● スパイス控えめ甘さを増したジンジャーブレッド、少し固めのブラウニー、厚めの板チョコがレンガのように積み上げられて壁を作る。 ココアとバニラの市松模様を描くクッキーのタイルがそこかしこに飾られて、粉砂糖の雪がまぶされたカラフルな屋根を作るのはパステル色のマカロンクッキー。 白いふんわりした外見の焼きメレンゲは雲のようにチョコレートの煙突に掛かり、薄く薄く伸ばされた飴細工の窓は少し強く触れば砕けてしまいそう。 フィナンシェとチョコを組み合わせて作られた甘くて柔らかい扉を開けば、更に甘い香りが溢れ出す。 机の脚になっているのは、ふんわりしたロールケーキを縦に重ねたもの。 薄いパイ生地の天板を取れば、五つの脚には全部違うロールケーキが使われている。 ビターな風味のココアクリームのチョコロール、チーズクリームを巻いたティラミスのようなコーヒー風味のロール。紅茶の香るバニラロールに、程好い苦味が心地良い抹茶ロール。そして真ん中で支えるのは、中心に巻かれたイチゴが爽やかに香るプレーンなロールケーキだ。 天板のパイ生地は二重になっていて、間に挟まれたリンゴのジャムと一緒に齧ればアップルパイの風味がするだろう。 甘い机を囲む六つのスツールは、よく見れば座面がそれぞれ違うスポンジケーキ。 はちみつの風味を一杯に楽しめるしっとりとしたハニーケーキ、爽やかな風味のヨーグルトケーキ、チーズとくるみを混ぜたケーキは僅かな塩気がバターの風味を引き立たせるし、ポピーシードのレモンケーキはぷちぷちとした食感が楽しい。カボチャとさつまいものケーキは素朴な甘さがどこか懐かしく、チョコレートのスポンジには薄く二層のクリームが挟んである。 壁に咲いた薔薇は花弁の一枚一枚がチョコレート。少し酸っぱいラズベリーの赤い薔薇、ホワイトチョコのとろける甘さの白い薔薇、ビターな風味の黒い薔薇。 大人の手の平に乗るマジパンの小さなぬいぐるみ、スコーンで組まれた暖炉の中には炎の代わりに真っ赤なイチゴのジュレを被せたムースが置いてある。 グミにマシュマロ、キャンディが隙間に詰め込まれた壁は小さなステンドグラスにも似ていた。 甘いお菓子の家に詰まっているのは沢山の夢。 クリスマスを笑顔で過ごして欲しいとの目一杯の思いが、その家には詰まっていた。 ● 「あ、丁度良かった。甘い物お好きでしたらちょっと来てくれませんか!」 アーク本部で大体薄笑いを浮かべている『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)に手招かれ向かってみると――そこにあったのはお菓子の家。 それもたまに街中で見かけるディスプレイ用の小さいものではなく、屋根と煙突まで含めてギロチンと同じ程度の高さのかなり大きなものだ。 「ヘクセンハウスって言うんでしたっけ? 魔女の家、つまりお菓子の家ですが、はい見て分かりますね。食べられます」 甘い香りは確かに本物。 聞いてみれば、市内でクリスマスに向けて子供が中に入って食べられる大きさのお菓子の家を作ろうという企画があり――これはその試作品との事。 で、それが何故アーク本部にあるかと言えば。 「まあ食品にも稀にある訳ですが革醒しましてね。このまま放置すると巨大化して子供を飲み込むホラーハウスになってしまうとかそんな感じなので引き取りました」 試作品で良かったですね、と笑うフォーチュナの後ろにはなみなみと液体の入ったポット。 ついでにフォークやスプーン、皿の類。 「で、壊して燃やしてしまえばそれで終わりなんですけど……ほら、折角食べる用に作ったのに勿体無いじゃないですか。クリスマスにはちょっと早いですけど、大きなケーキだと思って」 手を叩くフォーチュナだが、ちょっと大きくはなかろうか。 そう問えば彼はにっこり笑う。 「ぼく最初に言いましたよ、甘い物お好きでしたらって」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月30日(火)22:20 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 女の子はお砂糖とスパイスと何か素敵なもので出来ている――有名なその一節を思い出すようなお菓子の家と面子を眺め、『赤錆皓姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)はすう、と目を細めた後、お任せください、と力強く頷いた。ここからは訓練されたリベリスタの実力を見せる時だ。 「諸般の事情で印象的に落伍することにかけては、わたしの右に出る者はいません!!」 「いや、そこは頑張ってください」 「それで、このお菓子は脳天が痺れて喉が焼け付くくらいに甘いんですか?」 「普通のですよ」 「え、じゃあ食べ方をミスると爆発するとか」 「しません」 「あと千個あるとか?」 「ならもっと人呼びます。これだけです」 「……え?」 本気で不思議そうな舞姫は、もう戻れない所まで何かに染まっている。 本当に違うのか、とまた問うてからようやく納得した彼女は、若干哀れむ目で胃薬を差し出したフォーチュナに要求一つ。目を伏せて少し苦しそうな表情で、言う台詞。 「――お願い。あなた達にしか頼めない」 「よし、ちょっとうまくなりましたね!」 「前も思ったんですがこれ何の儀式なんですか」 「お約束だから」 舞姫とギロチンがそんなコントを繰り広げている間、『磔刑バリアント』エリエリ・L・裁谷(BNE003177)はすごい頑張っていた。 状況から想定される事態を緻密に事前調査し、対策を立てる。機械の体に電子の頭脳を持つエリエリの本領発揮というものである。 結果、対策物資は量が多過ぎて無理と判明した。 「だ、台車と大量の水ペットボトル、キャンプ用ガスコンロ及びケトル、それに茶葉とか粉末なら……!」 最善が駄目ならば次善へと切り替えるのもプロアデプトの真髄である。多分。 更なる結果、エリエリは巨大な台車を引いて入り口で引っ掛かった。 ぎゃー、という悲鳴が虚しく部屋に響く。叫んでも台車は入れない。 傾ける? いや駄目だ、中身が倒れる。 考えろ、エリエリの素晴らしい頭脳で此処を物理的に切り抜けるにはどうすれば良いのかを――。 一方、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)はクリスマス、の単語に少しばかり記憶が蘇る。 そうか、三高平でクリスマスイベントを過ごすのも、もうそろそろ五回目か。最初の年は市内で親交を広げてみたし、次の年は湖でキャンドルを眺めたっけ。三年目は賑やかに騒いだりプレゼントを選んだり、去年は、去年も、約束の通りに、……。惚気話にのたうっていた今は遠い何処ぞの魔女の気分が若干分かったかも知れない。いや気のせいですよ? 甘いものは幸せだから余計な事なんて何も考えなくていいんですよ? 幸福ですか市民、幸福ですね! ……ね? ほらご覧、もうお菓子の匂いがするじゃないか、幸せだなあ、嫌な事も現実も全部うっちゃって甘いものに浸るんだげへへ。そんなうさぎの行く手を阻むもの――台車である。 後は頭脳をフル活用した結果、扉をがじがじ噛んでるちょっと可哀想な子もといエリエリである。 「ふぁ、何見とるですうさぎさん」 「……え、何やってるの裁谷さん」 ほぼ同時に発された問いの結果は、うさぎの(雰囲気でそれと分かる無表情の)憐憫であった事は記しておく。 「お菓子の家ってやっぱり憧れよね」 「うんうん、任せといて。甘いモノと女のコはゴールデンコンビだもん」 お菓子パーティ気分で食べ尽くしちゃおう、と張り切る『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)に『星辰セレマ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は頷いた。 ヘクセンハウスは魔女の家、童心に帰りヘンゼルとグレーテルのお話を思い出してみるのも悪くない。 「じゃ、楽しく美味しく頑張りましょうか」 でも取り出した胃腸薬を飲むのは忘れない。そこは大人だから。 「あ、ちょっと待って、写メ撮りたーいっ。パパに見せるのー♪」 屈託のない笑顔でキラキラ輝く携帯を取り出した真独楽に、エレオノーラは少しだけ笑った。あの人にこの写真を送ってみたらどんな反応をするのか、いつも通りの真面目くさった調子で合理的な処分方法でも書いてくるだろうか……まあ、それは今はいい。 「なら真独楽ちゃんも一緒に入る? 撮るわよ」 「ほんと? じゃあお願いします♪」 少し屈んでドアを開き、ポーズを決める笑顔の真独楽を撮影。 ここだけ異様に女子力が高い。不服は受け付けない。女子力だ。 さあ、もうそろそろ食べ始めていいだろう。何しろルー・ガルー(BNE003931)がさっきから涎をだらっだら垂らしている。むしろ写メを撮る間ちゃんとステイしていたのが奇跡的なくらいに偉い。 「ニホン、アマイノ、タクサン」 どこでも手軽にお菓子は売っているし、こんな風にイベントや依頼で食べる機会もある。 来日してからその味を覚えたルーだって、甘いものは大好きだ。大体食べ物は好きだけど。 真独楽が指でオッケーの仕草を出すと同時――彼女は丈夫な歯で壁にがじいっと噛み付いていた。 ● 「中は入ってみたいよね。お邪魔しまーす♪」 「はいはいはい! 入りたいです!!」 扉のフィナンシェを一つずつ抓みつつ、真独楽と舞姫は揃って中へ。一気に強くなる甘い香りは、まるで大量のお菓子を作っている真っ最中のキッチンへ入った様。 花瓶に挿された一輪の薔薇、真独楽が花弁を齧ってみれば、甘酸っぱいカシスショコラの味が広がった。可愛いスツール、甘い香りで満ちた可愛らしい部屋に真独楽はチョコレートの薔薇を手に微笑む。 「何だか童話のヒロインになったみたい」 「ええ、素敵……わたし達、グレーテルね。ギロちん、ヘンゼル役お願いします!」 真独楽より背の高い舞姫はやや窮屈さが勝るけど、それでも乙女としてこの光景にときめかないはずもない。焼きメレンゲの入った小さいティーカップ、片手に乗るサイズのそれで紅茶を飲む所を想像しながら奥へ奥へ、真っ赤なイチゴのジュレを被せた炎の元へ――。 「……あれ」 さすがにちょっと、竈の中は小さかった。 「タスケテ……」 その姿はグレーテルよりも押し込まれた魔女のようだったとはギロチンの談なので後で殴って良い。 「お邪魔しまー……す」 一歩後から踏み込んだエレオノーラは、天井を見て一瞬眉を寄せた。前提として彼はだいぶ小柄だ。稚い少女の姿なのでそれ自体は不自然ではない。だが、それでもこのお菓子の家が想定している『子供』よりはやや大きくて……つまり、ジャストサイズではないが凄く巨大、という程でもないすごく微妙な心境になるやつである。 このお菓子の家は凡そ180センチらしい。何か悔しい。自分だってちゃんと育っていればそのくらい行っていたのだ。間違いない。こんな小憎たらしいサイズの家など、皆で平らげてしまおう。 壁に飾ってある時計は大きなパイ。飾られたコンフィズリーの数字を外して齧れば、口の中でほろほろと解れた。かたん、と音に振り向けば、ステンドグラスの様に組まれた窓の一部が外れてエリエリの顔が覗く。 「割ると先が尖って危ないですからね、ちゃんと枠から外さないと」 歯の先で砕けた薄い飴の窓は、炙ったカラメルのようにぱりぱりと心地良い音を奏でた。 ――これだけお菓子があるのだから、姉妹達も連れてきたかったのだけれど。 自分が暮らす孤児院の面々を思い出すが、革醒者ばかりではないから全員を連れてくるのは万一を考えると難しい。姉妹思いのエリエリとしては不必要なリスクは避けたい所である。ところでタッパに入れて持って帰っても駄目かな。駄目だよね。うん。 「エリエリちゃん、こっちのマーマレードのパイはどう?」 「いただくのです! 時に食感を変えて飽きを避けるのも大事な作戦ですね。はい、じゃあこちらの窓も」 「ありがと。色んな味を楽しみたいものね」 エレオノーラから差し出されたパイは甘酸っぱく口に広がるから、エリエリは目を細めてカップから飲み物を一口。紅茶? いいえ、焙じ茶です。だってじゃぱにーずだもん。 「せんべいが食べたくなるとです」 日本人だから仕方ないね。 「ひふぉほんふぅはらひゃはひはふお?」 「あっ、うさぎさんが更に何の動物だか分からない事に」 もぎゅもぎゅもぎゅもぎゅ。屋根の形を整えていた紅茶のシフォンケーキを全身全霊で詰め込んでいたうさぎがエリエリに首を傾げるが意味は通じなかったようだ。 言葉の代わりに塩昆布を差し出して、ごくん。満喫している。 「だってお菓子の家ですよお菓子の家! 幼い頃どれだけ憧れた事か!」 多くの子供が通る道。絵本に描かれたお菓子の家に憧れて、溢れる甘いお菓子を夢想して。 「試しに襖の黒い所に噛み付いてみてえらい怒られましたよ」 そこまではあんまり一般的な子供は通過していないかも知れない地点だが、多分羊羹的なものに見えたのだろう。或いはチョコレートか。 ともあれ、薄ぼんやりと蘇るただ硬くて味のしない襖の黒い所と違い、今度は本物だ。 シフォンケーキはあんなに詰めたのに柔らかくしゅわっと口の中で消えていき、残るのはアールグレイの風味。屋根のマカロンクッキーはさっくりとした薄い殻を砕くような感覚の後にもちっとした生地が満足感を与えてくれる。 「魔女の御婆さんがいないのが逆にちょっと残念な気もしますが」 さっき竈に詰まった人ならいました。 まあそんな事はいいのだ。今はとにかく目の前の甘味が大事。がっしりと厚いナッツの入ったチョコレートのレンガを外して齧り付く。甘いなあ! 美味しいなあ! いっそ何かに憑かれてるんじゃないかと思うくらいに無心で齧りつくうさぎの前の壁が、ぼろりと崩れた。 「ふう……、危うく魔女の罠に嵌るところでした」 舞姫だ。竈の奥の壁はやや薄くなっていたので食べ尽くす事で脱出出来たらしい。手に持ったままだったティーカップに紅茶を注いで、一息。 「さあ、本腰を入れて食べますよ☆」 何しろ皆が頑張っていても、まだ三分の二は余裕で残っているのだから――そう壁に手を伸ばした所で、手にがじっと何かが噛み付いた。 「ま、魔女の襲撃っ!? これは銀河美少女舞姫ちゃんの出番――」 「……マチガエタ」 ぱちり、目があったのは中に入り込んでいたルー。ぱ、と口を離してゴメンナサイ。 夢中になっていたので思わず齧ってしまったのだろう。バリバリと豪快に食べている彼女は大変頼もしいのだが、骨組みまで齧ってなかろうか、あれ。R.ストマックを持っていない良い子は真似しないように。 「ヤセイ、イツタベレルカワカンナイ。ダカラ、タベレルトキ、タクサンタベル」 口の周りに付いたクリームを舌で拭って、壁の端っこからもぐもぐもぐもぐ。ジンジャーブレッド、何か色んな味がする。甘い。チョコレート、溶ける。甘い。パウンドケーキ、ぽろぽろする。甘い。 ちょっと喉が詰まった感じがしたら、まとめて持ってきた飲み物をごくごくごく。 あれ、さっきの飲み物は少し苦かったのに今度のはしょっぱい。まあ丁度いい。ルーには紅茶もコンソメスープも皆等しく害のない飲み物だ。 「ハラハチブンメ? シラナイ。エンリョ、ヤセイ、ウエノモト、タベモノ、シツレイ」 細かい味の差は分からないけれど、自分は間違いなく『生きる素』を頂いているのだ。 「ルー、ゼンリョク、タベル!!」 お腹がはち切れそうに一杯になるまで、止まったりはしないのだ。 ● 沢山食べる時に結構重要なのが、飲み物である。 飲み過ぎるとそれだけで腹が膨らんでしまうが、全くなくても喉が詰まる。 何より時々一息を入れる余裕がなければ、あっという間に嫌になってしまうだろう。 ブランデーを垂らした紅茶をエレオノーラは啜り、息を吐く。入る前にちらりと瓶を見せたらフォーチュナは指で丸を作ったからオッケーだろう。勿論未成年にはいけないが、その辺は日頃の信頼。 とは言え、お酒の風味を借りても些か甘い匂いが辛くなってきたのも事実だ。 「これ、フェイト復活したらお腹いっぱいなのもマシになるのかしら……」 「うう、甘いのは好きですけど、けっこうヘビーかも」 張り切っていた舞姫もパラダイスから山のようにおかずが出てくるおばあちゃん家の歓迎を受けている感じになっている。 ああ、クリームに包まれたグレープフルーツの酸味がこれほどまでに愛しいなんて。 「パティシエが唐突に和の心に目覚めて、お煎餅とか材料に使ってないですか?」 やっぱりジャパニーズの血が行き着くのはそこらしい。 フォークでマフィンを突っつき突っつき夢想していたら、現れる塩昆布。 女神を見る目で振り向けば、満腹感の余り立つのも座るのも辛いうさぎが微妙な四つん這いで差し出していた。 「う、うさぎさんどうしました?」 「ウプ……ちょ、ちょっと食休めをですね……」 塩昆布で気分転換を、と思ったがそれはそれでまた腹が辛い。これではいかん。 「大丈夫? ホットレモネードとかもあるよぉ?」 「あ、いえ、胃薬貰えますか……その、水なしで飲めるヤツ……」 差し出された真独楽の優しさも今は受け入れられるだけの容量が(物理的に)ない。が、その返事をする為に顔を上げたうさぎが見たものは、まだまだ大量に残るお菓子の家。 「……マジで?」 うさぎ、沈没。が、その指先にまで青白い炎が灯り、体が限界を超えて動き出す――ような気がしたが演出なので実際のフェイトは使われておりません。ひとまず胃薬飲んで休憩な。フェイト大事に。 「まあ、でもそろそろ食べ過ぎって気分になってくるよねぇ……」 極力飲み物は少なくする作戦を取っている真独楽は、ホットレモネードをちびちびと飲みながら、ローズマカロンとイチゴチョコレート、イチゴミルクのクッキーにふんわりとしたラズベリーギモーヴを詰んだ自作の小さなお菓子の家の端を抓んだ。 胃の上の方にまで迫って来た気がするお菓子に伸びをする。 「でも、絶対負けないっ!」 体が重くなれば動くのが億劫になるが、そんな事は言っていられないのだ。細い手足を伸ばし、ぴょんぴょんと跳ねる。重力に引かれてお菓子よ内臓の下の方に溜まれ! 「食べ尽くすまで帰らないんだからーっ!」 「せっかくなので、色々冒険もしてみましょう」 エリエリは色々と準備した飲み物を手に、考える。ドーナツをコーヒーに軽く浸して食べる習慣があるのはアメリカだったかイギリスだったか。ひたパンとかいう単語も出てきた昨今、同じ小麦粉系なら外れはあるまい。多分。 ジンジャーブレッドはミルクに浸せばまろやかさが加わるし、甘さ控えめのチーズのダックワーズはコンソメスープにつけても意外と行けるのが判明した。とすれば案外チーズスフレとかも行けるのではないか? 「ふふ、こうして頭をつかえば脳の栄養である糖分が大量に消費されるのです!」 そんなエリエリの片手には持ち込んだちょっと年期の入ったルービックキューブ。カロリー消費に余念がないロリロリである。カロリーにもロリって入ってるなって思ったから脳はちょっと疲れてるかも知れない。 「辛い子は飲み物でも飲んで、落ち着いてから好きなものだけ摘むといいわ」 最年長者としての気遣いは忘れずに、ただエレオノーラの脳内は無心である。甘味を甘味として認識してはいけない。いや違う、口内は甘味という幸福に満たされているのだから、何も恐れる事などない。甘いものは幸せだ。幸せだ。そう、だからまだ一抱えくらい残っているクッキーの山も幸福だ。……うん、現実逃避。 ちなみに先程までバリバリと頼もしかったルーだが、今は部屋の隅っこで丸まっている。 「ミタカヒラ、ガイテキ、スクナイ」 むにゃむにゃとお休みモードに入ったルーはもうお腹が一杯なのだ。 「ネムル、アンゼン、ヤセイ、ナイ」 本能で突っ走っている分、切り替えも早いのが野生の特徴である。 ● 「ご馳走様」 最後のその一口を誰が噛み砕いたのか、定かではない。 ただ、さっぱりと綺麗になった目の前にエレオノーラは口元を拭い食後の礼を。 隣ではエリエリがぐったりと横になっている。まるまるふかふかのむしぱんになってしまう。 「おんなのこはあまいものでできているんですよしってます? しってますよわたし」 「うん、でも……甘いものスキでも限度ってモノが……もぉ食べらんない!」 真独楽も普段よりだいぶ膨らんだ気がするお腹をさすりさすり苦しそうに上を向いた。 クリスマスケーキはもう要らない、チキンだけで十分だ。今日だけで何日分のカロリーを摂取したのかなんて事も考えたくない。今日ばかりはお茶じゃなくて体重計が怖い。 すやすやルーはお眠り中。 胃薬からの復活を遂げ(HP三割)、気合で黙々と食べていたうさぎが遠い目をする。 「やっぱり後先はちゃんと考えるべきです」 自棄は良くないね。うん。 が、そんな中(今回は落伍せずに)頑張っていた舞姫は焙じ茶を手ににっこり笑った。 「次は和スイーツのおうちがいいな、どっかで革醒してないか、万華鏡フル回転で探しましょう!」 ――女の子は、甘いものでできている。 多分、きっと、そうなのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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