●ナレーション 状況を説明するとこんなところだ。 とある洋館に住むフィクサード退治に赴いたりベリスタたち。だが、敵の策略でパーティを二分されてしまう。 Aチームには『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)と『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)が。 Bチームには『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)と『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)と『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)と『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の四人。 AチームとBチームの両方に迫る危機。ああ、彼らはこの難関を突破できるのであろうか! ●Aチーム 「失礼レディ。諸事情により貴方達だけを分断させていただきました。 私の名前は草枕誠人。貴方達が打倒する対象でございます」 そあらと紫月は一礼する男を怪訝な顔で見ていた。『万華鏡』の情報と間違いない。この男が討伐対象のフィクサードだ。罪状は―― 「あなたが多くの人を誘拐していることは分かっているんですぅ。おとなしくお縄につくです!」 そあらが草枕を指差し罪状を告げる。善悪問わずの革醒者を誘拐し、殺してきた罪。それは許されざる罪だ。 「いいえ。私の研究が完成するまで捕まる訳には行きません。例え狂っていると言われても、私は研究を止めるわけにはいかないのです」 「……『ノーフェイスに運命を授ける実験』……」 紫月は草枕が行っている実験を口にする。運命に愛されなかったノーフェイス。それにフェイトを与える実験。誰もが求め、しかし未だに為し得ないモノ。ノーフェイスや革醒者が『人』である以上、人体実験となる非道の正義。 「はい。貴方たちがそれを止める為にやってきたことは知っています。そして相応の対策は取らせてもらいます。 『ガードオブクロス』……しばらくの間、私に神秘的攻撃は効きません」 十字架のようなアーティファクトを見せる草枕。息が荒いのは効果を発揮するたびに気力を消耗するのだろう。神秘攻撃が主戦力のAチームには痛手だ。 「とはいえ、お仲間が来れば勝てはしないでしょう。そのために、駒を用意させていただきました」 ●Bチーム 天井からそあらと紫月の間に割って入り、ノックバックで二人を吹き飛ばす。そして吹き飛ばした二人を運ぶノーフェイス。 その足止めに入ったのは十四体のノーフェイス。世界の敵。許されざる存在。倒すのには何の躊躇もない――はずだった。 「研究を適える為に拳を振るおう」 「犠牲なくして、理想の実現はありえない」 「リベリスタ、おまえ達とて世界の為にノーフェイスを葬ってきたはず。ならば我等も同様に『ノーフェイスが助かる世界』の為に戦う」 草枕の研究に協力するノーフェイス達か。リベリスタたちは破界器を取り出し、突破しようとする。幻想纏いからAチームの状況は聞こえている。急ぎ突破しなくてはいけない。 ● 「私は悪人です。自分勝手なフィクサードです」 草枕が血を吐くように言葉を発する。 「革醒者の命を奪い、ノーフェイスを匿う者です。そもそもこの研究も未だ道半ば。無駄に終わる可能性は大いにあります。嘲笑い、罵ってください」 それは後悔か自虐か。 世界の為に在るべき正義(さつがい)があり―― 選ばれなかった者の為に止められぬ悪事(せいぎ)がある―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月05日(金)22:46 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 犠牲なくして成果は得られない。例外はない。 その犠牲は一般的には『時間』や『コスト』といった概念的な物である。あるいは精神的な『気力』であり、ある種の『正気』を失うものもいる。物質的、精神的、概念的な何かを失い、行動して初めて何かを得られるかもしれない機会が生まれる。得られないこともある。 だが求めるものが多ければ、犠牲が増える。時にそれが命であることもある。 忘れるな。犠牲なくして成果は得られない。例外はない。 人は皆、例外なく犠牲の上を歩いているのだ。 ● 「待ってろよ、絶対に助けに行くから!」 幻想纏に向かって叫ぶ『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)。草枕は革醒者を誘拐し、実験に使用しているフィクサードだ。そんなものにつかまって、無事に帰ってこれるかわからない。いち早く突破して、救出に向かわないと。 「いそがなきゃ、だね。……かずとさん? だいじょうぶ?」 夢見がちな口調で『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)が頷く。焦燥の強い夏栖斗を見てそれをなだめるように。いつもと違う何かを彼から感じるが、今はそれを問いただす余裕はない。一秒でも早く、仲間を助けなければ。 「後衛二人じゃいつまでもつかわからない。早く助けに行かないと……!」 幻想纏いから聞こえてくる会話を聞きながら『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が口惜しそうに拳を握る。今は悔やむ余裕はない。そんな時間が惜しいと思えるほど、やるべきことが沢山ある。突破しなければなあない相手が沢山いる。 「迷っている余裕はないな」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は現状を正しく把握し、頭の中で作戦を考える。廊下に並ぶノーフェイス。彼らも自分達のために必死なのだろう。だが、同様に快も仲間のために必死なのだ。 「神秘を無効化できるからこそ、あたし達二人を隔離ですか」 草枕の持つ十字架を見ながら『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が口を開く。神秘の打撃を無効化するアーティファクト。確かに手も足も出ないそあら。だが、その瞳に諦めの光はない。仲間を信じているからだ。 「草枕誠人、あなたの研究は此処で潰えます」 状況に臆することなく『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)が目の前のフィクサードに言い放つ。自分達が受けた計画的な分断。おそらく幾多の革醒者があの不意打ちを受けて、研究の名の元に命を散らしたのだろう。それを理解し、そしてその上で仲間が来ることを告げる。 「ここで潰えるならそれも運命。危ない橋など何度も渡ってきました」 今更恐れはしない、と草枕は告げる。静かに、だけど確かに狂気の熱が篭っている。ノーフェイスを救いたいという想いが。 どちらが正しいかなど分からない。だが確実にいえることは、このままだと二人はなぶり殺しに会うということだ。 ● 「研究の為に人の運命を弄ぶのは、違うと思うのです」 「ですが運命を得られずリベリスタに散らされる命もあります」 そあらは魔力を練りながら草枕に言葉を放つ。そあらも草枕も互いの主張は理解している。だからこそこの線は交わらない。どちらも正しく、そしてどちらも犠牲を生む事だ。涙と血が流れ、悲劇を奏でることを誰が好んで求めようか。 そあらの魔力は草枕ではなく背後のノーフェイスに向かって放たれる。魔力は白き光となってノーフェイスの頭上から降り注ぐ。穢れなき白の鉄槌は、真上からノーフェイスを押さえつけるように叩き込まれた。 「人の運命は、与えられて得られるものではないと思うのですよ」 「そうあるべきだと私も思います。しかし現実は非情なのです」 「だからといってここで倒れるわけにはいきません」 そあらを狙った草枕の一撃を、紫月が受け止める。肉体能力としてはけして秀でているわけではないが、前に立つ経験がないわけではない。そあらを庇いながら草枕の攻撃を受け流そうと、膝を曲げて構えを取る。 基本に忠実に。相手の攻撃基点を見切り、それをそらすように。落ち着いて相手を見て、突き出された破界器を弾こうと腕を振るう。真正面から受け止める必要はない。攻撃ベクトルの横から強く破界器をぶつけ、何とか攻撃をそらす。 「御見事……といいたいですが、動きは素人です。長くは避けられませんよ」 草枕の指摘は正しい。今のはたまたまうまくいったに過ぎない。 「ノーフェイスにフェイトを授ける実験。きっと多くの人々がそれを求めて来たのでしょう。そして、あなたと同じ様な人も過去には……」 「いたでしょうね。ですがそれが成ったという報告はない。あるいは不可能なのかもしれない。……ですが、実例がある以上希望はある」 草枕の狂気は奇跡を求める心だ。そして彼にはそれを為すだけの才能がない。何もかもが不平等な世界で、それでもと足掻く凡人。 同情はする。だが、同意はできない。 そあらと紫月は草枕の攻撃に耐えながら味方を待つ。 「作戦は?」 「夏栖斗と旭ちゃんを二人のところに送る!」 「了解!」 短時間で作戦を決め終えた廊下のリベリスタは、視線で互いの役割を確認してそれぞれの行動に移る。 「氷――」 悠里は呼吸を整え、心を静める。熱い怒りはそのままに、凪の湖面をイメージして心を落ち着かせた。同時に拳に冷気が宿る 「鎖――」 どう動くか。どう攻めるか。それを頭の中でイメージする。相手の動き、仲間の動き、可能な限り意識を集中させてイメージする。どこで重心を移動させて、足をどう動かすか。 「――拳!」 後はイメージどおりに体を動かすのみ。そのための鍛錬は積んできた。敵陣に踏み込み、右の氷拳を振るい、腰を下ろし、足に力を踏ん張って振り返りざまの左。流れるような動きが氷の鎖を産み敵を縛鎖する。 「僕は君達が悪だとは思わない。だけど……!」 「ああ、研究は世界を変える成果を上げ、犠牲は報われるのかもしれない。 けれど、全ての『かもしれない』に投資できるほどの、無限の命なんて存在しない!」 快が乱戦の中に自らを突撃させる。ラグビーのショルダータックルを思わせる突撃。味方に加護を与え、そして壁となる。俺はおまえ達の敵だ。少なくともこの時点で妥協する点は見当たらない。突撃の気迫がそう語っている。 ノーフェイスの攻撃を守り刀で弾き、『守護神の左腕』で受け止める。誰一人として奪わせない。それは快が掲げた理想。現実は快の能力以上の暴虐を持って襲い掛かるが、それでも理想だけは奪わせない。そして、今も。 「二人が待ってる! ここは任せて先にいけ、相棒!」 「分かった。皆サンキュー!」 トンファーを構えて夏栖斗が敵陣に踏み込む。悠里と快が押さえているとはいえ、まだまだ敵の数は多い。ある程度数を減らさないと、突破は難しいだろう。は役助けたい気持ちを抑えて、トンファーを構える。 腰だめのトンファーを構えて、闘気を高める。研ぎ澄まされた気がトンファーに集まり、それを飛ばすように夏栖斗はトンファーを振るった。気は一本の槍となり、ノーフェイスを一気に貫いていく。 「くそっ! 早く行かないといけないのに!」 「おちついて、かずとさん。皆で道を拓くから」 のんびりと。だけどはっきりと旭が告げる。焦って突貫すればチャンスをふいにする。確実に、そしてできるだけ速く。そのためのアークリベリオン。自分を助けてくれたあの人のように、今は自分が助ける番。 自らに炎をまとい、旭が地面を蹴った。身を包む赤いドレスが、炎とあいまってさらに赤くなる。赤の弾丸はノーフェイスたちに衝撃を与え、リベリスタたちを阻む陣を崩す。突破にはまだ至らないが、それでも一歩前に進める。 「あなたたちをせめるつもりはないの。だけど」 仲間の為に。四人のリベリスタたちはそのために戦う。ノーフェイスが世界の敵であることは、今は二の次だ。 ノーフェイスたちもただ負けるつもりはない。自分達の未来がかかっているのだ。リベリスタに押されぬよう、気合を入れる。 仲間を救いたい者同士、ぶつかり合う。 ● 狭い廊下。そこに陣取るノーフェイス。 だが少しずつ確実にリベリスタたちは陣を崩し、道を切り開いていく。時間をかければ突破は可能だろう。 問題は、その突破の為の時間が多くないことだ。 「……っ! まだです」 そあらの回復以上の打撃を受けて紫月が運命を削る。何とか意識を保ちながら、攻撃を加える草枕を見た。 「貴方の行動が正義か、悪か。それを決めるには余りにも難しい事です」 「分かっています。私も思い悩んだ結果です」 「だから、私は私の正しいと思う事をします。 ですが、後世に何時か、ノーフェイスがフェイトを得られる様な結果が出て……今、あなたを討つ私達が悪だと言われる様な世の中が来るのであれば、それは良い事なのでしょうね」 「だからといって、やられるつもりはないのですよ」 回復を続けながらそあらが言葉を挟む。草枕を調べる余裕はない。それを行えば一気に流れをもって行かれるだろう。この男が自分達を『丁重に』扱うことは分かる。殺しはしないだろうが、命があることが無事であるとは限らない。 「それでいいと思います。自死を選ぶものが運命を得る存在とは思えない。足掻き、もがき、そして勝ち取る者。そうでなければ為りません」 「なら足掻いて耐えてみせるですぅ!」 神秘の力を草枕にぶつけても意味はない。、今は耐える時。そあらは体内で魔力を練り上げ、解放する。まったく、はやく助けに来ないとぴんちなのですよ。 (何でこんなに焦ってるんだ、僕は!) 夏栖斗は遅々として進まない突破に焦りを感じていた。分かっている。分断された二人はアーク内でも一級のリベリスタで、防御に徹する限り簡単に倒れはしない。事実、幻想纏いから聞こえる声は確かに二人の無事だ。なのに、焦燥感がとまらない。 「草枕の研究がが間違ってる、なんて断定することは出来ない。ひょっとしたら、その方がより多くを救えるかもしれない」 悠里は草枕の研究内容を一蹴するつもりはない。運命に振り回される存在を『仕方ない』と割り切ることができない。否、そうするしかないことは分かっている。だが、もしそれが救えるならなんて素晴らしいことなんだろう。 「理想(ユメ)はいつだって高く、果て無き物だ。だがその為に俺たちの仲間を奪わせはしない。 俺の力は、誰かの夢を守る力なんだ!」 快が守り刀を振るいノーフェイスを伏す。このノーフェイスも運命が違えば仲間だったかもしれない。だがこの世に『もし』はない。だから快は『今』を選ぶ。仲間達と歩むこの世界を。 「いっきに、いくよ」 旭が炎を体にまとい、床を蹴る。炎熱と衝撃が廊下のノーフェイスを襲い、耐え切れなかったものを吹き飛ばす。あるものはそのまま地面に倒れ、あるものは血を吐きながら起き上がる。一撃一撃ごとにノーフェイスの陣は後退し、そして―― 「道が開いた!」 繰り返される攻撃により、ノーフェイスのブロック体制が崩れる。まだノーフェイス自体は残っているが、走って突破することは可能だ。 「先に行かせて貰うぜ!」 「待っててね。出来るだけはやく、みんな揃って戻るから!」 夏栖斗と旭が研究室に向かい、がその場に留まった。夏栖斗と旭は仲間を助けるために。悠里と快はノーフェイスと倒すために。 「いくよ快!」 「ここは言わせてくれよ」 快と悠里が背中合わせで立ち塞がる。ノーフェイスを仲間のほうに行かせないようにブロックしながら、破界器を構えた。 「俺達が――」 「僕達が――」 「「――境界線だ!」」 ノーフェイスが数の暴力を持って、境界線を乗り越えようと襲い掛かる。 されどこの境界線は堅く、そして揺るがない。 「紫月! そあらさん、無事?!」 夏栖斗と旭がなだれ込めば、もはや趨勢は決まったも同然だ。草枕は神秘攻撃を無効化するだけで、純粋な戦闘力はこのチームのリベリスタに比べれば劣る。 「あなたのしてる事が悪い事だとは言い切れないけど、見過ごす事もできないの」 旭の鉄甲が草枕を打つ。その一撃でよろめく草枕。旭は純粋な打撃力ならパーティ随一だ。その一撃をまともに受ければ、防御に優れない草枕は風前の灯。 そあらと紫月の回復もあり、草枕の勝機はもはやない。それでも戦いをあきらめないのは、自分自身の行動に後悔がないからか。 「ノーフェイスが運命を得る。そんな奇跡が起こせるのならすげえよ」 夏栖斗はトンファーを握り締めて草枕に迫る。自らの闘気を解放し、トンファーを回転させながら打撃を叩き込む。 「けど犠牲の上にやっと成り立つ奇跡なんかじゃ、悲しむ人は減らせないんだ」 それは幾多の命を救い、あるいは命を救えなかった少年の心の叫び。正しいかどうかは分からない。言葉と共に放たれた一撃が、草枕の意識を刈り取った。 ● 御厨夏栖斗の人生は、喪失ばかりだ。 母を失った時に革醒し、アークの任務で愛する人を失っている。そして夏栖斗自身、任務で已む無く他者の命を奪ったこともある。殺したくないと主張する彼が、命を奪うために握り締めた拳とそれを行った彼自身の心の痛み。彼以外の誰が知りえようか。 そこまで激しい戦いの中、彼は心折れずに誰かを救おうとする。彼自身の信念もあるだろうが、それは愛する人を失って生まれた心の穴を埋める行為なのかもしれない。 ヒーロー。正義の味方。それは彼が求める者。 力なき物を守り、平和を築く存在。誰かの笑顔のために力を振るう象徴。 だがその『誰か』の中に、夏栖斗自身は含まれていない。自分の手は汚れているから、救われる価値がないと思っているのだろうか。 それは出口のない迷路。誰かを幸せにするために戦って自身は傷つき手を汚し、そしてそれゆえに自分の救いを失っていく。夏栖斗一人では、けして抜け出ぬ深き霧。 故に抜け出るには、誰かが手を引っ張らなければならない。 友が、上司が、先輩が、後輩が、家族が。そして愛する人が。 失ったものは返ってこない。誰もその代わりにはなりはしない。 だけど、新たに加えることはできる。失った心の穴が開いたまま、それでも新たな何かをプラスして。 ● 「……快、動ける?」 「……流石にきついな。でもまぁ、もう動く必要もないかな」 悠里と快は壁を背にして座り込む。運命も削り、全力を使い切った。立ち上がる気力もなく、目の前に横たわるノーフェイスの群れを見た。 境界線は守りきった。二人は互いに拳を突き出し、ぶつけ合う。 「紫月、作戦だからって無茶して。お前どんだけ僕が心配したと思ってんだ、馬鹿」 夏栖斗は紫月の肩を掴み、責める様な口調で告げる。 「また、失うのかって思ったら滅茶苦茶怖かった」 「大丈夫です」 紫月は肩を掴まれた夏栖斗の手に、優しく自分の手を添える。夏栖斗の手は震えていた。それは怒りではなく悲しみの震え。それは歴戦のリベリスタのたくましい手ではなく、喪失を恐れる人間の手。それを察し、紫月は言葉を重ねる。 「私は何処にもいったりしませんよ」 掴まれた手を外し、握り返す。そのまま見つめあう二人。 (……あれ? えっと……かずとさんってもしかして。そう、だよね……?) 何かを察し、黙って見守る旭。うんうんがんばってね、と優しく微笑んだ。 (そういうことなのですか。これはこのままだとダメなのです。かずとくんのおねいさんとしてここはっ!) そあらもまた色々察し、黙って見守り……はしなかった。夏栖斗に向かってハイテレパス送信。 『何をやってるですかっ。あんなにわかりやすいのに鈍感なのです』 『そ、そあらさん!?』 『抱きしめて、気の利いたセリフのひとつでもいうといいのです。男みせろです。出来なかった時はわかってるですよね……?』 『ひぃ……!』 後門のそあら、恐るべし。 「もう、大丈夫だと言っているのに」 「なっ!? 紫月!」 紫月は夏栖斗に身を寄せて、抱きしめる。慌てる夏栖斗も、ゆっくりと紫月を抱きしめた。互いの体温が伝わる。それが心の緊張をほぐしていった。 「ホント、無事でよかった」 それは幾多の命を救い、あるいは命を救えなかった少年の本音。今はただ、この胸の中にあるぬくもりだけが愛おしい。 犠牲なくして成果は得られない。例外はない。 その犠牲は一般的には『時間』や『コスト』といった概念的な物である。あるいは精神的な『気力』であり、ある種の『正気』を失うものもいる。物質的、精神的、概念的な何かを失い、行動して初めて何かを得られるかもしれない機会が生まれる。得られないこともある。 だが求めるものが多ければ、犠牲が増える。時にそれが命であることもある。 忘れるな。犠牲なくして成果は得られない。例外はない。 人は皆、例外なく犠牲の上を歩いているのだ。 それでも人は足掻くのだ。 大切な者のを失わないように、一生懸命に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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