● 飛竜の騎士と先兵隊 Dホールを潜り抜け、突風のように飛び出してきたのは竜だった。馬よりも一回りほど大きな体躯。蝙蝠のような翼を備えた、首の長いトカゲのような生物である。その姿はまさに、絵本の中に登場する、竜そのものではないだろうか。それも、頭部と胸部に皮の鎧を付けた飛竜である。 その竜の背に股がるのは、純白のランスを持った黒い騎士だ。痩身ながら、片手で扱う長槍を武器としている辺り、その腕力は並ではないことが伺える。 騎士は無言でDホールを抜けた先にあった、この世界の風景を見渡す。 彼が現れたのは、田舎町の片隅に放置されたボロボロの鉄塔の真下であった。鉄塔の周囲をぐるぐると周り、人の気配を探っているようだ。 その動きが、ピタリと止まる。 視線の先には、川が流れていた。川の向こうには土手があり、その向こうには決して栄えているわけではないが、それなりに賑わいのある街が広がっていた。 暫し、何事かを思案するように騎士は沈黙する。 やがて……。 『こんな街でも、砦になるか?』 そう呟いて、ピュイ、と軽く口笛を吹いた。 異変が起こったのは数秒後だ。 ゾロゾロと、Dホールから奇妙な生物が列をなして這い出してきた。 否、生物なのかどうかさえ不明だ。体長1メートルほど。西洋甲冑の兜に近い外観をしている。そこから突き出た、6本の脚は細身のランスのようだ。 蜘蛛に似たフォルムだ。鎧で出来た蜘蛛である。 ざくりざくりと地面に穴を空けながら、鎧蜘蛛は進む。それらを指揮するのは、飛竜に股がった件の騎士であるようだ。 全部で15体ほど現れた蜘蛛は、3方向に分散し川を渡っていく。 ある1隊は、最短距離で川の中をゆっくり泳ぎ。 ある1隊は、上流に架かる橋を目指し。 ある1隊は、下流の浅瀬を突き進む。 『それでは、砦の建築を始めよう』 飛竜の騎士がそう呟くと同時、鎧蜘蛛たちは一斉に、口から糸を吐き出した。夕日を反射し、キラキラと光る鋼の糸だ。石や流木、そこらに散ったガラクタを絡めとり、鋼の糸で固定、堅牢な壁を構築していく。 恐らく、彼らは先兵だ。 時間の経過、或いはある程度の下準備が整ったと判断された時、Dホールからは続々と、同じような存在がこちらの世界に這い出して来るに違いない。 ● 鋼の意思 「どうやら彼らは、異世界からこちらの世界に攻め込んで来ようとしているみたいね。アザーバイド(飛竜の騎士)と(鎧蜘蛛)はその先兵と言った所かしら」 時間がないわ、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は溜め息を零す。 ただでさえ敵の数は多く、おまけに見るからに頑丈そうだ。その上、長々とこの世界に居座らせると、更に数が増えるという。 おまけに、3方向に分散して街に進行、或いは壁を作成しているという。 「指揮をとっているのが飛竜の騎士なので、そいつを倒してしまうか、元の世界に送り返せば、他の鎧蜘蛛も退却していくと思う。もし居残ったとしても、指揮官のいない雑兵なんて殲滅するのは比較的簡単」 とはいえ、飛竜の騎士は空を飛んでいる。たった1人で、先兵の指揮を任されているのだ。実力も、それなりにあると見て間違いはないだろう。 騎士の相手にどれだけの時間がかかるか分からない以上、鎧蜘蛛を放置しておくわけにもいかない。 「彼らは共通して(石化)、(呪縛)、(鈍化)などのスキルを多様するみたい。また、鎧を着込んでいるという性質上、動きはあまり速くなく、反面防御力は高い」 飛竜の騎士に関して言えば、足りない速度を竜に乗ることで補っているということになるだろうか。 基本的には、1体で多人数を相手に戦うようにデザインされているようには見えない。部隊というものは、数で相手を圧倒した方が有利なのである。 「なかなか、突撃力のある部隊のようね。押し切られないように注意して」 と、そう言ってイヴは仲間達を送り出す。 もちろん、話し合いの末に和解する、という選択肢が残されていないでもないが、あまり期待はしない方がいいだろう。 無条件で撤退してくれるような指揮官が、先兵の指揮を任されはしない。 鎧蜘蛛が、生物なのかどうかも不明だ。 ただ言えるのは、彼らがこの世界にとって、友好的な存在ではないということだけ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月15日(月)22:10 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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●異世界からの先兵 飛竜に跨る白い騎士。その手に持つのは、長大なランスである。鎧の奥の眼差しは、じっと遠くの街明かりを見据えている。空中をすいすいと飛び回り、足元を進む十数体の鎧蜘蛛を指揮しているらしい。 鎧蜘蛛。 体長1メートルを超える巨大な蜘蛛だ。騎士と似たデザインの、白銀の鎧を纏っている。6本あるその脚は、どうやらランスで出来ているようだ。地面に穴を穿ちながら、ゆっくりと鎧蜘蛛達は3手に別れる。 まっすぐ最短距離で川を突き抜ける部隊が1つ。下流の浅瀬を目指す部隊が1つ。上流の橋を目指す部隊が1つ。更に各部隊は、川に捨てられていたゴミや瓦礫、岩などを鋼の糸で束ね何かを作ろうとしているようだ。 よくよく見ればそれが、砦の外壁であるとわかる者もいるだろう。騎士は、異世界からこの世界へとやって来た先兵である。騎士の目的は、この世界を侵略するための拠点を作ること。崩壊寸前のこの世界に拠点など作って何をするつもりなのか。それは、侵略しに来た本人達にしか知りえない事柄である。 そんな騎士たちの侵略を阻むため、7人のリベリスタが川辺に姿を現した。 ●飛竜の騎士と鎧蜘蛛 「砦と言う事は此方で長期的に何かする気ですか。異界の概念で虫食いになっていくこの下層世界はそいういう事には向いてないと思うのですが」 鎧蜘蛛たちは、川を渡ったその先で、ガラクタを鋼糸で固めて砦を作っているようだ。『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は、砦の正面に立ち、剣を大上段に振りかぶる。 アラストールの剣が鮮烈な光を帯び、それに呼応するかのように空気が震えた。突然の侵入者に気付いた蜘蛛がアラストールへと襲い掛かるが、間に割り込んだ『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)によって阻まれ、近寄ることができない。 「こっちは黒い太陽の相手で手一杯なんだけど。異世界から新しい火の粉まで降ってきて、堪ったもんじゃないね」 仕事を増やすな、と溜め息を零し目にも止まらぬ速さで剣を振り抜く。義衛郎の剣と鎧蜘蛛が衝突。火花が散った。身体に傷こそついてはいるものの、大きなダメージもなく僅かに後退するに留まった鎧蜘蛛を見て『梟姫』二階堂 櫻子(BNE000438)は「あら」と感嘆の声を漏らした。 「それにしても、蜘蛛さんって鎧を着れるのですね。鎧は重そうですけれど、潰れたりはしないのかしら……?」 小首を傾げ、櫻子は問う。 そんな櫻子の疑問は、その後すぐに解決することとなった。 大きく後退した鎧蜘蛛の背中に飛び乗った『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)が、両手に持った拳銃の引き金を引く。火薬の爆ぜる音と、マズルフラッシュ。銃口から飛び出した弾丸は、針の穴を通すように鎧蜘蛛の頭部と胴部の中間に命中する。 「異世界からの斥候か。ふむ元からあった町を利用しようという知恵は悪くないが、最下層の人間を侮ってもらっては困るな」 鎧蜘蛛の身体が大きく跳ね、紫色の体液が飛び散った。それでも、甲高い悲鳴をあげ、背中に乗った櫻霞を攻撃しようともがくのだから、その生命力は驚異的である。 「武装してきたのは万全を期してだったんだろう詰めが甘い。上位存在だというなら精々頭と身体に刻んで散れ」 櫻霞は冷静に、さらに数発、鎧の隙間に弾丸を撃ち込む。全部で十数発は弾丸を浴びただろうか。動かなくなった鎧蜘蛛の首が千切れ、ごろりと川辺に転がった。 千切れた首の断面を見るに、どうやら蜘蛛がただ鎧を着ている、というわけではないらしい。鎧の部分は、昆虫で言う所の外甲殻。人間で言えば、皮膚に当たる部分であるようだ。つまり、鋼の鎧は身体の一部、ということになる。 「人の世界にしゃしゃり出てきて何をするかと思えば、ただの違法建築目的とかホント洒落になんねぇ。こちとら忙しいんですよ、構ってる暇なんてないわけよ」 ナイフを片手に『ティンダロス』ルヴィア・マグノリア・リーリフローラ(BNE002446)が駆ける。砦をよじ登り、真上からアラストールへと襲いかかろうとした鎧蜘蛛へ肉薄し、その脚の付け根を素早く一閃。鎧蜘蛛の脚が切り落とされ、その巨体は砦から転がり落ちる。 いかに頑丈な鎧の皮膚を持とうとも、関節部を狙えば、脚1本の切断程度なら割と簡単に実行可能であるらしい。 「というわけでアンタら全員排除決定。拒否権無し、残念ながら決定事項でーす」 「どんな時でも異世界からの「お客さま」はひっきりなしですねえ。お客様には変わらぬメッセージを添えて元の世界に返さねばなりません。……すなわち、ボトムを根城に巣食う悪党どもは強敵であり手を出せば火傷ではすまない、というメッセージを」 ルヴィアのナイフが鎧蜘蛛の脚を次々と切り落とす。それに合わせ『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)の繰り出す斬撃の嵐が、鎧蜘蛛の全身を切り裂き、その身を川へと弾き飛ばした。紫色の体液を流し、ぴくぴくと痙攣する鎧蜘蛛を尻目に、ルヴィアと麗香は連れだって次の鎧蜘蛛へと狙いを変更。ナイフと剣を構え、駆け出していった。 残る鎧蜘蛛は3体。そのうち片方はルヴィアと麗香が。もう片方とは義衛郎と櫻霞が交戦中だ。 残る1体が、アラストールへと襲い掛かる。アラストールが光り輝く剣を振り降ろし、砦を粉々に粉砕すると同時、アラストールの背に鎧蜘蛛が張り付いた。刃のような顎を開き、アラストールの首を噛み切ろうとする鎧蜘蛛。刃が首に突き刺さる寸前、横から伸びたしなやかな腕が、鎧蜘蛛の顎を掴み、無理矢理アラストールの背からその身を引っぺがす。 「ガラクタまで使って街作り、ね……。何とも面白い発送ではあるが迷惑極まりない話だな」 手の平からだくだくと血を流しながら『クライ・クロウ』碓氷 凛(BNE004998)は目を細める。 仰向けに倒れた鎧蜘蛛の胸にナイフを突き立て、やれやれと小さく溜め息を零した。 「ま、それの対処が俺達の仕事。それなら文句はないさ」 凛のナイフが突き刺さると同時、鎧蜘蛛のランスの脚が凛の両肩を貫いた。 砦を破壊し、5体の鎧蜘蛛を殲滅するのにさほど時間はかからなかった。周囲に他に敵がいないのを確認し、2チームに分かれリベリスタ達は川の上流と下流へ向かって行く。 そんな彼らの様子を、遥か頭上から飛竜に乗った白銀の騎士が見つめていたことに、気付いた者はいなかった………。 下流の浅瀬に向かうのは、義衛郎、ルヴィア、凛、麗香の4人である。凛の使用したラグナロクが仲間達に耐性を付与した。敵から受けるBSを軽減し、攻撃を反射する。そういった効果を備えた光の被膜が、全身を包む。 「多少の気休め程度にはなるだろう」 そう呟いた凛の視線の先では、6体ほどの鎧蜘蛛がガチャガチャと音を鳴らしながら川の浅瀬に巨大な壁を作っていた 否、壁ではない。ガラクタや瓦礫を、鋼糸で纏めた巨大な巣だ。それを拠点に、鎧蜘蛛や飛竜に乗った騎士、ドラグーンナイトはこの世界に進行するつもりなのだろう。 「ボトムにおいて勝手な不法建築は許しませ~ん!」 剣を構え、麗香が駆け出す。 鎧蜘蛛の対応は早かった。くるり、とこちらを振り向くとその口腔から鋼の糸を吐きだしたのだ。麗香の剣が一閃。降りかかる鋼糸を斬り捨てるが、数が多い。あっという間に、麗香の全身に鋼糸が巻きつき、身動きを封じる。 麗香の元へと、鎧蜘蛛が群がっていく。まずは、動けない彼女から狙い討つつもりなのだろう。 そんな鎧蜘蛛達の中心に、一陣の風と共にルヴィアが駆け込んだ。地面を削り、目にも止まらぬ速度で鎧蜘蛛達の間を駆け抜け、擦れ違い様にナイフを振り抜く。切り刻まれ、宙に砕け散ったのは、氷刃の霧だ。鎧蜘蛛の身に無数の傷を刻む。 「ほれほれもう終わりか? 腹ごしらえにもなりゃしねえぞ」 ルヴィアに続き、義衛郎も駆け出した。 「退けば追わない、って聞いてくれる様なら此処まで来ないか」 元より、鎧蜘蛛に命令を下せるドラグーンナイトはここにはいない。蜘蛛などに言葉が通じるはずもなく、義衛郎は両手に剣を構えたまま、製作途中の砦へと駆け上がる。 疾く、鋭く。 斬撃の嵐は、砦ごと近くにいた鎧蜘蛛を切り裂いた。砕けた鎧の破片と、どろりとした体液が飛び散る。背中と、頭部の一部を切り裂かれながらも鎧蜘蛛はまだ動いている。流石の生命力と言えよう。 しかし、そんな鎧蜘蛛の頭部に剣が突き刺さると、大きく一度痙攣しその動きを止めた。 鎧蜘蛛にトドメを刺したのは麗香である。 麗香の拘束を解いたのは凛だ。 川の水を蹴散らして、リベリスタ達と鎧蜘蛛の戦いは続く。 その時、リベリスタ達の背後からガチャガチャという金属音が鳴り響いた。 「あれは……」 と、そう呟いたのは誰だったろうか。 振り返った一同が目にしたのは、群れを成してこちらに迫る4体の鎧蜘蛛であった。 時間は僅かに巻き戻る。 「竜騎士には意思疎通は難しそうですが、最低限騎士としての礼を行動で示して挑むとしましょう……。それにしても、鎧蜘蛛の姿が見当たりませんね」 剣を構え、頭上を舞う竜騎士を睨みつけるアラストール。 アラストール、櫻子、櫻霞が上流の橋へと到着した時、そこに鎧蜘蛛の姿は無かった。代わりに、橋の傍には飛竜に乗った白銀の騎士が待ち構えていた。こちらを見降ろし、待っていたと言わんばかりにランスを掲げる。 櫻子と櫻霞を背に庇い、アラストールと竜騎士は対峙する。 「小さな翼を皆様の背中に……」 櫻子の唱えた小さな呪言に喚起されたのは、光の粒子が集まって出来た小さな翼であった。3人の背に翼が張り付き、一時的な飛行能力を付与する。戦闘の用意が整うと同時、剣を構え一礼し、アラストールが飛び上がった。 「こちらも仕事なんでね、悪く思うな」 アラストールを援護するように、櫻霞の銃弾が飛竜の騎士へと降り注ぐ。ランスを持ち上げ銃弾を弾き、残りは竜を操作し回避する。 竜騎士の突き出したランスが、急接近して来たアラストールを迎え撃つ。フェイスガードに隠され、騎士の表情は分からない。正確無比かつ容赦のない一撃が、アラストールの脇腹を抉った。飛び散る鮮血。アラストールは唇を噛みしめ、悲鳴を押し殺す。 アラストールの剣が光を帯びる。鋭い一閃。首元を狙った斬撃を、竜騎士はランスで逸らす。アラストールの剣が、竜騎士の右肩へと喰い込んだ。 「硬いな」 「硬いですね」 後衛から様子を見ていた櫻霞と櫻子はそう呟いて、視線を交わす。 飛竜が加速し、アラストールの身体を弾き飛ばす。地面に叩きつけられる寸前で、アラストールの身体を櫻子が受け止めた。 入れ替わるように、両手に拳銃を構えた櫻霞が前へ。放たれた弾丸は、正確に飛竜の右目と鎧の隙間へと撃ち込まれた。右の肩を射抜かれ、騎士の体勢が崩れた。痛みに暴れる飛竜を御して体勢を立て直すと同時に、騎士はランスを突きだした。 櫻霞と騎士との距離は数メートル。だが、ランスの切っ先は櫻霞の腹部に突き刺さる。飛ぶ刺突とでも呼ぶべきか。真空の刃が、櫻霞を貫いたのだ。 櫻霞の身体が、傷を中心に石化し始める。 「櫻霞様っ!」 石に成っていく夫を目にし、櫻子は悲痛な悲鳴を上げた。 ●侵略者を撃退せよ 残存する鎧蜘蛛達は、騎士の命令で下流へ向かった。上流の邪魔者を騎士自らが排除し、下流の邪魔者は配下の蜘蛛に排除を任せた。その命令に従い、鎧蜘蛛は下流へ。4人の邪魔者相手に一斉に襲いかかったのだ。 4人は強い。既に半数以上の仲間がやられた。しかし、鎧蜘蛛達に恐怖心などは存在しない。例えいくら劣勢だろうと、どれだけ仲間が葬られようと、ただひたすらに命令を遂行するだけだ。 「硬い上に数が多いと、手間がかかりますね」 義衛郎の剣が一閃。しかし放たれた斬撃は1つではない。雨のように降り注ぐ斬撃が、鎧蜘蛛を切り刻む。脚が千切れ、鎧に深い傷が刻まれた。 反撃を受ける前に、義衛郎は飛び退る。入れ替わるように前に飛び出たのはルヴィアだ。青色に輝くナイフによる刺突が、鎧蜘蛛に突き刺さる。 2人のソードミラージュによる連続攻撃。数十……否、百を超える斬撃をその身に受け鎧蜘蛛は息絶えた。 また、別の場所では麗香の剣が猛威を振るっていた。作りかけの砦を足場に、上へ下へと跳びまわる鎧蜘蛛相手に、斬撃の嵐で対抗する。 「ちょこまかと蠅のようなあなたに警告です! 元の世界に戻りなさい!」 言って聞くような相手ではないことは分かっている。元より、言葉が通じるとも思っていない。 情けはなく、容赦もなく、麗香の剣は近寄る敵全てを切り裂くのであった。 「自分たちの世界で城でも塀でも作ってくれれば仕事も増えないんだがね……」 戦場を駆けまわり、仲間達の援護をするのは凛の役目だ。疲弊した仲間にEPをチャージし、傷ついた仲間の傷を癒し、状態異常を治療する。その上で、仲間の死角から襲いかかる鎧蜘蛛をその身を挺して阻む。 不沈艦。絶対者。勇然なる者。彼の持つスキルは、自身が戦い続け、また仲間を戦い続けさせる為の者ばかりだ。やれやれと溜め息を零しながら、ただただ己の役目を全うする。 鎧蜘蛛が全滅するのに、そう時間はかからないだろう。 「痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 そう呟いて、櫻子は胸の前でその手を組み合わせた。櫻子を中心に、淡い粒子が飛び散る。暖かい微風と共に、光の粒子は石化した櫻霞の身体を包み込む。 石化が解け、身体の自由を取り戻した櫻霞の眼前に、飛竜に跨った騎士が迫る。ランスが一閃。回避も防御も間に合わず、櫻霞の胸にランスの切っ先が襲いかかる。 「お二人に幸多かれ。彼らをこれ以上傷つけさせはしません」 真下から振りあげられたアラストールの剣の鞘が、ランスの進路を乱す。火花と共に弾かれたランスはアラストールの頬を掠め、背後に逸れた。 その隙にと、櫻霞の放った弾丸が騎士へ命中。しかし、鎧を貫通することは叶わない。 竜を駈って、騎士は急上昇。距離を取る。それを追って、アラストールも空へと舞い上がるが、飛竜の速度に追いつけない。片目を失い、バランスを崩しているとはいえやはり竜の飛行速度は並ではないようだ。 「無事に終わったらルヴィアちゃんと櫻霞様と三人でケーキを食べに行くんです。この世界でこれ以上暴れさせません」 櫻子の回復術により、アラストールと櫻霞の傷が癒える。 櫻霞は数歩前に駆け、アラストールの背後に控えた。銃を構え、引き金に指をかける。 騎士は飛竜に乗って、急下降。急加速し、ランスを構えて突撃を慣行する。器用に進路を逸らしながら、櫻霞の弾丸を回避し、騎士が2人に接近。風を纏ったランスの一撃を、飛び出したアラストールが受け止めた。 体勢を崩したアラストールを無視し、騎士と飛竜は櫻霞へとランスを向ける。 だが……。 「トドメも刺さずに捨て置くとは……。侮られたものです」 光り輝くアラストールの剣。体勢を崩したまま振り抜かれたアラストールの剣が、飛竜の腹部を切り裂いた。悲鳴を上げ、飛竜の身体が痙攣する。騎士は空へと投げ出され、飛竜とアラストールはもつれあうように落下していく。 飛竜なしでは、騎士単体で空を飛べる筈も無く……。 「お前も相変わらずか、何処でもマイペースなのは崩れないな……。では、さっさと終わらせようか」 火薬の爆ぜる音。銃口から飛び出す弾丸が1つ。空気を切り裂き、櫻霞の弾丸はまっすぐ騎士の喉元へ。空中でバランスを崩しながらも、騎士がランスを突きだした。 真空の刃が櫻霞の肩を貫く。 それと同時……。 騎士の喉元。鎧と鎧の隙間に、弾丸が命中し、騎士はランスを取り落とす。 戦闘中の兵士が武器を落とす時……。それは、その命が尽きた時だけだ。 櫻霞が地面に膝をつくのと同時に、騎士と飛竜が川へと落ちる。流れる赤い鮮血が、澄んだ川の水を赤く染めた……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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