●富士風穴 富士風穴に開くDホール。 それは『蓬莱』と呼ばれる世界に繋がるDホールである。 神仙が住まうといわれるその世界。日本七大フィクサード組織剣林の長『剣林百虎』が持つ『盤古幡』も、かつてこの世界で得たものだと言われている。 その『蓬莱』に迫る剣林の手。その世界から神秘的な力を簒奪し、組織そのものの力を増そうという企みだ。 各組織はこの動きに反応する。静観する者、対抗策を練るもの、逃亡する者。 アークがとった行動は『蓬莱』からの神秘簒奪を止めることだった。武闘派である剣林が今以上に力を得れば、この日本にさらなる争いが巻き起こることは必至。最悪、武力を持って日本全ての革醒者組織を制圧しかねないのだ。 『万華鏡』をフル稼働して富士風穴の神秘存在を検索し、その情報を元にリベリスタたちが突き進む。 そしてその中に、無視できない存在があった。 ●闇にまぎれる獣達。 四凶。 春秋左氏伝等に記される悪神である。 犬のような姿をし、善人を忌嫌う『コントン』。 全てを貪る曲がった角を持つ牛『トウテツ』。 正しきものを喰らう翼持つ虎『キュウキ』。 戦乱を好む戦闘狂の人面虎『トウコツ』。 神仙が存在するといわれる『蓬莱』は、同時に悪神も存在していた。 四凶はその奸智を駆使して隙を縫い、ボトムチャンネルに現れる。その目的はいうまでもなく、悪を為しこの世を混乱に貶めること。 『コントン』は世界を混沌に導く。 『トウテツ』は財産や生物を喰らう。 『キュウキ』は荒狂う暴風で全てを壊す。 『トウコツ』はただ死ぬまで暴れ狂う。 この世界に顕現したばかりの悪神は、まだその力は不完全だ。彼らが生み出す混沌や死が彼らの力を増していく。そして混沌と破壊が加速する。 それを止めるだけの力は、幸運なことにあった。富士風穴に集いし剣林とアーク。革醒者の尽力があれば、止めることは可能だ。 だが不幸なことに彼らは抗争中で、戦力を割く余裕はなかった。 ●アーク 『ポイントD35にアザーバイド発見。放置すれば四日後に街に入り大惨事を起こします。 周辺のリベリスタはアザーバイド打破に向かってください』 幻想纏いから告げられる連絡。だがこちらも剣林との戦いに忙しい。 だが、リベリスタが悲劇を見捨てては本末転倒だ。 貴方の判断は―― ●剣林二人 「『一射十炎』。義によって参戦させてもらおう」 「あいよ『氷原狼』ですぜぃ。お邪魔させてもらいまさぁ」 四凶との戦いに割ってはいったのは、一組の男女だった。冷たき拳を持つ覇界 闘士と、炎の紋様が入ったクナイを持つスターサジタリ。 革醒者。しかも剣林サイドだ。敵対する彼らが何故アークの助太刀を? 「一応アークと剣林の間に第三者が入ったとき、共闘OKの許可は貰ってますか らねぃ。 ま、そいつは建て前。本音はもうちょい別のところですぜぃ」 「ふん。『蓬莱』の力に興味などない。力は修行と研鑽で身につけるものだ。 だが『蓬莱』の敵の強さには興味がある。さて、伝説の悪神はさぞ強いのだろ うな」 戦闘狂の剣林らしい台詞だ。 現状、敵対している相手ゆえに完全な共闘は難しいだろう。だが目的はそう変 わらない以上、背中から攻撃されることはないように思える。少な くとも、そ れを行うような性格には思え―― 「コイツラを倒せば次はアーク貴様達だ。良の剣林復帰土産にはちょうどいい」 「いや、俺戻る気ないから。あとそんな余裕ないから」 ……まぁ、性格的な部分はさておき、いきなり裏切りはないだろう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月12日(月)22:02 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●対峙せし十二の革醒者 「四凶、物騒な話の連中ガキタモンダナ」 『蓬莱』からやってきたアザーバイドを前に、『歩く廃刀令』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)は肩をすくめた。二本の刀を手にして、四体の獣を見る。侮れそうにないのは『万華鏡』の情報からも分かることだ。 「さあ、『お祈り』を始めましょう」 二丁の拳銃を交差させて『茨の涙』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)が口を開く。直立不動で立つ様は、祈る聖女のように美しく。その祈りは世界を守るため。両手の銃を静かに下ろし、戦意(いのり)を高めていく。 「ホント、人の都合を考えない方々のようで……」 剣林の行動に頭を悩ませる『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)。自己の組織強化のためにDホールを開けた結果、四凶がこの地に降り立ったのだ。他人の都合を考えないからこそのフィクサードか、と思いなおす。 「せっかくだから蓬莱産の物とか欲しい。牙とか」 トウコツの牙とかを見ながら『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が破界器のキーボードを開く。伝説の悪神の骨を調べればいい資料になる。研究開発を希望する綺沙羅の思考は、常に創造に向けられる。そのためにも、このアザーバイドを倒さなくては。 「全力で参りいます」 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は手袋を填め、馴染ませるように指を開いて閉じる。アークの通信を受けて集まったのは名うてのリベリスタ達。それをもってしても防ぎきれるかどうか。そういう相手であることを凛子は理解していた。 「例えどんなに強い敵であろうと、世界を崩壊に導くのなら容赦しません!」 抜刀し、正眼に刀を構えて『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)が猛る。仲間と共に世界を守る。そのために剣技を鍛えてきたのだ。相手が恐れられている相手だとしても、退くつもりは毛頭なかった。 「出だしから正念場だな」 サングラスの位置を直しながら『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)は戦いの厳しさを肌で感じていた。ここを凌いだとしても、本丸の富士風穴には剣林の長がいる。気が抜けない状況を前に、小さくため息をついた。 「さてさて、面倒な時に面倒な輩が出ましたねぇ」 『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)もまた四凶の厄介さを感じていた。ふわりと宙に浮きながら、しかしその恐ろしさに動じることはない。面倒な相手には違いないが、それを退けるのがアークであり、そしてリベリスタだ。 「神を名乗ろうが、民草に害を為すなら滅します」 細剣を手に『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)が声を響かせる。民の為にあるが自分の務め。そのための剣、そのための自分。例え相手がどれほどの強さだとしても、この剣にかけて打ち破る。誓いを込めて、剣を立てる。 「其処に強敵が居るなら打ち倒しに行くのがうちって訳っすよ!」 元剣林の家出娘である『無銘』布都 仕上(BNE005091)は、目の前の強敵を前に、怯えるより先に喜びが湧き出ていた。武を極めるために屍山血河の道を歩く。それが仕上というリベリスタだ。ならばこの機会、逃すはずがない。 「……あー、どうしてこう剣林乙女は血気盛んなんだろうねぃ」 「良の覇気が無さ過ぎるだけだ」 援軍に来た剣林の二人組は、そんなことを言い合いながら配置につく。作戦はリベリスタから聞いている。 剣林を入れて十二人の革醒者。相手は四体のアザーバイド。数の上では有利だが、それに甘んじていれば勝敗はひっくり返るだろう。 富士の樹下に吹きぬける風。その風が、戦闘開始の合図となった。 ●開戦 「ンジャマ、行クゼ」 最初に動いたのはリュミエールだ。九つの尾をしなやかに動かし、頭を低く構えて地を駆ける。四の悪神よりも早く戦場を駆けて、刃を振るう。カンテラを光源に相手を探る。狙うべき相手はコントン。犬のような姿をその目に入れる。 右手に持つは髪を梳くことのできる繊細な短剣。左手に持つは複雑怪奇な変形機構を持つ得物。その二本を手にリュミエールはコントンに切りかかる。その速度で空間内を切り刻む殺陣圏。コントンの全方位から襲い掛かる三次元的攻め。 「貴様独善も嫌うか、コントン。貴様も悪というなの独善デハナイカ?」 「煙立てて蝶が沈む。星の子、即ち下山せよ」 「うわ、本当に会話が成立しないんですね」 コントンの返答に眉を顰めるセラフィーナ。意味があるのかもしれないが、それを詮索している余裕はない、目の前にいるのは翼持つ虎、キュウキ。人を喰らう獣。油断すれば頭を苦千切られかねないのだ。 白の翼広げ、キュウキに切りかかる。常識を超えた革醒者。その革醒者の常識を超えた剣の速度でセラフィーナが刃を振るう。目に留まることのない刀の軌跡が七色の光を生み、その軌跡が消える頃には、キュウキは血しぶきを上げていた。 「どうしました、食料相手に苦戦ですか? 悪神も見た目だけで、たいしたことがありませんね」 「粋がいいな、小娘。その顔が絶望に染まることが食べごろか」 「生憎とその機会は永遠に訪れません」 レイチェルが四凶から距離をとりながら宣言する。相手がどれだけ強かろうが悪神であろうが、関係ない。それが世界の害悪なら滅ぼすのみ。嫌悪の表情を顔に出し、十分に距離をとって足を止める。 キュウキと自分の間に仲間がいないことを確認し、同時にトウコツも直線軸上に含むような場所に移動する。呼吸を整え、体内にある黒のオーラを鋭い闇に変えるレイチェル。槍を抱える必要はない。指差すだけで槍は二体の獣を刺し貫く。 「二体まとめて、速やかに片付けさせていただきます!」 「余に傷を負わせるとは不遜だな、猫」 「生憎とこの世界を害する者に、俺はこのような遇し方しか知らんのでな」 尊大な態度をとるトウコツに伊吹が向かう。シィンからラ・ル・カーナの術を施してもらい、同時に不可侵の守りを自らに施す。トウコツの目の前に立ち、その動きを牽制しながら白の腕輪を腕に構える。 トウコツの角の一撃が伊吹に迫る。だがその攻撃は伊吹の目の前に張られたシィンの防御壁により弾かれた。それを確認し、伊吹は白の腕輪を投擲する。頭蓋を砕くといわれた宝貝を模した破界器。それは真っ直ぐにキュウキの頭蓋に命中する。 「許せとは言わん。こちらもそちらの跳梁を許すつもりはない」 「ダマレ! メシ、タラフク、クワセロ!」 「牛さん、お腹空いてるならここに食べものあるっすよ」 空腹で騒ぐトウテツに仕上が迫る。トウテツの目の前に立って、挑発するように自分を指差す。食べられるものなら食べて見ろ、そう告げて構えを取る。伝説の悪神の強さ、特と肌で感じ取る。それを超えようと仕上は笑みを浮かべた。 仕上に迫るトウテツの角。下手をすれば貫かれかねない曲がった角を、トウテツを飛び越えるようにして交わす仕上。その勢いを殺さぬように足を振るい、風の刃を放つ。風刃は真っ直ぐにキュウキに向かって飛び、虎の肌に傷をつける。 「会話が出来てもドイツもコイツも頭オカシイっすね。死ぬまで戦い続けてさっさと死ね」 「山彦轟き海が揺れる時、三千世界の彼方から静寂の王来る。矮小なるは七つの賢者、九人の愚者が永遠を泳ぐ。剋目せよ踊り子よ、蟻の一刺しこそが夢幻にして無間のこの世にある唯一且つ不変の希望なるであろう。嘘だ」 「うるさいよ。創造の欠片もない単語の羅列か」 コントンの言葉に嫌気が差す綺沙羅。狂っている獣に用はないとばかりに、コントンから目を逸らす。残り三体に意識を集中し、破界器のキーボードを展開する。ボタンを警戒に叩く音が響き、術式を形成していく。 術を形成するのは呪文の意味ではない。エネルギーとリズム。無駄を省いて技術で回転を早めて高速展開される綺沙羅の術。巨大な紐が獣たちを襲う。打ち据え、から娶り、その動きを封じ込める術式の鞭。 「感情読むと余計訳分からなくなる。やめた」 「ふん、下等な人間ごときが我等の心を読もうなど。己を知るがいい」 「確かに私たちは人間です。神に劣るといわれればそうなのでしょう」 『十戒』『Dies irae』……二丁の銃を手にリリが四凶に狙いを定める。右手の銃の意味は、祈り。左手の銃の意味は、裁き。祈ること。裁くこと。これを弾丸を持って為す。それがリリという修道女の人生であり、信仰。 両手の銃をキュウキに向ける。教会で祈るように厳かに、断罪するように鋭く。二極にして同一の心を持って、引き金を引く。弾丸は神秘の力を纏い真っ直ぐに突き進む。それは一本の槍の如く。 「だからこそ、人間は手を取り合うことが出来ます。祈りとは手と手を合わせることと知りなさい」 「知っているとも。祈りとは命乞いをする姿だとな」 「その命乞いをするのは、はたしてどちら側になることやら」 キュウキの言葉にスィンが答える。二体のフィアキィを従えて僅かに宙に浮かぶ。この地はボトムチャンネル。『蓬莱』の獣ごときがが立ち入っていい領域ではない。柔和な笑みを浮かべながら、しかし鋭い戦意がそう告げる。 息を整え、意識を集中する。二体のフィアキィがシィンの周りを等距離を取りながら回転し、魔力の渦を作っていく。螺旋状に上っていく緑の光。シィンの生み出した力の渦は空に上り、降り注ぐ恵みの雨となってリベリスタの傷を癒していく。 「ここはもう既に自分の領域です、たかが四つの凶事が付け入る隙は無いと知れ」 「ゲハ! イイ、光ダ」 「私たちの回復を『食べて』いるようですね」 シィンの光を横取りするように回復するトウコツ。それを見ながら凛子は眉を顰めた。自分達の能力を掠め取られているのは、正直いい気分ではない。その術に到達するまでの苦労を何の苦労もなく掠め取っているのだ。 だからといって回復をしないというわけにもいかない。凜子は仲間に指示を出しながら、仲間のダメージ具合を確認する。冷静に。的確な指示とフォローが戦局を動かす。小さなミスを犯さないように細かく、そして大胆不敵に攻める。 「敵の影から狙ってきます!」 「いいんすかね? 剣林の俺たちまで指揮系列に含めちまって」 「清濁併せ呑むことも時には必要なのです」 アークリベリスタと一緒に支援を受けている水原の問いに、メリッサが答える。フィクサードとの共闘、そして支援。あまり褒められたことではないが、それを気にしている状況ではない。今は民に仇なす四凶を倒さなくては。 握ったレイピアを縦に構え、キュウキとの間合を詰めていく。自分の間合と相手の間合。動いたのはどちらが先か。しなやかな虎の爪と、メリッサの細剣。一瞬の静寂。それらは交差することなく、互いの体に傷を残していた。そして休む間もなく次の剣戟へ。 「修行と研鑽によって始めて技は身につく。貴方の言葉には同意ですね」 「話がわかるリベリスタもいるものだな。どうだ、剣林に入らないか?」 援軍に来た十文字に向けてメリッサが頷き、それを受けて十文字が答える。勧誘は真っ平御免だが。 リベリスタ達は凜子の指示もと、的確に四凶を追い詰めていく。『万華鏡』の予知とチームワーク。それこそがアーク最大の武器。 だが『蓬莱』の悪神達は、それを受けてもなお牙を向く。 ●十の箱舟と二の剣林 さて、現在アークと剣林は抗争中である。正確に言えば、抗争中に四凶が出没してそれを押さえる為に生まれた状況が今である。 「にしても、大将が穴をこじ開けた結果がコレとか。訳の分かんない魑魅魍魎がそんなにお好みっすかね?」 強敵と嬉々として戦いながら仕上がぼやく。個人的には強い相手が出ることは喜ばしい事なのだが。 「ソコんトコどうっすか。ツンデレもとい氷原狼のニーサン達よ?」 「あの虎大将ならどうにかしそうですけどねぃ。って言うかツンデレ言うな」 「まあ、あんた達の首領が蒔いた種だしね。手伝いよろしく、ツンデレ」 「あー……『アークを倒すのはこの俺だ。四凶に殺させはしない!』とでも言っておきますかねぃ」 綺沙羅の言葉に律儀に返す水原。色々諦めたようだ。 「いや、事実倒すので。何なら今から三つ巴に移行してもいいぞ」 「出来れば後回しにしてもらえませんかね」 十文字の迷いなき宣言に苦笑して言葉を返すレイチェル。後回しで攻めてこられても困るが、今いきなりはもっと困る。 「そうだな、今色々取り込み中だ。果たし状ならいつでも受け取るので後にしてくれ」 「まぁ、それが送れるかどうかは、この抗争で剣林がどうなるか次第なんですがねぃ」 ため息をつく伊吹に水原が返す。七派連合はもはや形骸化している。この戦いで剣林が『蓬莱』の力を得れば、組織として他組織を凌ぐ力を得るかもしれない。負ければ剣林はなくなるかも知れない。 「ふん。組織がなくなろうとケンカは売れる。己を鍛えることをやめなければ、例え組織が滅んでも剣林の『心』は滅びん」 「その心意気は見事だと思います。アークとしては迷惑なのですが」 メリッサが一人の武人として十文字の言葉を称える。よく言えば切磋琢磨。悪く言えば組織のことを考えていない利己主義。そんな十文字だが、武人としては好感が持てた。 「そうですね。きっと私もアークがなくなっても心はリベリスタでいると思います!」 自らの刀を手にしてセラフィーナが同意する。アークだから世界の為に闘うのではない。自分がリベリスタだから戦うのだ。それが姉と共に目指した道なのだから。 「まぁ今は頼もしい限りです。敵の敵が別の敵でないのなら」 シィンが剣林二人を見て静かに言葉を紡ぐ。様々な利害関係や個人の思惑はあろうが、こちらに害意がなければ問題はない。敵は四凶。それは確かなのだ。 「ま、本音は『万華鏡』情報が欲しかったのと、四凶の牙があればなんかいい武器造れるかもねぃ、って思ったんですがね」 「ム、アレは私が狙ッテタンダ。ヤランゾ」 「レア素材は渡さないよ」 水原の言葉にリュミエールと綺沙羅が反応する。事実、自分達を苦しめているだけあって威力は折り紙つきだ。 「まぁ、フィクサードに正義を求めるつもりはありませんが」 水原の言葉に肩をすくめるレイチェル。全くフィクサードという人種は自分勝手な輩ばかりだ。この状況は利害が一致したというだけに過ぎない。逆に言えば、情報が確かである限りは裏切りはないということか。 「それはそれとして。早く邪魔者を倒して、我々だけで撃ち合いませんか」 「よかろう。むしろ望むところだ」 リリが十文字を挑発するように言葉を紡ぐ。バトルマニアの十文字をたきつける意味もあるが、リリは純粋に射手として十文字の腕に興味があった。銃とクナイ。全く形の違うスターサジタリ。 「いいっすね。ニーサンもこれ終わったらやりあわないっすか?」 「……布都の娘さんしばき倒したとなると、色々面倒な敵増やしそうなんですがねぃ。まぁ、余裕があれば」 仕上の誘いに半ば諦めたようにため息をつく水原。元剣林の彼は剣林に知り合いが多い。その人脈は重要なのだが……まぁ、当人が望むのだからいいだろうと思いなおした。 「やりあうのはいいですが、怪我のない程度にお願いしますね」 医者としてケンカは止めるべきか、と思いながら凜子が苦笑する。四凶を排した後に喧嘩をする余裕があるか否か。状況によってはドクターストップが必要になるだろう。 『蓬莱』の獣と交戦しながら、肩を並べるリベリスタとフィクサード。 それは僅かな共闘の時間。事が終わればまた背を向けあう短い平和。世界の平和を求めるアークと、抗争を求める剣林。二者の奇妙な平和がそこにあった。 ●激戦。一進一退 リベリスタの戦略は集中放火による各個撃破である。 他の獣を止めながら、キュウキに集中砲火を加えていく。コントンをリュミエールが、トウテツを仕上が、トウコツを伊吹が、それぞれ動きを封じている。そしてキュウキにセラフィーナ、メリッサ、水原が付く。リリ、レイチェル、綺沙羅が遠距離から攻撃を仕掛けて、凛子、シィンが回復に努める。 リベリスタがキュウキを最初のターゲットにしたのは、善人をうち悪人に祝福を与える能力があるゆえだ。四凶が善なる存在とは思えない。故に先に叩こう。十人のリベリスタと二人のフィクサードの最大火力が集中する。 ――となればよかったのだが。 「……くっ!」 「これでは撃てません……!」 リリとレイチェルが呻きを上げる。キュウキに攻撃を仕掛ければ仲間を巻き込む。獣がそういう位置に移動したのだ。三人の人と一体の獣。その乱戦の隙を見つけて移動しても、その移動に合わせるようにキュウキが動く。都合のいいことに『肉の盾』は沢山あるのだ。どれだけ有利な位置取りをしても、僅かに体を動かすだけでリベリスタを壁に出来る。 仲間もリリとレイチェルの攻撃を気遣って動いていたが、同じようにキュウキも動く。相手は置物でもなければ、愚図でもないのだから。 仲間を巻き込めば撃てる。だが、その選択肢は選べなかった。 リリは中衛にいたこともあり、次善の攻撃に切り替えることができた。だがレイチェルは距離を離していたこともあり、対応が遅れる。距離をつめれば敵の間合にはいるが、レイチェルはそこに入ることを躊躇っていた。 「っ! 盾の守りをこうもあっさりと」 キュウキの殺意を受けてメリッサが膝を突く。運命を燃やして立ち上がり、レイピアを構える。数度の攻撃でここまで追い込まれたのだ。確実に人を殺し喰らう獣の名は伊達ではない。 「わ、私を絶望させるんじゃないのですか!」 「仲間を殺されれば貴様も絶望するだろう。それに、この肉のほうが狙いやすい」 セラフィーナの問いに答えるキュウキ。キュウキはメリッサを集中していながら、時折翼の風でリベリスタの足を止めていた。 「確実に数を減らしに来てますねぃ。こっちと同じ戦略って所ですか」 「だとしても、ここで退くつもりはありません!」 民を守るためにこの身を剣とするメリッサ。自分を囮にして仲間を守れるなら本懐、とばかりに立ちあがる。 「流石に楽ではないか。だがこちらも退くつもりはない」 トウコツを押さえていた伊吹がその攻撃を前に崩れ落ちる。戦闘狂のトウコツは敵の数が多ければよりやる気をだす。狂った声により心を乱すことはなかったが、その角で的確に体力を削られ、運命を燃やして立ち上がる。 「ッチ! 一旦下ガルゼ!」 「了解です。私が入ります」 コントンの攻撃で手痛い傷を受けたリュミエールが一旦下がり、その隙を埋めるようにリリがコントンの押さえにはいる。リュミエールはシィンと凜子の回復で体力を回復し、また戦線に復活する リベリスタは前衛のダメージが溜まり切らないうちに中衛とローテーションして、交代する作戦を取っていた。可能な限りダメージを分散し、全体の傷を減らそうという作戦だ。 最も、 「仕上、交代に――」 「あいててて! ああもう、そこの犬の笑い声うるさいっす!」 トツテツを押さえながらキュウキを攻撃していた仕上も、トウコツの攻撃を受けて運命を燃やす。空を見て笑うコントンの笑い声に気をとられ、防御の隙を突かれた形だ。ついてないときはついてない。そういうときもあるろ、気を取り直す仕上。 「すまん。交代が遅れた」 「ああ、ローテーションすね。運が落ちた時もするんすか?」 ローテーションが間に合わないケースもある。例えば交代条件の認識が異なっていた時。互いの認識のズレが一瞬の隙を生む。通常なら気にならないズレだが、そのズレを見逃すような相手ではない。 「おおっと、危ないわね」 伊吹が押さえていたトウコツが一瞬フリーになったので、慌てて綺沙羅が押さえに入る。体力の問題であまり長くは押さえてられないが、仲間が入ってくるまでなら何とかなる。 「これは付与を行っている余裕はありませんね」 「過剰回復は止めましょう、と思っていましたが、これは……!」 後衛で回復を行っているシィンと凜子は四凶の攻撃の前に回復にひっきりなしである。シィンの緑光によりエネルギーが枯渇することはない。だが、四凶の火力はそれを大きく上回っていた。 だがそれは四凶の一体を倒せば、火力は減ずることでもある。 「うーん。高火力の攻撃手段が欲しい」 鞭の術式を展開しながら綺沙羅が、近くで炎を放つ十文字を見る。ジョブの違いとはいえ火力に劣る綺沙羅は、こういうときに歯がゆい思いをする。一点に絞った炎の礫。アレがあれば戦略も広がるのだが。 「剣林に来れば伝授するぞ」 「真っ平御免なの」 十文字の誘いをあっさり断る綺沙羅。然もありなんである。 そして陣営のバランスは大きく揺れる。 ●天秤揺れる時 「ここまで……ですか」 キュウキの攻撃を受けて倒れるメリッサ。綺沙羅の呼び出しが影人が倒れたメリッサを回収して下がる。だがキュウキも集中砲火を受けて、ボロボロである。 「アル・シャンパーニュ・クワテュオール!」 セラフィーナが刀を構え、キュウキに切りかかる。大上段から振り下ろし、跳ね上げるように逆袈裟。そのまま横に払い、そして突く。四筋の虹の帯を煌かせる剣技を受けて、翼持つ虎は地に伏した。喀血し、動かなくなる。 「次はお前だ」 伊吹がトウコツに向き直り白の腕輪を構えた。一人でトウコツを抑えていたため、疲労は激しい。セラフィーナと水原が押さえに入ってくると同時に後ろに下がる伊吹。 「今です、狙ってください!」 隙を見つけ、レイチェルが近づき闇をばら撒く。獣たちのツキを落として、行動を阻害しようと。そのためには一時近づかなくてはいけないが、すぐに離脱する算段だ。問題はない。事実これの攻撃により獣たちの隙は大きくなる。 だが、常に行える攻撃ではない。二度動ける機会を見出したときのみの攻撃。一分に二度その機会が見つかるか否かだ。 「……流石に神を名乗るだけのことはあります!」 ローテーションで押さえに入っていたリリがコントンの攻撃で運命を燃やす。様々な状況でも戦えるリリだが、コントンを長期間押さえるには流石に無理があった。もともとは後衛からの攻撃がメインなのだ。 「あー。これはきついっす」 仕上がトウテツに体をかじられ、血を吐く。神秘の回復では簡単に回復しない噛み跡。それが体力回復を阻害する。 「私が変わります!」 その傷を見てセラフィーナが交代にはいった。遠距離攻撃の手段を持たない彼女は、自然トウテツに切りかかることになる。 「アークのリベリスタは覚悟を決めた猛者だという印象があったが」 十文字が眉を顰めてつぶやく。 「前衛の入れ替わり立ち代わりがあるが、大丈夫なのか? 一人で押さえている時の交代で何度か獣がフリーになってるが」 「それはダメージが一人に集中しない為の作戦で――」 「ダメージ拡散の意図があるなら、初めから複数人で押さえれば済む話だ。防御回避に優れる前衛が後ろに下がり、そうでない射手が前に出るなど役割放棄としかいえない。 そもそも何故分散して個別に押さえ込む? 数の優位性を分散することで殺しているぞ」 四凶は強い。 それは『万華鏡』の情報でも分かっていることだ。それを一人で押さえ込もうというのは無理があった。単体で相対する者の危険性は高い。それを踏まえた上でのローテーションだったのだが、逆に防御の優れないものを攻撃に晒し、高ダメージを広く分散する結果になってしまった。 六対四で押さえ込めば、回避や防御に優れる人間が高火力のアタッカーや傷ついた人間を庇うこともできただろう。傷ついた人間を一時中衛に下げることも、それほど難しくはないはずだ。 攻撃するもの、敵を阻むもの、支援するもの、回復するもの。 それぞれの役割を果たすことこそが戦術。個別で戦えばそれも十分に生かしきれない。循環すればその役割が回らなくなることもある。 相手が並程度なら個人で押さえ込むことが出来ただろう。強敵相手であったとしても、回復を受ければ何とか耐えられた。だが相手はそれ以上の能力を持っていたのだ。防御に徹していれば、あるいは個人で耐えれたかもしれないが。 だが今更急作戦変更などできようはずがない。ローテーションを繰り返しながら攻め続けるリベリスタだがダメージは少しずつ蓄積されていく。 「ココマデ、カ」 「噂に違わぬ強さ。さすがっす」 コントンの熊のような足でリュミエールが倒れ、トツテツの口に噛まれて仕上が力尽きる。開いた穴を伊吹と水原が塞ぎにはいるが、彼らの疲労も激しい。長く持たないことは明白だった。 「こんなところで負けてられません!」 トウコツの角に脇腹を貫かれたセラフィーナが、運命を燃やして立ち上がる。世界を守りリベリスタとして、悪神に膝を屈するわけにはいかない。 「これで終わりです。いと高きところより祝福を」 リリの弾丸がトウコツを物言わぬ骸に変える。悪神とはいえ生きとし生けるもの。我等が父は受け入れてくれるだろう。短く祈り、リリは次の目標に銃口を向ける。 狙うはコントン。そしてほぼ無傷といっていいトウテツがその次だ 三人が倒れ、三人が運命を燃やした前衛。リリを除く後衛の五人はほぼ無傷だが、前衛が瓦解すれば戦線は崩壊するだろう。 決死の覚悟で挑むリベリスタ。コントンは空を見て嘲笑い、トウテツは顎を広げ捕食する。破界器が繰り広げられ、神秘の矢が飛び交う。 「――無念」 「あ……っ!」 だが、矢弾は獣たちに致命傷を与えるには至らなかった。その前に伊吹とリリが倒れ伏し、前衛はセラフィーナと水原だけになる。後衛の火力は綺沙羅とレイチェルと十文字。回復を行うシィンと凜子もほぼ無事。対し相手は攻撃により疲弊したコントンとほぼ無傷のトウテツの二体。 無理をすれば倒せるかもしれない。 ――だが勝てなければ確実に死ぬ。全員が。 どうする? 誰もがその判断に迷っているときに、 「退き……ましょ……う、これ以上は、無理……」 意識を失う間際、リリが呟く。 その声が判断の引き金となった。倒れているものを抱え、離脱するリベリスタ。 逃さぬと追撃をかけるコントンとトウテツ――の足が止まる。 氷の覇界闘士と炎のスターサジタリ。二人の革醒者が足止めしていた。 「まー。セリエバの借りを返すってことで」 「伝説の四凶を前に退くつもりはない」 背中越しに聞こえる声。激しい戦闘音と獣の唸り。それを聞きながらリベリスタは必至に走り去っていた。 なんとか離脱したリベリスタ。追撃の気配はなく、安全を確保できたようだ。 四凶と剣林がどうなったか。気にはなるが今は抗争中だ。それを調べる余裕はない。 報告を上げ、今は剣林のほうに戦力を固めなければ。 ●富士に響く咆哮 富士の樹海から出てくるのは、牛に似た獣。 三匹の仲間は全て死に絶えた。その亡骸は胃袋と口の中だ。 咀嚼し、嚥下し、自らの力とする。 財を喰らい、食物を喰らう獣。トウテツ。 曲がった角持つ牛のバケモノは遠く富士の山に向かい咆哮をあげ、闇に消えていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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