● 人喰いの魔物の噂 その街は、小さな山の麓にあった。夜になれば、綺麗な星が見れると近隣では有名な街だ。街中でもある程度綺麗に星を見る事はできるが、最も空に近く、美しい夜空を窺えるのは山の中腹にある展望台だ。 だが、しかし、その展望台には昔から、人喰いの妖怪が出る、という噂があった。それこそ、数百年もの大昔から、書物や口伝で伝えられてきた噂話であり、今もなお、冗談半分ではあるが街に住む者のほとんどが一度は聞いたことのある話であろう。 曰く、8つの頭に、巨大な目が3つ、更に無数の腕が生え、下半身は蛇に似るという。そして、凄まじい速度で地面を這いずり、山を通る旅人を襲っていたらしい。 あくまで噂話。それも、大昔の噂話だ。 だが、その夜だけは違った。山から下りてきたあるカップルは、交番に駆け込むなり、半狂乱の有様で「怪物にあった」と叫んだという。 「猪を喰ってたんだ! 3本の腕で引っ掴んで、生きたまま!」 「長い髪の女だったわ! でも、頭は8つくらいあって、目鼻はないの。その代わり大きな口がついていて……」 「顔には目がない代わりに、掌に目が付いてた! 背も高くて、きっと3メートルは超えていた!」 口々に、つい今しがた遭遇したという怪物の特徴を口にするカップルに対し、警察官の対応は実に冷静で、そして冷たいものだった。2人が違法なドラッグでも使用している、或いは、極度に緊張や興奮により幻覚を見たのではないか、とそう推察したのだ。 何故なら警官自身も、今しがたカップルの語った怪物のことは知っていたからだ。その昔、彼の祖父が話してくれた街に伝わる昔話に出て来る妖怪と、件の怪物の特徴は一致していた。 一応の仕事として、報告書に怪物の特徴を纏めながら警察官は思う。 もし、件の怪物が存在しているのなら、ぜひ一度、お目にかかってみたいものだ、と。 ●三目八面の怪 「山中に現れる人食いの妖怪、なんて完全に昔話の怪奇憚だわ。おまけに、単なる見間違いなんかじゃなくて、それがエリューションなのだから質が悪い」 今の時期、山の中は寒いわね、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は身を震わせてそう呟いた。 次いで、彼女はモニターに山中の映像を映し出す。 「暗くて、影しか見えないけど姿形はカップルの言っていたもので正解。特筆するのなら、下半身は蛇に似ている上に地面の中に埋もれていて全長がどれほどの長さになるのかは分からない、という点くらいかしら」 地面から出ている部分、つまり腰から上の部分だが、それだけでも3メートルを超えるだろう。3本ある手の長さも体に比べ非常に長く2メートル近い。 肩より上に頭が8つもついているものだから、胸から首にかけてが幅広く、不格好な印象を受ける。 「そして恐らく……、1体ではなく、全部で3体ほどいるみたい。名前は、伝承にのっとって(三目八面)とでもしておきましょうか」 巨大な体と、凶暴な性質。 そして恐らく、[麻痺]や[石化]の追加効果を持った攻撃を仕掛けて来るのだろう。或いは、[圧倒]や[弱体]など、こちらの状態に異常を与える能力も備えているかもしれない。 「蛇は生命力が強いというから……気をつけて。発見自体は楽な筈よ。狩り場に入れば、向こうから襲いに来てくれるのだし。もっとも、山中にいるのがあなた達だけとは限らないけど」 交戦中、或いは交戦前に一般人が狙われることになれば、守り切れない可能性も高い。不必要な犠牲を出すのはできるだけ避けたい、というのがイヴの考えだった。 「それと、注意点なのだけど(三目八面)の周辺では、人や物の動きが鈍くなるみたい。具体的に言うと、半径6メートル内。水の中を歩く感覚、と言えば分かりやすいかも」 恐らく、そういう性質を持って覚醒したのだろう。三目八面の周辺では、人はもちろん、弾丸などの動きも鈍くなる。 光や音、或いは魔弾などであれば影響は受けないだろうか。 さらに気がかりな事がもう1つ。 それは、先ほどカップルの話を聞いた警察官の男性の存在だった。 彼が山の方向を、興味深そうに眺めていた事をイヴは知っていた。怪物の話に心惹かれているようだ、と、なんとなくそう感じていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月26日(金)22:28 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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● 冬山の怪異 冬の山中。時刻や真夜中。星の見える展望台へ続く山道。舗装されているとはいえ、でこぼこのコンクリート剥き出しの道路だ。空気の澄んだ夜は星が綺麗に見えるのだ。展望台へ星を見に行く者たちも今の時期は多い。 そんな物見客の間で、その夜、奇妙な噂が飛び交っていた。 それは、山の麓の街で大昔から伝わる妖怪の伝説。大蛇のような身体と、8つの頭に、腕が3本という不気味な出で立ちの怪物の話だ。そんな奇妙な怪物が、その夜、展望台へと続く道に現れる、という噂だ。 一笑に伏す者、気味が悪いと眉をしかめる者など様々であるが、彼らの中には誰1人、その怪物がEビーストと呼ばれる異質な存在であることを知るものはいない。 さらに、その夜流れた新たな噂がもう1つ。 それは、奇妙な格好をした4人の男女が、山を登っていく、という者であった。中には武器を携えている者も居た、という。 彼女達の目的は、今夜、この山に現れた怪物(三目八面)の討伐だ。 ●三目八面の狩り場 山道の途中にある開けた空間に、『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)の自動車を止め、4人のリベリスタはぞろぞろと山道を登っていく。向かうは展望台だが、途中で山中に道を逸らすつもりではある。 今回のターゲットである(三目八面)は、山の中に潜み、人を襲う時だけ道路に出て来るというから、万が一道路で遭遇し、戦闘になってしまっては無関係の一般人を巻き込むことになるかもしれない。 そうでなくとも、今、この山には数名から十数名の星見客がいる。さらに増える可能性もあるし、山の麓にある駐在所の警官が、通報を受け件の怪物に興味を持っている風でもある。 展望台まで、残り数百メートル、と言った所であろうか。途中まで車で登って来たとはいえ、冬場の寒さは身に染みる。指先がかじかんできた頃になってふと、先頭を進んでいた麗香は足を止めた。 「今、何か聞こえませんでした? 悲鳴? 人のではなかったようですけど」 くるり、と首を回して辺りの様子を探る。すでに右手は、腰の剣に伸びていた。 木の枝を押しのけ、8つの頭で息絶えた猿をぶら下げて三目八面はリベリスタ達の前に姿を現した。 新たな、それも活きの良さそうな獲物が4人も眼前に現れたのだ。猿を地面に放り出し、ぎょろりと、手に付いている大きな目でリベリスタ達の姿を捉える。 ぐるる、と唸るような声。 大蛇の身体を引き摺って、獲物を襲うべく三目八面が駆け出した。 それと同時。 「怪談話とか好きだから妖怪奇譚系も好きなんだけどね~」 左右の手にはナイフと短剣。『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)が飛び出した。三目八面が腕を伸ばして、終へ掴みかかる。 終は、素早いステップでその腕を回避するとそのまま一気に8つある頭の1つに斬り付けた。一閃、二閃と刃が疾る。飛び散る鮮血。斬られた頭が悲鳴を浴びる。 「昔話は昔話のままに。現代に蘇っちゃった妖怪さんはご退場くださいな」 三目八面の胸を蹴飛ばし、終が後退。追ってくる三目八面の攻撃を器用に短刀でいなす。しかし、すぐに手が足りなくなったようで、三目八面の牙が終の肩に突き刺さった。 「身体が重い……」 小さく舌打ちを零す。 終の動作が鈍いのは、三目八面の能力によるものだ。三目八面の半径6メートル以内に踏み入った者は、身体の動きが重く、遅くなるようだ。持ち前の速度を十全に活かせぬまま、三目八面の接近を許す。 巨体でのしかかるようにして、三目八面は3本の腕を終へと叩きつけた。 数回、地面をバウンドし終の身体は弾き飛ばされる。終を追って三目八面は移動を再開。しかし、その眼前を一羽の鴉が高速で横切ったことにより、三目八面は追撃を止めた。 「随分と妙な姿だな。間違えようもない。奇妙奇天烈奇々怪々、子供の落書きレベルの不細工だ」 鴉を放ったのは『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)だ。 片手に下げたランタンで辺りを照らし、三目八面の姿を照らし出す。 「なるべく人が来ないように結界を展開します。ここで仕留めましょう」 翼を広げ、三目八面の眼前に飛び出したのは『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)である。三目八面の3つの目が、イスタルテの姿を捉えた。 三目八面からしてみれば、最初に狙う得物は別に誰でも構わないのだ。 目の前で動く生き物である。三目八面からしてみればそれだけで、十分襲う理由になる。 太い腕が、イスタルテを襲う。上下、左右から次々に繰り出される拳のラッシュ。イスタルテはその攻撃を受け止め、或いは回避し、受け流しながら、冷静に考えを巡らせる。 三目八面の行動パターン。6メートル内では、通常時と比べてどれくらいこちらの動作が鈍くなるのか。それを分析しながら、イスタルテは銃口を三目八面の眼前へと突きつけた。 「ちゃんと退治しますよ?」 銃声が1つ。放たれた弾丸は、まっすぐ三目八面の頭の1つを撃ち抜いた。 だが、攻撃の隙を突かれイスタルテの両足と肩は三目八面に掴まれてしまった。身動きを封じられ、引くことも、進むことも叶わない。 残る頭は6つ。恐らく、全ての頭の息の根を止めないと三目八面を討伐することはできないだろう。それならば、とイスタルテは思案する。 「ユーヌさん、準備を!」 イスタルテが叫ぶ。ユーヌが式符を構えると同時に、麗香が駆けた。幸い、三目八面の意識はイスタルテに集中している。麗香は滑り込むように三目八面の真下へと駆け込み、剣を一閃。 「街に静寂を取り戻すためにも迅速な討伐を」 イスタルテの肩を掴んでいた、三目八面の腕が切り落とされる。痛みに驚いたのか、三目八面の拘束が弱まる。その隙に、イスタルテは翼を広げて急上昇し、三目八面の攻撃範囲内から逃げ出した。 イスタルテが脱出したのを確認し、麗香も急ぎその場から逃げる。しかし、めちゃくちゃに振り回される三目八面の尾に打たれ、麗香は地面に叩きつけられた。 麗香目がけ、三目八面の腕が伸びる。その指先が、麗香の頭に触れる、その直前。 「烏の味はお気に召さないか? なに遠慮はするな、よく見えるようその目に全てくれてやろう」 黒雲の如き鴉の群れが、三目八面を覆い尽くした。 鴉の群れは、ユーヌの放った式符から生じたものだ。麗香に意識を奪われていた三目八面は、鴉の群れによる攻撃を全身で浴びることになった。鴉の速度は三目八面に近づくと鈍くなるのだが、それでも視界を覆い尽くすほどの数を裁き切ることはできないらしい。 鴉に全身を貫かれ、それと同時に麗香の斬撃を首に受け、三目八面は息絶えた。 三目八面の死体を、人気のない場所に隠し、道路に出る。隠した死体は、後ほどアークの処理班が片付けてくれる手筈になっている。 残る三目八面はあと2体。近くに潜んでいるのではないか、と周囲の様子を探っていると、山の麓の方から原付バイクが登って来た。運転しているのは、どうやら麓の駐在所に務める警察官のようだ。 「ん? 君達も星見か? 妙な怪物を見た、という話を聞いたんだけど、何か知らないか? 危ないし、今日は引き返すことをオススメするよ、ボクは」 リベリスタ達4人の姿を目に止め、警察官の男性はバイクを止めて話しかけてきた。 ここで逃げ出すわけにもいかず、かといって本当のことを告げるわけにもいかない。苦笑いを浮かべ、イスタルテが前に出た。 「そ、そうですね。冬場の山中とか、凄く寒いです。お、お腹が冷えちゃうと美容とか健康に良くないですよう。帰ろうかな―、って思います」 最悪のパターンとして考えられるのは、この場で三目八面に襲われ、戦闘に突入することだ。そうなっては、流石に誤魔化しきれないし、警察官を守り切る自信もない。 イスタルテの心配をよそに、警察官の男は「気を付けるんだよ」と声をかけ、山を登っていった。 それを見送り、4人は溜め息を零す。 「これ以上、周辺に一般人さんが入り込んで来ないように結界を展開しておこうか」 そう呟いて、終は結界を展開した。 幼い頃から何度も聞いた、三目八面の物語。それを、今になって再び耳にするとは思わなかった。 それも、実際にそれを見た、という目撃談として……となれば、好奇心が湧くのを止めることはできなかった。カップルの証言を確かめる、という名目で原付を飛ばして山を登る。 途中で何組かの星見客に会ったが、誰1人として三目八面を見た、という者はいなかった。 そうこうしているうちに、件のカップルが三目八面を見た、という場所へと辿り着く。バイクを止め、周囲を歩き回るも、それらしい影は見当たらない。 空を見上げ、星が綺麗だ、と呟いてみる。 その拍子に、彼は気付く。 鼻腔を刺激する、どろりとした血の臭い。そう言えば、件の怪物は猪を捉えて喰らっていたという。 ぞくり、と背筋に寒気が走る。嫌な予感、というものを彼は信じることにしていた。 慌てて、バイクまで戻ろうとしたその時だ。 「え……。あ?」 月明りに照らされた、巨大な蛇とも人ともつかない奇怪なシルエット。バイクを持ち上げ、それに喰らいつく。砕けた部品が地面に散って、警察官のバイクは一瞬でガラクタへと姿を変えた。 悲鳴をあげる余裕もなく、警察官は踵を返す。 そして、彼は今度こそ悲鳴を上げた。 彼の背後、いつからそこにそれは居たのか。 3体目の三目八面が、警察官を掴みあげた。 ぎょろりとした目を近づけて、三目八面は男を観察する。首を絞められ、警察官の悲鳴が途切れる。げぼ、と濁った咳を吐き出し、警察官は三目八面から逃れるべく暴れる。 しかし、人間の力でエリューションに対応できるはずもない。 遠ざかる意識の中、彼は見た。 月を背に、空から舞い降りる1人の女性の姿を。 「あ、あれは……」 金色の髪。眼鏡をかけた、気弱そうな瞳。まっすぐに腕を振り降ろし、弾丸の雨を三目八面に浴びせかけるその女性は、先ほど、山道でであった女性ではないか。 「今助けます」 舞い降りた女性、イスタルテの言葉を聞いて、警察官は意識を失った。 2体の三目八面がイスタルテに襲いかかる。全身に弾丸を浴びながら、しかし止まる気配はない。自身の受ける傷など、さして気にも止めていないのだ。3本の腕で、イスタルテを打ちすえ、地面に叩きつける。その拍子に投げ出された警察官の身体を、駆け寄って来た麗香がキャッチ。 そのまま、踵を返して三目八面の攻撃範囲から逃げ出した。 イスタルテと入れ替わるようにして、終が三目八面の前に飛び出した。一閃、二閃と刃を振るう。 8つの頭と、3本の腕が交互に終を襲う。鋭い牙が、終の肩を切り裂いた。 飛び散る鮮血が頬を濡らす。身体が重い。水の中を歩くような感覚に、強烈な違和感を覚える。 気絶した警察官を背負い、麗香が戦線を離脱する。それを追いかけようとする三目八面を食い止めるのが自分の仕事だと判断し、重たい身体を酷使し3本の腕を受け流す。 しかし、動きの鈍った身体では1体を抑え込むだけで精一杯。もう1体の三目八面は、擦れ違い様に終の胴を尾で打ちつけ、麗香の後を追って行った。 一瞬、終の意識が背後へ向けられた。その一瞬の隙と、鈍った動作が命取りとなる。 3本の腕が、終を掴む。その首筋に、頭の1つが喰らいついた。身体が硬直する。噛みつかれた首を中心に、終の身体が石へと変わる。 石化した終をその場に投げ捨て、警察官を追うべく駆け出す。 そんな三目八面の眼前に、イスタルテが飛び出した。銃口を、三目八面の胸に突き付け、銃弾を放つ。破裂音と、飛び散る火花。三目八面が僅かに後退した隙に、イスタルテは翼を広げ、魔風を巻き起こす。 「さすがに風まで動きが遅くなったりしないですよね……? 終さん!」 淡い燐光が飛び散る。石化した終の身体を光が包み込んだ。 巻き戻し映像をみるように、終の石化が解けて行く。 『------------------!!』 声にならない叫び声をあげながら、三目八面がイスタルテへと襲い掛かった。 石化の解けた終の真横を三目八面が通り抜けていく、その瞬間。 「蛇さんはもう冬眠の時間だよ☆ おやすみなさい!!」 動きが鈍って攻撃を当てられないのなら、当たりに来てもらえばいい。終の刃は時を切り刻み、氷刃の霧を発生させる。そこに自ら飛び込んできた三目八面は、氷刃に全身を切り刻まれその場に倒れ伏した。 ●伝わる怪奇譚 急に足が重くなった。背後から追い迫って来た三目八面のせいだ。迎撃したくとも今は無理だ。気絶した警察官を背負っているせいで、まともな戦闘を行えない。 威圧感。強烈な殺気と、血の臭い。咄嗟に警察官の身体を地面に落とし、麗香は両手を広げて脚を止めた。麗香の背中に激痛が走る。 三目八面の打撃を浴びたのだ。皮膚が裂け、鮮血が飛んだ。 「お前の相手はこのわたしだ。人を喰ってきた怪物め。こんどはお前たちが狩られる番だ!」 重たい身体を無理矢理動かし、剣を引き抜く。身体を反転させた瞬間、麗香の真横を三目八面が追い越していった。狙いは気絶した警察官のようだ。 どうやら、この個体は警察官をターゲットとして定めたらしい。3本の腕が、警察官に伸びる。 三目八面の手が警察官に触れる、その寸前、麗香の剣が一閃。 「お前の相手はわたしだってば」 腕が1本、地面に落ちた。血を撒き散らしながら、三目八面が悲鳴をあげる。怒りと痛みに任せて、めちゃくちゃな攻撃を繰り返す。身体の動きが鈍った今の麗香では、猛攻撃の全ては捌き切れない。 反撃に剣を叩き込む。防御など考えることなく、一撃一撃に全力を込める。 三目八面の全身に、無数の傷が刻まれていく。 麗香の全身から、血が滲む。 麗香の猛攻によって、僅かではあるが三目八面の身体が押し戻された。その光景を、すぐ傍でユーヌがじっと観察していた。その手に握った式符を、すぐに放つことができるようにしながら……。 三目八面の尾が、麗香の喉を打ちすえた。血を吐き、麗香はその場に膝をつく。最後の力を振りしぼって振り上げた剣が、三目八面の腕を1本、肘のあたりから切り落とした。 それを見届け、麗香は笑う。彼女の意識は、そこで途切れた。 倒れた麗香に襲いかかろうとした三目八面は、そこでピタリと動きを止めた。 ふ、っと薄く笑うユーヌと視線が交差する。 瞬準したのは、僅かな時間。 くるり、と血を零しながら三目八面は反転した。逃走を試みるつもりらしい。 だが……。 「カラッポの頭も8つ並べば馬鹿な犬並みの知能はあるか。まぁ、これから1つもなくなるのだから、案山子と大して違いはないが」 放たれた式符は、鴉の群れへと姿を変える。黒い雲の如き鴉の群れが、一斉に三目八面に襲いかかる。麗香の猛攻にやられた三目八面の腕は、1本しか残っていない。自身の近くに入り込んだ者を鈍くさせる、という能力を持っていてもたった1本の腕では、百を超える鴉の群れを防げない。 鳥葬、という言葉がある。 鴉の群れが消え去った後、その場に残されていたのは三目八面の血まみれの死体であった。 警察官を道路の脇に寝かせ、三目八面の死体は処理班に任せ、そして4人は山を登った。 降り注ぐような美しい星空を眺め、4人は暫し無言であった。 「八面の顔もつ蛇はお伽噺の世界に帰りました。めでたしめでたし☆」 くすくすと笑いながら、悪戯っぽく終は告げた。 じきに夜が開ける。 三目八面は、これからも、この街に伝わる伝説として語り継がれることだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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