●良と悪の妖精 真夜中の繁華街に火の手があがる。建物火災だ。騒ぎ立てる通行人や、火の元となったテナントの従業員が通りに飛び出しビルを見上げた。異常なほどに、火の勢いが強い。5階建てのビルは、あっという間に炎に包まれ、その炎の中に、小さな子どもの人影を見たものもいた。 その夜、その街では、火災や事故が頻発しているということを、その場にいた何人かは気付いていた。 火災現場へ急行しながら、ある消防団員は不可思議な光景を目の当たりにした。それは、小さな蛍のような光であった。ネオンライトの灯す光とは違う、自然的で優しい、淡い光だ。 消防車の行く先を、まるで導くように飛び回る。 その光は、火災の現場に到着するその瞬間まで、消防車の進行方向を瞬きながら、飛び回っていた。 事故や事件の現場で見られる、小さな黒い人影と、その場へ向かう消防車や救急車の進路に現れる、蛍のような光の粒。 前者は災いを、後者は希望を運ぶ妖精だ。 その街に住むある子どもは、住んでいるマンションのベランダから街を見下ろし「妖精さんが遊んでるよ」と叫んだという。 その子どもが言うには「妖精さんは全部で5人いて、悪い妖精さんが3人、良い妖精さんは2人しかいないの」とのことだ。 子どもの言うこと、とその子の両親はその話を気にも止めなかったようだが、事実、その夜、至る所で妖精は目撃されている。 その子の両親が、そのことを知るのは、事件から数日後のこと。 今より未来の話だった。 ● 妖精の尻尾 「どこかの誰かが思い描いた妖精像。Eフォースのようね。数は5体。偶然か、それとも発生源がその子なのか。街に住むある子どもの発言と妖精の特性は一致している」 その子は、妖精について何か知っているのかもしれないわね、なんて『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は呟いた。街で起こった火災や事件、事故は今の所4箇所。それら全ての現場で、妖精らしき、黒い子どもの影、が目撃されている。 その他、現場へ向かう消防隊員や警察官、救急隊員が蛍のような淡い燐光を見た、という数が3件。最初に起きた交通事故現場への道すがらのみ、蛍の光は目撃されていなかった。 「このことから、恐らく(良い妖精)は最初の事故現場で消防車、救急車、パトカーを確認、その後、事故現場にはそれらの車両を案内すれば被害を最小限にとどめてくれる、と学んだものと思われるわ」 良い妖精が姿を現すのは、良い人間の前だけ、というわけだ。 良い妖精とコンタクトを取ろうと思ったら、何かしらの方法を模索しなければならないだろう。 「悪い妖精を全滅させれば、良い妖精も消える。逆に、良い妖精が先に消えれば、悪い妖精の力は増す。表裏一体、とはいかないみたいね」 良い妖精は、恐らく悪い妖精の出現場所を察知する能力を持っているのだろう。悪い妖精を迅速に討伐しようと考えるなら、良い妖精の信用を得ることだ。 「街の被害は最小限に、迅速な妖精(悪)退治を慣行すること。それが今回の任務の内容ね」 方法は任せるわ。 そう言ってイヴは、仲間達を送り出す。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年11月30日(日)22:12 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●パニックシティ 真夜中の繁華街。パトカーや消防車、救急車のけたたましいサイレンの音と、人々の喧騒。コソコソと噂される、妖精の話。 曰く、今夜起きている不審な事件は、妖精の仕業である、という。 家事や交通事故の現場には、真っ黒い子供くらいの人影を見た、という者がいたのだ。 それだけではない。 パトカーや救急車を先導して飛ぶ、ほんの小さな光の粒を見た、という者もいる。 今夜の騒ぎが妖精の仕業だ……という噂は、僅かな時間で街中へと広まっていった。 ●妖精の影 警察官の制服を着込んだ1人のリベリスタが、マンションの屋上から街を見下ろしていた。街の各所からは、黒煙があがり、また赤いランプが点滅するのも見える。 街を見つめ、『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は千里眼を駆使して、広い街なかから、たった数体の妖精を探すべく視線を巡らせていた。 「やーん……。人がたくさんいる街中から、妖精を見つけるのは大変ですよう」 イスタルテだけでは、捜索に時間がかかると思ったのだろう。『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)をはじめとした3名は、それぞれ街の各所、特に事件、事故が起きたばかりの場所へ散開し、妖精の姿を探しているようだ。 あばたが向かったのは、交通事故の起きたばかりの現場であった。 「急いで! できるだけ遠くへ離れてください」 どうやら、この街に妖精は2種類いるらしい。片方は、事件や事故を誘発させる悪い妖精。もう片方は、警察や消防隊員の誘導を行う良い妖精の2体。こうして、警察の真似をして事件の解決に乗り出せば、良い妖精が目の前に姿を現してくれるのではないか、とそう考えたのだ。 幸い、警察は別の事件のことで手一杯でこの場にはまだ現れていない。 否、来れないでいるのだ。道中、頻発する事故や事件のせいで道が混雑しているせいで。 「他の仲間からの連絡もありませんし……もう少し、続けますか」 怪我をした老婆に手を貸しながら、あばたはそう呟いた。 「ねぇ、少し聞きたいんだけど、今夜の事件どう思う? 妖精の仕業って噂もあるみたいだけど?」 道の端に座りこむ女子大生達に声をかけ『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)は、事件についての情報収集を開始する。妖精の出現場所や条件に、何かしらの法則を見出せるのではないか、とそう考えたからだ。 「妖精さんへ。形ではなく心を見よっ、心を!」 なんて、小さく呟きながら麗香は聞きこみを続行するのだった。 警察官の制服を着込んだ、幼い少女が立っている。イスタルテのいるマンションの下、公園の一角だ。彼女の名は新井・でこ(BNE005052)。幼いながらも、立派なアーク所属のリベリスタである。 「正義の味方って気持ちがあれば、でこのところに良い妖精さんこないかしらっ? きてくれるといいなって思ってるの。でておいで! でこはここよ」 妖精の出現を願い、でこは空を見上げた。 その時だ……。 彼女の視界の端、マンションのベランダに小さな黒い人影が映った。 人影を見たその瞬間、でこが感じた不気味な感覚をなんと形容したものか。 悪い予感と、不幸が起きる確信。気付いた時にはAFを手にとり、イスタルテへと連絡を繋いでいた。 『マンションの4階。悪い妖精を発見したのっ!』 でこからの連絡を受け取ると同時、イスタルテは千里眼を自身の足元、マンションの4階へと向ける。なるほどそこには、ベランダから室内へ、そしてキッチンへと向かう子供サイズの真黒い影があった。恐らく、悪い妖精で間違いないだろう。 翼を広げ、イスタルテは手すりを乗り越え宙へと飛びだす。器用に、空気抵抗を受けながらバランスをとって、妖精の居た部屋のベランダへと飛び込んだ。 どうやら、部屋の住人は留守らしい。キッチンへ向かった妖精はガスの元栓に手をかけ、にやりと笑う。その真黒い顔には、真っ赤な口しか存在しない。 住人の留守を狙って、ガス爆発でも起こすつもりか。 不運を巻き起こす妖精だというから、恐らく、火種さえ用意できれば後は連鎖して、不幸な事件は拡大するのだ。 だとすると、厄介だ。ほんの僅かなガス漏れが、どれほどの被害になるのだろうか。 イスタルテが、妖精に銃口を向ける。 妖精は、壁を這うようにして部屋の入口へと逃げ出した。イスタルテの射撃攻撃を、すいすいと回避し、部屋のドアをすり抜け、廊下へと飛び出していく。 後を追ってイスタルテも廊下へ。くるり、と振り向き笑う悪妖精。 イスタルテが妖精へと銃口を向けたその瞬間、バチ、という音と共に廊下の電気が停電した。ご丁寧に、イスタルテの持参していた懐中電灯の明かりも消える。 運が悪い、といえばそれまでだ。しかし恐らく、この不運を招いたのは悪妖精だろう。 だが……。 「すばしっこいようですね。逃げようとする方向をよく見て、移動先を抑えるようにしてください!」 真暗闇の中、イスタルテが叫ぶ。暗視ゴーグルで若干の視界は確保できている。 廊下から、階段へ。 飛び出した妖精の眼前に、小さな影が躍り出た。 と、同時叩きつけるように振り下ろされた斧による一撃が妖精の片足を切断した。 「一般人の皆を巻き込まない様に気を付けないといけないものね」 くるり、と踵を返し斧の持ち主であるでこは駆けだす。それを追って、妖精も走る。どうやらでこに、怒りを付与され、彼女を追いかけることで頭が一杯になっているらしい。 階段を駆けおり、マンションから外に飛び出した。 その瞬間。 「てぁっ!」 下段から、掬い上げるような斧による一撃が妖精の身を、空へと弾き飛ばした。 空中でもがく妖精の眼前に、イスタルテが舞いおりる。 イスタルテの弾丸が、妖精の身体を撃ち抜いた。黒い影と化し、妖精の姿が掻き消える。 妖精が消滅する、その直前……。 傍らの電柱が根基からへし折れ、イスタルテの背に直撃した。 地面に落ちるイスタルテ。そこに駆け寄るのはでこである。そんな2人の目の前に、蛍のような小さな光が、ふわりふわりと漂って来た。 交通整備中に、蛍のような光を見つけ、あばたはそれを追って駆け出した。 蛍のような光。つまり、良い妖精だ。あばたを誘導するように、どこかへ向かって飛んでいる。 「これは、妖精の援護を期待していいのでしょうか?」 妖精の後を追いかけること、数分間。建物の屋根を駆け、路地裏を抜け、辿り着いたのは駅だった。あと数分もすれば、終電の電車が入ってくるだろう。 駅のホームに入る手前、線路の上に妖精が居た。 線路の上に石を置くだけの行為でも、場合によっては大惨事を引き起こす。それが、不幸を引き起こす妖精の手によるものであれば、その確率は更に増大するだろう。 良い妖精の案内で、事故が起こる前に現場に到着することが出来た。辺りは暗いが、幸い暗視のスキルで問題なく活動できる。銃を取り出し、その銃口を悪妖精に向ける。 あばたの周囲を、ふわりふわりと良い妖精が飛び合わる。応援でもしているのだろうか。 あばたが妖精目がけて弾丸を放った、その瞬間……。 「うむ~。何気に日頃秩序のために好き放題やってきたアークが善良な組織か否か試されてしまうではないですかっ! …………あ、えっ!?」 射線上に飛び出して来たのは、麗香であった。 あばたの放った弾丸を慌てて剣で弾き飛ばし、麗香はその場に倒れ込む。その隙に、悪い妖精は2人から距離を取るように後退する。きしし、と奇妙な笑い声をあげ、麗香を見てはにやりと笑った。 麗香の身に降りかかった不運。あばたの弾丸が命中する、という事態を引き起こしたのは恐らく悪い妖精の能力によるものだろう。 小さな事件や事故の影に隠れ、大きな事件や事故を引き起こす。自身の能力による不幸の連鎖を利用し、小さな事故が、大事故へと変わる可能性をあげるのだ。 「何と効果的な破壊工作でしょうか。姿も見せず原因も分からせず被害と混雑を引き起こしそれに紛れる。テロのお手本のようだ」 今のところ、街で起きている事件、事故では大した死傷者は出ていない。しかし、電車の脱線事故となれば話は別だ。明日の新聞の一面は、これで決まり、といった具合である。 あばたは、暗視を用いて妖精の後を追いかける。音もなく弾丸を放ち、威嚇射撃で進路を塞ぐ。 せっかく見つけたのだ、逃がすわけにはいかない。 あばたの射撃で、妖精が動きを止めたその隙に、今度は麗香が斬りかかる。鋭い一閃が、妖精の片手を切り裂いた。鮮血のかわりに噴き出したのは、煙のような黒い霧だ。 悲鳴をあげ、しかし妖精は地面を這うようにして線路の外へ。 それを追って、良い妖精の淡い光が宙を舞う。良い妖精に導かれるように、あばたと麗香は顔を見合わせ、駆け出した。 不幸を引き起こすこの妖精を、野放しにしてはおけない。 「チャンスは多くなさそうですから、最大単体火力が最適解」 全力疾走で距離を詰め、フェンスを乗り越えようとしていた妖精に向け弾丸を放つあばた。弾丸は、妖精の全身を射抜き、その身を地面へ叩き落す。しかし、不幸なことにフェンスに跳弾した何発かが跳ね返り、あばたの腹部や肩を撃ち抜いた。 予測しえない不運ほど、恐ろしく、そして逃れ難いものはない。 「逃げ足は速いですね。でも逃げる事はできないわ!」 地面に落ちた妖精の元へ、姿勢を低くし麗香が駆け寄る。逃れようと立ち上がる悪い妖精の足元を払い、こけさせたのは良い妖精だ。良い妖精の援護で生まれた一瞬の隙に、麗香の剣が滑り込む。 一閃。 吹き荒れる衝撃波が、悪い妖精を吹き飛ばし、その身を真っ二つに切り裂いた。 妖精は掻き消え、黒い煙と化して消滅。 勝利を喜ぶ暇もなく、あばたと麗香を導くように、良い妖精がふわりとどこかへ飛んで行く。 イスタルテとでこ。 あばたと麗香。 2組のリベリスタを、2体の良い妖精が導く先は、街の中心、ライトアップされた巨大な鉄塔。 鉄塔をよじ登る小さな人影を、通行人の何人かが目撃していた。 ●禍福は糾える縄の如く 不幸と幸福は表裏一体。不幸がなければ幸福は存在せず、幸福が存在せねば不幸も存在しない。 幸運な者がいれば、その傍らには不運な者も必ず居る。 良い妖精の導く先に、悪い妖精が存在しているのは当然と言える。 4人のリベリスタが、鉄塔の真下で合流する。お互いに、悪い妖精を1体ずつ撃破し、残す悪い妖精は1体のみだと確認しあった、その直後、ライトアップされていた鉄塔の明りが、一斉に消え去る。 「えっ!?」 と、戸惑いの声をあげたのは近くにいた通行人だった。 暗視ゴーグルを付けたリベリスタ4人には、鉄塔を登る悪い妖精の姿がハッキリと見えていた。 停電したのは鉄塔だけではない。周囲の建物の明りや街灯も、軒並み停電してしまっている。 「なるべく周囲に被害が出ないよう注意して攻撃してください!」 2体の良い妖精が、悪い妖精の周囲を飛び回る。急な停電に辺りの一般人は混乱し、誰も鉄塔付近を飛び回る良い妖精に気付いていないらしい。それならば、とイスタルテは翼を広げ、仲間達に翼の加護を付与した。 翼を広げ、飛び上がる4人。まずは、悪い妖精を人目につかない場所に追い出すことを優先すべきだと考え、まずでこが飛び出した。 「だいじょーぶ、でこがなんとかしてあげるわ! 良い妖精さんは知らせてくれてあんがとね? でこが来たからには皆の事護ってあげる!」 飛びまわる良い妖精に、大丈夫、と告げてでこは斧を振りかぶる。 身体の後ろから、真横に、野球のバットでも振るかのようなフルスイング。ガキン、と甲高い音をたて、鉄塔ごと悪い妖精を叩きのめした。 悪い妖精は、でこの斧に弾かれ遠くへと飛んで行く。それを追って残る3人も後を追う。でこもその後を追うべく翼を広げたその瞬間、彼女は気付いた。 自分の服の裾が、鉄塔に引っかかっていることに。そして、下を歩いていた一般人が、鉄塔に引っかかったでこの存在を発見したことに。 悪い妖精の残していった小さな不幸は、でこをその場に押し留め、戦線離脱を余儀なくさせたのであった。 戦線離脱したでこ以外の3人は、悪い妖精を追って地下街へと侵入していた。すでに営業時間の終わった地下街に人気はなく、そして真っ暗だった。 天井付近から懐中電灯で悪い妖精を照らすイスタルテ。その額から、一筋の血が流れる。1体目の悪い妖精を撃破した際、倒れてきた電柱にぶつかり、負った傷だ。 流れる血が目に入り、前を見ることができなくなる。 その隙に、悪い妖精が明りの下から暗闇へと逃げ出す。 僅かでも明りがなければ、暗視ゴーグルは機能しない。それならば……と、あばたは銃を構え、悪い妖精のいる辺りへと弾丸を叩きこんだ。 「ここなら一般人を巻き込みませんね。都合のいい」 弾丸と同時に、良い妖精が飛び出した。弾丸が地面を跳ね、火花を散らす。一瞬、暗闇の中に悪い妖精の姿が浮かび上がった。良い妖精の放つ淡い燐光も、視界の確保に一役買った。 一瞬でも姿が見えれば、十分だ。 麗香は一気に、悪い妖精との距離を詰め、一閃。居合い抜きの要領で、悪い妖精の身体を真っ二つに切り裂いた。 静寂は、一瞬。 悪い妖精の姿が掻き消えると同時、淡い燐光を放っていた良い妖精の姿も薄く、小さくなって、消えて行く。 禍福は糾える縄のごとし。表裏一体。 悪い妖精が消えれば、良い妖精も消える。 「これにて、一件落着ですね」 額から流れる血を拭い、イスタルテはそう呟いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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