●Yesterday's enemy is today's friend. (昨日の敵は今日の友) ――世界各地に伝わることわざ ●ワンダービースト・イズ・カミング・フォー・ザ・フォース・タイム 2014年 12月某日 階層(チャンネル)のどこかで どこかの世界の、どこかの場所。 『彼』はこの日も巡り続けていた。 幾多の次元の壁を超え、幾多の世界を巡る。 『彼』の目的は誰にもわからない。ただ、彼が訪れるのを待つ者は様々な世界に存在する。 彼がこれから通り過ぎるのも、そんな彼の訪れを待つ者のいる世界の一つ――青き惑星。 そして、その世界は『彼』がかつて訪れた場所。 一年前のこの日、雪明かりと月明かりに照らされた道を通って現れたこの場所へ、『彼』は再び通りかかろうとしていた。 そう――。 今年も『彼』がやってくるのだ。 ●イエスタディズエネミー・イズ・トゥデイズ・フレンド 2014年 12月24 アーク・ブリーフィングルーム 「みんな、集まってくれてありがとう」 集めたリベリスタを出迎えたイヴは、早速切り出した。 「今回の任務――の前に、みんなに紹介しておく人がいるの」 彼女が言うと、その後ろに控えていた二人の前へと歩み出る。 一人は、白い燕尾のドレスシャツと対照的に黒いジーンズ。 そして、シャギーの入った顎までの髪。 そうした特徴の青年だ。 そしてもう一人は、白のニットワンピースに黒いストッキングという服装。 加えて、長く真っ直ぐな黒髪が印象的な少女だ。 ――三宅令児と妹の静。 兄の令児はかつてフィクサードとしてアークと戦ったこともある。 神秘の世界にまつわる珍品を収集するフィクサード組織――『キュレーターズ・ギルド』の一員として、アークとアーティファクトの争奪戦を繰り広げたのだ。 妹を救うため組織に属していた彼は、紆余曲折あって妹ともどもアークに救われた。 「初めましてじゃない人もいるのね。それで、令児と静はもうもとの組織に戻る理由はないし、何よりアークに恩がある。だから――」 そこで一拍置いてから、イヴはリベリスタ達に告げる。 「――アークの仲間になってくれることになったの」 イヴの言葉に対する反応は様々だ。 それらが収まるのを待ち、イヴはコンソールを操作する。 「今回の任務は令児と静への初任務。みんなにはそれをサポートしてもらうの」 ややあってモニターに映像が映し出された。 映像はとある夜のもののようだ。 モニターの中では、雪明りと月明かりが景色を淡く照らしている。 そして、映像の中心には、とても特徴的で美しい生き物が映っていた。 馬のような身体、額には一本の見事な角。 その姿は伝承に語られるユニコーンに近い。 それだけではない。 透き通った身体は氷で、たてがみも純白の霜、そして額の角も輝く氷柱だ。 ――幻獣。 この生き物はそう呼ばれる存在に違いない。 「雪降る月夜の幻獣フロステューン。12月24日、満月でありながら雪が舞う珍しい天気にある場所に23時から24時のたった一時間だけ現れるという幻のアザーバイドで、ちょうど1年前のこの日、この世界を訪れた幻獣――それが『彼』」 イヴが語るのに合わせるかのように映像は進んでいく。 やがて、フロステューンはスポットライトのように射す月光に足をかける。 そのまま『彼』は月明かりと雪明りの重なる光をまるで坂道のように上っていった。 「フロステューンは次元から次元を駆け抜け、様々なチャンネルの異世界を巡るアザーバイドで、害は全くないわ。それに、その姿を見た者には幸せが訪れると言われているわ」 フロステューンを見つめるイヴの瞳は優しげだ。 「そして、あの日からちょうど1年後の今日――『彼』が再びこの世界にやって来るわ」 そう告げるイヴの表情や声音は相変わらず感情が控えめだが、今は心なしか嬉しそうにしているようにも思える。 「本来ならば、アークが介入する事ではないのだけれど――」 イヴが前置きすると同時、タイミング良くフロステューンの映像が終了する。 「『彼』は三年前から毎年……この世界を訪れる度、何らかの形で襲われているわ。『彼』を狙う者は多いし、そうでなくともこの世界には危険が多いから」 そしてイヴはリベリスタ達を見つめた後、令児と静を見つめる。 「今回、万華鏡の予知ではフロステューンの危機は感知されなかった。念の為、アーク諜報部も調査したけど、今の所不穏な動きはないみたい」 イヴの説明にほっと胸を撫でおろすリベリスタ達。 彼等に向けて、イヴは言う。 「けど、何が起こるかわからないのが神秘の世界。だから令児と静には何事も起こらず、無事フロステューンが次の世界に旅立つのを見届けてもらいたいの。要は見張りね。みんなも不足の事態に備えてついていってあげて」 再び令児と静を見つめるイヴ。 「以上だから。令児と静は先に行って不測の事態に備えてて、ここにいるみんなも準備が済み次第追い付くから」 退出していく令児と静。 二人が出発してからしばらく待って、イヴはリベリスタ達に告げた。 「今回の任務はもちろんフロステューンの護衛だけど、それだけじゃない」 言葉の意味を問い返すリベリスタ達にイヴは答える。 「見張るのはフロステューンだけじゃなくて、令児と静の二人も……ということ」 何人のリベリスタが意味を察したのを見ながら、イヴは続けた。 「もし令児や静が『キュレーターズ・ギルド』とまだ繋がっていたり、戻ろうとしているなら、フロステューンを前にして何か行動を起こすはず。だから、それを確かめるために今回の任務があるの」 そこまで語った後、イヴは淡く微笑んだ。 「……というのは半分本音で、半分建前。もちろん監視は必要だけど、せっかく新しい仲間が来てくれたんだから、親睦会のつもりで楽しんでくればいいと思う。だって、今年はフロステューンも平和のうちに来て、平和のうちに去っていくんだから」 今回の任務の意図を理解し、リベリスタ全員が微笑みを浮かべる。 そして、リベリスタ達は皆で揃ってイヴへと頷いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常盤イツキ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2015年01月19日(月)22:14 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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● 「よ、元気になった? 静ちゃん」 現場で静を見るなり、『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は声をかけた。 「ね、今日は12月24日なんだし、せっかくだからこの依頼が終わった後どうかな?」 早速ナンパする夏栖斗だが、すぐに横からの視線を感じて手を振ってみせる。 「あー、あー、令児。怖い顔すんなって……! マジで、僕ちゃんと彼女いるし! 冗談だって」 「何をそんなにビビってんだよ? いくら妹が大事だからって、そこまで束縛するようなこたァしねェよ」 令児はというと、夏栖斗の慌てっぷりとは対照的に落ち着き払った様子だ。 だが、内心は恐々としているのが感じられる。 「若いっていいもんだね。実にこの国の12月24日らしいもんじゃないか」 後ろから声をかけられ、令児は振り返る。 声をかけてきたのは『足らずの』晦 烏(BNE002858)だ。 いつも通り、紫煙をくゆらせながら彼は手を軽く挙げてみせる。 「毎度と見た目がクリスマスっぽいおじさんですよと」 「アンタか。色々と世話になったな」 「いいっていいって。若人を世話するのがおじさん達世代の仕事だからね。ま、今日は何事も起こらんようだし。フロステューンをゆっくりと眺めてくといい」 くわえていた煙草を携帯灰皿に押し込み、新たな一本を取り出す烏。 すると頃合いを合わせたように、令児が手の平を差し出す。 もちろん、その手には炎が灯っている。 「お、すまないね」 手の平で風避けをするとともに煙草に火を灯す令児。 それを終えた彼に、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が声をかける。 「よう」 手を挙げて挨拶すると、彼は令児の隣に立つ。 「あの日、共に戦ってから、もう一年経ったんだな」 語り出すエルヴィンの声は感慨深げだ。 「あの時は、まだ味方ではなかった。その後に、敵として相対する事もあった。……今こうしてアンタと、アンタ達と肩を並べてのんびり話をしてられることを、心から嬉しく思うよ」 そしてエルヴィンは令児の肩を叩き、微笑んでみせる。 「ようこそアークへ、歓迎するぜ」 「ああ。よろしく頼むぜ」 そっと拳と拳を打ち合わせるエルヴィンと令児。 二人がそうしている頃、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は静に話しかけていた。 「ねぇ、静ちゃん」 舞姫は持ってきたものを取り出しながら、更に話しかける。 「夜は冷えるから、ブランケットに暖かいココアも用意してきました! きゃー、舞ちゃんってば女子力たかーい! 静ちゃん、いっしょにぬくぬくしようぜー♪」 いきなりハイテンションな声を上げた舞姫。 彼女に驚き、静は一瞬びくりとする。 だがすぐに表情は微笑みとなり、軽く握った拳を口元に当てて小さな笑いをもらす。 「ふふふ。面白い人なんですね、舞姫さんって」 一方、令児は舞姫の声に驚いて振り返っていた。 そんな彼に気付き、舞姫はニヤリと笑ってみせる。 「ココア、令児ちんの分もありますよ?」 すかさず駆け寄り、舞姫は令児にココアを手渡す。 「ありがとよ」 舞姫からココアを受け取り、それを飲む令児。 「いえいえ。というか、寒くないんですか?」 令児の上衣はいつも通りのドレスシャツ一枚だ。 「異能のおかげでな。寒さにはめっぽう強いんだよ」 納得したように頷く舞姫。 ふと令児は感慨深げに呟く。 「まさかお前とこんな風に話をするとは思わなかったぜ」 「ええ。思えば最初に出会ってから三年。短いようで長い付き合いになるんですね」 「最初は小賢しい小娘だと思ったけどな」 「言いましたね」 互いに笑い合う舞姫と令児。 そして令児は言う。 「まさかその小娘に何度も助けられることになるとは思いもしなかったけどな」 「ええ。私もまさか、こんな長い付き合い……もとい、腐れ縁になるなんて思いませんでした」 互いに小さく微笑んだ後、令児は口を開いた。 「ありがとな。お前のおかげだ。感謝してるぜ、舞姫」 しばし沈黙が支配する。 だが決して居心地の悪い沈黙ではない。 ややあって、今度は舞姫が先に口を開く。 「そいえば、狩矢さんや三鷹さんはどうしてるのかしら? いい加減、足を洗えば良いのに……」 ふと思い出したように言う舞姫。 「令児ちん、お友達でしょ? ちゃんと真人間になるよう意見してあげないと!」 「ああ、今度会ったら言ってやらァな。ま、別段心配しなくとも、時が来れば自然と足を洗うだろ。なにせあいつらは、お前の言う真人間だ。それと――」 「それと?」 「その令児ちんってのヤメろ」 「やめませんよ、令児ちん」 「舞姫ェ……」 そんな二人の様子を見て、静は思わず笑い声を洩らす。 「仲が良いんですね。舞姫さんとお兄ちゃんって」 そう言われては二人も黙り込むほかない。 再び居心地の悪くない沈黙が訪れた後、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が令児へと話しかけた。 「自己紹介がまだだったな。俺は新田。一応、監視って名目だけど、よろしく」 「ま。よろしく頼むぜ」 快の挨拶に対し、軽く手を挙げて答礼する令児。 そんな彼に向けて、快は穏やかな表情で二の句を継いだ。 「ま、監視っていうより、護衛ってつもりでここに居るけどね」 「護衛……か。ありがとな」 快の物腰、ひいては纏う雰囲気は、つい少し前までフィクサードだった相手に対するものにしては驚くほど穏やかだ。 令児の方も、フィクサードとしてアークのリベリスタと相対していた者とは思えないほど穏やかな態度だ。 「アンタ、さっき護衛って言ってたが」 「ああ。護衛しにきてもらっといて何だが、何でまた?」 「『キュレーターズ・ギルド』は壊滅したわけじゃないし、三宅さん兄妹に何らかの報復や嫌がらせがあるかもしれない。折角の聖夜に、そんなケチがつくなんて冗談じゃないからね」 「……ありがてェこった」 裏に何の意図もなく言い切る快。 それを前にして、令児は穏やかな微笑みを浮かべずにはいられなかった。 「ギルドは、これからも活動を続けるのかな」 「だろうな」 「主力である三宅さんを失い、三鷹さんだって前回情報をリークしてきた事を考えると、きっともう組織に愛想尽かせてる頃合なんだろ」 「かもな。何にせよ、あいつとはもう一度会って、きっちり礼を言わねェとな」 「ああ。その為にも今後の事件は未然に防ぐ必要がある。そのためには、きっちり始末をつけるべきかな」 そこまで言って、快は一拍の間を置く。 「組織のことで、まだやるべきことはある。けど今は、この聖夜を楽しむべきだと思う」 微笑むように言うと、快は月光に照らされる地面を見つめる。 「フロステューン、か……俺は見るの初めてだから、ちょっと楽しみだな」 月明かりの銀光を反射する草を見つめながら、快は言った。 すると、快の言葉に『神堕とし』遠野 結唯(BNE003604)が乗ってくる。 「珍しいものが見られると聞いてきたが。フロステューンというのか、そのアザーバイトは?」 結唯は仲間達に向けて問いかける。 「幸せが訪れる、というのは置いとくとして。そいつ、喋れるのか?」 再び問いかける結唯。どうやら彼女には、何か目的があるようだ。 「せめてバベルで会話できるといいが……」 淡々とした口調のようでいて、楽しみな気持ちをどこか感じさせる声音で彼女は続ける。 「こいつが元々住んでいた世界を聞いてみたいものだ。種族や国の事、生活の事なんぞがそうだな」 そこまで言うと、彼女は淡々とした声音で結ぶ。 「まあ…聞けなかったとしても。問題はないがな」 結唯の隣では、彼女と同じく興味津津といった様子の『樹海の異邦人』シンシア・ノルン(BNE004349)が仲間へと問いかけていた。 「フロステューンかぁ、どんな幻獣なのかな? 会えるといいな」 そこでふとシンシアはあることを思い出す。 「でも毎年危険な目に遭ってるんだっけ? 今年は特に何もないみたいだけど、警戒しない事には超した事はないよね」 二人からの問いかけに対し、エルヴィンは小さな微笑みともに月光と雪が振る空を見上げる。 「――『雪降る月夜の幻獣』。このボトム・チャンネルに来てくれる、最高の客だよ」 エルヴィンがそう言ったと同時、時刻は23時を向かえる。 その瞬間、スポットライトのように地上を照らす月光を道のようにして、氷と霜が姿を形作る一角獣が地上へと降り立つ。 今年もこの世界を訪れた『雪降る月夜の幻獣』。 降り立つなり、『彼』はエルヴィンと烏に夏栖斗、そして舞姫の姿を認めるなり、じっと四人を見つめる。 そして、無防備に一歩一歩とゆっくりと近付いてくる。 「フロステューン――」 舞姫が名前を呼んだ頃には、既に『彼』は四人のすぐ前まで歩み寄っていた。 その足取りには迷いなどまったくない。 それがかなり嬉しかったのか、エルヴィンは思わずほころぶ顔で言う。 「毎年お疲れ様だ。今年は荒事は無しだ、ゆっくりしてってくれ」 するとフロステューンは首を動かして、霜の鬣を鳴らしてみせる。 霜同士が擦れ合う音はとても澄んでいて耳触りが良かった。 これが『彼』にとっての頷く動作なのだろう。 どうやら再会が嬉しくてたまらないのは、『彼』も同じようだった。 その様子をじっと見つめる静。 夏栖斗はそんな彼女に声をかける。 「静ちゃんは直接みるのは初めてじゃないの? 近くでみようよ」 「は……はい!」 静かの声はしり上がりで少し上ずっている。 どうやら、想像以上に幻想的な光景を前に、興奮しているらしい。 夏栖斗はフロステューンにそっと歩み寄る。 彼に続くようにして、静もフロステューンへと近付いた。 既に顔見知りである夏栖斗は、親しげな笑みを浮かべてフロステューンへと話しかけた。 「お前ほんと綺麗だな」 そして夏栖斗は昨年から楽しみにしていたことを口にした。 「なぁ、触ってみてもいいか? 霜で出来たたてがみとか気になってたんだ」 返答は鬣を鳴らす音。 「ありがと」 喜びいさんで夏栖斗は霜の鬣を撫でる。 霜の鬣はさらさらしていて気持ちが良かった。 だが、それ以上に。 ひんやりとして心地良いが、それでいて氷を触った時に刺さるような冷たさを一切感じさせない不思議な涼しさ。 そのおかげでずっと触っていたくなるような手触りだった。 「やあ、フロステューン。また会ったな」 エルヴィンと夏栖斗の二人がフロステューンと再会を喜び合い、旧交を温め終えるのを待ち、烏も声をかける。 するとやはりフロステューンは鬣を鳴らす。 烏も『彼』にとっては再会を喜ぶ相手に違いないようだ。 それに応えるように深く大きく頷いてから、烏は持ってきた人参を差し出す。 「見た目は馬だけれどもな、君の好みは良く分からなかったもんでとりあえず差し入れを持ってきたんだが、食べるかい?」 鬣を鳴らすフロステューン。それが何よりの答えだった。 『彼』は烏の差し出した人参をくわえると、そのまま噛み砕いて飲み下す。 嬉しそうに首を動かし、澄み渡る音を鳴らしているあたり、どうやら気に入ってもらえたようだ。 「喜んでもらえたようで。よかったよ」 自身も嬉しそうにする烏。 そのまま彼はフロステューンの首筋を撫でてやりつつ、エルヴィンに向き直る。 「エルヴィン君、通訳を頼まれてはくれないか?」 「ああ、いいけど。何を伝えればいいんだ?」 「良ければ静君をその背に乗せてやってはくれないかとお願いしてほしい。ずっと昏睡状態だった彼女へのクリスマスプレゼントとしてね」 そこで烏は令児をちらりと見やってから付け加える。 「令児君にも頼まれていた事だし」 振り返る令児。 彼に向けて、烏はこっそりと小さく頷いた。 令児はその意図――迂闊そうな兄貴の面子は立てておこうという烏の気遣いを察したようだ。 感謝の意を込めて、令児は小さく頷き返す。 そんな様子をシンシアはじっと見つめていた。 そして、頃合いを見計らい、彼女もフロステューンに近付く。 「へえ、これがそうなんだね。体に触ってみたいな。ダメ? うちのフィアキイも触ってみたいみたいだし。触れたらそれだけでいい事あったよ」 その問いにも鬣を鳴らすフロステューン。 次いでエルヴィンがシンシアに声をかける。 「いいってよ。シンシアの頼み、快く受け入れてくれたぜ」 「そう。それじゃあ――」 シンシアと彼女のフィアキィはフロステューンにそっと触れる。 しばらくそうしていた後、彼女達は満足そうに手をはなした。 「少し、話をさせてもらいたいが、いいか?」 今度は結唯がフロステューンに歩み寄る。 彼女は異能――『バベル』でフロステューンに話しかける。 「なるほど。ふむ、そうか――」 聞きたかったことが聞けて、結唯も満足したようだ。 一方その頃、すぐ近くでは舞姫が静に次々と問いを投げていた。 「狩矢さんや三鷹さんがいたから令児ちんも最後まで戦えた。そうでしょう?」 「はい。お兄ちゃんも、「『組織』で出会ったダチのおかげだ」って言ってました」 「ああ、男の子同士の熱い友情って、いいですよね……」 うっとりしたように言う舞姫。 静は微笑みを浮かべながら頷く。 「ときに静ちゃん。おにいさんは、三鷹来人と仲良しさんみたいですが、どんな感じの関係? ぶっちゃけ、カップリング的には、どっちが受けな感じかしら?」 だから、いきなり舞姫がそんなことを聞いた時には、静の表情はぽかんとしたものになっている。 舞姫の言ったことの意味がわからず呆ける静。 どうやら本当にわからないらしく、真剣な顔で真面目に考え込んでいる。 見かねた夏栖斗が助け舟を出す、もとい、ツッコミを入れた。 「舞ちゃん、何聞いてんのっ!」 「え? だって気になるじゃないですか?」 そして舞姫はフロステューンに近付き、語りかける。 「お願いフロステューン……わたし、友情が愛情に変わる瞬間が見たいの」 切なげに祈るように語る舞姫だが、それに応える鬣を鳴らす音も小刻みで不規則だ。 どうやら、フロステューンも困惑しているらしい。 夏栖斗は、真面目な顔で舞姫を見つめ、彼女の言葉に耳を傾けている静の目をじっと見つめる。 「静ちゃん、気にしなくていいからね」 静に言うと、夏栖斗は舞姫と同じくフロステューンに歩み寄る。 そしてお菓子を差し出す夏栖斗。 「フロステューン、この世界の食べ物なんだけど、これも食べられるかな? 君にもプレゼントだ」 もちろんそれにもフロステューンは鬣を鳴らして答える。 心なしか鬣の音も軽快で、返答も嬉しそうだ。 クリスマスプレゼント風の包装を解いて差し出されたお菓子を、フロステューンは美味しそうに食べる。 用を終えると、夏栖斗はエルヴィンに目配せする。 夏栖斗と入れ替わるようにしてエルヴィンはフロステューンに近付くと、『バベル』の異能で問いかける。 「フロステューン、あの子を背に乗せてやってくれないか?」 エルヴィンの真摯な問いかけ対し、鬣を鳴らすフロステューン。 打てば響くように返ってきた答えからもわかる通り、『彼』は快諾してくれたようだ。 「静、フロステューンが乗せてくれるって言ってる。せっかくだから乗せてもらうといい」 降って湧いたような話に一瞬驚いた静は、そのまま少し考え込む。 「行ってこいよ。『雪降る月夜の幻獣』の背中に乗れるなんてそうそうないぜ」 令児が背中を押すと、静は嬉しそうな顔で頷く。 静が近付くと、それに合わせてフロステューンは身をかがめてくれる。 そのおかげで彼女はすんなりと背中に乗ることができた。 フロステューンに乗った静は、まるでユニコーンに跨る乙女のようだ。 そのまま『彼』はスポットライトのような光条に足をかけ、空へと舞い上がる。 しばらく空を巡った後、フロステューンはゆっくりと地面に降り立った。 『彼』が再び身をかがめて静を降ろしてやると、エルヴィンと令児が歩み寄ってくる。 「ありがとよ。フロステューン」 「ああ。俺からも礼を言うよ」 そしてエルヴィンはフロステューンに向け、優しげな表情で言う。 「いつも幸運をありがとう。貴方の元にも、たくさんの幸運が訪れるよう願うよ」 するとフロステューンは嬉しそうに鬣を鳴らし、空をじっと見上げる。 「そうだな。もうそんな時間か」 『彼』の意図を察し、エルヴィンも空を見上げる。 時刻はもうすぐ24時。 フロステューンが次なる世界へと旅立つ時が近付いているのだ。 今まで見守っているだけだった舞姫がフロステューンに歩み寄る。 「毎年来てくれてくれてありがとう。この四年間、貴方と会えたおかげで楽しいクリスマスでした」 返ってくるのは鬣の鳴る音。 微笑み、舞姫はフロステューンの目をじっと見つめる。 「これからの旅も気をつけて。また来てくださいね」 舞姫から贈られた言葉に鬣を鳴らすと、フロステューンはもう一度リベリスタ達を見つめる。 最後にもう一度鬣を鳴らし、フロステューンは月光の道を駆けあがっていった。 無事フロステューンを見送った後、エルヴィンは令児に耳打ちした。 「ああ、あと同類(シスコン)として忠告しとくがな。……妹に彼氏ができた時のダメージは結構クルもんがあるぞ、覚悟しとけ」 思わずびくりと肩を震わせた令児。 彼は苦笑すると、包装された小箱をエルヴィンに手渡した。 「覚えとくよ。それと、これをリィスから預かってる。アンタにもメリークリスマスだ」 「お、嬉しいね。ありがとう」 笑顔で小箱を受け取ると、エルヴィンは令児の肩を叩く。 「それと、長いあいだお疲れさん。軽く肩を叩いて。メリークリスマス!」 微笑む令児。 その時、近くで舞姫がくしゃみをする。 「寒いのか?」 「ええ。まあ」 「……ほらよ」 令児は舞姫の手を掴む。 手を通し流れ込む熱が、舞姫の身体を温める。 「……ありがとな、舞姫」 呟く令児に、舞姫は優しく微笑む。 「今までお疲れ様。メリークリスマス」 「ああ。メリークリスマス」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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