●小さな漁船の幽霊船長 とある港の沖合いを、一艘の漁船が進んでいた。 コケに覆われた船体には、大きな穴が開いている。けれど、浸水した様子はない。 甲板には1人の男が立っている。 おそらくは、20代半ばといったところか。海の男らしくがっしりした体格をしていたが、その顔に血の気はなく、死人のように真っ青な顔をしていた。 「もうすぐ、あいつの船が見えてくるな」 お守りらしきものを懐から取り出すと、男は静かにそれを見つめ始める。 「……これから俺がすることは、たぶん間違ってるんだろうな。だが……」 水面の先に目的の船が見えてきた。 ボロボロの彼の船が、一直線にその船を目指す。 いつの間にか、周囲の水面には鋭角なヒレが4つ、姿を見せている。 目指していた船はすでに真正面にあった。船の上では、見知った顔の漁師たちが彼を見て驚いた顔をしている。 「お前……海谷か? 生きてたのか?」 一瞬喜色を顔に浮かべたが、漁師はすぐに様子がおかしいことに気づいたようだ。 「死んでるよ。でも、死神に教えてもらったんだ。お前らを殺せば、生き返ることができるって」 「なにを言って……?」 冷たい雨が突然降り出した。 周囲の水面から4頭の鮫が飛び出し、漁師たちに襲いかかる。 「悪いが、俺のために死んでくれ……俺はどうしても、帰りたいんだ!」 友達を殺して帰っても、喜んではくれないだろうとわかっていて、それでも彼は帰りたかった。 もう会えないと思っていた、妻や子供の元へ。 ●ブリーフィング アークに集まっているリベリスタたちの前に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が姿を現した。 「エリューション・アンデッドが出現するわ」 前置きなしに少女が告げる。 とある漁港の沖合に、アンデッドと化した漁師が乗る船が出現し、他の漁船を襲うというのだ。 「アンデッドは海谷恭吾。ちょうど一年ほど前に、漁に出ていたところを事故にあって、そのまま亡くなったらしいわ」 どうやら生まれたばかりの子供を残して死んだそうだ。その無念が、彼をエリューションにしてしまったのかもしれない。 彼は水を操る能力を得ているらしい。冷たい雨を降らせて他者を凍らせたり、水を槍のように飛ばすことができる。 また、生前頑健だった彼は、格闘戦も苦手ではない。ただ、得意というわけでもない。接近戦型のリベリスタに比べれば明らかに能力が劣る。 彼が乗る小型の漁船もエリューション・ゴーレムである。錨や網を飛ばして攻撃してくるらしい。 他にも彼には配下がいる。エリューション・ビーストと化した鮫が3体だ。 鮫たちは水中から飛び出してきて、鋭い牙で噛み付いてくる。出血することもあり、その威力はあなどることはできない。 「水中に飛び込んで戦うのは勧められない。リベリスタなら、戦えないことはないけど」 いかにリベリスタといえども、水中で魚と戦う際は攻撃も防御もしにくい。 それでも、近接戦主体の者が鮫と戦う必要なら、飛び込むことも考えなければならないだろう。 「現場まで移動するための船はアークで用意するわ。敵と同じくらいの小さな船になると思う。操縦する人も見つけておくけど、戦力にはならないから気をつけて」 リベリスタたちは、あくまでエリューションとの戦闘だけを考えていればいい。 「どうやら、海谷は知り合いの漁師を殺したら自分が生き返れると思い込んでいるわ。そんなこと、ありえないのに」 実際に殺して、それで生き返ることができなければ、海谷も後悔することになるだろう。 彼のためにも必ず止めてやって欲しいとイヴは告げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月02日(金)21:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●海原を行く 広い海を、一隻の漁船が進んでいた。 乗っているのはアークに所属するリベリスタたちだ。 彼らは、エリューションが出現するはずの海域を目指していた。 「救命胴衣は身につけておいたほうがいいぜ」 坊主頭がまぶしい『てるてる坊主』焦燥院フツ(BNE001054)が仲間たちに呼びかける。 自分自身も救命胴衣を身につけると、彼はゴムボートを準備し始めた。 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が用意してきた電動ポンプでゴムボートをふくらませていく。そして、それをロープで船に結んだ。 「未練がましい話だな」 少女の感想は辛らつだった。 「わからないでもないが、大人しく魚の餌になってしまえばいい。海を伝われば欠片ぐらいは、帰り着けるだろうしな」 「そう切り捨てるもんじゃないっすよ。アタシにもそんな時期あったから、気持ちは理解できるっす」 叶わぬ夢と気づいたから、諦めもついたっすが。 仲間たちに聞こえないように、『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)は呟いた。 「しかし、どこのバカだ、余計な事を吹き込んだ奴は?」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)がいきどおる。 彼はナイトメア・ダウンで父や、多くの血族を失っていた。もしも今回現れるアンデッドと同じ立場なら、父はどうしただろうか。 考えても、もはやいない者の考えはわからない。ただ、同じような決断をしないでくれることを影継は期待したかったが。 「恭吾さんの無念が如何ほどかはご自身以外にしか判らない事でしょうが……それは他の者を犠牲にする事への免罪符とは成りえません」 「ああ……それが例え実際に生き返ることが出来るとしても、その手段は誤りなのだよ。それが生き返ることが出来ないならばなおさら、ね」 祈るように手を組む『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)と、フルフェイスのヘルメットで顔を隠した『アンサング・ヒーロー』七星卯月(BNE002313)の言葉に迷いはない。 アークの船は海原を進む。船頭は黙って船を動かしていた。 戦いの時間が近づいてきていた。 「妖怪退治だの幽霊退治だの。アタシは除霊師じゃないんだけどねえ」 ライフルを手に『ザミエルの弾丸』坂本瀬恋(BNE002749)が息を吐く。 彼女は事前に今回現れるアンデッドの家族に会いに行ったが、残念ながら理由も説明せずに写真を貸して欲しいと頼んでもさすがに無理だ。 また、本来犠牲になるはずだった者たちは、単にいつも通り漁に出る予定だったらしい。ライフルで脅したら逃げられたので、警告が有効だったかどうかはわからない。 水平線の彼方に、一隻の船が見えてくる。 「いたね。船長さん、距離を保って併走してくれよ」 『七色蝙蝠』霧野楓理(BNE001827)の指示に従い、アークの船は併走し始める。 「夏は確かに『こういうの』が戻ってくるって言うけどね」 翡翠の左目にエリューションを捕らえて、楓理は2隻の船の間にゴムボートを海に放つ。 「……この船に近づくな。厄介ごとに巻き込まれたいのか?」 幽霊漁船から海谷が呼びかけてくる。 「もうこの世に居られる時期は終わった、『あちら』に帰るべきだ。可哀想だけどアンタの願望を叶えられる程、運命は万能じゃないぜ?」 返答の言葉は、宣戦布告と同義だった。 エリューションが片手を上げると、海中から鮫のヒレが姿を見せる。 冷たい雲が、上空に姿を現していた。 「どうか迷える魂に最期の救済を……」 聖書をカード型のアクセス・ファンタズムから取り出してカルナが祈る。 フツが呪を唱えて、仲間たちを守護する結界を張り直した。 ●妄念を断ち切る力 瀬恋は揺れる船の上でしっかりと武器を構えて、海谷に狙いをつける。 その間に、カルナとユーヌは翼を広げて船から飛翔する。 戦場にはすでに冷たい雨が降り出していた。 「さあ、みんな行くのだよ!」 卯月の力が仲間たちに小さな羽を生やさせる。 敵の船に乗り込む手はずだった4人は滑るように海の上へ飛び出した。 「邪魔をするなっ」 海谷の声を受けて幽霊船が網を飛ばすと、イーシェがそれに絡まれて失速する。 敵船の甲板に着地した彼女は、網をほどこうと格闘し始めた。 「ダチを犠牲にして生き返ったってどうしようってんだい! アンタはダチの血で濡れた手で子供を抱き上げようってのかい!?」 狙いすました一撃が、海谷の身体を貫く。 「……その通りだ」 向こうの船の上から瀬恋を見すえて、アンデッドは一言だけ発する。 海上ではユーヌが鮫との戦いを繰り広げていた。 「暫く私と遊んで貰おうか」 いつもは隠している翼を広げた少女は、式符を飛ばしてエリューションの怒りを誘っていた。 楓理は幽霊漁船の上で、仲間たちを支援している。 影継とイーシェが強力な打撃で海谷を攻撃する。雷鳴をまとった大槌とバスタードソードが漁師のアンデッドを激しく傷つける。 瀬恋の攻撃も海谷を傷つけてはいたが、残るフツや楓理自身はそれほど強力な攻撃は出来ない。 長期戦になりそうだった。 冷たい雨が、戦場に降り注ぐ。 不死者の執念がこもった雨がリベリスタたちを一気に氷付けにしていく。 その一撃が高い威力を持っていたのは、単なる幸運なのだろう。意志力が奇跡を起こすほど、運命は万能ではないと、楓理にはわかっている。 「大体死神が『生き返る方法』なんて教える訳ねーだろ、誰だよそいつは」 即座に氷から楓理が逃れることができたのは、大きな幸運だったと言えるだろう。 ほとんど見えない金色の目を細めて、歪んだ微笑みを浮かべる。 輝きが仲間を包み、体表を覆う氷を打ち砕いていた。 「何としてでも阻止しなければならないのだよ。襲われる漁師の為にも、そしてなにより、海谷恭吾の為にも、ね」 卯月の気糸が海谷を絡め取り、わずかの間攻撃の手を止めさせた。 海谷配下の鮫は船から少し離れた場所で戦っていた。 ユーヌは空中で3体の鮫を見下ろす。 少女の色白な肌は赤い血にまみれていた。 空を飛んでいると攻撃をかわしにくい。いかに俊敏なユーヌといえども出血はまぬがれなかった。 鮫の攻撃範囲外まで飛べば攻撃は受けなくなるが、そうすると鮫が仲間へと向かう。せっかく怒らせたのに、攻撃が届かない場所まで行ってしまっては意味がないのだ。 船の上では、水の銛がフツを吹き飛ばしていた。坊主頭がすぐに水面へと顔を出したが、まだまだ戦いは続きそうな様子だ。 水面から鮫が飛び出した。牙をむき出しにして、少女へと巨体が襲いかかる。 「なんだ、餓死した鮫だったか。そのざまでは小魚一匹捕れはしないだろう」 紙一重で鮫の牙をかわして、あざけってみせる。 だが、次いで別の鮫の攻撃はユーヌがかわした先へ、謀ったように飛び出してきていた。 食いちぎられそうなほどに、腹部へ牙が食い込む。 ユーヌの小柄な身体が水面へと落下していく。 けれども、彼女が水中へ没することはなかった。 海面の直前で羽を広げて再度飛翔する。 「しっかりてください、ユーヌさん!」 カルナが癒しの息吹を送ってきた。 ユーヌ自身も、符を傷口にはりつけて癒し、わずかながら距離を取る。 「焼け石に水程度だがな」 傷を癒した少女は、再び鮫をひきつけはじめた。 海谷は強力だったが、その動きは徐々に鈍り始めていた。 影継は味方の船とは反対側に回り込んで、敵の攻撃を自分に引き寄せようとしている。 その目論見は十分成功しているとは言いにくかったが、数回は拳での攻撃を引き出していた。 重い拳が少年のボディに食い込む。 「強いじゃねーか、アンタ」 真剣に戦ってはいても、強敵との戦い心が高揚してくるのは否定できない。 「俺は還るんだ。誰にも邪魔はさせん!」 「誰に聞いたか知らないが、そんなもんで生き返れたら苦労しねーぜ。いや、仮に知り合い殺して生き返れたとして、それでアンタの子供が喜ぶかよ!」 そばに来たフツが、影継に癒しの符をはりつける。 海谷が口を開こうとした。 「次のアンタの台詞は『それでも帰りたいんだ』、だ」 「ああ、その通りだとも!」 吠えた男に、イーシェが背後から切りかかる。 「死に損ないは死に直すことが正しい在り方って、アンタも実はわかってんじゃねぇッスか?」 騎士の剣を高々と振り上げる。 「引導を渡してやるッス。安らかに、眠れッ!」 背を切り裂かれたアンデッドの身体が、感電して跳ねた。 「アンタにゃ同情する部分もあるが、それでも倒させて貰うぜ」 金色の十字が描かれた赤い鉄槌に雷が宿る。 爆発的な気はまだ影継を覆っていたが、そろそろそれも途切れる時間だった。 渾身の力を込めた一撃がアンデッドを捕らえる。 骨の折れる音が聞こえて、千切れた腕が飛んでいく。甲板を転がった海谷はなおも影継をにらみつけてきたが、それ以上動くことはなかった。 「子供に伝えたいことや、渡したいものはなにかあるか? ……と、言ってもまだ諦めていないという顔だな」 船や鮫を片付けてから改めて聞けば、答えも変わるだろうか。 影継は再び鎚を振り上げた。 ●掃討戦 海谷を倒しても、残る敵はリベリスタたちを襲ってきていた。 卯月は逃亡を警戒していたが、すぐに逃げることはないらしい。 幽霊漁船の甲板で錨が回転し始める。 「やらせはしないのだよ」 気糸の罠が船を縛る。 影継へ向けられようとしていた錨が、気糸に縛られて甲板に落ちる。 船の方は一時しのいだが、鮫と戦うユーヌも時を同じくして危機に陥っていた。 カルナが何度も癒しの微風を送っていたが、3体がかりの攻撃には十分な回復ではない。 手の空いた楓理が回復しようとしたが、一歩遅かった。 ユーヌが今度こそ海中に没する。 「1人で鮫3体とも相手にするのはきつかったみたいね」 「だが、彼女が引き付けてくれていたおかげで助かったのだよ」 気糸を生み出して、卯月は鮫の1体に放つ。逃げられるわけにはいかないし、海中のユーヌに止めを刺されるわけにもいかないからだ。 弱点をついた一閃に、鮫が卯月の方を向いた。 幽霊船の上にいるリベリスタたちは続いて船を攻撃し始めていた。 「あとは後片付けッスね!」 そう告げて、イーシェの少し色黒な身体が気に包まれた。 フツは幽霊漁船が縛られている間に、仲間たちを回復し始める。 海谷との戦いでの傷がまだ残っていたし、そうでなくても影継やイーシェは自らの体力を削って攻撃を行っているのだ。 「なかなか手は空かないもんだぜ。回復役の仕事なんて少ないほうがいいんだがな」 「悪いな、手間をかけて」 「気にする必要はないさ。仲間を守るのも、オレの仕事だからな」 救命胴衣の下は僧行をしているフツだったが、実のところ神仏に対する信仰心はあまりない。 ただ、人々を守ろうとする志はあった。それこそが、世界に対する恩返しだと彼は考えているのだ。 影継とイーシェに順に符を貼り付けていく。 さらに解けてしまった結界を再び張って攻撃に備える。 幽霊漁船が気糸を振りほどいたのはそのすぐ後のことだった。 イーシェは爆発的な気を放っている。 強化した膂力は漁船の分厚い板を易々と切り裂いていた。 影継の鉄槌も大穴をいくつも空けていたし、瀬恋の攻撃も着実に船を穿っている。 「や……めろ……邪魔を……」 もう戦う力のないアンデッドが、それでもなおリベリスタを止めようと声を出す。 「死んじまったんならば、諦めてしまえばよかったんスよ」 少女の言葉は軽く発されたが、その声音には重みが込められていた。 「彼岸より此方は、生者の織り成す無間の地獄ッスよ」 見上げてくる海谷の目を、青い瞳でまっすぐに見つめる。 目を伏せたのは、アンデッドのほうだった。 イーシェは高々と振り上げた剣で幽霊船の甲板から底まで一気に貫く。 水が入り込み、船はゆっくりと沈み始めた。 「灰は灰に、塵は塵に……ここは天国には程遠いッスよ」 少女の言葉にアンデッドが答えることはなかった。 残る敵は鮫だけだった。 卯月の挑発で、アーク側の船を囲んでいる。 カルナは鮫の攻撃を受ける仲間へとひっきりなしに回復を続けていた。 海谷や幽霊船には比べるべくもないが、鮫たちも弱い敵ではない。 けれど、船を破壊した仲間たちがアークの船に戻り、一気に形成が逆転する。 風理が癒しの微風を卯月に送り、フツが瀬恋に符を貼り付ける。 手が開いたところで、カルナが手にした聖書が大いなる光を放った。 「あなたがたに罪はありません……けれど、エリューションと化したならば、倒さなければいけないのです。許してください」 光に包まれた鮫たちの動きが目に見えて鈍る。 穏やかな少女だったが、実のところリベリスタとしての実力は非常に高い。 また、ユーヌや卯月が気を引くために行っていた攻撃も地道に鮫の体力を削っていた。 卯月の気糸が鮫の小さな脳を貫いたかと思うと、瀬恋の狙い撃ちが1体を撃破する。 そして、フツの式符と影継の鉄槌が、最後の1体を打ち砕いていた。 ●波間は静かに 戦いの終わった海上で、リベリスタたちは手当てを行っていた。 海面から、坊主頭が姿を現す。 水中で呼吸できるフツが、戦闘不能になったユーヌを助けてきたのだ。 「危ないところだったぜ」 「礼は言っておこう。素早さには自信があったのだがな」 表情を変えずに礼を言う少女を、フツは爽やかな笑顔で手当てし始める。 カルナは翼を広げて、沈み行く幽霊漁船へと近づいていく。 海谷恭吾は甲板に転がったままだった。 「ご家族に残したいものは、なにかありますか?」 物憂げに見上げてくる彼に、少女が見せたのは信仰者らしい慈愛の表情だ。 それは、教会に懺悔に来る者たちへ向けるのと同じ表情だった。 「……ある」 弱々しい動きで懐を探り、男が取り出したのは小さなお守り。それを彼の手から取る。 「……欲しがらないかもしれないが、な……。事故で死んだ父親が持ってたお守りなんて……」 「そんなことはありません」 カルナは彼の家族の人となりを知らなかった。それでも、彼女はそう答えた。 「お預かりしておきます。必ず、お届けしますわ」 海谷はなにも言わなかった。今の会話が最後の力だったのだろう。 目線に謝意が込められている気がした。 沈み行く船から戻ってきたカルナを影継が迎える。 「なにか受け取れたか?」 頷いて、カルナはお守りを見せた。 「俺の親父は厄介事以外残さなかったがな」 影継が複雑な表情を浮かべる。 「運命に抗い、最期までご家族の事を想い続けた彼のその想いを無為に海に沈める事は、出来ればしたくありませんから……」 真実をすべて伝えることは出来ないが、届けることは出来るだろう。 カルナは大切にそれをしまった。 「しかし死神、ね。……いないと言い切れないのが嫌なトコだな」 影継は沈み行く船に目をやって呟く。 アザーバイドやフィクサード、エリューション……その中に果たして、海原の真ん中に現れたアンデッドに干渉できる能力を持った者がいるのかどうか。今はわからないことだった。 アークの船は、戦場となった海域を離れていく。 卯月がフルフェイスヘルメットの下で目を閉じた。 「どうか安らかに」 他のリベリスタたちのうち何人かは彼にならって黙祷を捧げる。 幽霊漁船は、アンデッドとともに海中に没し、やがて見えなくなった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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