●あみあみと愉快なぐーちょきぱー 「五ヶ月ぶりです!」 「……何が?」 突然大声を上げる波佐見に向けて、七瀬は怪訝な顔をして言葉を返す。 「……さぁ?」 「疲れてるのなら帰る? あまり気持ちのいい『物件』じゃないし」 「そうだな。自分と同年代の娘が『レンタル』されるとか見たくはないだろう」 「……正確には今も続いている」 七瀬の側を歩く二人の男達が波佐見を心配するように言う。 「む。確かにムカつきますけどこれでも私は恐山フィクサードなんです。それぐらいは大丈夫ですよ」 さて、そろそろ説明が必要だろう。 七瀬亜実は日本主要七派の一角、恐山のフィクサードである。部下の波佐見、神尾、石垣を連れてとある場所に赴いていた。同じく日本主要七派の一角、三尋木のフィクサードの元にである。 さて三尋木といえば、昨今海外に河岸を移し日本国内から撤退した。主だった市場はアークに譲渡したのだが……それに従わないものもいた。彼らはフリーのフィクサードとして活動したり、あるいは他七派に下っている。 三尋木は離反する者には資産を渡さず、裸一貫で放逐した。そういったものが生き残れた要因は主に二つ。元々独立できるだけの実力があったか、あるいは『隠し財産』があったかだ。組織に気付かれずに溜め込んだへそくり。ブランド品の偽者など可愛いもので、基本的には違法な物品であることが多い。 「要するに、その元三尋木が隠し持っていたのが『女子高生のレンタル』なんですよね。高校の先生がフィクサードで、生徒を売っていたってことですか?」 「そうよ。『魔眼』を使って服従させた生徒。あくまで『自発的に』行動するからその男に足が付かない。商品を『格納』するスペースも必要とせず、実に効率のいい隠れ蓑になっていたのよ」 資料を読む波佐見の声に、スラスラと答える七瀬。波佐見の声の中に苛立ちを感じるのを知りながら、七瀬は黙殺する。自分も似た感想だ。 「三尋木も気付いてはいたんだろうよ。だが組織の邪魔にならない程度の『副業』と判断して目をつぶって至って所か」 「……死亡に至る事故がなかった。幸か不幸か、それが世間の目を誤魔化す要因になった」 諜報と暴力に生き、世間の闇を知っている神尾が肩をすくめる。既に裏づけはとってあるのだろう。そして重苦しいため息をつく石垣が、今回の任務を再確認する。 「その元三尋木がこの『物件』を恐山に譲渡する代わりに、恐山に引き入れて欲しいと申し出てきた。我々はその保護。そういう任務だ」 「ええ。何でもリベリスタの介入を子飼いのフォーチュナが察したみたい。『魔眼を使う先生』を確保すれば、他の場所でも似た商売は効くからとかなんとか。 まぁ、私がほしいのはフォーチュナなんだけど」 「はー。それで今回ガチ武装なんですね。因みに戦力的に元三尋木はどうなんですか?」 「こんな商売に執着している程度の男だ。推して知るべしさ」 苦笑する神尾。然もありなん。実力があるならそれを誇示して組織に売りに来る。それがないから、こういった『物件』を持ってくるのだ。 「今回は撤退戦よ。地形を駆使して対象を逃がすことを優先しましょう」 七瀬の言葉に、三人の部下は同意するように頷く。心情的な面はさておき、任務優先は組織人の努め。利潤追求の恐山の鑑であった。 ●アーク 「ヒトマルサンマル。ブリーフィングを開始します」 録音機にスイッチを入れて、資料を開く。『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は集まったリベリスタたちの顔を見ながらこれから起こるであろう神秘の説明を始めた。 「元三尋木フィクサードがある高校に入り、生徒を神秘の力で操り悪事を働いています」 和泉の資料には、先生として学校に入った元三尋木フィクサードの悪事が纏められていた。 女子高生の意識を奪い、神秘の力で夜の街に繰り出させている。そういったいかがわしい商売だ。 「この元三尋木を保護すべく、恐山フィクサードが介入してきます。元三尋木の悪事を恐山でも活用する為だと思われます」 最もモニターの映像を見る限りでは、当の恐山フィクサードたちの士気はそれほど高くないように思える。まぁ、彼らも任務優先で動く身。仕事はしっかりするだろうが。 「放置すれば罪なき若者が犠牲になります。ここで打破してください」 和泉の声は堅い。同じ女性として、この行為は許されるものではない。だが資料を見る限りでは恐山フィクサードも楽観できる相手ではない。しっかり作戦を練らなくては危険だろう。 今回は時間が勝負だ。急ぎリベリスタたちはブリーフィングルームを出た。 ●準備万端 「で、姉御。リベリスタの情報は?」 「アークよ。今回は誰が来るかしっかり把握済み。なのでしっかり作戦立てていくわよ」 スーツの襟を正し、七瀬は気合を入れた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年12月06日(土)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「ヨー波佐見元気ニシテイタカー? 意中の相手と結バレマシタ。百合婚約デス」 「わー、おめでとう」 『歩く廃刀令』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が薬指に填めた指輪を波佐見に見せ付ける。エンゲージリング。それを素直に祝福する波佐見。養子縁組で法律上同姓にするという方法があるのよ、とか生々しいことを話していた。 「ご機嫌麗しゅう、待った? あみあみ!」 「待ってたわ。デートがこんな路地裏なのは許してね」 既に破界器を構えて挨拶をする『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)。あみあみ、と呼ばれた七瀬は呼称に若干言いたいことがあったが、あえて押さえて言葉を返す。ここで待っていたのは事実だ。 「そんな三下を引き入れなきゃならないほど、恐山も人材不足か?」 「こんな三下をうまく使うのが恐山なのよ」 前田を見て呆れるように『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)がため息をつく。今まで悪人を沢山見てきたが、前田は小物もいいところだ。皮肉を篭めた言葉を返す七瀬も、前田の器の小ささは理解しているようだ。 「その人は、保護するに値する人なの? その人、悪い事してるって知ってるんでしょう?」 「知ってるわよ。私のほうがもっと悪いことをしてることもね」 『尽きせぬ祈り』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は前田を指して七瀬に問いかける。教職に就く人間が生徒を売るなんて。そんな人を保護する価値はきっとない。対する七瀬の答えはため息が混じっていた。アリステアの純真さに心が痛んだか。 「あー、亜実ちゃん。出来れば邪魔しないで欲しいんだけど。僕、物凄く怒ってるんで」 「あら奇遇。私も邪魔して欲しくないし、おそらく同じような怒りを感じてるわ」 笑顔で拳を握りながら『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が前に出る。教師を目指している悠里からすれば、前田のような人間は許せない。ここで捕らえて、しっかり反省させてやる。そう思いながら拳を強く握った。 「わたしたちが悪党を狙って、亜実がそれを守る。……いつかの逆みたいね」 「だったら今回は勝ちを奪いたいわね。前とは逆に」 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)が先込め銃に弾丸を込めながら呟く。七瀬との戦いはこれで何度目か。どの戦いにおいても、いい気分にはなれない。今回も、また。苛立ちの理由は分からない。だけど、戦いを放棄するつもりはない。 「汚れ仕事だな。それが貴女達の仕事といえばそれまでだが」 「そうね。でも善悪を別にすれば、何かの為に汚れるのはアークも同じじゃないかしら」 七瀬の言葉になにを、といいかけて『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)は得心する。世界を守るために最前線に立ち命を奪うリベリスタ。成程汚れているといえよう。目的の為に手を汚すという意味ではどちらも変わらない。 「詭弁ね。その男を放置すれば犠牲者が増える。それは事実」 「そうよ。だから全力できなさい、リベリスタ」 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)がぴしゃりと言い放つ。綺沙羅は嘘を就く大人が嫌いだ。幼少期の経験もあり大人は信用が出来ない。七瀬や前田のような大人は正に当てはまる。その言葉を受けて、七瀬は挑発し臨戦態勢に入る。 アークと恐山、そしてフリーのフィクサード。様々な思いを込めて、路地裏で踊る。 ● 「ジャマ、行クゼ」 最初に動いたのはリュミエールだ。呆けたような表情で二度その場でジャンプして調整を行い、着地と同時に走り出す。相手の前衛に突撃すると見せかけて、そこで急に角度を買えて壁に迫り、そのまま壁を駆け上がる。神秘による壁歩き。 それを見通していたかのように神尾が翼を広げて飛び上がる。リュミエールの行く手を阻むように振るわれた爪を、二本のナイフで受け止めるリュミエール。金属と金属のぶつかり合う激しい音が響く。 「回避壁ナ。ある意味、瞬間的な速度の境地ダ」 「技巧を争う気はねぇよ。ま、やりますか」 「……任せたよ」 リュミエールと神尾が競り合う中、涼子が壁を伝って通過する。七瀬が物凄く嫌そうな顔をするのを見て、少し溜飲が落ちた。そのまま敵後衛までたどり着く。中野に自分を庇わせる前田。そして後藤。その立ち居地を確認する。 拳銃の撃鉄を少し起こし、火皿に火薬をつめる。さらに撃鉄を起こしてコックポジションに持っていき、中野に向けて狙いを定める。放たれた弾丸は中野に強い衝撃を与え、後ろに吹き飛ばした。庇われていた前田が慌てるように身を固める 「待ってくれ。そうだ、アークに鞍替えしてもいいぞ」 「ムカつく。その口を開かないで」 「おまえのような教師はこっちからお断りだ!」 同じく壁を伝ってきた悠里が叫ぶ。怒りの声を向けた前田にではなく、涼子が吹き飛ばした中野のほうに。前田は一発殴りたくはあるが、今はこっちだ。前田と中野の間に入り、庇いにいけないようにする。 拳を握り中野のお腹に押し当てる。拳に耐える構えを取る中野の体内に直接衝撃を加える打撃法。この娘も被害者だが、だからといってやったことは許される事ではない。踏み込み、拳を押し出す。振動する一撃が、中野を震わせた。 「君は前田が魔眼で女生徒を食い物にしてるって知ってるの?」 「知ってる。……でも、それを買う人のほうが悪いんだってあの人が言ってた」 「だからといって、女の子を騙してる人間が悪くないわけないだろうが」 中野とそして前田に言い放ち、夏栖斗は前に進む。トンファーを手にして石垣と波佐見の元に迫る。後藤を巻き込まないように意識しながらトンファーを振るい『飛ぶ斬撃』を放つ。貫く一撃が恐山を襲う。 「あみあみ、今回は君らが無茶してでも成功させたい『気分のいい』仕事じゃないはずだ。あとはアークが上手くやる。それでいいだろ」 「じゃあ聞くけど、貴方達は『気分のいい』仕事じゃないなら手を抜くわけ? 例えば不幸なノーフェイスを討つ時とか」 「……っ!? それは」 「仕事の重みは違うけど、そういうことよ。はいそうですか、と仕事を放棄する気はないわ」 この方向からの説得は無理か、と諦める夏栖斗。 「自分も、崩界阻止の為ならば作戦に浄不浄を問わぬ様な身の上。要は生きる為に必要な糧であり、それが仕事なのだろう」 仲間に指揮を飛ばしながら雷慈慟が頷く。世界を守るためなら他人に非難されようが構わない。それは自分も同じことだ。勿論手を抜くつもりは全くない。神秘による犯罪など、放置していい理由は全くないのだから。 恐山のフィクサードが作る人の壁。そこに近づき神秘の力を練り上げる。脳内で構成した理論を物理的な力に変えて打ち出した。爆ぜるような言葉の本流は爆風となり、立っていた波佐見を吹き飛ばす。だが一番吹き飛ばしたかった石垣は―― 「流石に簡単には吹き飛ばぬか」 「……それが役割だ」 「なら打ち砕くまでだ」 『魔銃バーニー』『錆び付いた白』……二丁の銃を構え杏樹が靴を鳴らす。銃撃戦において一人が二丁を扱えば二倍の火力とはならない。銃を撃つのは常に一人。故に銃を扱うものの技量が問われるスタイル。 二丁拳銃を使っていた師匠の言葉を思い出す。大事なのは一瞬。機を逃さず両手の弾丸を叩き込め。思い出したときには既に杏樹の体は動いていた。矢次に弾丸を放ち、防御に手甲を構えた石垣の体を傷つけていく。 「生け垣だろうが紙装甲だろうが、それを捉え、貫くのが私の仕事だ」 「予想はしていたけ仕事熱心な射手ね。コーヒーブレイクしないかしら?」 「恐山の淹れる珈琲は毒か苺味」 七瀬の冗句を無愛想に切り捨てる綺沙羅。シルバーボディのキーボードを構え、軽快なタイプ音を響かせる。術を発動させるのに形式だった呪文はいらない。音とリズム、それがあれば十分に術はなりたつ。 冷たい風が裏路地を通り抜ける。湿気があがり、小さな雨雲が出来上がる。降り注ぐ雨は冷たき氷雨。身を凍らせる綺沙羅の術。味方と後藤を避けるようにして降る雨は、恐山とそこに入ろうとしていたフィクサードの体力を奪っていく。 「いつもの事ながらめんどくさそうな仕事だな……」 「お互い様ね。こっちはこっちで面倒なのよ」 「そんなことしてまで守らないといけない人じゃないよ」 前田を護る恐山にアリステアがはっきりと言い放つ。雪のようなダイヤモンドが埋め込まれた指輪を一撫でし、戦場を見る。暴力と悪意が混じった空間を。十四の少女には目を背けたくなるような光景。それでもアリステアは前を見る。 白い羽根を広げ、空気を吸い込む。体内のマナと空気が混じりあい、その空気を吐き出すと同時に言葉を紡いだ。それは歌。清らかなソプラノは戦場に響き、リベリスタの傷を癒していく。、仲間を助ける戦場の中の善意。 「ね。本当にその人に愛されていると思う? 愛してる人がなぜ、貴女に酷い事を強いるの? 愛って……そういうもの?」 「そうよ。子供には分からないけど、これが愛なのよ」 アリステアは悲しげな声で中野に問いかける。返ってきたのはそんな盲目的な言葉だった。恋愛の暗い面を見せられて陰鬱になるアリステア。 「うわー。完全に愛は盲目状態。一旦距離を置かないと駄目なパターンですね」 波佐見が中野を見て頷いた。皆の動きが一瞬止まる。 「……あー、波佐見。皆が思ってることを代表して言うわ。 『貴女が言うな』」 「ひどいお姉さま!」 そんな漫才もありましたが。 若干の抵抗もあるが、戦局は概ねリベリスタの作戦通りに進んでいる。中野と前田を分断し、恐山も押さえ込んでいる。 だが恐山の優位性は変わらない。向こうは時間が過ぎるまで防衛すればいいのだ。 時間は刻一刻と流れていく。 ● この戦い、リベリスタは突破先であり恐山は防衛戦である。 恐山は全力でリベリスタを排する必要はない。必要最低限の相手を倒せばいい。前田を守るためやらなければいけない事は―― 「波佐見!」 「はーい、お姉さま! いきまーす!」 七瀬の号令と共に波佐見が地面を蹴る。全力で移動して相手を刻むソードミラージュの技。それを使い中野を押さえる悠里に切りかかる。その一撃で倒れるような悠里ではないが、中野を押さえる為の余裕がなくなってしまう。 「あいつは許せないんだ。どいてくれ!」 悠里は中野を押さえようとするが、波佐見に阻まれそれが十分にできないでいた。已む無く波佐見を排しようと拳を振るう。 「は! そうだ、俺を守れ!」 前田が中野に命令し、盲従する彼女はそのまま前田のガードにつく。 「黙れ」 中野が戻ってくるたびに涼子が弾き飛ばすが、その度に中野は戻ってくる。吹き飛ばし、盾が戻り。時折涼子の連続攻撃で前田に拳を叩き込むことはできるが、確実に前田への攻撃は減っていた。 そして波佐見の抜けた所に七瀬が入り込む。リベリスタの前衛は雷慈慟のみ。石垣なら大丈夫だが念のためだ。 「フォーチュナの獲得は後のタメになる……か」 七瀬に語りかける雷慈慟。前田のほうがついでであることは知っている。 「情報は重要よ。『万華鏡』もほしいぐらいだわ」 「ならアークに下ればいい。自分が口添えしてもいい。――今は倒させてもらうが」 雨垂れ岩を穿つ。繰り返される雷慈慟の一撃が、石垣と七瀬を吹き飛ばした。押し込まれる前線。 「速度の果てのその先へ行く私の力ヲミセテヤル」 リュミエールの二刀と神尾のクローが交差する。空間内を把握し、加速していく四つの金属。互いの傷が少しずつ増えていく。 「貫かせてもらうぞ、紙装甲」 杏樹の銃が空中に浮かぶ神尾を捕らえる。空中にいて不安定な神尾は彼女からすればいい的だ。銃声が鳴るたびに、神尾から血が流れていく。 「きっついな流石に!」 リュミエールと杏樹の攻撃を受けて、運命を削る神尾。地上に降りて石垣と合流する。 リベリスタの攻勢に押し込まれる恐山。それを不安に思ったか前田が怯えている後藤に声をかける。 「後藤、おまえもこっちにきて俺を守れ! そうすればおまえの姉の画像データは――」 「あみあみたちが欲しがってんのはお前じゃなくって後藤君だ。彼が死んじゃったら、お前は結局路頭に迷うだけだぜ」 夏栖斗は前田に声をかけて牽制する。時間はあまり残っていない。夏栖斗は石垣に迫り、服の襟をつかみ、同時に足を払う。重心を崩して石垣を投げ飛ばす。 「本当か!?」 「仕事はするわ。安心しなさい」 問いかける前田に、安心させるように告げる七瀬。夏栖斗の言葉を否定はしなかったが。 「不気味に感じるかもしれないけど、弾除け代わりに使って」 綺沙羅は影の従者を作り出し、後藤の側に寄せる。 「キサ達はあんたを傷つける気もないし、あんたが普通の生活を送りたいっていうならその手伝いをする事もできる」 後藤が前田に逆らえないい理由も察したし。情報の断片さえあれば追うのは容易い。綺沙羅は前田を冷たい目で見た。 「神秘って得体が知れなくて怖いよね。だからこそ、ちゃんと自分でその力を使えるようになるのが大事だと思うの」 アリステアが怯える後藤を見ながら優しく告げる。彼女の神秘は癒しの奇跡。神秘にはこういう側面もあるのだ。導くように優しく微笑むアリステア。 前線が押し込まれれば、自然と前田を中心とした乱戦に変わる。こうなると数の多いリベリスタに流れが傾いていく。 アリステアの回復もありリベリスタの怪我は少ない。戦闘開始から石垣と退治していた雷慈慟と波佐見と相対していた悠里が運命を燃やすが、それ以上の攻撃で恐山たちを攻めていた。 (時間ギリギリだけど……このまま攻めれば勝てる) 綺沙羅は時間ギリギリまで経てば結界を張る算段をしていた。恐山の車を逃がさないようにする為だ。だがその必要はなさそうだと攻撃を続ける。 涼子の一撃で中野が倒れれば、前田を守る者はいなくなる。七瀬たち恐山が庇う前に、リベリスタが一気に攻め立てた。 「残念、私はイケメンに興味ナイワー」 リュミエールのナイフが前田に迫る。正に一瞬。一瞬きの間に懐にもぐり込んだ九尾の狐が繰り出す鋭い一閃。 「ンジャ、ソーイウ事デ倒レトキナ」 リュミエールの一撃が前田の胸を裂き、地に伏した。 ● 前田を確保されれば、恐山の戦う理由はなくなる。武装を下ろしはしないが、リベリスタに対する戦意はなくなった。 「続けるのかしら?」 「私はどちらでも構わないが」 七瀬の言葉に銃口を向けたまま答える杏樹。互いのダメージは少ない。このまま戦闘を続けることもできるだろうが―― 「帰るわよ。無理してほしい『物件』じゃないし」 七瀬は背を向け、路地裏の反対側に歩いていく。部下の三人はリベリスタから視線を外さずに、その背中を護るようにして去っていく。 残されたのはリベリスタと気を失った前田。そして中野と後藤。震えて座り込む後藤に手を差し伸べるリベリスタ。 「怖がらせてごめん、僕たちは君に危害を与えないし。動けるなら安全なところに移動しよう」 夏栖斗の誘いに従うように一行はアークの用意した大型車に乗り込んだ。前田はこのままアークに。二人は家まで護送することになった。 「君だって予知の能力を悪いことに使いたいわけじゃないだろ?」 「……そもそも、未来なんて見たくないです」 夏栖斗の言葉に答える後藤。受動的に『見えてしまう』未来。それがいいものばかりとは限らないのだ。 「神秘が怖い? 当然だ。神秘なんて理不尽、兵器も同様。ましてやお前の能力なら尚のことだ」 怯える後藤に杏樹が口を挟む。 「私たちの組織に来い、なんていわない。私だって、正義の味方ヅラできる人間じゃない。 でも私たちはそんな理不尽から誰かを助けるために戦っているんだ」 「出来れば恐山に行ってはほしくないけど。後はあんたが決めていい」 綺沙羅がキーボードを叩きながら告げる。後藤に対するリベリスタの意見はほぼ統一されていた。『最終的には後藤の判断に任せる』……だ。前田という枷も取り払った。後は彼の人生だ。 そして、 「女性を守るどころか守らせる様な男が、君のような素敵な女性を幸福に出来るモノか」 泣きじゃくる中野に声をかける雷慈慟。 「自分なら君を守っても見せよう。だから、子を宿してはくれないか」 また雷慈慟の悪い癖が始まったか。彼を知るリベリスタはその様子に呆れて苦笑し、 「……私が素敵……本当? 本当に私を守ってくれるなら……よろしくお願いします」 顔を赤らめ雷慈慟の手を握り承諾する中野。その答えに驚き、声を上げる。 「OKなの!?」 「チョ、チョロすぎない!?」 「いや、待て子を宿すってあばばばばば!」 車内は一時騒然となっていた。 「依存症?」 「そうよ。あの中野って娘、男性に必要とされたいって言う気持ちが強いの。前田もそれを見抜いて『おまえが必要なんだ』って誘ったんじゃないかしら」 「はー。尽くす女なんですね。しかも前が見えていない系の」 恐山の車の中で、そんな会話があったと言う。 後日―― 前田の家の中に何者かが入り、PCデータだけを削除していくという事件があった。正確には事件にすらならないささやかな事。 後藤は結局どこの組織に入るでもなく、普通に生きる道を選んだ。アークもしばらく監視体制を取ってはいたが、問題なしと判断する。 不埒な教諭がいなくなり平和な学校に、今日も後藤は通っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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