●ウィルモフ・ペリーシュ バロックナイツ使徒第一位に『黒い太陽』の異名を持つウィルモフ・ペリーシュという魔術師が居る。 かの魔術師はその実力よりも、生み出したアーティファクトが有名である。使用者を(当人の主観はともあれ)不幸に追い込み、狂わせ、そして破滅させる。 アークも何度か『W.P.』の刻印を持つアーティファクトの事件に関わっており、人間性の壊れた作品に嫌悪するものも少なくはない。 そのペリーシュが日本に拠点を向けたという情報を入手する。それはラトニャを放逐したというアークに対する復讐……ではない。神といってもいい力を持つラトニャの代替として、アークを必要としていた。神を放逐できる実力があるアークを倒せば、神に勝ったと言えるだろう。 ペリーシュはその矛先を北陸地方に向ける。その上陸をとめることは難しく、一般人へのダメージは計り知れない。アークは『万華鏡』を駆使し、かの魔術師とその作製物が跋扈する場所を必死に予知する。 そして―― ●ペリーシュ・ナイト かの騎士が通った後には屍のみが残る。 ペリーシュ・ナイト。かの魔術師の名を冠した自立型アーティファクト。主の命令に従い、その命令を遂行する。その中にはただひたすらに戦闘力を高めた個体があった。 その剣は血肉を喰らい力を増す。 その盾は命知らずを嘲笑う。 その外套はあらゆる加護を打ち払う。 その鎧は数多の戦士を身に宿す。 その兜の光に見つめられたものは呪いを受ける。 その手甲は生あるものを黄泉に誘う。 その祝福は歪んだ運命を凪に帰す。 その命令は反逆者の殺戮。ウィルモフ・ペリーシュに逆らうものを見つけ、切り裂く尖兵。 呪われた具足に身を包む人形。その呪いの強さゆえに、随伴できる者はいない。ただ一人、血の河を進む黒鉄の騎士。 触れるな。 『万華鏡』の出した結論は正にその一言。止めなければ殺戮を産む存在。だが、下手に触れれば命がない。嵐が過ぎ去るのを待つように、通り過ぎるのを待つのが最善だ。 予知された被害は一般人が百十七人、革醒者が八十九人。勧告が進めばもう少し減らせるかもしれない。だが、破壊することができればあるいは。 リベリスタにはその進路予想だけが告げられた。どうするかはリベリスタの自主性にゆだねられた。 貴方は『黒騎士』を―― |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年11月18日(火)22:51 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●十の心と一の鉄 触れるな。 アークの判断はその一言。冷徹な意見だが、組織としては見知らぬ一般人百十七人と革醒者八十九人の命よりもアークのリベリスタの無事のほうが優先される。ウィルモア・ペリーシュの脅威を考えれば、損害は少ないに越したことはない。 それでもなお戦いに挑むものがいた。 それは愚行か蛮勇か。それとも危険を顧みず人を助ける勇者か英雄か。 おそらくはそのどちらでもない。それは結果が示すこと。 彼らはリベリスタ。革醒した力を振るう戦士。 十人の戦士と黒騎士が、今邂逅する。 ●破界器を掲げ 「ペリーシュ・ナイト……ですか」 その姿を認め 『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は静かに言葉を紡ぐ。護り刀『月標』を手に、その姿を強く睨む。殺戮を運ぶ絶望の黒騎士。だがそれは、仲間達の手で打ち砕けると信じて呼吸を整えた。 「厄介なものを作ってくれたわね」 『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)は十字架を手にして祈るように呟く。ただ強さだけを求めた自立型アーティファクト。その強さを高める為に捧げられた哀れな少女。黒騎士に挑むものと、少女を救うため小夜香は祈る。 「避難勧告がうまくいくといいけど。……負けてやるつもりはないけどな」 破界器を握り締めながら『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)はここより先にある街のことを思う。戦略司令室長に避難勧告を出してくれるように頼んだ。その際に挑むなと注意を受けたが、それは夏栖斗の中で許されないことだった。 「神に挑む男の作品か」 生命の鼓動を感じないペリーシュ。ナイトを前に『破壊者』ランディ・益母(BNE001403)が唸りを上げるように口を開く。負けるわけにはいかない。その気迫を乗せて長年使っている斧を振るう。ここでこいつは破壊する。 「強烈なまでの拒絶の気配。なるほど、これが同属嫌悪か」 熱を奪う炎の翼。それを広げて『パラドクス・コンプレックス』織戸 離為(BNE005075)が薄く笑みを浮かべる。それは心を読まれぬための作り笑顔。生命を拒絶し、干渉を拒絶する。拒絶するもの同士が会えば、答えは一つしかない。 「あれは姿形だけの屑鉄だ。恐ろしく強いだけの」 言葉静かに『桐鳳凰』ツァイン・ウォーレス(BNE001520)は構えを取る。いつもの御喋りはなりを顰め、ただ相手を倒す為に意識を集中させる。心の中に渦巻くのは戦意と、そして騎士の誇り。一歩近づくたびにその思いは強く渦巻いていく。 「もう見殺しには、しません」 圧倒的な敵を前にして『カインド・オブ・マジック』鳳 黎子(BNE003921)が歩を前に進める。相手の強さは理解している。一筋縄ではいかないことも。それを理解し、なお黎子は前に進んだ。負けることのできない理由が、心にある。 「挑むに決まってるっすよねぇ?」 『けろちゃんレインコート』のフードを軽く押し上げて、『無銘』布都 仕上(BNE005091)が笑みを浮かべた。強敵に挑む修羅の笑み。ここで力尽き果てようとも構わない。愉しませろよ、と期待に満ちた笑みがそこにあった。 「災厄を撒くかの者を止めずして何がリベリスタか」 自らの中に譲れぬ正義を持つ剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)。彼からすれば黒騎士の存在はけして許せぬ存在。蜂須賀の正義の名の元に、悪魔のような創造物を切り捨てる。刀の柄に手をかけ、迷うことなく歩を進める。 「ここで元凶を断たねば犠牲が増えるのは時間の問題であろうな」 グラサンのブリッジを押し上げて位置を直しながら『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)が息を吐く。この先には人々が住む町がある。ペリーシュ・ナイトをここから先に進ませれば、多くの命が失われる。それを許すわけにはいかない。 敵を認め、剣を鞘から抜く黒騎士。兜の中の鬼火が光り、静かに歩いてくる。 殺気や闘気のようなものは感じない。そこにあるのはただの器物。自立型アーティファクトに生物のような圧力はない。だがそれが返っておぞましくもある。 リベリスタは破界器を手に、黒鉄の鎧に挑む。 ●戦士達の行進 「カッ、出し惜しみ無しでいくぜ!」 ランディは戦斧を構えて黒騎士に向ける。幾多の戦いを超えて番の斧となった『リーガル・デストロイヤー』。世界の秩序を破壊すると誓ったランディの思いと共に変化した破界器。それを神を超える魔術師の尖兵に向ける。 過剰な力は必要ない。無限の魔力も必要ない。大切なのはそのバランス。闘気と魔力を融合させ、斧の刃物に集中させる。異なる二つの力を融合させ、振りかぶるように斧を古い力を放出した。破壊の力が矢となって迸る。 「俺は負けるわけにはいかねぇのさ!」 「キシッ。愉しませてもらいますよ」 握手をするほどの気軽さで仕上が黒騎士に近づいていく。とんとんとんとステップを踏んで。だがそこに隙はない。重心をずらすことのない移動は、切りかかれば即座に反撃の体制に移れる動作。 手甲を相手に押し当てる。触れた瞬間に鎧の厚みと硬度を理解し、体重をかけることで相手の重量を計る。頭の中で得た情報をイメージし、拳を押し当てた状態のまま、体重移動で衝撃を内部に『徹す』。外側ではなく内側を破壊する武技。 「うちの力がアンタにどれだけ通用するか。あぁ、今からとても楽しみだ」 「「『剛刃断魔』、参る」 名乗りを上げ、臣が前に踏み込む。金の竜眼で相手を捕らえ、『童子切』を抜き構える。剣士の才能がない臣ができることはただ一つ。相手に近づき、強烈な一撃を放つこと。ただそれだけのために自分自身を鍛え上げた。 相手の僅かな隙を見つけ、それを逃さず突撃する。刀が届く一歩前で刃の向きを変え、手首に力を篭める。最後の踏み込みと同時に体中の筋肉に力をこめ、大上段に刀を振り下ろす。一撃。それだけが自分にできる唯一にして最大の役割。 「チェェスト!」 「まずはその外套、剥がさせて貰うぞ!」 剣と盾を持ち、ツァインが黒騎士に迫る。体躯の違いこそあれど、両者の戦闘スタイルは酷似している。ならば一番その癖を読みやすいのは自分だ。一挙手一投足見逃すまいと目を凝らし、ツァインは剣を交わす。 剣と盾で牽制しながら、黒騎士に向かって斜めに踏み込む。そのまま体を回転させて剣の裏刃で黒騎士の外套を狙う。手首の回転を使った一撃。外套を外すには至らないが、刃は黒騎士の装甲に傷を残す。 「この程度の基本技は身についているか」 「相手は基本的に攻撃型……かな」 黎子は黒騎士の動きを見ながら赤と黒の双極鎌を振るう。黒騎士が持つ四つの戦闘パターン。それを見極めることができれば戦闘は楽になるだろう。最も、それを見てばかりはいられない。黎子は既に黒騎士の剣が届く範囲にいるからだ。 緩急交えた独特なステップ。それにより相手を惑わし五人の黎子を見せ付ける。虚が実となり、実が虚となる。四の分身が生み出した間隙を縫って、双子の赤黒刃が迫る。刃から伝わる鎧を傷つけた感触。 「『奴』へのとっておきのつもりでしたが……特別ですよ!」 「ペリーシュ・ナイト。心が無いのではなく、心が在る事を隠しているだけなのでは」 離為は『万華鏡』から得た情報を再構築し、その結論に至る。リーディングを妨げるジャミングなどの神秘は、心がないのなら意味がないのではないだろうか。精神に踏み入られることを嫌う離為だからこそ気付く事項。 黒騎士から大きく離れ、意識を集中する。離為の手に生み出される不可視の糸。自らの体力を削り生み出した糸が黒騎士に向かって飛ぶ。糸は黒騎士の腕に絡まり、その動きを一時封じ込めた。 「同類というのなら、答えは拒絶しかない」 「虚ろなる黒騎士よ、骸亡き屍の墓標と成れ」 伊吹が両腕に填めた白い腕輪を手にする。とある宝貝を模した腕輪は、長き戦いを共にした相棒。自律して動く黒騎士よりも、この腕輪のほうがよほど心在るように思える。サングラスの奥から黒騎士を見据え。腕輪を投擲する。 投げれば相手の脳天を砕くといわれたその腕輪。片や一直線に進み、片や蛇の如く激しく曲がりながら相手に迫る。直線の攻撃は剣で弾かせる為。本命は二段目。振り払った剣の隙を縫うように腕輪は兜を穿つ。 「我らが楔となろう。行くぞ、皆!」 「皆を護り、癒し、支えましょう」 肩まで伸ばした黒髪を揺らし、自分自身を包めるほど大きな六枚の白羽を広げる小夜香。自分の役割はどんな相手でも変わらない。仲間を守り、癒し、支えること。それこそが彼女の戦う理由。 両手を広げ、神秘の力を解放する。その姿はまるで誰かを抱くような形。緩し、安堵を与える聖母の抱擁。小夜香から放たれる優しき神秘の光が、黒騎士に傷ついたりベリスタの傷を癒す。戦う活力を与える癒しの力。 「風宮さん、よろしくお願いします」 「はい、来栖さん。負けるわけにはいきません」 頷き紫月が『カムロミの弓』を構える。伊邪那美神の祝福を受けたとされる御神木。そこから作られたといわれる弓。紫月に矢は必要ない。弓を張り、弦を鳴らす。静かに響くその音を集中のきっかけとして、術を構築する。 異世界『ラ・ル・カーナ』の世界樹とリンクし、その世界の力を引き出していく。三つの月が浮かぶ緑の世界。そこにある豊かな自然の力。その力を癒しに変えてリベリスタに届ける。異世界の風が駆け抜け、心と体を清涼に包んでいく。 「皆さん、がんばってください」 「おう! 絶対に守ってやるよ!」 炎の紋様が入ったトンファーを構え、夏栖斗が叫ぶ。かつては敗北を喫した相手。だがその悔しさよりも、予知された犠牲者を思いトンファーの柄を強く握り締める。通すわけにはいかない。自分のような悲しみを生み出さないために。 紫月との距離を一定に保ち、呼吸を整える。覇界闘士は自然の力を闘技に変える。自然を感じ、それに倣え。風の流れ、大地の安定。武器はそこにある。空気を裂く様にトンファーを振るい、風の刃を産む。乱戦状態の味方を縫い、刃が黒騎士に迫った。 「今度は絶対に負けるわけにはいかねぇんだよ!」 夏栖斗の叫びに黒騎士は答えない。殺意を返すことも無い。ただ淡々と鉄を振るう。 それはウィルモア・ペリーシュの創作物。死を刻む自律型アーティファクト。唯強さだけを求めた心無き存在。 戦う理由は感情ではない。欲望でもない。善悪でもない。正義でもない。それは殺すだけの木偶。指し手の命に従い、唯真っ直ぐに進む兵士(ポーン)。 全く異質の存在。それゆえの強さ。だが恐怖することなくリベリスタは破界器を振るう。 ●その心、熱く気高く 触れるな。 それは組織としての判断だ。それは黒騎士自体の戦闘力もあるが、ペリーシュ本人が日本に存在する以上、戦力を割いてまで押さえるべき案件ではないという損得勘定の意味もある。 彼らもそれが理解できないわけではない。小を捨ててでも大を取らなければならない時は確かに存在する。この判断を冷たいと思いながら否定できない所もある。 触れるな。 それでもなお彼らは挑む。それは―― 「一般人が百十七人、革醒者が八十九人の被害。そんなの看過できるわけがないだろう!」 夏栖斗は『万華鏡』がはじき出した数字を切り捨てることができなかった。純粋な数字で言えば二百六の、その家族を含めればそれ以上の悲しみ。それを看過などできようものか。失えば、戻ってこない。その悲しみを知っているから。 「誰かを護る。それが私の存在意義」 妹同然の相手を守るために革醒した小夜香。それは母を失ったことが起因しているのだろうか? この力は誰かを護るため。例えばここで戦う仲間の為。そして未来に失われるかもしれない命を守るために。 「ペリーシュ、神を超えようとするあんたの作品と、神(りふじん)を殺すと誓ったこの俺のプライドと。どっちが勝つか勝負だ!」 世界の秩序に挑むバケモノ。ランディは自分自身をそう称する。世界の残酷さに消えてゆく命。不平等な世界の選別。それを破壊するために。神を超えると豪語する魔術師の作品程度を壊さなければ、それができようか。 「誇りの籠らぬ木偶などを騎士と呼んでくれるな」 ツァインは強く剣を握り締める。脈々と伝えられた騎士の精神。目の前の黒騎士は確かに強い。だがそれは騎士の強さではない。戦い方は確かに西洋剣術の動きだが、そこに誇りは微塵も感じられない。あれは脈々と伝えられた騎士の技法を真似る冷たき鉄だ。 「この世界こそが私の居場所です。例え、貴方を作り出した第一位にも渡す気はありません!」 西洋魔術の一族に生まれ、しかし素養などの問題もありそれを学ばなかった紫月。特殊な環境でも挫折しなかったのは、ひとえに母の優しさがあったからだろう。母だけではない。仲間を初めとした周りの人たちがが支えてくれたから。その世界を、奪わせはしない。 「戦う理由がある。誰かの為じゃない。私が自分の意思で選んだ理由が」 怖くないはずが無い。黎子はそれを素直に認める。周りの人より力があって、運が悪いだけの人間だ。それでも戦う理由がある。誰かを守るという始まりの願いを胸に、黎子は臆病なまま戦場で踊る。 「無垢なる者から搾取した運命、還してもらうぞ」 ただ強さを得る為に捧げられた無垢な少女の祝福。それを思い伊吹は歯を噛み締める。ただそれだけのために生かされ、奪われた小さな未来。人はそこまで狂うことができるのだろうか。 「僕は蜂須賀だ。悪がそこにあるならば、蜂須賀の正義が何を為すかなど決まっている」 臣は話を聞いて迷うことなく言い放った。そこにあるのは蜂須賀と呼ばれる一族の心。この身は神秘的な害悪を撃ち滅ぼす一本の剣。迷うことなどあろうはずがない。そのために己を鍛え、磨き上げてきたのだから。 「分かり合えない事を、分かり合いに行こうか」 他人との拒絶を念頭において行動する離為。それは数多の呪いを共にする黒騎士と似ていた。共に他人を拒絶する同類。だからこそ理解できず、だからこそ殺すしかない。同類とは分かり合えないという事実を確認する為に、離為はここにいる。 「元より自分の歩もうとしている道は修羅の物だ。だから此処で朽ち果てようと悔いは無い」 修羅道を求める仕上はただ強い相手を求める。ここで力尽き果てればそれまで。ここで死んでもきっと笑って死ぬだろうことは、自分でもよくわかっている。さぁ、愉しませろ。繰り出される攻撃が仕上の血を熱く滾らせていく。 魔が飛び、癒しの光が瞬き、剣と矢弾が乱舞する。 戦場に掲げた思いは強く、それが戦いの支えになる。 心無き黒騎士にはそれがない。ただ一人、剣を振るう。 ●選択せよ。望むは勝利かそれとも―― リベリスタは扇型に展開し、ダメージ分散を行っている。右翼と左翼の距離を離し、広域攻撃を受けても被害を抑える陣形だ。 前衛で黒騎士を抑えているのはツァイン、黎子、臣、仕上。左翼側に展開する小夜香、伊吹、そしてその後ろに離為。右翼側に夏栖斗、ランディ、紫月。全員を回復範囲内に入れながら回復役をかばい、同時に攻撃を重ねていく作戦。 黒騎士は目の前にいる前衛の四人を攻撃する。剣に闇をまとわせて、薙ぐようにして四人を攻撃していく。 回復を行う者を庇っている夏栖斗と伊吹は、自分達に攻撃が飛んでこないので攻撃しようと破界器を構え、 「こちらを攻撃してこない……いや、違う」 「ああ、隙をうかがっている」 黒騎士の意図に気づく。ペリーシュ・ナイトは回復役を攻撃できないから、目の前の相手を攻撃しているのだ。回復を行う者を庇わなくなったら、その隙を縫って攻撃を仕掛けてくるだろう。これでは庇い続けざるを得まい。 「世界樹の風をここに」 紫月は自分を守ってくれる背中を見ながら、回復の術を放つ。その優しさゆえにいつも傷ついている人の背中。負けられない理由の一つ。その背中に守られながら、癒しの風を吹かせる。 「こっちに攻撃がこないって言うのは楽でいいけどな」 ランディは距離を離し、斧を振るう。放たれた衝撃波が黒騎士の体を揺らす。真芯を捉えることはできるが、痛がる様子は見られない。無機物相手はこうもやりにくいものか。 「今はダメージを蓄積してないとね」 後方から糸を繰り、離為が汗を拭う。使うたびに傷を受けるとはいえ二重の回復により離為のダメージはほぼ無い。黒騎士から攻撃が届かない場所から、確実に攻め続ける。 「んー、モード変化の様子はわからないっすね」 仕上は黒騎士の動きを注視しながら拳を振るう。黒騎士の四段階の戦闘モード。それを見極めないようと目を凝らすが、兆候は全く分からない。 「四変則? 四倍覚えりゃいいんだろ」 ツァインは黒騎士と切り結びながら言い放つ。耐えて覚えて喰らいつく。それがツァインの戦い方。剣と盾を振るい、相手の動きを体に刻む。 「連続でいきます!」 黎子は鎌を掲げて黒騎士に特攻する。積み重ねた努力とそして運。それが黎子の武器。運がよければ大打撃を与え、運が悪ければ間合を外す。相性が悪いとすれば、黒騎士は不運を撒き散らす技を持っていることか。 「こちらから攻めさせてもらうぞ」 臣は黒騎士の背面に回りこみ、剣を構える。相手の嫌疑の間合から外れるためだ。自分を狙ってくるのなら、仲間が助かる。それを見越しての行動だ。断魔の剛刃が鎧を削る。 「慈愛よ、あれ」 小夜香は必死に癒しの光を放ち続けていた。自らの意思を力に変え、神秘の癒しとして解き放つ技法。ホーリーメイガスの技術の粋。その二つを重ね合わせた白い光。 紫月と小夜香、二人の癒しは確かに強力だ。だが、それを上回る破壊がリベリスタを襲う。斬神の剣が無双する。 「屑鉄相手に遅れはとらねぇ!」 「死んでも生き残りますよ!」 黎子とツァインが黒騎士の攻撃を受けて膝を突く。運命を燃やしながら自らを傷つけた剣を見た。黒騎士の持つ剣が鋭さを増す。気のせいか、剣が悦びの笑み浮かべているように見えた。 「まだ負けるわけにはいきません」 黒騎士の剣が臣を捕らえる。強く鋭い一撃。成程強い。だがアークはもっと強い。それを証明する為に運命を燃やして立ち上がる。 磐石を引いて一進一退。確実にダメージを蓄積しているのだが、互いに決定打には一手足りない。 (攻撃の矛先が変わった……?) それに気づいたのはツァインだった。自分達に向いていた攻撃が弱まり、別のほうに向いているのだ。一人、敵背後に回りこんだ臣の方に。 「問題ない。僕を狙ってくるなら、それだけ仲間への攻撃は減る」 ダークナイトの闇の舞踏を避けるために背後に回った臣。背後に回れば剣の範囲から外れる。こちらを追って来るのなら、仲間が件の範囲から外れることになる。その狙いもあった。 だがそれは、一人囮になるということだ。 黒騎士の剣は臣に集中して振るわれる。黒騎士は純粋な一撃の強さでは臣に劣る。だが的確な剣技が臣の急所を傷つけ、追い詰めていく。 そして物理的に黒騎士が邪魔になり、孤立する臣を庇いに行くことができない―― 「か、はっ――!」 そして臣が黒騎士の剣技の前に力尽きる。刻まれた命令(プログラム)に従い、地に伏した臣にトドメを刺そうとするペリーシュ・ナイト。 「まずいですっ!」 倒れた臣を救うために動いたのは黎子。そのためには背後に回った臣のところまで移動し、抱えなければいけない。それは彼女一人が孤立することになる。その彼女に迫る黒の一撃。 「あ……」 盾で即頭部を殴打され、黎子は意識を失う。運はこの瞬間。彼女に味方しなかったようだ。 ツァインと仕上は助けに動こうとしない。ここで動けば二の舞だ。最悪足止めが出来なくなる可能性がある。それを避ける意味ではその判断は正解といえよう。 それを察したのか、離為と夏栖斗と伊吹が前衛に迫る。だが外套の効果を考慮して一足で踏み込める距離から離れていたことが仇となる。仲間を助けるために全力で走れば、その分行動はできなくなるのだ。離為に至っては遠く離れすぎていた為、全力で迫っても届かない。 磐石を引いてなお一進一退。 その均衡が、崩れていく。 ●ペリーシュ・ナイトとリベリスタ 夏栖斗や伊吹はアークでもかなりの実力を持つリベリスタである。 だが、臣と黎子の倒れた位置まで移動し、仲間を庇いながら抱え、離脱する。それが一動作でできるわけではない。その間彼らが担っていた回復役に対する防御は滞ることになる。それを察した離為が慌てて小夜香を庇いに戻る。 黒騎士の殺意が右翼側に走る。無明の闇を飛ばし、絶望の一撃がランディと紫月に迫る。前衛でも戦えるランディは痛みに耐えるが、紫月はこれに耐え切れなかった。運命を燃やし倒れ込むのを何とか耐える。回復を皆に施しながら何とか戦線を維持しようとする。 「くそ、やってくれるな」 臣を抱えて紫月の元に返ってきた夏栖斗は、相手の行動に舌打ちする。倒せる敵を徹底的に攻める。集中砲火は戦闘の基本だ。仲間がこれだけ傷ついているのに、夏栖斗はほぼ無傷。目の前で崩れ行く仲間を見ることが真に悔しい。 「庇い役は任せたぞ」 伊吹は小夜香を離為が庇っているのを見て、攻めに転じる。抱えていた黎子を戦場の外に移動させ、、白の腕輪を投げつける。腕輪は的確に打撃を重ねるが、倒れた臣と黎子の二人分を埋めるには流石に足りない。 回復役を庇い始めれば、黒騎士の剣は自らの足を阻む前衛達に向く。 「こいつはきついっすねぇ」 黒騎士の闇の武技を受けて、額から流れる血を拭う仕上。運命を削りながら笑みを浮かべて拳を構える。強い。それが彼女の背筋を震え上がらせる。恐怖ではなく歓喜の震え。 「俺達は似ていて真逆だな。空っぽの強い鉄屑と、誇りに縋る弱い鉄屑だ」 剣と盾で打ち合いながら、ツァインが黒騎士に語りかける。何もかもを棄てて強さを得た鉄と、誇りを持った鉄が激しくぶつかり合う。 「くたばりやがれ!」 ツァインの競り合いが離れた瞬間を見計らって、ランディが衝撃波を放つ。連携もあってか盾の防御は間に合わない。手ごたえは確かにあった。 「全く、その強さはもはや呪いだね」 小夜香を庇いながら離為がぼやく。様々な武具と祝福を受けたペリーシュ・ナイト。それ自体がもはや呪いだ。これだけリベリスタの猛攻を受け、倒れる気配がない。 「倒れないはずはありません」 慈愛よ、あれ。小夜香の祝福がリベリスタに飛ぶ。術の行使は紫月の緑光もあって問題ない。このまま回復しながら攻め続ければ勝てる。相手が倒れないはずがない。そう言い聞かせて、祝福を奏でる。 「こんな時にっ……!」 異世界の回復術は世界樹との交信具合の関係もあるのか、安定しない。三割ほどの確率で不具合が生じる。紫月は不十分な効果に終わった術を悔やみながら、戦局を見た。 黒騎士には着実にダメージを重ねている。相手が創造物であることもあり痛がる様子は見られないが、かなり追い詰めているのは確かだ。 だが、足りない。 磐石を引いてなお一進一退。打ち勝つにはさらにもう一歩必要だった。 それは例えば、味方を守るために囮になることを選んだ臣のような策が。彼の意図を汲み、囮として見捨てて攻撃を敢行していれば勝利の道は見えたかもしれない。 だがリベリスタはそれを望まなかった。仲間を救うために陣形を崩し、手を遅らせた。その遅れが一進一退の状況を崩し、戦局は黒騎士に傾いたのだ。 それは勝利のみを求める黒騎士と、仲間を思うリベリスタ。それだけの違い。ただそれだけの、しかし戦局を揺るがす大きな一手。 幻影を思わせる剣の動きがツァインと仕上を地に伏す。それを見てランディが決意した。 「撤退するぞ!」 「いや、俺達はほぼ無傷だ。勝機はある――」 「駄目だ! あの手甲がある以上、気を失っている者をここに置くのは危険すぎる」 その言葉に一筋の汗が流れる。戦場にいる者の体力を奪う手甲。戦闘不能者からも体力を奪うというのなら、ここに長居させておくのは危険すぎる。 リベリスタ達は頷きあい、動けない者を抱える。伊吹を殿にして、撤退を始めた。 黒騎士からの追撃を凌ぎながら、何とか全員戦闘圏内から離脱する。傷は浅くはないが、何とか生きている。それだけが救いだった。 ●黒騎士は今もなお その後―― リベリスタが黒騎士に与えたダメージにより、黒騎士の進行が遅れた。予知された分よりも犠牲者の数は少なくなった。 一般人四十六人と革醒者三十六人。 助かった命を喜ぶ声もあれば、救えなかった命を嘆く声もある。 だがそれらは物事の本質ではない。真に目を向けねばならぬことはただ一つ。 ペリーシュ・ナイトはまだ、生きている。 黒騎士は、主の命に従い殺戮を繰り返す―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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