●ウィルモフ・ペリーシュ ウィルモフ・ペリーシュと呼ばれる魔術師がいる。 バロックナイツ一位の名を冠するその魔術師は、古今東西全ての魔術を極めたという。さりとて彼はそこに留まらない。さらに魔術に没頭し、様々なアーティファクトを創造した。 そして彼は己の最終目的を『神』を超えることと定義する。だが彼が『神』として見ていた――事実、彼女は異世界の神だったのだが――ニャルラトテップはアークにより放逐される。 その経緯はともあれ、結果として神を出し抜いたペリーシュの矛先はアークに向くことになった。手始めに彼は日本に上陸する。アークは結果としてペリーシュの一軍を食い止めはしたが、当のウィルモア・ペリーシュの持つ『聖杯』の力により、街一つが壊滅状態となった。その脅威に慄くアーク。 そしてペリーシュは街一つ分の人間を飲み込んだ『聖杯』の魔力をいかにも彼らしいやり方で昇華する。空に浮かぶ巨大な城。それを『創造』するために。遥か高みからアークを見下ろし、その主砲で叩き潰す為に。 ●アーク 「観光の時間だ、おまえ達。場所は空に浮かぶ白亜の城だ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、説明を開始する。 「白いのか?」 「さてな。それは兎も角ウィルモア・ペリーシュは三高平のセンタービルを目指している。こちらに散々恐怖を与えてから、一撃で潰そうという考えだろうな。エンターテイメントとしては一流といわざるを得まい。 何せこちらに反撃の機会を与えてくれるのだから」 伸暁の言葉と共にモニターに映し出されるのは、巨大な砲身。かつての戦いでミラーミスへ鉄槌を加えた『神威』。 「コイツであの城に穴を開ける。そこからなかに侵入し、ペリーシュのいる塔を目指してもらう。道案内は不要だろう。馬鹿でかい塔を目指せばいいのだから。 勿論、妨害はあるだろうがな」 モニターが切り替わり、黒い馬に乗った全身黒の鎧が映し出される。先のペリーシュ戦において、リベリスタを退けた自立型アーティファクト・ペリーシュナイト。通称―― 「『黒騎士』。厄介なアーティファクトをデコったヤツだ。おまえ達が向かう時間帯にこいつがこの橋の上を移動する。悪いがおまえ達、この黒騎士を排除してくれ」 軽く伸暁が告げる。だがこのペリーシュ・ナイトは過去に二度、リベリスタを退けている。簡単に勝てる相手ではない。ましてや前回からさらに力を増しているのだ。 「言いたいことは分かるさ、ブラザー。だが誰かが押さえておかないとコイツは橋を渡りきって『神威』があけた穴に向かう。退路を断たれれば城に乗り込んだリベリスタはデッドエンドだ」 言葉を詰まらせるリベリスタ。『神威』の連続発射ができない以上、侵入口は一つだけだ。誰が押さえておかなければならないという言葉は分からないでもない。 「行ってこいおまえ達。俺達は人間だ。その人間に敗れるという屈辱をあの魔術師に与えて、悔し涙を流させてやろうぜ」 ●ENEMY DATE 幻想纏いからデータが送られてくる。 『ペリーシュ・ナイト。 八つのアーティファクトから構成される自立型アーティファクト。本体は『戦士の集う場所』。 ・戦士の集う場所 倒した革醒者を食らい、そのスキルを奪う鎧です。 四つのモードが存在し、そのどれかが活性化しています。戦闘中、自分の順番時に行動を消費せずに入れ替えることができます。 共通:心なき存在:精神無効 モードA(攻撃型):「斬神無双」「剣熟練LV3」「剣戦闘マスタリー」 モードB(速度型):「鬼神」「雷光」「ダブルアクションマスタリー」 モードC(防御型):「絶対者」「無限再生」「非消滅概念」 モードD(特殊型):「反逆運命」「起死回生」「闘神」 ・英雄の剣 命を奪うたびに血肉を食らい、力を増す剣です。 誰かのHPを0にするたびに(ドラマ復活やフェイト復活時含む)、物攻と神攻が上昇します。同じ人が二度以上倒れても上昇します。 ・反英雄の盾 命知らずをあざ笑う盾です。 参加者全員の『フェイト最大数-現在のフェイト数』の合計分だけ物防と神防が上昇します。 ・天秤は常に正しく 神秘の力を奪う虚無のマントです。 着用者の手番時に、着用者から十メートル内キャラクターにかかっている付与が、全てブレイクされます。 ・鬼火宿る兜 目のような淡い光が敵を睨み、鬼火の呪いを与えます。 参加者全てに影響します。WP値とDra値が、自分のカオスゲージの三倍分増減します。カオスゲージがプラスなら増加し、マイナスなら減少します。 ・死の手甲 黒のオーラを放つ手甲です。魂を掴み地獄に引きずり込むといわれています。 戦場にいる生物(ペリーシュ・ナイトは含まない)は、毎ターン自身の最大HPの5%を失います。 ・無垢な乙女の祈り 乙女の祝福です。幼き頃からペリーシュを敬うように『教育』され、十二才の誕生日に少女自らの意思で全ての運命を捧げさせて得た祝福です。これにより難易度相応のステータス強化がなされています。 また、歪曲運命黙示録の効果を一度だけ打ち消します。消費された運命は帰ってきます。 ・機械仕掛けの名馬 ペリーシィナイトが騎乗する馬型の自立型アーティファクトです。騎乗者に以下の能力を加えます。 [ブロックに五人必要です][移動距離を+10mします][ノックバック無効][態勢無効] リベリスタの幸運を祈る』 ●ガンダーラ 「日本ではこういうとき『義によってお助けいたす』というのでしょうか」 手甲を填めたスーツの男がリベリスタの後ろから声をかける。 「破壊を生み出すだけの存在か。成程ここで止めねばならんな」 ゾウのビーストハーフが杖をついて現れる。 「刻ムデス! 戦ウデス!」 エスニックな衣装を着た少女が曲刀を手に自らを鼓舞する。 「始めまして。我等、『ガンダーラ』のリベリスタ。 『インドラ』『カーリー』『ガネーシャ』……ウィルモア・ペリーシュを討つべくお手伝いさせていただきます」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月22日(月)22:20 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●橋上の邂逅 ペリーシュナイト。黒騎士。『戦士の集う場所』に備え付けられた数多のアーティファクト。この存在を指す単語は様々だ。ウィルモフ・ペリーシュ自身も刺して興味を持ちはしない。自らが生み出した物の中で、それなりに使える程度の認識だろう。逆らわず掃除をする道具として。 今もまた、主の命を受けて邪魔者を切り刻むのみ。『馬』に乗り、橋を進む。 その橋に、リベリスタが待ち構える。 「さーて、こうも早く再戦の機会が巡って来るとは」 口元をにやりと笑みに変え、『無銘』布都 仕上(BNE005091)が拳を構える。以前相手した時は消化不良だった。歯牙にもかけられなかった思いが強い。今度こそどちらかが倒れるまでの勝負。負ければ後がないのは、アーク側なのだ。 「ここは通さないと言うべきか、待っていたと言うべきか」 『パラドクス・コンプレックス』織戸 離為(BNE005075)は炎の翼を広げて黒騎士を見た。心無く全てを殺す騎士と、心在って全てを拒む離為。両者は非常に似通っていて、そして決定的に異なる。 「『剛刃断魔』、参る」 悔しさと憎しみを瞳に宿し、『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)は抜刀する。ここで黒騎士を断つ。そしてペリーシュを討つ。あの魔術師をここで止めることが、世界を護ることなのだ。この刃はそのために在る。この正義はそのために在る。 「残念ながら私はとってもしつこいので、勝つまでやりますよ!」 『カインド・オブ・マジック』鳳 黎子(BNE003921)は愛用の鎌を手にして、黒騎士の前に立ちふさがる。ここで負ければもう後がない。それはペリーシュもアークも同じ事。互いに引けぬ状況で、黎子という魔術師は歩を進める。 「全力で参りいます」 幾多の戦争を経験し、そしてその中でも今こそが負けられぬ戦いと気合を入れる『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)。手袋を填め、ペリーシュナイトを見る。ただ一体のアーティファクト。それを侮るつもりはない。 「『黒騎士』……賢者の石回収騒動の時に破壊できなかった個体ですか」 『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)は以前黒騎士と交戦した時のことを思い出す。あの時よりも数を増したアーティファクト。おそらくは強くなっているのだろう。だが、こちらも成長しているのだ。 「気にいらねぇな」 『破壊者』ランディ・益母(BNE001403)は愛用の斧を振りかぶり、歯を軋ませながら言葉を吐く。圧倒的な才能を持ち、他者を塵芥のように扱うペリーシュ。それに生み出された尖兵。全てが気に入らない。だからぶっ潰す。 「血も肉も心も、繋がりも絆も縁も、全部ぶつけてやる。総力戦です」 突入口を塞ぎにいく黒騎士。それを止める為に『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が立ちふさがる。ペリーシュに才能が在るように、アークも今まで築いてきたものが在る。その全てをぶつけ、そして勝つ。 「正念場でまた会えるなんてね」 『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)は翼広げて十字架を手にする。ただ戦うだけの存在。奪うだけの存在。それだけのために作られた存在を、見過ごすことはできない。誰かを護ることが小夜香の戦う理由なのだから。 「ここでウィルモフを止めれなかったら、日本は終わりだ」 ペリーシュナイトをこのまま通せばどうなるか。それを意識して『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は拳を握る。この戦いは三高平の、そして日本の未来がかかっている。そのためには負けられない。 「作戦はあなたたちに任せます。魔術師の尖兵をここで止めましょう」 ガンダーラの友軍が構えを取る。ここに彼らがやってきたのもまた運命か。 言葉なく黒騎士が剣を構える。鋼の蹄が橋を蹴り、リベリスタに迫ってくる。 蹄の音を聞きながら、臆することなくリベリスタたちは破界器を構えた。 ●開戦 「じゃあ行くぜ!」 最初に動いたのはランディだ。斧を構え、一直線にペリーシュナイトに切りかかる。黒騎士の機先を制したことは大きい。裂帛と共に振りかぶる斧は破壊の象徴。高重量の一撃が黒騎士を襲う。 インパクトの瞬間にランディは魔力を解放する。練り上げた魔力が体から斧を伝い、穂先に届く。物理的な打撃と魔力的な衝撃。同時に叩きつけられる破壊の一撃。鉄と鉄がぶつかる合う音が、大きく響く。 「事前準備なんざいらん。そんな暇があるなら一撃加えるまでだ!」 「そうっすね。うちはいつも通り近づいてぶん殴る。其れだけっす」 かえるのフードを跳ね上げて、仕上が橋を架ける。わざわざ石の真ん中を踏むようにして移動するのは、彼女なりの余裕か遊びか。だが宿した闘志は強く、退くつもりはないと視線で告げる。 相手の動きを見る。器物とはいえ形は人体。腕や肩の動き、重心の移動などは変わらない。振るわれる剣を避けながら、拳を押し当て足を踏みしめる。大地を踏む力をコブ祖を通じて相手に伝えるように。土の拳は鎧を砕く。イメージは強く、そして一撃は鋭く。 「今度はドッチが朽ち果てるか、ハッキリ白黒つけようじゃないっすか!」 「黒星をつけるつもりは毛頭ありませんが」 黄金の槍を手にユーディスが猛る。悠然と歩を進めながら、リベリスタに指示を出すユーディス。戦の歴史から学ぶ様々な戦略。前に立つからこそ分かる戦士の動き。その二つを重ねて生まれる指揮が、戦場を支配する。 両手で槍を掴み、静かに腰を下ろす。その姿は槍を構える騎士ではなく、槍と一体化した騎士。一枚絵を思わせる美と、貫かれるという恐怖がそこにある。それも刹那。槍は踏み込みと共に突き出され、騎士の鎧に傷をつける。 「其方が武装を重ねたように、こちらも研鑽を積んだ。今度こそ破壊させていただきます」 「今度こそ皆を護り、癒し、支えましょう」 ふわり、と羽根を広げる小夜香。前の戦いでは止めることができず、悲劇を生んでしまった。その命のことを忘れない。そして今ここで黒騎士を止める。小夜香の心を支配するのは憎悪ではない。後悔とそして、戦意。 静かに手を組み、言葉を紡ぐ。祈りに使う単音節の言葉。その言葉に魔力を込めて、小夜香は回復の神秘を解き放つ。白の波動が戦場に広がり、リベリスタの傷を塞いでいく。小夜香は黒騎士を殴らない。ただ仲間を支え、癒す。それが彼女の戦い。 「そして哀れな少女に安らぎを」 「撤退なんて、甘っちょろいことなんか考えてる暇はねえな!」 夏栖斗はここでの戦いの意味を再認識する。このペリーシュナイトを通せば、『神威』が開けた穴まで到達される。そうなれば天空城からの出口を失うのだ。ここがデッドライン。通すわけには行かないのだ。 炎の紋様の入ったトンファーを構え、体内の気を爆発させる。その爆発をエネルギー源にして、黒騎士に踊りかかる。横なぎに一撃、跳ね上げるように一撃、返すように真上から叩きつける一撃。流れるような攻撃を黒騎士に叩き込む。 「おまえの敵は僕たちだ!」 「ええ。貴方を通すわけには行きません」 メガネを押し上げ凛子が告げる。飛行の加護を皆にかけ、呼吸を整える。僅かなミスが致命傷になりかねない。焦らず、しかし確実に。皆を支える癒し手として自分がやれることを頭の中で整理する。 体内にマナを循環させ、指の先まで行き届かせる。満ちる魔力を放出するように腕を振るい、戦場に癒しの魔力を行き届かせた。そして戦場を走るガンダーラたちに指示を出す。ヒンディー語は分からないが、言語の神秘があれば意図は通じる。 「配置は密集しない扇形で、インドラさんは癒やし手のかばい役をお願いします」 「後は『助太刀忝い』と伝えてください」 それだけ告げてうさぎも前に出る。黒騎士の足を止めるべく真正面に立ち半弧の破界器を手にした。短い刃は盾を持つ騎士との相性が悪い。だがそれは武具のみの相性。武具をうまく使いこなすのが人間。 ペリーシュナイトの正中線を見切る。そこが相手の攻撃の軸。力で押すならそこに打撃を叩きつける。うさぎは軸から攻撃の奇跡をイメージし、その攻撃の隙を縫うように近づく。相手の虚を突き、最大限の打撃を叩き込む。それがうさぎの戦法。 「正に修羅場ですね。修羅が居る場所という意味で」 「修羅ごとき断ち斬るのが蜂須賀の正義」 『童子切』を構え、臣が歩を進める。金の竜眼で黒騎士の兜の中を睨む。そこにあるのは青白い鬼火。揺らめく炎を見ながら、刀を縦に構えた。蜻蛉の構えと呼ばれる一撃必殺の構え。手首を返し、刃を黒騎士に向ける。 黒騎士の剣の間合。自分の刀の間合。それが生み出す制空圏。そこに入った瞬間に互いの得物が動き出す。振るわれる剣を刀で流しながら、さらに踏み込む臣。自らの間合に入った瞬間に刀を振るい、黒騎士に切りかかる。 「ウィルモフの野望を止めなければさながらこの世界は悪夢の様相を呈するだろう。それだけは、絶対に防がねばならない!」 「どの道これは存在自体が許せない」 離為は不可侵の壁を形成し、ペリーシュナイトを見た。拒絶する者と破壊する物。それゆえに相容れない二つの存在。拒絶を表す炎の翼を広げ、離為は凛子の側に立つ。守りぬくことこそが自分の役目。 ペリーシュナイトが黒の槍を生み出す。黒騎士の横に生まれた槍は、離為に向かい射出された。鎌を斜めに構え、回転するようにして槍を弾く。ふわり、と離為のドレスが浮かび上がり、回転する。槍ははるか彼方に飛び、そして消えた。 「今度は本来のスタイルを見せてあげる」 「ええ、ここで殺して見せましょう!」 アーティファクトですから壊す、ですか。そう言い直す黎子。どの道やることは変わらない。黎子が持つ特性を最大限に生かし、動きを止める。それだけだ。誰かを守りたい魔法使いは、臆することなく前に進む。 赤と黒の両刃を持つ鎌を回転させ、ペリーシュナイトに切りかかる黎子。扱いにくい武器だが、それでも扱えないものではない。回転する刃の先に盾が見える。僅かに腰を落とし、鎌の軌跡を変化させる黎子。鎧の隙を縫うように刃が突き刺さった。 「ここで仕留めて、WPを殴りに行くとしましょう」 黎子の言葉に皆が頷く。最終目的はウィルモフ・ペリーシュだ。その尖兵ごときで止まってはいられない。ここで仕留めて前に進むのだ。 勿論、それが簡単でないことは身に染みてわかっている。そのためにリベリスタは死力を尽くす。 ●揺れる天秤 リベリスタの陣形はペリーシュナイトとそれをブロックする者を基点とする扇形。範囲と貫通攻撃を意識した散開陣形である。夏栖斗、うさぎ、ランディ、ユーディス、黎子、臣、仕上、そしてガンダーラのカーンの八人で黒騎士を抑え、小夜香、凜子、ガンディーの三人のホーリーメイガスが後衛から回復。離為とアハラーワトがそれを護る形だ。 このメリットとして集中砲火を受けにくいことがあるが、デメリットとして緊急時に防衛が難しいことがある。回復役を守る者が倒れた時、代わりになるものがすぐに対応できないのだ。広がった陣形は集中砲火を受けにくい代償に防御に難を生んでしまう。 最も、リベリスタは守勢に回るつもりはない。それは騎乗した黒騎士を通さぬとばかりのブロック体制からも伺える。 「一度目、二度目と止められなかったけど。だからこそ、今度は絶対に止める!」 夏栖斗はペリーシュナイトの剣に血を流しながら、それでも瞳に闘志を燃やし武装を振るう。止める。それこそが夏栖斗の戦闘意義。後衛の為に、三高平のために、日本のために。勝利や名声などではなく、ただ悲劇を止める為に体を張る。 「まだまだ倒れるつもりはありません。枯れ果てるなら、どの道それまでだ」 うさぎが闇の幻影から繰り出される一撃を受けて運命を燃やす。退くものか。その一言で戦意のエンジンを加速させる。一撃を決めるのが自分の役割ではない。勝利の為の最善手に尽くすことが自分の役目。文字通りの総力戦。絶望などしてやるものか。 「全く。俺らしくねぇ」 怒りの表情を浮かべてランディが斧を振るう。戦う理由はいたってシンプル。この存在が気に入らない。それだけで十分だ。人並みの生活を壊すペリーシュとその尖兵。その所業に対する怒り。正義でも誇りでもない。この怒りこそ十分な理由。 「やはり黒槍の一撃が一番厄介ですね……!」 ユーディスは仲間に指示を出しながら、魔を打ち払う光を放ち仲間の呪いを解きにかかる。ダークナイトの能力を持っている黒騎士の攻撃は、厄介な呪いを植えつける。それにより皆が足止めすることないように努めていた。 「流石にこれ以上散会すると突破されそうですね。仕方ありません!」 ペリーシュナイトの貫通攻撃に運命を燃やしながら、黎子が悔しそうに歯を軋ませる。貫通攻撃は厄介だが、足止めを怠っては意味がない。下手に散開すれば、その隙を突かれるのは分かっている。現状を維持しながら耐えるしかない。 (僕は愚かだった) 臣は先の戦いのことを悔いていた。策を弄し、結果として陣形の崩壊を招いたことを。強敵を前に迷いがあったのは事実だ。だからこそ、いつもどおりに。自分ができるのは真正面から一撃を加えることのみ。 「相変わらず見た目で動きが判断できないっすね。どうあれ殴るだけなんすけどね」 仕上は受けた傷の痛みに笑みを浮かべ、拳を振るう。衝撃を直接伝えても、痛がる様子すら見えないペリーシュナイト。その動きを見切ろうとするが、糸口すら見えない。構うものかと拳を叩き付ける。 「慈愛よ、あれ」 黒騎士の攻撃を癒すべく、小夜香は最大限で癒しの神秘を放っていた。時折癒しの手を止めて気力の回復。自分の前には守り手は居ない。故に黒騎士の攻撃は時折こちらにも飛んでくる。飛来する槍の一撃に、簡単には倒れはしないと小夜香は運命を燃やす。 「インドラさん、小夜香さんを庇ってください」 凛子は回復の神秘を施しながら、アハラワートに指示を出す。ガンダーラに指示を出すのは凜子だ。戦場全体を見て、最善手を思考する。刻一刻と動く戦場の変化に負けないように、必死に思考する凜子。大丈夫、まだ。 「今回は庇っていてもお構い無しね」 離為は仲間を庇いながらペリーシュナイトの行動パターンを分析していた。回復役を守る者を石にして、庇えなくしてから癒し手に攻撃。それを狙っているのだろう。離為の体に槍の傷が増えていく。 「破壊! 殺戮!」 カーンはシミターを振るい黒騎士に踊りかかる。その姿、正にカーリー。血と殺戮を好む戦いの女神。 「皆様のために尽くしましょう」 ガンディーは祈りの構えを崩さずにリベリスタを癒す。大技を使うわけではないが、元の魔力が高い。リベリスタの傷をよく塞いでいる。 「さすがアークと『万華鏡』。噂には聞いていましたが的確な情報だ」 アハラワートは連携だって動くアークと、それを為す為の情報源である『万華鏡』に舌を巻いていた。極東の空白で急成長した組織。それを支える人と設備。これなら勝てるか。 最善を尽くし、しかしそれでも黒騎士は倒れない。 だが黒騎士の体力は無限ではない。同時にリベリスタの体力も無限ではない。いずれどちらかが尽き果てる。 天秤は静かに、だけどゆっくりと傾き始める。 ●心なき鉄と心持つ人と 黒騎士は心無いアーティファクトだが、思考能力がないわけではない。 個々のアーティファクトの性能よりも、その思考能力こそが最大の難敵であることは数度交戦したリベリスタは理解していた。最もされたくないことをし、隙あらばそこを攻める。感情のある人間ではなく、ただ目的のために動く器物。ペリーシュが信頼を置くのはそれゆえ。 闇のオーラが産む幻影の剣で近くの者に切りかかり、光通さぬ闇が不運を告げる。庇われていない回復役には黒の槍を投擲し、呪いを付与する。手甲の能力が、リベリスタの体力を削っていく。 その度に小夜香、凜子、ガンディーが回復を飛ばし、ダメージを補填する。三人の優秀な回復役があって維持できる戦線。そして傷を治してペリーシュナイトを攻める前衛。 この状況の中で黒騎士が選んだ戦略は―― 「僕を狙ってきたか……!」 最大ダメージをたたき出す臣が運命を燃やす。一撃に特化した剣術は、回避の技法に難がある。その隙を突かれた形だ。歯を食いしばって刀を握り締める。体動く限り、刃を振るう。それが自分の正義。 「マダマダ!」 自らを削りながら戦うカーンもほぼ同時のタイミングで力尽きる。運命を削り起き上がるが、闘志は消えていない。 傷つき倒れるたびにペリーシュナイトの剣が鋭さを増し、運命を燃やすたびに盾が嘲笑うかのように堅くなる。そのたびにリベリスタの勝機が遠のいて行く。 「相変わらずモード変化がわかりにくい……!」 夏栖斗は突如加速したペリーシュナイトの動きに舌打ちしながら、臣を庇いにはいる。兜の能力で夏栖斗は倒れることはない。黒騎士の剣の攻撃力が上がるのは止められないが、倒れて気を失うよりマシだ。 「さ、もっと暴れて下さいまし」 うさぎがカーンを庇うように身を張る。疲弊した自分にできることはそう多くない。黒騎士の足止めをしながら、火力の高いものを庇うのが関の山。それが勝利への最善手だと信じての献身。 「クソ! わざわざこっちのツキを落す攻撃をしやがって!」 ランディは黒騎士の攻撃を受けて、一旦下がる。不運をばら撒く攻撃はランディにとって相性が悪い。次の攻撃で一撃で倒れかねないのだ。已む無く一旦退いてから攻撃を加える。 「分かってるんでしょうね。それだけの知識と経験があるんでしょう」 同じく相性の悪い黎子が悔しそうに呟く。彼女は遠距離攻撃を持たないため、ペリーシュナイトを押さえたまま待機する。退いた瞬間に誰かが倒れれば、馬の突破力で駆け抜けられかねない。それだけは絶対にしてはいけないことだ。 「まーだ負けてないっすよ!」 度重なる攻撃で仕上が膝を突く。運命を燃やして立ち上がり、笑みを浮かべた。この程度で倒れるつもりはない、負けるつもりもない。武の極みに達するまでは。死闘こそ、彼女が求めた事。 「成程、前衛の数を減らしに来ましたか」 ユーディスはペリーシュナイトの戦略を看破する。直接後衛を叩くのが難しいなら、前衛を突破するのみ。そのためには数を減らさなくてはいけない。不運系の攻撃を仕掛けてランディと黎子の足を止めながら、闇の幻影剣で適度に前衛を攻撃。動きを止めたい相手に石化の呪いを持つ黒槍を投擲。そんなところか。 「『黒い槍(ランケア・ニゲル)』は偶然にしても少々冗談が過ぎる」 凜子を庇い、黒の槍を受けた離為。運命を削りながら立ち上がる。自分がダメージを受けているということは、庇っている相手は無事ということ。攻撃手数は減っているが、結果として継戦能力を高めることに繋がっている。 「そろそろ皆の気力が尽きてきますね……」 小夜香が長引く戦いでこちらの気力が尽きることを気にかけていた。気力回復の神秘はあるが、それをかければ体力の回復が滞る。隙を見て行使するがそれでも万全とは言いがたい。 「それまでに押し切るのみです」 同じく回復を続ける凜子。彼女は幾分か気力回復の術はある為、大技を連続行使しない限り気力が尽き果てはしない。柔らかい物腰で仲間を落ち着かせるように告げた。とはいえ内心彼女も焦りを感じている。 少しずつ追い込まれていくリベリスタ。対し変わらぬ攻めを続ける黒騎士。様子の変わらない相手に焦燥感が募る。 「……っ!? これは……!」 突如鋭くなる動き。黒風といってもいい剣の一撃に、カーンを庇っていたうさぎが力尽きる。他のリベリスタもなにが起きたかに気付く。 「特殊型……どうやらあと少しのようだな!」 追い込まれて発動する特殊型。動きが格段によくなり、狙いも的確になる。 だがそれは、あと一息まで追い込んだという証だ。 「助かりました。ここで尽き果てている余裕はないので」 ガンディーにより戦闘不能から立ち上がったうさぎが、礼を言う。まだやれる。回復を受けながら破界器を握り締める。 「今度こそ競り負けるわけにはいかねぇんだよ!」 夏栖斗はペリーシュナイトの剣を受けて、傷つきながら起き上がる。集中的に狙われている臣を庇っている為、受けるダメージは多い。 「チェストォォォオオオ!」 夏栖斗に守られながら臣が刀を振るう。仲間を信じ、自分を信じ。ただ悪を断つ為に振るわれる刃。 「御覧に入れて進ぜましょう、鳳黎子の魔法。お前は……五十四回殺す!」 如何に素早かろうとも、攻撃を当てるのが黎子だ。温存していた気力をここで振り絞り、連続で刃を叩き込む。二度、三度、四度。 だが黒騎士は未だ倒れない。多くの傷と打撃を受けながら、それでも闇をばら撒く。闇の剣を振るい、槍を投擲する。 「負けてられるか!」 「まだ、です」 ランディとユーディスが運命を燃やす。息絶え絶えにペリーシュナイトを睨んだ。叫ぶと同時にランディは斧を振りかぶって衝撃波を放ち、ユーディスは全体重を乗せて槍を突き出す。 「最後まで、立っていたい……けど」 「後は任せます……」 癒し手を庇っていた離為とアハラワートが倒れ伏す。回復役を護る者は居なくなった。黒騎士の攻撃をさえぎるものは、何もない。 「後もう少し……!」 「……ク!」 黎子とカーンがペリーシュナイトの攻撃を受けて力尽きる。黎子は有効打は与えた、と笑みを浮かべて。 「未だ楽になって貰っちゃ困ります。さ、次の修羅場の為に今は離れましょ」 戦闘不能者を運ぶのはうさぎだ。黒騎士の攻撃に巻き込ませるわけには行かない。終盤は戦闘不能者を運ぶのにひっきりなしだ。 「ええ、あと少しです!」 「私たちが支えます」 戦闘開始から今までリベリスタを支えた凜子と小夜香。二人の回復がなければ戦線は瓦解していただろう。、また、回復を守るために過剰に守りに徹していれば、攻めきれずに瓦解していただろう。 それぞれが自分の役割を理解し、動いていた。 夏栖斗とうさぎと離為が攻撃と守りのバランスを。 小夜香と凜子が回復を。 ユーディスが指揮と回復サポートを。 ランディと黎子と臣と仕上が仲間に防御を任せて攻撃を。 何よりもここが水際だと理解し、不退の覚悟で挑んだこと。 死の危険が高い覚悟。だからこそ、守りぬけた死線。 「ここまでか。……だが、テメェもだ」 「ええ、これで終わりです」 ランディとうさぎが倒れ、前線を支える人間が四人になる。機械仕掛けの馬なら突破できるだろう数に。 天秤は確かに傾く―― 「あんたの道はここで行き止まり」 ――リベリスタの勝利に。 振り下ろした剣の隙を縫うように仕上が迫る。衝撃を浸透させる打撃。覇界闘士の基礎の基礎。そして基礎こそが、全ての土台となる。 「あんたを壊して、仕上ちゃんは先に進むっす!」 武の頂を目指す少女は、この一戦を越えてさらなる先へ。 その一歩を示すように足を踏みしめ、打撃を伝えた。 断末魔はない。心なきアーティファクトに命を惜しむ声はない。 伽藍。 ただ空虚な音を響かせて、ペリーシュナイトだった鎧は崩れ落ちた。 ●一つの終わり。あるいは区切り。戦いはまだ―― 「終わったぁ……」 戦い終わって夏栖斗は脱力するように座り込んだ。兜の能力で諦めなければ起き上がれることは分かっていたが、それでも痛いのだ。斬られて嬉しいものではない。 「願わくば安らかな眠りを」 小夜香がもはや動かぬ黒騎士の鎧に向かい、祈りを捧げる。ペリーシュナイトに捧げられた無垢な少女のために。その魂は、天に上っただろうか? 「どうもありがとうございます。貴方達が来なければ危ないところでした」 うさぎがガンディーを初めとしたガンダーラのリベリスタに礼を言う。彼らの存在がなければ、何人か犠牲が出ていたかもしれない。 「どれだけ強くとも死んじまえば皆一緒、か」 頭を掻きながらランディが転がっているペリーシュナイトの兜を見る。どれだけ力があろうとも死からは逃れられない。それを再認識し、背を向ける。 「一手間違えれば、負けていたのはこちらかもしれませんね」 戦いの記憶を思い起こし、ユーディスは静かにそれを認める。危うい綱渡りだったことは事実だ。それを支えたのは個々の能力。 「怪我を治しますので、皆さんこちらに来てください」 医療用の道具を手に凜子が皆を呼ぶ。神秘の力と組み合わせての治療だ。これからペリーシュの塔に向かうのだ。ダメージを回復させておくに越したことはない。 「次は貴方ですよ、ウィルモフ・ペリーシュ!」 塔を指差し黎子が叫ぶ。尖兵の一つは落とした。殴りに行くから待っていろ。幻想纏いに破界器をしまい、気合を入れるべく拳を握った。 「シトリィンさんやセアドさんならば使えるかもしれない」 臣は黒騎士の武具を回収する。『オラクス・パラスト』の首魁なら……と思っていたが、この乱戦時に会えるかどうかは分からない。ならば自分が使ってしまおう。斬れるかどうか試しに仲間を―― 「駄目。それは壊さないと」 アーティファクトの呪いに飲みこまれそうになる臣を離為が制する。これはこの世にあっては駄目なものだ。完全に破壊しないと。 「そういえばガンダーラの人たちも強そうっすね。この戦いが終わったら一戦してみたいっす」 仕上が手を頭で組んで、ガンダーラに向かって言う。同じバトルマニアのカーンが日本語を理解していれば、この瞬間から第二戦が始まっていただろう。 一時的な休憩の後、リベリスタたちは塔を目指す。 「私たちは他の戦場を回ってみます」 ガンダーラのリベリスタはまだ塔には向かわず、他戦場の救護に回るつもりのようだ。 互いの健闘を祈るように握手し、そして二者は背を向けて歩き出す。 アークは塔へ。ガンダーラは別の戦場へ。 行き先は違えど、目的は同じ。黒い太陽を落すべくリベリスタは戦う。 そして戦いは、最終局面に―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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