●禍・厄・災・祅 場所は千葉県松戸市常盤平、二十一世紀公園市立博物館に『彼』はいた。 「かつて等々力雲厳の舎弟としてアークに見逃され、次には等々力黒影衆の一人としても見逃され、流れ流れて流れ着いたは屑籠集団」 手のひらを低く突きだし、彼は言う。 何の見世物だろうと、博物館に来ていた客たちがゆっくりと集まってくる。 「組織を壊され余所にも行けず、かき集めたるは珍獣珍人。馬男に笑い男、蛇女に蛸女」 覆面の下に笑顔の仮面をつけた彼は。 「あさあ、よってらっしゃい見てらっしゃい。お代は命の先払い」 周囲にいた全ての人間の首を一斉に切り落とし、小刀をひゅるりと回した。 「我ら――剣林興行隊」 一瞬で血の海と化した博物館。 彼はくるりと後ろを向く。 立方体のガラスケースに、蒔絵細工の施された美しい刀が納められている。 「おうおう『笑ノ面』! そいつがテメェの言った妖刀か! どおれ、この俺様が抜いてやろうではないか!」 のしのしと大股で、首から上が馬になった男が現われた。 肩には弥生時代風の剣を担ぎ、剣には達筆な文字で『金剛剣ノ馬頭親分』と書かれている。 「ま、待て! そのケースには触れるな!」 途端、数人の警備員が飛び出してくる。 彼らは腰から拳銃を抜き、馬面の男に乱射した。 日本の、それも博物館の警備員が銃で武装しているなど常識外れも甚だしいが、更に常識を外していたのは馬面男の方である。 「なんのぉ! 『醍味生相』!」 剣を振り上げ全身に気を漲らせる。するとどうしたことか、彼に命中した全ての弾がぱちぱちと弾かれていくではないか。 「アァラ、アンタ……エモノの独り占めはズルイじゃぁナイノサァ」 女の声がした。 耳障りな、鏡をひっかいたような声だ。 何事かと警備員たちが辺りを見回すと、天井から彼女がぬらりと垂れ下がってきた。 身体の下半分を蛇にした女である。頭の八割以上は包帯で覆い、身体の殆どは醜いやけどと傷跡にまみれていたが、その全てをさらけ出していた。 「ヒッ! ば、ばけ――!」 化け物。そう言おうとした筈だ。 だがその口は、銃口で塞がれていた。 誰の? そうだとも、自分の持っている拳銃でだ! 「『他殺幇助』ォ」 全ての引き金が引き絞られ、弾丸が放たれ、そして持ち主の中身がまき散らされた。 「ぐっふっふ、ざまぁかんかん! 俺様の邪魔をするからこうなる!」 馬面男はぐふぐふと笑いながらケースに近づき、触れようとしたところでその腕が止められた。 巨大なタコの足めいたものが腕に巻き付く形でである。 「何しやがる『蛸ノ面』!」 「お待ンなって『馬ノ面』の旦那。この妖刀、偽物でありんす」 「何――おのれぃ!」 額に青筋をたて、ケースごと剣で破壊する。すると、刀は激しい爆発を起こした。 外気に触れた瞬間自動で爆発するトラップが仕掛けられていたのだ。 『笑ノ面』は黒い布を翳して爆発を受け流し、『馬ノ面』は剣を翳して蛸と蛇の二人を庇った。そのうえノーダメージである。 「旦那ァ、いくらなんでも乱暴ですよぉ」 「フンッ! 俺様を欺いた者が悪いのだ! 『笑ノ面』、本物のありかは分かっておるのだろうな!」 「無論」 下を指さす『笑ノ面』。 「この地下に」 ●世界が滅ぶ刀 アークのブリーフィングルームに、あるリベリスタが招待されていた。 名を常盤平荘園。危険なアーティファクト『妖刀・厄』の保管と封印を担当している蒔絵師である。 「この方に来て頂いたのは、妖刀厄を狙って剣林が動き始めていることが発覚したからです」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は手短かに事件を説明した。 国内のとある博物館に四人組のフィクサードが乱入。 アーティファクトやキマイラ特殊技術に強化された彼らは、博物館の地下に封印されている妖刀を奪うべく来客や警備員を全て殺害するという。 する。つまり未来の出来事だ。 事前に博物館に入り、避難させることや待ち伏せをかけることもできるそうだ。 「荘園さんに来て頂いたのは他でもありません。妖刀厄のもつ能力について、聞いておく必要があるからです」 「ちゃんとお言いよ、『もしアークが失敗したらどうなるか』って言いたいんだろう?」 甚兵衛を着込んだ女、荘園。彼女はキセルをふかしながら椅子にしゃなりと腰掛けた。 「『厄』ってのは戦争のトリガーを引く刀さ。持っている奴は周囲のあらゆる人間から襲われるようになる。次第にそりゃあ所属してる組織に、町に、国にと発展して、最後にゃ第三次世界大戦になって地球をまっさらにしちまう寸法さ。まあつまり……」 キセルを加えたまま、荘園は『あなた』を見た。 「刀が抜かれりゃ、世界が滅ぶんだよ」 事件に関わるノーフェイスは四人。 『笑ノ面』、『馬ノ面』、『蛸ノ面』、『蛇ノ面』である。 彼らはそれぞれ特殊なアーティファクトや改造手術を受け、ノーフェイスの領域を遙かに凌駕している危険な存在だ。 「皆さん、油断はせずに、安全に任務を遂行してください。よろしくお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年11月28日(金)22:08 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●世界を滅ぼす刀 二十一世紀公園市立博物館、展示室。 豪華な蒔絵が施された刀を眺めながら、『不滅の剣』楠神 風斗(BNE001434)は表情を曇らせた。 「何を考えてこんなものを作ったんだ。もう刀の範疇を超えてるだろう……封印なんかせず、壊してしまいたいくらいだ」 「はあ、それってなんだか『核兵器は人類が持て余すから捨てるべき』って主張に似てますね」 風斗の後ろに立った『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が、目を細めながら言った。振り向く風斗。 「かもな。確かに、捨てるべきだろ」 「その主張をした人には必ずこう言ってあげるルールがあるんですよ。知ってます?」 「……なんだ」 あばたは目をそらし、何も無い壁を見た。 「『お先にどうぞ』」 あばたの視線の先。より厳密に言えば千里眼による透視先では、『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)と博物館の警備員が口論をしていた。 「へぇ、テロリストが来るから警備員もろとも消えろねぇ。おもしろいじゃないか、今度銀行で同じことを言ってみるよ」 「わっかんないかなあ。じゃあ上の人にアークが『最下層の用事』で来たって取り次いでもらえる?」 「……」 警備員はきっかり一秒だまり。いかにもわざとらしく笑った。 「この博物館の最下層はここ一階だけど? まあきみがアメリカ大統領やミッキーロークだったとしても聞く義理ないけどね」 「ロークが来たら聞いてやろうよ」 平行線を進む口論を見かねてか、『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)が間に割って入った。 「下がってろガンナー」 「だれがドルフラングレンか」 「いいか。まず俺の目を見ろ」 福松は魔眼を発動し……それから三分後。 「わかりました。全員避難させればいいんだな?」 「分かってるじゃねえかちびっ子」 小さく敬礼する警備員。 肩にグレランを担いでにやつく翔護。 「いや、お前は今何もしてなかったけどな」 福松はそう言って、AFを開いた。 仲間の通信を受け、リリウム・フェレンディア(BNE004970)は隣を見やった。緒形 腥(BNE004852)が絵画を眺めている。どう見ても人間の造形ではないが、E能力者界隈に珍しいほどではない。お風呂とか入りずらそうだな、くらいの感想である。 「避難はやってくれるらしい。非常ベルを押し損ねたな」 「ふうん、まあその方がいいだろ。しかしあの非常ベルのボタン、割と身近にあるのにいざ押すとなると力加減が分からないよなあ」 「その感覚はフュリエには分かりづらいが……身体がそうおかしくなるとボタンもなにもないんじゃないのか? まあなんでもいいが」 身も蓋もないことを言って、会話を踏みつぶすリリウムである。 二人は気まずそうに展示物を数分ほど眺め、ぽつりと漏らした。 「興行隊ってなんだろうな。ちんどん屋みたいなやつか」 「軽く調べたが、多分違うな。お笑い芸人か何かじゃないのか」 二人の言うどちらでもなく、より闇の深いものなのだが、現代を生きる三十代以前の人々は片鱗すら知らずに一生を終えそうなものだ。知らなくて当然である。非常ベルのボタンのようなもので、意外と身近にあるくせに触れることはない。 「剣林はそんな集団も抱えていたのか? もっとストイックな連中だと思っていたが」 「名乗っているだけで名簿にすら載っていないかもしれんぞう」 だがこれだけは、表の意味でも裏の意味でも、さらには社会的な意味でも、的を射た発現だった。 まあ誰とて、自分の家に足が前後逆についた子供が住んでいるなどとは言いたくはないものだ。 ●剣林興行隊 時間は流れて博物館前。 近隣の一般客の避難や封鎖をある程度終え、博物館はリベリスタだけになっていた。 そうとは知らずにやってきた剣林興行隊だが。 「あァ……アァァァアァア! いっ、いる! アイツらがいるゥゥウウウアアアアアア!」 『蛇ノ面』が左目をぐるぐると回しながら興奮し、博物館へと突っ込んでいった。 驚いて後を追う『馬ノ面』。 「な、なんだ!? おい待て、あいつらとはどういうことだ!」 博物館の扉を強制的に蹴破り、屋内へと転がり込む。 そして刀の展示室へと滑り込んでみれば……。 「おう、よく来たな」 福松が銃を構えて立っていた。 「ああアアああアあの時のオオオオオオオオオオオ! よこせえええ太陽よこせええええええええええええ!」 「あ? 何のことだ」 目を剥いて発狂する『蛇ノ面』。福松は無視して銃撃……するが、その弾は『馬ノ面』によって弾かれた。 「おちつけ! 妄言をやめるのだ『蛇ノ面』! 任務を思い出せ! 俺様たちは――」 金色の剣を構えた『馬ノ面』。その懐に風斗が強引に滑り込む。 「悪いが、お前が邪魔だ」 剣を強くスイング。『馬ノ面』はそれをノーダメージで受け止めたが、衝撃自体に耐えきれずに吹き飛ばされた。 「ぬおぉ!?」 「みんな死ね死ねェ! 『他殺幇助』ォ!」 風斗の頭を掴んで怒鳴りつける『蛇ノ面』。 その横をすり抜ける形でリリウムが『馬ノ面』に接敵した。 「ん? なんともないぞ。作戦通りこいつは私が押さえておく」 「ほいほい頼むね」 福松と一緒に『蛇ノ面』を挟む形で、翔護は銃を突きつけた。 「キャッシュからの、パニッシュ!」 引き金を引――く寸前、翔護の狙いが福松に向いた。 「うおっ!?」 頬をかすめていく銃弾。ざっくりと頬が避けた。 銃器を抱え上げるあばた。 「混乱にやられましたか。こまめに対策しないとやっぱりキツいですね。まあ今回は、根元から絶つ方向で」 レバーを握り込み、『蛇ノ面』に銃撃を連射。 『蛇ノ面』は身を守るすべをろくに心得ていないようで、顔をかばってみっともなくデスダンスを踊っていた。 「畳みかけてさっさと潰すかね」 腥は鋼鉄の腕を突き出し、一度引き絞り、『蛇ノ面』を殴りつけた。 「やめ、やめて! 顔はいやだよォ!」 『蛇ノ面』は顔を押さえながらばたばたとその場を転がった。 「全く何をやっているやら」 リリウムは味方の衝突を横目に見ながら、『馬ノ面』へと刀を繰り出した。 それを剣で受け止める『馬ノ面』。 「ぐぬう、そこをどけ!」 「どかしてみろ」 「なんだと、俺様に向かって!」 『馬ノ面』は鼻息荒く蹴りを繰り出すが、リリウムはそれを紙一重でかわしてしまった。 「当たりもせんぞ。やる気があるのか?」 「ぐ、ぐぬうううううう!」 首まで真っ赤にして歯ぎしりをする『馬ノ面』。 と、そこへ。 「旦那ァ、なにもあんたが行く必要はありゃあせんよ?」 『馬ノ面』の肩越しに顔だけ出す形で『蛸ノ面』が現われた。 リリウムたちからは分かりづらいが、この時点で『馬ノ面』たちのスペックは大幅に強化されている。 手招きをする『蛸ノ面』。 「蛇さん、ほぉれこっちこっち」 「いやぁ! いたい、いたい!」 『蛇ノ面』は顔を覆いながら『馬ノ面』のそばまで駆け寄り、その背後に隠れた。 「な――おい、楠神さん。またこいつをどかしてくれ」 「わかった、今すぐ……」 「否、貴殿の相手は自分でございやす」 いつのまにか天井に張り付いていた『笑ノ面』が風斗の前に降り立った。 翳した手のひらが顔の前で止まり、風斗も思わず足を止めてしまった。 「お久しぶりで。以前命を助けて頂いた黒影の者でございやす。あの時のご恩――仇で返させていただきやしょうや」 「あんた、やっぱり」 「みなまで言わず」 『笑ノ面』は抜いた小刀をひゅるりと回した。 常人にはまず見えない動きだが、この瞬間に彼は部屋中を駆け巡り、風斗を含む全員の首をかき切った。 が、まだ致命傷ではない。風斗は首をおさえて仲間を見た。 「これ以上はまずい、靖邦!」 「あっごめんSHOGO今休業中」 あばたに手首を縛られうつぶせ状態のSHOGOが、海老反りになって応えた。 「よりによってこんな時に!」 風斗は歯噛みし、状況の悪化を悟った。 解説をしておくべきかもしれない。 メンバーの都合からBSやHP回復のできないリベリスタたちの目標は、相手のBS及び回復担当であるところの『蛇ノ面』を真っ先に潰すことだった。 (BS対策に関してはジャガーノートやアンタッチャブル、絶対者属性や対混乱シードによって翔護以外の全員が完了状態にあるので除外してもよさそうだが) 逆に言えばこれができるかできないかで状況が大幅に変わることになる。 手段としては、まず風斗が盾役の『馬ノ面』をはじき飛ばすことで物理的にカバーを解除。その隙に『蛇ノ面』を集中攻撃で潰すというものである。 リリウムから『馬ノ面』への逆ブロックがあったとはいえ、『蛇ノ面』の通常移動距離より長く吹き飛ばせるわけではないので、毎ターン常に弾き続けるか全員を弾き続けるでもしない限りこの作戦は有効にならない。 そして今、風斗が『笑ノ面』に押さえ込まれたことで、引きはがし作戦は潰えたのである。 「仕方ない。攻撃目標を『笑ノ面』に変えて継続だ。いけるな!?」 「舐めるな。まあこちらは継続しておくがな」 リリウムはそう言って、『馬ノ面』と鍔迫り合いを続けていた。 『馬ノ面』は鼻息を荒くし、彼女をなんとか押しのけようと苦労しているのだが……身軽で尚且つ物理攻撃を完全にスルーできるリリウムとはかなり相性が悪かった。 一応、物理障壁をブレイクできるはできるが、その前に当たらないのだ。 「おのれ、一体どうすれば……!」 「死ねばいいんじゃないか?」 「馬鹿にしおってえええええ!」 体格差があるにもかかわらず一向に押し返せない『馬ノ面』。 が、リリウムとしても若干不安はあった。アル・シャンパーニュで攻撃しているが、全くといっていいほどダメージが通らないのだ。防御力の問題もあるが、彼の『醍味生相』が地味に効いているのだ。 その実態を『馬ノ面』は全く自覚していないようだが。 「こちらは任せて、そっちで手早くやっておいてくれ」 「SHOGO以外でね!」 海老反り姿勢でスマイルを送る翔護。 「まだその状態だったのか」 「解けるかどうかは五分五分なんだけどさ、解けたそばから執拗にかけてくるもんだから。俺だけのためにやってくれるってなんか贅沢だよね」 「そのたびに縛り上げるこっちの身にもなって欲しいですけどね」 垂らしていた気糸をしゅるりと戻すあばた。 「……」 高確率で翔護が、その半分程度の確立であばたの火力が味方から抜けることになる。 スピード型の『笑ノ面』を倒すのはそれもそれで厄介だが、命中力の高い今のメンバーなら苦労はしない。問題は相手の火力に耐えきれるかである。 「『条霊執行』」 「『浪人行』」 「あ痛っ! おっさんの身体デリケートなんだから、傷付けないでくれんかなあ!」 腥は切断された腕を横目に、飛んできた『笑ノ面』を蹴りつけた。 彼の蹴りはギリギリのところで命中。『笑ノ面』は地面を数度転がった後、すぐさま元の位置へと戻った。 「いつつ……」 フェイトを削って傷口を修復しているが、次の攻撃に耐えられる自信は無い。 だが無情にも次の斬撃は訪れた。 そこへ。 「緒形、ちょっと伏せてろ!」 福松が不意打ち気味に銃を乱射。 『笑ノ面』に付与されていた特殊な効果が引きはがされる。 「む!」 腥が首の皮一枚の所で耐えきり、一方の『笑ノ面』は彼の蹴りを小刀で受け止めていた。 「どうもな、おっさん助かっ――」 振り向こうとした腥の頭を、奇妙な矢が貫通した。 それきり沈黙し、うつ伏せに倒れる腥。 「よそ見は禁物でありんす、旦那ァ」 『馬ノ面』の後ろから『蛸ノ面』がボウガンを放ったのだ。 「次の標的はぁ……あのがちゃがちゃしたコでどうでしょ」 「ご随意に」 ボウガンの狙いがあばたに移る。 『笑ノ面』自体は部屋中の全員を斬り続けているので、やること自体は変わらない。 露骨に舌打ちするあばた。既にはらわたを露出し、本来なら一回死んでいてもおかしくない状態にあった。 「皆さん、ちょっと、先に言って置いていいですか?」 「なんだ急に」 「これ、馬から先に潰してたら勝てたかもですね。ごめんなさい」 「な――」 あばたは襲いかかる『笑ノ面』に対して全力で射撃。 空中で穴あきチーズと化す『笑ノ面』。その直後に、あばたの首を『蛸ノ面』の矢が貫通した。 血を吹き、崩れ落ちるあばた。 「……おい」 リリウムが、おそるおそるという具合で振り返った。 現在残っている味方戦力は、風斗、福松、リリウム、翔護。このうち翔護はひたすら行動不能にさせられ続けている。 対して敵戦力は『馬ノ面』『蛸ノ面』『蛇ノ面』。限定的な物理・神秘無効能力をもった馬と高い回復力の蛇、更に味方を大幅に強化している蛸という組み合わせである。 「ひ、ふ、み、よ……おや、おやおや」 『蛸ノ面』が指をさして彼らを数え、そして顎を上げた。 「そちらの『積み』でありんす」 「どうかな。今から馬ごとお前をたたきつぶせるぞ」 じりじりと近づいていく風斗。 一方『馬ノ面』は敵に囲まれるプレッシャーで大量の脂汗を流していた。 今は防御を固めるので精一杯である。 助けを求めるようにちらちらと『蛸ノ面』を見ていた。 頷く『蛸ノ面』。 「おたくは馬の旦那を倒せませんえ。醍味生相はダメージを通しませんし、仮にブレイクできたとしても蛇さんの回復が追いつきます。その間アタシは順番におたくらを撃ち殺していけます。わざと隠しているんでもない限り、おたくらに回復屋さんはおらんのでしょう?」 「……フ」 翔護は不敵に笑い、目を瞑っていた。 彼が目を開くと、ギラリと目が光る。 「たしかに言うとおりよね。こっちは火力はあるけど、無効化されたらしょうがない。でもどうかな。馬さんを楠神ちゃんが弾き続けて、俺たちが蛸ちゃん蛇ちゃんを順番にやっつけるって手があるよ?」 「お外でやるならともかく、屋内じゃあはじき飛ばすにも限度がありんす。馬の旦那だって馬鹿じゃあないもんで、そのくらいの機転は利かします。ねえ旦那」 「えっ?」 『馬ノ面』が素の返事をした。 みんなは聞かなかったことにした。 咳払いする『馬ノ面』。 「た、蛸の! 本当にそうなんだな!? 俺様の勝ちになるんだな!? はっ、はははははは! やったぞ、これで俺様はまた大将格だ! 大出世だ! そしてゆくゆくは剣林をも……」 「あいえ、こっちも積みでありんす」 「えっ?」 今度こそ『馬ノ面』は素の返事をした。 「蛇さんが逃げました」 後ろを指さす『蛸ノ面』。 『蛇ノ面』が奇声をあげながら博物館の外へと逃げ去っていくのが見えた。 「…………」 「…………」 『馬ノ面』は両手を挙げながらゆっくり下がり。 「おぼえておけよ!」 おきまりの台詞を吐いて回れ右。 「待てぇぇぇぇええ! 俺様を置いて逃げるな蛇のおおおおおおお!」 「まあ馬の旦那、早いはやい」 『蛸ノ面』と一緒に全力で遁走した。 残された四人は顔を見合わせ、ため息に近いなにかを吐いたのだった。 瞑目して不敵に笑う翔護。 「フッ、今回は作戦を少しばかり誤ったオレたちだけど……最後は覚悟の勝利、といったところかな」 「海老反りでそれを言われてもな」 「フッ……誰かほどいてこれ」 こうして、妖刀厄はアークによって守られた。 だが平和と安息は訪れては居ない。 神秘改造にまで手を出した剣林の行動。日本中で相次ぐ剣林による事件。 これらの行き着く先は、かつて首領の言った『最終決戦』を予感させるに充分なものであった。 その日は、刻一刻と近づいている。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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