● 「やだ、やだやだやだやだ、やめてっ!」 こんなことで辞めてくれる訳はないけれど、抵抗した。そうしたら、押されて踏鞴を踏んだことを仲間の男達に笑われた男が、青筋を立てて拳を振りかぶってきて殴られた。 「ひぅっ」 声を上げたら、また殴られた。 此処に連れてこられるまでにめちゃくちゃに暴れて、その度に散々男達に殴られた躰はボロボロだ。それでも私は諦めたくなくて。逃げなきゃ! その一心で何度も何度も逃げようとしてその回数だけ男達の人垣に捕まって殴られた。 そうして何度も地面に叩きつけられてその度に痛みと床の冷たさを味わっていると躰の熱と一緒に心の熱量まで奪われる気がしてくる。 蹲るままになった私に気を良くしたのか、さっき私を殴った男が遠慮の欠片もなく私に手を伸ばしてくる。 今までその手から与えられた痛みに恐怖と、これから起きることへの絶望が今まで抵抗していた私を目を瞑って泣きそうな声を上げるだけの私に変えた。 総毛立った躰を掻き抱きながらしゃくり上げる私を見て周囲を取り囲む男達から歓声と野次が湧く。 それすらも聞きたくなくて、顔を膝に埋めて耳を塞ぐ。明日、学校の時間割は何だったっけ、確か一時間目は数学だった。そもそも今日、帰れるかなんて、わからないけど。 自分でも、今しているこれが現実逃避なんてことは解ってる。でも、余りにも唐突に訪れた日常の終わりに私はそれ以外の自衛手段を持ってはいなかった。 「帰りたいな」 家に帰りたい。美味しい御飯を食べて、暖かいお風呂に入って、ぐっすり眠りたい。 それだけなのにどうして世界は私のことを見捨てたんだろう。 ● 「あ゛あ゛ああああああああ!」 世界が回る、カードの表と裏をひっくり返すように、世界が容易く裏返る 先ほどまで少女を殴っていた男が、今は隣にいた男を押し倒して先程少女にそうしたように顔を殴りつけている。 後でニヤニヤしていた男の一人は持っていたカッターナイフを振り回している。 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」 カッターナイフで腕を切られた男はただ何度も地面に額を叩きつけながら許しを請う。 「あ゛はぁ」 地面に叩きつけられた仲間の頭を歩きながら踏みつけた男は何処からか現れた蝶を恍惚の表情で追いかけていた。 他にも三者三様、十人十色、思い思いの方法で男達は互いを殴りあったり、切りつけあったり、謝ったり。 そんな状態が暫く続いて、冷えたコンクリートの床に流れて湯気を上げていた血が冷めきった頃 その場で生きていたのは、その場でもっともか弱い筈の少女だけだった。 「フフ」 少女は裏返った世界の中で嬉しくて嬉しくてたまらないというように笑う。 「これで、家に帰れる!」 なるべく汚れていない服を死体から剥ぎとって、その場に捨てられていた自分の鞄を拾い上げて。 少女は鼻歌を歌いながら錆び付いたドアに手をかけた。 ● 「面白くない話だ、聞いてくれるか?」 衣更月・央(nBNE00263)はそう前置きして、リベリスタ達を見渡した。 モニターに映るのは、何の変哲もない廃工場の写真。各所にはめ込まれていただろう窓ガラスは割れていて、機械は持ち去られたのか、中の伽藍とした状態を晒している。 「此処で、今から夢見・萌という名前の女子高生が事件に巻き込まれる」 映し出される女子生徒の顔写真と簡単なプロフィール。 「これだけなら、数日後にワイドショーが賑わう程度だろう、しかし今回はこれで終わりじゃない」 それはそうだろう、アークは慈善団体ではないのだから、此処に話が来ている以上何らかの神秘がこの事件に関わっているのは最初から明白だった。 「そうして事件に巻き込まれた中で彼女は革醒する。ノーフェイスとして、だが」 世界は一人の少女にこの場を切り抜けるため力を与える奇跡を起こした。そして、同時に世界はそこまでのことをしておきながら彼女を愛さなかった。 「彼女が得た力は他者の精神をコントロールする力と、エリューションの召喚、それにその場から逃げるための能力だ」 特典が一杯だな、と央は皮肉気味に笑う。 「状況ははっきり言って良くない。諸君らがどんなに急いだとしても到着するのは彼女が革醒した直後で男達は狂い始めている 彼女は諸君らが突入すれば諸君らすらも敵とみなし、自衛行動を取り、即座に逃走しようとするだろう。 そうした際、この場にいる一般人を救出するのは困難であるため、一般人の救出を求めることよりも力を手に入れた少女を市街地に出す危険を防ぐ方が優先度が高いととアークは判断した」 そこで、央は一息ついた。最も面白くないのはここであるからだ 「故に、今回諸君らに頼みたいのは、ノーフェイス『夢見・萌』の討伐。ただ一つだ」 言外にその場にいる一般人達は助けても助けなくてもよい、とそう央は告げた。 「元はただ巻き込まれただけの少女を手にかける、というのを君たちに頼むのは気が進まないが」 それでも、頼むと央は頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:吉都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月01日(月)22:04 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●嘆きの川 「そこまでだ」 リベリスタ達が廃工場に踏み込んだとき、そこには小さな地獄が産声を上げていた。 ある者は自らの衣服を破いて冷たく硬いコンクリートの上を転がって血の衣を纏い始め、ある者は顔中の穴から体液を垂れ流して咽び泣く。呆然としている者は辛うじて最初の狂気を乗り越えたのか。しかしそんな彼も行き成り殴り倒され許しを請うている。 そんな正気こそが異物に成り果てた歪んだ場所、それに『どっさいさん』翔 小雷(BNE004728)が待ったをかける。 少女が、夢見・萌が弾かれたように当たりを見渡してこの場に新しい異物を見つけて問う。その視線には敵意と不安が滲む。 「誰?」 その問いに小雷は下唇を一度だけ噛んで答える。 「俺達は、リベリスタ。お前の敵だ」 ――、だからお前を、殺す。 一音一音確かめるように発された言葉は少女に対する宣言にであると同時に小雷にとっては決意の再確認だった。まるで鉄を鎚で叩いて焼き締めるように、心を精錬するように。 少女が被害者なのは知っている、自分達を見る視線が最初から敵を見る目だった訳も助けと思わなかった訳も。それでも小雷は護り手であることを望んだ、加害者を断罪せず神秘から守ることを選んだ。 リベリスタと少女が対峙する冷気と狂気が支配した此処はさながらコキュートス。神曲において最も重い裏切りの罪を犯した者が落ちる地獄。 なれば、裏切ったのは少女か、彼らか、世界か。はたまた、リベリスタか。 ●反転世界 小雷の宣言を受けて萌が最初にしようとしたのは逃走 彼女の至上命題は不良への復讐ではなく家に帰ること。だから、この場から逃げることさえ出来ればいいと服装を整えることもせずに窓へ脚をかけようとする萌よりも早く東海道・葵(BNE004950)が動く。 「逃がしません」 シルフィードの舞踏靴の踵を鳴らし、萌の前に立ちはだかる葵がまるでそのまま踊りに誘うように手を差し出して、エナジースティール。それを済んでの所でフラフラと立ち上がった男が阻む。勿論それは、善心に目覚めた男が萌を庇おうとした、等という安っぽいドラマじみた光景ではなく、ただ萌の能力によって動いただけだ。現に男の目は眼窩から落ちんばかりに見開かれ、だらんと手を伸ばしたまま立つ様まるで脳のないブリキ案山子。幸いにも彼女に殺す気がなかった為、男は辛うじて死んではいないが仮に彼女が本気で萌を攻撃していたならば庇った彼は胴体と首が泣き別れていたことだろう。 おいたわしや。男から流れ込む精神力を啜り、糧としながら呟く葵の声音は同情の意味を持つ言葉でありながらどこか皮肉めいても聞こえる。 自らに向けられた攻撃を致命の可能性がある者に庇わせる。それは人の行いではなく。 「もはや化物ではありませんか」 差し出されたままの手は庇った男が崩れ落ちて萌を指す。それはさながら真相を看破し、犯人を追いつめた名探偵じみていて。 「私だって好きでこうなったんじゃないっ!」 対して真相を突き付けられた下手人のごとく、萌は裸足のまま後ろへにじりながら叫んだ。それは葵に向けての反論か自らを庇った誰かへの言い訳か。 「そうね、貴女は悪くない。事件に巻き込まれたこともこんな能力を持ってしまったことも」 答える『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)の声はシスターではなく懺悔の声を聞く神父のように優しい。 司法に則れば裁かれるべきは今能力によって操られている男達だ。自衛のために革醒した能力を振るったことだって誰が責められようか。 同じだと海依音は思った。萌に対する感情を同情の一言で切って捨てるには余りにも自分と彼女は似ていた。ならば、萌を赦した彼女は誰かに赦されたのだろうか。 「だから神様って嫌いなんです」 アガペーを掲げたところで現実は格差に満ちている。世界に愛されているか否かで厳然とあちらとこちらに分かれている。だから、ワタシは私を殺さねばならないのだ、世界の為に。 海依音が掲げた杖から光が迸る。彼女を中心に広がる光は彼女が視界に収めた全てを撃ち据える。その中には当たり前に萌が含まれていて。 聖なる光が洪水になって地獄を灼けば残ったのは倒れる男達と、翅を焼かれて動きが鈍った蝶と男に庇われて立っている萌。 殺さずの奇跡は間違いなく男達を殺していないだろう、死ぬほど痛かったには違い無い筈だが。 「貴方たちは死なせない」 先程萌に向けた声の柔らかさの影もなく海依音が吐き捨てる。 そうして倒れた男達を『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)が抱えあげる。華奢な体に見合わぬ膂力で即座に二人を移動させた。 「そこで寝ときなさい!」 工場の隅、戦闘に巻き込まれないであろう物影に男二人を落として戦場に戻る。海依音とアイコンタクトを交わした。恐らくこれを続ければ何人かは助けれるだろう。 「なんでそんな奴を助けるの!?」 ミリーと海依音を引いてはリベリスタ達を見て萌が葵から視線を移す。 「そいつらは私を……っ!」 だったらどうして自分を助けてはくれないのか。護り手であるリベリスタ達の在り方はどうしようもなく萌の敵として在った。 頭を振りかぶって慟哭する萌見たミリーはこれでいいのか、と脳内で自分が囁く声が聞こえた気がした。さっき抱えて隠した男に、もしくはこれから助けるであろう何人かに助ける価値があるのかと。 今回の事件だって、この男達がいなければ恐らく萌は革醒することなど無く、自分達リベリスタや、或いはフィクサード等とかかわることなく普通に生きて行った筈なのだ。なら自分が今していることは正しいのだろうか。此処で積極的に殺すとは言わずとも、助けようとしないことが、萌の救いになるかもしれないのに。 「お前が何をされたかは知っている。それでも俺は、こうすると決めたんだ」 宣言する小雷の声に力が乗る。廃工場の無機質な壁に反響しない位に抑えられた静謐な声だったが、それは萌とエリューションの耳目を否応なしに引き付ける。最初の敵対宣言よりも明確な発破は言葉以上に少女達の怒りを煽った。 ●Ebony Ivory 「私は、許さないから」 「だったら」 怒りに震えた声に言葉を返す前に小雷の世界が反転する。萌の能力が彼を地獄に引き落とす。景色が歪み、異常な程の吐き気と空腹が襲う。まるでドラッグの中毒症状の様なそれは小雷体内で練っていた気を捻じ曲げ己の躰を傷つけさせた。内臓が損傷し口から血を吐く。同時、先ほど自らで怒らせたエリューションの攻撃が強かに彼を打つ。 「やらせない!」 同じ時、ミリーもまた小雷のアッパーユアハートを抜けた蝶に襲われる。男達を抱えている故か、或いは己の中にある迷いのせいか。本来ならそうそう当たるはずもないエリューションの攻撃を受ける。魅了を受けなかったのがあるいは救いか。 「別に、許してもらおうなんて思っていません」 苦戦の中、葵が言葉を投げて返す。 同情もしよう、哀れに思おう。しかしわたくしには大事にしている物がある。萌が家に帰る為にその力を振るうているというならばわたくしとてその力を振るおう。 葵の振るう極細の糸が笛の音のような甲高い風切り音を鳴らす。幾度か庇った男達を切り捨てたそれは血に濡れてうっすらと輪郭が見えるそれはかつて罪人に伸ばされ、その者の欲が故に再び地獄へ突き落した蜘蛛の糸を思い出させる。 「そこを退いてよ!」 萌の恐怖が溢れる。世界を恨むヘドロが実体になってリベリスタを総ざらいする。粘性のあるそれは脚を引っ張り肌を焼く亡者の手。リベリスタの思惑に配慮することなど無くそのまま男達も巻き込んでブスブスと厭なにおいの煙が上がる。 「貴女に帰るところがあっても、貴女が帰すことは出来ないの」 後ろに位置する海依音がヘドロに対抗するように聖神の息吹を振りまきながら困ったように言う。本当は今すぐ家に送り届けたい。そうして彼女をそのまま日常に返してしまいたい。自分が彼女を邪魔しないでよくなればそれはどんなに素晴らしいことか。 「次!!」 他の三人が時間を稼ぐ傍ら、ミリーが再び戦場に戻ってくる。傷を負っているのは先程のエリューションの攻撃のせいか。その傷口が毒に触れるのも厭わず腕をヘドロに突っ込んで男を拾い上げる。残っているのは三分の一、幾つかの死体を考えなければ四分の一といったところだろうか。 「あの方はもう……」 海依音が一人を指で示して首を横に振る。だが、それを受けるミリーの内心は穏やかではない。もしかしたら自分はわざと死にそうな彼の優先順位を下げたのではないかと思ってしまう。先程から聞こえる萌の声が迷いを加速させる。 「なら、次はあそこに居る奴ね」 勢いよく頭を振って意識的に考えを頭から追い出す。今は悩むよりもするべきことがあった。状況は考えていたよりも良くはないことをミリーは自覚している。 原因を挙げればそれはフォーチュナーが危惧していた一般人を救うことの難しさ。 不殺の技を用いて不良達を戦闘不能にするまでは良かった。問題はそのあとミリーの手が全て男達を助けることに割いたことか。ここまで男達を助けることに奔走し続けるミリーは一切の攻撃を行えていない。小雷も先程から幾度か混乱し味方を、或いは自分にダメージを重ねている。対処療法を良しとせず回復のタイミングを定めていたことも小雷のバッドステータスを引き延ばすことになり、結果として萌への対応の負担は全て葵に伸しかかる。 「落ちなさい」 それでも葵は倒れることはなかった。この中で一番長く戦い続ける彼女が一行の中で一番の攻撃を避けることに秀でていたことが功を奏したのかもしれない。何度目かの彼女の攻撃で、萌と一緒に攻撃を受けたエリューションが、蜘蛛の巣に捕まる蝶そのものの姿で刻まれて塵になる。 しかし、葵の顔に喜色はなく、心なしかカッチリときこんだメイド服が少しくたびれて見えた。 一瞬だけ気を抜いたリベリスタ達に萌の涙が襲う。地面に落ちた一滴の雫が凍って、そこから不吉な音を立てて悲嘆の川が氾濫を始める。直感よりも先に、冷たい恐怖が襲う。空気が凍って液体になる。吐いた息が傍から凍る。小雷とミリーがそれに呑まれ、回復も間に合わず、小雷にとってはそれがトドメになる。吐いた血が凍った。それを柱にして更に冷気が伝って小雷の体を登る。 「まだ、だ」 倒れるわけにはいかなかった。倒れたくなかった。流出した気と血と体力を運命を燃やして補う。まるで蝋燭のように自分の中にある何かを燃やして立ち上がる。凍った空気よりも熱いそれが肺を満たした。凍った足元を砕いて、地面をしっかりと踏みしめる。 ●Up Or Down 均衡が傾く瞬間はあっさりと訪れた。それはミリーの戦線復帰。彼女が助けた男達は今頃物影で呻き声をあげているだけだろう。命の危険はなくなったのだからそれ位甘受するべきだと彼女は考える。 「待たせたわね! アオイ! 上手く避けてよ!」 ミリーが腕を横振りに薙ぎ払う。男達を助けることに終始していた彼女の頭の中にあった鬱憤と悩みというなの霧を吹き飛ばすように、炎が現界して、冷えた空気が暖まる。 リベリスタ側の思惑によって生まれていた、元より彼らに傾きかけていた均衡は容易に突破される。 反転していた世界から息を吹き返した小雷の壱式迅雷が拍子抜けするほどに呆気なく、燃えて翅に穴のあいた最後のエリューションを消し飛ばす。 「あ、あああ……」 少女がへたりこむ。こと此処に至って萌に逆転の手段は残されてはいなかった。いや、最初からなかったのかもしれない。彼女の最後まで伏せられたままのカードはステルス戦闘機の様なものだったが四人のリベリスタが目の前にいる状況で逃走を為せるほど彼女の戦闘能力は高くはない。そうなってしまえば、彼女の心は容易く折れる。少し前と同じように泣きじゃくるだけの、非力な少女に戻ってしまう。 「やだ……やだよ……」 リベリスタ達に許さないとのたまった怒りの炎も消えた。彼女に出来ることは先程までと同じように泣いて縋ることだけ。 「助けて……許しで……」 涙で顔をぐちゃぐちゃにして色濃い死の恐怖に震えた。 視線を逸らすように、ミリーは自分が男を隠した物影を見た。 あいつらも、こうして彼女を泣かせたのだろうか。振り切ったはずの悩みがもう一度鎌首をもたげる。 海依音がゆっくりと膝をついて萌を抱きしめる。杖すら落として。彼女に攻撃されたら、なんてことは考えもしなかった。 「ごめんね、ごめんなさい」 少女の躰を抱きしめたまま、何度も謝る。あの男達には法の裁きを受けさせるから。謝りながらそういっても彼女の涙は止まらない。そんなことは分かっていた。だって少女はワタシだから。謝り続ける海依音は先程までの聖職者然とした姿ではなく、赦した少女に許しを貰おうとする罪人の如き、神の祝福を求める信者の如き姿。 もう一度、彼女に奇跡を。神の愛を。 けれど、神様はいつだってそう。心を入れ替えようが祈ってみようが誰もが望むハッピーエンドなんて、与えてはくれないのだ。この場で一人、萌だけが反転した世界にそのまま取り残されるのだ。 小雷が無言で拳を握った。 苦しまずに送る。それが慰めになるとも思えなかったけれど、彼にはそうすることしかできない。 撫でる様に掌を押し付けて、浸透剄が染み入るようを撃ち込んで、小雷は少女まるで眠ったような死体に変える。 先程まで彼の臓腑にあった熱い何かは体温を失っていく少女の躰と同じように雲散霧消してしまった。 悲痛な空気が漂う中で、葵が物言わぬ躯となった少女に優雅にお辞儀を贈る。 「御免遊ばせ」 謝罪の様なその言葉がどういう意味を持つものだったのかは彼女にしかわからないし、この程度で少女がリベリスタ達を許すことはないはずだが、それでも良いと彼女は思った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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