● 「有力なリベリスタ狩りに、強力なアーティファクトの蒐集、それからスカウト活動。……『最強』になるためには面倒な手順を踏まなくちゃいけないのね」 莫迦にした様に言う『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は「剣林の動きが見られたの」と言葉を続けた。 「実はあるアーティファクトを所有しているリベリスタグループの許に剣林が殴りこみに行くそうなの」 ――行くそうなの、というのは『そういう報せが来た』と言う事だ。世恋が机の上に置いたのはクレヨンで縁を飾り、「アーティファクト下さい」と可愛らしい丸文字で書いた上にシールでデコレーションされた予告挑戦状。一見子どもの悪戯の様にしか見えないのだが宛て名には「雨宮宙」と丸文字とハートマーク、「鵜飼脩一」と達筆が並んでいる。 「ええと、雨宮宙。剣林派のフィクサードである両親のもとで生れ育って、強くなる様にと英才教育を施された少女よ。それから、鵜飼脩一は――まあ、強くなりたい男、と端的には表せるかしらね。一度、アークに負けた事を根に持っているみたいで鍛錬してきたそうだけど……」 最強を目指す以上、敗北は赦されないと脩一はアーティファクトを集めて戦力を増強させましょうとからから笑った宙の誘いに乗ったのだろう。 脩一と宙、そして彼女の「お友達」の目的は戦力の増強、あとは暇潰し。そんな彼らに襲われるリベリスタのグループも堪ったものじゃない事だろう。 「リベリスタグループの名前はスペアミント。基本的には槍の使い手が集まった脳筋三人衆よ。 放置しておけば……結末は、解り易いわ。鵜飼によって三人衆は死亡、アーティファクトは剣林派の手に渡り、『目的意識』の許で稼働される。物珍しい事だけど……剣林派は何かの目的を持って崩界度を上げた方がいいみたいと考えてる様子なのよね」 けれど戦いたいから、その目的は二の次――と言う訳でもなく、戦う舞台を整える為に崩界度を上げておこうと考えているのだそうだ。 世界の崩界の具合を世恋は心配する様に視線を逸らす。生憎だが、現状はあまり良いとは言えないわけだ。 「エリューション、ノーフェイス、アザーバイド。どれも世界に仇為す存在だわ。 彼らが狙ったアーティファクトが『アザーバイド』を呼び出すものなのだとしたら――」 阻止しなくては、と世恋は何処となく不機嫌そうに言葉を繋げた。 ● 落ちた沼の底の冷たさを、今も忘れられなかった。 強者となるべく、弱者を見下しより高みを目指した己をいとも容易く敗北と言う沼の底へと突き落としたリベリスタという人種には恨み辛みがないとは言い切れない。 師匠(せんせい)は強くなれ、と己を励まし続けたが、彼と交えた拳の脆さに絶望する事しか出来なかった。 「ねえ、うかいさんは強くなりたいんでしょ? ならね、良い考えがあるんだよ。 六道さんちみたいで嫌だって言うかもしれないけど……。 無理やりにでも強くならなくちゃ、何時まで経ってもうかいさんも、そらも弱いままなんだもの。 そらはこのままだとパパに怒られちゃうし、うかいさんだって、そらのパパに莫迦者って怒られちゃう」 唇を尖らせた子どもは手を差し伸べる。 子ども――それでも高校生程の外見の少女は、幼稚ながらフィクサードなのだろう。幼稚なのは見せ掛けだと成長した少女のかんばせがせせら笑う。 「アーティファクトがあるの。アザーバイドを呼び出して、崩界度をどかんとする。 そうすれば、百虎さまが楽しい舞台へ連れてってくれるの。 その時が、アークとうかいさんが最高に楽しめる場所だと思う。 だからね、その準備を一緒にしよう?」 剣林は、何か大事を起こすつもりらしい。その為にはより高みを目指した方が良いと師匠も言っていたではないか。 底なし沼は、そこにあった。どっぷりと身体を浸からせた己が敗北しながらも生き長らえた恥はどうしようも消し去れない物だ。己を悔い恥じて過ごしたこの月日は無駄ではなかったのだと、そう確認したいのだ。 「構わん、」と一言零せば子どもは嬉しそうにアザーバイドの紹介を行っている。どうやら、一度出会った事があるアザーバイドを呼び出したいのだそうだ。アーティファクトを使えばより凶暴に、より強く、より賢くできるのだと彼女は微笑む。 「アザーバイド? 我々とアークが共通の敵を目の前にすれば、協力し倒すのでは……」 「倒しちゃだめだよ。そらたちが強くなる為の重要な武器なんだよ。 宙達の敵じゃない以上、アークと協力する必要もないもの、ねー?」 ほっそりとした指先がおいでおいでと誘う様に手招いた。 フィクサードでありながら、フィクサード然としない彼女に「どうしてそんなにもやる気を満ち溢れさせるのか」と問い掛ければ、彼女は楽しげに小さく笑うのみだった。 「そらは、怪獣さんに会いたいのよ。だからかな、強くなれば怪獣さんとお空だって飛べる筈。 それに――弱者は死ぬ、って昔からの決まりだもんね……悲しいけど、仕方ないんだよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月03日(水)22:09 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「貴方が、こんな所で何をしているのですか」 淡々と、吐き出した言葉の真意を謀る様に男は『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)の整ったかんばせをじろりと見遣った。ユーディスの髪よりもなお濃い、黄金色の槍は彼女が、彼と出会った頃には持っては居なかったものだった。 「さあな」 「さあな、ってな。子供の気まぐれに付き合う身にもなって欲しいものだな。お前も、そちらも」 肩を竦め、、魔力の込められたナイフを手に、『クライ・クロウ』碓氷 凛(BNE004998)は独特の冷たさを感じさせる眸を細める。普段の柔らかな雰囲気とは一転した怜悧な彼の様子に青年の傍らに立っていた少女がこてんと首を傾げて見せた。 ぬいぐるみを模したリュックサックを背負い、あどけない表情をした彼女に『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)は遣り辛さを感じながら頬を掻く。この場所――道場でリベリスタ組織『スペアミント』を相手にとった剣林にしては余りにも幼稚な少女だからだろうか。 「そらちゃん、崩界度を上げるの?」 「うん、そうすると喜んでくれるんだよ。パパも『おじさま』も」 にこりと微笑んだ雨宮宙に夏栖斗は手にした紅色のトンファーをしかと握りしめた。秘められた魔力は随分と己の手に馴染んだ物だとその感触を確かめる様に指先は焔を宿す魔女の作品を握り絞める。 「おじさま?」 首を傾げながら魔導書を手に、術を発動させた『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介(BNE003658)は確かめる様に宙の姿を眺める。相も変わらず天真爛漫な彼女の様子は、冬の日にリベリスタが相対した当時と何も変わりない様にも思え――同時に『成長したのだ』と感じさせた。 「うん、おじさま」 「誰だか分かんないけどさ、最強を目指す為にアーティファクトの蒐集をする、ねぇ……」 ずん、と風を斬る重い音を響かせて、風車の名を冠した鉈をしかと握りしめた『黒き風車と断頭台の天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)が紫苑の色の眸を細める。戦闘に赴く時の黒翼の天使は唇を釣り上げる。まるで、戦闘を娯楽だと感じているかのように。 「まぁ、そんなこたぁどうでもいいわ。最強を目指してるんでしょ? お兄さんも、わたしも」 ふわり、と浮かび上がる。刃を手にしたフランシスカが前進し、呪いを帯びた巨鉈を振り下ろす。まっすぐに突撃したのは剣林の鵜飼脩一と名乗る男の許だった。 「強くなる為にアーティファクトを集めるのはそれほどに滑稽か、少女よ」 「勿論だ。剣林が六道の真似事か? どこも迷惑だが、比較的殺意でなく戦意で戦える連中と思ってたんだがな」 専用の魔力弾丸を装填した破界器を装着し地面を踏みしめた『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)が道場でスペアミントと競り合う剣林に向けて猛烈なる勢いで衝撃波を叩きつける。 呻き声を上げながら刃を手にカルラへと振り翳さんとした一撃を白銀の篭手で受けとめて『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は旧友との和やかな午後を過ごすかのように柔らかく笑って見せた。 「よぉ、ちぃとばっか派手に暴れに来てやったぜ。調子はどうよ?」 言葉の端に乗せたのは確たる敵対。その敵愾心を煽る様に喉を鳴らして笑った猛へと無数の刃が襲い掛かった。 ● 弱ければ死ぬ。そう告げる剣林の言葉に『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)は無銘を手にくつくつと笑う。弱者と強者の絶対的な違いを『勝敗』と位置づけるのは銀次にとってはまだまだ若い。 しかし――「面白ェな、剣林……崩界度をあげてどうする心算かは気になるが、どうでもいい」 何処までも前のめり銀二は殴りかかるかのようにスペアミントの眼前に存在したフィクサードの頬へとその拳を突き立てる。めり込む衝撃を感じながらも意識を猛へと囚われた彼らに銀次を狙う意思は無い。 視線をあちらこちらへやりながら柔らかく微笑んだ宙の視線の先で光介は何処か居心地の悪さを感じていた。癒しの力を振り翳しながらも、千里眼を発揮し、クリアな視界で探索する光介を逆に観察する様に宙の眸は揺れ動く。 「そらちゃん、僕は君に言いたい事がある。本当に心の底から言いたいんだけど、聞いてくれる?」 「なーに?」 こてん、と首を傾げて微笑む宙は剣林然とせぬ態度を貫いている。彼女の態度から、無邪気だけではなくフィクサードとして飼うべき欲に蝕まれ始めているのではと不安と共に僅かな変化を感じていた。 スペアミントが呆然と立ち竦むその間に入り、宙へと狙いを定めた紅の花が彼女の膝口を掠めていく。無数の誘導弾を全方位にばらまきながら夏栖斗の言葉を待つ様に、そわそわと身を揺らす様子は級友とのフリートークを楽しみにしているかのようにも思えた。やや拍子抜けしながらも見据える金の眸にはこの場所が戦場であると言う事を忘れないかのようないろが宿されている。 「あのね、『かべどん』は怪獣の名前じゃないからね! なんなら実地してみる?」 「えっ、かべどんって怪獣じゃないの!? そうだと思ってたのに! なーに、してして?」 からからと笑って見せる少女は大人びた表情で夏栖斗を見遣る。その表情の変化から、彼女の幼稚さに付き合わされているとも感じる鵜飼が彼女に言い包められてこの場に居るのだと悟ったユーディスは溜め息を混じらせながら槍を手にじんわりと後退していく。 「要するに、そこの雨宮宙に良い様に使われていると言う事ね――情けない……」 スペアミントの援護と共に光介の回復を待ち、作戦行動の連携を要請する為に交代する彼女の傍らで魔力のナイフを器用にくるりと回して居た凛が与えた加護は確かに彼等を勇気づけていたのだろう。 「これで少しはマシだろう。スペアミント、お前らも手を貸せ」 「良いが! 何をすればいい!」 助けてくれたからにはと頷きあうリベリスタに凛が間の抜けたような表情を見せ頬を掻く。脳筋だと聞いてはいたが、幾許かは聡明で合って欲しいものである。無論、凛の相対する剣林も一言でいえば少々頭が足りていない。冷静に見れば見る程に、宙以外は知力に少しばかり不安を覚える程度である。 「一先ずは下がって下さい。綿谷さんに治療して頂いて――」 「後はあいつらの相手をしてほしい。君達の守ってる『宝物』で崩界度を上げるつもりだよ、あのふたりは」 ユーディスの言葉に、夏栖斗の言葉が重ねられる。許せないと憤慨する様に道場の床を勢いよく踏んだスペアミントに猛は小さく笑った。憤慨出来るだけの元気があればそれでいい。 猛を囲んだフィクサードを出来得る限り倒し、アーティファクトを手に入れる目的を達成する事を共有し、支援体制を整えたのだからスペアミントも十分な戦力になる事だろう。 拳を受けとめたアヴァラブレイカー。黒き瘴気を纏ったフランシスカが空中を蹴る様に膝に力を込めて鵜飼へと刃を振り下ろす。唇に浮かんだ淡い笑みは、仄かに色香を感じさせる闘争心。 「はぁい、『最強を目指す』お兄さん。そんなの相手にするよりわたしと遊ばない? ――それとも弱いのしか相手に出来ないのかしら?」 もしも、そうならと繋ぐ言葉を遮るように鵜飼の拳がフランシスカの眼前へと迫りこむ。小さく舌を打ち、拳を避けたフランシスカが振り仰げば彼女の横をスレで弾丸が全方位へと降り注ぐ。 「ひどーい! か弱い女の子を狙うなんて!」 「弱っちいヤツにゃお前の技は使いこなせねーか? それとも、『使えば勝てた』って言い訳に取り置きか?」 言葉の端から滲みでる皮肉と挑発に宙は「パパが使っちゃ駄目って言った」と頬を膨らませてみる。己の体に跳ね返るダメージでもあるのだろうか、女の子だから体を大事にとワザとらしく体を捻る宙が周辺の仲間達を癒しに回る。瞳は相変わらず、光介の動向を見守る様に揺れ動いていた。 (どこでしょうか――スペアミントが言うには……?) 大いに殴り合いになって居る状況では、探索をする内に回復が必要にもなる。ユーディスが聞き出したアーティファクトの在り処を探す様に光介が見据えた一点。宙の程近い位置に存在するアーティファクトに気付き、瞬く。 「……成程な」 『難儀な子供』の我儘を防ぐためにこの戦場に立っていた凛の唇に僅かな動揺が滲む。アーティファクトの至近距離にわざわざ立ち、光介の視線を追って「ここかぁ」とからからと少女は笑って見せた。 ● 宙の動きにいち早く勘付いた様に夏栖斗が彼女の眼前へと躍り出る。アーティファクトを拾い上げた彼女の腕目掛けて打ち出されたカルラの攻撃に瞬いて、「もうっ」と唇を尖らせた。 凛と共に確保に走る光介の動きは早い。手を伸ばす、彼を狙う攻撃を避け視線を逸らした鵜飼へ剣を振り上げたフランシスカが唇の端で笑って見せた。 「――余所見するなんて酷い男ね」 空から降った言葉に男が振り仰ぐと同時、振り下ろされた刃は血を求める様に更に深く抉りこむ。フランシスカへと「良い太刀筋だ」と賞賛す。銀次が続き振り翳す拳へと反撃する様に剣林がナイフで抉る。 剣林に相対する銀次は「お前は此処で殺してやんぜ」と啖呵を切る。抱く衝動は正しくならず者であろうか。首を叩き切り、その若さ諸共排除すると勢いよく周囲を巻き込むその攻撃に剣林のフィクサードが唸り声を上げた。 「やだ、皆して何?」 む、と唇を尖らす宙の弾丸から光介を庇い、サポートに徹する凛が余りに気紛れな少女の様子に困った様に肩を竦めた。確保に走る光介に視線を送り夏栖斗も宙を抑える様に徹底的に攻撃を続けていく。 「オラァ!! フィクサード狩りが鏖殺しにきてやったぞ!!」 啖呵を切るカルラの声もまたスペアミントの戦意を向上させ、周囲のフィクサードの気を引いた。 光介の指先が宙の足元から転がったアーティファクトを掴む。幼さを宿した瞳とその視線が克ち合った気がして光介は目を逸らす。ティレニアの宵纏いに包まれた体を隠す様に、その視線をあちらこちらへと動かしながら。 強くなりたい、と剣林は考えていたのだろう。憧憬、野心、夢。欲望は何時だって人の胸中を渦巻くものだった。 「欲望というのは、良くも悪くも、生きる意欲に帰結しますよね」 空色の眸が思い浮かべた償いの欲。欲を飼いならす難しさを知りながら――身を委ねる気持ちはどうか。視線をつい、と動かした先で、光介とは別の欲に駆り立てられる様にカルラが装填した魔力を打ちだした。 続くユーディスは彼女の得た頭脳と技術を融合させ、戦闘術を持って仲間達を支援し続ける。鵜飼の行動に呆れたかのような鮮やかな瞳の色と同じ――魔神の『拾い物』たる槍の穂先は青い炎を宿し、光りを纏いながら敵を貫いていく。 体を捻り上げ、避ける様な姿勢を作るフィクサードに掠め、全方位を射程にバラまかれる其れから癒しを送る宙が「ひどいひとたち」と拗ねたように唇を尖らせる。 「酷いのはどっちだかなぁ」 剣林で有りながら前線で戦わない。戦線を混乱させるかのような宙へと視線を向けた銀次を貫かんとする刃を彼は避ける。周囲へとバラまかれる弾丸は彼が避ける事さえも許さない。 光介の癒しも届かずに膝をつく彼を庇う様にスペアミントが刃を振るう。剣林のフィクサードが彼等を容易く切り裂かんとしたその様子を凛は見逃さなかった。 「護るべきモノだっただけだ。全てを救う――なんて理想論でしかないだろう?」 「なら、切り捨てれば良いじゃない?」 こてん、と首を傾げる宙に凛は唇を釣り上げた。冷静沈着なリアリストが最優先して庇う光介が戦線を支え続ければ、彼が手にしたアーティファクトを夏栖斗が後衛位置へと投げる。壁を足場にしていたカルラはしっかりとキャッチし、弾道を定めて宙が「ひみつ」と笑う技のない様を解析せんと目を凝らした。 「おにいさん、えっち。むっつり」 「冗談はほどほどにしておけ、雨宮。死にたくないなら下がるんだ」 むっと唇を尖らせて、『遊びに来た子供』が如く、宙がカルラ目掛けて弾丸を打ちだした。彼女の腕に嵌められたアーティファクトが揺れる。命中力を持った弾丸を受け流しながらユーディスが一歩下がれば、鵜飼の方面まで飛んだ弾丸がフランシスカの頬を掠める。 目の前の獲物に夢中だと眸を煌々とさせたフランシスカは止まらない。夏栖斗とて羅刹の勢いで振り下ろすトンファーを盾の様にも利用しながら無差別に降り注いだ弾丸を受け流した。 スペアミントが怯えた様な声を上げながら、刃を振りおろせば、猛も続いてその拳を真っ直ぐに突き立てる。 「さて、いい加減エンジンもいい加減エンジンも暖まって来てるぜ。そろそろ暴れだすとしようかい……!」 凍て付く鬼気を纏った猛は言葉とは裏腹に、肌寒さをその拳に宿す。鵜飼を見据えるその言葉に彼は彼が師から学んだのだと言う力を楽しみ拳を打ち合わせた。 一方で、鵜飼の相手を買って出ていたフランシスカは一対一の撃ち合いの中で、傷を負い続ける。サポートの光介とサポート自体を本業としていない宙では大きな違いがあったのだろうが、蓄積するダメージ量は確かなものだ。 スペアミントに指示を行いながらも、宙の様子を観察するユーディスは心象ブリューナクの感触を確かめながら光る穂先を突き立てる。危惧した状況が生まれなかった乗れば、此方のものだと言わんばかりに剣林へと向けた切っ先は『貫き』、焼き尽くす。 ● 「もういっかいやりあって負ける? こっちも相応に鍛錬はしてるからね、負けるのが嫌なら別に相手しなくてもいいんだけどね」 回復の余裕を作るべく鵜飼の視線を逸らす夏栖斗の攻撃がそれた事に気付いたのかフィクサードがずるずると後退していく。弾丸を浴びせるカルラが狙いを定めれば少女は眸を丸くして頬を膨らませた。 「べーだっ! ばぁか。パパに言いつけてやるんだから!」 「ば、馬鹿って……」 むぅと唇を尖らせた宙は『かべどん』を召喚できなかった事に拗ねている様にも見える。己の傷を己で回復しながらも頬を膨らませた少女がずるずると後退していく。フランシスカに変わり鵜飼の相手をする夏栖斗が思わず零した言葉に宙は背中を向けて走り出す。 「なるほど、強くなるってこーいうことなんだね。楽しいねぇ、戦うのって。 でも、そら、今は死にたくないからうかいさん、おまかせするね」 そらには、遣る事があるのと眸を輝かせた彼女が背を向けて走り出す。 「子供は苦手だ、突拍子もない行動ばかりで先読みが出来ん」 守手に徹していた凛が困った様に深く息を吐く。 剣を交え、攻撃を重ねていく。鵜飼の拳を受けとめてはフランシスカは感じる高揚感を抑えきれないともう一度飛び出した。 「お兄さんは強い相手が好きなんでしょ? だったらわたしと同じね。 わたしも強い相手は大好きよ。強い相手を倒す事で自分が強くなった事を実感できるから!」 赤いリボンが大きく揺れる。互いに傷だらけ、回復の手を緩めない光介のサポートを受けながら、幾度も交錯する攻撃にフランシスカの唇が更に笑みを浮かべ出す。 「さぁ、貴方の強さをもっとわたしに見せて頂戴! その上で打倒してあげるわ!」 くつくつと笑って拳を振り翳した鵜飼の許へと飛び込んで猛がまっすぐに拳を振るう。フランシスカと猛、その両名共に剣林のスタンスを好ましいと思うかのように。 「ちったぁマシな面構えになったじゃねぇか。俺から言わせりゃまだまだだがな。 強けりゃ何でもいいってのは俺ぁ好きじゃない。そこまで貪欲になれるのは才能だと思うがね!」 理解しろと猛は続けなかった。戦いのスタンスと、戦う理由は別物だ。交えた拳の重さに唇を釣り上げて、猛が踏み込んだ一歩、受けとめる鵜飼が周囲諸共巻き込む様に殴りつける。 フランシスカの長い髪に掠め、頬へぶつかる衝撃に彼女は瞬き、尚、笑った。 振り上げたアヴァラブレイカーが風を纏う。黒い翼は傷ついても風を切る。彼女を補佐する様にと降り注いだカルラの弾丸は鋭い勢いで鵜飼の右腕を貫いた。 剣林による攻撃に夏栖斗がトンファーで受けとめて周囲を巻き込む様に赤い花を咲かせ続ける。 刹那、交差した刃と拳が、衝撃に跳ね返される。瞬いたフランシスカが膝をつく。くつくつと笑った男もまた、膝をついた。 目の前で息を切らした鵜飼を見下ろして、猛は拳に力を固める。さっさと逃げる様に背を向けた宙と違い、剣林然とした男はユーディスの怜悧な眸を覗きこみ、小さく笑った。 「負けたかねぇんだよ。しかし、勝利とは、力とは、沼の様に深い。次こそだ、命を掛けてやろうじゃねぇか――リベリスタ」 獰猛な眸に宿されるいろにユーディスは何も言わずに瞼を下ろす。手にした槍の穂先は床を掠れ、彼女の唇は小さく震えた。 「敗北に拘り、背中だけを見続けているなら……それが貴方の限界ですよ。一朝一夕に達人に至る者等居ない」 彼女の言葉に眸をギラつかせた鵜飼が拳を下ろしていく。額の前でぴたり、と止められた猛の拳が開かれる。下ろされた腕を眺めながら青年はユーディスの言葉を待った。 膝をつく男に背を向けたフランシスカが仰ぎみて、鮮やかな紫の眸を向ける。どの様な感情が灯されていたのかはそれは、誰にも分からない。瞬いて、次の瞬間には普段通りの好奇を宿すものに変わって居た。 「例えば――剣林百虎とてそうでしょうに」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|