● 黒衣の少年たちが三高平の町へ降り立った。 文字通りの、降り立ちである。 かなりの高度から落下したにもかかわらず、彼らは両足から着地。 周辺を警戒していた派遣兵たちは突然の来訪に、慌てて銃を向けた。 「な、なんだ? ただのガキじゃねえか」 「だが見ろ、情報にあった奉仕者どもだ!」 「早速手柄が舞い込んできた、やっちまえ!」 梁山泊の派遣兵たちは一斉にサブマシンガンを発射。大量の弾丸が少年へ襲いかかる……が、それは彼の眼前で停止した。 壁に当たったわけでもない。ただ単純に停止したのだ。 「な……」 驚く兵たちの前で、少年は弾丸の一個を手に取った。 それを見つめてため息をつく。 「なんて弱いんだ、人間ってやつは」 手を翳す。するとすべての弾丸がかき消え、代わりに魔力でできた大量の剣が虚空から突き出てきた。 「に、逃げ――」 「無駄だよ」 少年が腕を振ると、大量の剣は虚空から飛び出し、兵たちを貫通した。 そこへ、黒衣の少女が降り立つ。 「あっヤダ。もう始めてたの? ズルイー!」 少女はどこからともなくステッキを引き出すと、その場でくるんと回った。 「りりかる、まじかる」 途端、周囲の兵たちが内側から爆発。血と臓物をまき散らし、さらには周囲の道路が爆発。止めてあった自動車が爆発。両サイドのビルが同時に内部から爆発を起こし、ガラス片が飛び散った。 ……と、そんな中。 「全滅って……おいおい、アークのよこした兵力ってのはこんなもんなのかい? ま、全部がこうとは思わないけどさ」 マンホールの蓋を開き、下から金髪の女性が這い出てきた。 古いイギリス銃士の服装をしてはいるが、ところどころに近代的な装備がなされている。 アークがつい最近雇った傭兵。ブラウンベスのリーダー、アールである。 そこへ新たな少年が降下。彼はどこからか取り出した拳銃を両手に持つと、アールめがけて乱射してきた。 マスケット銃を高速で回転させて弾を弾くアール。更に相手の手元を狙って連射。少年の手から銃が跳ね飛ぶ……が、すぐにそれを無視してアールへ高速接近してきた。丸腰か。いや違う。両手にさらなる銃を握っていたのだ。 「……」 零距離で顔面を狙われ、紙一重で回避。 アールは地面を転がることで距離をとり、すぐに射撃姿勢へ。間髪いれず牽制射撃をしながら後退した。 が、後ろを囲む形で更に二人の少年が着地。退路が無くなった。 アールは任務の内容を思い出す。 WP勢力による市街地の破壊を阻止、迎撃することだ。 「うん……もう少し粘ってみるかね」 アークの本隊が駆けつけるのも、もうじきだろうから。 ● 「ペリーシュが北陸の町を丸ごと破壊したことは覚えてる思う。俺だって忘れてない。忘れるかよ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は一連の出来事についてこう説明した。 「あの時使われた『聖杯』ってのは、いわゆる対革醒者兵器兼大量殺戮兵器だ。沢山殺してそいつを魔力に変える。ヤツらしいイヤなアイテムだろ。更にイヤなことに、WPはその魔力を使ってでっかい天空要塞を作りやがった。アークのリベリスタが偵察に行ったが、防壁がまるで壊せない上に大量の兵隊が守ってる。しかもその大砲でもってアーク本部を吹っ飛ばそうって魂胆らしい」 だがしかし、と伸暁は拳を握った。 「こっちには『神威』がある。R-typeを押し返したアレなら、城の防壁に穴をあけるくらいは出来るはずだ。……と、これだけに集中できれば良かったんだが、あの野郎……三高平に兵隊を送り込みやがった」 三高平市内は現在、WPの傭兵や奉仕者たちによる戦場と化している。 サポ子などのモブリスチームは勿論、ヴァチカン、オルクス・パラスト、ガンダーラ、梁山泊、スコットランド・ヤードといった勢力が結集し、彼らと戦っている。 こちらもかなりの激戦区だ。 「一般人の避難は完了してるが、特に強い敵に関しては一方的に負けまくってる状態だ。つまり……俺たちがやるしかない」 今回我々が向かうエリアは三高平居住区東側。 そこに現われた五人組のフィクサードである。 「奴らは『ブラック・フラグメント-CCC』と呼称されてる。WPシリーズを脳内に埋め込まれ、完全な傀儡と化したフィクサードたちだ。能力はフィクサードの域を完全に超えてている。20人規模のリベリスタチームが接触してすぐに全滅したほどだ」 『ブラック・フラグメント-CCC』のメンバーは以下の通り。 剣ノ章。虚空から大量の剣を召喚、発射できる。全体攻撃万能型。 杖ノ章。周囲のあらゆるものを爆発させることができる。攻撃特化型。 鋼ノ章。無限に銃などの武器を取り出すことができる。高速型前衛銃士。 翼ノ章。肉体を無限に再構築できる。高性能な回復とチャージを行なう。 槍ノ章。距離に関係なく相手を貫通できる槍を使える。防御がかなり硬く、翼のカバー役。 「それに、スコットランド・ヤードの支援戦力という扱いでアールという傭兵が味方として戦場にのこされている。彼女のことも気にかけてやってくれ。以上だ」 伸暁は強く手を握り、頷いた。 「頼むぜ、リベリスタ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月21日(日)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●断章の子供たち ビルが立て続けに爆発し、強化ガラスが粉となって散った。 恐らく内側にあったであろうスチールデスクが次々と路上に散乱し、拉げては潰れていく。 そんな光景の中、アールはじっと鉄骨の裏に張り付いていた。 腕だけだして銃を乱射。後に別の鉄骨まで走る。 「なんなのあいつ、ちょこまかちょこまか! 時間稼ぎのつもりなの!?」 ステッキを握った少女がいらだち紛れに先程の鉄骨を爆破した。 組織ごと断裂し、崩れ落ちる。 「でもムダ。私の魔法からは逃れられないんだから」 少女がニヤリと笑ったその瞬間、彼女の後方から銃弾が飛来した。 咄嗟に避けようとするものの、肩を打ち抜かれる。続けて、大量の弾が彼女たちへと襲いかかった。 「なん――!?」 「ツエちゃん!」 異形の翼を生やした少女が空中に大量のエネルギー粒子を散布。明後日の方向から飛来した弾幕。に対して回復弾幕を張る。肉体が破壊されたそばから再構築され、痛みが抹消されていく。 「誰よ、一体!」 歯噛みして振り向く杖の少女。 土煙の中から現われたのは、前髪をかき上げて笑う『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)だった。 「やあ傭兵さん。もうひとパニッシュいっとく?」 「なんだいパニッシュって。動詞なのかい」 マンホールの下から這い出てくるアール。 「ああああいつあんなところにっ!」 「本当に時間稼ぎだったようだな。まんまと引き合わされたようだ」 槍の少年が、ゴーグルをかぶり直す。 翔護の後ろからは彼の仲間たち、『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)が書けだしてくるでは無いか。 「アークのエースチームだ。本番だぞ、気を抜くなよ!」 「当然でしょ。僕らが人間ごときにさ」 両腕をだらんと垂らした姿勢で駆け出す剣の少年。 風斗は巨大な剣を出現させると、大きく振りかぶった。 「今回は余裕が無い。俺の生きたい世界のため、この街のため、殺させて貰う!」 「やってみなよ人間!」 虚空から引き抜いた剣を広げる少年。 その一方で、『南斗』イーリス・イシュター(BNE002051)がハルバートによるチャージアタックを仕掛けてきた。脇腹を小さく叩く。 「行くですよはいぱー馬です号! 今日は――」 「……」 瞬間。イーリスの槍の上に少年が現われた。銃を構えた少年である。 「イーリス・イシュター。アーク所属。強引で型破りなパワープレイで敵味方問わず恐れられるアタッカー。お前をマークする」 「なんと!」 「イーリス! 早速俺たちをブロックしにきたか」 舌打ちする風斗。 焦りが顔に浮かぶ……。 「……と見せかけてェ!」 「イーリストマホーク!」 二人は目を光らせ、武器を豪快に振り込んだ。 風斗の剣は疾風の刃となり、イーリスのハルバートは回転しながら飛んでいく。 剣の少年、銃の少年。二人の脇を抜けた。慌てて振り向く二人。 「「対ブロックフェイント!?」」 狙いは勿論。 「う、うそ。私!?」 二つの強烈な斬撃が杖の少女の両腕をそれぞれ切断した。陸にあげた魚のように跳ねて転がる腕。 「ば、ばかに……してええええ!」 血の吹き出す肩を無視して、少女は叫んだ。 額に血管が激しく浮き立ち、数本一気に破裂した。 途端、地面が一斉に爆発。周辺の酸素が爆発。待っていた粉塵が爆発。風斗の心臓が爆発。イーリスの右三半規管が爆発――と、次々に爆発が起こった。 「ツエ、無茶をするな! お前が狙われてるぞ!」 「おっと」 ふたりと立ち上がる風斗。 「持ち場を離れるなよ槍。回復役を守るのがセオリーだろ」 「フェイントブロックの次は逆ブロックか……」 歯噛みする槍の少年。 が、その目は鋭く光ったままだった。 「が、その身体でどうする」 「何?」 言われて、風斗は初めて気がついた。 自分の両腕が消し飛び、身体の至る所に風穴が空いているという事実にだ。 「――!」 ダメージ量が激しすぎる。アークの模擬戦で例えるなら、高レベルのマレウス・ステルラがクリティカルヒットした時なみ。いやそれ以上だ。 槍の少年が風斗の身体に槍を突き入れた。 無意識のうちにフェイトを消費。 肉体を無理矢理再出現させる……が、その身体に大量の剣が突き刺さった。 四方八方から突き刺さる。 「僕を無視するな、人間」 剣の少年のものだ。 「ばか、な……」 顔から倒れ、ついに動かなくなる――かと思われたその時、彼の身体が再び蘇生した。 はたと顔を上げる。 「この技は」 「やっだ楠神君早すぎ。早く漏れすぎ」 「言ってやるな。そういうスペックなんだ」 後方。『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)が両手を組んで翳していた。 ホーリーリザレクション。一回限りの技である。 彼女の横では、先程の爆発と剣の弾幕を代わりに引き受けた『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)が満身創痍の状態で立っていた。この時点で既にフェイトを消費しきっている。 そんな姿を横目に、海依音は身を蛇のようにくねらせた。 「はぁあん、福きゅんがワタシを守ってくれるなんて。『神裂は俺が守ってやる』ですってやあん海依音魔性の女! 養っちゃう、福きゅんに毎日五千円渡して暮らしちゃう!」 「ナチュラルにヒモにしようとしてるんじゃねえ」 反対側でマスケット銃を防御姿勢で構えるアール。この時点で既に海依音の庇い役を福松から委譲されていた。 「いや、アンタは才能あると思うよ。コツは一度ひっぱたいたあと抱きしめるのパターンだね」 「ナチュラルに女衒にしようとしてるんじゃねえ!」 「しかし、蘇生に一手使っちまったね。ここは一旦アタシが引き受けるから、あんたにはちょっと秘策を教えとくよ」 「そしてナチュラルに本題に戻してんじゃねえ! なんだよ言えよ!」 福松に耳打ちを始めるアール。 と、それとは別に。 『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)と『無銘』布都 仕上(BNE005091)が杖の少女へ攻撃を仕掛けていた。 「あんま人間舐めてんなよ、出来損ないどもが!」 高く跳躍したカルラは、拳を大きく引き絞ってからの豪雨の如きラッシュパンチを繰り出した。 拳は一発ずつが魔力の弾丸となり、杖の少女を含む戦場全体へと降り注ぐ。 杖の少女は雨に打たれた人形の如く滅多打ちにされていく。 「死……っ」 少女の顔が恐怖に歪んだ。 「しにたく、死にたくない! 死にたくない死にたくない死にたくないィ!」 頭蓋骨の形を原型が分からないレベルにまで潰された所から、フェイトを削って無理矢理復元。 血や涙や臓物やあらゆるものをダダ漏れにさせながら、唇を噛み千切った。 「おまえが死ねえええええええええ!」 再びの爆発。カルラはモロにその場から吹き飛ばされ、遠くの鉄骨に背中から激突した。 全てを出し切った。そういう顔である。 だからこそ、目の前まで『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)もとい那由他が迫っていても避けることすらできなかったのだ。いや、仮に全力を出しても難しかったかもしれないが。 「あ……」 「んふー、改造フィクサード。いいですねー強そうで。斬りがいがあります」 構えた手刀でひと薙ぎ。それだけで少女の首が飛んだ。 飛んだ首がぎろりと那由他を見下ろした。 「ま、だ」 ぶちぶちと血管が破裂し、爆破の術式を組み立てていく。 が、しかし。 「さーて、さて」 少女の胸に手のひらが当てられた。 『無銘』布都 仕上(BNE005091)の手のひらが、当てられていた。 カエルのフードが顔を隠し、口元だけが覗いている。 「強化しても所詮は肉の塊。キヒヒッ――!」 フードからぎらぎらとした目が覗いた瞬間、仕上の掌からエネルギーが伝達。杖の少女は内側から破裂した。 「つ、ツエちゃん……」 「気を抜くな、来るぞ!」 翼の少女へ寄り添い、槍を防御姿勢で構える少年。 そこへ満身創痍の風斗とイーリスが突撃した。 「二人とも逆方向にぶっとばすです!」 左右に回り込み、タイミングをずらしてメガクラッシュの構えをとる。 風斗の打撃が当た――る寸前。 「ツバサ、つかまれ!」 「う、うん!」 杖と槍の少年少女はお互いの腕を強くしっかりと掴み合った。 「しまった!」 今度こそ驚きに目を見開く風斗。 彼らの作戦は最大火力の杖を撃破した後に回復担当の翼を『槍のカバーをスルーして』撃破するというものだった。 方法は簡単。ノックバックで距離を開け、一瞬の隙に三人で逆ブロックをかけて再カバーリングを阻むというものだ。 が、しかし。 目を光らせるアール。 「相手が強く賢いと分かっているなら、そのくらいは想像がつく。『腕をしっかり掴んで離れないように庇う』とするだけで、ノックバックによるはがしは対応できてしまうのさ。けど」 「部位狙いってのはこういうときのためにあるんだな」 福松が銃をクイックドロー。 槍の少年の『肩の付け根』を狙って銃撃。 風斗の打撃と同時に放たれたせいで、少年の腕は付け根の部分から断裂。思い切り吹き飛ばされた。 「なんだと!?」 驚きに目を見開き、地面を転がる槍の少年。 彼の腕だけを掴んだ翼の少女を、イーリスは全力で殴り飛ばす。 「いまです、イーリスバスター!」 「ひぎっ!」 直撃。翼の少女は吹き飛び、むき出しの鉄骨に後頭部を強打した。 アールが深く息をつく。 「アンタも人を庇うときはごちゃごちゃ書き連ねないで、シンプルにこう書いときな。用意ってのは無駄になることのほうが多い。可能な限りコンパクトに。その部分が白紙化してもいいくらいの余力として使うんだ。ちなみに……」 意識を集中しての精密射撃で軽く息が上がっている福松をチラ見した。 「二人で20mノックバックをしようとしていたようだが、お互いに動けば埋まる距離なのでこれは意味が無い。全体ノックバックを併せて30m以上稼がないと1ターン分稼げないんだよ。わかったかい、オッパイ星人」 「オレはおっぱい星人じゃねえ」 「そうです福きゅんはオネショタ星人です!」 「そっちでもねえよ。病院に帰れ。頭の病院だぞ」 「うんうん。SHOGO、じゆうれんあいを信じてるから」 「お前もお前で肯定するな」 ぎろりとにらむ福松。肩をすくめる翔護。 二人の首を、それぞれ細い剣が貫通した。 「え……」 意識を失って倒れる福松。 見れば、風斗とイーリス、それにアールもそれぞれ力尽き、倒れていた。 恨みや憎しみが形になったかのように、無数の剣が突き刺さっている。 翔護の意識も、まるで闇にとけるように沈み始める。 「僕を無視するなって、言ってるじゃないか!」 高笑いする剣の少年。 だがその顔は、翔護にはなぜか泣く子供の顔に見えた。 「ああ、フッ君……『あの子』が悪者に連れ去られてたら、ああなっちゃってたのかな……それは、いやだよね……」 「ケンくん、ハガネくん、た、たすけ……!」 頭が割れているのだろうか。翼の少女は鉄骨に寄りすがりながらも、顔中を血まみれにしていた。 ゆっくりと首を振る。 胸に、ざくりと槍が突き刺さった。那由多のものだ。 「や、やめ」 翳――そうとした手が手刀によって切断される。よく見れば手刀にそった形で暗器がのぞいていた。 「いっ、痛い! 痛いよう、やだ!」 「ツバサ!」 「いやあ、残念でしたねー」 立ち上がり、飛び出そうとする槍の少年。 髪をかきあげ、振り向く那由多。 その間に、仕上が割って入った。 手のひらを独特のフォームで構え、ゆくてを塞いだ。 懇願するように首を振る翼の少女。 「たすけて。おねがい、痛いの。ヤリくんのこと、私信じて……」 槍の少年は首を振って返した。 「すまない、無理だ」 途端、翼の少女は。 「はぁ?」 左右非対称に顔を歪め、怒りと憎しみを同時に噴出させた。 「私を守ってくれるって言ったでしょう!? 嘘つき、くず、裏切りもの! 最低、さい――!」 全て言い終わる前に。少女の首から上がはじけた。 雪だるまの上半分を高速のピッチングマシンで破壊したときのように、それはそれは跡形も無くはじけ飛んだ。 「うるせえ」 カルラの拳から放たれたものである。 翼の少女はそれ以上喋ることなく、そして動くことすら無くなった。 カルラは視線を槍の少年、剣の少年、そして銃を握った鋼の少年に向けた。 「次はどうする。来いよ。こざかしい対応策なんざ、蹴散らしたらぁ!」 ここまでの流れで、カルラのストームスタンピートや翔護のハニーコムガトリングのダメージがあまり広がっていないように感じただろうか。 それもそのはず。翼が全力で回復を続けていたために、集中攻撃でも受けない限りは彼らの体力は万全に保たれていたのだ。 一方、海依音も海依音で最初のリザレクション以外はデウスエクスマキナを連発していた。 それが丁度枯渇しようという時になって、彼女の身体を無数の弾丸と槍、そして剣が貫いたのだった。 福松やアールによるカバーリングを破壊した少年たちが、集中攻撃を仕掛けたのだ。 「あーあ……」 仰向けに倒れ、かたわらのアールたちを見やる。 「運が無いのか運があるのか。危険手当は出るんですかねえ、アール君」 眠るように目を閉じる。 最後に視界にあったものは。虚空から巨大な剣を引き抜く少年だった。 「さあ、いい加減僕を見なよ人間。女や女たらしばっかり相手にしちゃってさ、つまんないよね」 「人間舐めんな。おまえら殺してお空の大将殴りに行くんだよ、俺は」 「……なんだって?」 剣の少年が、震えながら笑った。 「なに先のこと言ってんの? 今目の前に僕がいるよね? なに見過ごしてんの、なに無視してんの、調子乗らないでよね、ほんとさ……ほんとさあ、おまえさああ!」 巨大な剣を振り上げ、飛びかかってくる。 那由多と仕上が迎撃しようとするが、その間には槍の少年と銃を構えた少年が割り込んだ。 二人は那由多たちに強烈な打撃をあたえ、はじき飛ばす。 三角ブロック。三対三での個別戦闘を強いられているのだ。 無視して誰か一人に集中砲火射撃を浴びせることは確かに出来る。ただしその場合、目の前の相手への対応をおろそかにすることになる。 よそ見をしながらいなせるほど、この相手は弱くない。 いや……アークでもエース級のリベリスタ八人がかりでもハードな五人。むしろ格上だ。 「くそっ!」 拳を繰り出し、剣を受けるカルラ。強すぎる衝撃に、そのまま吹き飛ばされた。 空中で身をひねり、拳を地面にえぐり込む形でブレーキ。 ふと気づけば、片腕がもげていることに気づいた。 回復は見込めない。 カルラは舌打ちした。 突撃してくる剣の少年。 「さあほら、僕を見ろ! 僕だけを、みんな僕だけを見ろよ! 人間のくせにい!」 「だから人間舐めんなって……」 繰り出した拳が少年の剣を粉砕。 と同時に腕が複雑に折れる。 カルラは両目を見開き、かるくのけぞってから。 「言ってんだろうがあ!」 少年の顔面に強烈な頭突きを叩き込んだ。 鼻から血を吹く少年。 更に叩き込む。 二人はぐらりと空を見上げ、そして同時に気を失った。 「やべ、血……足りね……」 一方。 仕上と鋼の少年はお互いの腕を払い合っていた。 それも秒間十発前後の速度である。 鋼の少年が繰り出す無数の暗器を仕上はギリギリのところでかわし、隙を突いて放つ仕上の抜き手や掌底を少年が紙一重でかわし続ける。 「キヒ、キヒヒ……お前らはここで朽ち果てろ。屍を踏み越えて、うちは頂に登る!」 「……」 繰り出される爪。 仕上の頬に三本の傷が走る。 繰り出される抜き手。 少年の肩口が深く削れる。 今だと手首を返した仕上に、少年は含み針を吹いた。 暗殺用の硬く鋭い針が、眼球に突き刺さる。 「どうでもいい、そんなもの。くだらない、なにもかも」 袖から暗器を繰り出し、仕上の喉に横から突き刺す。 「壊れてしまえばいい」 「……キヒ」 対して仕上は、頬を引きつらせて笑った。 なぜなら。 彼女の両手が少年の両耳を押さえていたからだ。 「とったすよ」 「しまっ」 「双アン!」 衝撃が走り、少年の脳が物理的にはじけて混ざった。 「鋼!」 歯噛みして叫ぶ槍の少年。 彼へと、那由他がゆっくり間合いを詰める。 「アーク……これまでのデータは全て取り尽くした筈だ。万全だったはず、万全だったはず! なのにお前は……さらなる最適化を続けているというのか、こんな世界に至ってまで!」 「そうしないと生き残れないもので」 繰り出――そうとした槍の側面に回り込む那由多。 「でも」 こじりを返――そうとした手首を切断。 「どうせなら」 槍を分解して差し込――もうとした腕も切断。 「正面からのほうが」 早すぎると喋――ろうとした首を、一息に切断した。 「気持ちよいのですよね、うん」 ごろりと落ちる首。 一陣の風がふき、那由多は髪を押さえて笑った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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