●柬埔寨政府秘匿性特務機関『JUSTICE』 アーマードスーツに身を包んだ男たちが、排気口の蓋を内側から蹴り開けた。 「っつう……排気ダクトを無理矢理通らせるって、いくらE能力者でも無茶させてくれるぜ」 彼はジャッジメントというリベリスタ組織の隊員で、名をグニルという。 かつては国の浄化活動に従事しフィクサードやそれが擁する一般人の抹殺を手がけていたが、アークとの一件を機に方針を変更。結果として国から捨てられ、金持ちの傭兵めいたことをやっている。 その金持ちというのが……。 『どや、ワシの言うとおりにやったら中に入れたやろオマエ』 「ああ……おかげさんでな。ツルカベさん」 現在カンボジアにネットワークをはっている組織『鶴日部と人権のために行動する医師の集い』のリーダーにして三尋木系幹部、鶴日部学である。 鶴日部は国からの資金や設備を失った彼らの受け皿となる代わりに、彼の活動を邪魔しようとするカンボジア政府へのカウンター役をジャッジメントチームに与えたのだった。 今回の仕事が、まさにそれである。 『次世代クリーンエネルギー開発施設とは仮の姿。ここは犯罪者を利用した人間発電技術を研究する施設や。さしずめ、国力の乏しいカンボジアの起死回生手段といったとこやろな』 「人間発電ね……犯罪者が社会のお役に立つなら結構だが、裏街の孤児たちまで浚っていくってやり方は気にくわねえ」 『そやそや。できるだけそういうトコを撮影するんやで。悪の実態を暴いて叩く。コレが偽善者どもにウケるねん』 「へいへい……」 グニルは小型カメラを操作し、通路内を慎重に移動した。 部屋のひとつを見つけ、扉の隙間から覗き込む。 そして。 中で行なわれている光景に、グニルは硬直した。 「や、やめて……おかあさん! おかあさん!」 透明な筒に入れられた子供が、内側で暴れている。手足を固定されているからか、動かせてもせいぜい首だけだ。 が、その首の動きすらしだいに弱まり、頬がこけ、血色が喪われ、皮膚が炭化していく。 ものの三十秒ほどで、子供は灰色の人形へと変化し、筒の中でざらざらと崩壊していった。 筒からはチューブが伸び、その先には空中に浮遊する正十二面体が存在していた。 その輝きがひときわ強まった。まるで子供のエネルギーをすべて吸い上げたかのようにだ。 「なんだ……これは……」 『日本の技術者からパクった人工コア技術を転用したもんや。原子力発電の数十倍の電力が見込めるそうやで。ま、パクりもんなだけあって加減はできないようやがな……』 「ゆる……せん……!」 『ま、待つんや。お前さんの仕事は潜入と撮影だけでええ。あとはアークに――』 「未来ある子供たちを、貴様はなんだと思っている!」 グニルはドアを蹴破り、部屋へ侵入。 研究員数名をコンバットナイフで切り捨てると、筒へと駆け寄った。 「こんなもの!」 ナイフを振り上げ――ようとした途端、彼の腕が肘部分から千切れ飛んだ。 「え……?」 「おいおいおい。『オモチャの国』にチケットなしに入っちゃダメだろぉ」 振り返る。 そこには、赤い髪の男が立っていた。 「そのカッコ、捨て犬(ジャッジメント)どもか。いいぜぇ? アイツみたいにやってみろよ。『フィクサードは汚れた存在でしゅー』とか言って、果物ナイフぷらぷらさせてよォ!」 「黙れ、アルエを……彼女を馬鹿にすんじゃねえ!」 ナイフを握って飛びかかる。 が、それよりも早く赤髪のブレードが彼の首を刈り取った。 床に転がる首。 それをサッカーボールのように踏みつけ、赤髪はカメラを覗き込んだ。 「ま、そういうワケだ。かかってくんならいつでも来いよ。新しい電池にしてやっからよ」 ● ブラックアウトしたカメラ映像が流れている。 ここはアーク、ブリーフィングルーム。 「……以上が、鶴日部から提供された情報です」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、今のカメラ映像に加えていくつかの文書と画像を資料として広げていった。これらすべて、鶴日部から提供された情報である。 カンボジアは万華鏡の範囲外。そこで万全な活動をするなら、三尋木ネットワークを用いない手はないのだ。 「この施設にはカンボジアの子供たちの多くが収容され、それを助けに行った協力組織のリベリスタまでもが拘束されています。彼らが今後どのような仕打ちをうけるかは明白です。この施設を襲撃し、主要な戦闘員を撃破。子供たちを救出するのが今回の任務となります」 今回は二班での協力作戦だ。 こちらは施設正面ゲートから強行突入し、戦闘員を次々に撃破。 主要な戦闘員をおびき出し、倒すのが役割である。 「この施設を守っているのは『ジャスティス』というフィクサード組織です。カンボジア政府が秘密裏に雇った特殊な兵隊で、一部の精鋭は開発中のアーティファクト『ライフエンジン』を特殊武装として装備しています」 作戦内容は簡単だ。 まず車両や破壊攻撃を用いてバリケードを強行突破。 施設正面にあるやや広いフィールドで敵の兵隊を迎え撃つのだ。 序盤は門番程度の連中しか集まってこないが、こちらの実力が高いとわかれば精鋭集団を次々に投入してくるだろう。 その間に別のチームが施設の裏から侵入。子供たちやジャッジメントのスタッフを救出し、撤退。 全ての救出が完了した時点でこちらも撤退するという作戦だ。 つまり、『どれだけ実力を見せつけられるか』と『どれだけ戦い続けられるか』が本作戦のキーとなってくる。 実力を低く見積もられればいつまでも精鋭チームが施設内に残り、救出班の障害になってしまう。 かといってパワーを出し過ぎてガス欠を起こせばあっというまに数の暴力に制圧されてしまう。 このバランスをとりつつ、作戦を遂行してほしい。 「危険な任務ですが……どうか、よろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月05日(月)23:11 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●襲撃作戦・序 カンボジアの土地を走るオフロードトラック。その運転席。 頑丈な革シートに身をおさめ、『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)は静かにハンドルを握っていた。 彼らの役目は陽動。救出作戦のための陽動にして、兵隊への攻撃である。 「肝心なのはどのくらい対応してくれるか、ですかね」 コンテナ部分を改造したエリアで、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)たちが二列に向かい合って座っていた。 両手を膝に揃える『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)。 「私たちは比較的防御が硬いですから、その気になればかなり長時間粘れるはずです。けど……」 「入り口で粘ってると思われたら陽動を感づかれるし、精鋭チームを引っ張り出しづらくなるしね。いつも通り攻めていっちゃえばいいのかな」 頭の後ろで手を組む『ゲーマー』ソニア・ライルズ(BNE005079)。 「ですね。後は精鋭チームですが、四人全員の撃破を狙って……」 「最低一人は殺す。そのつもりです」 ぴん、と七海は弓の弦を弾いた。 その横で、『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)たちが別の話題に興じていた。 「子供たちは刹那の光じゃなくて、未来を照らす光なのにね。こんな所で使い潰しになんかさせないよ」 「ああ、そういえば今回の目的はその辺の救出でしたか。なんでも救出チームは全員の救出を目指しているとか? あまり興味はありませんが」 桐箱から二本の扇子を取り出す院南 佳陽(BNE005036)。 「ですが、フィクサードを皆殺しにすることには興味がありますね」 アークは所属人員の多い組織だ。それだけに主義主張の異なる相手とかち合うことも多い。終はさりげなく話題をそらしにかかった。 「それにしても悪い奴らだよね、連中は」 「悪いっていうかカッコ悪いよ! 自分たちが悪いことしてるのにジャスティスなんて名乗っちゃうんだからさ!」 手足をばたつかせながら乗ってくる青島 由香里(BNE005094)。 「正義とかなまえつけて悪いことするやつ? あたしそーゆーの大っ嫌い!」 「数えればきりが無いほどにありますね、そういう組織は……」 鞘に収めた剣を床に突き立て、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は薄めを開いた。 「原罪なき人類はないというが……弱者を積極的に消耗品化する行ないは悪鬼畜生の所業。ゆえに――」 途端、文佳からのアナウンスがコンテナ内に響いた。 「見えたわ。突っ込むわよ!」 ●襲撃作戦・破 施設に常駐していた門番はあわをくった。なぜならこちらへ続くまっすぐの道を、オフロードトラックが猛スピードで突っ込んでくるからだ。 ブレーキをかける様子はない。 「と、止ま――!」 銃を構えて進路上に立った。それが間違いだった。 門番の男はものの見事に撥ね飛ばされ、数十メートルを飛び、プラント施設の正面エリアを転がった。 ようやくブレーキをかけたトラックがバランスを崩し、カーブしながら横転。 一体何事かと施設の警備員たちが外におそるおそるという様子で現われた。 「事故か?」 「見たことの無い車だ。施設をかぎつけた奴が襲撃でもしにきたのか」 「だとしてもおしまいだ。見ろよ、フロントガラスが赤黒い曇りガラスみたいになってやがる」 短機関銃の先でトラックのフロントガラスを叩く警備員。 直後、フロントガラスが吹き飛び、その場にいた男の頭も吹き飛んだ。 同僚の男がはっとして運転席を見やれば、身体を斜めにした文佳が片眉を上げて笑っていた。 「悪いけど、無傷なの。『全員』ね」 パチンと指を鳴らすと、短刀を中心に激しいスパークが発生。周囲の仲間を巻き込んで暴れ回る。 直後、トラックのコンテナを内側から突き破る形でソニアが飛び出し、慌てふためく警備員の頭部を蹴り飛ばした。 衝撃のあまり男の頭部がサッカーボールのように吹き飛び、別の仲間たちを巻き添えにして吹き飛ばしていく。 同じくフレームを破って飛び出すアラストールと由香里。 「敵襲! E能力者だ! 殺せェ!」 カトラスを抱えた兵隊がいっぺんに飛び出してくる。十人程度だろうか。 由香里は鼻の頭を親指でひとなですると、飛来する短機関銃の弾幕をジグザグ走行で回避。必死にカトラスを繰り出してくる男の顔面を鷲づかみにし、無理矢理上下反転させると地面へ勢いよく投げつけた。コンクリート床を破壊する勢いでめりこむ男の頭。常人なら即死。能力者でも瀕死である。 そこへアラストールが強烈な横一文字斬りを繰り出し、無残に男を切断した。 「歓迎がなってないぞ、フィクサード」 血に濡れた剣を建物正面へと突きつける。 おそらくは監視カメラが設置されているであろう場所をさしたのだ。 「強い!」 「どうせ数人だ。潰せ! 非番の奴をたたき起こせ!」 すると建物の正面玄関からシールドや警棒を装備した兵隊がわらわらと飛び出し、二階の窓からはライフルを装備した兵隊が次々と顔を出した。 「兵隊はそれだけ? スナイパーの処理は任せるね☆」 終は独特なステップでシールド兵に飛びかかると、縦横無尽にナイフを繰り出した。 凍り付いたシールド兵たちに向けて弓を構える七海。 自らの羽根を矢代わりにつがえて放つ。空中で連続して分裂した羽根がシールド兵たちに次々と突き刺さった。 「手加減だよ。お前らなんかこれで十分だ」 そう言った七海の肩や胸、腹など数カ所に次々とライフルの弾が浴びせられる。 が、びくともしない。 ダメージ自体は相当なものだったが、七海は表情ひとつ変えなかった。 アラストールや由香里たちも敵にぶつかっていく。 敵も敵でそこまで愚かではないようで、彼女たちを孤立させて数で潰すという作戦を採り始めている。 七海もまた、敵に囲まれそうになっていた。 「お前たちはアークを、なにより自分を本気にさせた。覚悟はできてるんだろうな」 「桐月院さん、大丈夫ですか」 トラックの物陰に隠れる形でひょこっと顔を出してきた小夜が強力な回復魔術を展開。穴の空いた七海の身体や、同じようにダメージを受けている仲間たちを回復していく。 「事件がおきないのが一番ですけれど、これ以上被害が出ても困りますし……情状酌量の余地もなさそうですから容赦なく叩きつぶすしかないですよね。皆さん、よろしくお願いします」 「ぬかせ……!」 警棒を構えた兵隊が飛びかかってくる。 が、小夜の頭と警棒の間に一本の扇子が挟まった。その直後、警棒兵は明後日の方向に転がった。 「な、なんだ!?」 見上げると、和服を着た佳陽が二本の扇子を手に小夜の前に立ち塞がっていた。 受け止められたわけではない。受け流したのだ。それも完璧に。 「支援射撃であればきちんと当ててくださいませ。そうしないと脅威とすら思えませんので」 「こいつ……!」 顔を引きつらせる警棒兵。 そこへ。 「オイオイなんだよ。久々にお祭り騒ぎしてると思ったらお前らアークかよ」 赤い髪の男が、奇妙に発光するナイフを手に立っていた。 玄関からでも、勿論施設の外から来たわけでも無い。 いつの間にか。 小夜の背後に立っていた。 「――!」 「知ってる顔はひとつもねえが、丁度いいや。憂さ晴らしにしてやんぜ!」 資料にあったジャッジメント精鋭チーム。その一人である。 ●襲撃作戦・Q 「早速来たわね。そっちは任せたわよ」 ソニアはバリケード用のトラックに背をつけながら、閃光手榴弾のピンを抜いた。 車体の下を転がす形で向こう側へ。 爆発を確認するまでもなくダッシュで逃げる。 彼女の居た地面に次々と銃弾による火花が散る。回し蹴りを繰り出し、ライフル兵を黙らせる。 「でも……上手に逃がすのは無理っぽいのよねえ」 ソニアは苦々しい顔で、自分たちをぐるりと囲んだ兵隊たちを見回した。 赤髪のナイフが小夜の首へ迫る直前、佳陽の扇子がナイフをたたき上げ――る寸前に佳陽の首が彼によって掴ま――れる手前でもう一本の扇子が阻――むより早く赤髪の蹴りが佳陽の足を払――う前に佳陽は跳躍。 空中で身をひねり、再び小夜のカバーに入った。片手をくいくいとやる佳陽。 対して片手で拍手する赤髪。 「お、早え早え。手も足も出ねえや。っつーことで任すわ、な!」 「え、ちょっと!」 赤髪は近くの兵隊たちの肩をぽんぽんと叩くと、その場から後じさりしはじめる。 そこへアラストールが強烈な突撃をしかけた。 胸を狙った突きを半身でかわし、ニヤリと笑う赤髪。二人の目が合う。 「自由にはさせん」 「そうかい」 赤髪は腰あたりについたスイッチを押し込み、『ライフエンジン』を起動させた。 「まずはテメェからだオラァ!」 赤髪の腕が七本に増えた、ように見えた。 咄嗟に防御を固めるアラストール。 七発全て受けきった……かに思えたその時、アラストールのこめかみに何かがめり込んだ。 何だ。 硬い、とても小さな、鉛弾? それがこめかみをめりめりと破壊し、内部を通過し、反対側から飛び出した。 ぐらりと身体が傾く。 『それ』が飛んできた方を見れば、窓からきつい目をした男がウッドストックのスナイパーライフルを手に身を乗り出していたのが見えた。彼もまた『ライフエンジン』の光に包まれている。 「奪う、なら……」 気合いで傷口を修復。両足を突っ張って耐える。 「奪われる覚悟がなくてはなっ!」 歯を食いしばり、渾身の一撃を繰り出した。 赤髪の肩に剣が食い込む。食い込んだまま、ばっさりと腕を切断した。 その直後アラストールへ特殊グローブを装備した兵隊が次々と群がり、無理矢理に押し倒した。頭を強烈に殴られ、意識を失うアラストール。 一方で赤髪は血をまき散らしながら地面をごろごろと転がっていった。 「い、痛えええっ! この野郎!」 「下がれ。施設に戻って修復させておけ」 膝立ちになった赤髪を、サングラスの男が制した。 舌打ちして走り去る赤髪。そんな彼へ終が高速で飛びかかった。長柄のロッドのようなものを展開して打ち弾く。 更に七海の矢が無数に浴びせられるが、彼はロッドを高速で回転させてそれを打ち弾いた。 終と七海ににらまれる形になる。 「駆けつけ一杯だ。遠慮なんてしませんよね」 「いや、遠慮する。それよりここから一刻も早く帰れ。命の保証はしないぞ」 「こっちの台詞だよ☆」 再び襲いかかる終。サングラスの男は苦い顔をしてロッドを構え直した。 戦況はあまり芳しくない。 最初から飛ばした影響で敵兵は大量に出てきてくれているが、そのせいで味方は分断させられている。 「んー、分断された時の対策って何かあったかしら」 「えっと……無いかな」 かろうじて離れずにいられた文佳と由香里は背中合わせになっていた。敵に全方位を囲まれているからだ。 「じゃあ、アドリブでいくわよ!」 術式を組み上げ、凄まじい威力のチェインライトニングをぶっ放す文佳。 敵兵はそれをシールド兵に庇わせ、警棒兵たちが飛び出してくる。 繰り出された警棒を腕ごと掴み、放り投げる由香里。 「別にあたしたちが完全無欠の正義だなんていわないよ。けど、あんたたちは許さないからね!」 「許さなかったら、なんだってえのカシラァ?」 兵隊たちを飛び越え、巨大な人影が現われた。 髪をドレッドヘアにした巨大な女だ。声と顔を見なければ女と分からないほどの異常さである。 「世の中力が正義、正義が力。パワーイコールジャスティス!」 巨女が凄まじい勢いで拳を繰り出してくる。拳が文佳の腹に叩き込まれ、体内で爆発した。 「……ん、ぐ」 片目を瞑り、膝を突く文佳。 両手を組み、振り上げる巨女。 「屈しなさい! アタシの足下で! 跪けぇ!」 「ヤバ――!」 間に割り込み、クロスした両腕でガードする由香里。 衝撃が腕から腰、腰から足、足から地面へと逃げていく。逃げ切……りはしなかった。身体にずっしりと衝撃が残るのだ。 「あたしの体術でさばききれないって……どんだけ……!」 戦況は芳しくない。 救出班がいち早く救出を終えてくれることを祈るばかりだ。 ●襲撃作戦・窮 繰り返すようだが、小夜たちの役目は陽動である。 赤髪、サングラス、キツ目、巨女。精鋭チーム四人を見事におびき出すことに成功し、施設内の兵隊も七割がた引っ張り出すことに成功した。 分断された状況で精鋭の各個撃破は難しく、兵隊を盾にされるせいでうまく戦えずにいた。 「これは演技の必要すらなくなってきましたね」 繰り出される無数の銃弾を次々と払いのけていく佳陽。 後ろでは小夜が必死に回復を続けてくれている。幸いなのは彼女の回復がほぼ永久に続きそうだということだ。 「なんだか、嫌な予感がします。大事なことを忘れているような。抜けているような」 再びデウスエクスマキナを発動させながら呟く小夜。 「予感ですか」 「時間的にはとっくに『あっち』の作戦が終了して、撤退の合図が来る頃じゃありませんか?」 「……確かに」 銃弾を弾き続けながら目を細める佳陽。 本来想定していた時間を大幅に過ぎているが、まだ終了の合図は来ない。時間がかかっている……のだろう。救出目標を『全員』としていたらしいので、無理もないが……。 「まあ、大丈夫でしょう。私なら永久に防ぎ続けられま――」 巨大な光が佳陽を貫いた。 佳陽の右肩を中心に大きな穴が空き、そこにあったものが一切合切焼却されていた。 「――な」 運命をねじ曲げ、肉体を無理矢理再構築。 ぎろりと光線の飛んできた方向を見れば、キツ目の男がライフルをこちらに向けていた。 思えば彼はここのところずっと沈黙していた。二分ほどずっとだ。 「集中を……大量に重ねて……? 私に、対応したっていうんですか……」 直後、無数の銃弾が佳陽に直撃した。 「院南さん!」 悲鳴のように叫ぶ小夜。彼女に警棒兵が群がった。 「こいつ」 七海がサングラス男めがけて大量の矢を連射した。 殆どの矢が直撃。『ライフエンジン』の効果が切れたのだろうか。光が消え、サングラスの男は屋内へと撤退していった。ほっと胸をなで下ろす七海。 そこへ。 「おい、おいこらテメェ……!」 ふと見れば、片腕の赤髪が七海を見据えていた。撤退したのではなかったのか。 「俺の腕返せコラ。ぶっ殺すぞテメェコラ!」 ナイフ片手に飛びかかってくる。 「おっと、ダメダメ☆」 間に割り込む終。繰り出したナイフとナイフが高速でいくどもぶつかり合った。 「人間はかえのきく電池じゃないよ。自分の人生が誰にも肩代わりしてもらえないようにね」 「アァ!? 知るかボケ! ゴミガキをリサイクルしてんだからエコロジーだろうがボケコラ!」 「わっかんないかなあ」 終の目がぎらりと光り、赤髪のナイフを天高く弾き上げた。 ならばと終を蹴りつけようとした赤髪の足……が、凍り付いて地面にはりついていた。 「チ――ックショオオオオオ!」 血の涙を流して叫ぶ赤髪。その眼球に七海の矢が突き刺さった。 更に終のナイフが彼の首筋を切り裂き、絶命させる。 「ふう、おーしまいっと☆」 手をぱしぱしと払う終――の後頭部を巨女が掴んだ。 掴んで、地面に叩き付ける。 一瞬。ほんの一瞬で終の全意識が消失した。 粗い息で振り返る巨女。その顔にはひどいやけどの跡があった。 「何見てんだテメェ!」 凄まじい速さで接近され、殴り倒される七海。 脳が吹き飛ぶような衝撃に、意識が消えた。 「逃がさないから!」 そこへ満身創痍の由香里が飛び込んできた。 巨女の首にラリアットをかけ、そのまま地面に押し倒す。 由香里の目には怒りの炎が燃えていた。 巨女の対応で精一杯になっている隙に、庇っているはずの文佳が集中砲火を受けたからだ。麻痺で動けなくなるほんの一瞬である。 倒れた巨女にマウントをとり、思い切り殴りつける。 由香里の顔面ががしりと鷲づかみにされた。 そこへ、ソニアのロングシュートが割り込んだ。起き上がろうとする巨女をはねのけ、地面に転がす。 「やっばいわね、この状況!」 ソニアもソニアで満身創痍である。 「無事なのはあたしと……青島さんだけか。精鋭チームはなんとかやれたけど……」 そこへ一台のトラックが突っ込んできた。運転席から顔を出す鶴日部。 「用事は済んだで! 乗れオマエェ!」 「了解、助かった!」 ソニアと青島は倒れた仲間たちを急いで回収すると、鶴日部のトラックでその場を撤退した。 ●襲撃作戦・急 「……逃げたか」 ビジネススーツを着た女が、は逃げ去るトラックを窓越しに見つめていた。 後ろに秘書らしき女が立つ。 「保管していた子供ととらえていたリベリスタが全て奪われました。施設へのダメージは無し。ジャスティス精鋭チームについては、ファングさんが殉職。ほか軽傷で済みました。政治的攻撃も特にないようです」 「酷いな。だが施設が無事でよかった」 「スポンサーはにはどのように?」 「放っておけ。こちらは次のプランに移る」 瞬きをする、女。 彼女の目は虹色だった。 「ナウル共和国へ飛ぶぞ。準備しろ、レペンス」 「はい……グラコフィラス様」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|