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誰があの子を求めたか

●必要として下さい
 例えば、それは何処にでもありがちな光景だ。
 子供達がはしゃぐ休日の公園の片隅で、一人ぽつんと佇む少女。
 休憩時間の賑わう校庭で、一人ぼんやりと空を見ている少年。
 苛められている訳では無い。誰も必要としないだけだ。
 必要とされないから、彼女は一人で花を摘む。
 必要とされないから、彼は一人で雲を眺める。
 何もかも、必要とされないから。
 友達にも。家族にも。世界にも。
 邪険にされない代わりに、求められもしなかったから。
 彼は、彼女は、誰かを求めながらずっと一人で過ごすのだ。そしていつでも、胸の中にぽっかりと穴をあけている。
 一人でいたい訳ではない。叶うなら、楽しげな子供達の輪に加わりたい。
 だが、彼らにはそれが出来ない。それはただ内向的な性格がそうさせるのかもしれないし、素直になれない天邪鬼の所為かもしれない。
 取り留めもなくいつかは解けて消えてしまいそうな儚さで、その癖いつまでもそこに残り続ける。
 とても簡単に言い表せそうで、けれど一言では言い尽くせないもどかしさ。

 結局のところ、人はそれを寂しさと呼んだ。


●凝り溜まって曇ったこころ
「本人達は、それが特別大きな問題だとは思っていない。ただ寂しいと思うだけだ」
 『直情型好奇心』伊柄木・リオ・五月女(nBNE000273)は、いつものようにテーブルの端に腰掛けて紙を束ねた資料を膝に置いた。
「もちろん中には、それが原因で自暴自棄に陥ったり、擦れてしまったり世界を恨むような子供も存在する。ただ、大多数にとって寂しいという事は、そういうものだと受け入れるだけで終わる程度でしかない」
 寂しいままで卒業していく者もいれば、ふとした切欠で誰かしらの仲間に加わり、寂しさを忘れてしまえる子もいる。
 かといって、抱え込まれ吐き出された寂しいという感情が存在しなかったことにはならない。
「本人が幾ら受け入れても諦めて、或いはその寂しさが解消されたとしても。溜まり溜まった『寂しい』という感情だけが溜まり溜まってしまう事もある」
 エリューション討伐の依頼だと、五月女は静かに告げた。
「子供達の寂しいという感情の塊がエリューションになっている。今の所は逃げ回るだけで大した威力も持っていないが、放置すれば深化するのはいつもと同じだよ」
 詳しくは資料にと告げて、白衣のフォーチュナは集うリベリスタ達へと、よろしく頼むと告げたのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:猫弥七  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年12月15日(月)22:09
 ご機嫌よう、猫弥七です。
 寂しさを訴える事は子供の方が素直でも、抑え込む事に大人も子供もあまり変わらない気がします。
 さて今回は、子供の寂しさが溜まり溜まって出来たエリューションのお話です。
 寂しさが原因で生まれたエリューションなら、寂しさが無くなれば存在する意味もなくなるのかも知れません。
 それでは、どうぞよろしくお願いします。


■成功条件
・エリューションの討伐

■場所
 市立小学校
 校庭と裏庭、中庭があり、長方形の校舎が平行に二列建っています。
 正門も裏門も施錠されており、一般人の干渉を想定に加える必要はありません。

■時間
 深夜2時以降
 宿直の職員は事前に帰宅させられており、午前6時に職員が出勤してくるまでは無人となっています。

■E・フォース『サミシガリ』フェーズ1×5体
 子供くらいの大きさとシルエットをした、ぼんやりと白く濁った影のエリューションです。
 物理的な攻撃に強く、戦闘能力は高くありません。
 影それぞれに性格のようなものがあるらしく、リベリスタを発見すると攻撃してくるものから逃げ出すものまで様々です。
 教室や図書室、校庭など好き好きに散らばっています。
参加NPC
 


■メイン参加者 5人■
ジーニアスデュランダル
霧島・神那(BNE000009)
ビーストハーフデュランダル
卜部 冬路(BNE000992)
ハイジーニアスホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
ジーニアスホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
ハイジーニアスレイザータクト
鈍石 夕奈(BNE004746)
   


 相手がエリューションともなれば、姿形に左右されない存在であることは確かだ。
 さりとてもスカート――のようにシルエットの一辺をひらひら揺らして駆けていき、廊下の角から顔を出してくる白い影からは、敵意や悪意を感じ取れない。まるで子供、その白っぽい全体像から印象を抱く子供そっくりだ。
 『プリックルガール』鈍石 夕奈(BNE004746)は、穏やかに笑む三白眼でおどおどとして見える白に近付いていく。
「……あん頃は寧ろわたいが誘われる側で、誘って来るんは大概……姉ちゃん、やったっけ」
 郷愁を感じる。
 緩やかに口端を吊り上げながら、からり、ころりと下駄底を鳴らす。
「寂しくなくなればええんやろ? ほんなら、タップリ賑やかにしたろやないか」
 白い影に顔形は見えなかったが、少女を感じさせる異形を見下ろしながら夕奈は笑う。伸ばした手のひらの下で、形があるような無いような、漠然とした感触を薄く感じた。エリューションの頭を撫でるような素振りをしても、まるで綿越しに撫でているような妙な違和感がある。
 それでも自分を見上げているのが確かに分かる角度で首を傾げるエリューションに、にっこりと微笑みかけた。若干身体を震わせた気配がするのが、少々解せない気がしない事もない。
「あんた、遊ぶんは好きか? 鬼ごっこでもかくれんぼでも、何でもええよ」
 遊びを嫌う子供は然程いないだろう。子供の寂しさもたっぷりと抱え込んだ影なら、それはきっと尚更だ。
 案の定、少しだけ躊躇うような沈黙を挟んで、白い影は小さく頷く。
「人数足らんよって困ってるんよ、あんたも入ったってや」
 楽しい遊ぶのに、あんたが『必要』なんよ。
 強調された響きに、エリューションはまさしく人間の子供にも似た動きで自身を指さした。
 その通りだと頷いて、更に懇願を重ねる。
 遊んで『やる』、相手を『したる』。そんな上から目線の物言いは性に合わない。飽くまで拝み倒す事を前提にして、彼女は神秘に生じた怪異を誘う。
「だから、な? 頼むわ」
 重ねた言葉へと数秒の静寂を挟み、やがて僅かにエリューションは頷いた。
 戸惑った様子も困惑した様子も抜け切れていない、それでも肯定の返答に夕奈は柔らかに相好を崩した。
「そうや、名前と何して遊ぶかのリクエスト。言ったってや」
 子供らしく小柄な白い影を見下ろして提案すると、困った様子で首を捻る。シルエットしか判然としない、それでも本物の子供そっくりなその態度に、夕奈は悪戯っぽく口端を吊り上げた。
「名前無いならあだ名な! おった場所とか好みやら見た目から決めよ。……そうやな、髪長いし……貞子とか?」
 文句ありげにぶるる、と首を横に振った白い影に、彼女はからりと笑う。白く長い髪の形が揺れるのを見て、また頭を撫でた。
 そうして何かしら企むように、戸惑うように少し浮いたり下がったりと不安定な動きを見せた白い手を取る。
「ほんならどないなあだ名がええんやろ。なぁ?」
 繋いだ手は、温かくも冷たくもない。人のシルエットをしているだけで、人間でもない。
 それでも弱く淡く握り返してきた手の感触を受け止めて、夕奈はゆっくりと重ねた手を揺らし、歩き出した。


 こちらはこれから東側へ参ります。
 幻想纏いの通信で告げて神秘の加護に与えられた仮初の翼を広げ、滑るようにして探す内に見付けた姿を懐中電灯で照らし出した瞬間、白い影が驚いたように震える。
 開かれていた本がぱたんと閉ざされ、床の上へと落っこちた。派手な音を立てて表紙が床にぶつかり、ばさばさとページが捲れる。
 シルエットしか分からない白い靄に似たエリューションに、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は吊り上った青の瞳を和ませた。直接向けていた懐中電灯の明かりを床へと下げ、脅かさないようそっと近付く。
「どうか、しましたか?」
 白い影は答えない。
 戸惑い躊躇う身震いを見せてから、本を床に置いて立ち上がる。逃げるようにしてテーブルを挟んだ向こう側へと回ってしまったエリューションに、凛子は微笑んで足を止めた。
 今し方まで『サミシガリ』のいた場所に身を屈め、床に落ちたままの本を取り上げる。エリューションにも季節的な感覚を楽しむ性質があるのか、クリスマスをテーマにした物語だった。
 硬い表紙を撫でて周囲を見回し、すぐそばの本棚に空いた隙間へと押し込む。図書室はしんと静まり返っていた。
「寂しい雰囲気ですね……」
 そっと呟いた凛子に、シルエットしか窺えない白い影が首を傾げた。
 深夜の図書館だ。生徒達で賑わう昼日中ならまだしも、真っ暗な夜に総べられたその場所は、随分と物悲しさを感じさせた。
「あなたも寂しいのですか? ……何が寂しいのでしょう?」
 神秘によって生み出された化生に対し穏やかに尋ねた凛子へと、『サミシガリ』はやはり迷う素振りを見せた。
 ゆっくりと近付いていく彼女におろおろと戸惑う素振りを首を竦ませる動きに表しながらも、それ以上逃げようとはしない。
「独りでいる事ですか? それとも、友達の輪の中に入れなかった事でしょうか」
 声を無くした訳では無いのだろう。ただ、答える為の言葉を持っていない。
 正面へと立った彼女を、口を噤んだエリューションはただ、見上げる。
「あなたが本当にしたかった事は何ですか?」
 同情はしない。慰める事もしない。
 凛子はただ、目の前の白い怪異へと向き合い、最後まで付き合おうと決めていた。
 視線を合わせるかのように身を屈め、エリューションへと微笑んだ。吊り上った青い瞳が柔らかに歪む。
「心残りはありませんか?」
 首を傾げた白い子供は、まるで何を言われたのかが分からないかのように、真っ直ぐ凛子を見返した。
 白い身体に沈む双眸が何処にあるのかは予想をする他無かったが、すぐに問われた意味は理解したらしい。
「折角ですから、遊びましょうか」
 困ったように首を捻る怪異と暫し見詰め合ってから、凛子がそう提案した。
「あやとりはお好きですか? ふれあいのある遊びの方が良いかと思いますので……」
 屈めていた姿勢を戻しながら尋ねると、白い子供はぱっと顔を上げて凛子を見上げる。
 何やら動きがそわそわとして見えるのは、エリューションなりの賛成の示し方なのかもしれない。
 ふっと表情を和ませた彼女が、その前に、と一声置いた。
「まずは、他の方達と合流しましょう。賑やかな方が楽しいでしょう? ……きっと」
 優しく尋ねた凛子へと、エリューションは大きく頷く。
 孤独である事、寂しいという気持ちが苦しさを伴う事を、彼女も良く知っている。けれどそうした細やかな想いは、誰しもが抱いたままで生きている――生きてきた。
 ゆえに、彼女は既に決めている。
 その寂しさも苦しさも、彼女自身が憶えておこうと。
 決意も新たに、凛子はエリューションの手を取ったのだ。



 武器も持たず、仰々しい衣装にも身を包まない。
 暗い校舎を歩くのは、一見、幼さを残した何処にでもいる少女にしか見えなかった。普通という枠から外れるとすれば、黒髪の間から伸びる二本のウサギの耳が生えている点だけだ。
「む……おったな」
 集音に秀で、機械めいて僅かな音さえ聞き漏らさない耳を揺らして、『雪暮れ兎』卜部 冬路(BNE000992)は足を止めた。
 手にした懐中電灯の角度を足元から前方へと移していくと、階段の踊り場からひょこっと顔を出した白色が、廊下に立つ冬路を窺っていた。懐中電灯に照らし出されて驚いたように階段の方へと首を引っ込めたものの、またすぐ恐る恐ると顔を出し直す。
 そして再び白色が壁の向こうに引っ込んだかと思った瞬間、その方向から四角い物体が吹っ飛んできて冬路は慌てて身を捻った。
「な、何じゃ……国語辞書?」
 中々重苦しい音を立てて落下した投擲物を拾い上げると、ソフトカバーに包まれた物体にきょとんと瞬く。
 まじまじと眺める前に今度は図鑑が飛んできて、また慌てて飛び退いた。
「お、鬼ごっこじゃろか……ほれ、こっちじゃよ! って、今度は逃げるのじゃな……!」
 投げるだけ投げて再び踊り場に引っ込んだ『サミシガリ』を誘導し損ね、冬路が少し考え込む。
 ぱたり、と長い耳を揺らすと、ゆっくりと踊り場の方へと歩き始めた。
「怖くないぞー。私達は一緒に遊びに来たんじゃよー、――むっ」
 再び飛んできた異物をさっと躱す。軽い音と共に廊下へと落下したのは、今度は大きな三角定規だ。
 壁の向こうには引っ込む割にそれ以上逃げて行かない辺り、怖がりだと思われたくないのかもしれない。だとしてもすぐに物を投げてくる辺り、中々厄介かもしれなかった。
「そうじゃ、投げるならメンコが良いと思うの。ほれ」
 持参品を思い出した冬路が、いそいそとメンコを引っ張り出した。丸や四角の分厚いカードの片面には、様々な絵柄が描かれている。
 再び踊り場から顔を出して此方を窺うエリューションへと近付いて行っても、今度は物が襲ってくる事は無かった。興味深げにメンコを追って首を傾げる。
「ビー玉やぬいぐるみも持ってきたがの、投げるならこれじゃ。投げるというより叩き付けるかの、遊び方は分かるじゃろか?」
 怖がらせないようにゆっくり近付いていく冬路に、壁の裏側から白い影の子供もおずおずと姿を現す。
 彼女と差し出されたメンコとを見比べてから、小さなシルエットをした手が丸や四角の厚紙を受け取った。軽く指先で叩いてみたり、裏返したりと興味深げな様子を見せる。
 物珍しげに紙で出来た玩具を触れている姿は、容姿の奇怪さを除けばまさに今時の子供のようだ。
 そんな、彼女の視点から幾分下に位置するエリューションを見下ろしながら、冬路はふと手を伸ばした。
「……ああ、孫がおったらこれくらいになるのかの」
 温もりを持たない白い影の頭に柔らかな手付きで触れ、子供を労わる時のように優しく撫でる。
「昔は寂しいとは考えすらしなかったがの。今になって分かる。友人、知人、愛する者……人はいつも、誰かと関わって生きておるのだな」
 赤く染まる双眸を穏やかに翳らせて、懐かしい記憶を辿るように冬路は瞬いた。
 見上げてくる怪異の双眸が何処を向いているのかは正確には分からないまでも、白いそれはじっと耳を傾けているように思えた。
「お主の寂しさも、私と関わる事で楽になってくれれば良いのじゃが」
 そっと瞼を伏せ。
 微かな嘆息を交えた彼女への返答は、メンコを手にしたエリューションの首を傾げる仕草だった。


 懐中電灯の明かりが揺らぐすぐ上を、仄白い影がすうっと過ぎ去っていくのは中々ホラーな光景だ。
 もっとも夜も更けきった刻限に校庭の一角を過ぎ去る白色は、揺らされる懐中電灯の光もそれほど気にしてはいないらしかった。光が離れるとその縁に沿ってそっと近付き、身体に光が掛かると、今度は少し光から離れる。
 遊ぶような動きだが、器用なのは上手く植木の中や遊具の後ろに身を隠してしまって、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)の視界にはちらちらと白い色が見え隠れするだけという点だ。
「よう、そこにいるのかい?」
 少なくとも敵愾心は感じられないエリューションの動きに、エルヴィンは至って明るく声を掛ける。懐中電灯の光で遊ぶ動きが止み、白い身体が植木の間からそろそろと顔を出した。顔といってもシルエットからそれらしいと分かる程度だが、どうやらエルヴィンの様子を窺っているらしい。
「一人なのかい?」
 『サミシガリ』同士で群れている可能性もあったが、そうだろうとは予想に難くなく、案の定尋ねた言葉に小さな頷きが返された。
「それなら俺と同じだな。今、ちょっと一人で散歩してたんだ」
 仲間と共の来訪である事を言外に示しておきながら、今は一人だという事を強調しておく。
 雑談を装ってもう数歩近付いてみると、逃げはしないもののエリューションの肩が小さく跳ねるのを見て、エルヴィンはすぐに足を止めた。怖がらせるつもりはない。白い影の緊張を解すように穏やかな笑みを湛えたまま、黙り込んだ白色を見詰める。
「ただ、こういう雰囲気は嫌いじゃないが、一人でっつーのも味気ないからさ。俺と一緒に来てくれないか?」
 しんとした廊下を見回してから、良かったら、と付け加えた。急に誘われて驚いたのか、少し仰け反った白の怪異に笑う。
 笑われた事が不満だったのか、そっぽを向くような動きをしながらも逃げて行こうとはしないエリューションへと手を差し出した。
「君も一人なんだろ? ――寂しくないかい?」
 エルヴィンが付け足したのは、ごくさり気無い問いだ。
 誰かに必要としてほしい。一人は嫌で、皆と居たい。
 そんな思いがごく当たり前のもので、それは自身にもあるものだと彼は思う。
 ひょっとすれば目の前に立つエリューションの、その中の何分の一かには、エルヴィン自身や仲間達の寂しさも含まれているのかもしれない。
 そう思えばこそ見放す事も見限る事も考えないまま、エルヴィンは笑う。親しみを込めて。
「皆で鬼ごっこでもしようぜ。俺と君とで組んでさ、作戦も立てようか」
 言葉といえる程に明白な返答ではなかった。
 皆で。
 風の音にも似た微かな響きが、迷うように呟いた気がしただけだ。
 白色の迷いを打ち払うように、エルヴィンが返答の代わりに差し出したままの手のひらへと温もりのない小さな手が重ねられたのは、ほんの少し後の話だった。


「寂しがり屋なエリューションなんて夜の学校には珍しいが居るのね~」
 『怪力乱神』霧島・神那(BNE000009)は、特に寂しさというものを感じた事がない。それが記憶の上に限る話なのか、それとも彼女自身が自覚する能天気な性格の為かは分からないが、いずれにしても今の所、然程重要視すべき事だとも思っていない。かといって寂しさによって生まれ落ちたエリューションに対して、一切の理解を示していない訳でもなかった。
 寧ろ、彼女の場合は寂しさを思わないからこそ、己の内に寂しさを追求せずに済んでいるのだろう。故に彼女が望むのは、白い影達の寂しさをすっかり晴らしてしまう事だけだった。まさしく自覚のある通り、その陽気な能天気さの持ち得る限りで。

 ――そうしてその結果が、図らずも校舎内の鬼ごっこと化している。
「そらっ、捕まえ――ってまた逃げられた~!」
 無邪気な振りで追い掛け始めた初めの方ではエリューションの素っ頓狂な悲鳴を聞いた気がするが、今体育館に響いているのは鬼を担った神那の悔しげな声と、少年のものとも少女のものとも付かない、不思議に反響するような響きを持った笑い声だけだ。
 最初は出来るだけテンションの高さを抑えて接そうとした筈が、ちょっと目を離した瞬間に逃げられたのを追い掛け始めたのが切欠だったが、結果的に楽しげな様子はある意味彼女の目的を達した形でもある。
「うわっ! やられたー!!」
 床に滑って派手に転んだ神那に驚いたのか、慌てて白い影が足を止めた。恐る恐る彼女へと近付くと困った様子で周囲をくるくる回り、頭の近くでしゃがみ込む。
「……なんちゃってネ。えいっ」
 エリューションが床に突っ伏したままの神那に手を伸ばした所で、反対に彼女の手ががっしりとその手首を握った。ひゃっ、だか何だか、子供らしい甲高い声が短い悲鳴が体育館に響く。
 そんなことにはお構いなしに素早く立ち上がった神那が、脆そうでいてしっかりと感触を持つ白色を抱き締めて捕まえた。
 両腕の中で小さくもがいた『サミシガリ』がすぐにクスクスと笑い出すのを聞いて、神那が双眸を和ませる。
「よーし、それじゃ君も捕まえた事だし、皆と合流しよっか。二人っきりで鬼ごっこも良いけど、大勢でやるのも楽しいだろうしね~」
 構わないよね、と尋ねると、エリューションは小さく頷いた。元々人懐こい性質だったのかもしれないが、問題が無さそうだと判断して神那は悪戯っぽく唇の両端を吊り上げる。
「そうと決まれば……よいしょ!」
 仄白い身体に、重みと呼べるほどの重みは無かった。
 軽々と子供のシルエットを抱き上げた神那が、両肩の上へとエリューションを座らせる。
「しっかり捕まってね。レッツゴー!」
 慌てたように小さな手が、彼女の鮮やかな緑の髪に触れる。
 肩車した白い影の両脚をしっかり押さえ、神那は意気揚々と歩き出したのだった。



 校庭を照らしているのは沈みかけた月と星明り、あとは学校の外に立ち並ぶ外灯だけだ。決して明るいとはいえないが、ほんのりと浮かび上がるような白い子供達を見失う程でも無かった。住宅街にありながらも、凛子の描いた結界の内の賑やかな声に気付いて起き出す者もいない。
 白い影達を数人纏めて抱え上げた神那が軽々と逃げ、翼を背に受けて空中へと逃れたエルヴィンへと、狡い狡いと幾つもの幼い声が合唱する。
 隠れ鬼にボールを借りてきてのドッジボール。メンコやビー玉、あやとりの紐は何度か途中で絡まった。思い付く遊びは幾らでもあった。

 『寂しがり』達がいつ消えたのかは分からなかった。
 ふと気付いた時には。肩越しに振り返った時にはもう、雲が千々に消えるように、雪が溶けるように呆気なく、その姿はリベリスタ達の視界から消えていた。
 夜も明けない星空の下、寂しさを感じさせない、楽しげな笑い声の余韻だけを残して。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 まずは皆様、エリューション『サミシガリ』達のお相手、大変にお疲れ様でした。
 持て余した寂しさと、それを開放する手段が同時に揃っていても、その二つを上手く組み合わせられない場合もあります。
 その結果、寂しさばかりが積もり積もって生まれたエリューションのお話でした。
 このような結末となりましたが、いかがでしたでしょうか。お気に召して頂けると幸いです。

 とにもかくにも、皆様、ご参加有難うございました!
 また別の機会に御目に掛かれる事を楽しみにしております。