●『財布ライダーのうた』 作詞:プレイバック百恵 作曲:プレイバック百恵 白いマントを翻し、胸に輝く円の文字。 赤き正義を金に換え、今日も株価が右肩上がり。 あ、ところで昨日浦部君が言ってたんだけどロリキャラに年齢は関係ないって本当? 50歳のロリとか俺全然信じらんないよ。 え、貧乳? そっか……それなら……うん……。 それいけ我らが財布ライダー。 金の力だ財布ライダー。 この世に金で買えないものはない。 あ、人の命とかは無理があるけど……あ、でも場合によっては買えるよね。お金で救える命って意味でさ。勿論いやらしい意味じゃ無いんだよほんとほんと、川崎に行けばもうそういう店がって違う違う行ってない、行ってないってば! この名刺は……そうだよ道で拾ったの! 持ち主に届けたら一部貰えることがあるって、違う違うお姉さんを欲しかったんじゃなくてさ! え、今って財布拾って交番に届けても一部貰えるシステム無いの? どころか貰えないけどいいのかって聞かれるの? なにそれすげえ嫌じゃん。下心ある前提で聞かれてるじゃん。 あーもーやってらんないなー。 焼き鳥買って帰ろ。あとビール。 プレミアムなやつ買いたいけど高いし、ついつい発泡酒にしちゃうんだよね。発泡酒で思い出したんだけど、どう考えても発泡酒にビールさながらのうまさとか求めちゃダメだと思うんだよね。ビールと発泡酒は違うものじゃん。あの安っぽさがいいんじゃん。なにビールへのコンプレックス露骨に出しちゃってんの。代用ビールって呼ばれたのがそんなに嫌だったの? 代用といえばカップラーメンも最近日和っちゃったよね。まるで生麺とかあれなんなの。生麺食べたかったら生麺買うよ。こちとらあのぐにゃぐにゃしてて微妙に硬くてスナック菓子かよってくらいジャンクな食感が良かったのにどうしてくれんだよ。その点トッポってすげーよな、先端までチョコたっぷりだもん。 というわけでコンビニでまんキラとドクペ買ってきて、財布ライダー! 「……酷い」 高級ソファーに腰掛けたまま、財布ライダーは両手で顔を覆った。 マスク越しにだが、かなりげっそりしているのが分かる。 彼こそが金の力で悪と戦う正義の資産家、財布ライダーである。 最近のトレンドは政治力のある若者を育てて間接的に政界へ切り込むことである。 「音楽を止めてくれ」 「ウィッスウィッスー」 あざといメイド服を更にあざとく着こなした女が、ラジカセ(ラジオとカセットテープレコーダーがセットになった神の電化製品だよ☆)の停止ボタンを押した。 彼女はプレイバック百恵。アークに家のリフォームを頼んだときに何でか知らんがついてきたメイド隊のひとりである。ちなみに本名は小銭蒔子。 「これはまだウチが歌った仮歌なんで、これに併せて財布サンが歌ってもらうカンジになるんっすよ」 「私はたしか、復興活動用のヒーロービデオを作ってくれと頼んだのだが」 「ウィッス」 「いや、おかしいよね。私を表現したヒーローソングの筈だったのにその片鱗も出てないよね。後半に至っては君の愚痴だよね」 「またまたー、財布サンも貧乳好きなくせにー」 プレイバック百恵は可能な限りセクシーなポーズをとった。ちなみに往年のグラビアアイドルを意識したポーズらしいがそのカケラすら表現されていなかった。主に胸が。 「むしろ私は巨乳好……いやいや。君たしか、作曲なら経験があると言っていたはずだな?」 「神に誓ってあるっすよ。ウチが割り箸の先端を微妙に開いてビィーンてやる音で弾き語りした動画が空前の大ヒットを記録したっすもん」 「予想をゆうに超えるテクニックだな。ちなみに再生数は?」 「53」 「少なっ!」 財布ライダーはワイングラスを手に立ち上がり、窓際へと立った。 「プレイバック百恵くん……。我が財布財団はね、亡き父太宰府雷蔵の遺産をあの手この手で増やしに増やし、世界に広がる神秘被害者たちを救うことを目的とした組織なのだよ。アークの活躍によって国内の事件は大幅に減ったとはいえ、世界にはまだ神秘の傷跡は沢山残っている。私たちはそんな彼らを経済的かつ社会的に、そして抜本的に救うべく……!」 ぐっと拳を握って振り返る財布ライダー。 ソファーに転がってぐーすか寝るプレイバック百恵。 財布ライダーはそのままの姿勢で中央の一人がけソファーに座ると、手元のスイッチを押した。 「財布ライダー、発進する」 すると部屋の中に赤いパトランプが点灯し、ブザー音が鳴り響いた。 部屋の壁という壁が忍者屋敷的に回転し、裏から無数のメイドと操作パネルが出現。 「「イエス、マイボス!」」 メイドたちはパネルを操作し、部屋は複雑に変形した。 財布ライダーのソファは特殊な機械によって上昇し、丁度上にあったヘリの中へセットされた。 それから色んなものががっしょんがっしょんして屋上へ露出し、ヘリは空へと飛び立った。 「こんなときは彼らに頼むしかあるまい。人々の希望を体現する存在……そう、アークに!」 ●アークが作るヒーロー映画 「というわけで、アークのヒーロー諸君。世界中の子供たちに希望を届けるべく、君たちにヒーロー映画の作成を依頼したい!」 アークのブリーフィングルーム。 大型スクリーンには財布ライダーの顔がアップで映っていた。 真顔でスクリーンを眺めるリベリスタたち。 「財布財団は経済戦力こそそろっているものの、メディアにはとんと弱いのだ。だがアークには才能あるリベリスタがそろっている。きっと素晴らしいムービーを作ってくれるだろうと期待している! 機材や撮影スタッフ、エキストラは揃えてある。ロケ地も希望した場所を押さえて見せよう。どうかよろしく頼む!」 まだ真顔でスクリーンを見続けるリベリスタたち。 暫く沈黙を交わした後。 財布ライダーはこほんと咳払いした。 「おじさんが何でも好きなものを買ってあげよう」 「「ッシャアア!」」 リベリスタたちは拳を握って立ち上がった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月06日(土)22:07 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●メイキング・ザ・サイフムービー 「メイド、演出側にこれ回しといて。本は役者に」 「はい監督!」 「飯はどうした」 「サイゼとロイホ建てました!」 「大○屋とサブウェイも要るだろうが!」 「すみません監督!」 『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)はメガホン片手に方々へ指示を出していた。 ここはロケのためだけに作られた無人島である。高層ビルや商店街があるが、すべて撮影用ハリボテだ。 そこへ、一機のヘリが着陸。中から財布ライダーが下りてきた。 「やあ、やってるようだなアークのヒーロー諸君」 「おー! 財布ライダー!」 諸手を挙げて駆け寄ってくる『輝鋼戦機』鯨塚 モヨタ(BNE000872)と『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)。 「おいらゲーム機欲しい! ……と思ったけど被害者支援に使ってくれ」 「子供が資財のなげうちなどするものじゃない。被害者支援は私が日頃からやっているから心配するな。ゲーム機も買ってやろう。ピピンでいいか?」 「そこはPS4にしてよ」 「じゃあまこはね、温泉旅行がいいな! 二泊三日でパパと行くの」 「ほう、それはいい。至れり尽くせりコースを用意しよう」 「やったあ! 水入らず。えへへ」 頬に手を当てる真独楽。 そこへ『まごころ宅急便』安西 郷(BNE002360)がやってきた。 「財布ライダーさん。出演許可のほうは」 「問題ない。私で力になれるなら。ブラックマント氏にも話はついている」 「よっし。じゃあ鎖ちゃんにも……!」 「残念だが彼女は顔出しNGだった」 「ですよね!」 地面に両膝をつく郷。 「だがアルミバンの二トントラック。あれは用意した」 「ッシャア!」 郷は復活した。 「へえ、顔出しNGなんてあるのね」 衣装を見ながらジュースを飲んでいた『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)が寄ってくる。 「私のお願いは聞いてくれた?」 「テレビドラマでの地位と名前だったな。芸能事務所に話と予算を充ててきた。来年のドラマに主演が決まるだろう。だがどんなに金をかけようと人気は一時的なものだ。君と同等の予算と実力を備えた役者がごまんといる。自力で保ってくれ」 「言わずもがなよ。で、そっちは? ザキオカさん」 「ん?」 コロンビアポーズのまま出番待ちしていた『仮声:千葉繁』岡崎 時生(BNE004545)がくるりと振り返った。 「あっ、じゃあ僕欲しいものが1個から10個に増える権利がほしいナ!」 両頬に手を当てて腰を振るザキオカ。 「えっ出来ないの? じゃあいいよ可哀想な子供がいるところに寄付でもすればいいだろぷんぷん!」 「できるぞ」 「えっ」 真顔で固まるザキオカ。 「できる。何なら100個に増やしても構わん」 「えっでも、でも僕さ、あのさ」 「ただし総額は増えない」 「ジャー! ショーガナイナー!」 寄付しちゃえよメーンと言いながら飛び去っていくザキオカ。 途中ですれ違った『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)がくわえていたハッカパイプをゴミ箱へ投げ捨てた。 「おい、アタシなんだが」 「ふむ……おっと?」 瀬恋は尻ポケットから財布を抜くと、財布ライダーに投げ渡した。 「そいつを中国の白華会の……あれだ、ボスのやつに届けてくれ」 「まるで意味がわからんぞ」 「香典だよ。リンユーの」 「そんなことでいいのか? そうか、ならこの総額にゼロを四つ……」 「額を足すなんてマネすんなよ。人の金で香典出すなんて意味わかんねえ」 「……すまない。何でも金で解決する私の悪い癖だ。君たちからは学ぶことばかりだな」 「そんなんじゃねえ」 と、そこへ一台のバイクが止まった。 ヘルメットを脱ぎ、やんわりと首を振る『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)。 彼女は胸の谷間からミュージックプレイヤーを抜くと、その場の誰かへと放り投げた。 「オープニング、出来たわよ」 ● 『GO! GO! リベリスタ!』 作詞作曲:ANZ GO! GO! リベ-リ-スタ! (拳を突き上げて飛び出すモヨタ) GO! GO! リベ-リ-スタ! (投げキスしながら飛び出す真独楽) 世界に蔓延る魑魅魍魎 私利私欲に暴虐を尽くすフィクサード (沢山の悪人ずらをゆっくりパンしていくカメラ) 同じ力を正義の力に 変えて戦えリベリスタ 戦え、燃える拳で 戦え、奔る稲妻 戦え、その札束で 戦え、その美貌で GO! GO! GOGO! (各種必殺技シーンをダイジェストで) まあ大体リベリスタっていったら大抵武器もってたたかってるけど財布ライダーは別格だよねー その特殊性は地の追随を許さない (四畳半の部屋でモノクロテレビを見ながら茶をすする財布ライダーの背中) ほかの追随を許さないっていったらやっぱり五十嵐真独楽ちゃんだよね (まこにゃんを下から舐め撮り) なにあれ、可愛すぎ その可愛さでフィクサードもいちころよ (まこにゃんのこれまでの名場面をダイジェストで) でもごめんねフィクサードさん この可愛いオンナノコはこの私雲野杏の物なの (まこにゃんが水着で海辺を走るシーン) ほかの誰にも渡さない 触る者皆アレしちゃうわ (ナンパ男たちが逆さ吊りにされる中、温泉の縁で振り返るまこにゃん) 唸るギター 迸る雷光 近づく奴はあれやこれやでダウンさー (サンタコスで袋をかつぐまこにゃん) 「だって涙が出ちゃう、オンナノコじゃけんのぅ」 あーあーもーホント可愛すぎまこにゃんにゃん (羽子板片手に振り返る和服のまこにゃん) 今すぐ私に触れて撫でて (ハート型のチョコレートを差し出すまこにゃん) そのメルティーキッスで蹂躙して その為ならアタシはフィクサードにだってなるわ (桜の下で回るまこにゃん) あーあーもー まじでまこにゃん可愛すぎ 未成年略取だって厭わない (水着に着替えて浮き輪を抱えるまこにゃん) この力で警察なんてぼこぼこよ そしたらアタシもフィクサード (雪のなかで手袋をはめるまこにゃん) そのキッスで捕まえて GO! GO! GO! まこにゃんにゃん! (カメラに向けてウィンクするまこにゃん) 「あれえ!? 途中からまこの歌になってる!?」 喫茶店のカウンターでコーヒー牛乳をすすっていたモヨタがハッとして顔を上げた。 「ちょっと急に叫ばないで。テレビのニュース聞こえないよ」 まこはモヨタを黙らせ、テレビの音量を上げた。 画面の中で原稿を読むザキオカ。 『えー、現在全国の自動販売機で何円入れようが必ず戻ってくるという事件が頻発しています。あー、なんだっけ……メーカーは現在原因を調査中で……』 「この現象、まさか怪人のしわざか! いくぞまこ!」 「うん!」 モヨタは口に貼り付けられたバッテンシールをはがし、お店から飛び出した。 お客さんお代ーと叫ぶ喫茶店マスターを振り切りながら、耳に手を当てた。 「変身!」 ――説明しよう!(ザキオカヴォイス) ――鯨塚モヨタはある日謎の組織に膝かっくんからのトラックひき逃げアタックによって瀕死の重傷を負ったが、司馬博士によって鋼のサイボーグ、ギガントモヨタとしてよみがえったのだ! 「まこも行くよ!」 ――また説明しよう!(ザキオカヴォイス) ――五十嵐真独楽は視聴者ウケのために美少女が欲しいと言い出すディレクターやショタ成分を増やせとわめく女スタッフを黙らせるべく第三の性別『まこにゃん』として投入されたチーター人間なのだ! 「そこまでだ怪人蜘蛛女!」 「来たわねギガントモヨタ」 頭が蜘蛛になった女(沙希が怪盗スキルを使用しています)がぐるりと振り返る。 「この機煌剣が煌く限り悪は許さないぜ!」 「こしゃくなー!」 うおーと言って飛びかかるモヨタ。腕を振り上げて応戦する蜘蛛女。 ぴっちりしたボディスーツとバタフライマスクをつけた真独楽が腰の後ろで手を組んで胸を伸ばすような姿勢で振り返り視聴者の目に癒やしと安らぎそして平和をもたらした。 「くらえー、必殺ギガントエーンド!」 「うわああああああああ!」 背後のビルごと爆発する蜘蛛女。 剣を振り切るモヨタ。 ――こうして、ギガントモヨタとまこにゃんは町の平和を守っているのだ! ……というヴォイスをマイクに向けて喋りながら、ザキヤマがカメラに割り込んできた。 「なんということでしょう! 町に被害が出てしまいました! はっきり言います、わたくしはこの戦い方を認めません!」 「ザ、ザキヤマさん……!」 「ギガントモヨタくん……」 振り返るモヨタとザキヤマ。 二人は向かい合い、その間に挟まれた真独楽がおどおどしながら両者を見守った。 「私はきみを認めていません。ですが奴らに対抗できるのは君しか居ない。どうか、君の後ろにいる一般人のことを忘れないで頂きたい」 ザキオカは背を向け、歩き出した。 「頑張ってください、ギガントモヨタ」 「っくしょー! どうしておいらはいつも人を傷付けちまうんだー!」 バーカウンターでシュークリームをどか食いするモヨタ。 カウンターの向こうでは、鷲祐が紳士の顔で微笑んだ。 「フッ、どうやらまだ力を制御しきれてないようだな」 「博士……」 「お前を改造した日のことを思い出す」 目を瞑り回想する鷲祐。 モヨタを回転ダーツ台に縛り付け、ぐるぐる回しながらダーツを構えるシーンが流れた。 ダーツ台には『ギガント』『チーター』『ジェロパ』『たわし』と書かれている。モヨタが血の涙を流して「ギーガント! ギーガント!」と叫んでいた。 だっつーのに鷲祐は「俺が命をつなぎ止めてやろう。ただし、わけのわからん運命を道連れにだ」とかキメ顔で言っていた。 ……ってな回想を突き破り、部屋の端にあった黒電話が鳴り響く。 それを取り上げ、一秒たりとも聞かずに振り向く真独楽。 「事件だよ、ギガントモヨタ!」 所変わってなんもない商店街。 「なあY本さんよぉ、貸した金が返せねえってのはどういうことだ?」 「だ、だって金利が日で五割だなんてどこにも……」 「書いてあるだろここに、ほらァ」 瀬恋は契約書の裏の右下のほうにあるごくごく小さい文字を指さした。 「で、でも」 「灰皿あるか。貸してくれよ」 震えながら差し出された灰皿を、瀬恋はひったくり、そして相手の額に叩き付けた。 「ふざけてんじゃねえよ。金がねえなら作るまでだ、身体を切り売りするか時間売りするか、明日までにどっちか選びな」 そこまで言うと、瀬恋はその店を出た。 すると。 「おまえか! 商店街への看板を40キロ先まで無断で立てて回っているという者は!」 「バレてしまっては仕方ない。勝負だ財布ライダー!」 「のぞむところだ、ブラックマント!」 そう言って桃鉄99年モードを開始しようとする二人……を無視して、モヨタと真独楽が瀬恋の前へ立ち塞がった。 「そこまでだヤミ金瀬恋! 違法な金貸しはやめるんだ!」 「オイオイ、こちとらお互い同意の上で貸し借りしてるだけだぜ。合法金貸しさんも法改正で融資対象の引き下げを初めてんだ。ウラじゃヤミ金の存在を認めてんだよ」 「法律で解決でいないなら……力を使うまでだ!」 「ちっ、面倒くせえ……ヤりな」 うおーと言って襲いかかる戦闘員の皆さん。うおーと言って応戦するモヨタ。 普段のぴっちりスーツで体育座りをしてこてんと膝に頬をつける真独楽。 「必殺ギガント……はっ!」 戦闘員をあらかた片付け、銃が弾切れになった瀬恋に向けて剣を構えるモヨタ。 だが頭の中でザキヤマの声が響いた。 『月曜ジャンク、岡崎時生の毒電波! 今週のタイトルコールはペンネーム、ヤギ対ロシア女さんからで……』 まちがえた。 『どうか、君の後ろにいる一般人のことを忘れないで頂きたい』 エコーつきで響く彼の声がモヨタをさいなむ。 「くっ、おいらは……」 「畜生、これだからヒーローってやつは嫌ぇなんだよ」 固まったままのモヨタを無視し、瀬恋はきびすを返して逃げ去った。 「あっ、まて!」 追いかけようとするが、足下でソニブ待ちしていた郷に躓いて転倒。立ち上がろうとするも、自らへの悔しさで膝を突いてしまった。 「おいらは」 「モヨタ……」 そんな姿を見つめる真独楽。 かける言葉はとうとう見つからず、目をそらすしかできなかった。 それから、日本各地で様々な犯罪が勃発した。 コンビニのレジに入ってる札をすべて2000円札に両替する行為! 道路に標示されている『止まれ』の文字に一線足して「正まれ」としてドライバーを混乱させる行為! テレビに出ませんかと渋谷の若者をそそのかしマジックミラーばりのトラックに連れ込む行為! (すべて沙希の怪盗スキルで撮影しております) その全てを、ギガントモヨタは見過ごし続けていた……! 『あんなやつはヒーローはやめるべきだ!』 『俺のビルも壊されたのに弁償してもらってない!』 『警察は何をやってるんだ、税金の無駄遣いだ!』 『ギガントモヨタは役立たずのテロリストだ!』 『恋人といる時の雪って特別な気分に浸れて僕は好きです』 『えー、以上が街角インタビューの結果ですが、どうですか財布ライダーさん』 『法律を遵守しなければヒーローでは無いとは言いませんが、自らの軸がぶれている以上それはヒーローではないでしょう。他人によって動かされる暴徒のひとりに過ぎません』 『ブラックマントさんはどう思いますか』 『北海道エリアがゴールになった途端に青函トンネルにうんち置くのはルール違反ではありませんが、肩パンされる覚悟はしておくべきでしょうね』 「…………」 ワイドショーが流れるテレビを消す真独楽。 振り向くと、モヨタがバーカウンターに突っ伏してべろんべろんになっていた。 「博士、コーヒー牛乳もう一杯」 「飲み過ぎだ。やめておけ」 「そうだよモヨタ、身体に毒だよ」 真独楽が歩み寄り、モヨタの手から牛乳瓶を取り上げようとしたその途端。モヨタは真独楽の腕を振り払った。 「放って置いてよ!」 「わっ!」 真独楽はよろめき倒れ、後ろにあった牛乳瓶の棚にぶつかった。 乙女座りで顔や胸元に牛乳が散った状態でこちらを見上げる真独楽。 モヨタは反射的に謝ろうとして、唇を噛んだ。 黙って店を飛び出していく。 「モヨタ!」 「放っておけ」 追いかけようとする真独楽を、鷲祐は止めた。 「奴には、この力は重すぎたのかもしれん……」 町を走るモヨタ。 誰の声も聞きたくないと、全てを振り払うように走っていた。 そんなとき、電気屋さんのテレビに衝撃の映像が流れた。渋谷のスゴイデカイビルが倒壊する映像だ。 巨大な怪獣(中の人:沙希)がテレビに映り込む。 「これは……!」 『ご覧ください! 怪人によって都内が破壊されて……うあー!』 カメラを回していたザキオカががれきに潰され、映像が砂嵐に変わる。 モヨタの頭の中にいくつもの声が響いた。 自分を批判する人々の声。ギガントモヨタなどいなくなればいいという声。身に覚えの無い悪事のこじつけや陰謀説。勝手に作られた偽善的な人格。その全てが彼をさいなみ、そして言った。 こんな奴らは見過ごせばいい。 身近な人にだけ理解され、身近な人と愛し合う。それでいいじゃないか。 世界を閉じよう。 世界平和なんて、大それたこと。 「それでいいの?」 そばで声がした。 振り向けば、杏が四つん這いの郷に腰掛けて煙草を吸っていた。 「アナタの戦い、見てたわよ。自分勝手にやってくれちゃって、迷惑した人もいたでしょうに」 「……」 「でも」 煙草を携帯灰皿へ押しつけ、目を瞑る。 「楽しかった」 「えっ」 「アナタも、そうだったんじゃないの?」 「おいらは……」 モヨタは自分の手を見つめ、そして走り出した。 流れ出すオープニングテーマアレンジ。 「博士、おいら……!」 『わかっているさモヨタ少年。今こそこれを使え』 周囲のビルが開き、中からデカいメカが飛び出していく。 爆発するビル。そのがれきを押しのけ、メカが飛んでいく。 いつのまにかメカに乗り込んでいたモヨタは、別のサポートメカに乗った真独楽と通信をつなげた。 「モヨタ!」 「おいら、やるよ。誰が求めたんじゃない。おいらがやりたかったことなんだ。だから――」 「「機煌合身!」」 モヨタのメカと真独楽のメカ、そしてちゃっかり混ざった鷲祐と財布ライダーのメカが合体し、人型へと変形。怪獣のそばへと着地した。 「さぁ、少年! その真っ直ぐな眼差しで、世界の平和を斬り開け!」 鷲祐がレバーをひねると、合体メカの手に巨大な剣が現われた。 「超機煌大剣、グレートフィニッシュ!」 剣がまばゆい光を放ち、怪獣を切り裂く。 爆発四散する怪獣。 そんな光景を、ザキヤマと瀬恋は見上げていた。 ザキヤマが中継し、瀬恋がカメラを担いでいる。 「坂本さん、あなたはこんなことしていていいんですか?」 「賠償金がまだでね。あいつが落ちぶれちゃ困るんだよ」 シニカルに笑いあい、夕日をバックに立つメカ、ギガントオーを見上げる。 「ギガントモヨタ。それでこそ、ヒーローですよ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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