●幸福回避フラグ撲滅の会 「皆さんには、冬休みを満喫且つ全うして頂きたく考えています」 若干広めの講堂に響いたのは、マイクで若干のハウリングを残す『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)の声だった。 その目は鋭……いのかどうかはサングラスの向こう側で分からないが、何処と無く覚悟を決めた体であることは明らかだ。 何故、教師の側がこんななのかはさておき。 「追試兼、集中補習兼、冬季課題勉強会をこうして一気に纏めて行うのも偏に冬休みの為です。教室を纏められないのはわかって下さい。……僕のためにも」 「なんでそこでそっちの冬休みにまで関係が」 「君たちを何とかしないと補習で僕のクリスマスが潰れるでしょう」 「何だデートか」 「いえ、一人分ケーキの予約が」 「一年越しかてめぇ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月29日(月)22:42 |
||
|
||||
|
||||
|
■メイン参加者 5人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●学生は頑張れ 学生の本分は勉強である。これは、リベリスタだろうがフィクサードだろうが(この辺りは不明瞭だが)、基本原則として法治国家に定められた義務とかそういうものに該当する為、避けられない。 避けようとするならば常道を外れること、常識的な職責を全うできないことを前提に可能だが、それも天下の時村財閥のお膝元ではかなうまい。どんな人間にだって『表向き』は大事なのだ。 「やっぱり、真面目にお勉強しないといけないかなぁ」 年齢不相応に幼く聞こえすらする、机に突っ伏したせおりであっても。 「明日はクリスマスイヴだってのに! なんでこんな所で油売ってやがるのか!」 イヴっつったらもうリア充街道とか爆釣気味に切って捨てしてそうな明奈であっても。 「来年には大学生になるんだ」 ……ノーコメント。そんな守夜であってもだ。加えさせてもらいたいところとしてはその、激戦続きでも進学してるのでこの学校、割とエスカレーター式だったと思うんですがその、大丈夫なんですかね……?(本音) 「分かってると思いますが、課題は逃げませんし課題から逃げなければ終点は来ますからねー。追試の面々はパスしないと終わりが来ませんけれど、補習も課題もちゃんと終わりがありますからねー。前見て前見て。課題がペア組んでゴールテープ引っ張ってますよー」 「月ヶ瀬先生、そんなゴールテープ見たくないです」 「見なきゃゴールできないですよー。明日へのスタートラインはその先ですからねー」 何時になく虚脱感溢れる語尾のばしで抗議を受け流す夜倉だが、正味、接触の薄い生徒にはこの変化はわからないかもしれない。それはそれで、よし。 「はーい先生、ワタシはアイドルなのでこの後予定で一杯でーす。クミ姉さん引っ張り出したいんですけどいいですかー?」 「だ、そうですよクミ君。いろいろな意味で先輩でしょう、明奈君と協力してサクッと課題終わらせて行って来なさい」 腕時計に目を落とし、続いて手元のタイムスケジュール表を眺め、こまめに区切られた休憩時間を確認して、夜倉は明奈からの要望を宮実に振った。だが、それに対する宮実の反応は怪訝なものだ。色々な理由が考えられるが…… 「……教師として問題のある発言じゃないんですか?」 「宮実君、明奈君の何れかが追試や補習なら椅子に縛り付けてでも止めました。ですが二人共自主的に出張っているでしょう? 何で止める理由があるんですか」 宮実君は元アイドルですけど、という言葉は飲み込んだ。明奈が非常に喜んでいるのを見るにつけ、それは無粋の極みだとこの男とて判断していた。明奈のリアクションを見るにつけ、「アイドルって大変だなあ」と思う夜倉である。 ……おそらくはそろそろ新春特番の早撮りも待ち受けているだろうに。気丈な娘は嫌いではないが、はてこの先どうなるものか。 「るんるん! くるるん! アクセスファンタズム、私に課題解きの力をー!」 「……せおり君、守夜君の追試の邪魔になりますから過度な発声は控えるように」 剣の修練の為に勉強が追い付いていないと公言するせおりと、研鑽の為に勉強は二の次だったと公言する守夜。片や追試、片や補習。どこで差が付いたのか――何年か後のせおりが守夜になりやしないかと、高等部担当教諭(格上げした)は冷や冷やである。 仮に午前中の追試がオール赤でも、苦労するのは本人と監督役の夜倉だけである。採点はそう時間を掛けて行うものでも無いので、そのまま補習に放り込めばいい話。それで理解力を培ってくれれば嬉しい事この上ないのだが……。 「戦いよりもハードだったぜ」 どうだろう。頑張っているというのはつくづく感じられはするのだが、成果が伴うか否か、今から全力で心配になってくるこの気持をお分かり頂けるだろうか……! 「レポート終わったー! ワタシはこんなところに居られないんです! 家……じゃなかった収録現場へ行きます! 大学一年生なんて游ぶためにあるよね!」 「そうそう、今のうちにきっちりと遊んどいたほうがいいぜ」 と言うわけで、割と本気でフラグ立てにきた明奈とそれに引っ張られて慌てている宮実を肯定するのは、誰あろう社会人の快であったわけだ。 ●社会人……もその、頑張れ 「太鼓判を押してもらったからワタシは現場へ直行します! クミ姉さんと一緒にね!」 「それは構いませんが明奈君、具体的には」 「ワタシと同じようなサンタコスを着せて地方番組、ラジオ、ネット放送のハシゴです!」 「へ、ひぇ……!?」 「だ、そうですよクミ君。……タイツの着用を義務とします」 快の言葉に勢いをました明奈、クミをより強く引っ張ってドヤ顔であった。サンタコス……といえば彼女がそれらしい格好をしていたのを見た気がする。バ●ガールも真っ青(ロゴ的な意味で)な布面積だった気がするが、あれを気弱そうな目の前のアイドルが、か。そう考えた夜倉が咄嗟に口走った言葉は、当然ながら講堂をざわつかせた。 「タイツフェチか、夜倉さんは。コアだなあ」 「HENTAIっていうんだよね!」 「クミ姉さんは地下アイドルじゃないんだから弁えないと駄目じゃない……?」 「いえ、寒くない格好をしろということなんですが、その。僕のせいですか」 快、せおり、明奈から一斉に肯定を示されてたじろぐ夜倉。想像図でフリーズしている宮実はこの際おいていこう。 とにかく、と話を逸らす為に快を見ると、どうやら時村物産の社員としての仕事の一環なのだそうだ。年末の挨拶回りは流通系だと相当神経を割かねばならないだろうから、彼の気苦労が見て取れるというものだ。 「学生の頃はこの時期テストだレポートだって忙しかったけど……社会人になると、その比じゃないね」 年末は特に、と続ける彼の言葉に、にへら、と笑った明奈やら徐々に就活にシフトを余儀なくされる宮実などの顔は少なからず引きつったように見えた。受け取った挨拶回り用の小道具に視線を落とせば、成程、有用性が高く避けられることのない実に手堅いチョイスであることが理解できた。さすが時村物産、抜かり無い。 「いや、まあ、サボり続て、もう一年学べるドン! っていう選択肢も無くはないけどね!」 この言葉に、部屋の隅で答案相手に目を白黒させていた守夜が反応したことはぶっちゃけ言うまでもない。 「っていうか、理系女子のお姉ちゃんの妹のはずなのに、理数全般ちんぷんかんぷんなんだけどぉ……」 「そういうものです。ご家族の性質がそっくりそのまま、ということの方が珍しいですよ」 諦めろと言わんばかりの夜倉の言葉に、補習課題を前にしてがっくりと項垂れるせおり。確かに、いや間違いなく、彼女の理系に関する成績は「それなりに壊滅的」なのである。 このままでは恐らく補習時間いっぱいまでかけても終わらないだろうから、明日の彼の出勤とせおり、守夜両名の登校は必然となったわけだが……。 「いいもん、将来の夢はダイビングのインストラクターだしぃー?」 「同職の皆さんに対する差別にとられたら僕の将来が危ういので、就職に絡む時はその発言は控えるように。あと、色々とよくはないです」 「あっ、そうだ月ヶ瀬先生! 体育の内申点今どうなってる? オフレコで教えてよ!」 「僕に聞かないで下さい。即座に参照できるものじゃないですし、知っていたとしても担任に引き渡してからは答える権限もないですよ。あと、体育だけが突出してよくてもバランス悪いと……ですよ?」 口の端を歪めた彼の言葉にびくりと反応したせおりは、素直に課題に取り組むことを選択した。無論、一人で終るものではないので周囲の助力を得て……ということになろうが。 午後三時。 徐々に課題を終わらせ、若しくは追試の答案とにらめっこしていた面々が帰り始める中、入り口に現れた女性の姿に夜倉は露骨に怯える素振りを見せる。小刻みに震えているようだが、見間違いではあるまい。 「……小夜君、先日の資料の解析はもうちょっと時間を貰えればですね……」 「え、探査? 必要ないですよ?」 「え?」 「ですから、必要ないんです。今日来たのも別な用事ですから」 背筋が凍る思い、というのはこの状況を指すのだろうか。「とあるフィクサード」の探査を強く具申してきた彼女がその主張を捨て、別の用事と言われて何らかの意図を感じるなというのは無理な話。特に、強く詰め寄られた経歴を持つ彼にとっては。 「……別の用事、というのは一体」 「月ヶ瀬さんにはお世話になってますから、クリスマスプレゼントをお渡ししようかな、って思って」 目を白黒させるのは変わらないが、その衝撃の度合は倍に比する。お世話になっている、ときたか。意図はしていないとしても、あそこまで追い詰めてしまっている自分に感謝といったのか。 ……大丈夫なのだろうか、という彼の懸念をよそに、取り出されたプレゼントは毛糸の帽子。 「ほら、肌を晒すのお嫌いないようなので?」 「まあ間違いなく好いてはいないですけど、よく気が回りますね小夜君……でも、構いませんので?」 「あ、私、これから『彼』とデートなんです」 三度目の衝撃……とまではいかなかったが、流石にこの言葉に対し、夜倉は硬直せざるを得なかった。デート。言葉の意味を咀嚼し嚥下し裏側を読み込むまで、たっぷり1分ほどかかったのは仕様のないことだろう。 「お仕事をお手伝いしてる神社の方に、夜遅くになりますけど、来てくださるんですって」 「そ、そうですか。楽しめれば何よりですが……」 「それじゃ、用事は以上なので帰りますね」 たっ、と踵を返しかけ出した彼女を暫く眺めていると、背後から声がした。校内での挨拶回りその他を済ませた快である。 「……お互いに大変だね」 「幸せなら、いいんじゃないですかね」 後日、宮実と明奈が出演したラジオをBGMに、アークの方で処理することになった事案の資料を眺めていた夜倉がいた。 ――神社で一人、巫女服の女性が中空に話しかけている事案。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|