● 「うー……しくじったぁ……」 見てみろ、此のザマである。 天井に逆さまに吊り下げられ、意識も混濁しそうな具合だ。 更に後ろ手に縛られている為に果物ナイフで身体を釣っているものを切る事さえ不可能だ。まあ……其の釣り糸も頑丈そうな鎖であるが為に、果物ナイフで頑張った所でたかが知れているかもしれないが。 周囲は己より遥かに弱い子供達が身を寄せ合いながら泣きじゃくっている。其の啜り泣く音が今や唯一の―― 「素晴らしいBGMじゃない? ねえ、ジャッジメントのアルエちゃん?」 「何が素晴らしいよ。此の場合は最悪って言うのよ、最悪!!」 鞭が撓る、逆さまの身体に容赦無く何度も何度も。アルエの身体に鞭が当たる度、子供達の叫び声も響いた。状況はまさに、奴等の手の平の上であろう。 「其の口、どうにかならないの? そろそろ見せしめに大切な電池を殺してしまいそうよ」 少しの運動をした鞭を持った女は、荒い息を吐きながらも鞭を舐め上げた。若い身体を傷つけ、血さえ滲む其れの味は彼女の大の好物だ。 「フィクサードめ! 汚れた存在め……!」 アルエは全部が全部のフィクサードがそうでは無いと、数か月前に三尋木とのいざこざの最中にアークに思い知らされた所だが。 でもやっぱり目の前には汚れた存在しか映らないのも確かで。 アルエは奥歯が痛む程噛みしめてから、言った。 「知ってるよ、クリーンエネルギーを発生させる為に人間を犠牲にしている事。それだけでも恐ろしいけど、こんな子供を使わなくたっていいじゃない!」 「そこらへんがリベリスタをフィクサードの境界線みたいなもんよ。ま、いいわ」 女が一旦部屋を出てから、また入って来た。 「手土産よ。さっき、アルエちゃんと一緒に潜入してきた……何ちゃん? わからないけど」 最初は彼女が何を言っているのかアルエには理解できなかった。いや、したくなかったと、受け入れたくなかったのだ。 「彼はきちんと電池になってくれたわよ。アルエを先に電池にしちゃおうかな♪て呟いたら、俺が先に犠牲になってやるからやめてくれ! てね!」 女が放ったのは、丁度大人の人間大の大きさの炭化した何かだ。 アルエの瞳が、瞳が零れるんじゃないかというくらいに開いた。 「そうそう! いい顔ね、その顔が見たかったの! 絶望という言葉がお似合いよ。貴方にはリベリスタはちょーっと早かったわね」 「あ、ぁ、ぁぁぁああ!!」 ―――此の場の啜り泣く声を掻き消す程の、叫び声が暫く鳴りやまなかった。 ● 昔の話を思い出した。 暗い闇の中でも燦然と輝く父親の足にしがみついて、泣きべそをかいていた頃。 『ねえ、お父さんあの綺麗な人だあれ』 『三尋木凛子ちゃんですよ。これから俺が仕えるじゃじゃ馬ちゃんです』 『じゃあお父さんの大切な人だね』 『いやぁ……俺は俺が一番大切ですが……ま、そうですね。朱里、お前もマモルベキものが見つかったら――』 其の後、なんて言われたのかは覚えてない。 机と椅子をひっくり返す勢いで立ち上がった赤神朱里。元三尋木所属のフィクサードにして親は行方を眩ました元三尋木幹部CrimsonMgicianだ。 「なんであの子たちそんな目にまた!」 「じょ、状況を説明致しますので、落ち着いて……!」 『未来日記』牧野杏理(nBNE000211)が制止をかけてから、コホンとひとつ咳払いをした。 三尋木の連合組織のひとつ、ツルカベGPHから提供された情報がある。 先にツルカベGPHから説明をするが、突如カンボジアから消えたCrimsonMagicianの後窯、カンボジアのネットワークを維持する為に置かれている組織だ。 其の他の説明があるとすれば『割と評判の良い医師の集い、裏では暗部の様な存在』だと思ってくれればそれで良し。 「話は変わりますが、カンボジアにて」 とある施設がある。 此処では多くの子供達が収容されており、人間発電機の電池として使われている。勿論、使われれば命を落とす事は明白だ。 其の子供達を助けるべく動いたリベリスタ組織も、敵に拘束されてしまっている。 施設とは敵の拠点でもある、恐らく敵の数も多ければ同時に救出するのも困難であろう。 「なので、今回は其の施設から子供達とリベリスタを助ける事を目的に、二班の編成で作戦を実行します。 表を攻める陽動部隊は既に別で用意してありますので、其の隙に杏理たちの班は子供とリベリスタを救出するのが目的になります、敵に見つからないように、見つかっても表の人達が留めていてくれる内に」 つまり此方は、隠密かつ素早さが必要である。 いくら表に人員を裂いたとて、持ちこたえられる時間は有限だ。 「大変かとは思いますが、どうか、宜しくお願い致します」 「そっか、でもさ」 朱里が手をあげながら威嚇するような目線で杏理を睨んだ。 「私も行くの? 今から助けに行くのって、私とお父さんたちや、子供を殺そうとした奴等じゃない!」 「そうですね、カンボジアのリベリスタ組織。これから助けに行く『ジャッジメント』は正義の為なら何を犠牲にしてもいいという考え方をしておりましたが……心変わりってあると思うのです」 「……」 「何を犠牲にしても良いのは間違ってると思えたみたいです。ジャッジメントの顔が分かる朱里さんがいてくれると助かるのです」 「ふうん……何を、犠牲にしても良いね。そんなの駄目よ! 駄目に決まってるじゃん! 命は大切、此れ鉄則!!」 朱里は思い出した、たった一人を。朱里自身を救うために奇跡を起こして光と消えた男を。 「犠牲の上に助けられた方だって辛いんだからね!! こんちくしょー、行ってやるわよ、アルエちゃんでしょ捕まってんじゃないわよ、私よりフィクサードらしい顔できるくせにぃ!!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月05日(月)23:13 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「頃合いで~す、参りましょうか~」 と、その前に。 「じゃ、そういう事でバイバイ!!」 「ちょ」 赤神朱里が唐突に部屋の扉を開けて消えようとしている。 「ちょ! 駄目ですーー!」 割と声を抑えた叫び声。 『落伍者』蜂須賀 澪(BNE005088)の静止と共に、朱里の手前へ『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)が忍者の如く回り込んだ。 「単独行動は控えてください、仲間を危険に晒します」 ずんずんとメリッサの肩を横へと押し、通ろうとする朱里。其の手がかなり焦っているのはメリッサ自身も分っていた。 「うっさいわね、私を誰だと思ってるの!!」 状況関係無くキレるのが朱里の悪い所だろう。 業、と燃え上がる朱里の槍。何もかもを燃やし尽くす炎が、周囲の温度を上げていく。 同じように炎を従えるトンファーが、炎で炎を食らい尽し、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の手が朱里の手を握った。 「勝手に触んないで馬鹿!」 「馬鹿って言った方が馬鹿だ、朱里!!」 「な、なによ」 「一人でなんでも出来ると思うなよ。焦ったら全部がダメになる。あと、君が大怪我でもしたらゲルトにぶん殴られるじゃん」 ゲルト――其のキーワードは恐らく今の朱里にとっては地雷だ。 しゅん、とした朱里。 黙りこくって、目線は床へと向く。その間に夏栖斗の手が朱里のスカートを捲らんと躊躇っていた。そっちの方がきっとゲルトに怒られるだろう。 「貴方達に私の気持ちなんかわかんないわよ」 「ひとりで突っ走って”犠牲”になる気はないよな? 君の命が、背負っているものを忘れるなよ」 『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は呟くように言った。其の言葉の意味は、今の朱里には重すぎて。 「ほんとはそれ、あいつに言ってやりたいくらいよ……スカート捲ってんじゃないわよ」 屠殺者の槍が夏栖斗の頭に刺さった。 澪の手持ちの記憶がイラっとした。 ● AとBの部屋については語らなくとも良いだろう。 此方はA班、Cの部屋。 見れば、敵は表側の方を見ながらどうするんだよだなんて話をしている最中である。 手錠に口にはガムテープ。拘束されたリベリスタや子供たちはアークの存在に気づいていたものの、『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が口元に指を立てて、「しっ」とウィンクをひとつ落した。 されどアリステアの心に不安が募る。何処をどう探しても、白衣の女が見当たらないのだ。 怪盗? ステルス? 考えられるものは多くある。例えばだ、施設が襲撃されたとしても人質を偽り救出されてしまえば御の字な事もあろう。 「もう怖いものはないからね? あっちに真っ直ぐ走ったらお外だから」 でも、子供達には不安をあげたくはない。アリステアが口元の指を出口へと指せば、こくんと頷く子供達にリベリスタ。 その隣で必死に殺気を抑え込む朱里に、澪は其の背中を擦った。 「朱里さんが傷つくのは何だかとっても嫌なんです」 「ふーん、初めましてのくせに生意気よ!」 「なんだか、初めましてじゃないような気がするんです」 「何を言っているのかわかんないってのー」 頬をむくれて言う朱里に、澪が控えめに笑った所で。 「アンタ、誰よ?」 朱里が徐に指を指した。 ジャッジメント組織の顔を父親に刷り込まされた朱里なら分かる事。 拘束されたリベリスタに混じって違うものがいる。 其の時、夏栖斗のものでも朱里のものでも無い炎が周辺を包んだ。真っ黒い、業の炎だ、殺意と憎しみと快楽に塗れたぐちゃぐちゃな感情の、炎! 「まさか、こんなに早く会うだなんて」 構えたメリッサ。炎を薙ぎ払いつつ、数人焼けこげて黒炭になった子供を見た。 「なんてことを……!!」 そう、まさかこんなに早く。 「成程、準備こそ重量。表のコたちが施設襲撃用に、子供とリベリスタを集めて貴方達が戦い辛い戦場用意しておいてあげたのよ。そしたらまさか、裏から来るだなんて!」 高笑いが響く。恐らく攻撃はゲヘナの火であろう。 「解説どうもです……」 澪のグリモアが開く、さて此の状況どう打開すべきか思考を巡らして。 此の時、此の場、恐らく此の施設でも最強に近い彼女は最悪の場所でリベリスタを待っていた――。 「あっちはヤベーな」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)の千里眼が全てを見ていた。 「折角~、コンソールで音を下げていたのに~気づかれちゃいますね~」 「敵は一応、あっちの部屋の方に戦力集中させるように動いてるぜ!」 「なら、そうですね~、幸運と此方の部隊がいることは~気づかれていないようですし~、突き進むのみです~」 ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)が言う頃には、A班に対してB班の戦闘は終わっていた。 完全にふいを突かれた敵は20秒程動く事が出来なかったのだ。その間に叩きこまれた呪縛だの、最終的には、剣からぽたりと血を流す竜一。返り血に塗れた後姿で、 「自分の足で立って! 走って! 逃げろ!」 語れば、男の子だろうがテンプテーションがあろうが女の子だろうと、顔面蒼白に必死になって出口を目指した。 そう、走れ、そのまま後ろだけは向くな。彼等が走る先にこそ、未来があるのだから。 ユーディスは奥を見た。次の部屋も恐らくは同じように簡単かもしれない、だが問題は最奥を此の人数で抑えられるか否か。 「ええ、でも此方は此方の任務を全う致しましょう。ヤナ、ダリド、期待していますよ」 「ああ、こっちの班が先に奥へと着くだろう」 其の光景にニコと笑ったユーフォリアは、静かな影にそっと姿を晦ませた。己は己の、やるべきことを――と。 ● 「大事な電池、燃やすのは止めたらどうです?」 「あら、貴方達には解らないかもでしょうが、今この奥の部屋のリベリスタ回収しているのよ」 炎の奥、陽炎の様に揺れて笑う白衣の女。名を、シャムシェと言うようだが、次の瞬間大鎌がメリッサの心臓部分をなぎ飛ばした。 「どいつもこいつも使えない、使えない使えない使えない!」 「だからって他人を殺していいとでも思ってんの!?」 朱里の槍が燃え上がる、シャムシェの皮膚に触れる尖端であったが弾き飛ばされ物理が通る気配が無い。 飛ばされた朱里の身体は澪が受け止めた。其の最中にも夏栖斗が葬奏曲の鎖を其の身で受けた。手も足も鎖で繋がれて、避ける事も出来たのだが……。 「僕の後ろの、子供を狙った? 今」 「ええ、貴方が避けない事を想定して」 「最悪かも」 歯奥を噛みしめ、諦めない顔をした夏栖斗に。そんな顔が気に入らないのよと鎖が彼の身体から引き抜かれた。 救う為ならどんな痛みでも舌を出して受け止める意気込みだ。勇敢なヴァンパイアの血が床を染める頃、真っ白な服さえコゲついたアリステアは祈る。両手に瀕死の子供を抱きながら、潤んだ瞳で異界の神を従えた。 「もう、止めてよ」 其の言葉さえ飲み込んで、アリステアの周囲に羽が舞う。ゲヘナの火に燃やされ、己の翼さえ白から一部黒く染まっているというのに。 静かに絶命した、両腕にあった命。リベリスタは癒せたとしても、一般人の子供の消耗はアリステアが手を施す前に儚く散ってしまう。 それでも彼女は祈り続けた。 「あら、人殺しに差があるとでも言いたいの?」 再び、炎は放たれる。 「Eの部屋は手遅れだな……」 フツの表情が曇る。 敵に回収された彼等が今後どうなるかだなんて考えたくは無いのだが。 「で? 俺達の相手がこれだ」 見据える先、人質を奥へと連れていくフィクサード達が手を止めて、なんでそっちから来てんだ!?という顔をした。 表側の誘導もそうだが、白衣の女は今違う部屋でも戦闘中だ。そっちに応援が行っているためか、フィクサード達はてっきりそっちからは来ないと勝手に決めつけていたかもしれない。 入り乱れている其処ではタイラントアポカリプスをぶち込んだ所で、失敗に拍車がかかるまでだ。 竜一は120%での攻撃を余儀なくされている訳だが、後方よりヤナの黒い鎖が敵の動きを封じ込めていく。今しがた人質を運んでいる手に絡み、外れない鎖にもがく所で竜一が首を狩り取っていくのだ。次、次、次の命へと――。 鬼が両手の剣を振り回している頃。 「お前さんが、アルエかい?」 「……う」 薄目を開けたアルエが、真っ赤に血が溜まった瞳でぼんやりフツを映した。 「なに、すぐに終わるさ。あんたらが助けようとしたものも、助けたかったんだけどな、ごめんなぁ」 フツの回復がアルエの身に染みる頃、ユーディスがブリューナクにて鎖を一閃。まっさかさまに落ちたアルエを、そのままフツが受け止めた。 「アルエさん、しっかり」 ぼんやりしていた瞳が覚醒していく。 「あ、アルエの事はいいの! それより、子供達が!!」 「わかってら!!」 突っ込んでいく竜一が露草でフィクサードの顔面を叩き割った。返り血に泣き叫んだ子供、だが構う前に次の剣を振りかざした男の腕を斬り落としていく。 ……だが、数が多い。 「おいおい1人でやろうだなんて思わないで欲しいぜ!」 フツの槍が竜一の剣に呼応して光り出す。 ――あら、宝刀。主が喰われたいわけ?? ――うるさいなぁ、魔槍が僕に指図だなんて。 「深緋!」 「露草!!」 竜一に迫る敵の魔曲の音色をフツが槍で薙ぎ払い、更に這い出たクロスイージスの胸を突いた。 フツの背中に竜一の背が当たる。フツ以上に傷つき、全身がぼろぼろになった竜一だが剣を振り切り、麻痺の突風を作り出す。其の、小さな台風に二人の周囲の敵は弾き飛ばされ、偽法・占事略决が炸裂する。 だがしかし、其れでも敵の回復が敵の足をまた立たせるのだ。数の暴力と、敵の連携が相成って状況は手数が足りない。 1人、子供が連れ去られそうに深い闇の奥へと消えて行く。しかしそこで舞ったのは、ひとひらの羽。 「お~またせ致しました~!」 ツールドマンにより閉扉作業を行っていたユーフォリアが此処で味方に追いついた。 子供を引きずる女の顔面へ、地面に手を突き両足で蹴り飛ばしながら。 「無駄な扉は閉めたので~援軍は~此れ以上は来ないと思いたいです~」 蹴り飛ばされた女が起き上り、ガア!と声をあげてユーフォリアへと飛びかかったが、掴んだのは残像という名の分身だ。 「ヤクですか~? 眼がイっちゃってますよ~?」 『遅い』の、『お』の字をユーフォリアが言う前に、女の頭は胴体から切り離されて血飛沫が飛ぶ。 「子供を浚って犠牲にするような研究が、政府直轄のお墨付きとは……嘆かわしい話です」 「国にも事情があるのよ。でも、子供は犠牲にならないはずだったの」 抱えていた彼女を降ろしたユーディス。アルエこそ、果物ナイフを構え言う。 「やっぱり、フィクサードは嫌いよ……」 走り出したアルエ、子供を背に男の首を掻っ切った。だがまだその身体は十分に癒されきれていない。ユーディスが彼女へと向かう剣を己の得物で受け止めた。 「今は、守る為に戦うのです」 「……そうね、流石アークよ」 ユーディスの、受け止めたそれを弾き返し、五指を曲げて敵から命を吸い取る。其の敵の上からユーフォリアが降って来て、敵の頭を両足で地面に押し付けさせながら着地。 「匂いますね~白衣の女でしたっけ~ヤクも作ってますよ~いくないお薬です~」 彼女の手に注射器のようなものがあった。それで先程のフィクサードがバーサーカーしていたというのか。 「あの白衣の女、相当裏でやんちゃしているようですね」 ● アリステアは朱里に言う。 「大丈夫だよ、朱里ちゃん。アルエちゃんは仲間が助けたみたいだから」 「マジ?」 かくいう朱里の膝は地面に着いて自分の槍のものかもわからない炎に焦がれている。ぜーぜーと息を荒くし、華やかな金髪も今は霞んでいる。 再び炎が渦を巻く、朱里が目を瞑って衝撃に備えた時には澪が朱里の前に出ていた。 直前で回復を与えながら、記憶の何処かで疼くのだ。朱里を死なせてはいけない何かがある事を。 薄まった朱里の視界、一瞬だけ澪の背がゲルトのそれと重なって見えた。 「ばか」 嗚呼、あの時もそうやって消えたじゃない。 「ばかばかばかばか!! なにやってんのよ」 迫る炎。朱里は立ち上がり、澪を背に追いやり其の身を呈した。澪が何かを言ったが聞こえない、鬼神のダメージが身体を蝕んで朱里は倒れた。 「蜂須賀の人、もういいよ、朱里は竜一さんが言ってた通りよ」 「馬鹿言わないでください! 絶対に駄目ですそんな事!」 「あの人の、いない世界なんて苦痛だわ」 「何言ってるんですかぁ!」 朱里の身体を引き寄せた澪、その手前に立った夏栖斗。 「そっち、もう人が少ないよ? まだやる?」 「きっついなぁ、沢山もってかれると痛いのよ、私がー」 白衣の女は未だ健在だ。此方のチームがほぼほぼ、物理に長けてしまっている事が仇であったか。相変わらず、ゲヘナとライトニングラグーンを遠慮なしにぶっ放してくる女は強敵そのものであったかもしれない。 「変に頭が回るのね」 「アラ、生きたいっていう足掻きよ」 メリッサが烈風陣を打ちたいにも、子供の近くまで後退されては無暗に打てず。取り巻きのホリメへ真空破を放つに終わる。だが前方を見れば白衣の女。 「そろそろそこ、退いて欲しいのよね」 ブブブ、と振動するのは彼女の手か。丁度頬を叩く勢いで白衣の女の手がメリッサの頬を叩けば首が一周してゴキンと音が鳴った。 叫び声さえあげる暇無く、アリステアの恩恵に首を戻すメリッサであるが後退せんとする白衣の女の胴を掴んで止める。 「いい……加減にしなさいよ餓鬼ぃ!!」 己が怒りに頭が冷え、メリッサの耳にシャムシェのキレ具合は入って来なかっただろう。 「あんたらの攻撃なんか通じない! 絶対者であり、回復があり、物理無効の此の私に――!!」 「「「本当にそう思った?」」」 夏栖斗に澪、メリッサの声が重なった。 「はははは、は、へ?」 朱里を抱えた澪が、髪の毛がざわりと重力に反して風が舞う。怒りか、それとも憎しみか、シャムシェの業の炎さえ焦がす爆発がシャムシェを壁へと突き飛ばした。 「得体の知れない神秘攻撃してくんじゃねーわよ!!」 壁に激突したシャムシェの顔面を、片手で掴んで更に壁に押し付けた夏栖斗。 「餓鬼が! こんなときめかない壁ドンなんかないわ!!」 壁にヒビが入っているが。同時に何か硝子のようなものが割れる音がした。 其処からバク宙加減に後方回転した夏栖斗の身体、何回か空中で回転した後に、丁度踵落としの体でシャムシェの脳天を打撃、地面に顎をぶつけさせていく。 白眼向いたシャムシェ、だが終わらない。 「そこの鬼神!」 「はい」 朱里が屠殺者を投げ、メリッサが空中でキャッチ。其の儘ゴルフの容量でメガクラッシュを放てばシャムシェの身体は再び壁にヒビを入れた。 「げほ!! げほげほげほ!!」 脳天から血を出し、ゆらりと立ち上がったシャムシェ。マグメにしてはしぶとい部類である。 「どうして、こんな物を作ったの?」 アリステアの疑問が素直に瀕死のシャムシェへ。 「どうして? ふふ、どうしてかしらね、あれ? もう忘れちゃったわ」 「忘れたのに、わからないのに作るの?」 「ええ、だって面白いじゃない。世界の為になるのよ、その点、貴方達リベリスタと同じよ!」 「……違うもん」 「じゃあ教えて小さな天使。私、シャムシェが泥沼から抜け出せる方法。こんな世界ね」 一度足を突っ込んだらもう、戻れないのよ――!! 電撃が地を走る。この部屋の四方八方に電撃が走っていく。まるでシャムシャの怒りの様だ、それでも逃がすまいとメリッサが彼女を動かさなかった事は大いに意味はあっただろう。 雷が天井の電球を全て破裂させ、僅かな機会の光だけが部屋を照らす。 だが夏栖斗の武器から出される炎の光が、人工の明るさに負けずに煌煌と君臨していた。 人質の数が多い部屋は相応に避難に時間がかかる。プラス此の女のお蔭さまで次の部屋はもぬけの殻だ。 「僕は、フィクサードでも殺したくないつもりではいる。だから、シャムシェ……此れ以上、僕を怒らせないでよ……!」 「ふ、お互い様ね、こっちもキレてんのそろそろ分かんなさいよ餓鬼どもがァァ」 ユーディスが突き刺した敵を壁へと投げて、無様なオブジェが1つ完成した所で、敵がそそくさと奥へと消えて行く。 聞く情報に寄れば表舞台のネームドも欠けずに撤退したのだとか。其の流れに、引き際を間違えなかったシャムシェも引いたのだろう。 人質はある程度は彼方に回収され、だが彼方も予想以上に人質を解放された事に痛手は負ったはずだ。 血塗れの視界を袖で拭っても、袖が血塗れで意味が無い竜一。 「結構、殺っちゃったつもりだったんだが」 「痛み分け、ってとこか」 フツが呟く。 「全員は、救えなかったですか。多く取れただけでも、良しとしましょう」 ユーディスは言った。 「ねえ、ユーディス、ユーフォリア」 「はい、アルエさんなんでしょう」 「は~い」 「私は、リベリスタにはなれないのでしょうか……? ずっと弱いままなのは何故でしょうか」 何を切り捨て、何を見捨てて、何を救うか。 全部という選択は決して間違ってはいなかったのは、誰かの心に残っているはず。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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