●じぃぃいいーーーっ。 真っ暗闇の真っ只中。腐敗臭が漂って、死骸が転がっている。 その暗い地下室の隅で、少女は恐怖に震えていた。 ……目が。 たくさんの、たくさんの、たくさんのたくさんのたくさんのたくさんのたくさんの目が、目が、目が。 こっちを見ている。間近で見ている。たくさんの目。 間近で、瞬きもしないで、じっと見ているのだ ――自分が衰弱して、死んでいく様を。 ●目潰し 「……そう言う訳で」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が暗いモニターを操作して、その明るさを上げた。すると、真っ暗な画面に一つの人影が浮かび上がる。 それは正に『異形』と呼ぶに相応しい風貌をしていた。水死体の様に膨れ上がった体は不気味な紫に変色し、その全身には奇妙に輝く目玉がビッシリと生えていたのである。 「フェーズ2のノーフェイス『ガン見男』……それが今回、討伐してもらいたい相手。……見える?」 言いながらイヴがモニターの一端を指差した。それは部屋の隅、丁度『ガン見男』の目の前、そこには人の腰ほどの檻があり……痩せ細り衰弱した少女が閉じ込められていた。 「このノーフェイスは、少女を拉致して檻の中に閉じ込めて……衰弱し、発狂して、そして死んでゆく様をただただ『見てるだけ』。――そんな事をずっと繰り返してるみたい」 そう言うイヴの言葉通り、良く見れば暗い部屋には至る所に檻があり、そして、死骸が転がっていた。どの死骸も痩せ細った小さなもので……それが纏っている衣服から、死骸の主が幼い女の子であった事が容易に理解できる。 なんとも痛ましい光景であった。 「被害者の中にはE・アンデッドとして目覚めてしまった者もいる。数は四体でフェーズは1、攻撃方法は噛んだり引っ掻いたり、胃液を吐いてくる場合もある。この胃液は貴方達の強化術をやぶってしまう可能性もあるから、十分に気を付けてね。 それじゃあ肝心の『ガン見男』について説明するね。こいつは全身の光る目玉で睨み付けて呪縛状態にしてきたり、貴方達全員をじっと見詰めて不安を煽る事で混乱状態にしてきたりする。力もかなり強くって、檻を掴んで振り回したり投げてきたりもする。絶対に油断しないで。 それと、この『ガン見男』に見られてる女の子だけど……残念な事に、生き残っているのは彼女だけみたい。貴方達の能力を見られるのは避けられそうにないけど、まだ幼いし極限状態だから何とかなると思う。……救出した後のアフターフォロー、絶対にしてあげてね。怯えさせちゃ駄目だよ」 イヴが目線を若干強めてリベリスタ達を見詰める。彼らが頷くと、彼女は説明を続けた。 「最後に、場所について説明するね。ここは廃ビルの地下室で、唯一の出入り口の頑丈な扉には鍵がしてある。でも、貴方達のちょっと強めの攻撃で簡単に突破できると思うわ。 ………それじゃ、頑張ってね皆。くれぐれも気を付けて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月27日(土)23:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●暗いところ 真っ暗い夜の廃墟、その地下。 ランプと懐中電灯の光が一つの扉を照らしていた。 「まあ、好きな物を見て愛でるという気持ちは分からないでもないですがのう。 誘拐監禁の上、餓死させるのは流石にやり過ぎですよな~。外道死すべし。 私達が倒す事によって、犠牲になった少女達が少しは浮かばれると良いのですが……」 扉の前に集ったリベリスタ達の一人、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407) が仮面の奥から扉を見詰めつつ、ショットガンの銃身に取り付けた懐中電灯の光を揺らめかせた。 「既に救えなかった人間が幾人も……。いや、今は救える一人がいた事を喜ぼう」 必ず助けてみせる。『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883) の鋭い青目に強い決意が宿る。彼はチーム唯一の回復担当である為、その担う所は大きい。 「いやはや、それだけやっておいて見るだけとはねぇ。 確かことわざではガリュウテンセイヲカク、だったかな? 違うか」 彼女専用の暗器『S&W M500 NellCustom[KillerMoon]』を右手の中で器用に回している『月光の銀弾<ルナストライカー>』ネル・ムーンライト(BNE002202) の物言いは他の者達とは違い、どこか関心が無さげで剽軽としている。それは彼女が殺し屋という命を取り扱う経歴を持つ故の振る舞いなのであろうか。 「人の趣向は千差万別なので~、ただ思うだけなら人様に迷惑かけません~ ですが~、実行しちゃった以上はお仕置きです~」 ネルとはまた異なるフワフワと掴めない雰囲気を持つユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672) が悪臭対策に身に着けたマスクの奥から緩い物言いで言う。しかしその目にはしっかりとリベリスタに相応しい意志が宿っていた。 「ガン見男……キモッ! マジありえない! 生き残りのコは、絶対無事に助けてあげたいなぁ」 『悪戯大好き』白雪 陽菜(BNE002652) が憤りの言葉と共に、その体躯からしたら馬鹿げているほど巨大な兵器『対E用地対地ミサイルランチャー 』を担ぎ直す。 「……拉致監禁だなんて。 挙句に殺されて、捨て置かれて、侵食されて……」 青く麗しい片手半剣『セインディール』を強く握り締めた『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511) の紫目には悲痛な色が滲む。E・アンデッドになってしまった子達も、そうはならなかった子達も、一体何人が犠牲になってしまったのだろうか。 それぞれの反応を示す仲間達を見渡すと、『闇狩人』四門 零二(BNE001044) は瞳に強い決意を込めて静かな声で言い放った。 「――作戦を開始しよう」 彼の言葉に頷いた各々が自身に強化術を施してゆく。零二も破壊的な闘気をその身に纏うと、ハイスピードを発動したリセリアへ視線を送る。リセリアがリボンを揺らめかせて頷いた。 生き延びている子を救って、ノーフェイスとE・アンデッドを討って。 もう――終わりにしなくてはならない。 刹那、渾身の剣閃が重い扉を幾重にも切り裂いた。 ●閉鎖空間と見詰める目玉 噎せ返る様な酷い腐臭、蝿の羽音、何かが蠢く気配、不気味な暗黒。 正にそこは『異常』な空間であった。 しかし、腐臭・状態の悪い足元・暗闇の全てに対して完璧な対策をしてきた九十九はそれらに怯む事無く、ショットガンに取り付けた懐中電灯で闇を裂きながら声を張り上げる。 「助けに来ましたぞ、少しで良いので音を出して場所を教えて下さい!」 言葉の後は機械並の聴力を研ぎ澄ませる。最中に他のリベリスタ達はそれぞれ展開し、リセリアはランプを各所に配置してサポートを試みてゆく。 頼む、返事をしてくれ――誰もがそう思った時、九十九は確かに聴いた。掠れた弱々しい声が「助けて」と呟いたのを。 「――居た! あちらです!」 言葉と共に九十九が光を向けた。 かくして、そこには――大きな檻と、それに閉じ込められた少女と、全身に目玉を纏った異形の姿が。 「これ以上、罪のない子を傷つけさせません!」 異形・ガン見男を視認した瞬間、『フィーリングベル』鈴宮・慧架(BNE000666)が強く地を蹴って飛び出して行く! 集中によって研ぎ澄まされた大雪崩落をガン見男に叩き込む、そういう心算であった。 だが、吐き気を催す様な腐臭が、ブンブンと喧しい蝿の羽音が、ほんの僅かだけ慧架の心に隙を作り――地を這う大量の蛆に足が滑って転倒してしまった。 「……ッ !」 転んだ瞬間、グチャリとした嫌な感触が全身の皮膚に伝わる。思わず顔を顰めるも、今はそれどころではない――顔を上げる。 そして、慧架の表情が凍り付いた。 「 @:;、38h ねr_~?」 モゾリ。モゾリ。大量の目玉が蠢いて、意味不明な音を発している。見下ろしている。 慧架の目の前にガン見男がいたのだ。 「チッ……!」 それに気付いたネルが弾丸を放つ。他のメンバーも慧架のフォローに向かおうとしたが、ガン見男を止める事は出来なかった。 大量の目玉が、彼女を、その全てを、見る。 見る。 じっと見詰める。 じぃっと、 見、詰、め、る 。 「~~ッっ…… きゃあああああああああああああああああああああああ!!」 瞬間、恐怖に支配された慧架の口から絶叫が迸った。 「あああああ! 嫌! 嫌嫌いやああぁ嫌アアァア!!」 跳ね起きた慧架の業炎撃がガン見男を殴り飛ばす。次に涙で濡れた彼女の目に映ったのは、破壊した檻から少女を助け出そうとしているユーフォリアの姿。 「――!」 「待って、慧架さんッ!」 ユーフォリアの目が見開かれる。E・アンデッドをハニーコムガトリングで牽制していた陽菜も声を張り上げるも、それは届かない。絶叫と共に燃え盛る拳が迫る、ユーフォリアは咄嗟に少女を庇う為に抱き締める、目をきつく閉じる――しかし衝撃はいつまでたってもやって来なかった。 ユーフォリアが目を開けると、そこにはラージシールドで慧架の一撃を受け止めたゲルトの背中があった。 「安心しろ、すぐに助けてやる……!」 重い一撃に耐えながら言い放ったのは、少女と仲間達に向けての言葉。 早くブレイクフィアーをせねば……しかし、泣き叫びながら叩き付けられる攻撃がなかなかその猶予を与えてくれない。クソ、とゲルトは内心で舌打った。 「……感謝するです~、ハルトマンさん~!」 その間、今の内だとユーフォリアは翼をはためかせて先程リセリアが破壊した出入り口へと真っ直ぐ飛んで行く。 だがそこへ、ガン見男が檻を振り上げ闇の中より現れる。堅い檻が振り下ろされる――それを真っ向から受け止めたのは零二のバスタードソードである。 「そこまでだ外道!」 アイコンタクトで礼を伝えたユーフォリアを見送った零二はガン見男の檻と拮抗しつつ、全身のエネルギーを武器のみに集中させてゆく。 そしてその精悍な顔が笑んだ刹那、炸裂したメガクラッシュがガン見男を吹き飛ばした! 「残念だったな……オレのターゲットになった不幸を呪え!」 剣を構えた零二がガン見男へ向かう。その行動を徹底して妨害する心算だ。 その様子を横目に見遣った後、ネルは月光の様な黄金の瞳で闇を見据えた。暗視によるその視線の先には、足無し少女が呻きながら這いずっている。それに『S&W M500 NellCustom[KillerMoon]』を向けようとして――吐き出された酸を横に飛んで回避する、地面を転がりながらもその銃口は真っ直ぐエリューションを捉えており、 「邪魔はしないでくれたまえ、どうせ狙うのなら向こうを狙って欲しいものだが」 引き金を引いた。 タァン! バァン! 二つの銃声が重なった。 ネルの拳銃と九十九のショットガン、それぞれから放たれた1$シュートは的確に、完璧に、足無し少女とゾンビ少女の眉間を貫いた。 「2$シュート、といったところですかな」 「くくっ――あぁ、違いない」 互いに笑んだ後、九十九はちらりと残りのE・アンデッド達へ視線を遣った。ランプを配置してくれたリセリアのお陰でかなり視界は良い――そして当の本人は、リボンで束ねた銀髪を靡かせて鮮やかな幻影剣を閃かせていた。かくして骨少女がくずおれる。 「かわいそうだけど……世界の為に消えてもらうね!」 最中、陽菜の『対E用地対地ミサイルランチャー 』が轟と火を噴いた。既に彼女のハニーコムガトリングで瀕死状態であった動けない少女が粉砕される。 次はガン見男だ。一同は武器を構え、彼方を鋭く見据えた。 「……ドタバタしてますけど~、もう大丈夫ですからね~」 状況を横目に見たユーフォリアが救出した少女の頭を優しく撫でた。彼女は少女と共に地下室の外に辿り着く事に成功したのである。 「うっく、うぅ、ううぅ……」 少女は恐怖から解放されて安心したのか、泣きじゃくってユーフォリアにしがみついている。行かないで、ここにいて、震える体がそう語っているように思えた。だが、行かねばならないのだ、自分は。リベリスタとして。 「大丈夫です~! お姉ちゃんはとっても強いのです~、すぐ戻って来るです~」 そんな彼女をぎゅっと抱きしめると、ユーフォリアの発するマイナスイオンによって心が少し落ち着いたらしい少女がゆっくり顔を上げた。本当?と聞くので本当!と答える。 「指きりげんまん――イイコで待ってるですよ~?」 ニッコリ微笑んでその指に自らの小指を絡めた。 そして少女がやっと笑顔を見せてくれると満足気に頷いて、ユーフォリアは再び翼を広げて戦地へ向かった。 「――鈴宮、好い加減に目を覚ませ!」 「~~~~!!」 「チッ……」 もう何度彼女の拳を楯で受け止めた事だろう。一瞬でも油断すればやられる……だが、一瞬でもいい、一瞬の時間さえあれば。 「ゲルトさん!」 その瞬間だった。素早く飛び出してきたリセリアが慧架を後ろから抱き締めて動きを封じる。リセリアとゲルトの目が合った次の瞬間にはもう、ゲルトの放ったブレイクフィアーが空間に満ちていた。 「あ、……わ、私は」 「詫びる暇があるなら」 正気に戻った慧架の言葉を、ガン見男へ暗器を向けたネルが遮る。 「次こそ、宜しく頼むよ」 ネルのウインクが慧架に向けられる。決意を胸に、慧架は強く頷いた。 (助かった……) 一方、つい先ほどまで呪縛状態だった零二は密かに内心で安堵の息を吐いていた。ゲルトのブレイクフィアーで九死に一生を得たのである。 だが強力なフェーズ2とタイマン勝負をしていたせいか、その体には多くの傷が刻まれている。息も上がっている。それでも零二の双眸から闘気が消える事はなかった。 外道に屈するつもりはない。運命は自ら切り開く! 「3 ¥:@、z・? gあ&k」 目玉を不気味に蠢かせるガン見男が檻を振り上げる。 その顔面を、思い切り掴む手が一つ。 一気に間合いを詰めた慧架のオッドアイが大量の目玉を睨みつけた。 「せやッ!!」 瞬間、慧架は激しい雪崩の様な勢いでガン見男を強引に地面へと叩き付けた。くぐもった呻き――それと共にガン見男の目玉が慧架を禍々しく睨みつける。彼女の体から血が噴き出す、動きが止まる。 「俺がいる限り、そうそう好きにはさせんぞ」 すかさずゲルトが放ったブレイクフィアーに慧架の呪縛が解ける。その間に飛び退いたガン見男は手にしていた檻を投げつけた。狙いは戦線復帰してチャクラムを構えたユーフォリア……しかし、慧架の大雪崩落によってふらついたその一撃が彼女に当たる事はなかった。 「~^@3す tj1.*……」 苦しげによろめいたガン見男が再び檻を掴む。させるかと飛び掛かった零二と慧架を力任せに薙ぎ払って吹き飛ばし、その全ての目でリベリスタ達を見据えんと目玉をぎょろつかせた。 しかし躍りかかったリセリアとユーフォリアが繰り出した鋭く鮮やかな幻影剣にその目玉を皮膚ごと裂かれて不気味な奇声を発するに終わる。次の瞬間にそれを絡め捕ったのはネルのトラップネストであった。 「嫌な目だ、本当に嫌な目だ。見るのも見られるのも嫌なので潰すよ。 ……画竜は点睛を欠く。故にその睛を潰してやるから、未完成のまま死んでおけ」 『S&W M500 NellCustom[KillerMoon] 』が真っ直ぐにその頭部へ向けられた。同時に、九十九のショットガンと陽菜の『対E用地対地ミサイルランチャー 』もガン見男へ向けられる。 キモいから直視したくないけど……なんて思う陽菜であったが、その照準はちゃっかり男の股間に据えられていた。 「いきますぞ……」 九十九の言葉と共に三人の射手がトリガーに指を掛けた。 「「「3$シュート!!!」」」 タァン、バァン、ズドォン、三つの弾丸が一直線に放たれる。それはガン見男の頭、胴、そして股間とを確実に着弾した。耳に障る悲鳴と共に、ガン見男の状態が大きく揺らぐ。そして痛みに任せて闇雲に檻を振り回し始めた。 荒々しく無茶苦茶な攻撃に迂闊に近付く事が出来ない、狙いも定めにくい……だが、それをゲルトがラージシールドで受け止める事で動きを封じ込めた。 「……残念だが倒れてやることはできないな。 自分の欲の為に少女を攫って殺す等、見た目以上に醜悪な行為だ。 ――貴様は絶対に許さん!」 絶対不落の堅き意志を瞳に宿し、ゲルトが楯でガン見男を圧し返した。ガン見男のバランスが崩れる――そこへ輝くオーラを剣に纏わせた零二が飛び込んで行く! 「貴様にはなにも見えぬ『無』がお似合いだ。 果て、消え失せろ。 其れまでは、朽ちる己の姿でも眺めるんだな!」 繰り出されるオーララッシュがガン見男を圧倒する。圧して行く。最後に渾身の一撃を叩き込むと、零二は後ろへ飛び退きながら声を張り上げた。 「――鈴宮、ブチかませ!!」 それはガン見男の背後にて古武術的な構えを取っていた慧架に向けて。 慧架は凛とした表情で頷くと、跳躍して一気にガン見男との距離をゼロにする。 「これで――」 彼女の腕がガン見男を捕らえた。 「終わり、です!」 大雪崩落。 ズン、と地面に重く音が響いた後――廃墟には、静寂が戻ったのであった。 ●外の世界 「……もう、大丈夫」 狂ったような空間の外。外灯の下。ひんやりした夜の空気の中。 リセリアは無事に助け出した少女を優しく抱きしめた。 かける言葉は無いけれど、せめて落ち着くまで。その背中をゆっくり撫でさする。少女もすっかり安心したらしく、涙をぼろぼろ流しながら彼女に抱き付いていた。 「大丈夫かい? ……悪い夢だったね」 ネルはそんな少女に対して、彼女としては珍しく優しい声をかけつつその白い指で少女の目元を拭ってやる。少女はネルへ顔を向けると、微笑みながら言った。 「うん、……お姉ちゃん、かっこよかったよ」 彼女の言葉にネルは薄く微笑むと銀の髪を靡かせて踵を返した。 「とんだ報酬を貰っちまったねぇ……」 言葉と共にその姿が外灯の光から出た瞬間、もう彼女は夜の街に溶け込み消え去っていた。 「もう大丈夫だ、君を害するものはオジサン達が追い払ったから……もう、大丈夫」 少女に自らのスーツを羽織らせた零二は少女に視線を合わせて、安心させるように微笑む。既にアークの息がかかった病院に連絡は付けたので、迎えが来るのはすぐであろう。 彼女が元気に……犠牲になった少女達の分まで、幸せになってくれるよう、零二には願わずにいられなかった。 「よく頑張りましたな、もう大丈夫ですぞ」 「怖い思いをしたな。もう安心だ。すぐ迎えが来るからな」 仮面を外した九十九は微笑みながら彼女の頭を撫で、ゲルトも優しく彼女に言う。少女は二人の方を向くと、 「ありがとう……おじさん」 (お じ さ ん ! ?) (お じ さ ん ……?) 私まだ25ですぞ、オレはまだ23だぞ、と硬直する二人の横で零二やリセリア、慧架が笑う。つられて笑った少女に陽菜がお弁当とお茶を差し出した。 「はいっ、これ! お腹すいたでしょ?」 「……!」 少女の顔がハッとする。陽菜から諸々を受け取るなり、ペットボトルのお茶をぐびぐび飲み始めた。良かった良かった――陽菜は微笑むと、仲間達の方を向く。 「みんなの分もあるよ、はいっ!」 そして仲間達に手渡すのは小さな饅頭。陽菜はニコニコしながら彼らを見渡して、 「実はアタリが一個だけあるよ~!」 「アタリ? ――ぶフッ!!」 九十九が訊き返した瞬間であった。一瞬で顔を青ざめさせた彼は蹲って噎せ返る。悪戯に成功した陽菜はキャハハと楽しげに笑った。つまりロシアン饅頭……アタリ=練りがらし100%饅頭である。少女も九十九を心配するような様子を見せるものの、その表情は笑みに綻んでいた。ので、まぁ良しとしようと九十九は溜息を吐いた。 ――しばらくして、彼女の迎えがやって来る。 ユーフォリアは最後に少女を抱き締めた。 「すぐママに会えるから~、安心してね~ 」 「うん……、お姉ちゃん、ありがとう。わたし、お姉ちゃんのこと絶対に忘れない」 少女も彼女の背中に手を回す。 そして少女はリベリスタ達へ視線を向けて、微笑んだ。 「ありがとう」 廃墟の入り口には陽菜が手向けた一輪の花が在った。 それはふわりと揺らいで――リベリスタ達を、少女を、静かに夜の中へと見送った。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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