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雪白家・嵐の訪れ

●日常系でバトルもの
 雪白 音羽(BNE000194)と雪白 万葉(BNE000195)は、それぞれ休憩室のベンチに座っていた。
 その辺の自販機から出てくる薄いんだか濃いんだか分からない紙コップのコーヒーを手に、一息ついているところである。
 ついさっきまで、VTSで戦闘練習をしていた所のようで、お互い汗はかかずとも疲労はしているようだった。
「兄貴、最近どうよ」
「……なんですか、その抽象的な物言いは」
「会話になりそうなことが思いつかねえから『どう』っつってんだよ!」
 僅かに液体の残ったコップを握りしめて立ち上がる音羽。
 一方の万葉は中指で眼鏡のブリッジを押し、涼しい顔で受け流していた。彼にとってはこれも挑発行為のひとつである。
「ちょっと、休憩中にまでゴタゴタするのはやめてくださいよ」
 端から見ていた雪白 桐(BNE000185)がココア片手に眉を寄せた。
「「…………」」
 音羽は顔をしかめてベンチに座り直し。万葉は目をそらした。
 三男(三男ですよ)の桐は三兄弟きっての稼ぎ頭である。アークに所属する彼ら中で最も多くの現場を経験し、最も多くの経験を積み、最も金を稼いできている妹……じゃなかった弟なのだ。気持ちが複雑すぎて、いまいち反応しづらい兄心なのである。
「折角私の誕生日に集まったんですから、もう少し仲良くして下さい」
「いや、俺は別にそういうつもりじゃあ」
「そうだ音羽。男はもっとどっしり構えてないとね」
「――!?」
 急に耳元……というか真隣から声がして、音羽はびくりと立ち上がった。
 驚いたのは彼ばかりではない、万葉もである。
 なぜならその声の主は、万葉と音羽が微妙に空けていたスペースを埋めるように、そしてまるで映像を切り貼りしたかのごとく唐突に現われたからである。
 手には緑茶入りの紙コップ。しかも液体は少しも波打っていない。
「万葉、あんたもだ。無言実行も悪くはないが、弟にくらい優しくしてやらないとね」
「…………」
 『彼女』を見た万葉の喉が、ごくりと鳴った。
 彼にしては珍しい反応である。
 だが、むべなるかな。
 そこにいたのは雪白 花梨(BNE005090)。
 彼らの叔母にあたる女である。
 いつの間にかそこに居て、まるで隙だらけの振る舞いをするが……彼女がその気になれば万葉と音羽の首を同時に切り取るくらいのことはできるのだ。
 つい、反射的に身構えてしまう桐。
「おば……花梨さん。なぜここに? というより……『なぜ現世に?』」
「ふむ」
 花梨は一度ゆっくりまばたきをしてから、桐を見やった。
「なにか、不思議なことでもあったかい?」

 雪白花梨は桐たち三兄弟の叔母である。
 あえておばさんと呼ばないのは、その呼び名を口にした途端見えない掌底が鼻っ面を打つからだ。具体的には人の認識範囲パターンや反射を利用した古武術の一種らしいが、かつて幼かった彼らにはただの恐怖の対象である。
 して、なぜかつてのなんて言い方をしたのかと言えば、彼女がナイトメア・ダウンで死んでいたはずの人間だからだ。
 いわゆるパラドクス事変をさかいに生きていた人が死んだり死んだ人が生きていたりということが『まれによく』発生している。
 花梨も当時を生き延びた事実ができてしまったようだが、現代においても姿を見せないので『あのあとなにかの拍子で亡くなったのかなあ』くらいに思っていたが……。
「桐の誕生日なんだって? 私も親戚として、それなりにプレゼントをしないといけないと思ってね」
「へえ、そうだったの」
「親戚思いのおばさんだよねー」
 ソニア・ライルズ(BNE005079)と月草・文佳(BNE005014)が、いつの間にか混ざっていた。
 いや、こちらは気配を感じなかったわけではないが、花梨のインパクトに引きずられて忘れていたようだ。
「――」
「――」
 花梨の掌底が高速で放たれ、ソニアはそれを片手で受け止めた。その上でがっしりと手を握る。
「それで、そのプレゼントっていうのは?」
「ああ、それね」
 文佳が真顔で言った。
「『遊んでやる』そうよ」
「「…………」」
 雪白三兄弟は、それぞれVTSの予約表示を見た。

 雪白万葉、雪白音羽、雪白桐
 VS
 雪白花梨、ソニア・ライルズ、月草・文佳

 あ、今日死ぬのかな?
 直感的に、そう思った。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:EASY ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年11月07日(金)22:12
 ご用命ありがとうございます。八重紅友禅でございます

 今回は三対三のVTS戦闘となっております。
 ルールは完全実戦想定型。
 VTSフィールド上に仮想構築した遊園地が舞台になっています。
 規模の小さな遊園地ですが、最低限の乗り物が稼働しており、それなりに色々現実に近いものが設置されています。

 戦闘判定は実際のステータス数値三割、プレイングによる行動補正七割という形で行ないます。例を述べますと、白紙の100相手にアイデアを利かせた50が勝てます。レベルの差がとんでもないことになっているので、一応のハンデとしてして設定しました。
 プレイングの相談はお互い見えないところ(?)でこっそりやりましょう。

 ちなみに三兄弟が負けたら花梨さんに好き放題いじられるそうです。特設スレッドがはかどりますな。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
ハイジーニアスデュランダル
雪白 桐(BNE000185)
フライエンジェマグメイガス
雪白 音羽(BNE000194)
ヴァンパイアプロアデプト
雪白 万葉(BNE000195)
アウトサイドマグメイガス
月草・文佳(BNE005014)
ハイフュリエレイザータクト
ソニア・ライルズ(BNE005079)
アウトサイドデュランダル
雪白 花梨(BNE005090)

●雪白VS雪白
 銀色の閃きが交差した。
 強烈な金属的衝突音の後に、雪白 桐(BNE000185)は大きくその場を飛び退いた。『まんぼうを薄くしたような』といいつつそのビジュアルが一向に明らかになっていない剣こと『まんぼう君』を握りしめ、両足で地面にブレーキをかける。
 すぐそばを駆け抜けていった無人ジェットコースターが風を起こし、桐の髪をざわざわと浮き立たせる。
 本来、パワー型の桐がこうして押し返されることは希だった。それはまあ、巨大な化け物やら超常現象やらを相手にするなら別だが、今の桐が人間へと斬り込んで、その勢いが通らなかったことはあまりない。参考までに上の兄二人に全力の斬撃を叩き込んだ場合死ぬ。冗談や比喩ではなく普通に死ぬ。
 そんな斬撃が。
「ふむ。なるほど、なるほど」
 彼女……いやさ彼の叔母、雪白 花梨(BNE005090)に対しては。
「どうしたものかね、これは?」
 無傷。
 ノーダメージであった。
 刀を鞘に収め、直立不動。
 先刻立っていた場所から一ミリたちとも動いていない。
 桐の主観で述べるなら、巨大な鉄柱を棒で叩いてしまった時のようなものである。手のしびれとはじき返された自分がいただけで、相手に何の影響も及ぼしていないのだ。
「自分が死んだことが改ざんされたのはまあ、歓迎しておこう。甥が姪になっていたことも、ついでに歓迎しておこうか?」
「そう見えますか? 光栄ですね。それより……」
 桐は次の攻撃に備えてじりじりと間合いを詰めていった。
 自分が一番得意な間合いにだ。
「花梨さんの記憶と私の記憶、どのくらい違いがあるんでしょうね。一度お話してみたいものです」
「それはまた今度、甥っ子で遊……甥っ子と遊んでからにしようか」
「今なんで言い直したんですか」
「ほら、次行くよ」
 花梨が一歩踏み出す。距離にして10m。いくらなんでも刀の間合いではない……が、彼女が上げた足を下ろした頃には桐の真横に立っていた。間合いの内側。それも死角。
 咄嗟に肘で突き飛ばそうとした桐だったが、その肘が筋にそって切り裂かれていた。
「――!?」
 桐の肉体が自動修復を始めるが、花梨は刀の柄に手をかけ――抜いて、刺した。直後、桐の首筋がばっくりと裂け、噴水のように血が噴き出していく。
 血がかからないようにか反対側にいつのまにか回り込み、花梨は指で桐の顎を掴んだ。
「ほら、がんばりな。一太刀いれたらお小遣いをやるよ」

 桐と花梨が壮絶なバトルを繰り広げている最中。
 雪白 音羽(BNE000194)と雪白 万葉(BNE000195)は劣勢に立たされていた。
 回るメリーゴーランドを背に、既に満身創痍であった。
 全身ズタボロ、息はあがり、死ぬまであともう一息という有様である。
 彼らの名誉のために詳細な状況を描かないでおくが、わざわざ寄り添っていた『ゲーマー』ソニア・ライルズ(BNE005079)と『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)に葬送曲・黒やピンポイント・スペシャリティを開幕早々浴びせまくり、キメキメのカットインやエフェクトつきで『やったか!?』と言った瞬間チェインライトニングと虚空が飛来し、いきなり瀕死になったという有様である。ちなみに文佳は『男の子にトラウマを与えたら可哀想だから』くらいの理由で可能な限り手を抜いていた。彼女の『手を抜く』が平均レベルのE能力者をズタボロに出来る威力であることは、まだ自覚していないようである。まあね、この人が本気でチェラったらこの試合二十秒で終わるからね。
「兄貴……やべえぞこれ……」
「言われなくても分かってます」
 白目をむいてガタガタ震える音羽。
「ドラゴンボールとかでエネルギー弾連射したときのベジータってこんな気持ちだったのかな」
「明確な作品名を出すのをやめなさい。行儀が悪い。それに意味がわかりません」
「言ってる場合かよ! つーか、マジでやべえんだぞコレ。俺たちたぶん、漫画とかで強キャラの強さを表現するためのキャラみたいにされちまうぞ」
「だれがヤムチャですか」
「知ってんじゃねえか! ――ハッ」
 と、そのとき音羽の頭上で豆電球がぺかーってした。
 眼鏡のブリッジを中指で押す万葉。
「……何か閃いたようですね」
「ああ、起死回生の打開策だぜ。耳貸せ」
「嫌です」
「いやそこは貸せよ!」
 無理矢理肩を組むような姿勢になり、音羽は万葉に耳打ちした。
「   」
「   」
 一方、文佳とソニア。
 二人はやんわり腕を組んで雪白兄弟が耳打ちしている様子を観察していた。
「何か話してるわね」
「作戦会議かな? この試合、タイム制あったっけ」
 こっちに気づいて両手でTサインを出してくる音羽。
「あっ、やっぱりタイムだったのね、アレ」
「ゲームみたいなものだし、タイムは別にいいけど……」
「けど?」
 ちらりと、ソニアの横顔を見る。
 ソニアはうっすらと笑って兄弟たちを見ていた。
「あたし、ゲームで負けるの嫌いなのよね」
「……」
 視線を下ろすと、手の中で閃光弾がスタンバイ状態になっていた。
 ソニアは待っていたわけではない。タイムにのったふりをして集中しまくっていたのだ。
 文佳は顔を青くした。
 このままでは未来ある若者たちがアラサー女子にトラウマを植え付けられてしまう。これが原因で女性恐怖症にでもなったら一大事だ。なんとかしなければ。
 ……と、文佳は思っているが、彼女が頭の中で構築している『可能な限り雪白兄弟を勝たせてあげるプラン』は音羽万葉のレベルが今の二倍ないと成立しないという、あまりに厳しすぎるものだった。相変わらず基礎スケールの大きすぎる女である。
 と、ソニアがそろそろフラバン投げようかなと思い始めた、その時。
「「作戦開始!」」
 音羽と万葉はそれぞれ別方向に全力でダッシュしはじめた。
「逃げた!?」
「ここは二手に分かれましょ? ね?」
 文佳は咄嗟にソニアへそう持ちかけた。
 片方を二人で追いかけようものなら瞬殺は確実。となればリスクを減らすしかない(タイマンでも瞬殺しそうなことは計算に入っていない)。
「あ、それはおもしろそう」
 ソニアは高下駄に魔力を集中させると、凄まじいスピードで万葉の方向へとすっ飛んでいった。
「……よしっ」
 文佳は小さくガッツポーズをとり、音羽を追いかけた。
 レンジャー部隊の人が数時間にわたって対象を追跡しつづける時のフォームで。

 音羽サイド。
 23歳成人男性、雪白音羽は恐怖していた。
 常に5m後ろをつかず離れず、息も切らさず真顔でぴったりついてくる文佳にである(ちなみに文佳は彼を傷付けないようにと追いつけないフリをしているつもりだった)。
 夜道で遭遇したら確実に泣くレベルのヤツである。ぱっと見普通のお姉さんなのもより恐怖を引き立てていた。
 だが算段はある。音羽は持ち前の機転の良さから文佳がこの勝負に乗り気で無いことを見抜いていたのだ。
「文佳さん!」
 音羽はブレーキをかけ、ざっと身体を180度転身させた。手を翳し、『待った』の姿勢をとる。
 周囲をうかがってみるが、他に人は居ない。
 くるくる回る乗り物が後ろで愉快な音楽を奏でているせいで、他の声も聞こえない。
 チャンスだ。
「文佳さん、こっちにつかないか?」
「ん……うん?」
 首を傾げる文佳。音羽はここぞとばかりに畳みかけた。
「俺らが負ければ地獄の特訓が待っているのは確実だ。水を飲ませない野球部の特訓みたいなヤツだぜ。それは絶対イヤだ。俺も背に腹は代えられねえんだ。だからな、買収ってわけじゃないんだが……高級ホテルのデザートブッフェを奢るから、手を打ってくんねーか」
「ほう」
 文佳の目が細くなった。
 一歩ずつ近づいてくる。
「六本木にある一食数万円のやつでも?」
「ぐうっ……い、いいぜ」
 更に近づいてくる。
「友達呼んでも?」
「そ……それでも、まあ……」
「そっかあ」
 文佳はやんわりと微笑み、片手を出した。握手の姿勢だ。
 音羽はほっと胸をなで下ろし、右手を出した。
 そして、違和感に気づく。
 握手ができない。
 文佳は、左手を出していた。
「それはちょっと男らしくないと思うなあ、あたし」
「――!?」
 次の瞬間、集中つきのシルバーバレットが音羽を貫通した。
 音羽が軽く三回は死ねる威力だった。

 一方こちらは万葉サイド。
 音羽の悲鳴がどこか遠くから聞こえ、万葉は静かにこめかみを押さえた。
 どうやら彼の言う買収は失敗したらしい。まあ、交渉のうまそうなやつではなかった。しかたないといえば仕方ない。
 一度目を閉じ、うっすらと目を開ける。
 思えば桐は成長した。親の遺産に手をつけること無く、自立するためにと自分の力で稼がせていたが、気づけば自分の倍以上の稼ぎを持ってくるようになった。遺産など無くても一生遊んでいられる額を持っているかもしれない。……それはないとは思うが。
「さて、と」
 万葉は走っていた足をぴたりと止めた。
 停止中のティーカップコースターの上である。
 気品ある仕草で振り返ると、ソニアが同じくコースターの上で立ち止まっていた。
 手の中で何かを握りつぶしている。
「あら、もう観念した? 撃ち合いする気になったかな?」
「ご冗談。あなたと撃ち合って勝てる自信はありませんよ」
 万葉は舞台役者のように腕を広げ、肩をすくめて見せた。
 そして片手を翳し手品のように一枚の写真を撮りだした。
「これがわかりますか?」
「それは――」
 ソニアの目に動揺がはしる。
「さすがソニアさん、パッケージ写真だけで分かりますよね。某ゲーム会社の非売品特典および限定パッケージのハードを用意しました。これで、買収されてみませんか」
「あたしを買おうってこと」
「このチャンネルに最近きたあなたなら、このゲームのクリスマス限定パッケージが既に販売していないことも、付属の限定カラーリングマイクが高いプレミアがついていることもご存じでしょう。そして手に入れることは非常に困難なはず。なに、単に戦う相手が変わるだけの話ですよ。私たちにあっけなく勝つよりずっと訓練に」
「持ってる」
「え」
「それ持ってる」
「……」
「千葉の中古屋で積み木みたいに積んであったわよ。大体五千円くらいだったかしら(※実話です)」
 万葉の表情を的確に表わすことが困難なため、あえて限定的な表現をするが、渾身の奇策が破られたときのルル山さんの顔をしていた。
 家電法の影響で中古屋でも扱ってないだろうからとネットオークションで必死に競り落とした自分を思い出してすんごいショックを受けた。なんで売ってんだよその店。非売品だっつってんだろ。
 だがこうなってしまっては仕方ない。
「ならば交渉決裂ですね。次の柵を――」
「あ、ところで」
 ソニアは顎を上げ、胸をすくい上げるように腕を組み、やんわりと上半身を乗り出した。
「妹の稼ぎで食べてる兄って……つまり、ヒモ?」
「断じて違います……!」
 万葉の額の血管がぶちりと切れて血を吹いた。
 全てにおいて違うぞと思ったが突っ込みが追いつかず先に血が上ったのだ。というか、アッパーユアハートが直撃したのだ。
 この後、万葉は魔弾を連射しまくり、その全てを蹴りだけで弾かれ、最終的に零距離虚空蹴りで腹に穴を開けられた。

 兄たちがアラサー女子の厳しさを身をもって体験した頃、桐は花梨に追い詰められていた。
 無人ジェットコースターの上に乗り、猛スピードの急降下を絶妙のバランス感で流しつつ、桐は花梨へと斬りかかる。
 横薙ぐように繰り出された斬撃を花梨は最低限の後方移動だけで回避。直後に間合いを詰め、刀の柄に手をかける。
 見えない斬撃が桐の胸をまんじ模様に切り裂き、追撃の蹴りが桐をコースターから突き落とす。
 桐は落下のエネルギーを殺すこと無く、建物の屋根を破って屋内へと突っ込んだ。
 ぴょんと飛んで、同じ穴から侵入する花梨。
 と、そこで気づいた。
「おや、桐。見ないうちに随分知恵を働かせるようになったねえ」
 花梨は無数の花梨に囲まれていた。
 否。鏡に映った自分に囲まれていたのだ。
 ここはいわゆる鏡迷路。方向感覚を狂わせ、壁の存在を曖昧にする。
 実力に物を言わせる完全実力派の花梨と、パワー系の割に集音装置やハイバランサーを細々と使いこなす器用な桐とで、この環境への適応度はかなり違う。
 桐は外から入ってくる音や自分の足音から迷路内の構図をある程度把握しつつ、物陰から花梨の様子をうかがっていた。
 わざと反響するように大声で語りかける。
「花梨さん。あなたは相手の感覚を逆手に取った防御術や回避術、そして攻撃術を得意としていますが、ここまで避けようのない場所なら、私の攻撃を受けざるをえないんじゃないですか」
「……」
「逆に、私はあなたの視界から外れつつ、巧みに逃げ隠れすることができる。受けたダメージも着実に自動回復していく。あなたは――」
 物陰から飛び出す桐。全方向から襲ってくる彼女の虚像に、華琳は構えた。
「私の手の中に落ちたんです」
 壁だらけの場所だが、鏡をギリギリ傷付けないフォームで剣を繰り出す。
 花梨はその斬撃を防御しきれず、肩にざっくりとした傷をつくった。
 それを確認し、ヒットアウンドウェイで即座に壁の後ろへ引っ込む桐。当然同じ場所に留まること無く別の攻撃ポイントを作っている。
 一方の花梨は。
「うん、うん……」
 口元に手を当て、なにかを考えていた。
「降参ですか、花梨さん。私が勝ったら、花梨さんもコスプレしてもらいましょうかね」
「えっ? こらこらっ、私になんて格好をさせようっていうんだいこの子は……!」
 顔を赤くして両手をばたばた振る花梨。そのすぐ背後の壁を破り、桐は集中を重ねた強力な斬撃を繰り出した。
 目の前の物体を真っ二つに切り裂き、周囲の鏡も含めてぶった切る。
 すべてのものが砕けて壊れ、崩れて落ちる。
 そして顔を上げた桐――の背後に、花梨が立っていた。
「な――ッ!」
 避けていた? どこから打つか分からなかったはず。
 分かったことと言えば……そうか、『打ち方』か!
「策を使う時はだね」
 斬撃が繰り出された。
 閃きすら見えない。桐は空中に弾き上げられ、さらなる斬撃が逆方向から繰り出される。
「逆利用されることを考えて」
 空中に浮いたまま一向に落ちない。横方向からさらなる斬撃が来る。
「その次の策を本命にしておくくらいが、ちょうどいいんだよ」
 花梨の刀が、目にみえた。
 なぜなら、桐の両目を横一文字に切断するために繰り出されたものだからだ。
 それが、最後である。
 花梨はぱちんと刀をおさめ、その直後、全身を十八分割された桐がぼたぼたとその場に落ちた。

 VTSの終了表示が現われ、彼らは五体満足のまま現実世界へと帰された。
 勝利表示は花梨側のチーム。
 そして、『おしおき』の時間が始まった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 なんでハイエンドクラスの三人を当てたし。
 と思いましたが、雪白三兄弟の魅力もぐいぐい出せた気がするので、それはそれで楽しい試合になったのではないかと思いました。まる。
 あとVTSの勝負なのでフェイト減少はナシです。社会的フェイトは知りません。