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夏月(かげつ)の花

●祭の夜

 ―――ドン!
 ―――ヒュルルル……

 大音が空気を震わせ、観衆の視線が一度に上を向く。
 期待に高鳴る鼓動に音は連鎖し、重なり。
 次々に空に光の尾が引かれ――満開の華が咲く。
 黒空で弾けた火は、夏の夜を明るく照らし出す。
 一瞬輝いたそれは眩く、次の瞬間にはぱらぱらと音を立てて有終の美を飾る。
 降り注ぐ花弁に頬を紅潮させ、見事さにほうっと感嘆の息を零す。

 見物客の歓声、屋台の喧騒、空に咲く花――。

 花火は空に咲き誇り、散り、一夜の思い出を刻む。
 空の彩りになるための花の種の中、崩壊の因子を宿す花種は――ひとつ。
 時を待つ。宙に解き放たれる……その瞬間を待っていた。

●八月某日
「どうぞ。今回の任務の行き先となります」
 コツ、コツと音を立てながらカラーのチラシを、リベリスタ達に手渡していく。
『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)から受け取った紙を見れば、紺地の空に色鮮やかな花火が踊り大きく『花火大会!』と銘打ってあった。

「見ての通り一般の花火大会なのですが、E.ゴーレム、識別名『夏月』が確認されました」
 緩んだ空気が一瞬にしてピンと張った。
 そして、モニターの画像に数名の目が瞬かれる。
 ごろり。薄茶の紙の球体、紐付き。
「E.ゴーレム『夏月』、フェイズ1。見ての通り、花火玉です」
 続いて、ずらり。黒と赤の筒。
 青々とした草の刈られた河川敷に、大会用の花火が詰められた筒が並ぶ。
 紛れ込んだのはこの中か、心中が聞こえてくるような風景をバックに、和泉は言葉を繋ぐ。

「世界と一般人への影響を考えれば、迅速な対処が望ましいのはいうまでもありません。
 ただし、今回に至っては必須。……職人が『夏月』を打ち上げるまで、それがリミットです。
『夏月』はその花火大会で覚醒するようで、事前確保を行う事は実質不可能であり、
 そのため、開幕の花火の打ち上げ直前に発見及び討伐を行って頂くこととなります。
 なお、捜索の開始タイミングは此方から発信致しますし、大凡の地点も計測されていますのでご心配には及びません」
 ふ、と。和泉がリベリスタの緊張を和らげるべく微笑んだ。

「侮れとは言いませんが、『夏月』は覚醒直後かつ戦闘能力は極端に低い個体です。
 三点ほどを心に留めておけば、苦もなく遂げられる案件ですから。
 一、『夏月』へのとどめは『打ち上げる』こと。花火であることへの執着であると思われます。
 一、『夏月』の周囲には多数の花火があります。これが暴発した場合、職人らが死亡し、リベリスタ側にも大変な苦痛が予想されます。
 一、『夏月』の打ち上げ後、職人は急ぎ開幕の花火を打ち上げ始めます。電気仕掛けになっている、始まり三発の間にその場を離れて下さい。」
 言い終えた和泉の茶色の瞳が言外に「よろしいですね」と語りかける。

「最後に、任務後、花火大会への参加は自由です。折角ですので、楽しんでも良いかと思いますが……」
 リベリスタの手元のチラシの端、『屋台割引券』をそれとなく示して彼女は目を閉じる。
 この時勢といえどこれも一時、羽を伸ばす機会かもしれない。
「それでは、任務完遂の一報をお待ちしています」



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:彦葉 庵  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年09月03日(土)22:53
 お世話になっております、STの彦葉です。
 リベリスタの忙しく暑い日々の一幕に、花火はいかがでしょうか?

●任務
 E.ゴーレム『夏月』の迅速な討伐
(なお、一般人らに死亡その他の被害が及んだ場合は失敗)

●E.ゴーレム『夏月』 ――フェイズ1
 見た目は花火玉そのもの。多少跳ねたり転がったりぶつかったりしますが、弱し。
 『夏月』は探せば見つかりますし、戦いの意思があれば勝てます。
 OP中の注意点を踏まえてさえいれば、さらっと済ませて問題なしです。
(※打ち上げ方法は任意。当シナリオでは、専門者以外の筒で打ち上げも可)

●舞台
 某河川敷。多数の花火筒が準備されています。
 あくまで花火ですので、水・火・電辺りのお取り扱いにはご注意ください。
 対岸では多数の人が花火大会を楽しんでおり、屋台も多く立ち並んでいます。
 屋台は常識的なものなら、そこにあると言えばあります。割引も一人一度、使用可。
 また、開幕時の花火の他、閉幕時にも豪華な花火を打ち上げるようです。

 余談ですが、プレイング中に浴衣など指定があれば着ている物として描写します。
 その際、調達や着付の細かい点は、横に置いておいて頂けると大変ありがたいです。
 それでは気を取り直して……皆様のご参加、お待ちしております。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
プロアデプト
雪白 万葉(BNE000195)
ナイトクリーク
御津代 鉅(BNE001657)
デュランダル
ジース・ホワイト(BNE002417)
プロアデプト
海風・燕姫(BNE002503)
マグメイガス
染井 吉野(BNE002845)
クロスイージス
神谷 要(BNE002861)
ホーリーメイガス
雛月 雪菜(BNE002865)

● 夏月1
「花火、風物詩じゃなぁ……。じゃが……夏月、か」
 呟く『傲岸不遜の海燕』海風・燕姫(BNE002503)の頬が少し膨れた。
 リベリスタ達が影に身を潜める河川敷の上、木々と茂みのその下。河川敷に並ぶ花火筒のどこかに倒すべきエリューション・ゴーレム『夏月』がいるためである。
 素直に、花火への期待に胸を膨らませてばかりはいられないのが口惜しい。
「とりあえず、ぱぱっと終わらせるでござるよ」
 藍色の朝顔柄の浴衣を口にくわえた紐でたすき掛けに結わえながら、『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)がからりと笑う。
 年齢はいざ知らず、燕姫の容姿は幼い。――見る者が見ればほんの少し、常よりも虎鐵の頬は緩かったかもしれない。
「……お花?」
 かくり、『さくらうさぎ』染井 吉野(BNE002845)が首を傾げる。
『優しき白』雛月 雪菜(BNE002865)が目を瞬かせ、そして微笑みかけた。しばらく見ていない花火を思い出しながら口を開く。
「はい、お花とも言えると思いますよ。あの空一面に咲く光の花、と……」
 吉野はゆっくりと小首を傾げる。彼女にとって外の世界は知らないことばかりである。
 そこへ、少女を見ていた『青眼の花守』ジース・ホワイト(BNE002417)が言葉を紡ぐ。
「吉野の好きな、綺麗なものだよ」
 吉野の見上げた顔は穏やかで優しく――いつの日にか教えてもらった言葉を思い出させる。
 雪菜とジースを見つめ、少女はほんのりと期待に頬を桜色にして微笑む。
「……うん。吉野は『綺麗』が好きだから、花火も、好きになれると思う」

「さて……この仕事中は、煙草はご法度だな」
 一人がぼやき、中身の心許なくなりつつある煙草の箱を黒いコートのポケットにねじ込む。
 雪白 万葉(BNE000195)、『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)は至って静かに、リベリスタの賑わいを眺めていた。
 待機の内、その賑わいも次第に対岸の賑わいに紛れていく中、偶然に視線がかち合う。
「な、なんじゃ?」
「いえ」
「……いや、何でもない」
 目のあった燕姫に、万葉は緩く首を横に、鉅はひらりと手を振る。
 うぬ? と、首を傾げる燕姫の強気の姿勢の中にも、初依頼のためなのか、緊張が垣間見えていた。
(仕事は仕事、だが……今回は気の楽なもんだしな)
(緊張が経験にはなっても、枷にはなり得ないでしょう)
 そう判じて、彼らはそれぞれに立ち並ぶ花火筒に目を向ける。
 それから間もなく、退屈にもなった待機に終わりが告げられる。
「連絡がきました。探索ポイントはあの一帯だそうです」
「あの辺り、ですか」
 神谷 要(BNE002861)がアーティファクトから聞こえる指示を伝え――初めてアークの仕事をこなす彼女のその声にも、一定の緊迫感が窺えた。
 探索範囲は花火筒近辺。打ち捨てられた花火玉の影もないことから、およそ筒の中だろう。
 要の指した先を見て改めて確認をした万葉の視界から、一人、また一人と人が姿を消す。
 最後に残っていた花火職人らしい人物も、簡易に用意されたらしい小さな小屋に入ってしまった。
「不用心ですね……」
 黒の瞳を眇めて苦笑交じりにひとりごちると、鉅が気だるげに髪を掻きあげる。
 鉅の事前に施した強結界もあるのだろう――現状、捜索ポイントは無人。
「ちょうど良いでござる。ちゃっちゃと終わらせるでござるよ」
「うむ! 祭りを邪魔するなどゆるされぬことじゃからな!」
 一直線に、我先にと虎鐵、燕姫が飛び出す。雪菜と吉野はその様子にぱちりと瞬いてから、リベリスタが『夏月』討伐に駆け出した。

●夏月2
「今、夏月が発現しました」
「それなら、職人さん達への影響も心配なさそうですね」
「……はい」
 河川敷を滑るように下り、AFからの続報を要が告げた。長い銀色の髪が微かな風に揺れる。
 白の柔らかな髪に手を添え抑えた雪菜が思い出したように呟くと、機械化した片眼は隠されたまま、要の目元が僅かに緩められた。
 そうして発現の一報を聞いたリベリスタの前に、ずらりと並んだ花火筒。

 足で稼ぎ発見するしかないか――と、それぞれが散開したところで、探索はさらりと幕を引く。
「お前さん、あの辺りを見てくれ」
 鉅が超直観で微細な動きを視認し、宙にくるりと円を描いて範囲を区切り。
「……ああ。ありましたね。前列、私から見て左端。その大きな筒の一番上です」
 透視の力を持って反対から見渡していた万葉が淀みなく位置を指定。
 彼の目には唯一それが透過されずに残っていた。
 最も近くにいた虎鐵がさっそく腕を突っ込み、夏月を持ち上げる。
「発見でござるよ!」
「他にはないのじゃな?」
「ええ、見える限りでは」
 あっさりと夏月捜索を終え、さて次はとそれぞれが得物に手を伸ばす。
「……よし、さくっと済ませてしまおう」
 
「属性がある攻撃とか範囲攻撃は使うなよ!」
「夏月! お主に引導を渡してくれようぞ!」
「ちょっと待つでござる!!」
 燕姫のちょっと邪念たっぷりな攻撃の啖呵に虎鐵がはっとした。
 爆砕戦気で闘志を纏ったジースの突き、コンセントレーションで精度を高めた燕姫の魔光――それらが夏月と持ち手の虎鐵に迫る。
 挟まれた彼が身を逸らす。
 夏月が手から跳ね、オーララッシュの二撃が入る。
 玉突きのように弾かれた夏月は次いで燕姫の魔力に迎え撃たれ、花火筒の集中地帯から逸れる。
「すまんかったのう」
 悪戯っぽく燕姫が金の双眸を細めて笑う。緊張も今は心地よく身になじんでいた。
 対岸の祭の音に乗って、軽やかに金銀の鈴が楽を奏でる。
 要が追い、落下地点で剣を構えた。
 花火玉の損傷具合は見定めにくいが、装甲の剥がれはなく、まだ暴発の危険は窺えない。
 地に落とせば攻撃手段を限ってタイムロス。それなら――。
「上げます」
 赤い瞳で夏月を見据え、剣先を下に下げ、膂力を注ぐ。
 弧を描いた剣が夏月を掬い、空に上げた。
「……夏月」
 桜色の燐光に輝く魔法陣の中心、吉野の光弾が夏月に降りかかった。
 静観していた万葉が口元に薄く弧を描き、自身の魔力をもって夏月の弾かれる勢いを殺す。
 迎え撃つは太刀・鬼影兼久を構えた虎鐵。
「行くでござるよ!」
 落下の速度よりも早く、振り抜かれた太刀に捉えられた夏月が地にめり込む。
 そのまま一瞬の沈黙。皆が夏月を見守るが、めり込んだまま動かない。
「怪我無く、すみましたね」
 ほっと、雪菜が安堵の息を零した。
 鬼影兼久を担いだ虎鐵の足元で往生際悪く跳ねた夏月は、要の腕にぺいと払われて落下。
「……動きも鈍いですし、打ち上げますか?」
 コートについた土汚れをぱたぱたと払い、要が皆に目をやる。
「そうしましょうか。頃合いそうですし」
 言って夏月を拾い上げた万葉の手元をひょこり。吉野が覗く。
「ばいばい、夏月。夏月のきれい、みんなに見せて」
 夏月の反応はもう無いか――と思いきや。
 ごつり。万葉の手の上で転がって吉野のおでこに軽く当たる。
「……夏月、痛い」
 頭突き(?)に吉野が下がると、雪菜がしゃがんで念のためにと天使の息を施した。
「あ、改めて。ここは一発景気よくずどーんといくでござるよ!」
 その声に夏月の窪みを見下ろしていた鉅から、ライターが放られる。
 受け取りさっそく火種を落とす虎鐵を横目にふと鉅が思案する。
(……ま、やった後にさっさと逃げれば問題あるまい)
 ライターの主が花火筒の借用に逡巡したのも束の間、ふいと花火筒に背を向ける。
「よっし! こっからはぱーっと遊ぼうぜ!」
 吉野の手を取り、いの一番にジースがその場から走り出す。
 続いてその場を後にするリベリスタ達の背で――空で、音が轟く。
 一瞬、足を止めて振り返る。夏月は見事打ち上げられ、空に咲き誇っていた。

● 祭と、花火と
「ありがとうございます。では、私はこれで……」 
「祭は良いのかの?」
 軽い打撲の跡が消えた腕をさすり、要は捲っていたコートの袖を下ろす。
 小首を傾げる燕姫に要が曖昧に頷いた。
 治癒を施した雪菜も頷き、仕事を終えた仲間の一人を見送る。
「……はい、またアークでお会いしましょう」

 屋台の客引きの声、祭囃子が祭り気分を煽る。
 紺地にススキ柄の描かれた涼やかな浴衣の青年が雪駄で砂利を踏む。
「折角の夏祭りですし楽しみましょうか」
 静寂と対の空気に目を細め、歩行者の流れに逆らわずに祭りに溶け込む。
 時折、屋台の前で足を止めては顔を覗かせては「また今度」と交わしていく。
「年を重ねるにつれ、昔程お祭りに行かなくなりましたね」
 ぱたりと胸元に当てて団扇で扇ぎ、周りを見渡す。
(……知識が増えると、どうしてもウラを見てしまうからかもしれませんが)
 手に手に祭の戦利品や手を取り合って、何も知らない幼子が駆け、人が通り過ぎていく。
 世界の脅威が隣にあったとは思えない穏やかさがある。
「今日守った平和、ですか」
 こうして積み重ねた日々を垣間見るのも――これからの楽しみになるだろうか。
「林檎飴を三ついただけますか」
 ふと屋台に立ち寄ったのは和泉達のお土産にと気づかってのこと。
 赤の飴細工を受け取って万葉はまた祭の雑踏に紛れていく。
 ――祭は始まったばかり。

「む、むむ……」
 朝顔柄の浴衣を着た虎鐵は割引の使いどころを迷っていた。
「……なあ兄さん、なーに頭抱えてんだ」
「これでござる。それで……豪華イカ焼きの値段と比べているでござるよ」
 ひらりと浴衣の袂から出された割引券を見て、林檎飴の若い店主がへらりと笑った。
 大柄な虎鐵に怖じず、ずいと身を乗り出す。
「じゃあどうだい? 三つ買ってくれたら割引券の5割引き。そっちはイカに使って、どうよ」
「値引きしてくれるでござるか! 三つなら……その話乗ったでござる!!」
 握った拳をぶつけあって笑いあう。
 三つ。大切にしている家族の土産物にもなるだろうと手に袋を持ち、林檎飴の屋台を立ち去る。
 それからぐるりと一巡してイカ焼き、たこ焼き、焼きそばに無名のB級グルメ、かき氷などなど、さまざまな飲食系の屋台を渡り歩いた。
 たっぷりの品を腕に少しばかり人の少ない一角に移ると、さっそく取り出したパクリと肉厚のイカ焼きに食いつく。
「屋台のメシってなんでこんなに美味いのでござろうか?」
 幻視で隠れた尾が見えていれば、高揚した気分に合わせてゆらゆらと揺れていただろう。
 ほくほくと束の間の至福に浸って、すっと視界を過る姿を何気なく眼で追った。
「……鉅殿、器用でござるなぁ」

 虎鐵の視線の先では、鉅が人混みを物ともせず人の隙間を縫い、人の先を歩いて行く。
 彼の普段よりも急ぎ足だった理由――初老に片足を突っ込んだ警備官は人ごみに沈んで見つからない。
 足を止め、手慣れた所作でポケットに押し込んだ煙草の箱を探り、ふとポケットを叩いて止める。
(この界隈を出るまでは我慢だな……)
 子供も多く人混みの場で吸うわけにはいかない。
 冷えた指先を金具に引掛け、小気味い音を立てて缶コーヒーを開ける。
「こうも予想通りに……ってのも仕方ないか」
 ぼやいた彼の格好はサングラスに黒のコート。残暑厳しい夏の夜にはどうしても目立つ。
 コーヒーを嗜む間にも好奇や不審、さまざまな視線を感じる。
 その程度なら気に留めなければ済む。
 しかしサングラスの隙間、若い女性三人組が賑わって近付いて来る姿が赤茶の目に映り込んだ。
(酒……? いや、厄介事の予感がするな……)
 こういうときはさっさと退散するに限る。
 逃げた方が怪しまれますよ?
「ほっとけ」
 そんな声がどこかから聞こえそうだ。空になった缶を一杯になったごみ入れに放って踵を返した。

 少女達は二人連れだって祭りに繰り出していた。
 燕姫の手は射的の戦利品から林檎飴、お好み焼き、なつかしの駄菓子までがいっぱいで、見ていると少し危なっかしい。
 本人は至極ご満悦で、即興の鼻歌交じりに闊歩している。
「あとはやっぱり綿菓子じゃな……!」
「海風さんもわたあめ、お好きですか?」
「もちろんじゃ!」
 戦闘後、「これからが本番じゃぞ?」と笑っていたのと同じ、悪戯な笑みで燕姫は応じる。
 金魚すくいからさまざまな屋台をめぐり、食べ歩き回った疲れはまだまだ感じられない。
 雪菜がくすくすと笑い、浴衣袖の淡い水色の上に咲いた白百合の花が揺れる。
 共に祭りを歩く中、共通点がなんとなく心を弾ませた。
 並び歩く内に甘く香ばしい香りを漂わせる綿菓子(綿飴)屋に行きつく。
「すみません、二つお願いします」
 注文と同じくして真新しい飴の白糸が紡がれ、ふわふわの綿に変わっていく。
「あの、花火の良く見える場所ってどこかありますか?」
「今から?」
 綿作りをする男性の影から女性が顔を出し、少しだけ驚いたように聞き返される。
 それでも早速どこかないかと考えているようで、腕を組んで首を捻る。
 もうひと押し。
「教えて下さったら奮発しちゃいますから」
 雪菜の言葉に暫く唸って、小麦肌の女性が指したのは先程までいた対岸。
「近場はもう混んでるだろうから、あそこの風上が良いよ」
 あっちは屋台がないから人も少ないし。そう続ける彼女の声に、雪菜と燕姫がこっそりと視線を交わして笑い合う。
 出来たての甘いふわふわを口に頬張り、祭の賑わいに耳を澄ます。楽しげな笑い声も優しく聞こえた。
「なんだか、盲点でしたね」
 手首に提げられたビニール袋の中の金魚を気遣い、互いにはぐれないよう言葉を交わしつつ。
「……さっそく場所取りじゃな?」
「はい」
 ――少しだけ早足に、祭囃子から抜け出した。

(きらきら光って、きれい)
 吉野の視線が止まる。
 はぐれないように手を繋ぎ横を歩くジースは、ごく自然に彼女の見た『きれい』を差し出した。
「ほら、吉野。りんご飴だぜ。赤くて綺麗だろ?」
「ありがとう。……でも、りんごみたいだけど、りんごじゃない?」
 ジースの手から、赤くて丸いきらきらとした物を受け取る。
 裸電球の光を赤い飴細工が乱反射するのがきれいで、いろんな方向から眺めてぽそりと呟く。
「まるかじり、ダメ?」
「かじっても大丈夫だぜ? 少し上の方を舐めてから……」
「上のほう……?」
 小首を傾げながら、ジースのりんご飴の話に耳を傾けて相槌を返す。
 姫りんごサイズのりんご飴に吉野が口を付けると、唇に薄紅がついた。
 桜柄の浴衣もあいまっていつもと違う表情にも、一層可愛らしくも見え、意識するよりも先にジースの掌が頭を撫でる。
「ゆっくり食べるんだぞ」
 乗せられた手に吉野がジース――彼女にとって初めてのともだちを見上げた。
 彼女に今までともだちはいなかった。
(だから吉野にはともだちがよく分からない。よく分からないけど、凄く心があったかくなる)
 きらめく祭の光を見ながら、ゆっくりと雪菜達から伝えられた場所へ向かう。
 並び立つ屋台は吉野にとって知らない物ばかりで、周りの人も笑っている。
「きれい」
 吉野は嬉しそうに林檎飴をかじる。それを見るジースも頬を緩めて手をしっかりと握る。
 ゆっくりと、それでも時間は早く過ぎて対岸に着いた。
 雪菜、燕姫、虎鐵が二人を迎えるころ、時計は間もなく花火の時刻を指そうとしていた。
 それぞれが腰を落ち着けようとして――少しだけ早く、百花繚乱の宴が始まった。
 間近な打ち上げの音は大きく響き、光の筋は自分自身に迫って来るようにすら感じる。
「……ジース、しゃがんで?」
「ん?」
 金銀、赤青緑に桜。空に花火が打ち上がる中、ゆっくりとジースがしゃがむ。
 同じ目線で、同じ高さで不思議そうに吉野を見る青い目を覗きこむ。
 小さな手を伸ばしてジースの赤い髪に触れる。
 きれいな青、きれいな赤。小さく口ずさんで少女がはにかむ。
「花火もきれいだけど、ジースもとっても、とっても、きれい。吉野はそう思う」
 そう心から思うから、ちょっとだけ笑顔になれる。
 心があたたかくなる。
「……吉野は可愛いな」
 ジースが笑う。うさぎの耳がふわふわと揺れていて気恥ずかしくて。
「それと、ありがとうジース。吉野と、ともだちになってくれて」
 吉野が服の裾を引いて、ほんのりと微笑む。
「俺もありがとう。吉野」
 打ち上げの音よりも耳に響く言葉を噛みしめて、青眼の花守は桜の髪を優しく撫でる。
(叶うならば、これから先この小さな『桜』を――守ってやりたい)

 声が、願いが、夜空に響く。
「たーまやー!!」
 万葉が微かに肩を揺らす。
 対岸の声の主達は虎鐵と燕姫――見知った顔だろう。
 威勢の良い声に見物客が一層湧く。
 咲いて一瞬の内に散る華に、少しの火薬のにおいが夏らしい。
 じきに、夏が終わる。次の四季が来る。
「また明日から、頑張りましょうか」

●追憶
 響く音に足を止めた。
 遠い夜空にいくつもの花火が咲く。
 思っていた通り、綺麗だ。
(出来ればあの子にも見せてあげたかったな……)
 瞼を閉じれば喜ぶ顔が浮かぶようで、細く息を吐く。
 銀糸が花火の光を浴びて染まり、複雑に煌めいていた。

「大丈夫」
 ぽつりと、影に向かって言葉を零す。
 祭りの喧騒は遠く、光に彩られた空へ顔を上げる。
 銀に覆われた片目に手を宛がい、彼女は赤い瞳を優しく細めた。
 どこまでも静かに言の葉は空気を震わせる。
「……大丈夫、私は頑張れるよ」


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
はじめに、この度はリプレイのお届けが遅くなってしまい、申し訳ありませんでした。

そして八名のリベリスタ様、『夏月の花』へのご参加ありがとうございました!
とても楽しく書かせて頂きました。皆さまにもお楽しみいただけたら、そう思っております。
少し余談をば。割引券は字数に食われていますが、渡すという連携は微笑ましく嬉しくもありました。
また、フォーチュナあてのお土産は彼女達の手元に届いたものと思われます。

それでは、皆さまのこれからのご活躍を楽しみにしています。
またのご縁がありましたら、よろしくお願いします。