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Blood is thicker than water.(血は水よりも濃い)

●Blood is thicker than water.(血は水よりも濃い)
 ――英語のことわざ
 
●スリーピング・ガール・ウェイト・フォー・セーバー
 
 2014 11月 某日 某時刻 某所

「彼が」
「捕縛されても」
「人質として」
「使えるのだから」
「この娘も」
「割と」
「利用価値が」
「あるという」
「ものね」
「もし彼が」
「口を割ったら」
「困るのだから」
 
 とある建物の一室。
 小奇麗な内装と調度品が誂えられた部屋で双子の女性が言葉を交わす。
 互いに細切れにした言葉を分け合うように喋る彼女達のいでたちはチャイナドレス。
 一方がゴールド、一方がメタリックグリーンという違いこそあるものの、それ以外はまったく同じ仕立てだ。
 
 双子だけあって顔立ちはまさに瓜二つ。
 衣服、そして同色のアイシャドウでかろうじて見分けがつく程度だ。
 
 その二人が見下ろすのはベッドに横たわる黒髪の少女。
 微動だにせず眠る彼女を見ながら、双子は頷き合う。
 
『キュレーターズ・ギルド』
 ――それが彼女達の属する組織の名前だ。
 アーティファクトや場合によってはアザーバイドも含む珍品の収集を目的とするフィクサードの組織。
 
 かつてこの組織の構成員は幾度となくアークと交戦し、何人ものフィクサードが捕縛された。
 そうしたフィクサードの中に、三宅令児という男がいた。
 
 彼は、眠り続けている妹を目覚めさせる為に必要なアーティファクトを求めて『キュレーターズ・ギルド』に身を置き。
 探索の果てに、求めていたアーティファクトを手に入れた。
 
 だが、彼の妹が快気するということは、組織にとって彼への命令を聞かせる為の人質を失うことを意味する。
 ゆえに組織は、妹の身柄を隠し、それを盾に令児へと無謀な命令を出す。
 そして彼はアークへと無謀な戦いを挑み、戦いの末に捕縛された。
 
 その妹こそがベッドに横たわるこの少女――三宅静である。
 
 捕縛された後の取り調べで令児が口を割らぬ為の人質として押さえていた静の身柄。
 その移送が今から行われようとしていた。
 
 件の双子――メイフォンとメイレイはもう一度頷き合うと、二人で静の身体を持ち上げる。
 そして、ベッドの横に置かれていた白色で等身大の筒――カプセルのようなものへと静を入れた。
 
 予め台車に乗せられていたおかげで、カプセルはスムーズに部屋の外へと運び出される。
 台車を押す双子は、階下へと降り、待っていたトラックへと歩み寄っていった――。
 
●ア・“インポータント・シング”
 
 同日 アーク ブリーフィングルーム

「みんな、集まってくれてありがとう」
 アークのブリーフィングルームにて、真白イヴはリベリスタたちに告げた。
「今回の依頼は『キュレーターズ・ギルド』が絡んでいるの」
 
 そう前置きし、イヴはリベリスタ達に告げる。
 
「今から数時間後。キュレーターズ・ギルドが保有している重要物件の移送を行う……その情報が入ったの」
 リベリスタ達にそう語ると、イヴはあえて一拍の間を置いた。
「……情報を提供してきたのは、『キュレーターズ・ギルド』の一員。そのフィクサード曰く、『内部告発』のようなもの……らしい」

 驚くリベリスタたちに、イヴは更に告げる。
「もちろん、予知と諜報部の力で裏は取った。その結果、どうやら罠じゃないみたい」
 コンソールを操作するイヴ。
「重要物件を積んだトラックが通る場所はここ。そして、これがそのトラック」
 イヴの言葉に合わせ、モニターには地図が全面、トラックがワイプでそれぞれ映し出される。
 次いでモニターに映し出されたのは、色違いのチャイナドレスを纏う妙齢の双子だ。

「護衛に着いているのは、この二人――李美風と李美雷。彼女達は双子のフィクサードでそれぞれ風使いと雷使いの能力者。E・エレメントを生み出し、使役するアーティファクト――『力あるもののタッツァ』を所持しているから気を付けて」
 イヴは双子フィクサードの画像を出し、手早く説明していく。

 そして、イヴはリベリスタたち一人一人の目をしっかりと見据え、ゆっくりと画像を切り替える。
 映し出された画像は、双子が移送しようとしている重要物件。
 その中身、もとい姿だった。

 ――瞳を閉じて横たわる黒髪の少女。
 その画像をリベリスタ達はじっと見つめる。
 リベリスタ達全員が画像を見終えるのを待ち、イヴは静かに言う。

「この情報をアークに送ったフィクサードは「この『宝物』をキュレーターズ・ギルドが持ち続けているのが気に入らない。なによりこの『宝物』には何の罪も無い。だから教えたまでだよ」――そう、言ってた」
 その言葉に頷くリベリスタ達。
 彼等に向けて、イヴもまた頷き、言葉をかけた。
「フィクサードの企みを阻止する為にはもちろん、もしみんなさえよければ、この『宝物』を助け出す為にも力を貸して。この『宝物』には何の罪も無いもの。だから――お願い」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:常盤イツキ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年12月02日(火)22:29
 こんにちは。STの常盤イツキです。
 今回も皆様に楽しんでいただけますよう、力一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。

●情報まとめ
 舞台は関東某所。
 
 敵はフィクサードが二人と、彼女達が使役するE・エレメントが10体。
 
 敵のスペックとスキルは以下の通り。

・スペック

『李美風(リ=メイフォン)』
 そこそこの強さを持つフィクサードです。
 双子のフィクサードの片割れで姉の方。
 風使いの異能を用いて戦う他、『力ある者のタッツァ』でE・エレメントを生み出します。
 
・スキル

『風々虎々(フォンフォンフーフー)』
 任意発動(A)自
 美風が指輪の形をしたアーティファクト『力ある者のタッツァ』を長年使用し、引き出した能力です。
 E・エレメント――『風虎』を精製します。
 彼女は『力ある者のタッツァ』を右手の五指に一つずつ装備。
『風虎』は同時に五体を精製可能。
 一方、精製には異能の力のチャージが必要な為、精製できるのは『風虎』一体につき1シナリオ1体です。

『風々打々(フォンフォンダァダァ)』
 神近単
 異能の力で生み出した風を近距離で直接叩き付ける攻撃です。
 射程は短い分、威力と命中精度は高めです。
 一定確率でノックバックの効果が発動します。
 
『風々射々(フォンフォンスァスァ)』
 神遠単
 異能の力で生み出した風を発射する攻撃です。
 一定確率でノックバックの効果が発動します。

・スペック
『李美雷(リ=メイレイ)』
 そこそこの強さを持つフィクサードです。
 双子のフィクサードの片割れで妹の方。
 雷使いの異能を用いて戦う他、『力ある者のタッツァ』でE・エレメントを生み出します。

・スキル

『雷々龍々(レイレイロンロン)』
 任意発動(A)自
 美雷が指輪の形をしたアーティファクト『力ある者のタッツァ』を長年使用し、引き出した能力です。
 E・エレメント――『雷龍』を精製します。
 彼女は『力ある者のタッツァ』を左手の五指に一つずつ装備。
『雷龍』は同時に五体を精製可能。
 一方、精製には異能の力のチャージが必要な為、精製できるのは『雷龍』一体につき1シナリオ1体です。

『雷々打々(レイレイダァダァ)』
 神近単
 異能の力で生み出した雷を近距離で直接叩き付ける攻撃です。
 射程は短い分、威力と命中精度は高めです。
 一定確率で感電のバッドステータスが発動します。
 
『雷々射々(レイレイスァスァ)』
 神遠単
 異能の力で生み出した雷を発射する攻撃です。
 一定確率で感電のバッドステータスが発動します。

・スペック

『風虎』
 そこそこの強さを持つE・エレメントです。
 風の身体を持つ虎という姿をしています。
 
・スキル

『風々斬々(フォンフォンジャンジャン)』
 神近単
 風の爪で斬りつける攻撃です。
 一定確率でノックバックの効果が発動します。
 
・スペック

『雷龍』
 そこそこの強さを持つE・エレメントです。
 雷の身体を持つ龍という姿をしています。
 
・スキル

『雷々斬々(レイレイジャンジャン)』
 神近単
 雷の爪で斬りつける攻撃です。
 一定確率で感電のバッドステータスが発動します。
 
・スペック
『重要物件』
 キュレーターズ・ギルドが移送しようとしている何かです。
 人一人が入るほどの大きなカプセルに入っています。
 現在、トラックで移送中です。

●シナリオ解説
 今回の任務はとある『重要物件』の強奪です。
『重要物件』を確保し、無事アーク本部へと持ち帰ることができれば美風・美雷姉妹を倒さずともシナリオクリアとなります。
 ただし、美風・美雷姉妹は『重要物件』の移送が不可能と判断した場合、せめて中身を始末しようとします。
 上記の行動や、それ以外のアクシデント等で中身に『もしもの事』があった場合は失敗となりますのでご注意ください。

 今回のシナリオも、クリア条件を満たす方法は一つではありません。
 リプレイを面白くしてくれるアイディアは大歓迎ですので、積極的に採用する方針ですから、ここで提示した方法以外にも何か良いアイディアがあれば、積極的に出してください。一緒にリプレイを面白くしましょう!
 今回も厄介な相手が出てくる依頼ですが、ガンバってみてください。
 皆様に楽しんでいただけるよう、私も力一杯頑張りますので、よろしくお願いします。

 常盤イツキ
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ジーニアスソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
アークエンジェインヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
アウトサイドナイトクリーク
★MVP
リル・リトル・リトル(BNE001146)
ハイジーニアスホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ギガントフレームホーリーメイガス
如月・真人(BNE003358)
ギガントフレームマグメイガス
シエナ・ローリエ(BNE004839)


 停車したトラックへと疾風のごとし速さで取りついた『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)は愛刀『黒曜』を抜き放ち、一閃する。
 一太刀でコンテナの鍵は斬り飛ばされ、勢い良く開く扉。
 その向こうへと、舞姫は躊躇なく飛び込み――。
 
 風の唸り声と雷の弾ける音が響き渡ったのは全くの同時。
 何かに押し戻されるようにして、コンテナからはじき出される舞姫。
 
「舞姫ッ!」
 咄嗟に駆け寄ろうとする『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)。
 それを『足らずの』晦 烏(BNE002858)が制止する。
「ガーネット君、待ちたまえよ」
「烏さん……!?」
「帯電していて危険だ。もっとも、幸い、一時的なもののようだがね」
 烏の言う通り、青白く光っていた舞姫の体表だが、それもすぐに元通りになる。
「舞姫! 大丈夫か!」
 安全を確認するや否や、すぐに駆け寄るエルヴィン。
 そのまま彼は、異能の力で舞姫の傷を癒す。
 
 二人を庇うように立ち、烏は冷静に呟く。
「さて、敵さんはおじさん達とやる気満々のようだよ。とはいえ、それはおじさん達も同じだからね」
「ああ! 三宅令児が命を、全てをかけて目覚めさせようとしてきた眠り姫。ようやく奪い返すチャンスがめぐって来たみたいだな! 同じ妹を持つ兄として、黙って見ては居られない。絶対に助け出してやるさ!」
 
 烏とエルヴィンがそう言い終えた直後、二人の女性がコンテナの奥から歩み出てくる。
 顔も服も同じ。
 違うものといえば、服とアイシャドウの色だけ。
 そんな彼女達――メイフォンとメイレイの周囲には、既に風の虎と雷の龍が控えている。
 
「どうやら」
「積み荷を」
「狙ってきたようね」
「どうして」
「情報が」
「漏れたのかは」
「後で調べるとして」
「今は――」
 
 言葉を分け合うような独特の喋り方をしながら、双子は烏達を見つめる。
 
「「――あなた達を始末するわ」」
 
 すると、彼女達に対抗するように、烏の後ろから二人のリベリスタが歩み出る。
 一人は青年、もう一人は少女。
『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)と『小さな侵食者』リル・リトル・リトル(BNE001146)だ。
「なあ、烏さん――」
 夏栖斗は烏をちらりと見やり、問いかける。
「ん?」
「内部告発してきたのは来人、かな?」
「だろうね。おじさんも、彼のはからいだと思うよ」
「だよね。でさ、そうなら、静ちゃんを助けろってことだろ?」
「それだけ信用されてるってことだろう。嬉しいことだよ。なにせ、親友の妹を助けるなんていう重要なことを任せてくれたんだからね」
「OK、任された」
 小気味良く言い切ると、夏栖斗は拳を握る。
「それに令児を捕縛した以上は、どっちにしろ静ちゃんの身柄を確保することは僕らがやるべきことだ。それが義理だ」
「違いないねえ」
 烏と言葉を交わした後、夏栖斗はリルへと向き直る。

「いくよ、リル」
「了解ッスよ。お姫様を助けるのは、ちょっと憧れるシチュッスよね。それに、約束したのはリルも同じッスから、絶対に助けるッスよ」
 互いに目配せした後、頷き合う二人。
 そんな二人に、双子はすぐさま反応する。

「そうは言っても」
「貴方達の好きに」
「させるわけには」
「いかないのよ」
 
 やはり言葉を分け合うように言うと、双子はまったく同じタイミングで風撃と雷撃を放つ。
 夏栖斗、そしてリルへと襲いかかる暴風と豪雷。
 
 だが、それが二人に直撃する寸前。
 突如現れた五芒星の盾がそれを受け止め、二人を守る。
 
「大丈夫ですか? 夏栖斗さん、リルさん」
 五芒星の盾を作り出した『』如月・真人(BNE003358)が二人へと問いかける。
「うん。ありがとう、真人」
「助かったッス!」
 
 夏栖斗とリルに頷き返す真人。
 それと時を同じくして、今度は『トライアル・ウィッチ』シエナ・ローリエ(BNE004839)が歩み出る。
 シエナはそのまま双子の前へと立ちはだかると、口を開いた。
 
「珍品への欲求とか。ギルドへの忠誠とか」
 ぼうっとしたように見えながらも、確かに双子を見据えてシエナは双子に問いかけ始める。
「それが、双子さん達の生きる道……なのかな?」
 問いかけの内容は至極真っ当だが、些か唐突に聞かれたせいか、僅かに双子は考え込む。
 ややあって二人は、いつも通りの喋り方で答えた。
「その通り」
「貴方の」
「理解している」
「通りよ」
「それが」
「何か?」
 するとシエナは純真さを感じさせる面持ちで答える。
「研究所を出て、生き方を探し始めたばかりの、わたしだから。純粋な興味。糧にしたいの。貴方達の生き様も」
 
 「研究所を出て、生き方を探し始めたばかりの、わたしだから。純粋な興味。糧にしたいの。貴方達の生き様も」
 シエナはそう言うと、自らが身に付けた術の一つを組み上げていく。
「構成展開、型式、稚者の煽情――composition」
 詠唱の言葉を唱えていくシエナの声は淀みない。
 彼女が一説の詠唱を終えると、すぐに効果は現れた。

 まず最初に影響が出たのは風虎と雷龍だ。
 双子の周囲に控えていた二種各五体――都合十体のE・エレメントは一斉にシエナの姿を標的として認め、襲い掛かる。
 左右から肉薄する疾風の爪と迅雷の爪。
 合計二十の腕がその爪でシエナを引き裂く寸前、再び顕現した五芒星の盾がそれを受け止める。
「大丈夫ですかっ! シエナさんっ!」
 
 シエナを守るように、真人は彼女の前に立つ。
 しかし、あくまで風虎と雷龍の標的はシエナ。
 五芒星の盾に防がれたことを気にした風もなく、十体の魔獣は彼女へと再び牙を剥く。
「やらせはしないっ!」
 迫り来る疾風と迅雷の爪、そして牙。
 そのすべてを、五芒星の盾は受け止める。
 
 すぐ眼前で風雷の爪牙が五芒星の盾とぶつかり合い、火花を散らすのを見て、真人は思わず身をすくめる。
「攻撃が効かないのは分かってるけど、やっぱり殴られ慣れてなくて怖いー!!」
 真人が焦ったような声を上げるも、それとは対照的に、五芒星の盾は危なげなく敵の爪や牙を弾き返していく。
 
 にも関わらず、竜虎は攻撃を繰り返し続けている。
 当然ながら真人も更に精神を集中し、五芒星の盾を途切れさせないように努める。
 状況は膠着しつつあった。
 
 ――このまま千日手に持っていければ。
 
 真人がそう思った矢先、竜虎だけでなく双子も動いた。
「「――」」
 互いに合図の一声はおろか、目配せの一つもなく。
 それでいて完全に一致したタイミングで二人のフィクサードが右手を突き出し、その手の平に異能の力を集中する。
「「――」」
 そしてやはり、声も目配せも、何の合図もなく双子は異能の力を発動する。
 先刻、舞姫を打ち据えた暴風と豪雷が彼女たちの手からそれぞれ迸り、シエナへと迫る。

「……ッ! シエナさんっ!」
 気合をとともに真人は五芒星の盾を展開し、風と雷の前に立ちはだかる。
「研究所を出て、生き方を探し始めたばかりの、わたしだから。純粋な興味。糧にしたいの。貴方達の生き様も」
 シエナはそう言うと、自らが身に付けた術の一つを組み上げていく。
「構成展開、型式、稚者の煽情――composition」
 詠唱の言葉を唱えていくシエナの声は淀みない。
 彼女が一説の詠唱を終えると、すぐに効果は現れた。

 まず最初に影響が出たのは風虎と雷龍だ。
 合計二十の腕がその爪でシエナを引き裂く寸前、再び顕現した五芒星の盾がそれを受け止める。
「大丈夫ですかっ! シエナさんっ!」 
 シエナを守るように、真人は彼女の前に立つ。
「攻撃が効かないのは分かってるけど、やっぱり殴られ慣れてなくて怖いー!!」
 真人が焦ったような声を上げるも、それとは対照的に、五芒星の盾は危なげなく敵の爪や牙を弾き返していく。
 
 ――このまま千日手に持っていければ。
 
 真人がそう思った矢先、竜虎だけでなく双子も動いた。
「「――」」
 互いに合図の一声はおろか、目配せの一つもなく。
 それでいて完全に一致したタイミングで二人のフィクサードが右手を突き出し、その手の平に異能の力を集中する。
「「――」」
 そしてやはり、声も目配せも、何の合図もなく双子は異能の力を発動する。
 先刻、舞姫を打ち据えた暴風と豪雷が彼女たちの手からそれぞれ迸り、シエナへと迫る。

(敵の攻撃は効かない。大丈夫。大丈夫だ)
 自分に言い聞かせる真人。
 その察したかのように、双子は凄まじく精密な連携で、同時同位置への攻撃を繰り返す。

 次第に激しさを増す風雷の攻撃。
 荒れ狂う異能の攻撃はそのほとんどが真人の盾へと炸裂し、エネルギー同士のぶつかり合いで相殺される。
 だが、一部の例外は偶然にも盾によって弾かれたまま威力を失わず、周囲の路面を抉った。
 加えてその中でも更に偶然が重なったものは、来た道を戻るように戻るように跳ね返されていく。

「ッ!」
「ッ!」

 真人とメイフォンが事態を理解したのも、声にならない声で焦りの呻きをもらしたのも、まったくの同時。
 高密度に濃縮された暴風は、もはや鋼鉄製の砲弾に等しい。
 そんな流れ弾が直撃すれば、たとえ頑丈なカプセルといえどただでは済まない。

 真人、そしてシエナが駆け出そうとした瞬間。
 カプセルの近くにいた何者かが身を挺して暴風からカプセルを庇う。
 その『何者か』は、風撃を受けて粉微塵に吹き飛ぶ。

「まったく。なりふり構わず乱れ撃つとは。これではまるで敵の尻拭いをしてやったようなものだ。自重しろ非常識どもめ」
 淡々とした声が聞こえるとともに、まったく同じ『何者か』が再び現れる。
「影人……ッ!」
 メイフォンがタネに気付くと共に、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は更に言い放つ。
「それとこのカプセルにしかけてあった自爆装置だがな。既に解除させてもらったよ」
 淡々と言い放つユーヌ。
 対照的に、双子の顔には動揺が走る。
「「……ッ!」」
「大方、そのパオのどこかにスイッチを隠し持っていたんだろう。神秘の力だけでなく、物理的な方法も用意する。作戦としては悪くなかったがな」
 そのままユーヌは異能の力で作り出した鳥をの群れを双子へとけしかける。
「これ見よがしに指輪で彩って鴉にモテモテだな? 啄み狙われゴミ袋のように」
 鳥の群れが双子を封殺すると同時、何発もの銃声が響き渡る。
 
 双子がはっとなって振り返ると、急所を的確に撃ち抜かれて活動を停止した風虎と雷龍が次々に消滅していくところだった。
「やっぱり人質がいなけりゃ気兼ねなく戦えるもんだ。おじさんもつい張り切っちゃったしね」
 左手で煙草をくゆらせ、右手で愛銃を構えながら言う烏。
「なぜ」
「私達の」
「「邪魔をするッ!」」
 声を重ね、激昂する双子。
 彼女達に向き直り、烏は答えた。
「病人を人質にって手口が反感を招いているって判らねぇもんかなぁ」
 言い切り、烏は紫煙を吸い込む。
「妹さんを丁重に引き渡せば三宅君なら義理を通してだんまりを決め込むだろうに。鬼札も切り方を間違ったら意味は無いわな」
 ゆっくりと紫煙を吐き出しながら、烏は更に告げた。
「おじさんとしてはだ、見切りの付け時だと思うけれどねぇ。ここで地雷踏み抜いて生涯アークの殺すリストに乗るか、『キュレーターズギルド』が壊滅する前に降参してアークに乗り換えるかだ」
 そして烏は、有無を言わさぬ迫力が感じられる声で締めくくる。
「今回はサービスで撤退するなら見逃すが、狙うと言うならば容赦はしない」
 
 対する双子も殺気を剥き出し、烏の迫力に拮抗する。
「容赦はしないなら」
「どうするというのかしら?」
「「なら見せて頂戴ッ!」」
 
 同時に動き出す双子。
 彼女達をブロックするように夏栖斗とリルが飛び出す。
「「どきなさいッ!」」
 再び激昂する双子。だが、夏栖斗とリルは怯まない。
「「邪魔なのよッ!」
「目移りするのは、リル達を倒してからにしてほしいッスね。浮気性はよくないッスよ?」
「ああ。というわけで双子ちゃんの相手は僕らがするよ」
 
 夏栖斗はメイフォンの前に立つと、静かに、そして力強く拳を握る。
「言ったでしょう? 邪魔なのよッ!」
 至近距離から浴びせられる暴風の一撃。
 躊躇なく全力を注ぎ込んだ一撃は、夏栖斗の全身を激しく打ち据える。
 ――だがそれでも、夏栖斗は倒れない。
 
「流石は『ギルド』の幹部。でもね、僕もこの程度の向かい風で足を止めるわけにはいかないんだ。だから――」
 暴風を真正面から受け止めながら、夏栖斗は握った右拳を振り抜く。
 彼の放った『飛翔する武技』は暴れ狂う向かい風も超えてメイフォンの身体を貫いた。
 苦しげに息を吐いて膝をつくメイフォン。ここに二人の勝負は決した。
 
 一方その頃、リルとメイレイも激戦を繰り広げていた。
 片や氷、片や雷。
 異能の力を纏った拳打と掌底。
 彼女達ほどの使い手となれば、ガードしてもそのダメージは少なくない。
 ゆえに、避けるか捌く以外に方法はなく。
 互いに当たれば必殺の状況で二人は戦っていた。
 
 幾度かの打ち合いの末、二人は同時に技を繰り出す。
 タイミングは同じゆえに、このままいけば相討ち。
 だが、そうはいかない。
 
 モデル体型のメイレイと幼児体型のリル。
 その体型差は手の長さ、即ちリーチの決定的な差となって現れる。
 そしてそれは、メイレイの攻撃のみが到達するという結果を暗示していた。
 
「これで決まりね!」
 雷の掌底が触れる瞬間、リルは円の動きで斜め前方へと移動する。
 掌底を避けると同時にメイレイの懐へと入るリル。
 
 このタイミングはメイレイの動きを見てからでは間に合わない。
 即ち、リルは予め動いていたのだ。
「なッ!?」
「アンタ、掌底を出す前に爪先へ少し力を入れる癖があるッス。だから、足を見てればわかるし、避けられもするッスよ。無くて七癖。双子でも、仕草はけっこう違うものッスよ。身に染み付いた戦闘動作は特に」
「……ッ!」
 虚をつかれた表情のメイレイに向け、リルは拳打を繰り出す。
 回避と踏み込みの勢い、そしてメイレイ自身の掌底の勢いのすべてが乗った見事なクロスカウンターでリルの拳が炸裂する。
「これで決まりッスね」
 リルの一言とともに、メイレイはその場に倒れた。
 

 倒れた双子を警戒しながら、リル達はカプセルへと歩み寄る。
 その時だった。
「こうなったら」
「しかたないわね」
 最後の力を振り絞り、双子が動いたのだ。
 
 カプセルに向けて放たれる風と雷。
 だがそれも影人に庇われる。
「短絡的すぎる。悪あがきするならせめてもっと――ん……?」
 そこでユーヌは、カプセルの蓋にあるランプが緑から赤に変わったことに気付く。
「なるほど。今の攻撃は囮、あくまで本命は――」
 気付いた様子のユーヌに向け、メイレイは勝ち誇ったようにほくそ笑む。
 雷撃に紛れ、微弱な電流を放ったメイレイ。
 彼女はそれにより機器を操作し、いわば『手動』で自爆装置のスイッチを入れたのだ。
 
 爆発の瞬間、舞姫が動いた。
 それも許さないといわんばかりに、双子は風と雷を放つ。
 直後、凄まじい爆炎と爆煙が辺りに広がり、高らかに火柱が立つ。
 
「舞姫っ!」
 声をあげる夏栖斗。
 すると爆炎の中から舞姫が姿を現す。
 歩いてくる舞姫の腕には少女――静が抱かれ、手首には紐に結ばれた石――『トールツィア』がぶら下がっている。
 
「「……」」
 声もない様子の双子。
 彼女達に烏は語る。
「風と雷すらも振り切って走り、爆発の0コンマ数秒前に蓋を斬り飛ばして三宅君の妹さんと、その枕元にあったアーティファクトを抱えて飛び出す。あの子はそんな無茶もやってのける子だからね」
「「そんなことが……」」
「あの子ならできるのさ。なにせ、あの子とあの子の刃は疾風よりも迅雷よりも、速いからね――」
 
 安全圏まで戻った舞姫はそっと静をおろした。
 爆発から静を守った舞姫は傷だらけだ。
「なんて無茶を……。けど、二人とも助かって良かったぜ」
 安堵して微笑みながら、舞姫の傷を癒すエルヴィン。
「静さんを、助けると約束したんです。あの時、三宅令児は静さんのために自らの命を賭けた。だから今は、わたしが身命を賭して静さんを守る!」
「ああ。そうだな。その通りだ」
 再び微笑み、エルヴィンは深く頷いた。
 
 烏は携帯電話を取り出すとナンバーを叩く。
 相手は静の兄――令児だ。
「妹さんの笑顔が見たいだろ。待ってるぜ」
 そう告げる烏の声は、いつも以上に穏やかだった。


 後日。
 アーク管轄の病院では舞姫達、そして令児が静を見守っていた。
 そして、皆が見守る中、静はゆっくりと目を開いた。
「静……!」
 思わず静を抱きしめる令児。
「お兄ちゃん……?」
 まだ事情がよくわからないながらも、静も嬉しそうに兄を抱きしめる。
 
 その光景を見つめる舞姫は目頭を押さえた。
「いいもんだな。家族って」
 舞姫の肩に手を置きながら、エルヴィンが言う。
「これにて一件落着だね」
 微笑みながら、夏栖斗も言う。
 そして舞姫は、目元を涙で輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
「ええ。本当に――」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者各位

 この度はご参加ありがとうございました。STの常盤イツキです。
 
 今回のMVPですが、『戦闘時の癖を見抜くという作戦で双子の片割れを見事撃破した』リル・リトル・リトルさんに決定致します。
 そしてご参加頂きましたリベリスタの皆様、今回も本当にお疲れ様でした。
 どうぞごゆっくりお休みください。

 それでは、次の依頼でお会いしましょう。

常盤イツキ