● 英国、スコットランド・ヤード本部の会議室。 椅子にちょこんと座らされていたリベリスタ達は、くたびれたコートを着た如何にも刑事然とした男の言葉を待っている。 特にシーヴ・ビルト(BNE004713)は落ち着きなく周囲を興味深そうに見つめているのが印象的だ。 「よく来てくれた! アークの探偵諸君!」 「た、探偵……? 私たち、探偵として召集されたの?」 大きな桃色の眸を瞬かせた『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)は飛行機に乗る前に謎の紙切れ一つ押し付けてきた薄桃色のフォーチュナを思い出し、くらりとする。 ヤードから呼ばれてるからお願いね、と半ば押し付ける様に任務を請け負った淑子にとっても、お菓子を手渡されて嬉しそうなシーヴにとっても予想だにしない状況だ。 「それで、探偵とは? 何か事件を解き明かすのですか?」 「察しが良くて嬉しいよ、lady。……最近、我々が困っている怪盗が居てね、挑戦状が届いたのだ」 ゴードン・ロックヘッド刑事がお菓子に夢中のシーヴの相手をする『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)へと神妙な顔つきで告げる。 「ちょうせんじょう? おもしろそう! メリッサおねーさん、みてみて!」 「どれ……? あ、ああ……」 ずい、とシーヴが差し出したのは淑子がフォーチュナから押し付けられていた紙切れと同じもの。 簡易的な暗号文が書かれたその紙切れに刑事は「準備が良い探偵たちだ」と頷く。 むっと唇を尖らせながら悩む『アカシック・セクレタリー』サマエル・サーペンタリウス(BNE002537)が赤い瞳を刑事に向ける。不機嫌な訳ではないが、考え事に浸って居たのだろうか。表情筋は硬いままだ。 「この暗号をどうするんだい? 犯人を捕まえて殴る――訳にも行かないのかな」 「非常にすばしっこい奴で……我々の間では怪盗アルパ仮面と呼ばれている」 ぴくり、と体を揺らしたのは『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)と『相反に抗す理』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)。リリは「アルパカ様ですか……」と神妙に呟き、光介は何処からか出した眼鏡を掛ける。 「ま、まさか……彼の噂はジャパンにまで轟いて――!?」 「それはないですが、そうですか、アルパカ……そうですか……」 「どうしたっていうんです!?」 何故か突然空気感の変わったアークのリベリスタ。 驚く刑事は、君達を読んだのは自分は頭が固いから謎を解けないし、それより、何か君達素晴らしい知恵があるって電話でフォーチュナが言ってた! との事だった。 「野生のフィッシュ&チップスがいると聞いたんですが」 「さあ……最近は見かけませんね。日本で食べるフィッシュ&チップスは飼いならされた物でしょう」 此方は本場と胸を張る刑事に存在してたんだと震える声で吐き出した光介。 話が横道にそれていくのを正したリリへと刑事は真剣な表情で告げた。 暗号を解き明かして、宝を護って欲しい、と。 それが今回(何も聞かされずに無理やり連れて来られた)アークへのオーダーなのだという。 「彼の挑戦状に書いてある通りの場所にこの『[???]』に当てはまる数字を入力すれば宝箱が開きます。 その宝を護り切って欲しい――一度手にしても油断してはいけない! 彼はしぶとく宝を狙ってくるでしょうな。変装も得意としてますし……何ですかな、その目は」 「本物、ですか?」 「私は勿論本物です。なんなら、武勇伝をお聞かせしましょうか。それか娘のジェニファーの話しでも……」 結構、と話しを切ったメリッサが話しの続きを促した。冷静な顔に戻った刑事はリベリスタへ言い放った。 「彼が奪うと予告してきたのは……『光り輝く黄金の毛並みのかぴばら』!」 ●ちょうせんじょう 3 10 6 1 7 = 2 9 1 4 10 5 = 10 60 1 25 10 5 = [???] 王にツノとシッポが生えた銅像の さんかくなのにしかくのものの中に宝箱が隠されている。 宝箱からお宝を取り出す為には[???]を入力するのだ! (・´ェ`・)どっちが早くゲットするか勝負するのだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:EASY | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月14日(日)22:06 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●ちょうせんじょう じ、と書かれた文字列を眺めながら首を傾げた『アカシック・セクレタリー』サマエル・サーペンタリウス(BNE002537)の雰囲気から察したのか、スコットランド・ヤードの刑事は小さく頷く。 彼女が手にしているのは『怪盗アルパ仮面』を名乗るフィクサード(多分)が送付ししてきた挑戦状のコピーだ。 訳も分からず極東のアークから派遣されたら待ち受けていたのは謎解きと怪盗を捕まえろと言う冗句の様な状態だったのだから笑えない。現に、サマエルの紅い瞳には光りは宿っては居ない。 「……ふふ、大丈夫。僕達に任せてくれればね」 「……お、おう」 その表情からは、任せるとは言えなかった。 同じ様にスコットランド・ヤードに設置された――正直、設置されたと言っていいのか分からない。対策本部と名付けた会議室では『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)も父母に祈りを捧げる勢いで頭を抱えていた。 挑戦状に書かれた数字の列の意味が分からない。普通の計算をしてみても会わないし、そもそも、普通の計算とは何だったのだろうか。桃色の眸に浮かんだ不安は周囲の解けたと笑い合うアークのリベリスタ達を見据えて、どうしましょうと更に濁り出す。 「暗号の答えはっ」 「ちょっと待って。待ってね……ええと……」 ふふーと笑みを漏らしながらシーヴ・ビルト(BNE004713)がドヤ顔で告げようとするのを遮って淑子が頭を抱えている。 こてん、と首を傾げる彼女は「アルパ仮面……! 怪盗! メリッサおねーさん、怪盗ですっ!」と両手をブンブンと振りまわして居る。会議室ではしゃぐ彼女はこの場で誰よりも純粋であるように思えた。 「ええ。怪盗……読み物の中だけの存在と思っていました。ですが、実在していたのですね……」 悩ましげに柳眉を寄せた『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)の一言にシーヴが大きく頷いた。 アルパ仮面と呼ばれる怪盗はメリッサの中では現在に蘇ったアルセーヌ・ルパンを想像されているのだろう。稀代の大怪盗もアルパカの仮面を被った怪盗と一緒にされては堪ったものじゃないだろうが、可愛いから許される。 「でもでも>< 怪盗アルパ仮面の犯行を止めてみせるのですっ! じっちゃんの名にかけてっ! あっ、じっちゃんいなかったのです。ふにゃ、んーと……ばっちゃん? んーうー、シェルン様の名にかけて!」 紆余曲折かけて、ラ・ル・カーナの名をかけたシーヴ。神妙な顔をしたメリッサは「一体何者、いえ、何パカなのでしょうか……」と小さく呟いた。 何者、いや、何パカか分からない怪盗を思い浮かべる『相反に抗す理』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)はまさかと口元を両手で覆う。震える指先は、夏の思い出を思い浮かべる様で――彼女は、そっと眸を伏せて「まさか……あの夏の日を思い出させますね……」と一人、打ち震えていた。 「まさか……リリさんも。ええ、ボクもですよ」 会議室の片隅で出汁のグラスを煽った『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介(BNE003658)が項垂れる。さながら、場末のバーを思わせるその光景にサマエルが「Wow……」と小さく囁いた。表情を隠したのは彼が愛用する帽子。目尻に浮かんだ雫を隠す様にハードボイルドな彼は唇を震わせて小さく息を吐いた。 「友よ……野生の――野生のがんもどきよ……」 「なんですか、それは」 冷静なメリッサの言葉さえも聞こえずに項垂れて行く光介。神妙な面立ちで「野生の……」と呟くリリは手にした銃を見詰めて、彼の言う友を撃つが時が来るのだろうかと己の運命を呪っていた。何故、呪ったのか分からないが、何か思う所があったのかもしれない。 そう、彼は友を失ったあの日から胸に巣食う喪失感を埋めるために遥々やってきたのだ。 この場所に。この、イギリスに―― 「アルパ仮面……」 友の不在を埋めてくれる好敵手。怪盗アルパ仮面とまみえる為に……。そっと伏せった顔をあげて彼はぐっと出汁を煽った。 羊のハードな物語――第二章、開幕。 ●あるぱか 「うう、やっと解けたわ……」 項垂れる淑子の隣ですがすがしい顔でリリが「深淵を覗く!」と宣言している。魔術知識Ⅱと幻想殺しと言う名のゴリ押しをするリリにこの中で一番深淵を覗いていたサマエルがキメ顔で立ち上がった。 時刻は予告時間過ぎ。静けさの漂う美術館に並んだ銅像を見るに光介がきょろきょろと周囲を見回した。 幻想殺し(ゴリ押し)のリリはむっと唇を尖らせて仲間達と離れた位置から周囲を見回す。彼女の持ち前の射撃スキルは『魔弾の射手』と呼ばれただけ事はあるだろう。 「魔術関係以外はさっぱりですから……これくらいは。大丈夫。手品にも魔術にもすいかにも種があります」 「そうそう、あるある」 「ですよね。見極めれば怖くな……」 ――誰と喋ったのだろう。 「兎に角、お祈りを始めましょう。何時も通り……」 お分かり頂けたであろうか。 『仲間達と離れた位置』で行動するリリ・シュヴァイヤー(22)の表情が段々と曇る。魔術知識Ⅱ(ゴリ押し)の彼女は不意打ちに驚いた様にそっとロザリオを握りしめ、「Amen」と囁いた。 「リリさん……?」 「そろそろ答え合わせ>< 問題は解けたかなー?」 首を傾げたメリッサにきゃっきゃとはしゃぐシーヴは並ぶ銅像を眺めて「カバさんだー!」と笑みを浮かべる。カバさんは何も関係ないが、何だか異様にでかくオーラを放っていた。 「任せて欲しい。隠されているのはカピバラ。日本語で鬼天竺鼠……Demon Paradise Rat……DPL。DPL……!」 「まあ、隠されているのはカピバラだものね」 頷きながらも何が起こるのか分からないと淑子が首を傾げる。サマエルの推理に光介が「それで」と緊張した様に告げた。 「暗号? うん、さっぱりわからない。1から順番に入れればきっと大丈夫。 三角で四角もわかんない。八面半八面体octahemioctahedronの事?」 「悪魔の召喚みたい><」 シーヴの言う事も分からなくはない。禍々しい。何とも禍々しさを感じるその雰囲気に眸を輝かせたシーヴは「凄い><」と嬉しそうに両手をぱたぱた。メリッサは迷走する推理を促す様に、それで、とサマエルの言葉を待った。 「王に角と尻尾って何? Satan? 悪魔崇は―― ……わかった。怪盗アルパ仮面、貴方の正体は……ソロモンの魔王だね」 キメ顔だった。 「まじかよ」とリリの口からあるまじき言葉が漏れる位に。口元を押さえた淑子がそっと箸で持参してきたからあげをタッパーから摘み上げ見つめる。 「……合言葉は?」 神妙な面立ちの淑子にメリッサが「まさか」と呟く。一人、離れた位置にいたリリなのだ。もしかして、と仲間達が疑うのは仕方がない。 「からあげです!」 後ろから走り寄ってきたからあげ魔人、失礼、サキュバ……リリは眸を輝かせ、リリ(偽)を指差す。よくも、と言いたげな彼女はなぜか油に塗れていた。何に襲われていたのかは分からないが、油濡れの聖女は「や、野生のフィッシュ&チップスが……!」と声を震わせる。 「や、野生のフィッシュ&チップス……!?」 友を思い出し、大きく振り仰ぐ光介が鋭い眼光(だが、羊だ)をリリへと向ける。リリ(偽)は小さく笑って「暗号は解けたかな!」と両手を広げた。リリ(偽)は良く見ればちょっとだけもこもこしていた。マカイヤっぽい毛がちら見せでセクシーな状態だったが、普段から聖女にはあるまじきセクシーっぷりを発揮してるから、仕方ない。シャワー回もあったもんね。……いやらしいな! 「これは石頭のヤードには少々難しく、頭が良ければより難解になる問題ですが――成程、舐められたものですね」 メリッサの言葉にシーヴが「日本が好きなのかな? 漢字はゲームで覚えたもんっ」と胸を張る。 眼鏡をくい、と上げた光介など「嫌な因果ではありませんか――ねぇ?」と淑子へと視線を向けた。 「10と1を漢数字にすれば自ずと見えるものだったのね……! 十(プラス)と一(マイナス)。だから答えは――」 「そう、40」 リリ(偽)の頭がアルパカに変化している。ソロモンの魔王ではなくからあげの魔王に成りかけたアルパ仮面の動きを警戒する様にリリが銃を構え、声を震わせた。 「ならば、隠し場所は……」 「じゃじゃーん。王に角としっぽ? 漢字に落書きしたらわかるのですっ><」 どこからか取りだしたホワイトボードにきゅっきゅと描いたシーヴ。メリッサは「角としっぽを生やせば羊」となると光介へと視線を送る。 「本当に嫌な因果ですよ……」 「ええ。羊違いですものね。『さんかく』なのに『しかく』――三画なのに四角になるのは、つまり『口』です」 だっと走り始めるリベリスタとアルパ仮面。行く先に在るのは羊の銅像。決して光介の銅像ではない。 ●かぴばら 「一日千秋、この出会いを渇望しましたよ……パカさん!」 声を張り上げる羊の銅像。デジカメを手にしながらあれもこれもと写真を撮り続けるサマエルのシャッターがアルパ仮面を捉える。 「……っ!」 ぱたぱたと身体で感情を表現してみるサマエル。言葉を喋っていたけれど、でもアルパカだもの。 もしかしたら、さっきの言葉が幻聴だったのかもしれないし。ぱたぱたぱた。 「暗号を解いてくれてありがとう! 鬼ごっこを始めようか!」 「貴方、解けて無かったというの!?」 驚愕の新事実に思わずバベルを通して話しかけた淑子。言葉は理解しているけれど、向こうの言ってる事はあんまり理解できない気がしてきた。傍から聞けばパカパカ言ってる。 「パカァ……」 「あ、あら……素敵なお声……」 頬を染める淑子が首を振る。出会ったばかりの誰とも分からぬアルパカに心揺れ動かされるなんて不覚そのものだ。きゅ、と胸が締め付けられるような気がして、淑子がふるふると首を振る。 きゅん、としていたリリがあつあつのフィッシュ&チップスに畏れ慄きながらも彼が手にしたカピバラを目にして走り寄って行く。 「パ→カァ↓」 あの夏の日、アルパカと交わしたアルパカ語で『盗みはいけません』と囁くリリ。 彼女の声に顔を上げたアルパ仮面はニヒルな笑みをアルパカマスクに浮かべて彼女を見遣る。唇が気持ち悪く動いている。うねうねと動く唇はまるで草でも捕食しているかのような自然体だった。 (・´ェ`・)<パ→カァ↓……(切なげな吐息) 「この胸の高鳴りは……なんでしょうか、これは……」 とくん、と高鳴る胸にメリッサが瞬く。今まで感じた事のない様なこれは――「風邪、でしょうか」 風邪ですか、と驚いた様に両手をぱたぱた振るシーヴ。心配するかのような彼女は全くと言っていいほどアルパ仮面のテノールの効果は無い。むしろ、ときめきを知らないいたいけな少女の様に「待てー」と両手を振りまわして居る。 さっと隠れるアルパ仮面を追いかければ、地面にてんてんと置いてあるチョコレート。思わず瞬くシーヴの目が追いかけて行けば箱に入ったチョコレートが鎮座している。勿論、簡単な捕獲の仕掛けがあからさまな程に仕掛けられている。 「お菓子発見ーっ」 きらきらと眸を輝かせる彼女がチョコレートを拾いながらゆっくりと籠の方へと近づいていく。はっとしたメリッサが「シーヴ!」と叱りつける様に彼女を呼んだ。 「拾い食いはダメですよ。野生のフィッシュ&チップスの罠かもしれませんから」 「はっ! 拾い食いしないもん。吊られてないもんっ、ちょっと気になっただけだもんっ」 近くにいるのかなときょろきょろと見回す彼女が石像にぺたりと手で触れる。万象疎通でアホウドリの石像へと「変な人来なかった?」と問い掛けるシーヴは至って真剣な表情を見せる。所謂キリッっとした顔だ。 ・Σ・<アジャラパー 変な人はお前だ、と言われた気がした。 一方で地図を手にしたサマエルは無駄にシルバーのいい水鉄砲を手に標的を探している。デジカメに撮影した景色と違う部分は無いかと観察する彼女の目に留まったのは不自然な場所に存在する石像。 「成程――君かい?」 打ち出された水鉄砲にもふもふの身体が汚されて「パカッ」と驚愕を浮かべるアルパ仮面。サマエルが唇を吊り上げ、「そう簡単に乾かないでしょ?」と笑いかければ、背後からからあげを手にしたリリが油塗れのまま走り寄ってくる。 「私は貴方の正体を知りたくない――アルパカさんではなく、野生のがんもパカさんだったらどうしよう……。 そんな気持ちが、躊躇させるのです。できれば、もふもふ……貴方を傷つけたくありません。だから、平和的に」 解決しましょうと油まみれの手でもふり、と触れたアルパ仮面の身体に夏の思い出が胸を過ぎった様な気がしてはっと手を引いた。 WPと書かれたカピバラは良く見れば、ホワイトピースと書かれている。何の心配をしたんだろうとリリは渾身の一撃をアルパ仮面に放つが、ひらりと躱される。 ひゅ、っと目の前を通り過ぎるカードにリリが「わ、」と声を上げる。彼女の気持ちを汲み取ったかのようにカードには「アルパ仮面」と嫌になる位達筆で書かれていた。 ●かいとう 怪盗を捕まえねば、と走り回る彼女らの中で淑子が周囲の美術品に気を配りながら走り回る。時折、カピバラはリベリスタ側に来るが、直ぐにアルパ仮面が(上から)取りに来てしまう。 「その手強さ! そのもふもふ! まさに好敵手!」 負けて堪るかと奔走する来年の干支。懸命な彼を補佐する様にリリが油濡れのまま走り出す。 一部のファンならば油濡れのリリにいかがわしい想いを抱くだろうが、この場のリベリスタの気持ちは皆アルパカに向いていた。寧ろ、リリ本人もアルパカの虜になっていたのだ。 「意固地な子、と言われるけれど負けないわ。構って欲しいのかしらね?」 銅像の中に仕込まれた宝。その暗号を知るアルパカが構って欲しがりなのかしら、と首を傾げた淑子に応える声はない。有ったとしてもパカという無意味な鳴き声だけだ。 当のアルパ仮面は遊ぶのが大好きなのか変装を行ったり石像を動かしたりと大騒ぎしている。石像が動けば器用に避ける光介がハードボイルドに汚れを拭い走り出し、シーヴがお菓子を拾ってはメリッサが叱る声を発している。 大混乱の美術館でサマエルが頬に付いた汚れを拭いながら不敵な笑みを浮かべれば、傍らのアルパ仮面がニヒルな笑みでテノールを響かせた。 「中々やるね?」 反撃する様にワイヤーを使い宙をくるりと舞うサマエルのアクロバティックさにシーヴがきゃっきゃと声を上げ、「そいつがアルパ仮面だー!」とサブカルチャーの充実したボトムでの知識を披露する。 「大人しくお縄につくのですっ!」 ひょい、と飛んできたカピバラをシーヴがはっとしたようにメリッサへと投げ渡す。 名付けて『あるてぃめっときゃのん投法』。くるくると投げ込まれるかぴばらをしっかりとキャッチシタメリッサがカピバラをもふもふとしながら「このまま捕まえましょう!」とリベリスタへと声をかける。 「「OK」」 「二人……!?」 はっと顔を上げる光介の前にワイヤーアクションを器用に行うサマエルが二人。驚いた様に瞬く彼女がそっとうさみみを付けた所で、ぎょっとしたサマエル(偽)が「パカァ」と鳴いた。 「あんまり喧嘩したくないんだ。貴方のしたいことは競争だよね?」 その声に応えずに闇の中に消えたアルパ仮面に光介が「パカさん……」と両の掌に力を込める。 カピバラへと近寄った淑子が優しい手つきで撫でれば、やはり掌に感じたもふもふに安堵を感じられる。 「お疲れ様です。あいつは逃げましたかね。野生のフィッシュ&チップスも入りこんでいた様で……」 カピバラ預かりましょうか、と手を差し伸べるゴートン刑事にサマエルが瞬く。 淑子はゆっくり振り向いて、桃色の眸へと笑みを浮かべた。勿論、メリッサも同じだ。誰もが突然、現場に足を踏み入れた刑事の姿を見詰めている。 「ええ、ゴートン刑事。――合言葉は教えた筈ですよ?」 静まり返った美術館。舞台となったその場所で、名探偵はその怜悧な眸を刑事へと向けた。 「これはうっかり――」 からからと笑った刑事から溢れだすモフモフに地面を踏みしめたメリッサが手を伸ばす。指先を掠める毛並みにワカイヤの面影を感じて、彼女は瞬いた。 「観光しよ、観光。美味しいの食べたい」 ぱたぱたと手を動かすサマエルにリリが「生きが良いフィッシュ&チップスとかどうでしょうか」と提案する。 静けさに残ったのは光り輝く黄金の毛並みのかぴばら。抱きかかえたメリッサはもふもふが保たれている事にほっと胸を撫で下ろす。 「……フィッシュ&チップス。野生ですか。成程、養殖ではなくて」 「はい。あれは養殖モノじゃない……生きの良さでしたから」 頷くリリに光介は調査が必要だとキャップを被り直す。ハードボイルドな男の背には何時だってがんもどき。がんもどきとの思い出を背負った彼は切なげに吐息を漏らした。 月明かりの射しこむ窓から、シュッと投げ込まれたカードをキャッチしたメリッサが小さく笑う。 「探偵(こちら)の勝利ですね?」 「次は負けない……? こっちも負けません>< わーい、みっしょんこんぷりーと!」 カードを読み上げてハイタッチをねだったシーヴにハイタッチ。 頑張ったからいいでしょうと柔らかく笑った彼女の手にはもふもふのカピバラが残されていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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