下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<太陽を墜とす者達>それぞれの思惑


 この手で触れられそうなぐらいに空気がピリピリと固く尖って感じられた。主にあちらに陣取るリベリスタ側から発せられる殺気のせいだ。それも尋常な殺意ではなかった。知らぬものが傍からみれば、正義であるはずのリベリスタたちの顔が地獄の悪鬼に見えるほどである。
 対してこちらペリーシュ側の雰囲気といえば、それがなんとも軽い。ほとんどの者が薄ら笑いを浮かべて野次を飛ばすに、完全な遊び気分である。
 戦場に明確な温度差が生じていた。が、それも仕方がないことだろう。
 絶対に守らばならぬものを抱えたリベリスタたちと違い、こちらは金目当て者、ただの快楽殺人犯、W.Pアーティファクトの収集家の寄せ集めなのだから。

 地上侵攻の総指揮を執る男より命じられたのは、使徒第十三位『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモアの元工房だった。
 魔女の裏切りを得て、すでに主だったものは撤去されていると聞く。なかでも魔女が収集したアーティファクトは知られている限りすべてアーク本部の地下深くに隠されているだろう。
 だが――
 ここにひとつ、匿名の者から寄せられた情報があった。
 かつて三高平市に攻め込み、友と信じた男の裏切りを経て命を落としたバロックナイツ使徒第十位『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオの遺品、ネクロマンサーのためのアーティファクトが残されていると。
 それを使えば例え死体使いでなくとも、それなりに実力ある者が行使すれば、死んだ第十位を蘇らせることができる。あの男が動く死体として復活し、仮に意思を取り戻したところで『黒い太陽』の敵ではないのだから、蘇らせることができればせいぜいアークに対する嫌がらせにはなるだろう。
 実際の所、真偽の分からない眉唾の情報には過ぎなかったが、駄目でも痛くも痒くも無い。Dこと『古きを知る者』ディディエ ・ドゥ・ディオンは、集めた狂信者たちに向かってそう言って出撃を命じたものだ。

 ――ふん。主人ともども勝手にそう思っていろ。たかが死体使い風情と侮っているがいい。

 いま思い返しても腹が立つ。自分にバロックナイツ級の実力があれば、直接ぶん殴ってやったのに。
 目深にかぶった帽子の下で、きゅっと音がたつほど奥歯をかみしめた。
「おい、新入り! そろそろ行くぞ。準備は整った。ちょうど、野次のネタも尽きてきたところだったしな」
 まあ、死なない程度に頑張ろうや。こっちはあのDの変態野郎と違って金か物目当てなんだからよ。
 狂信者にぽん、と背を叩かれた刹那、体の内で熱をはらんだ殺意が膨れ上がった。ふざけるな、格下が!
 が、ここが堪えどころ、と自身をなだめすかす。それでも目が尖っていたのだろう、背を叩いた男が怯えたように後ろへ下がった。
「な、なんだ……、どうかしたか?」
「……いや、別に。なんでもない。戦いを前に少し気が立っていた」
「そ、そうか。まあ、さっきも言ったがそう入れ込むな。例のものを手に入れずとも適当に暴れてりゃ、金は貰えるんだ」
 逃げるように去っていく男の背を睨みつけた。あとでどさくさにまぎれて殺しておこう。ああ、それがいい。
 死んで我らネクロマンサーに操られるのと、記憶を保ったまま化け物にされて操られるのとでは、果たしてどちらがマシか。そんなことを考えつつ、クルト・グィーデンはW.Pのアーティファクトでノーフェイス化したリベリスタたちの檻へ向かった。


 ペリーシュ側に新たな動きがあった。
 新たに檻のようなものが狂信者たちの後ろに見えていた。あれはなんだと、千里眼で探査したものが苦痛に満ちた呻き声を上げた。
「くそったれどもが!」
 そのリベリスタは檻の中に知り合いの顔を見つけてしまった。血走った眼、乱れて血と汗で汚れた髪、なによりもその顔には絶望を感じさせる狂気があった。
「やつら、捕まえた仲間をノーフェイスにしやがった!」
 拘置所を死守せんと集まったリベリスタたちの間をどよめきが走る。
 ――と
 音をたてて檻の格子が前へ倒された。
 ノーフェイスたちが一斉に、父や母、子、兄弟たちの血と肉を求めて走り出す。叫び声をあげながら。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:そうすけ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年12月21日(日)22:06
●成功条件
三高平市の特別拘置所の死守。
ノーフェイスの撃破。及び狂信者たちの撃退。
※狂信者たちの『黒い太陽』に対する忠誠心は低く、不利を悟ればバラバラに撤退し始めます。

●敵1
Rank1の全スキルとRank2の一部スキルが使える狂信者15名。
<狂信者ジョブ構成>
 ・デュランダル ×4
 ・ダークナイト ×4
 ・スターサジタリー ×4
 ・マグメイガス ×2
 ・ホーリーメイガス ×1

●敵2
W.Pのアーティファクトでノーフェイス化した三高平市民50名
老若男女、いずれも元は三高平市防衛についていたリベリスタです。ちゃんと記憶も人格も残っています。
ただ、それらを保ち続けるためには、人の血肉を食らい続ける必要があります。
抑えきれない欲望に突き動かされて、泣く泣く、嫌々リベリスタたちと戦います。

各職バラバラ。種族はほとんどがジーニアス。使えるスキルはRank1まで。

・元のジョブスキルから2種類(Rank1までの中からランダム)
・噛みつき……物近単/出血、毒、怒り
・助けて!……神近複/ショック、無力


●敵3
クルト・ヴィーデン。
ネクロマンサー。バロックナイツ使徒第十位『福音の指揮者』ケイオス・“コンダクター”・カントーリオ(死亡)率いる楽団の楽士の一人です。
狂信者のフリをしてペリーシュ一党の中に紛れ込んでいます。
日本に足を踏み入れれば命の保証はない、ととあるリベリスタから釘を刺されていたにも関わらず、よりにもよって三高平市に現れたのは、やはり謎の情報提供をうけてケイオスゆかりの品を取り戻すためです。
燃え立つような緋色のファゴットが、彼の死者を操るための壊界器です。

 『火の鳥』……炎と雷の混合全体攻撃(遠全)。ブレイク、獄炎、雷陣寄与。
 『地を這う雷』……電撃攻撃(近単)。ノックB、ショック寄与。
 『死者の祭典』……ネクロマンシー。最大100体の死体を同時に繰ることが出来る。
 『発火する血』(P)
 ※その他、詳細不明の攻撃。
 『天を舞う炎』……火炎攻撃(??)
 『死者の大祭』……ネクロマンシー(??)

狂信者たちと同じく、形勢の不利を悟った瞬間に戦線を離脱します。

●STコメント。
よろしければご参加くださいませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
フライダークホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ハイジーニアスナイトクリーク
神城・涼(BNE001343)
ハイジーニアスインヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
ハイジーニアスクリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
アウトサイドソードミラージュ
喜連川 秋火(BNE003597)
ビーストハーフレイザータクト
ターシャ・メルジーネ・ヴィルデフラウ(BNE003860)
ノワールオルールマグメイガス
チコーリア・プンタレッラ(BNE004832)
ハイジーニアス覇界闘士
奥州 一悟(BNE004854)


「やれやれ、まったくクソ面倒臭い事を」
 『双刃飛閃』喜連川 秋火(BNE003597)は苛立ちながらも両手に小太刀を構えた。
 迫りくるノーフェイスたちの中に見知った顔はない。だが、いずれも数時間前まではアークの理想の元に集った仲間だったのだ。
「敵が、わたしの気にくわないことをするのは、いつものことよね」
 ぎり、と奥歯をかみしめ、『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は手の内の得物を革めた。
 ――敵だからさ。
 無骨な鋼板に佇む悪魔が鈍く光る。その傍らで天使が苦しげに顔を歪ませる。
 涼子の胸の底で静かに、冷たい怒りがゆらゆらと燃え立った。
「ま、いいさ。さっさと終わらせてやるよ」
 秋火はまだロシアで受けた傷が治り切っていないにも関わらず、不敵な笑みを浮かべながら涼子の前へ出た。
 可憐なセーラー服の後ろで九尾が冬の冷たい風に吹かれて揺れる。戦いを前に高ぶった気持ちが傷の痛みなどきれいに消し飛ばしていた。
 そんな秋火の横に奥州 一悟(BNE004854)が並ぶ。
「無理すんなよ。このあとが本番なんだからな」
 覚醒して三高平市に越してから、季節はひとめぐりさえしていない。押し寄せてくるノーフェイスたちの中に、やはり知り合いはいなかった。ならばオレが先に立つ、と一悟は怒りをにじませた声で宣言する。
 知り合いがいないからと言って心に感じる痛みが和らぐわけではない。だが――
「援護、頼んだぜ」
 表情を和らた一悟が、肩越しに振り返ったのは男装の麗人『プリンツ・フロイライン』ターシャ・メルジーネ・ヴィルデフラウ(BNE003860)だった。
「任せてくれ。でも……ほんと、他人に深化を要請しておいて、自分は深化しないとか」
「もういいって。ターシャはそのままでも十分強いぜ。なりたくもないものになる必要なんてねぇよ」
 ああ、だから頼りにしているぜ、と一悟はターシャに親指を立てて見せた。
 ターシャはドイツの旧き翠蛇の血族の出だ。末姫ながら一族の生き残り、メルジーネ(蛇姫)の名を継ぐ者であれば深化もまた、それにふさわしいものでなければならない。
アークに種族深化の秘跡がもたらされたその時から、ターシャは王者にふさわしい姿を求め続けていた。
 ――が、ここ一番の大事に間に合わなかった。
 悔しくて仕方がない。
「……代わりにボクには不意打ちを無効化する動物の本能が残っている」
 『きゅうけつおやさい』チコーリア・プンタレッラ(BNE004832)がターシャに微笑みかける。
「ありがとう。ターシャおねえさんのおかげでチコ、とっても強い力を手に入れましたのだ」
 チコーリアはターシャに勧められた深化をきっかけにあれこれと自身を強化していた。
 それもこれも、とノーフェイスの後ろからやって来る狂信者たちへ目を向ける。
「みなさんお願いなのだ。クルトさんのことはチコに任せてください」
 狂信者たちの中に楽団員、クルト・ヴィーデンが紛れ込んでいた。
「いくらケイオスが慕わしいかしらないけど、わざわざ日本に舞い戻ってくるとか」
 信じられない、と呆れ混じりに言ったのは『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)。
「せっかくいい腕してるんだから、海外で音楽家活動だけしてればいいものを……」
 綺沙羅はクルトの演奏をソロにしてもオーケストラにしても直接聞いたことがない。日々増える膨大な報告書とその添付データを欠かさずチェックしているときに、たまたまその演奏を耳にしただけである。それでも“楽団”に対する感情はさておくとして、音楽のセンスと技術だけは一流と認めていた。
 だからなおさら馬鹿なヤツと思ってしまう。
「私ネクロマンシー系の人はもう、こりごりだよ。亡くなった方のお身体を恥ずかしめるような事は嫌い」
 『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313) が愛らしい顔立ちに似合わぬ苦い笑いを浮かべる。
 “楽団”に対する怒りで、ピンと張りつめた弦のように心が震えていた。
「人を何だと思ってるんだろうね。自分が好き勝手動かせる玩具?」
「あうう。チコがさせないのだ。絶対、絶対させないのだ。だから……」
 お願い、と泣き顔のチコーリアに、「なんて、ね」とアリステアは少し強張った声で返した。出した声のきつさに気づいて、微笑みで帳消しにしようとしたのだが上手く行かなかった。微笑みは中途半端に形作られ、すぐに消えた。
 本音は逃がしたくない。ここで打倒してしまいたい。死者を弄ぶネクロマンシーなどこの世にあってはならない呪われた技なのだ。
 神の代理者であるホーリーメイガスであれば、ネクロマンサーは尚の事許せない存在である。
 チコーリアがなぜクルトを庇おうとするのか、アリステアには正直分からなかった。
 場に広がった気まずい雰囲気を綺沙羅の声が断ち切る。
「クルトはともかく、虎の威を借る馬鹿どもが仕事増やしてマジうざい」
「ああ。アーティファクトでノーフェイス化って。胸クソ悪い事しやがって……」
 『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)は前を向いたまま、そっと、アリステアの強張った細い肩に手を置いた。
大きなてのひらのぬくもりが、アリステアの冷めた気持ちを温めて癒していく。
やがて己の手に触れた白い指の先から、ありがとう、という気持ちが伝わってきた。
確かに繋がった心と心であれば、時として素肌のふれあいは言葉を超える。与えたつもりが倍にして勇気を返され、涼は口元をほころばせた。
「やれやれ、気は進まないとは言え、やらないという選択肢はないしな。まァ、きっちりカタを付けさせてもらうとするか……!」


冬の空気から薄く削りだされた冷気が、無数の鋭い破片となって吹きすさぶ。吹雪かれて凍ったノーフェイスが前に倒れ込むと、秋火はたん、と大地を蹴って高く飛んだ。
「ここから先は一歩も通してやらないぜ。通りたければ等しく死んで逝け」
 頭二つ高いところから、再び小太刀を振るって後に続いたノーフェイスの首をかき切る。
「ボクは君等とは大して面識もない。そして、面識があっても敵ならば一切合切の容赦もする気はない」
 聞こえているのかいないのか。
 秋火の啖呵に迫りくるノーフェイスたちの表情は変わらず、血を求めて冷たい手を伸ばす。
 着地しきらぬ秋火を庇うため、涼子は暴れ狂う大蛇のごとき破壊のオーラをノーフェイスたちへ向けて放った。
 なるべく多くを巻き込んで倒す。仲間は誰も傷つかせない。
涼子が全身から放つ絶対の気迫は、触れようとしたものを毒で蝕み、麻痺させた。
「……もう、殺してやることしかできないけど」
 そう言うなり涼子は袖をめくり上げた。さあと、立ち上がったノーフェイスたちへ白い腕を差し出す。
「せめて、わたしの血と肉を持っていきな。遠慮はいらない。力のないひとを嚙むより、気は楽でしょう?」
一時でも理性を取り戻し、化け物としてではなくリベリスタとして死んで欲しい。
「大丈夫。アンタたちに嚙まれたぐらいで、わたしは死なない」
 さあ、と涼子は一歩前に歩を進めて腕をつきだす。
 が、ノーフェイスたちは動かない。
 唇が切れるほど歯を食い込ませ、目の端から血の涙を流しながら、最後の意地を持って悪魔のささやきに抗っている。
 涼子の胸がきゅっと締めつけられたように痛んだ。
ああ、やはり目の前に立つのはリベリスタ!
「……すまねぇ。アンタたちの無念は必ず晴らすからな!」
立ちすくむノーフェイスたちに一悟は突貫をかけた。
繰り出す拳が飛翔する刃となって運命を失った体を切り刻んでいく。あとに咲くは鮮血の花。倒れるノーフェイスたちの顔が、呪いから解放されて微笑んでいる。
拳を振り切った一悟の頬には涙の筋が引かれていた。
「ふん! お涙ちょうだいの安い芝居見せやがって。虫唾が走る」
 切り込んできたのは黒いマントを羽織る『黒い太陽』の狂信者、デュランダルだ。すぐ後ろに続いてくるのは、恐らくダークナイトか。ノーフェイスの壁が崩れたところからひと塊になってなだれてきた。
 ひとりが一悟と涼子の脇を通り抜け、秋火を突破してアリステアに迫る。
 涼が黒いコートの裾を翻しつつ、狂信者の前に立ちはだかった。
「おいおい。優しさ忘れて心を閉ざし、痛みと憎しみを断罪の刃に変えて振るナイトの存在を――」
 デュランダルは涼を無視してアリステアに切りかかった。
「オレのプリンセスに近づくんじゃねぇ!」
 狂信者の剣を腕ごと切り落としたのは不可視の刃。殴りかかったコートの袖口に仕込まれた極薄の刃だ。
 肘から先をずっぱりと切り落とされ、デュランダルは傷口を抱くようにしてうずくまった。
「いくよ、蛇の瞳に跪いて頭を垂れろ」
 ターシャの宣言とともに空に渦巻くかまいたちが解き放たれる。
 無数の刃はデュランダルの後ろで攻撃動作に入ったダークナイトと、左右から押し寄せてくるノーフェイスたちを巻き込んで切り裂いた。
「可哀想だけど、もう眠ってくれないか」
 こうなってしまった以上はもう助からない。ならば、死後の体をネクロマンサーの手駒として使われないよう、心を鬼にして切り刻むのみ。
 輝く首飾りのエメラルドの下で詫びをいれながら、ターシャは怒りを天に姿を見せた巨大な浮島へぶつけた。
「ホント、いい加減にしてくれよ、ペリーシュ卿」
 倒しても、倒しても尽きぬノーフェイスたち。覚悟を決めて戦うも、助けてと叫ばれれば胸がつぶれる思いをする。立ちすくめばたちまち囲まれて、肉を食いちぎられ、血を啜られる。
「少しでも自分の意志で動けるなら協力してほしい。アークに攻め込んできた馬鹿どもにやられっぱなしは悔しいでしょ」
 綺沙羅が振るうは殺さずの誓いを乗せたボード。血肉を食われてなお、ともに戦えと訴えかける。
 リベリスタ、ノーフェイス。どちらも殺し合いなど望んでいないのだ。だが、止められない、止まらない。
 血が血を呼ぶこの地獄は、すべて一人の男が作りだしたアーティファクトのせい――
「うぉぉぉっ!」
 一悟が吼えた。
 燃える拳を天に向かって突き上げ、剣を構えた狂信者を炎の柱で焼き払う。
「なにが『黒い太陽』だ。こんな狂ったものを作りだすヤツに支配されるなんてなんて、オレはまっぴらごめんだぜ!」
 隙を見せた一悟の脇腹へノーフェイスの牙が迫る。
「やりたくはないが、……やらないわけにはいかん。俺にはお前を救うこともできん。だから、恨んでくれても構わない!」
 振り上げた長い脚。涼の黒いコートが寒風を切って翻る。
 目に見えぬ刃がノーフェイスの首を切り落とした。
「皆がちゃんと動けるようにするのが私の大切なお仕事だから」
 アリステアはコートを翻す背中に少しだけ想いを馳せつつ、天に祈った。
 敵味方、混戦状態に陥った戦場を天から下ろされた聖なる息吹が渡り抜けていく。
 涼の黒いコートが血に濡れて光ってた。致命傷はすかさず癒しているものの、やはり心配だ。ほかの仲間にも気を配りつつ、それでも恋人をアリステアは第一に気にしてしまう。
 狂信者のホーリーメイガスを追って走り出した涼と、ほんの一瞬目があった。からみ合い、ほどけた視線に体が震える。
 ああ、こんなところで愛する人を、大切な仲間たちを、絶対に死なせはしない。
 死神の纏う闇を払うべく、聖なる息吹が再び戦場を吹き抜けた。


 どさ、と音をたててアークの制服を着た女が倒れた。腕の噛み痕を手で押さえながら、綺沙羅は首を巡らせる。
 ノーフェイスたちは依然として数を残していた。狂信者の何人かが逃げ出すのを確認しているが、それでも敵の方が圧倒的に多い。その敵の中に、要注意人物がまだ隠れ潜んでいる。
 綺沙羅は超直観を頼りにクルトの居場所を探っていた。例え変装していても、金と暴力に酔った音楽性の無い馬鹿との見分けくらいはできる自信はある。
 が、なかなか見つからない。
 武器となる死体を常に隠さなくてはならない楽団員の隠蔽術レベルは高い。日々、必要に迫られて高められ、極まったそれは楽器の演奏技術とともに芸術の域に達している。感で見破れるほど甘くはなかったか――
 かわりに綺沙羅が見つけたのは、立ち止まって長い呪文を詠唱する狂信者だ。
「面倒くさいわね、まったく」
 朱雀招来。
 聖獣が纏う業火が、狂信者とその周りに倒れる死体ともろとも焼き尽くしていく。
「見つけられないのなら、仕方がない」
 死体は残らず片づけなければ、と秋火が小太刀を振るう。触れたものすべてを凍らせる刃がノーフェイスたちの体を慈悲深く切り刻んでいく。
 ここにきてようやく、死臭ただよう戦場に開けた場所がいくつもできていた。一見すると状況はアーク有利。だが、地に伏した死体をいま、ネクロマンサーに使われでもしたら――
 肩で息をするリベリスタたちの耳に、チコーリアの歌声が流れ込む。ところどころ、意識的に音程を外した歌は“フィンランディア賛歌”。帝政ロシアの圧政に苦しむフィンランドの人々を鼓舞し奮い立たせた歌。
 チコーリアはクルトのためにフィンランディア賛歌を選んでいた。クルトの祖国フィンランドで今も深く愛されている歌であり、チコーリアがまだ覚醒する以前にクルトが日本で指揮者として立った舞台で上演した曲でもある。
 果たして狂信者たちの中に片耳を手でふさぎ、立ち止まった男がいた。
「見つけたぜ!!」
 涼が疾風となって戦場を駆ける。
 アリステアの心を悩ませるものは何であろうとこの俺が排除する。これ以上死霊術とか胸クソ悪い事をされて、優しい彼女の心を傷つけさせるわけにはいかない。
 涼は握った拳を力強く後ろへ引いた。
「悪いが、一瞬で終わらせて貰おう――!」
 歯を食いしばり、目を剥いたクルトの腕の中で炎が燃えたち緋色のファゴットが現れる。
「だめぇぇーーっ!」
 アスファルトを砕いて踏み込んだ涼の足が、長い傷跡を残しながらネクロマンサーのすぐ前で止まった。
 頭の後ろで拳がやり場のない怒りに震えている。
 チコーリアだった。
 現れたファゴットごと、庇うようにクルトの体に腕を回して張りついていた。
「どけ!」
「いやなのだ!」
「くそ、何を考えている。フィクサードを庇うリベリスタがいるか! そこの男が寸でとどまらなければ、背骨をずたずたに切り砕かれて死んでいたぞ」
 チコーリアは体から引きはがそうとするクルトに抗って、さらにきつくしがみついた。
 もし、クルトが自分を殺して手駒にしようとしたら、その時は己の体ごとクルトを運命の業火で焼き殺すつもりだ。
「何もしないでこのまま帰ってくださいなのだ」
 少女の涙に戦意を失ったのか、クルトはチコーリアを抱きかかえたまま座り込んだ。
「煮るなり焼くなり好きにしろ。ただ、これだけは壊さないでくれ。頼む」
 ネクロマンサーが使わなければただの楽器だからと、チコーリアを引き離し、肩から外した『死祭者の歓楽器』を涼に差し出す。
「……あほらしい。とっとと失せろ」
 狂信者とノーフェイスを倒し切ったリベリスタたちが集まってきた。
「フィクサードのクセに激甘だな、あんた」と一悟。
 涼と同じくやはりあきれ顔だ。
「はい」、と綺沙羅は小さなものを投げた。
「男物だからアシュレイのものじゃないはず。探し物はこれ? ただのカフスボタンだけど」
 綺沙羅は後始末を仲間たちに任せ、工房内を隈なく探し回った。がやはりケイオスの壊界器は見つからなかった。
 其処にあるはずがない。なぜならそれは『塔の魔女』がしっかりと持ち去っているのだから。
「何処の誰の情報に踊らされたかは知らないが、そんなもののために命を落としに来るとは酔狂な奴だな」
 秋火が蔑みのこもった声をぶつける。
「ほんと、君、何しに態々来たのさ」とターシャ。
「どうしてケイオスさんのアーティファクトが必要なのだ? そんなもの、クルトさんには必要ないのだ」
 クルトはてのひらの上でカフスボタンを転がした。
「ネクロマンサーに生まれついたというだけで、ほとんどの者が己が何者であるかを理解する前にヴァチカンに殺される。突然の襲撃を生き残っても、神父たちに見つかることを恐れて一生を影の中に身を潜ませ孤独に過ごす。ネクロマンシーとともに送られた音楽の才能を開かせることなく……音と音を重ねて響かせる喜びを知り得ることなく死んでいく」
 クルトは立ち上がった。
「楽団は、ケイオスはネクロマンサーたちの拠り所だった。世間の冷たい雨から、厳しい暑さの日差しから、わたしたちを守ってくれた大きな木だった。そのケイオスの理想を継ごうにも、いまのわたしには仲間を助け守りぬく力がない。だから――」
 クルトはチコーリアの頭に手を置いて、目を涼に寄り添い立つアリステアへ向けた。
「解ってくれとはいわない。だが、これだけは言わせてくれ。呪われた死体使いにも魂はある、と」

 ふがっ――!!

 チコーリアが上げた素っ頓狂な声に誰もが気を取られた。その隙に、クルトはファゴットともに姿を消した。
「もがもが……ぺっ!」
 チコーリアが吐き出したのは、W.P.の刻印が打たれたハート形のアーティファクト。それは狂信者たちが捕えたリベリスタをノーフェイスに変えるのに使ったもの。混乱する戦場で、どさくさにまぎれに殺した狂信者からクルトがせしめたものだった。
「悪趣味にもほどがあるぜ!」
 一悟はためらうことなく、ありったけの力を込めてアーティファクトを踏み潰した。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
成功です。
ノーフェイスたちをすべて倒して、狂信者を退けました。
アシュレイの元工房にケイオスの破界器が残されているという噂はやはり嘘だったようです。
誰が何のために流したのか……。
フィクサードらしからぬその半端な甘さ故に、クルト・グィーデンは再びリベリスタたちの情けを受けて生き延びています。

さて、これからが本番。
勇者たちにご武運を――