● 目的が同じと言えど、わたくしが協力するのはほんの些細なこと。 砂糖ひと匙の好意と、カップ一杯の好奇心。 ● 「逆凪カンパニー、九州の支部で、鹿児島事業所。 助けると言うと凄まじく違和感だけど、放置する事も出来ないし、ある意味で気付いてしまった事が問題なのかしら……」 『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は逆凪カンパニーが発行する会社パンフレットの九州と書かれた欄をとんとんと指差す。数ある事業所の中でも桜島を望むロケーションのこの事業所は一際目を引いた。 「兄弟喧嘩と言うには此方を巻き込み過ぎだし、こう考えるとフィクサードのやる事って傍迷惑ね……」 独りごちて、世恋は肩を竦める。 逆凪、兄弟喧嘩――その言葉から導き出されるのは逆凪三兄弟のことしかないだろう。 「『逆凪の事業所』で『直刃』のフィクサードが時限爆弾を仕掛けたみたいなの。 単純な爆発なら、アークからしても敵戦力の減少が見込めるし、直刃も同じ。win-winっていえる気もするけど……そうも言ってられない。放置しておけば一般人への被害の可能性もあるの」 直刃(すぐは)、逆凪三兄弟の末子である聖四郎が率いる私兵達の事ではないか。 現状では逆凪の子飼いの集団と言われている。悪化していた兄弟仲も黒覇がアークと行った野球対戦である程度良好に戻って居る様にも思えた……のだが。 「あの兄弟も傍迷惑だから、聖四郎にとっては兄のご機嫌伺いをして、動く機会を待っていた様ね。逆凪黒覇も弟の真意に気付いて泳がせている。まあ、どちらも、『相手には負けない』とでも思っているのかしら」 緊迫状態にあったことには違いないでしょうけれどと肩を竦める世恋は「それもそろそろ終わりね」と資料をテーブルに並べた。 逆凪の事業所のパンフレットや幾つかの写真。金髪の少女の写真と、星を象った大きな模型。 模型には幾つかの注釈が加えられている。付箋を回りにべたべたと張り付けた資料には『効果範囲は時間で増加』や『周囲への精神汚染の発生』と余り喜ばしくない情報が張り付けてある。 勿論、パンフレットには『カードキー必須』や『カードキー無しにロックを破壊した場合は電力供給がストップ』と書かれている。 「このお星様――アーティファクト、シュミラークル。 凪聖四郎がカンパネッラ・ビュシェルベルジェールに渡したものよ。 このアーティファクトの効果を完全停止する事。あとは、カンパネッラの撃退が目的ね」 凪聖四郎の亡き恋人・六道紫杏。彼女の連れていた研究員の幾人かも直刃側へと派閥を変えている場合もある。生粋の技術屋である彼等が、『最近、欧州で偶然に入手したアーティファクトのなりそこない』を何とか使えるようにした経緯があるらしい。 ……そこに元々はW・Pの名があるのは余談なのだが。 「ばらまかれる悪影響は革醒者に対してはあまり効果は薄い。けれどアーティファクトと共に知らず知らずで過ごしてきた逆凪社員たちは、まあ……」.. 一つ、瞬く。カンパネッラという女が何処までも利口にやってのけたということなのだろう。アーティファクトを設置し効果を発揮する等と言う細工は彼女が得意としている分野なのだろう。 「恐怖を与え、精神を蝕み、廃人としていく。それがアーティファクトの効果なのよ」 リベリスタが何処まで堪え凌げるかは分からない為、手早くアーティファクトの場所を突き詰め、停止させる事が必須となるのだと言う。 「面倒なのがこの精神汚染が他人に『伝染』するという点。無意味な恐怖の感情を与え、その感情を植え付けられた人間はそのうち、罪を犯すでしょうね。 勿論、革醒者にも一般人にも効き目はあるわ。――一般人の方が、効果を発揮する事が早いでしょうね」 耐性が無い以上は仕方がないと世恋は溜め息を吐く。 アーティファクトの効果は心を蝕む物である以上、巣食った存在を消し去る事は難しい。アーティファクトに大部分を巣食われた存在から効果を取り除く事は難しいだろう。 「問題点はこのアーティファクト、停止させると本体からの『感染』とそれ以上の侵食は増えないけれど、ウイルスを持った人間はそのままの状態になってしまうの」 世恋は、言葉を途切れさせリベリスタを見詰める。聞かれるであろう問いを待ち構える様に、彼女は小さく瞬いた。 「救う方法は?」 「――私には、解らないわ」 ● 「ですから、逆凪の事業所を襲撃してどうなさるの? 聞くからには協力しましてよ」 まだ年若く見える女は唇に笑みを乗せて笑う。ゴシックロリータのドレスの裾を揺らした彼女はカップのソーサーに手を掛けて凪聖四郎の顔をじっと見つめる。 「君を信用するには少しばかり足りないな。直刃(こっち)にも逆凪(あちら)にも力を貸す。 君自身に何か目的が――俺と志同じ目的が在る事は解るけれどね、カンパネッラ嬢」 此方が裏切られても困ると聖四郎の淡いいろの眸には欺瞞に満ちた女の存在そのものを疑う色が浮かべられている。酷いとワザとらしく体を揺らしたカンパネッラ・ビュシェルベルジェールは眸を細めて小さく笑った。 彼女の目的は只一つ、世界に己が美貌を知らしめること。 カンパネッラの唇から毀れおちた牙が怪しい色と灯して光る。 彼女は――長き時を生きた女は、ままごとを楽しむ幼い青年達を利用するに他ならない。 「わたくし、この極東の国が欲しくて堪りませんの。 あの厭らしい魔女の置き土産も、この国の誇る武力兵器……。誰だって欲しがったものでしょう? それに、人間が人間らしく己が想いをぶつけ合っている。愉快で堪りませんわ」 冷めきった紅茶を眺める女のかんばせからは幼さの欠片も感じられない。 牙をむき出しに笑った彼女の頭の上で可憐なヘッドドレスが揺れている。彼女と対面して座って居た聖四郎の傍らで「カンパネッラ」と些か不機嫌を滲ませて呼んだ女剣士にカンパネッラは失礼と柔らかく笑って見せる。 「だからこそ、協力いたしますわ。凪のプリンス。 一体だれが付けた名前かしら。凪のプリンスだなんて――本家から追い出された惨めな負け犬ですのにね。お兄さまにも勝てず、恋人さえも失って、笑みを浮かべて箱舟に擦り寄っているだけですのに」 「そろそろ、それも終わりにするさ」 皮肉に動じる様子もなく聖四郎は肩を竦める。ぴくり、と手を揺らした女剣士が目を逸らす。 「俺達の目的のために、俺は『逆凪』を潰す。君は『アーク』を潰す。 俺にはこの極東の地は必要ないからね、君に捧げよう。カンパネッラ嬢」 「――喜んで、」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月16日(火)22:22 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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● 極東の空白地帯たる日本の南端。寒さも和らぎながらも空から降るのは真白の雪ではなく、煤を思わす黒。 普段通りの服装で武器を仕舞い込んだまま『逆凪カンパニー』と名を持ったビルに足を踏み入れた『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は周辺を警戒する様にフロア内を確認していく。 ビジネスフロアではなく、カフェがある等、一般人が訪れる事も多いこの場所は敵陣に居ながらも奇妙な安心感を抱かせた。入口に面する受付に二人の女性が座って居る事を『はみ出るぞ!』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は持ち前の観察眼からか直ぐに理解する。 小奇麗に整えた髪に若手サラリーマン――本人曰く、『若手イケメンやり手サラリーマン』の格好を整えた竜一は逆凪カンパニーの受付嬢なのだから、美人が存在しているのだろうと踏んでいた。 悶々とした気持ちを胸に抱いたままの『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)とは対象的な程に明るい竜一はスーツ姿の彼女をちらりと見遣る。 「旭たん?」 「……なんで、こんなこと」 ぽつり、と漏らした言葉に竜一は頬を掻く。逆凪カンパニーにリベリスタが訪れる事は幾度もあった。しかし、それとこれとは大きく状況が違う。『逆凪カンパニー』の重鎮たる男、日本に根付くフィクサード主流七派が内、最大手たる『逆凪』首領からの呼びだしに応じて足を踏み入れる事と、彼の知らぬ所で足を踏み入れるには少なくとも立場の危うさが違うのだろう。 怜悧な色を宿す眸を細め、余所行きの服を身に纏った『現の月』風宮 悠月(BNE001450)は白いワンピースを揺らし、夏栖斗を見遣る。堂々と上層階にある事業所への来客であると示す彼女の衣裳は逆凪黒覇と幾度も相見えた経験か、それとも歴戦の魔術師たるその経験則から来ているのだろうか。 彼らから離れた場所で血色の眸を細めて柔らかく微笑んだ『骸』黄桜 魅零(BNE003845)は頭上に飾った大きな赤いリボンを揺らす。少女らしい可愛らしい服装に身を包んだ彼女が背から伸びた尻尾を揺らしながら、まるで『世界の中心』を思わす様に微笑んだ。 「こーんにちは」 甘ったるく発されたその一声が何処に向けられているのかを1階フロアに訪れていた一般人には理解できない。背から尻尾を生やした愛らしい少女のその『尻尾』の意味も分からずに、小さく首を傾げる彼らの目は魅零へと釘付けとなって居た。 一方で、タブレットPCで集めた逆凪カンパニーの事業所情報を手に『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)は電子機器に対する卓越した技量を生かし、情報を蒐集していた。 「すずきさん的には……所長の名前位なら朝飯前なんだけど」 「若大将が何をしたがっているかがインターネットに掲載されてたら何よりなんだがな」 冗句めかして告げる『足らずの』晦 烏(BNE002858)は普段ならばトレードマークとなる覆面を装着せずに煙草を吹かす。尤も、ビジネスビル内で喫煙を出来るスペースは限られているからと、慌てて消した火は燻ぶる事を止めてしまったようだが。 彼の呼ぶ『若大将』が十二月の平穏を乱すのは何時もの事。冬になると元気にでもなるのかと錯覚するほどに、彼は師走の時期に事を起こす事が多い。ハーオスの魔術師しかり、六道紫杏しかり、青年はどうにも『間が悪い』と烏は実感していた。 「打ち手は、収まりかけた平地に再び乱を、か」 「兄弟喧嘩なら勝手にしてて欲しいけど……一般人を巻き込むなんて」 『乱』に納得がいかないのはこの場の誰もが同じだろう。酷く内輪的な内乱を『兄弟喧嘩』と呼ぶ事程しっくりくる言葉は無い。旭や烏にとっては最早馴染みの顔になってしまった逆凪の三男坊は長兄に対する歪んだコンプレックスを抱いている事は良く分かる。 主流七派の首領の血縁は、どうにも度し難い程に兄に劣る。 黄泉ヶ辻の妹等は、兄に憧れ、非凡なる己を恥じながら兄と共にある事を願った。願望器を手にしたその瞬間から、『普通』と呼ばれる当たり前でありながら、酷く尊い平穏を失っていく様は成程、典型的なコンプレックスから派生した物の様にも思える。 その頭脳を生かした六道の姫君は、兄を目指すのではなく己を完璧の道へと誘う事を願った。その頭脳から作り出す願望器が彼女の身を滅ぼしたのは言うまでもないが、矢張り、その足を止める事となったのは兄程に、彼女は己が道を進む事が出来なかったのではないか。 ――この二人に共通するのは、彼女らの人生の足取りには何時だって『歪夜の使徒』の姿が垣間見えていた。 「バロックナイツ、ですか」 何となしに呟いた悠月は昨月、新潟へと襲い掛かった恐慌を思い出す様に嘆息する。 ブリーフィングにてこの現場に存在するアーティファクトがそのバロックナイツが第一位の作品である事を告げられた時に妙な違和を感じたのは、神秘探究同盟が使徒の一人だからであろうか。 「若大将も黒い太陽か。火に油を注ぐ訳だ」 からからと笑う烏の声に表情を曇らせる旭は唇を噛み締める。寒い冬の日に、彼と六道紫杏の恋路を願ったのは誰よりも彼女だったからであろう。六道紫杏が死んだ日に、せめて彼だけでも幸福に恵まれる様にと祈った彼女にとって凪聖四郎の行いは看過できぬ物ではなかった。 だからこそ、一般人を巻き込まぬ様に――旭を好ましく思う魅零は力を貸したのだろう。唇を弧の形へと歪めた彼女は唇へと指先を当てる。 「騒がず、静かに、いい? お外にいくの。今日は此処でイベントがあるから。出てって欲しいんだよね」 にんまりと浮かべた笑みは営業用のスマイルか。魅零は楽しげに目を細めてそっと出入口を指差した。受付前ではなく、カフェから直接外へと出れる場所。 「出口は、あっちだよ?」 ● 「すみません」 柔らかに笑みを浮かべた若手イケメンやり手サラリーマンこと竜一は柔らかく目を細め、受付に座る女性へと声をかけた。美人だった事に内心ガッツポーズを漏らしながらも普段通りの雰囲気の竜一に小さく首を傾げた受付嬢は「なにか」と小さく問い掛けた。 「あの、所長へと連絡が取りたいんですが……」 「所長、ですか?」 丸い瞳をした受付嬢は革醒者なのだろうか、竜一の張り付けた笑みを不審に思いながらも、彼の姿を確認し、「アーク?」と首を傾げた。 フィクサード組織であるからには最初のガードが確りしているのは自ずと分かる。竜一の名声から言えば、受付嬢や一般社員と言う端にもかからぬフィクサード達がアークのトップランカー達を知らぬ訳もない。ますます、警戒を強める受付嬢はじ、と竜一の張り付けた笑みを見詰めた。 「……アークが、何か?」 「こんにちは、アークの御厨夏栖斗だよ。今回は基本的に荒事起こしに来たんじゃないから……所長への連絡取って貰っていいかな?」 急ぎなのだと告げる竜一に頷く夏栖斗、彼らの背後で周囲を警戒する様に見つめる旭の緊張したかんばせはぞろぞろと外へと出て行く一般人達を見詰めていた。 (よかった、みれーさんのおかげかな……?) ほっと胸を撫で下ろす旭は受付嬢の前でぺこりと頭を下げる。先ずは一つ、「喜多川旭です」と名乗り上げた彼女は武装を全て幻想纏いに閉まった状態で両手をひらひらと上げた。 「今日は敵対する気はないの。アークが逆凪に対して武器を向ける必要性だってないもん……緊急事態なの」 頷きあい寿々貴が差し出したタブレットにはフォーチュナが用意した依頼情報のメール。事件の案件を端的にまとめたこの情報は事前に寿々貴や旭が用意していたものだ。 「あの、アポは?」 「一応、此方の大将に出してはいたんだがね」 見てくれたのかどうか、と肩を竦める烏はアーク本部――戦略司令室室長である沙織から緊急だと逆凪黒覇の連絡先を聞き出して居たのだ。連絡内容は端的なモノだが、寿々貴や旭が用意したメールと合わせてみれば分かり易い程に何が起こっているのかが分かる。 はっと天井を仰ぎ見た受付嬢が「黒覇様の?」と伺う様な眸を烏へと向けた。返答のない逆凪黒覇がどの様に考えるかは彼を知る旭や悠月ならば大体『想像』し得るものだろう。 「連絡を返さないと言う事は、了承の意として受け取っていますが――」 付けくわえた悠月の声に受付嬢が如何しようと顔を見合わせる。逆凪の鹿児島事業所でカンパネッラが『やんちゃ』を行っている等と言われてしまっては来客対応を仕事にしていた受付嬢達も何と返せばいいのかが分からない。 「社員は極力巻き込まず対応は図るので諸々了承願えた、ということでいいだろうかな」 「え、ええ……それで、どうすれば?」 「よければ、来客用のカードキー最低二枚の提供をお願いしたいんです。フロアに入るには……必要だと聞いて」 困った様に肩を竦める旭に受付に仕舞われていた来客用のカードキーを二枚差し出した受付嬢は所長へと内線電話を掛けると夏栖斗へと告げた。上部が了承して居ても、所長が了承しないでは上階で何らかの『手違い』が起こる可能性もある。 悠月が不安視している『直刃』のフィクサードだけではなく逆凪のフィクサードその物を敵に回すという可能性が高くなるのは何としても避けなければならない事態だと言う事を、受付嬢もフィクサードながら承知していたのだろう。 「――所長です」 「ありがと。――もしもし、アークの御厨夏栖斗だよ。受付の子から聞いてると思うけど、今回基本的に荒事起こしに来たんじゃないから」 受話器から聞こえるいまいちパッとしない返答は戸惑いを抱いているからか、それとも不安な要素があるからかは解らない。 所長への対応を行っている中、魔眼を使い一般人の誘導に動く竜一が周囲を見回す魅零と出会い、頷きあう。ワールドイズマインで視線を集めた魅零と、その背後で一般人へと催眠効果を与える竜一。二人の組み合わせが一般人の避難に大きな影響を与えている事は言わずもがなだ。 周辺地形や防犯カメラの情報、手に入れた情報だけではなく受付嬢から手渡されたフロア案内を眺めながら寿々貴はフロアの把握を行っていく。同じく、電子の妖精を所有する魅零は各フロアに設置された内線の位置を確かめながら受付嬢へと位置と、担当者の確認を取って居た。 「しっかし……若大将は事を起こすにはタイミングが悪いもんだな。そんな星の下に生まれたんだとしたら難儀なもんだ」 「せいしろーさんらしいけど……でも、せいしろーさん『らしく』ない行動でもあるもんね」 神妙な顔つきで告げる旭へと烏は困った様に頷いた。逆凪の枝を一本一本折る事で相手の勢力を弱めようとするならば愚の骨頂。逆凪という膨大な戦力を抱えた最大手たるその場所は経済的な側面でも重要な位置を占めている以上、無暗に手を出しにくいと言うのがアーク側の本音ではなかろうか。 「兄弟喧嘩ならすればいい。でも、一般人さんを巻き込むやり方は見過ごせないよ……」 スーツが皺になる程に握りしめた旭は俯き、唇を噛み締めた。曖昧な笑みを浮かべた寿々貴は「兄弟喧嘩ねぇ」と頬を掻く。 警備員に指示し、一般人を避難させ、ビルへの侵入が出来ぬ様に気を配る竜一は周辺に不審者が居ないかを聞きまわる。アーティファクトによる感染ルートが不確定であるからには、その感染者が訪れる可能性も考慮しての行動なのだろう。 「端的に言うと、ゴスロリのカワイコちゃんから星の模型貰わなかった?」 『ああ、それなら――』 「それを置いておくと革醒者であっても廃人になっちゃうんだ。そいつを停止させに来たんだ」 夏栖斗の言葉に所長と思わしき人物は淡々と返している。それが何のアーティファクトなのかといまいち理解していないそぶりを見せる所長に首を傾げる夏栖斗は「アークの万華鏡(かみのめ)が情報を掴んだんだ。確かな情報だよ」と付け加える。 「いうなれば、この営業所は直刃と逆凪のお家騒動に巻き込まれてるってとこ。 分かる? 何とかしなくっちゃこの事業所自体が『望まぬ形』でなくなってしまう――だから、協力して欲しい」 言い切った夏栖斗に返された嘆息は、是を示しているのだろう。旭が入手したカードキーを差し込んでエレベーターで上がった七階のフロアはしん、と静まり返っている。 所長室へとまっすぐに歩を進めた夏栖斗は周辺を警戒する様に周辺を確認する。幻想殺しを所有する竜一は周囲に偽装されて存在していないかを確かめる様に周囲の様子を確認していた。 「こんにちは、先ずはお騒がせしたことに謝罪を――風宮悠月。アークのリベリスタです」 「……これはこれは」 伺う様に見遣る所長へと悠月は笑みを浮かべる。傍らの夏栖斗も所長の動きを確認しながら武器を閉まったまま、笑みを浮かべた。 「黒覇には許可を貰ったんだけどさ」 「直刃による凶行の阻止で事業所内部の探索と仕立て人排除の許可を頂戴したいのです。 監視を付けて頂いても結構です。そちらに判断を任せます。……如何でしょうか?」 交渉にはうってつけの二人に所長は黒覇様の許可が出ている以上はとパソコンへと向き直る。自由に行動する事の許可を得れたのならばいい。背を向ける彼らの幻想纏いへと一報が入るのは後少し。 電話口の反応が違う事を魅零は直ぐに気付く。七階から下の階へ向けて順繰りにかけた電話には逆凪の社員が些か不思議そうに応答する。 「星を見ませんでしたか? 凶星を」 星なんて普通は会社にない。だからこそ、「なんですか」と聞き返す社員には敢えて魅零はもう一つの確認を行った。 「周囲にパニック状態の人は?」 「五階が騒がしかったかな……」 疑問符を持ったその答えに魅零が小さく頷き幻想纏いを通して仲間へと伝えて行く。監視カメラと同期した寿々貴も五階にちらりと映った――しかも、手を振ってアピールを繰り返すゴシックロリータ服の女の姿を確認し、「見つけた」と告げた。 鳴らした電話に「ごきげんよう」と返したその声に魅零の唇が吊り上がる。正解は自ずと導き出される物だ。 「It's Show time!」 言葉の端からにじみ出る宣戦布告にカンパネッラは「待ってますわ、探して下さいませ」と小さく囁く。二階から逆凪の社員を確認する為にとエレベーターを使い降りる魅零の存在に騒がしくなる逆凪社員が武器を取る。 両手を上げ、困った様に笑った彼女は「私はアーティファクトを探してるだけ、逆凪とは争いたくない」と両手をひらひらと振った。 直刃のフィクサードが潜んでいると言う危険性、逆凪を敵に回したくないという心理。その二つが鬩ぎ合って戦闘状態を展開しにくくしている事を魅零は良く分かっている。 虱潰しに探す様に感染地帯を探す旭は感染が消えればと強結界を展開し、逆凪社員へと柔らかく笑みを浮かべた。 「大丈夫、私達は敵じゃないから」 「そうだよ、なんなら心臓でも刺して良いぞ☆ 抵抗はしない! あ、バリアシステムは発動するかも?」 へら、と笑った彼女に逆凪の社員は首を振る。武器を手に怯えた表情で魅零や旭へと歩み寄る彼は怯えたようにその剣を振り下ろす。 咄嗟に銃を構えた烏が無力化する様に放った閃光が感染者と思わしき社員の動きを阻害すれば、旭がそのまま彼の身体へと拳を当て、その意識を喪わせていく。 殺さない様にと感染者のパターン分けを詳しく考え、恐慌状態に陥った社員を無力化しながら階段を上がって行く内で、4階のフロアが妙な空気を纏っている事感じていた。 錆の匂いに、混ざり込んだ薔薇の香りは鼻を着く。思わず鼻を塞いだ竜一はカプセルを飲み込んで、四階フロアの最奥に設置された星を見遣り、「ビンゴ」と小さく囁いた。 「元? WP製……にしては、救いがある様に思えて不自然。すずきさん的には、救いがないのがWP作品だと思うけれど」 「成程、良い推理ですわね。流石は歴戦のリベリスタ」 拍手とともに現れた女はリベリスタが探し求めていたカンパネッラの姿。目立つゴシックロリータを身に付けた彼女は柔らかく笑みを浮かべて「御機嫌よう」と微笑んだ。 目的がハッキリしている以上、アークと遊びたいのならば、この場所で待つのが一番だ。 カンパネッラはドレスの裾を持ち上げて「お待ちしてましたわ、アーク。お会いしたかった」と嘘をこびりつかせたような笑みを浮かべた。 錠剤を飲みこんだ寿々貴がその効果と感染除去の方法を探る様にアーティファクトへと目を凝らす。 W・Pと書かれたそのアーティファクトは欧州辺りで発見された未完成のものだと言われている。シュミラークルの名の通り、何かを真似て作られたものが何の因果か凪聖四郎の手に渡ってきたのだろう。 「このアーティファクトは、他の方が求めてやまないものだそうですわ。 ですけれど、これよりももっと強力なモノが出来上がった。紛い物の廃品回収をしましたの」 「それで……? 壊して良い物なの?」 「『最良でなくとも、最善ではありますのよ』」 くつくつと笑ったカンパネッラにリベリスタ達が武器を構える。その仕草に何事かと見守って居た逆凪の社員が武器を手にしリベリスタ達を見据える。 はっと顔を上げた逆凪社員を制するように悠月が手を差し伸べる。制止するかのようなその動作にぴたり、と動きを止めたのは彼女が何を言おうとしたのかを咄嗟の判断で『理解』したからだろう。 「逆凪カンパニーでは、社への来客に襲い掛かるような教育がされているのでしょうか?」 正式な客人であると言う事を堂々と言う悠月に逆凪社員たちが手を下ろす。幾人かが恐慌状態に陥り泣き喚く様に夏栖斗が恐怖を覚え、飲み込んだ錠剤は仄かに苦い。 「感染を防ぐ方法は? こんな所に悠々と構えて居て良いの? 貴方も感染するかもしれないよ?」 「わたくしはこのアーティファクトの真価を知ってますから、大丈夫ですわよ。 皆々様とて大丈夫。恐怖は恐怖として伝播する。それはまるで『病原菌』の様ではなくって?」 旭の言葉に微笑んだカンパネッラが前進する。彼女を受けとめた旭が小さく呻き、後退すれば、アーティファクトの解析を急ぐように寿々貴がすり抜け、アーティファクトへ向けて走り出した。 その足を止めようと襲い掛かる直刃のフィクサードへと烏が放った閃光が直刃の動きを縫い止めて行く。 殴りつける様にトンファーを武器にカンパネッラの身体を投げた夏栖斗の頬を掠めた感触は彼女が手にした気に入りのスティッキのものか。 「壊してしまうが一番でしてよ。深淵は此方を覗き返すものだから―― 嗚呼、貴方方はその深淵(ラトニャ)にまでお帰り頂いたのでしょう? そんな紛い物、簡単に壊してしまえばいいでしょう。貴方方が思う以上にそれは深刻なものでしてよ」 「貴女はどうして感染しないの」 問い掛ける旭の声にカンパネッラは「わたくしは、他人を代償にこの場に居るのですわ」と柔らかく微笑んだ。 他人は己の踏み台でしかなく、アークが用意した『解毒』の方法を本物を手にした直刃が――天才魔術師とも謳われる青年が作れぬ訳が無いとカンパネッラは小さく笑う。 攻撃を重ねながら、シュミラークルを狙い打つ烏に頷いて寿々貴が星を掴み上げ投げる。 その動きにさえも楽しげに笑ったカンパネッラは攻撃の手を弱めずに夏栖斗の眼前へと滑りこんだ。 「わたくしの為に、死んでくださる?」 誰が、と返したのは魅零。大きな赤いリボンが揺れ、切り裂く様に振り下ろした刃がフロアの床へと突き刺さる。 身体を捻り上げた悠月が近接で叩きつけたその一撃をまともに喰らった直刃社員が床を転がり、竜一の振り下ろした刃がその体へと強大なダメージを与えて行く。 「――聖四郎は、逆凪黒覇に勝てると思いますか?」 悠月の問いにカンパネッラは小さく笑みを浮かべる。フリルに包まれた白い足はゆらゆらと地に付かずに揺れている。 普段の魔術師然とした『現の月』ではない、白いワンピース姿の彼女にカンパネッラは「少し雰囲気変わるのね」と茶化す様に告げる。 「もう一度言いましょうか」 「いえ、結構よ。一度言われればわたくしだって、解りますもの。 それは、聖四郎と黒覇の単純な力量を聞いていらっしゃるの? それとも、頭の出来? ああ、それとも――どちらが王に相応しいか、なんてことを聞いてらっしゃるのかしら?」 攻撃の手を緩めたアークに迎撃を続けようとした直刃のフィクサードを制したカンパネッラは傍らで武器を取らぬ拓馬へと視線を送る。 何も言わずに聖四郎やイナミと言った直刃上層部との連絡機器となるアーティファクトを懐へと仕舞いこんだ拓馬は視線を下ろす。見逃さずに彼を観察していた烏が「竜潜君」と旧友が如く名を呼んだ。 「おじさんたちと少しお話しでもしようじゃないか」 「また後で、その機会を楽しみにしてるよ。『足らずの』」 肩を竦めた青年は悠月へと視線を向ける。カンパネッラの冗句染みた返答に如何返すのかと興味深そうに目を細めて。 銀色の弓を握りしめた悠月はそっと、その弓を下ろし唇へと笑みを乗せる。 「『それ』を問い掛ける必要がありましょうか。私は、『勝てる』かと聞いたのです」 「端的に言えば、NOよ?」 具体的には告げないと唇を抑えたカンパネッラがすとん、と地面へと足を着く。動向を伺う様に彼女を取り囲んだリベリスタにカンパネッラは幸せそうに笑みを浮かべた。 「愛してるわ――アーク、何よりも。わたくし、楽しい子がすきなの」 「言ってなよ」 唇を尖らせて拗ねたように告げる魅零は彼女の身体には似合わぬ大業物をしっかりと構える。 巨大な刃を手に紅い瞳を細めた機械の少女に両手を打ち合わせ、幸福そうに微笑んだカンパネッラは「可愛い子」と魅零の眸を覗きこむ。 「『骸』のお嬢さんは素敵ね。勿論、貴女だって『素敵』――貴女の言葉で言うなら『ステキ』なのかしら。 妖精さんはわたくしを探す事にその力を多いに振るってくれたのでしょう? とっても可愛い妖精さんだわ」 からからと笑い続ける彼女に感じる違和感に悠月が身構える。マスクを思わすアーティファクトを手にしながら寿々貴が些か不快そうに眉を顰める。 「NOとは……?」 「それ以上もそれ以下もないわ。貴女は賢いからよくお分かりでしょう?」 くすくすと笑ったカンパネッラへ向けて前進する夏栖斗がカンパネッラの身体を大きく投げる。ふわ、と浮かび上がった女が咄嗟に取った受け身を崩す様にその隙へと悠月が叩きこんだ一撃に小さな舌打ちが漏らされる。 「逆凪! 手ェ貸すか逃げるかどっちかにして!!」 声を張り上げた魅零の体内で錠剤が解けて行く感覚がする。呪いを帯びた切っ先が直刃のフィクサードの身体を切り裂いていく。血の飛沫を避ける様に前進し、周囲の視線を釘付けにした旭の眸には揺るぎない信念が宿されていた。 「殺すのかしら? 貴女が、」 「カンパネッラさん、またこんな事されたら困るの――だから」 拳に込めた力が、旭にとってはどうしようもないものに思えて、苦しい。咽喉を堰き上げる熱さは、何よりも殺しを好まぬ彼女の胸に奥に出来たしこりの所為だろうか。 「ロリババアハァハァ! 遊んでくれるなら喜んで!」 にんまりと浮かべた竜一の笑みに、幸福そうに「素敵だわ」と微笑んだカンパネッラは口癖のように「死んでくださる」と問い掛けた。 「それなら、わたくしと少しばかり遊びましょう? 殺したい位に愛しいリベリスタ。 わたくし――ここで皆さんに死んでもらいたいの。苦しんで死んでね、其れが嫌なら今日は見逃してくれないかしら?」 ● ゴシックロリィタのドレスが赤く染まっていく。 捜索に手数を裂いていたリベリスタ達の中でも、回復行動に多くを裂いていたリベリスタは狙いを定めカンパネッラへと攻撃を重ねて行く。柔らかな髪を揺らした彼女が手にした『幸福創造論理』が夏栖斗のトンファーを弾く。 「わたくしは、そこまで『弱く』なくってよ?」 「カンパネッラちゃん、冗談キツいよね。そんなに遊びたいなら、もっと遊んであげるけど」 煽り文句を繰り返すカンパネッラに夏栖斗が返せば魅零が小さく笑って彼女へと己の痛み全てを放出する様に刃を振り下ろす。 流れる動作で攻撃を避け――しかし、掠めた切っ先がロリータドレスを破る様に地面へと突き刺さる。 「あら、オイタが過ぎるお嬢様ね」 でも、素敵だわ、と目を細め金の髪を揺らした彼女が背を向け地面を踏みしめる。手を伸ばし、追い打ちをかけんとした悠月に「さようなら」とウィンク一つ残した彼女はまた今度会いましょうねと小さく微笑んだ。 窓から飛び出さんとした彼女の背には直刃のフィクサードが与えた翼が生えている。魅零が傷つけた一撃はカンパネッラの白い足に亀裂をもたらし紅い血を滴らせる。 憎悪にも似た眸を向けて、「素敵なお嬢さん」と微笑みかけた彼女は唇で「次は死んでくださいます?」とだけ静かに告げていた。 静寂を取り戻す事業所内で、ゆっくりと歩み出した拓馬はカンパネッラが懐へと直す様に視線を送って居たアーティファクトを取り出しながら顔を出す。 「お疲れ様――それと、久しぶりだな。アーク」 「そんなにお久しぶりでもない様な気がするけどね。……それで? 聖四郎は何時からそんなに構ってチャンになった訳? 構って欲しいなら友達になってやっからさ、兄弟喧嘩に一般人まで巻き込むなや」 苛立ちを含めた夏栖斗の言葉に拓馬が所持するアーティファクトから小さな笑みが漏れる。 くすくすと、聞き覚えのある声は「酷いな、フィクサードにそんな倫理観を求めるのかい」と彼へと応答する。 フィクサードでありながらフィクサードらしからぬ行動を繰り返す彼と手を組んだ事があるリベリスタ達にとっては、彼のこの行いが余りに『不似合い』に覚えて仕方がない。 「俺はあくまで、俺らしい行動をとったつもりだよ。構って欲しい――そうではなくてね、一般人の被害に気を配って居てはまるで『リベリスタ』じゃないか」 「そうなるつもりは?」 「毛頭ないね。俺は俺の為に行動している。他人は踏み台でしかない。そうだろう? 紫杏は他人を実験材料だと考えていたし、糾未嬢だって儀式のために人を贄に捧げていた。 そんな物だよ。俺だって一般人になんて考慮しない。ましてや、俺は世界が欲しいんだ。ちっぽけな人間に何を気を配る必要があるんだい?」 使えもしない、力も無き人間を相手にしているのだからと付け加えた聖四郎に悠月はそうですか、と只一言返す。 それ以上の言葉を求めない様に、視線で拓馬へとアーティファクトの通信を着る様にと促せば、彼は素直に従いアーティファクトを懐へと仕舞いこむ。 『拓馬さん、何か話したい事があるの?』 ハイテレパスを通じて告げる旭に何処か気まずそうに肩を竦めた拓馬は『先ずは、イナミさんから』と彼女の頭へ直接声を届けた。 『近いうちに直刃は逆凪を離脱し、本格的な襲撃を計画しています。その舞台には是非とも、アークも来て欲しい』 意味が分からないと眉を寄せる旭の隣、何故南端を狙ったのかと悩ましげな寿々貴が拓馬へと視線を向ける。 「何故、ここを狙ったの?」 寿々貴の言葉に拓馬が困った様に肩を竦めた。本社から遠く離れた場所、この場所を舞台としたのは広いネットワークを所持する逆凪の目が届きにくく、なおかつ直刃側の監視からも外れる場所であるからだと拓馬は声を顰めて言う。 「どの様な手を使っても直刃は逆凪黒覇に対して宣戦布告を――いや、彼の生命を脅かす事をするだろう。 これが直刃(おれら)と黒覇(あちら)だけの話しならいざ知らず、他全てを脅かすものだとしたら、どう思う?」 「それは、脅し?」 ゆっくりと問うた夏栖斗に拓馬は「如何とってくれても構わない」と曖昧な笑みを浮かべた。かつて、アークと敵対した継澤イナミは「止めてくれ」と告げていた。彼女の言葉を辿るならば、脅かすという言葉が真実味を帯びて聞こえるものだ。 旭は瞬き、「それは、一般人さんを巻き込むってことなの?」と震える声で問うた。彼女が聖四郎を殺す(とめる)と決めていたのは他人の命を脅かす時だけだ。 その事態に直面しそうになった時は、人はどのような行動を取るのかは分からない。 だからこそ、彼は。 『――……若大将は大丈夫かい?』 烏は拓馬へと直接脳裏へと声を届かせる。聖四郎には聞かれぬ様に、悟られぬ様に、芽生えた気持ちは親心にも似ているだろう。 『大丈夫、って』 囁くように逆に問い掛ける拓馬へと烏は声を顰める様に『自滅は見たくないんでね』と返す。 言葉の真意を確かめる様に――逆凪の事業所と言う場所はあまりに不似合いなそのやり取りに直刃の青年は困った様に小さく笑みを浮かべた。 『爆破テロみたいなもんだよ。何をどう『自滅』と捉えるかは分からないけどさ――止められるなら』 懇願するように、それはまるで未来を予期させる様に齎される『声』だった。 止めなければならないならば手を伸ばすと旭は、烏は決めていた。神秘の探究心と、知り得た人間の行動心理の往く果てを護る様に悠月は一人の男の人生をどのように解釈したのだろうか。 人が傷つくならば夏栖斗はその手を伸ばす事だろう。アークのリベリスタとしての力を竜一は、魅零は振るうだろう。 青年は、烏の求める答えを、只、口にしただけだった。 『正義の味方だってなら、――止めてくれ』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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