● 「戦エ」 何故こうなってしまったのか、少年の頭には理解が追いつかないでいた。 自分の手にはカッターナイフが握られ、目の前にいる写真部の仲間と向かい合っている。彼の手にも同じようにカッターナイフが握られ、恐怖に引きつった顔でこちらを見ている。 自分達は休日を利用して、珍しい景色の撮影に来ただけだった。 そこであの悪魔にも等しい存在に出会った。 「戦エ」 炎の中から双頭の巨人は唸る。蜥蜴を思わせる頭から発せられる言葉はひたすらに、友人同士での殺し合いを強いるものだけだ。 抵抗しても無意味なのは分かる。 すぐ近くには、同じようにして死んだのだろう人達の死体があったのだから。 「戦エ」 語気が荒くなったような気がする。 怪物が爪を光らせた。 無理やりにでも戦わせるつもりなのか、それともやらないのなら殺すつもりなのか。 どちらにしろ、猶予は無かった。 「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 目を瞑り、少年は凶刃を振り上げる。 その方がせめて、罪の意識は軽くなるような気がしたから。 ● 次第に風の冷たくなってきた10月のある日。リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められる。そして、リベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「これで全員だな。それじゃ、説明を始めるか。あんたらにお願いしたいのは、エリューション・エレメントの討伐だ。だけど、ただのエリューションじゃない」 守生の表情は普段に増して厳しいものだ。集められたメンバーも考え合わせると、困難な状況が発生していることは想像に難くない。その推測を裏付けるように、フォーチュナはその口を開く。 「ウィルモフ・ペリーシュ、その名前を聞いたことがある奴もいるだろう。あの最悪の魔術師が日本に連れてきたエリューションの退治、困難な任務だと思うがあんた達にお願いしたいのはそれだ」 ざわめくブリーフィングルーム。 最悪の名を以って知られるアーティファクトクリエイターが、いよいよ極東に現れたのである。 多くの事件でマジックアイテムを集めていたペリーシュは、遂に自身の研究を完成させた。『究極研究』と称される彼の最大事業の正体は完全には知れていないが、黒死病の大流行然り、この世界に未曾有の災厄を撒き起こしてきた彼の動きはこの世界の平穏を絶大に破壊するものと推測されている。 「どうやら奴は日本に狙いを付けたみたいだな。自分のホームグラウンドに籠っててくれれば良いものを……」 毒づく守生だが、致し方ない状況でもある。 おそらくは、アークがバロックナイツ複数を連破した事、取り分け『神への挑戦』を標榜する彼の旧知である『ラトニャ・ル・テップ』を出し抜いた事が原因だろう。神との直接対決が早々に望めなくなった事から、その代替としてアークに目をつけたものと考えられる。もっとも、ペリーシュからすればそれは実験に過ぎないかも知れないが。 「ともあれ、ペリーシュとその一党は北陸地方に上陸する見込みだ。まずはここに臨時の工房を築く腹づもりらしい。だけどまぁ、そんなこと見逃せるかってんだ」 実際のところ、その動きを止めることは極めて困難だろう。それでも、一般人や社会へのダメージ軽減、現地リベリスタの保護等も含めてアークが対応しなければならない仕事は非常に重大だ。 「さて、そんなわけだがあんた達に向かってもらいたいのはここだ」 そう言って守生が機器を操作すると、福井県の海岸線を示す地図が表示された。そこには一基の灯台が存在する。 「ここにエリューションは存在する。ただ、1つ厄介な問題もあってな。現場には地元の高校生達が捕えられている。可能なら彼らの救出も、って所だ」 情報によると、地元の高校に通う写真部の生徒達ということだ。休日を利用して撮影のために近くに来た所を捕まってしまったらしい。 エリューションがそのような真似をしたことにも訳がある。 このエリューションは『精霊石』と呼ばれるE・エレメントを召喚するためのアーティファクトで作成されたものだ。これ自体はそこそこに作成方法が広まっている代物で、実力の無いアーティファクトクリエイターが作成することもある。しかし、『黒い太陽』の運用は一味も二味も違っていた。 ペリーシュは一般の魔力だけでなく、人の感情を注ぎ込んだ。それも、仲の良い友人同士を殺し合わせた際に生まれた感情だ。 絶望、哀しみ、怒り、全てが綯い交ぜになった魔力は、並みのエレメントよりも強力なエレメントを作り上げた。 「こいつがここに留まっている理由は簡単だ。そうした感情をより多く喰らい、自身を強化するためだ。既に管理を行う業者数名も犠牲になっている」 スクリーンに映るのは、炎を纏い2つの蜥蜴のような頭を持つ怪物だ。 守生はあえて抑えた声で淡々と説明する。こうした時には、彼は強い怒りを覚えている。口が悪い所もあるが、基本的にこうしたことを見過ごせる性質でも無い。 何より、力を蓄えたエリューションは一層の力を以って、狂気の魔術師の元でさらなる悲劇を起こすことだろう。それは何としても止めなくてはいけない事態だ。 「他にも取り巻きはいるが、やはり一番危険なのはこのエリューションだな。戦闘力もさることながら、厄介な特殊能力も持っている」 具体的には相手を互いに戦わせるための能力なのだという。自身の生まれたのと同じように、仲間同士を争わせてその感情を集めるためなのに間違い無かろう。 生まれた経緯を考えればペリーシュへの憎悪はあるのだろうが、稀代の魔術師にとってそれも含めて支配することは決して難しくない。かような天才性がペリーシュに与えられてしまったのは、まごう事なきボトム・チャンネルの悲劇だ。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年11月18日(火)22:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 秋の夕暮は早い。 次第に海に夕日は沈んでいこうとしており、水面は真っ赤に染まっている。 その絵面だけなら、ロマンチックな景色と言うこともできるだろう。しかし、これは世界の落日と、流される血そのものなのかも知れない。 黒の太陽は今まさに昇ろうとしているのだから。 「感情を食らうエリューション、ね……。実に胸糞悪い作り方をしてくれたもんだ」 「一つ災厄が過ぎ去ればまた新たな災厄が……って、何処まで呪われてるんすかね、うち等の住む国は。難易度ハードってレベルじゃねーんじゃないっすかね、ホント」 『クライ・クロウ』碓氷・凛(BNE004998)の端正な顔立ちに嫌悪の表情が浮かんだように見えたのは気のせいだろうか? リベリスタの一族に生まれた彼はリアリストであり、この手の事件に関わることの危険さを良く知っている。それでも彼はリベリスタなのだ。破滅の足音が聞えながら、その場を逃げることは許されない。 そんなことは興味なさげに相槌を打った『LowGear』フラウ・リード(BNE003909)も良く分かっている。茶化したような口調であるが、その目には鋭い光が宿っている。この殺し合い(ゲーム)に打ち勝たねば、命(ライフ)が失われる。失われた命はどうあっても取り戻すことが出来ないのだから。 「よくもまぁ、悪辣な魔力の運用を思いつくものですね」 一方、『ホリゾン・ブルーの光』綿谷・光介(BNE003658)はというと、はっきりと怒りと嫌悪を見せていた。 本人は術者の端くれと名乗るものの、アークの内外に知られた支援のプロフェッショナルである。そんな彼の目はペリーシュの力量の底知れなさがはっきりと分かる。故に、驚けばよいのか呆れれば良いのか掴みかねると言った所だ。 しかし、それでも光介の中には譲れないはっきりとした軸がある。 そこだけははっきりと分かっている。 「ともあれ自分は自分の術で、あらゆる事態に即した支援を志すのみです」 「可能な限り救出する。あぁ、『可能な限り』だ」 力強い光介の言葉に頷くと、『はみ出るぞ!』結城・”Dragon”・竜一(BNE000210)は包帯を巻いた手を意味ありげに握り締める。 歴戦のリベリスタである竜一は、そうそう簡単に全てを救うことが出来ないことなど知っている。それでも、自分達を信じて託してくれた者達がいる。そして、救うべき者達がこの先にいる。 ならば、どれだけ小さい力であろうと、自分の力を尽くすだけだ。 「今の俺がどこまで救えるかは知らないけども、救うための道をこじ開ける事は出来る!」 だから、リベリスタ達は戦うのだ。 自分達の運命が閉ざされているというのなら、わずかでもその道を切り開くために。 ● 「戦エ」 灯台の前にある広場で悪霊が声を発する。 その恐怖に耐え切れず、少年が刃を振り上げようとした正にその時だった。新たな運命を切り開くべく『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は翼を広げて大きく声を上げる。 「しっかりなさい。そのカッターを捨てなさい! 友人を傷つける必要はもうどこにもないわ」 「え……!?」 怯えていた少年達に向かって真っ直ぐと、リベリスタ達は狂気の闘技場へと駆け付ける。 「ハイハイ、その殺し合いチョイ待った! 諦め覚悟決めるにゃまだ早いっすよ?」 「まっすぐ走りなさい。振り向かずに」 フラウが割って入った後で、簡潔に言葉を告げるシュスタイナ。 それだけでも少年達に助けが来たことを告げるには十分だった。だが、その足を恐怖が縫い止める。その場を囲むようにエリューション達がいるのだ。 (純粋に恐怖で脅しつけているようですね。単純だけど一般人相手なら十分な効果がある、か) 光介の分析する通り、逃げ場を封じ恐怖から少年達は戦いを強制されていた。「感情を醸成する」という意味合いにおいては意味もあろう。 だが、その方法は別の感情を高めてしまった。 「ロクにアツい意気も持ってねぇくせによぉ。半端に炎なんぞ纏いやがって……」 この場を支配していた恐怖を塗り替えんばかりに怒りの炎を燃やす『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)。元々、敵対者に対する感情の基準は至ってシンプルなのだ。それに加えて、裏で糸を引いているのは彼がこの世で最も嫌うフィクサードである。 カルラが嫌うものは、大体この場に揃っていた。 「残らずかき消してやる!」 怒りと共に大地を踏みしめると、カルラは逃亡を阻もうとするエリューション達へと構えを取った。 同じように4人のリベリスタ達は少年達の逃げ道を作り出そうとする。 対して、悪霊もそれをやすやす見逃してはくれない。雄叫びを上げると、リベリスタ達に攻撃を仕掛けようとして来る。 その時だった。悪霊の前に立ち塞がるように、炎の柱が上がる。『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)だ。 「あっち見てる余裕あげないもんねー! 別に倒してしまってもなんたら!」 自信満々に微笑むとミリーは空に向かって高速の打撃を放つ。 拳の軌跡を描くように炎が舞う。 少年達を護ることは仲間達に任せれば良い。彼らだったら大丈夫に決まっているのだから。自分の仕事は目の前にいるデカブツをぶっ飛ばすことだ。 「救出が困難なのはいつもの事。うち等はうち等に出来る事を1つずつこなして行く。それだけの話っすよね?」 悪霊を前に薄く笑うフラウ。 そんな不遜な態度を見せるリベリスタ達に向かって、悪霊は大きく息を吸い込むと炎を放とうとする。 すると、戦場が光に包まれた。 悪霊の炎によるものではない。 『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が放った神秘の閃光弾だ。 「知人同士を無理やり殺し合わせる、か。負の感情を生み出す為、ということなら確かに効率は良いのでしょうが」 抑えた声ではあるが、はっきりとその奥に潜む怒りが伝わってくる。 そう、相手はただひたすらに邪悪を振りまく存在である。 「気分が悪くなるような、悪辣な敵。でもまあ、その分遠慮も容赦も一切する必要はない」 レイチェルが最も『殺したい』タイプだ。 だから、この上なく澄み切った冷静な怒りと共に、彼女は宣言する。 「速やかに、潰させてもらいます」 ● まず、リベリスタ達は襲われた少年達の戦いを終わらせることは出来た。だが、ここで終わるほど状況は簡単ではない。いつまた恐怖に負けて、再びエリューションに戦いを始めるかもしれない。それにエリューションだって、無理してまで彼らを生かそうとはするまい。戦いに巻き込まれれば、命を落とす可能性だってある。 だから、リベリスタ達は少年達の逃亡を行わせながら、エリューションと対峙することになった。決して容易なことではないが、事前の打ち合わせで救助に向かうものと悪霊の相手をする者は分けてある。それぞれに目の前の役割に集中するだけだ。 凛がリベリスタ達へと敵を殲滅するための強力な加護が与える。 そして、加護を受ければこちらのものとばかりに竜一とカルラは飛び出した。 (運悪くここにいたからって、それで死んでいいワケねぇ) カルラは、低い姿勢から猛然とエリューションとの距離を詰める。 「クソフィクサードのイカレ製品に喰わせてやるもんなんざ、残飯一粒だってねぇって教えてやる!」 カルラの突撃が生み出した衝撃波がエリューションを盛大に吹き飛ばす。 「最速で道を切り開くぜ!」 同時に竜一は、渾身のエネルギーを込めて二つの刃で横薙ぎにする。 エリューション達が弾かれ、少年達が逃げる道が出来た。 「助かりたかったら、ほら逃げる!」 「心許ない盾かもしれんが我慢してくれ」 エリューションと対峙しているミリーが少年達を促すと、少年達は全力で駆け出した。 苦笑交じりにエリューション達の前に立った凛は、少年達を庇うように立つ。 凛本人は自嘲気味に「それしか能が無い」と語る。本人自身、「全てを救う」なんて理想がいつでも通用する等とは思っていない。それでも、その姿はエリューションにとって越えることが出来ない長城として立ち塞がった。 「まぁ、後は皆に頼るしかないな」 少年達を逃がすための準備が整うと、竜一は自分の役割は終わったとばかりにのん気な声を出す。 当初の役割が終わったとは言え、ここまで気楽な態度が取れる男は彼位のものだろう。 「っと、そうもいかないか」 竜一が一息ついていると、そこにエリューションが牙を光らせてくる。 思えば、悪霊を食い止めるために必死に戦っている仲間もいるのだ。まだまだ止まっている暇は無い。竜一は燃える傷口を抑えながら、全身に戦気を纏わせる。こうなった彼を止められるものはそういない。 「バトルロワイヤル? 互いを戦わせる事によって生まれる感情を喰らうエリューション? 傍迷惑な…… 燃やせるものなら燃やせばいいわ。それができるならね?」 苛立たしげに呟くと、シュスタイナは翼をはためかせて魔力の風を戦場に送り込んだ。その可憐な姿からは想像もつかない強力な力がエリューション達の身を削って行く。危険性に気付いたせいか、エリューション達も彼女を攻撃しようとするが、凛はそれを許さない。 「俺は戦力になれないがサポート位は出来る、気休め程度だが無いよりはマシだろう」 凛の言う気休めは、存分に役割を果たし戦線を維持する。 そこで時間を稼いでしまえば、後のことはたやすい。 「術式、迷える羊の博愛!」 癒しの息吹が吹くと、リベリスタ達の傷が消えていく。光介の魔術だ。「万式実践魔術」の力は伊達ではない。 一層の勢いを得たリベリスタ達は猛然とエリューションにその力を叩きつける。 竜一の双刃が煌めくと、炎の塊を薙ぎ払っていった。 カルラの連打が赤い光を放ち、醜い蜥蜴を纏めて吹き飛ばす。 シュスタイナの風は悪霊ごと巻き込みながら、戦場を制圧していく。 「最近妙にイライラする事があったから、口汚くてごめんなさいね? ふふ」 エリューション達はその動きを止め、身を覆う炎もゆっくりと消えていく。 シュスタイナは一片の情けを与える事無く、さらなる敵に目標を定めるのだった。 ● 救出に向かったリベリスタ達が激しい戦いを行っている間、レイチェルもまた激しい、そして静かな戦いを繰り広げていた。 (……悪霊をどれだけ封じ込められるかが戦いの鍵) エリューション達の隙を縫ってはレイチェルは神秘の閃光弾を投げつける。 エリューションの目的は「仲間同士で争う時の感情を採取する」こと。恐怖で操れる一般人と違って、リベリスタ達は同士討ちを行わない。しかし、エリューションには無理矢理にそれを行わせる術があるのだ。状況さえ許せば、悪霊は迷わずその選択肢を取っただろう。 それをさせないのがレイチェルの役目。 失敗は許されないし、するつもりもない。光が幾度となく瞬く中で、レイチェルの眼は誰よりも精確に戦場を把握していた。 当然、取りこぼしのエリューションが攻撃を仕掛けようと迫ってくるが、巧みに距離を測る。 「この戦場、支配させていただきます」 レイチェルの言が語る通り、エリューションは盤上で踊らされるだけだ。 しかも、その先には待っているものがある。 「そんなんじゃミリーの火は消せない」 腕をエリューションの牙に食いつかれながら、ミリーの動きは止まらない。この程度の炎で彼女を焼き尽くすことなど出来ないからだ。 むしろ、エリューションに噛み付かれたそのままの状態から、敵ごと腕を振り回す。一層強大な炎がエリューション達を呑み込んでいく。 この程度の連中に『龍』を解き放つまでも無い。 「炭になるまで燃やしたげるわよ!」 「……にしても、生み出した奴が生み出した奴なら、生まれた奴もホント嫌な性格してるっすよね」 凍り付いたエリューション達を背にして、フラウは軽くため息をつく。最悪の魔術師と聞いてはいたが、そう評されるのも納得だ。 そんな彼ことを考えるフラウの目の前で、身悶えしながら苦しむ悪霊がうめき声を上げる。 「何処を見てる、あんた等の相手はうち等っすよ? 余所見してたら火傷で済むと思わない事っすよ、ホント」 挑発気味に言うと、再びフラウは宙を舞い、時を刻む。 既に大勢は決しつつあった。 確かに、この場にいるエリューション達は並みのものと比べて遥かに強力だ。しかし同様に、いやそれ以上たちにリベリスタ達は精強なのだ。 少年達の安全を確保したリベリスタ達まで戦いに動けば、その流れを止めることなど出来はしない。 竜一の放ったエネルギー弾を受けて、エリューションは大きく体勢を崩す。シュスタイナの風が吹き荒れる中、カルラの拳が精確に悪霊の首を1つ吹き飛ばした。 その時、ミリーが快哉を上げる。 「見つけた! 覚悟しろってのよ!」 「才は遠く及ばずとも、できることがあります……!」 光介は持てる力を駆使して、ペリーシュの術を解きほぐす。 わざわざ弱点を戦場に残しはするまいが、触媒となる存在があるというのなら何らかの手は打てるはず。この瞬間に生きる在野の魔術師の矜持は、見事にその隙を見出した。 そして、フラウも与えられたチャンスを逃すつもりは無い。 一足飛びに距離を詰めると、悪霊の核となる部分へ集中攻撃を仕掛ける。 雷光のように速く、そして淀みの無い連続攻撃。 「お前らの存在はうち等の邪魔だ。だから此処で朽ち果てろ」 最後の言葉が聞こえたのと、最後の刺突が放たれたのはどちらが先だったのだろうか。 ただ1つ明らかなことは、フラウの剣が引き抜かれると同時に悪霊の身が朽ち果てて行くということだけだった。 ● 「終わったか。まぁ……こんなもんか……」 全てのエリューションが消滅したことを確認して、凛はようやく深いため息を零す。 仲間や学生達を護るためにその身に刻まれた怪我は、スキルの効果もあって既に消えつつある。ただ、彼の負った役回りが危険なものだったことは紛れもない事実だ。 そんな凛がふと目をやると、戦う前にも増して不機嫌そうなシュスタイナの顔があった。それも無理なからぬ所だ。 「エリューションはさておき、理由はともかく『友人を殺そうとした』事実はこの人達の胸に残ってしまうのね……」 シュスタイナの語る通りだ。 たしかに少年達の命を救うことは出来た。しかし、この場で起きた事実を変えられるわけではない。何らかの手段で救うことが出来れば重畳と言えようが、そこまでの余力は無いのだ。 リベリスタであれば幾度となくぶつかる壁であろう。神秘の力を手に入れても、全てに届くほど強大な救いの手を持つことが出来る訳ではない。 「……本当に損な役回りだな、リベリスタってのは……」 凛は「全てを救う」など出来ないことなど知っている。 むしろ、そんな理想論は毛嫌いしている。 それでも、改めてため息を零すしかなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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