● 超能力者なある少女 未来が見えることがあった。数分とか、数十秒とか、少し先の未来。 誰も彼女の話を信じなかった。それでいて、彼女の未来視が的中すると、誰もが彼女を気味悪がった。 直接触れずに物を動かすことができた。他人に見せれば、手品やペテンと馬鹿にされた。 その他、数メートル程度の瞬間移動や、壁一枚程度の透視。なんとなく相手の考えが読めたり、言葉にせずともこちらの声を他人に伝えることができたりと、彼女は自分が“超能力者”であることを自覚していたし、彼女の母親もそれを知っていた。 「サナ。超能力のことは、もう誰にも言ってはダメよ。使うのもダメ。もし未来が見えたりしても、それは忘れてしまいなさい」 彼女、サナの母は、何度目かの引っ越しの後に、彼女に対しそう言った。度重なるトラブルの後、母もサナも、疲れ果てていたのだ。だからサナは、その日以来、超能力を使うことはなかったし、見えてしまった未来を人に告げることもしなくなった。 母親が、強盗に刺されて殺される未来を見ても、サナはそれを黙っていた。 結果、サナの母親はサナの目の前で覆面を被った強盗によってナイフで刺し殺されることになる。 がたがたと震え、涙を流し、サナは何も出来なかった。 ただ、彼女はその未来を知っていたし、覆面の下の犯人の顔も見えていた。犯人が、母を刺し殺した際に、心の中で母と自分を口汚く罵っていたことも知っている。 その日から数年、サナは強盗の顔を忘れはしなかった。 そして今日、雨の降る寒い夜。 サナは偶然、その男と再開する。 出会ったのは偶然だった。母が殺されたあの日から、男の顔を忘れたことはなかった。しかし、復讐など考えていたわけではない。男は、母を殺した後、無抵抗のサナを放置し金品だけ奪って逃走した。顔を見られたわけでもない上に、震えるだけで悲鳴すら上げられないでいたサナなど、殺すだけ面倒だったのだろう。或いは、男なりに子どもを殺すことにためらいがあったのかもしれない。 最も、今となっては昔の話。 確かめようもない話だ。 男はすでに、ノーフェイスへと変容し、今日だけで3人の人間を、バラバラに解体し、殺害していたのだから。 数年前の面影を残したまま、しかし男はすでに人間を辞めていた。 白く濁った両の瞳に、サナの姿を映し、鋭い棘や刃の生えた腕で、彼女の細い首をつかみあげたのだ。 首の皮膚がざくざくと裂け、動脈をも切り裂いた。溢れる血と共に、意識が流れ落ちていく。体温が下がり、震えが止まらなくなるが、既に抵抗する力もない。 弄ぶように数度、サナの体中をズタズタに切り付け、興味を失ったようにその身を草むらへと投げ捨てた。 そのまま、ふらふらと男はどこかへ歩いていく。 きっとまた、新たな獲物を探しにいくのだろう。 薄れていく意識。サナはただ、死にたくない、とそう思った。 心臓の鼓動が弱くなる。ゆっくりと目を閉じ、意識が途切れるその直前、サナの未来視に映り込んだのは、血を吐きながらも男を追いかける自分の姿であった。 男は、両腕に棘と刃を備えた怪物のような姿。 相対するサナの体は、下半身が薄く透き通り消え掛かっていた。 まるで、映画か漫画のワンシーンのようだ。怪物VS怪物、と言った所か。 くすり、と小さく微笑んで、サナはゆっくり眠りについた。 最期の瞬間、このまま死ぬなら、せめて母の復讐をしたかった、なんて、そう思いながら。 こうしてサナは、ノーフェイスとして覚醒することになる。 既に死んだ、ある超能力少女の、終わりの後に続く、おまけのような復讐劇だ。 ● サイコロードリベンジャー 「ノーフェイスと化した少女(サナ)と、同じくノーフェイスと化した殺人鬼(ヘッジホッグ)の2体が今回のターゲット」 どちらも危険な存在で、おまけにお互いに敵意を剥き出しにしている。放置しておけば、少なくとも片方は倒れ、運が良ければ相打ちも狙えるだろうか、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は考える。 しかし、もちろんその作戦には問題点も多い。 「どちらも現状、自我が曖昧で、手当たり次第に人間を襲う可能性が高いということ。特に(ヘッジホッグ)はその症例が顕著ね」 一方で、ヘッジホッグを付け狙う(サナ)に関しては幾分状態はマシだと言える。サナの狙いは、あくまで自身と母を殺したヘッジホッグへの復讐だ。 「サナの未来予知と透視、瞬間移動によってヘッジホッグの居場所はすでに見つけられていることでしょうね。その道中、一般人が居た場合にサナが危害を加えないとも限らない」 一般人にその意思がなくとも、サナが邪魔だと感じれば、それだけでサナの攻撃の対象になる可能性も高い。1度命を失っていることもあり、サナは現状、焦っているようだ。 「また、触れずに物を動かしたり破壊したりするサイコパワーの他に、今まで使えなかった(パイロキネシス)、つまりは発火現状も扱えるようになっている。その他の能力も軒並み強化されているから、油断は禁物」 注意すべきは、サナだけではない。ヘッジホッグもまた、殺傷能力の高い攻撃を繰り出すノーフェイスだ。 その2体が、もし街中で遭遇した場合、周囲にいる一般人や家屋はその戦闘に巻き込まれてしまうだろう。 不用意な犠牲者は、極力減らしていきたい。 もちろん、すでにヘッジホッグに殺害された一般人はどうすることもできないが、これ以上の被害者は出したくない、というのがイヴの考えだった。 「公園だとか、倉庫街だとか、高架下だとか、学校のグラウンドだとか、人気のない施設は探せば見つかる筈。できるだけ、そういう場所に引き込んで戦闘するのがいいかもしれない」 任せるけどね、とイヴは言う。 一般人を巻き込まないのであれば、スピード重視で街中での戦闘を開始しても構わない。 なにはともあれ、ターゲット2体の殲滅が今回の任務の内容だ。 「逃走には気をつけて」 そう言ってイヴは、仲間達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年11月29日(土)22:00 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●殺人鬼と復讐者 都心部から少し離れた、山の麓の小さな街。光の届かない区画も多く、薄暗い場所も多い。その街ではその日、いくつかの惨殺死体が発見されている。全身を刃物で突き刺され、ズタズタに引き裂かれた、血塗れの死体だ。 そして、死体のある現場に現れる、血濡れた少女の噂も、時を同じくして加速度的に街へ広まっていった。 それらの原因が、神秘を得て覚醒したノーフェイス(ヘッジホッグ)と(サナ)の仕業だということを、知るものは少ない。 彼と彼女は、ある殺人者の成れの果てと、その男に母親を殺された悲しい超能力者の少女だ。 ●傷だらけ 街の一角、空を見上げて『モ女メガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)がギリリと奥歯を噛みしめる。 金色の髪を風になびかせ、決意を秘めた眼差しでどこか遠くを見つめている。 「ノーフェイスということは……倒すしか、ないんですね」 千里眼を駆使し、ヘッジホッグやサナを探す。サナの目的は、ヘッジホッグの殺害だが、ヘッジホッグの目的は、恐らく無作為の殺人だ。 これ以上の凶行を、許す分けにはいかず……。 そして、サナの悲しみをこれ以上長引かせるわけにもいかない。 だから……。 一刻も早く、ターゲットの位置を見つけるのだと、街を見渡し、そう呟いた。 「未来を知る能力があったのに未来を変えようとしなかった女ね……。子供の頃の刷り込みがあったとはいえ、人生流されるだけされるがままとか情けない」 溜め息をひとつ。『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は、イスタルテの後ろについて歩きながらそう呟いた。誰に向けた言葉でもない。強いて言うなら、今この場にはいない、ノーフェイス(サナ)に対して、告げた言葉だろうか。 恐らく、今歩いている道をサナが通ったのだろう。 恨みと、そして強い悲しみの感情を綺沙羅は感じていた。 「約束を律儀に守って死に絶える。救いようがありませんね」 街の外れに、小さな空き地を発見した『影人マイスター』赤禰 諭(BNE004571)はそこを覗きこみ、否、と首を横に振る。サナやヘッジホッグを発見した場合、街中で戦闘を開始すると無関係の一般人を巻き込み、無用な犠牲者を増やしかねない。 それを危惧して、戦場の選定を行っているのだ。もっとも、今のところ、それに適した場所は発見できていない。召喚した影人にも捜索させているが、成果は上がっていないようだ。 「まぁ、もう一人の殺人鬼よりは遙かにマシですが」 「人を呪えば穴ふたつか。サナのほうはかわいそうな気もするがこれも運命だな」 腰の剣に手を伸ばし『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)は、視線をまっすぐ正面へ。血の臭いが濃くなってきた。 近くに、死体か、血を大量に浴びた者が居る。 戦闘開始の時は近い。 麗香以外の仲間達も、各々、戦闘の用意を整えた。 「見つけました」 と、イスタルテは言う。 彼女の視線は、正面に立つ8階建てのマンションの上へと向けられていた。 そのマンションの外階段の途中、ふらふらとした足取りで上階へと昇っていく、血濡れたサナの姿が見える。 イスタルテは、人目が気になり、空を飛ぶことができないでいた。4人で、サナの後を追うように階段を駆け上がるリベリスタ達のいく先には、サナと、それからヘッジホッグが対峙していることをイスタルテの千里眼は捉えている。 こちらの接近も、恐らくサナには気付かれているはずだ。彼女のもつ未来視の能力に、リベリスタの乱入が見えていないとは思えない。 しかし……。 「倉庫街や公園など近くにある人気の無い場所へと誘い出します」 その為にはまず、サナとヘッジホッグをこのマンションから外に誘き出す必要がある。 手間がかかりそうだ、と溜め息を零し、一行は階段を駆け上がる速度をあげた。 4人が屋上に辿り着くと同時、視界一杯に飛び込んできたのは無数の赤い燐光であった。 先頭を走っていた麗香が足を止めた、その瞬間、燐光は一斉に火炎の塊となって燃えあがる。目の前が真っ赤に染まり、強烈な熱風が吹き荒れた。 「きゃあ!」 熱風に煽られ、綺沙羅は階段を滑り落ちる。 剣を構えた麗香の真横を、黒い影が駆け抜けて行った。 「……今のは?」 熱風から顔を守りながら、背後を振り返る諭の視界に、背中から無数の棘を生やした怪物のような男の姿が映る。ヘッジホッグだ。恐らく、サナとの交戦中に、戦場だった屋上が燃やされ逃げ出したのだろう。 視界を埋め尽くす火炎の海は、サナのパイロキネシスによるものだ。 業火のカーテンの先に佇む、少女の影が見えた気がした。 階段の踊り場に倒れ込んだ綺沙羅の頭上から、全身棘だらけの奇妙な男が飛び降りてきた。ヘッジホッグだ。その身は焼け焦げ、そして血に濡れていた。 不気味な唸り声を上げながら、ヘッジホッグは綺沙羅へと襲い掛かる。サナの猛攻から逃げ出して来たのだろうが、道中に見つけた綺沙羅という絶好の標的を、見過ごすことは出来なかったらしい。 自身の命より、他者を傷つけることを優先する。理性を失ったヘッジホッグには、殺意しか残されていないようだ。 綺沙羅の両腕を、ヘッジホッグが抑え込む。 「……っ!?」 ヘッジホッグの掌から飛び出した棘が、綺沙羅の手首に突き刺さる。痛みに顔をしかめながらも、綺沙羅はヘッジホッグの胴を蹴り飛ばした。 バランスを崩したヘッジホッグの背後に、麗香が迫る。 「狂気にみちた怪物には攻撃してくるような”生きのいい奴”のほうがいいでしょう!」 ヘッジホッグの首に迫る、剣による一閃。しかし、ヘッジホッグは片腕を掲げることでその一撃を防ぐ。ヘッジホッグの腕に生えた棘が欠けるが、しかし麗香の剣はその身を切り裂くことはできなかった。 「人気の無い場所へ誘い出します」 麗香の作った僅かな隙を突き、綺沙羅は一枚の式符を放つ。綺沙羅の放った式符は鴉に変じ、ヘッジホッグの後頭部へと襲いかかった。ぎろり、とヘッジホッグは綺沙羅を見据え、拳を振り上げる。手首から、鋭く、長い棘が飛び出し、月光を反射した。 ヘッジホッグの拳が綺沙羅を襲うよりも速く、綺沙羅は階段の手すりを乗り越え、空中へと飛びだす。空中に身投げした綺沙羅を追って、ヘッジホッグも宙へと飛びだす。 マンションの壁面に棘で張り付き、落下する綺沙羅を追って降りて行く。 その時、落下する綺沙羅の背に、光の粒子が集中し翼を形作った。 「最短距離で、人気の無い場所へ向かいます!」 飛び降りた綺沙羅に翼の加護を使用したのはイスタルテだ。麗香を抱え、イスタルテも空へと舞い上がる。ヘッジホッグは、怒り心頭といった様子で綺沙羅の後を追いかけている。 マンションの住人たちが騒ぎを聞きつけ外に出てくる気配はない。部屋のドアを、外から影人が押さえつけているからだ。 「一般人が近付いてこないように警戒してください」 式神とファミリア―の塀用で、上空から進路を案内するのは諭である。他の3人より僅かに遅れ、彼もまた屋上から空へと身を躍らせた。いつの間にか、屋上を飲み込んでいた火炎は消えている。それと同時に、サナの姿も見失った。 テレポート。サナの持つ超能力の1つだ。恐らく、階下にでも移動したのだろうが、諭は奇妙な胸騒ぎを感じていた。 とはいえ、ヘッジホッグをこのまま放置しておくわけにはいかない。サナの目的がヘッジホッグだというのなら、いずれ、追いついてくるはずだ。 ヘッジホッグの討伐を優先し、諭は仲間の後を追う。 工場地帯の駐車場に着地したイスタルテの背後から、ヘッジホッグが体当たりを慣行する。全身から突き出した無数の棘が、イスタルテの身体を貫いた。 口の端から血が零れる。 「サナさんは……まだ現れませんか」 振り向き様に、魔弾を撃ってヘッジホッグを牽制。自身や仲間に回復術を使用する。飛び散った燐光が身体を包み、その傷を回復させる。 魔弾を回避したヘッジホッグが後退。リベリスタから距離を取る。駐車場の入口を振り返ったヘッジホッグの視界に映るのは、逃げ道を塞ぐ無数の影人とそれを指揮する諭の姿だった。 式符を構える綺沙羅と入れ替わるように、イスタルテは後退。後衛で回復役に回る心算だ。綺沙羅の放った式符が鴉に変じる。鴉と同時に、剣を下段に構えた麗香が駆け出す。 襲いかかってくる鴉をヘッジホッグが棘で貫く。 それと同時、麗香の剣がヘッジホッグの肩を刺し貫いた。斬撃は、棘に阻まれ届きにくい。というのなら、刺突ならば、と考えたのだ。 「魔をするやつはいない……さあ心行くまで戦おうか!」 駆ける勢いそのままに、麗香はヘッジホッグの身体を弾き飛ばした。 麗香とヘッジホッグの斬り合いを、離れた位置から身守る諭。その背後に、突如として人の気配が現れる。テレポートだろうか。現れたのはサナだった。 「有り触れた悲劇でご愁傷様です。ああ、恨み言を徒然と言いたいならば聞いて差し上げましょう」 重火器を構えながら、諭は言う。しかし、サナからの返事はない。その濁った瞳に映るのは、親と自身の敵であるヘッジホッグの姿だけだ。 「あんただけで奴を倒すのは難しい。未来が見えるなら分かるでしょ? なら、目的が同じ内は協力しない?」 サナの登場に気付いた綺沙羅が近づき、声をかける。 サナは答えず、次の瞬間には、駐車場の真ん中に瞬間移動していた。 ひとまず、リベリスタに対し攻撃を加えるつもりはないようだ。 サナが腕を振り回す。それに合わせ、見えない何かに掴みあげられた影人が宙を舞う。サナの念動力。持ち上げた影人を、斬り結ぶ麗香とヘッジホッグの頭上へと叩きつける。 影人は、地面に叩きつけられ消滅。ヘッジホッグと麗香もノーダメージとはいかない。動きを止め、サナへと視線を向けたヘッジホッグの眼前で、火炎柱が上がる。 身体の全面が焼け焦げたまま、ヘッジホッグはサナに襲いかかった。ヘッジホッグの振り回した拳が、サナの胸から首を切り裂いた。溢れる血液。しかし、サナは悲鳴をあげることすらしないまま、念動力でヘッジホッグの身体を掴んだ。 サナの念動力で宙へと持ち上げられながら、ヘッジホッグはサナの首を掴む。 ギシ、とサナの首の骨が軋む。口の端から血が零れた。 時間が停止したかのような感覚。ヘッジホッグの身体が軋む。サナの首が悲鳴をあげる。 と、その時……。 「仇討ができるなら満足? 終わったら、成仏して貰うよ」 綺沙羅の投げた光弾が、サナとヘッジホッグの眼前で弾けた。強力な光が、周囲を真白く染め上げる。2人は目を焼かれ、その場に膝を突く。 「恨みは晴れたか? では親の元へ報告にいくがいい」 隙を突き、駆け込んだ麗香の剣がヘッジホッグの胸を切り裂いた。サナの火炎に焼かれ、棘が弱くなっていた部分だ。返す刀で、サナの胸をも斬りつける。 飛び散る鮮血は、誰のものか。 麗香の剣がヘッジホッグを切り裂くと同時、ヘッジホッグの全身の棘が、先ほどの何倍も伸び、麗香の腹部を貫いたのだ。 月明りの中、鮮血が視界を真っ赤に染めた。 それに混じるように、サナの放った火の粉が舞っていた……。 ●復讐 麗香のダメージが限界に近い。そう判断し、イスタルテは翼を広げる。低空飛行で宙を飛び、麗香の救出に迫る……が、しかしその時。 サナの業火が駐車場を埋め尽くした。 「そんな……」 着地し、火炎の中を見据えるイスタルテ。3人の影が、火炎の中に消え失せた。 皮膚の焦げる、独特の異臭。飲まれれば最後、骨まで残らないのではないかと思わせる業火。 その中から、よろよろと……。 全身に火傷を負った麗香が歩み出てくる。 「綺麗さっぱり焼きましょう。疎んでいた力も何もかも消えてしまえば一緒でしょう」 イスタルテの視線の先で、諭が式符を取り出すのが見えた。放たれた式符は火炎の鳥へと姿を変じる。麗香が火炎中から脱出したのを確認し、ヘッジホッグとサナにトドメをさす気だ。 イスタルテは、翼を広げ急加速。意識を失って倒れそうになる麗香を抱きかかえ、全速力で戦場を離脱。それと同時、背後で火炎が勢いを増す。 爆風。吹き荒れる熱風が、イスタルテを吹き飛ばす。 火炎が消えるまで、数十秒。 立っていたのは、サナだけだった。全身に火傷を負いながら、足元に倒れたヘッジホッグを虚ろな眼差しで見つめている。 荒い呼吸を繰り返し、サナはぴたりと動きを止めたまま……。 やがて、ゆっくりとリベリスタ達を振り返る。 その眼に、感情の色は窺えない。 サナの眼前に、イスタルテが歩みよる。綺沙羅は、意識不明の麗香を抱え、後退。影人と共に重火器を構えた諭が、銃口を向ける。 イスタルテは、フィンガーバレットをサナの額へ突きつけた。 サナは動かない。 「どうか天国で、お母さんと安らかに……」 ぼろぼろと涙を零しながら、イスタルテは弾丸を撃ち出す。 イスタルテの放った弾丸は、サナの額を撃ち抜いた。大きく仰け反り、サナはその場に倒れ伏す。 命を失うその直前、サナは静かに、涙を流して微笑んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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