● 最後に悲鳴を聞いてから10分が過ぎた。 バランスを取りながら苦労して上着を脱ぐと、片方の袖をしっかり手に巻きつけた。 大丈夫。大丈夫だ。 ゆっくりと体を倒し、埃のたまった梁に頬を押しつけた。また涙が出そうになった。体が震えださないように歯を食いしばりながら上着を振る。 「しっ、しっ!」 こんなものはただの気休め。威嚇になりゃしない。鳥もどきたちにも分かっているのか、バカにしたように嘴を半開きにしてこちらを見上げている。 カチャカチャ、と磨き抜かれた木の床を爪が蹴る音がした。 首をできる範囲で音のした方に回す。 下唇を強く噛んだ。 新手が足の爪に見覚えのあるウサギのポシェットをひっかけたまま、血の筋を引いて梁の真下へやってきた。元々いた3匹が興味深そうにウサギの顔を嘴でつつく。 あの女の子、あのポシェットのことなんて言っていたっけ…… ● 「どや顔ウサギ。イヴちゃんが持っているものと同じデザインのものです」 『まだまだ修行中』佐田 健一(nBNE000270)の顔は苦痛で歪んでいた。 ブリーフィングルームの巨大モニターにはどこかピントのずれた感じの映像が映しだされている。 万華鏡が健一に見せた未来視の再現映像だ。 寺の本堂だろうか。画像の中では梁の上にいる男が凶暴なハンターたちに向けて上着を振り回し続けていた。 「少し前に10歳ぐらいの女の子が生きたまま恐竜のエリューションに食い殺されています。あまりにも、その、あれなんでカットしました。この男も間もなく――」 突然、絶叫がブリーフィングルームいっぱいに響いた。 映像の中の男が梁から落ちたらしい。悲鳴はすぐにとぎれた。代わって貧相な翼がはためく音と、ギャアギャアと怒った猫のような鳴き声がスピーカーから流れだす。 健一はボタンを押して画像を止めた。 「まもなく、バロックナイツ第一位『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュとその一党が、『究極研究』とやらを手に日本侵攻を始めます」 とたん騒めきだしたリベリスタには構わず、健一はわずかに声を大きくして説明を続けた。 「彼らは新潟、富山、石川、福井の北陸四県を足掛かりと定め、どこかに拠点を築くつもりのようです。その準備で一般人および地元リベリスタの排除を始めた。と、いまご覧いただきました鳥もどき――恐竜は、福井県に現れたペリーシュの奉仕者がなんらかの力を使って恐竜の化石をエリューション化したものです」 ブリーフィングルームの騒めきが大きくなった。 昨日今日、覚醒したものならいざ知らず、神秘界隈に生きて『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュの名を知らぬ者はいない。数々の高性能アーティファクトを生み出し続ける欧州、いや世界最悪のビッグネーム。その男が『究極研究』とやらを手に日本にやってきたのだ。動揺するなというほうが無理というものだ。 世界に破滅をもたらしかねないそのアーティファクト、名を『聖杯<ブラック・サン>』という。 健一はリベリスタたちの注意が再び自分に向くまで口を閉じて待った。 「みなさんには恐竜博物館の東側、山で暴れているエリューション退治をお願いします。渓谷の奥にある寺と一般家屋、木材倉庫に地元住民と観光客数名の生存が確認されています。できれば助けてあげてください。ポシェットの女の子も。いまから行けばまだ間に合いますから」 他は、という質問に対して健一は、 「別班が恐竜博物館と市街地に出現するペリーシュ・ナイトと『黒い太陽』の奉仕者、エリューションらの撃退に当たることになっています」と答えた。 「別班がしくじれば飛竜をはじめ大型肉食恐竜がみなさんの方へ回るかもしれません。逆に、みなさんがしくじれば生き残ったエリューションたちが山を下りて市街地へ向かうでしょう」 テーブルのどこかで呻くような声が上がった。 健一がコンソールのボタンを叩くとモニターに恐竜の絵が映しだされた。 「梁から落ちた男性を襲ったのはデイノニクス。中生代白亜紀前期に生息していたドロマエオサウルス科の代表的な肉食恐竜の化石がエリューション化して肉体を得たものです。ご覧になった通り、その姿は巨大な鳥もどき……といっても体高1メートルと大型犬ほどですが、飛べない翼と長い尾、鋭い鉤爪をもっています。凶暴で知能が高く集団で狩りをします。これらは七体います」 画面が切り替わった。次に映し出された恐竜には毛が生えていなかった。 「それともう一体。フクイラプトルがいます。やはり中生代白亜紀前期生息していた肉食恐竜で、日本で初めて全身骨格が復元されたもの。福井で掘りだされたのでフクイラプトルという名になったそうです。こちらは体高2メートル、体長4.2メートル。 東側のエリューションたちのフェーズは総じて2ですが、ゆめゆめ油断されないように」 では、お願いします。そういって健一は頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年11月19日(水)23:20 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 「カレー、カレー、恐竜カレー♪」 列の最後尾で緊張感に欠けた歌声を上げているのは『Le vent doux』レティシア・エーメ(BNE005049)だ。 ヘリを降りてからここまでずっと、スキップしながら妙な節をつけて歌いながら坂を上っている。 先頭を歩いていたリリウム・フェレンディア(BNE004970)が突然、堪りかねて立ち止まった。 『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)がリリウム頭上を追い抜き、『全ての試練を乗り越えし者』内薙・智夫(BNE001581)が赤い髪毛を流した背中におでこをぶつけた。 「リ、リリウムさん?」 どいて、と智夫を横へ押しどかせると、リリウムはずんずんと坂を下り、レティシアの前に立ち塞がった。 「カレー無し! エリューション肉、駄目! もうすぐ現場なんだから、シャンとして」 レティシアは長い耳を下に垂らして「えー」と抗議の声をあげた。 首を伸ばし、リリウムの背に隠れた『かれーの女』春津見・小梢(BNE000805)へチラリと期待のこもった視線を投げかける。 「カレー? 作りますよ、三高平に帰ってからね。具は恐竜の肉じゃないけど」 「あら、小梢様。恐竜の肉、カレーに入れると美味しいって仰っていませんでしたっけ?」 バラ色唇に真っ赤なマニュキアを施した指先をあてて、『残念系没落貴族』綾小路 姫華(BNE004949)が首を傾げた。 「あれれ、もしかして貴女も恐竜カレーを食べたかった、とか?」 ぱたぱたと翼を動かして空の上からセラフィーナ。 「いえ、別に食べたいとか、最近お肉食べていませんわとか。カレー……最後にカレーを食べたのは何時だったかしら、とか思っていませんわ!!」 「リクエストがあるなら作ってもいいけど」 レティシアは手を叩いて喜んだ。 「でも、その……そう、無闇な殺生はいけませんわ。ですから、恐竜が食べられるのでしたら、その命を無駄にすることなく……」と姫華。 少し離れたところで智夫が、「はあっ」とため息を落とした。 女子の食欲恐るべし。 「……で、食べられますの?」 「薬膳・漢方薬の成分に共通した香辛料が使われているカレーの中なら、多少体に悪いかもしれないエリューション肉も聖なる食べ物となるでしょう。たぶん」 小梢は大きなカレー皿を顔の横に掲げ、宣誓のしぐさでわりといい加減な講釈を垂れた。 それも真顔で。 「では、カレーに入れる野菜を送ってください、と本部に頼みましょう」 アクセスファンダズムを起動したセラフィーナの下で、呆れた、とリリウムが目を回す。 「智夫とリリウムは、小梢が作る恐竜カレーを食べない……?」 食べる! ふたりの声がハモって林間にこだました。 智夫が赤面する。 「あ……、うん、でもまずは……先を急がない? 僕たち、ちょっとノンビリしすぎているんじゃないかな。早く行かないと犠牲者がでちゃうよ」 おおっと。そうだった。 リベリスタたちは気合を入れて坂道を上りだした。 「――たく。ここへ降ろしてくれたなら、今頃は片付いていたでしょうに」 勝山市では別部隊が、やはり蘇った恐竜と狂信者たちを相手に戦っていた。オマケに黄泉ヶ辻がウロウロしているらしい。ここへは来ていないらしいが……。 「恐竜が現れるとかわけわかんないね。碌なことしないな聖杯、壊れちゃえ」と小梢。 福井空港からのルートを取ると、途中、どうしても恐竜博物館の真横を通ることになり、敵にアークの到着を早々に知られることになってしまう。それ故、ヘリは恐竜博物館から遥かに離れた山中に着地したのだ。 「では、打ち合わせ通りに。私と智夫様、レティシア様はあそこに見える木材倉庫へ。小梢様たちには民家の女の子救出をお願いしますわね」 「みんな助けてあげたいなぁ」 智夫は翼の加護を唱えた。 「うん。5分で片付けられなかったら私ひとりでも寺の本堂に移動する。みんなが来るまで時間を稼ぐよ」 じゃあ、と走り出したリリウムたちの背にレティシアが声をかける。 「もし、途中で女の子のお父様を見つけたら――」 「とりあえずぶん殴ります!」 振り返ったセラフィーナは拳を突き上げた。 「情けない父親をしっかりさせるのも、正義の味方の役目ですから」 では、後ほど。 エンジェルナイトは民家に突入したリリウムたちを追った。 ● 翼の加護で得た飛行で斜面を一気にくだり、智夫たちは倉庫へ入った。 デフクイラプトルの太い尻尾の下をかいくぐり、必死の形相で戦う初老の男たちの前に降り立つ。 フクイラプトルは新手の出現に苛立ったようにひと吼えすると、フォークリフトへ大きな鼻づらを突きだした。 「僕が相手になる!」 すぐさま智夫が前に割り込んだ。 防御用マントを翻すさまは闘牛士のそれ。受け流した鼻づらをジャベリンでついて凍らせた。 後ろで「おう」、と感嘆の声が上がった。 横から羽毛をはやしたデイノニクスが壁を走ってきて、チェーンソウを振り回す初老の男二人へ飛びかかった。 真っ赤なドレスの裾をなびかせて、姫華がカルディアを手に全力移動。牙を剥いた狼を彷彿とさせる鋭い突きで鳥もどきの片割れを吹っ飛ばした。 「危ないですから、此処は下がって頂けると助かりますわ!」 「し、しかし……女子供に戦わせて逃げるわけには……」 「わたくしはともかく、あのお2人はとても強いですわ。どうか信じてください」 レティシアが老人の手を取った。 両手で節のごつごつした老人の手を優しく包み込み、胸に引き寄せ、優しく微笑みかける。 「貴方がここに残っていては彼らも実力を発揮できません。さあ、あちらへ」 このフュリエはいつの間にジジイ殺しの技を体得したのやら。ラ・ル・カーナに戻ればまったく役に立たない、というよりも使う機会などないというのに。 老人が頷くと、レティシアはフォークリフトの男へと顔を向けて、「貴方も一緒に来てください」と手招きした。 倉庫から退避しようとする四人に、様子見をしていたデイノニクスが二階の通路から飛びかかった。 得物を逃してなるものか、と小さくも鋭い歯が並んだ嘴を開く。 姫華が吸血の牙を剥いた。 闇の残影をちらつかせながら、デイノニクスに飛びかかり、首筋に食らいつくと激しく血を貪り啜る。 正統派お嬢様の見た目だけに、吸血に鬼気迫るものがあった。 鳥もどきが姫華の腕の中でか細い鳴き声をあげる。 「早く行ってください!」 フクイラプトルが積み上がった丸太の山を尻尾で崩しながら回頭する。 智夫はフラッシュバンを放ち、一時的にだが恐竜たちの動きを止めた。 「さあ、お逃げて。でも町には降りないでください。向こうも恐竜が暴れていますから」 そう言ってレティシアは男たちを倉庫の外へ逃がした。 急ぎ中へ戻る。 おが屑の匂いを吸い込んだ。 不思議と嫌な感じがしない。きっと、切り倒され、ここに運ばれて眠りにつく木々は、 さっき送りだした男たちとその親、またその親たちに愛されて育ったのだろう。 その木を悪しきエリューションたちが足の下にしている。 「許せません」 フュリエらしい怒りに身を震わせながら、弓を構えた。 ● 「恐竜、か」 リリウムは鳥もどきたちを睨みつけた。 「今の時代に迷惑をかける前に、とっとと滅びてくれ、としか言いようが無いな」 「ええ。全くですわ」 押入れの上の段で、泣きじゃくる女の子から気をそらせようと、大きな声を出し、せいいっぱい翼を広げたセラフィーナが前へ出る。 「さあ、貴方たちの相手は私です。化石に戻してあげましょう」 小梢は体の内側から放射線状にターメリック色の光を発した。黄金色のサリーのような、聖骸闘衣を纏う。 カレー神の降臨だ(ぺかー)。 今にも頭にターバンを巻いた堀の深い顔の男たちが、どこからともなく現れてクルクルと踊り歌いだすんじゃなかろうか……。 リリウムは思わず首を左右に振って、インド人ダンサーズの姿を探した。 デイノニクスたちもつられて首を左右に振る。 なんとなく、小梢が手にした大皿のあたりが気になった。もしや、そこから飛び出してくるのか、ダンサーズ?! 「もう、なにをやってるんですか!」 セラフィーナの一声で魅惑のカレーワールドの呪縛が解かれた。 都会の住宅と比べれば広いとはいえ、民家の部屋。 正気を取り戻した一名のリベリスタと全く素の状態だったリベリスタ二名、それにエリューション二体が、敵意をむき出しにして一斉に動き出す。 あっという間に混乱状態に陥った。 どや顔ウサギのポーチを斜め掛けした女の子が、恐怖のあまり泣き叫び出した。 「パパ、パパーッ」 自分と母親を見捨てて逃げた父親を呼ぶ幼い声が哀れを誘う。 「私達は正義の味方です。貴方を助けに来ました! そのまま隠れていてください!」 と、セラフィーナは叫びつつ、デイノニクスの嘴をむんずと掴み取るなりアル・シャンパーニュをぶっ放した。 障子と鳥もどきの頭と翼の羽を吹き飛ばし、丸ハゲトカゲ、元鳥もどきと組みあったまま庭へ転がり出ていく。 小梢がもう一体のデイノニクスの背に飛び乗ってラストクルセイド。縦にもったカレー皿に魔力を送りつつ、ボッコンボッコン手当たり次第ぶん殴った。 デイノニクスは叫び声をあげながら、やはり庭へ。 セラフィーナの翼がまばゆく光り輝き、恐竜たちの目をくらませた。動きが止まった隙に小梢と対戦相手を入れ替える。 「第二ラウンドいくよー」 やることは変わらず。 セラフィーナはアル・シャンパーニュ、小梢はラストクルセイドだ。 押入れの前で盾となっていたリリウムは、二人と二体が庭へ出て行くとすぐに女の子を抱き寄せた。 間もなく翼の加護が切れてしまう。その前に、女の子をデイノニクスたちの手が届かない高みへ逃がさなくては。 「目を閉じて……」 女の子の顔を胸にうずめて、無残な姿で母親が横たわる玄関を通り抜ける。 リリウムは女の子を抱きかかえたまま、寺を目指した。本堂の屋根の上なら、万が一フクイラプトルがやって来ても届かないだろう。 「いい子にしててね。パパを連れてすぐもどってくるから」 女の子を屋根瓦のてっぺんに残し、リリウムは地面へ降りた。 「何も頑丈になることだけが敵の攻撃に耐える秘訣じゃない。フュリエにはフュリエなりの、戦い方があるって思うんだ」 ね、と顔の横を飛ぶフィアキィに語りかけた。 エル・ユートピアを自分にかけて物理無効の加護を受ける。 「じゃあ、行きますか」 涙の痕がつく縦セタの胸を張って、リリウムは本堂の木階段に足をかけた。 ● 木材倉庫の敵性エリューションを全滅させた一行は、すぐに寺へ向かった。 目指す寺の本堂で悲鳴が上がる。 女性の――あれはリリウムさんの声じゃないか!? 智夫は翼の加護をかけなおすと、一直線に坂の上を目指した。 「ええっ?!」 「まあ、大変。急ぎましょう!」 姫華、レティシアが後に続く。 寺の横の民家からは、セラフィーナと小梢が駆け出してきた。 「なになに、いまのリリウムさんの声じゃなかった?」 「もしかして、エル・ユートピアがブレイクされちゃった?!」 フォーチュナは、時間がたてばデイノニクスがより高度な攻撃方法を身につけるといっていたが、それはあくまで行動に関する話だった。 ブレイク技を体得するとは聞いていない。 セラフィーナと智夫がほぼ同時、肩を並べて本堂の中へ飛び込んだ。 三体のデイノニクスが翼をばたつかせ、リリウムを取り囲んでいた。頭の上をパートナーのフィアキィが狂ったように飛びまわっている。 鳥もどきたちの足元に散らばるのは、細かく裂かれて千切れた布、布、布。 「う、うわぁぁぁぁ! ごめんなさい。僕、見てません。見てませんから!」 リリウムはほぼ裸状態だった。 鳥もどきたちは、攻撃がまったく効かないリリウムを頑丈なオモチャとみなし、面白がって衣服を剥ぎ取りにかかった。 やめろ、やめろといいもって、大業物から光の飛沫を飛び散らせて攻撃するも、鳥もどきたちを怯ませることはできなかった。それどころか、逆に興奮させてしまった。 あれよあれよという間に着ているものを嘴で引きちぎられ、ついに床へ座り込んで悲鳴を上げたという次第。 「はあ……とんだエロ恐竜ですこと。これを甦らせたのが『黒い太陽』か奉仕者のDかは判りませんが、絶対スケベですわね」 「間違いなく変態ですわ」、とセラフィーナが姫華に同意する。 余談だが、ちょうど同時刻に、遠く離れた恐竜博物館の埃の舞うラボでDがくしゃみをしていた。マスクをつけているのにおかしいな、とぼやいたことをリベリスタたちは知らない。 「ちょっと! 早く助けて!」 小梢が床を激しく踏み叩いてデイノニクスたちの興味をひいた。 恐竜たちは素早く三方に展開すると、リベリスタたちに向けて、カラララッと喉の奥から威嚇の音を出した。 智夫が小型の槍を手にして、真ん中の鳥もどきに突撃した。 セラフィーナは左へ、姫華は右へ。 誰に指示されたわけでもなく、阿吽の呼吸で攻撃相手を定めて動く。 レティシアが後方から援護射撃を行った。 が、鳥もどきたちの動きはリベリスタたちを上回っていた。 まず、中央の鳥もどきが大ジャンプで智夫の攻撃をかわした。 勢いを殺せないまま、槍の先を上向けるのが精いっぱいという状態で、リリウムの胸にダイブする。 「きゃー!」 「わあー!」 大惨事。 着地した鳥もどきの体を台にして、姫華の攻撃を逃れた右の鳥もどきが飛んだ。 やはり飛んでいたセラフィーナの背中にダイナソア・キックを見舞う。 「あうっ!」 顔面から本堂の壁にぶつかって、ズルっと落ちていくセラフィーナ。 「ふん。台になるやつがいなくなれば飛び上れまい。というわけで下のやつからぶん殴ろう」 小梢はとってもとっても頑丈な、象が踏んでも割れない神秘のカレー皿を振り上げ、真ん中の鳥もどきに殴りかかった。 皿が鳥もどきの脳天をかち割ろうとした時――斜め上横から繰り出されたダイナソア・キックが小梢の頬に炸裂した。 小梢は姫華を巻き込んで端まで転がって行き、壁に当たってでんぐりがえった。 今度はセラフィーナを空中で蹴った右の鳥もどきを台にして、左の鳥もどきが飛んでいた。 「……え? ローテーションしてる? バカな! 爬虫類のくせに!」 驚く小梢の前で、着地した左の鳥もどきの背に中央の鳥もどきが飛び乗る。 「やらせはしません!」 レティシアはショートボウから光の玉を撃ちだした。 鳥もどきたちの三度目の空中殺法は、レティシアの援護射撃に阻まれて失敗した。 「まあ、数を減らしてしまえば飛び乗ることもできまい」 きらりん、とメガネに光を走らせると、小梢はがむしゃらにカレー皿をふり回し始めた。 「それもそうですわね」 姫華がアクセルバスターで鳥もどきの一体に向かって突っ込めば、怒りに燃えたセラフィーナが反対から光の飛沫を散らせる。 顔を真っ赤にした智夫が天使の歌を歌った。気持ち、声が震えて音程を外しているが、まあ、これは仕方がないだろう。 体力、魔力ともに回復した小梢のカレー皿アタックが、中央の鳥もどきに華麗に決まる。 そこへレティシアが光の玉を撃ち込んだ。 リベリスタの猛攻を受け、ふらふらと足をふらつかせるエリューションたち。 真ん中で身を寄せ合ったところへ―― 「アル・シャンパーニュ! アル・シャンパーニュ!! アル・シャンパーニュゥゥゥ!!!」 リリウム、怒涛の大反撃。 智夫から借りたシャツの、無理やりとめた胸ボタンがはじけ飛んだ。 大破してまくれ上がった本堂の床から、青い顔をした中年の男が這い出て来た。 奇跡的に無傷だったその男は、女の子の父親だった。 「ばっかもーん!」 苦笑いする男の顔にセラフィーナの正義の味方パンチが見舞われた。 ● 「早く帰ってカレー食べたいのよ」 小梢は疲れ切っていた。息をすることすら億劫だ。息をしなきゃ死んじゃうので、口だけパクパクと動かしている。鼻で息ができるのに。 あれだけ恐竜カレー、恐竜カレーと騒いでいたレティシアも小梢の横でぐったりとしていた。 リベリスタたちはエリューション殲滅後、梁の上から鼻血を垂れ流す男を助けおろし、片目を腫れ上がらせたバカ親父を板の上で正座させてコンコンと説教を垂れた。 六人で協議し、男が十二分に後悔、反省したと判断してから瓦屋根へ上がって女の子を迎えに行った。 アークのヘリが迎えにやって来るころには、山の向こうに日が沈みかけていた。 「……そうですか。でも、全員生きていてよかった。はい。こちらも間もなく撤収します」 智夫は報告を終えてAFの通信を切ると、はあ、と息を吐きだした。星がまたたきだした夜空を見上げてぼーっとする。 お疲れさま、と智夫に湯気の立つカップを差し出したのは姫華だ。 「あ、ありがとうございます」 セラフィーナとともにリリウムに着せる服を探して民家にお邪魔した折に、ヤカンを拝借。コップも借りて紅茶を入れさせてもらった。 「あちらは大変だったようですわね」と姫華。 「こっちも大変だったよ。特に私が」 リリウムはくしゅん、とくしゃみした。 「さあ、帰りましょう。三高平に。小梢さん特製のカレーは日を改めて」 みんなで食べに行きましょうね、とセラフィーナはぐったりしているレティシアに微笑んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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