●台風一過 今年もまた、日本を数多の大雨の雲、台風が通過して行った。 各地に雨と風を届け、作物を始めとする人々の営みに強い影響を与えたその自然現象は、季節の変化と共にまた遠く南部に沈んで行く。 だが、今年過ぎ去った台風には置き土産があった。 その始まりは小さな風の渦。 草の葉一つをゆらゆらと揺らすだけの小さな動き。 しかしその風はいつまでもその場に留まり続け、居座った。 それは自然界においてありえない出来事。この世界に在る物と異なる存在に成った証左であった。 『―――――ォオオ!』 風は鳴り響き、いつしか傍にある木々を薙ぎ倒す程に強くなっていた。 台風の置き土産は、今再び人々に牙を剥かんとしていた。 ●暴風を薙ぎ払え 「某県都市部近郊の自然公園内に竜巻型のエリューションエレメントの存在を確認しました。と、同時にこのままでは都市部にこのエリューションが侵入する未来を視ました」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、神妙な顔つきで集まったリベリスタ達を見回しそう口火を切った。 「周辺住民へはあくまで自然災害として通達、避難を指示していますが、皆さんの迅速な対応を求める事態である事には変わりありません」 自然が覚醒現象を起こす事によって発生する存在であるエリューションエレメント――E・エレメントは、生み出す状況もまた大規模な自然災害に近しい場合が多い。今回も発生したエリューションに因る被害は竜巻によるそれと似た物になる可能性が高い。と、和泉は付け加える。 「対象は皆さんの到着時、既にその段階を進めフェーズ2となっていると思われます。また、時間を掛け過ぎて都市部に迫る頃ともなれば、更なるフェーズ進行の恐れも充分にありえます」 未来を視ると言われるフォーチュナである和泉の視た風景では、E・エレメントは巨大な雷雲を生み所謂スーパーセルと見紛うほどの規模を持ってしまっていたらしい。 真剣に危機を訴える彼女の瞳は、そこに確かに視た状況への恐怖を持っていた。 「対象は個と群を区別する様な存在ではなく、自身の力を周囲に撒き散らすだけの単純な行動パターンを持っています。その代わり、単純故にパワーは圧倒的です。特に周辺の大気を収束させた後は、それを爆発的に開放する場合があるので注意が必要となるでしょう」 自然の成れの果てであるそれは、革醒し世界に対して浸食を始めた分だけより脅威となったと言っていい。 また、例え動きが自然現象のそれをなぞっていたとしても、そこに一般の常識は通じないのだ。 立ち向かわなければならない。立ち向かえる者達で。 「ただ過ぎ去るのを待てばいい。そういった存在でない事は皆さんもご存じだと思います。必要なのは対象の殲滅です」 ハッキリ『倒せ』と彼女は言った。 それがアークの方針であり、リベリスタたる者の負った責務である。 そして何よりも、それぞれに戦う理由を持っているのだから。 「今回の件、どうかよろしくお願いします」 礼をした和泉に、リベリスタ達は頷いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:みちびきいなり | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月04日(木)22:01 |
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■メイン参加者 5人■ | |||||
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●嵐に向かって 上司から指示を受け災害対策本部を作っていた私服警官の一人にその電話が届いたのは、午後の午前の境界の頃だった。 「……ええ!? 柴崎さん。お久しぶりです! お元気でしたか?」 声を聴いた男性警察はやにわに喜色を見せた。もう彼と別れてどれくらいだったか、それでもその声は忘れない。 あの時自分はまだ刑事では無くて、等と少し過去を思い浮かべ様とした矢先、続く言葉に驚かされる。 「え? 例の竜巻の進行ルートの正確な予測がある? あ、待ってください。メモを……!」 突然の事に慌てながらも、その刑事は世話になった先達の言葉を信じて紙にペンを走らせていく。 彼の口から語られるルート情報が、まるで視てきたかの様に詳細で説得力を持っていたからだ。 「はい、はい。ルートが分かっていれば避難誘導も逃げ遅れてる人を探すのもこちらで十分に……っていうか柴崎さんなんでこんな情報を」 彼がその言葉を言い切る前に、電話は切れる。通話相手の最後に残した言葉は―― 「頼んだぞ、っと」 電話を切り、『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)は乱雑にコートのポケット入れていた煙草を一本取り出し火を付ける。風が吹いているせいか、火の付きが悪いライターに苦戦した。 遠く空を見据えれば、広大な土地を有する自然公園の只中に砂埃や諸々と共に巻き上がる細い空気の渦を見て取れる。 「台風だとしたら、随分と季節はずれだな」 唸る風音を耳にしながら呟く遥平の傍、そこには彼の他に複数人の男女の姿があった。 「最近はどこでも竜巻が起こって物騒だよね~」 「最近台風が多かったので、そういうモノに対する恐怖がエリューション化したのでしょうか?」 台風の置き土産、そう推測されているから。『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)と『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)は思い思いに感想を口にしたり考察を行っている。 終の耳元で銀のアクセサリーが、凛子の美しい長髪と白衣が、それぞれ風に揺れていた。 「ハンドサインの確認と、AFによる簡易伝達方法の確認はこれくらいでいいでしょう」 「えっと、指の形があれで止まれ、これで走れ……」 『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)と、『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は特に綿密に連絡方法の確認を行っていた。 凛子の提案もありハンドサインとアクセス・ファンタズム――AFによる通信、二段構えとなった伝達手段の確立は、風音激しい戦場では有利に働く事だろう。 打ち合わせを終えたあばたが己の装備を整える。半身を機械化している彼女の両腕には、体躯に似合わぬ大小二挺の銃が構えられた。いずれも異能と言えるエリューションの力が無ければ扱えぬ代物である。 この銃が狙うのは、あそこで勢力を増す竜巻の革醒存在、E・エレメントである。自然より生まれた自然ならざる物を、その破界器は撃ち抜けるのだ。 見目には大気に向かって弾丸を放ち、それを打ち破る様に見えるだろうか。 (一体何を破壊しているのやら) 微かに思索の海に沈めた意志を、彼女は即座に呼び戻す。彼女にとって目に見えぬモノ、神秘を認める様な真似は忌避するべき事だからだ。 「翼を与え賜え」 凛子の呼び声に答え、戦場に立つ者達、リベリスタ達に翼の加護が与えられる。足場の悪い森林部での戦闘を見越した事前強化だ。 彼女がそうしたという事は、いよいよ彼らが戦場へ、あの嵐に向かって攻めかかるという事である。 「結界も張り終えました。ハンドサインも確かめました。行けます」 普段隙あらばどこかドジを踏んでしまいがちなイスタルテも、今回は気合の入れ具合を変えている。作戦に当たるには十全とは言えない人数での実行に、否応なく緊張は高まっていた。 特に今回、彼女はリスキーな選択をしている。そうまでしてでも手に入れた高精度の戦闘能力を発揮する為に、普段以上の真剣さを求められていたのだ。 全ては彼女が守ろうとしている、人々の命の為に。 それはまた、終の思考とも合致する所がある。その源流は違えど、彼もまた一般人の被害を減らす事を第一義と構えていた。 彼にとってライフワークの一つでもある人助け。その機会を今日もまた得た事に終は心を奮い立たせる。 死を望む自らの生の価値、今日の行いでそれがどれ程の物となるのか。 「取りあえず、一般の人達に被害が出ないうちに終わらせちゃおう!」 死にたがりのピエロは隻眼の顔に笑みを湛え、仲間達の誰よりも早く駆け出した。 そんな彼の心情を知ってか知らずか、追従する者達の足取りもまた軽く、速やかだった。 その背後、都市部の方で、動き出したパトカー達のサイレンが遠く鳴り響いていた。 ●自然から成ったモノ ソレを前にして、リベリスタ達が思ったのは果たしてなんだったのか。 幸か不幸か、E・エレメント……仮称『荒風』の進行速度は遅々とした物だった。 ゆったりとした円運動と共に、それはじわりじわりと都市部に向かって進んでいて、その進行速度が遅いが故に、周辺の木々は残さず薙ぎ倒され、大地は捲れ、抉られている。 そこはただの森である以上に足場は悪かったが、事前に準備していた翼の加護がその不利を打ち消していた。 「全力で参ります」 戦場に立ちまず凛子が周囲に散った数多の魔力を己の身に集め始める。吹き散らかされた命の残滓が彼女に力を貸していく。 手術用手袋にカルテ状のAFを持つ凛然とした彼女の立ち姿は、もう一つの戦場である医療に携わっている彼女の生き様の表れにして、常在戦陣の意志である。 「じゃあ、張り切ってGO!」 その前方、終が跳ぶ。 両の手にそれぞれ持った短刀が、地を蹴り宙を舞う彼の速く、そして正確な手捌きによって数多の斬撃を生み、その場に存在する『時』を切り裂く。 結果、生み出されたのは無数の切ったという事実と、切り裂かれた時の咆哮である氷結の痕。 が。 「っと!」 彼はそこで立ち止まらずに即座に横へと跳んだ。まるで狙い澄ましたかの様に飛来した鋭い風の流れに微かに腕を裂かれる。 更には己の斬撃に手応えがない事を、今の一太刀で認識した。通じているのかいないのか、それを判断する一手が無いのは少々厄介な物だと認識する。 空気が流れている。大きな圧を持ったその大気の動きに、彼は発生させた氷結が届いていない事をようやく実感する事を許された。 しかし彼は止まらない。 「なら、通じるまでやるだけじゃん!?」 跳ねた体を無理やり回す。加えられた横回転の力、風に逆らわず逆に乗り利用しながら、続く二度目の太刀を放つ。 再び切り裂いた『時』が、二度の氷結を与えるべく迫るも、その二度目もまた圧倒的な風圧の前に吹き消された。 (そう易々とは、思った通りにならない……か) 戦局を冷静に見つめる遥平の脇、呪縛による拘束を期待してアスタルテがフィンガーバレットから数多の弾丸を打ち込んで行く。弾丸は確かに敵を打ち抜いていたが、その動きを阻害するには至らなかった様だ。 「俺があいつの攻撃を引き受ける! よろしく頼むぞ」 年長者然とした落ち着き、しかし鋭い声音で声を張り上げてから、遥平は旋風の中へと飛び込んだ。 (さぁ、しっかり俺を守ってくれよ?) 敵の懐中に潜り込んだ所で、彼は自らを物理の痛手から守る障壁を纏う。魔力を糧にあらゆる物理の衝撃を弾くルーンシールドは、基本的に物理的な力を振るうしか能のないこの敵にとって脅威となるだろう。 事ここに来て、竜巻の怪異はようやく自らに敵対する存在の出現を理解する。故に、自然から成り変わった怪物は、自らを脅かす者達に戦う意志を示した。 風が、怪異に向かって収束していく。 収束する風はそのまま怪異の力になって、巻き上がる砂塵も、辺りの木々すら引きずって轟音と共に吹き荒れていく。 「シズカニシロ」 その動きは対策済みだ。そうハッキリと相手に言い放つ様な鋭い口調と共に、研ぎ澄まされた殺意の弾丸が荒ぶる風を貫いた。 弾丸は確かに竜巻の中で何かにぶつかり、弾け跳ぶ。同時に嵐はその身を揺すった様にも見えた。 直撃。 その瞬間に起こる変化を弾丸を放った主、あばたは確かに見た。 「直撃を確認。その瞬間に微かな竜巻のぶれが発生するのも同時に観測。攻撃時の手応えの確認に利用されたし」 起動したAFに向かって手短にそれだけ伝えると、即座にその場から動き出す。 敵の行軍が止まった訳ではない。ただ、相手の“溜め”を挫いただけだ。 「狙い所さえ掴めれば……!」 前進する竜巻に再び終が飛び掛かる。倒れた木々にグッと力を込めた両足で踏み締めて跳んだそれは、嵐に向かう一閃の光の様に早かった。 斬り抜ける。という表現が最もふさわしい一撃。それは確かに竜巻という不確かな物を切り裂いて、揺らがせる。 届いた氷結が、氷の腕となって竜巻の怪異に絡みつきその行進を止める楔となる。 「今だ!」 敵に追いすがり食らいついていた遥平の叫びと共に、彼の周囲に発生した魔方陣から数多の弾丸が射出され空塊を撃ち抜いた。 ●風を討つ 戦場に暴風が巻き起こった。 ルーンシールドにより無効化した遥平はその場に踏み留まるも、まともに風に煽られた終は宙に舞った。 「おわっと!」 どうにか飛行の力も含めて中空で体勢を立て直す。が、弾き飛ばされた距離は確実に間合いを外されてしまった。 そんな彼を含めて追撃の嵐は吹き荒れる。旋風が吹き、戦場を数多の害意ある風が暴れ回る。 波打つ気流が、巻き上げられた様々な物質が、リベリスタ達に一斉に襲い掛かった。 「堪えて下さい!」 咄嗟に叫んだ凛子の声も、打ち付ける風の圧に掻き消されていく。 瞬間最大風速、世にいう突風は怪異の力を与えられ凶刃となり、彼らに大小様々な傷跡を付けていた。 氷結は打ち砕かれ、荒風は再び行軍を開始する。 (くっ、体が重いですね……) 吹き抜けた風の鎖に囚われ、凛子はその動きの初動を大きく制限された。だが幸いに彼女の行動は後手に回ってこそよく奮う物である。 器用に難を逃れていたイスタルテのハンドサインを確かめる。手の動きは小さく三行動。 状態異常は彼女が請け負ってくれる。そう見て取った凛子は先程の二撃をまともに喰らってしまっている終を治療する事を決めた。 「癒やすは人技なり」 彼女自身の力ある言葉と共に、信奉を受けた大いなる治癒の力が終へと注がれていく。 同時に纏わりついた不利が体から抜け落ち、ねっとりと絡みついていた木の枝や空気の縛鎖が断ち切られるのを凛子は感じていた。 「そろそろ平野部に出ます!」 皆の復帰を確かめながら、AFを通してイスタルテの声が響く。 いつしか撃ち合いの先に戦場は森を抜け、開けた平地へと移り変わっていた。 遮る物がなくなった今、有利になったのはリベリスタ達の方である。 「……っ」 あばたが再び弾丸を撃ち出す。森の中よりもつけやすくなった狙いは、寸分狂わず思った通りの場所を撃ち抜く。 情報を糧とする弾丸と、外部動力すら取り付けた無骨な銃から撃ち込まれる連弾は、それぞれに強力な振動を響かせあばたの機械の腕を揺らしていた。 (お前に生命があるかどうかは知らないけれど――) それが動いて害を為すなら、止まるまで撃ち続ける。あばたの銃撃は間断なく続けられた。 「俺を巻き込むなよ?!」 「合点承知!」 最前線ではエリューションの力を吐き出し切った終に、遥平が意識を同調させて力を分け与えていた。同時に飛翔する終の靴裏を手で押し上げ加速させ、より高みへと送り出す。 舞い上がった終の行動は、どれ程風が纏わりつこうと減速する事はない。初速に見せた雷光の如きスピードは、ついぞ変わらず彼と共にある。 再び怪異が周囲に風を吹き付けるが、今回終は身を捩って体を潜り込ませ強引に抜ける。 「ゼァッ!」 一気呵成に打ち込んだ連撃は三度『時』を切り、そして再び氷結の腕で荒風を捕える事に成功する。 いやさ、彼の本領はここからだ。 「フッ!」 風の中を突っ切った足が地面を踏んだ瞬間。既に終は連撃の構えを見せている。 その身は常軌を逸した軌道を見せて、再び怪異の傍を駆け抜けた。次の瞬間。 『ーーーーーーーーーーーーォオオオオ!!』 それは怪異の咆哮か、風が切り裂かれ大きく開かれた空気の裂け目がリベリスタ達の視界に映る。 「……オレの取柄は、手数の多さだからね☆」 まさに瞬撃。風より早い男の連斬だった。 『ォオオオオオオッッ』 怪異はそれでも前進を止めない。それは空に存在する気流の導きか、あるいはE・エレメントたる己の意志か。遅々たる、しかし絶対の行進を続けている。 大きく切り裂かれた身に乱れた空気のぶつかる音をさせながら、池の水を吸い上げ、地を吸い上げして止まらない。 いつしかその体は帯電し、強烈な湿り気と実体的な重量を持ち始めていた。 フォーチュナーが言っていた、第三フェーズへの移行、それがリベリスタ達の脳裏によぎる。 「もう都市部が見える所まで来てる……。少しずつ加速してるんですかー!?」 飛行の付与も消えた今、自前の翼で低空飛行しているイスタルテが叫ぶ。残り時間が無い。その事実は確実に彼らを追いこんでいた。 「後、少し」 変化を起こし始めている部位と、弱ったまま消えそうな部位。それをあばたは見極め、弾丸を撃つ。 恐らく変化を起こした箇所が弱った部位を上書きし切った時、こちらの敗北が決まるのだろうとおぼろげながらに確信していた。 だが同時に、その弱った部位を完全に破壊し切れば―― 「わたし達の、勝ちだ」 「牽制でも、意味はあります!」 あばたの呟きと同時に、凛子の放った閃光が荒風を刺す。それは足を止めるに至らないが、何度も何度も繰り返した事で無視できないダメージを蓄積していた。 「小さな事からコツコツと、ですね」 自身が得た成果への手応えを確信し、AFに向かって声を張る。 「皆さん! 敵の勢いはあと僅かです! ……一気に畳み掛けて下さい!!」 タイミングとしては最良の激励が飛ぶ。 同時に懐に飛び込む準備か、イスタルテの口から紡がれた言葉に乗って癒しの力が広がっていく。 「ぜっっったい! 行かせません!」 その声は吹き荒れる風の音に負けず、戦場に立つ全員に届いた。そして、 「やっと、捉えたぜ?」 嵐の中、佇む。食い下がり、食い下がり、仲間の足止めの援護も受けて漸く。 「お前の眼は、そこだな?」 その呟きは渦中にあって、誰よりも落ち着いて、誰よりも獰猛に。 「これで詰みだ、あばよ」 言葉通り、荒風の懐の中で。遥平の銀の弾丸が怪異を穿った。 ●荒風一過 そこに残ったのは、巨大な自然災害の爪痕だけだった。 木は倒れ、大地は抉れ、池は崩れ、石は剥がされた。しかし―― 「一般人被害者ゼロ、重傷者ゼロ、私達の完・全・勝・利! です! うわっとととと」 高らかに勝利を宣言したイスタルテが剥き出しの石に踵を引っ掛けて転んだ。いつものドジっ子がそこに居る。 だがそれこそが、リベリスタ達の勝利を物語っていた。 「嵐は去った。だが、大自然の驚異とアークの戦いは終わらない………なーんてね☆ みんなお疲れ様~☆」 おちゃらけた雰囲気を終が助長すれば、ひんひん泣いているイスタルテも含めて彼らに和やかな空気が訪れる。 そんな中、笑みを浮かべる終の、しかしその表情の奥にあるモノは見えない。 「ああ、竜巻は消えたよ。今どこにいるって? 別にいいだろう。飲み? それは……」 自身のコネを活用していた遥平は、その事後処理もまた自分の手で行うべく電話をしている。 「兎も角だ、被害者も出なくて万々歳、それでいいだろう?」 くしゃくしゃのタバコを咥えながら、今度は一発で着火を成功させて、小さく微笑む。 「本当に、人的被害が出なくて良かった」 心底安堵した様子の凛子を見つめながら、あばたはふと思う。 (……弾丸を撃ち込む程度で本物の天災を駆除出来るなら、どれほど楽なことか) 異形ゆえに、異形の力で対処できた。だがそれが自然その物であれば、それに立ち向かうのは尋常の力なのだ。 そんな事を思ったのは、皺だらけになっている凛子の白衣を見たからだろうか。 「やーん。スカートが泥だらけです~」 「そいつも勝利の勲章だ、嬢ちゃん」 「あ、それなんか格好いいじゃん!」 「格好良くないですよー!」 やいのやいのと勝利の空気を満喫している仲間達の姿に、あばたは小さく目を伏せる。 その様子に気づいた凛子が、切れ長の目を静かに細めた。 神秘なんて無くても、挑むべき物は沢山あるのだ。それを二人はよく知っていた。 「怪我には治療、汚れにはお洗濯、ですよ」 「じゃ、掃除も終わったし、さっさとズラかりましょう」 勝利を謳う輪の中に、自分達もまた足を踏み込んで。 世に自然災害として記録を残す出来事の影で、人々を守り戦い抜いた者達は帰途に就く。 吹き散った風は空に舞い上がり、広がっていた雲を切り開き日の光を呼んでいた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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