性フォーチュナは資料をめくりながらそう述べた。 「彼らは剣林百虎を筆頭に精鋭部隊を集め、富士山でのD・ホール開放を画策しています。目的は別チャンネル『蓬莱』からの能力獲得。勿論これを許したが最後、崩界は確実でしょう。彼らを殺し、計画を阻止して下さい」 戦場となるのは一般に公開されていない富士の風穴内部。 風穴内部は剣林のフィクサードや蓬莱からのアザーバイドでいっぱいになっているというが、そんな中で我々が担当するのが遺跡エリア。 古い長屋風の建物が並ぶエリアを剣林興行隊という集団が守っている。 「彼らはアーティファクトや神秘実験によって異常強化されたフィクサードたちです。花形の三名はランク4並の戦闘力、そうでない連中でもランク2~3級はあると思ってください。その上彼らは自身の命を犠牲にしてでも我々を道連れにするつもりのようです。明確な情報ではありませんが……」 そう言って提示してきたのは、巨大なタコや牛、蛇といった化け物の図である。 「彼らを撃破した場合、必ずこのような暴走状態に突入します。高い戦闘力を持つ個体に変化しますが……面倒だと思ったなら放置して貰って構いませんよ」 と、フォーチュナは言った。 なぜならば。 「暴走状態に入った彼らは数分放置すれば死亡します。この時点で死亡は確定していますので……まあ、バケモノまがいがバケモノになったところで大して違いはないでしょうし、近隣が多少破壊されるだけです。皆さんが無駄にダメージを受ける必要はないでしょう」 そう言い終えて、資料をまとめた。 「作戦の最終目標は、『剣林興行隊』全員の殺害処分です。ここまで戦ってきた皆さんには、簡単なことでしょう?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月08日(木)22:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 富士洞穴。公には知られていないその場所は、まるでこの世のものとは思えない光景が広がっていた。 あるところには遺跡風の建物が並び、あるところには湖があり、あるところは森と化している。日本一の山と言われるだけのことはあって中身は相当に広大だったが、そんな中に長屋風の遺跡が並ぶエリアが存在していた。 「剣林興業隊、全員の殺害処分ですか……」 銃のリボルバー弾倉を親指で回し、『梟姫』二階堂 櫻子(BNE000438)はひとりごちた。 「アークの化け物である私たちが、剣林の化け物を狩ると言うことですわね。それがお仕事ということでしたら、何の問題もありませんわ。アークにとっての邪魔者を排除するということだけですもの」 「邪魔者か、まあ違いない。これ以上暴れられても、崩界を進められても困るし、さっさと終わらせるとしよう」 同じくグリップ挿入式の弾倉を押し込む『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)。 「ええ、全く迷惑この上ない。決死の覚悟というのは恐ろしいですね」 『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)はホルスターからふた振りのナイフを取り出して軽く点検をした。 「そうだな。こちらも不退転の覚悟をもって挑まなければ……」 と、そこまで語ってから『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は妙な違和感を覚えた。 言葉にはしづらい感覚なのだが……。 強いて、辛うじて近い言葉をあげるなら『驕り』だろうか。 まるでだだをこねる子供の相手を嫌々やっているような、そんな雰囲気を仲間から感じたのだ。 「アハハ、化け物が化け物狩りか。おじさんもこんなだから、もうどっちが化け物かわからんね」 ヘルメットをかたかたと上下に揺すってわらう緒形 腥(BNE004852)。 「知ってるかい? おじさんにとっちゃ手足の怪我なんてね、ボンドとガムテープで直っちゃうんだ」 嘘か誠か分からない調子で言う腥に、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が冷たい視線を送った。いっても彼女のデフォルトだが。 「リベリスタがガムテープで直ってたまるか。人だろうが化け物だろうが死ぬ時は死ぬ。奴らの死に場所が千秋楽というのは、なんとも皮肉な話じゃないか」 「…………」 頬に手を当て、『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は少しばかり考え事をした。 死ぬと分かって戦う人々の感情。 死なずに戦いたい自分たちの感情。 強いのはどちらか……。 どちらだろう。 更に言うなれば、強度と勝利はイコールではない。ずっと昔、アークがジャック・ザ・リッパーに脅かされていた頃のこと。ただ戯れに戦っていた連中と、命を代償にして戦った仲間たち。どちらが強かったかなど、今考えれば……。 からから笑う『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)。 「しっかしあれだね。オレ様連戦しっぱなしじゃない? ペリーシュさんでしょー、カンボジアでしょー、でもって今日でしょー。よく考えたらここんとこずっとかな。なーんか、世界の終わりって感じがしてこない?」 「さあ……」 聖は小首を傾げ、足を止めた。 長屋遺跡が向かい合う、広くて長い一本道。 道を塞ぐようにずらりと、有象無象が並んでいた。 しなを作って前へ出る異形の女。 「ようこそおいでくださいまして」 「今宵我らの千秋楽にありんす」 「……」 巨大な黄金の剣を担ぎ、ウマ頭の男が仁王立ちした。 「お前らは覚えていないだろう。我ら有象無象のことなど。金剛棍の馬頭親分。セブンスデモンにセブンスコード。忘れ去られた雑魚の群れよ。歪んで拉げ、跡形も無い棄てられ者よ。ああそうだとも、そうだとも。だからこそ今なのだ、今やるのだ!」 剣を地面に叩き付ける。大地が割れ、左右にあった長屋の戸がはじけ飛んだ。 「俺様は、おまえたちが憎い!」 ● 「ゆくぞアークゥ、醍味生相!」 『馬ノ面』を昆虫のような殻が覆っていく。 「早速か、カバーしきれるとでも思ったか?」 櫻霞は素早く横っ飛びに移動すると、『馬ノ面』にぴたりと二丁の銃を照準。斜線としては『馬ノ面』から『蛇ノ面』へ続くラインだ。 彼が今仕込んだ弾にはあらゆるエンチャントを破壊する力が備わっている。波の相手が避けられる精度では勿論ない。 同時に彼が目配せすると、ユーヌと義弘、そして聖がそれぞれエンチャントブレイクの構えをとった。 「もろとも打ち抜く」 「だからどうしたあ!」 無形の有象無象どもが一糸乱れぬ動きでもって、『馬ノ面』『蛇ノ面』『蛸ノ面』の前へと張り付いた。 櫻霞の放った二発の弾は、それぞれ身体のつくりがおかしな男女に命中。それぞれ貫通させずに体内に残した。 「そうくるか」 「芸の準備が大変だな?」 ユーヌが拳銃に呪術弾を込め、『馬ノ面』とそのカバーもろとも巻き込むように乱射。 そのすべてを無形が自らの身体で受け止めた。 まだ倒れない。まだだ。 「憎いぃ、こいつ、こいつらあぁああああ!」 頭を抱えて歯ぎしりする『蛇ノ面』。 体中が複雑に発光し、銃弾を受けた無形たちから弾がはじき出されていく。 「ちっ……やはり雑魚が邪魔か」 「ま、そりゃそうでしょ」 終はナイフを煌めかせると、無形へと飛びかかった。ただ切りつけるだけでは無い。グラスフォッグによる一帯乱れ斬りである。 全身を凍りづけにされた無形。その額に聖のナイフが突き刺さった。 聖は凍った無形を踏み台にしつつナイフを引き抜き、四方八方にハニーコムガトリングを乱射し始める。 更に腥が凍った無形に飛びかかり、回し蹴りで粉砕した。 「さってお掃除お掃除」 「雑魚の数が多いな、さっさと片付けるか」 「貴様――」 聖の肩に『蛸ノ面』が放ったであろうエネルギーの矢が突き刺さった。刺さったそばから破裂し、バランスを崩させる。 身体をひねって着地しようとした寸前、その足を『馬ノ面』が掴み上げた。 振り上げ、地面に向かって叩き付ける。何度も何度もである。 「貴様貴様貴様貴様貴様ァー! 雑魚というな! こいつらを雑魚と二度と呼ぶな! 貴様らが、貴様らみたいな恵まれたやつらがぁああああああ!」 聖を長屋へと放り投げる。 そんな状態にあっても腕で防御姿勢を崩さず、冷静に戸や壁を破壊しながら転がる聖。 「鴻上さんっ」 シュタイナはエアリアルフェザードを乱射しながら同じく長屋内へ突入。 刀やバールを装備した無形たちが彼女のエアリアルフェザードを打ち弾きながら行く手を阻んだ。 「どいて」 「いや、力仕事は任せろ」 得意のメイスを両手持ちし、無形に突っ込んでいく義弘。 バールとメイスがぶつかり合い、激しい火花を散らした。 額からどくどくと血を流しながら、聖はゆっくりと身体を起こす。 「全く乱暴するんじゃねえよ。徒花咲かせてやるからさっさと散っとけ」 「お待たせしました。今回復しますから……」 回復用の術式を込め、聖の頭に手を押し当てる櫻子。 「痛みを癒やし、その枷を外しましょう」 特定の手順で回復を図った――その直後。 「そこだァ!」 長屋へ突っ込んできた『馬ノ面』が、巨大な剣を櫻子めがけて叩き付けてきた。 吹き飛ばされ、壁を何枚か突き破って転がる櫻子。 「二階堂! ……くっ!」 義弘が駆け寄ろうにも、無形と組み合った状態のまま動くに動けない。 それは聖も同じことのようで、飛びかかってきた虫のような顔をした無形に組み伏せられていた。 「無形が邪魔で動きづらいったら……!」 一方で『馬ノ面』は櫻子を猛烈な勢いで追いかけ、ふらふらと起き上がった彼女の首を血走った目でわしづかみにした。壁を更に破り、地面に押し倒す。 「ずるいぞ、なんで貴様らだけが優遇される! なんで貴様らだけそんなに死なない! 運命は不公平だ! なぜ俺様じゃなかった! なぜ俺様じゃなかった! 貴様ばかりずるい、ずるいぞ!」 「そう……それも仕方ないこと、でしょうね……」 成功者はすべからく努力しているという言葉の裏には、成功者は相応の努力していて貰わなくては困るという意図が含まれている。 だが悲しいかな、この世には『いわゆらない成功者』がごまんと居る。宝くじで一千万手にした者。玉の輿で社長になった者。生まれつき身体の大きい者。脳の働きが元々良い者。親が裕福な者。百のフェイトを受けた者。 この勝負の行く末だって、最初から分かっていたことなのだ。 「どうせ、アークが勝つのだろうさ」 『馬ノ面』は言った。血の涙を流して言った。 「そして言うのだ。雑魚だった。迷惑なやつらだった。軽く掃除してやった。そうだろうさ、事実そうだろうとも! 恵まれた環境から俺様たちを、見下して! 見下して! いい気になるなよ優遇者どもがああああああああああああああああ!!」 振り上げる剣。 『馬ノ面』の後頭部に、銃口。 「八つ当たりは見苦しいぞ、不遇者ども」 櫻霞が引き金を引くやいなや、『馬ノ面』の覆っていた装甲が破壊された。 更に回し蹴りを繰り出し、『馬ノ面』の巨体をはじき飛ばす。 長屋から放り出され、ごろごろと転がる『馬ノ面』。 聖は戸口から丁寧に外へ出て、銃をリロードした。 「悔しいだろうが事実だ。お前らはただの厄介者で、雑魚で、俺たちはペリーシュからの連戦で疲れている。まあ嫌々やっているというならそうなんだろう。お前らが勝手に自滅してくれれば助かるんだが……」 「黙れ! どうせ何かずるをしたんだろうが! きっとなにか、ずるをしたに違いないんだろうが! 貴様らと俺様で何が違った! 俺様だって、俺様だって優遇されてよかったはずだろうが!」 『馬ノ面』の剣が櫻霞に叩き付けられた。櫻霞を打った時よりも数段強力にだ。 なぜならば、長屋の影からそっと身を出していた『蛸ノ面』が条霊執行を施したからである。 打撃力たるや凄まじく、櫻霞の体力を根こそぎ奪えるだけのパワーがあった。 「ちっ」 フェイトを削って耐えしのぎ、『馬ノ面』めがけて銃を連射した。 弾の直撃を受けながら、更に剣を叩き込む『馬ノ面』。 「私の世界を護る、これが私の成すべき事です……!」 意識を完全に持って行かれたかと思った矢先、櫻子がホーリーリザレクションを発動させた。 瀕死の状態で銃を相手の額に押しつける櫻霞。 「何度でも言ってやる。お前らははなはだ厄介だ」 引き金を引く。のけぞる『馬ノ面』。 そこへ無形を打ち倒した義弘が駆けつけ、『馬ノ面』の腹にメイスを叩き込んだ。 無形を打ち倒したのは義弘だけではない。 「お宅らが死んだら、丁寧にやってあげるよ。それまでは……悪いけど放置で」 仰向けに倒れた『馬ノ面』を、腥は強烈に踏みつけた。 途端。 「畜生、畜生、畜生おおおおおおおおおおあああああああああ!」 『馬ノ面』は巨大なモンスターとなり、周囲の長屋や地面を破壊しながら暴れ始めた。 逃げ遅れ、破壊に巻き込まれる形で吹き飛ばされる義弘たち。 その中には、完全に意識を失った櫻霞も混じっていた。 「あーあー旦那、ご立派になられてェ」 『蛸ノ面』が長屋から顔を出す。 「覚えてらっしゃる? 死んだら巨大な化け物になる技術。うまく使えずこの有様でありんす。あーあーもっと時間があったなら」 「まあ、つまらぬバラエティ番組よりはよほどおもしろいな」 建物の影から姿を現わしたユーヌが術式を発動。式符・千兇によって生まれた大量の鳥が辺りを埋め尽くし、影に隠れていた『蛇ノ面』をあぶり出した。 「まったく異形の姿はこけおどしか。鳥にじゃれつかれた程度で隙を晒して」 「う、うううう五月蠅いアークぅ! アークううううう! あんたがいなければ、あんたさえいなければあああううううう!」 「これはこれで彼らの覚悟。供養くらいはしてあげます」 聖はナイフを十字に組み合わせると、『蛇ノ面』めがけて投擲した。 更にそこへ跳び蹴りを叩き込む腥。 「『武士道とは死ぬこととと見つけたり』って言葉があるけど、犬死にの言葉じゃないのよ。死を想って生き続ける意味なの、そうなれたらよかったのにね」 シュタイナが黒い翼を羽ばたかせ、激しい真空刃を生み出した。 複雑に絡まった刃が『蛇ノ面』に叩き付けられ、身体のあらゆる部分が切り裂かれ、切り開かれた。 「死、死ぬ、あた……私が……わた、し? わたし……死んだ、はずなのに? なんで、なん――!?」 両目を見開く。その途端、『蛇ノ面』は巨大な蛇となってシュタイナに飛びかかった。 「危ない!」 シュタイナを突き飛ばす聖。 聖はたちまち大蛇に食いつかれ、周辺の長屋を派手に破壊しながら振り回された。 「全く、今日はこればかり、ですね……」 大蛇の牙に身体を貫かれたまま、意識を失う聖。 そんな彼をかすめ取るように奪って、シュタイナは地面に降り立った。彼を地面に寝かせる。 「まったく……」 見れば、巨大化した『蛇ノ面』と『馬ノ面』はお互いが分からないかのようにもつれ合い、お互いを殺し合っていた。 その様子を、『蛸ノ面』はどこか満足げな表情で眺めていた。 「なんだか楽しそうだね?」 終がナイフをもてあそびながら『蛸ノ面』へと歩み寄った。 面を外す『蛸ノ面』。 彼女の顔には白いラインが所々に塗られていた。 「昔こういう顔をした連中を『シロヌリ』って呼んでいたのを、ご存じで?」 「ごめん、知らないや☆」 「しょうでしょうとも」 『蛸ノ面』は異形化した下半身をうねうねとさせながら、数枚のトランプカードを取り出した。 「嫉妬。憤怒。傲慢。人ってえのは愚かなもんでありんす。けれどそんな愚かさなくして人にはなれないもんで……こんなどーしようもないナリをしていても、自分らはまだ人なんですよ」 「あっそう」 軽い調子で応えて、終は笑った。 「うち、黄泉路のお供はサービスしてないんで。一緒に死んであげることはできないんだけどさ。でも、最後までは付き合うよ?」 「光栄でありんす。いざ――」 トランプカードを投擲する『蛸ノ面』。 その直撃を受けながらも、終は相手に急接近。ナイフによる斬撃を連続で叩き込んだ。 胸が八つに切開され、血を吹き上げてのけぞる『蛸ノ面』。 そして、彼女は。 「あーあー、醜いあたしらだこと」 巨大なタコの化け物へと変貌した。 終は身体を絡め取られ、地面や家屋へめちゃくちゃに叩き付けられ、へし折られ、ねじ切られた。 めちゃくちゃな状態で地面を転がる終。 「ま、でもそうだよね。そんなになってまででもさ、最後まで戦っていたいんなら……最後まで相手してくれる人が、欲しいよね」 終は笑って全身を強制修復。 『蛸ノ面』へと飛びかかった。 「相手にするのか? そいつを?」 「そういうことでしたら」 「死なない程度にはね」 まだ無事だった義弘と櫻子、それにシュタイナたちが支援回復を開始。 腥やユーヌの遠巻きな援護攻撃を受けながら、終は『蛸ノ面』の足を次々に切り落とし、その過程で幾度となく粉砕された。 「それじゃあね、バイバイ」 何本もある足を切り取られ、崩れ落ちた『蛸ノ面』。 その額と思しき場所へ、終はナイフを深々と突き立てた。 かくして、富士洞穴におけるひとつの戦いは終了した。 剣林興業隊と名乗った彼らの記録が残ることは無い。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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