●『お菓子食べる日がやってきた!』と26歳児は供述する。 「Trick or Treat!」 馬の被り物をした桃色の翼の少女(?)がハイテンションで手を差し出している。 翼の色と140cmちょっとの背丈から『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)であることは解るが、ブリーフィングルームに入ったらフォーチュナがこれだった――というのはどういう状況なのだろう。 「ハッピーハロウィン! 素敵な一日になればいいなあ。ってな訳で、迷路に遊びに行きましょう? 素敵な場所なのよ。ジュウガツサクラやシキザクラも咲いたちょっと不思議な場所」 両手を合わせた乙女チックなポーズをとった世恋だが、馬の被り物をしていると台無しだ。 月鍵(26)のイベントへの異常なハイテンションと馬の被りモノのセンスを心配そうに見つめている『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252)は「役目を失えば消える無害なアーティファクトらしいぞ」と付け加えた。 鬼ごっこ、かくれんぼ、肝試し、魚類探索に動物園スタンプラリー、ケーキ投げ大会。 そんなロマンチックの欠片と良心を何処かにやってしまっていた世恋の珍しい『マトモ』なお誘いは「迷路」と言う言葉で霞んでいる。 「……ロマンスの欠片もないと思うでしょう」 勿論、と頷かずにはいられない。 「桜と言えば春……でしょう? でも、秋に咲くものもあるのよ! それに迷路、迷路よ! お手手を繋いでお化けが出てくる所を行くなんて、ドキッとしない!? 青春よね!? 青春なんて私にはなかった! あ、本物のお化けはNGです。私はお化け怖いです」 まくしたてておいて、ロマンスロマンスと連呼する世恋に蒐は苦笑を浮かべて見守っている。 「ご案内したいのはそんな秋に咲く桜がある迷路なの。ふんわりと南瓜の提灯が照らす『夜の迷路』。 とても綺麗だし、迷子になるのも良いと思うわ。こんな日なんだもん、足を止めてみるのも良いと思う。 あ、アーティファクトの中だし、肌寒さとかは感じないし、仮装しても良いと思うわっ!」 私みたいに、と胸を張る月鍵(26)。刺し身包丁に赤ずきんといった装いは恐ろしい。 広い休憩所に桜の花、迷路の難易度によっては驚かしてくる仕掛けも存在しているのだと言う。 なんちゃって肝試しなのだと世恋は言いながら「迷路に南瓜被った七面鳥放っておいたけど、怖いわよね……」と呟いた。ホラー的な意味ではないが、ある意味怖い話しだった。 「さあ、『夜の迷路』へ行きましょう? 休憩所にはお菓子も設置。秋だけどお花見もできるわ! ふふ、御一人なら私やあーちゃんと一緒に回りましょうね。素敵な思い出を作るのだって大事だと思うの」 不安が沢山な毎日だけど、時には楽しむのも良い筈だと世恋は柔らかく微笑んだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年11月08日(土)22:55 |
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● 「一生の内で、今日だけ。……っていうとなんだか凄く貴重だな」 2014年の10月末日。そんな『今日』だけを楽しむ様に感慨深そうに呟いた涼にアリステアは小さく頷いた。 ひらりと散った桜ひとひら。何処か興味深そうに瞬くアリステアはジャック・オー・ランタンから漏れだす光りに「可愛いのならともかく、不気味なのは……」と困った様に肩を竦める。 ハロウィンの今日、アーティファクトで作られた迷路には沢山のお化けたちが存在しているのだと言う。不気味なお化けたちの事を考えてか、擦り寄る様に腕を組んだアリステアへと涼は何処となく苦笑を漏らし彼女を見下ろす。 「怖い? まあ、普段もっと怖いのと対峙して……」 そう言うのじゃないか、と頷いたのは「迷路が怖いからじゃなくって……」と何処となく照れたように呟いたアリステアの言葉からか。 涼が手にした南瓜の提灯がゆっくりと揺れ、二人揃って迷路の中へと足を踏み込む。ふと、顔を上げたアリステアが「涼」と伺う様に呼んだ。 「Trick or Treat? お菓子くれない場合の悪戯は……何して欲しい?」 ふ、と視線を南瓜の提灯へ向けて、そういえばハロウィンかと困った様に肩を竦める。お菓子か悪戯か。そう言われ、準備をしていない自分と『どんな悪戯が良い?』と聞かれた言葉に頬を掻いて。 「此処を出てから何かスイーツでも食べに行く方向で勘弁してもらえないだろうか」 「じゃあ、後で甘いもの食べに行こうね。楽しみ!」 にこりと微笑むアリステアはまた後日、悪戯はどんなものが良いのかと聞いてみようと唇だけで笑って見せた。 随分共に時を過ごして、こうしてゆっくりと歩く時間だってあっても良い。時の流れも遅く感じる様な迷路の中。迷いながら壁に触れたアリステアは「出口まだかな?」と小さく首を傾げた。 「折角の今日だけの楽しみなんだし、のんびり行く事にしようぜ」 「うん。一生に一度きりの催しだもの」 迷っても良いや、と柔らかく微笑んだ涼と視線を合わせアリステアは幸福そうに微笑んだ。 「張り切って迷路探索なのですっ!」 びしっ、と眼前の『普通』と書かれた入口を指差したシーヴにメリッサは頷いた。 手をくい、と引っ張られてしまってはメリッサもついつい許してしまう。初めは戸惑いも大きかった彼女でも、今になってはすっかり慣れっこだ。 「あっ、あっちのお花さんなんだろうっ! こっちにはお化けさんがっ!」 あちらこちらと目移りするシーヴの溢れんばかりの笑顔にメリッサはつい口元が緩んでしまう。つられて笑ってしまいそうな自分に気づき、唇をきゅ、と閉じた彼女にシーヴは何処となく楽しそうに柔らかく笑う。 「トリックオアトリートっ♪ ふふふ、お菓子くれないとメリッサおねーさんにも悪戯しちゃうのですっ」 シーヴのトリックは何かしら、なんて。思わず気になった言葉を言うことなく、彼女の挙動を見遣れば『お菓子はまだかなぁ』と大きな瞳を輝かせるシーヴが視界に入る。 「今朝焼いたものですけど、早めに食べなさいね」 「! わーい、メリッサおねーさんのおかしっ、流石なのですっ!」 子供の様にはしゃぐシーヴにメリッサは優しげな視線を向ける――と、じっと見つめるシーヴの瞳。 「トリック・オア・トリート」 ご期待にお応えして、と丁寧に反応するメリッサにシーヴは幸せそうに頷いた。しかし、今手にしているのはメリッサが手渡した袋詰めのクッキーだけ。 「ふにゃ? あれ? ……う、うー、みつかんない。あ、あう……トリックで」 「ト、トリック……!」 悪戯してくれないの? と首を傾げるシーヴに予想外だとメリッサが悩ましげに口元へと指を当てる。如何したものかと考えるけれど、浮かぶのは頬を引っ張って伸ばそう、突いてみようなんていう可愛らしい悪戯。 「あっ、あったー! えへへ、トリートなのですっ」 「あ……」 へにゃ、と笑ったシーヴに何処となく残念そうに瞬いたメリッサは小さく首を振った。 「ハロウィンは仮装少女の宝庫!!」 キラキラと眸を輝かせ、不審者バリに周囲を見回す雪緒は「こいつぁ、眼福」とリベリスタ達を見詰めながら吸血鬼の衣装を身に纏う。 そんな彼の現在地は―― 「あれ? ここ、一回通った様な……迷ったかな……」 むう、と唇を尖らせて困った様な瑠輝斗が小さく首を傾げる。アーティファクトでハロウィンなんて初めてだからと良い思い出を作るために迷路を探索してみたは良いけれど、どうやら迷子の様子。 ふわりと浮いた南瓜お化けが「ばあ」と顔を出せば瑠輝斗はびくりと肩を揺らして腕をぶんぶんと振り翳す。 「はわわ……こっち来ないで……」 「ごふォッ!?」 ごつん、と瑠輝斗の腕に当たった感触に驚いてぴたりと動きを止める。どうやら腕が直撃したのは少女の気配に釣られてダッシュしてきた雪緒の顔面。思わず顔を覆って蹲る吸血鬼に瑠輝斗は口元を押さえておろおろと頭を下げた。 「え、ひ、ヒト……ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」 「ハッ!? 困ってる少女! いやいや、侘びなんて良いぜ良いぜ! どうしてもって言うなら今日一日デートしようぜ! とかなー。なんてな!」 「お、お詫びになるのなら……」 おずおずと呟く瑠輝斗に「いやー、冗談だよ」と言いかけた雪緒の動きがぴたりと止まる。 少女が可愛くて仕方が無くてつい気の良い兄ちゃんな冗談を告げただけなのに、今、何と。 「え!? い、いいのか!? な、なら行こう、いざヴァルハラへ!」 「ヴァルハラ……ってええと……?」 こてん、と首を傾げた少女に慌てたように姿勢を正し(それでも表情筋は緩い。仕方がない。少女可愛いんだもん)雪緒は瑠輝斗に笑みを浮かべた。 「俺は雪緒、気軽に雪ちゃん(はぁと)とかゆっくん(はぁと)って呼んでくれ!」 「私は瑠輝斗……よ、宜しくです……雪ちゃん……」 へらりと笑った少女に思わずガッツポーズしたのは言わんこっちゃなかったのでした。 黒いローブにとんがり帽子。魔女を思わす仮装の凛子にリルは小さく瞬いた。 「魔女の仮装ですよ。如何でしょうか?」 似合ってると思うッスと笑うリルは手を繋いでのんびりと迷路の中へ。人目が少なく、散策するにも二人きりの時間を感じられるのは丁度良い。 幸福そうなリルは凛子に向き直り「トリック・オア・トリートッ!」と微笑んだ。 折角のハロウィンだ。仮装もバッチリの凛子は成程とお菓子を手渡そうとするが――リルが「待って欲しいッス」と制止をかける。目を瞑って、と言う恋人の指示に何処となく可笑しくなって凛子が目を瞑れば、リルはそっと手を伸ばした。 (何かいたずらされるのでしょう――) ふわり、と足元が浮かび上がる。腰に回された手が、愛らしい少年のものだと気付いて凛子は思わず瞬いた。 何処となく驚きに息を飲み瞬く凛子へとリルは「見上げて貰うのは初めてッスね」と何処か照れ笑いを浮かべて見せる。至近距離に見えたリルの顔に、照れたように目を伏せた凛子は視線をあちらこちらさせながら困った様に呟いた。 「こういうのをされるのは初めてですから……ね」 「凛子さんの表情がよく見えるッスね」 近づいた時に気付いた凛子の香りにリルがからかう様に言えば、凛子が顔を上げた。刹那、重なった唇に瞬く凛子がぽかんと口を開ければリルは何処か悪戯を成功した子供の様にへらりと笑う。 「この距離だと、キスもしやすいッスね」 思わず身体の重心が歪みかけ、咄嗟に首に手をまわした凛子が視線を下げ「やっぱり男の子なんですね」と囁いた。可愛しい男の子だと思っていたけれど、なんだかとても男らしく思えて、凛子の唇がついつい緩む。 「迷路の終わりまでこのまま、はダメッスか? 勿論、リルは家まででもいいッスけど?」 「二人きりの時にだけ、お願いしますね」 ● ――俺より強い鳥に会いに来た。 腕を覆った封印の印。眸を輝かせた竜一は地面を確りと踏みしめて目の前の南瓜を被った七面鳥を指差した。 「イヤァオ! 時は来た! よかろう、鳥! 襲い掛かってくるがいい!」 キェェと鳴き声を上げ走り寄ってくる七面鳥に竜一は謎のイケメンポーズをとって格好付ける。 「俺は逃げはしない!」 迷路の中である以上色んな意味で逃げ場は無い。だが、そんな事を感じさせないクールボーイ竜一。 「いつでも真っ正面から勝負を受けてやる!」 放たれた七面鳥が前方か走ってくる。受けとめてやるという気概を感じさせるが、言葉は通じているのだろうか。 「滾ってくるぜ! 俺こそが、七面鳥の王者!」 地面を踏みしめて竜一が跳んだ。七面鳥の頭を覆った南瓜をペチーンと叩きながらぐるぐると回し続ける。頭を覆う南瓜によって世界が白黒し出したのだろうか、キェキェと鳴きながら困った様に翼をばたつかせる七面鳥に竜一はこれまた謎のイケメンポーズをとって七面鳥を見据える。 「どうしたターキー! お前の力は! 可能性はこんなもんじゃないだろう!」 キェェと鳴き声と共に繰り出された蹴りを受けとめて竜一――否、七面鳥の王者は唇を歪めた。 「いいぞぉ、ナイスパンチだ! 左を制するものは、世界を制する! 俺ともに、ワイルドゴールデンターキーを目指そうじゃないか!」 何処かから聞こえる叫び声(?)に瞬いて雷音はランタンを握りしめる。 「難易度があるのか……うむ、かん……」 簡単なのを、とセレクトしようとした雷音がはっとしたように顔を上げ傍らの快を見据える。結い上げた黒髪を揺らし、目線をうろうろとさせた雷音は伺う様に快を見上げ「難しい、だ」と告げた。 「ボク達なら、難しいのでも行けるだろう、それとも、無理とでも?」 「そうだね、俺も『難しい』がいいな、と思っていたんだ」 挑発するように告げた雷音に快は柔らかく笑って返す。雷音も深層心理では長く入れる事を喜んでいるのだろうが、不器用で恥ずかしがり屋な彼女より快の考えは解り易い。難しい迷路の方が二人で迷っていられる時間が長い。一分でも一秒でも、二人で居られるなら長く――そんな気持ちを快が雷音に告げたならどの様な表情をするだろうか。 「……で、でも、迷うといけないな。えっと、手、手を繋いでおいた方が、もしもの時に対応しやすいとおもうのだが……っ!」 慌てたように告げる雷音に快は可笑しくなって小さく笑う。手を握り返し、小さな彼女と歩調を合わせてのんびりと歩き出せば、目の前にふわりとお化けの姿が見えた。 「お化けに迷わされたりするのだろうか……」 「トリートが無ければ、トリック専門だよね。ハロウィンだし」 困った様に告げる快に雷音がこくんと頷く。時間制限がないならじっくり攻略するのも良い。 右手の法則は使えるのかな、と積極的に考える雷音に「ゴールは逃げやしないさ」と小さく笑みを零した。 「桜だ……! 春と秋、芽生えと豊穣の季節に咲くなんて、贅沢でいい」 迷路の傍ら、ひらりと花弁を散らす桜の木を見上げて雷音は満足そうに呟いた。 「また、春に桜が咲くときに、ここに来れたらいいね」 「うん、また一緒にみる約束のゆびきりだ」 一夜の夢でも、その時がもう一度訪れればいいなと笑った雷音は恥ずかしそうに肩を竦めてみせた。 「折角だから俺はこの『難しい』の入口を選ぶよ!!」 しっかりと宣言する喜平にプレインフェザーは大きく頷いた。 遊び目的の迷路なのだから、折角だ。楽しんだ者勝ちだろう。意気揚々と探索を始める喜平にぴったりと寄り添ったプレインフェザーは何処となく緊張している様にも見える。 「オバケが怖いワケじゃない。驚かされるのが嫌なだけ。急に出て来られたらなんだってびっくりするっての」 ぽそり、と呟く言葉の前にそっと握りしめた指先は何処となく強張って居る様にも思える。 紳士的な行動をとる喜平にプレインフェザーはその指を握りしめ、唇を尖らせて「だから」と呟いた。 「……だから、ちゃんと守ってよ?」 頷く代わりに握りしめた指先。きっとその意味にも気付いた様にプレインフェザーは口元だけで笑みを零した。 ジャック・オー・ランタンの照らす不思議な迷路を二人で探検するのは楽しくて、悪くない。喜平と一緒なら迷っても良いかな、なんてプレインフェザーが考え出した所で。 「あ!」と喜平が前方を指差した。さわさわと揺れる桜の枝の音。驚きに肩を竦めた彼女に在り来たりなサプライズを送った喜平はくつくつと咽喉を鳴らして笑みを浮かべる。 「も、もう……」 「あ、ほら!」 ひゃ、と声をあげてぎゅっと腕にしがみつくプレインフェザーが可愛らしくて。思わず笑みを浮かべては、ずんずんと進んでいく。 迷っても気にせずに、楽しもうと喜平は笑みを浮かべる。「フェザーと一緒なら抜けられない道なんてないさ」と来簿エス笑みに彼女は柔らかく笑って頷いた。 闇の中を手さぐりで歩く感覚でも、プレインフェザーが居るだけで光りが在る様に見えるから。 広場での休憩に、桜を見詰めて「綺麗だ」とため息交じりのプレインフェザーはすっかりお疲れモードなのか。楽しそうな喜平の姿を何処となく恨めしそうに見つめている。 「ほら、喜平、あーん」 差し出すお菓子に口を開ける喜平へと悪戯心で食べさせる前に自分の口へと運んでしまう。 ハロウィンなのだから悪戯の一つや二つ、きっと許してくれるだろうと悪戯混じりの笑みを浮かべるプレインフェザーに喜平は彼女の手を引いて仕返しをする様に笑みを浮かべた。 「すんなり解けても楽しめんしな、燃えてきた、次だ」 「人様の心を迷路に例える様な言葉を聞く事があるよな」 ふと、思い出したように告げる劫にリリは小さく首を傾げた。劫から誘いが来るとは思っていなかった、と何処となく気恥ずかしそうなリリに彼が何気なしに呟いた言葉は何故だか、彼女の心を大きく揺さぶって居た。 「明けない夜はない、とも言いますが……先程から、同じ路をぐるぐる回って居るような……」 まるで今を思わす言葉に瞬くリリ。何か意図があっての誘いと言葉なのだろうかと思案する様にリリは視線をあちらこちらへとやった。 「全うな迷路なのなら、必ず出口が在るってことさ。余程捻くれてる奴が作ったなら分からないけど」 肩を竦めて告げられた言葉にリリはもう一度、大きく瞬いた。己の心の迷いが、何処に向いているのかは分からない。人とは難しいのだと告げる事は安易であれど、己はどうすればいいのか――なんて、誰にも聞く事ができないから。 「アンタの言葉は嬉しくはあったけど、ちょいと依存の傾向があるからな」 「ち、違いますよ。そういう意味の好き、ではなくてですね……!」 ええと、と言葉を探す様に開いた口を閉じれなくてリリは「ああ」と声を漏らした。リリ自身も未だ分からない好意の行方。自身の心が迷路に迷い込んでしまったかのような気持ちになって、唇を噛み締める。 「杞憂だってんなら、それは良い。俺は他の人間に生き方を合わせられるほど器用じゃないし、立ち止まっとくのも御免だ」 「は、い」 胸がチクリと、痛んだ気がして、依存という言葉が頭の中を駆け巡る。 落ち着く所が分からずに、指先が何度も自身の手の甲を引っ掻いた。背を向けた劫がひらりと手を振って「まぁ」と囁く事に気づき、リリは顔を上げる。 「行ける所までは一緒に行けば良い。前にも言ったがそこはアンタの自由なんだから」 「え――って、ちょ、待って下さい!」 置いていかないで、と踏み出す一歩。自分の足で立てるかを確かめるかのように意識したそれに劫は知ってか知らずか唇に笑みを浮かべて歩きだす。 折角の迷路なのだから、迷った方が良い。その先にゴールがきっと、見える筈なのだから―― ● 「コヨーテくん、ハッピーハロウィーン!」 じゃじゃん、と壱也が差し出したジンジャークッキー。甘いものが苦手なコヨーテ専用のそれには季節を感じさせる南瓜が入って居る。 「クッキー……」と甘いのかなと首を傾げるコヨーテに壱也は「食べてみてよ」と自信たっぷりに笑った。恐る恐ると口にするクッキー。普段は甘い物というイメージが強いのだが、流石は壱也。コヨーテの苦手なモノをしっかりとリサーチ済みだ。 「ホントだッ、甘くねェ! コレなら幾らでも食えるなーッ!」 勿論、コヨーテからも「ハッピーハロウィンだな」と『トリート』が差し出される。瞬く壱也が「えっ!」と言ったのも仕方がない。生唐辛子そっくりの形をしたチョコレートは彼が好きな『辛い物』を連想させた。 「へへッ、辛くなくてビックリしたろ?」 「甘い! おいしい! 『トリック』だよ、コヨーテくん」 へらりと笑った壱也にコヨーテが自信たっぷりに胸を張る。美味しいねと頷き会った二人が目指すは『難しい』迷路の中。 「探検開始ーッ! ヘンな花だらけでワクワクすンなァ。今日のいちやのカッコにピッタリじゃんッ」 「不思議の森だ! えへへー、ぴったりかな!? 嬉しい!」 ジャック・オー・ランタンの光を浴びて、不思議の国の『アリス』は嬉しそうに懐中時計を抱えて笑う。一方で戦士コヨーテの馬でも難関な迷路に壱也は自信たっぷりに頷く。 「コヨーテくんの馬では駆け抜けられそうにない迷路だね……。 難しいところでもわたしたちなら大丈夫! なんとかなる!」 「突破できる気しかしねェ!」 しかし――現実はそう上手くいかなくて。あちらこちらにうろうろとする二人はどうしたものかなと首を捻る。難しいの迷路は伊達に『難関』の看板を下げて居ないのか。 「面倒くせェ! 壁ブチ破っちゃダメかッ!?」 「壁壊したい……で、でもだめだよっ! 迷路にならないよ! こーゆーときは右手の法則だっけ!?」 実は壱也さん。羽柴アタックで氷の迷路を壊した事はあるものの――今回はしっかり迷路に迷ってみる。 右手をついて進んでいき、もしかしたらこれでゴールに出れるかも、と淡い期待を抱いた所で。 「はい! 行き止まり!! うわーん! コヨーテくんわたしたち迷子だよ~!」 「ま、迷子じゃねェ、アレだ……迷子だ!」 迷子でした。 きゅう、と鳴った腹を抑え如何したものかと悩ましげな壱也にコヨーテは「迷子か……」と神妙に呟いた。 「あ、おなかすいてるからかも。腹が減っては迷路は出来ぬって言うしね! お菓子たーべよ!」 「そォだな、うめェ菓子も沢山あるし、作戦立てつつ腹ごしらえだなッ!」 「ハロウィンは悪霊が混じる日だもんね……でも、不気味お化けには混じって、欲しく、なかった……」 なむなむと迷路の真ん中で居のるいちるの隣で「悪霊か……」と神妙に呟く睡蓮。 本日は中二病要素を出さない上に驚いても悲鳴を上げないと彼は決めている。いちると共に迷路を回る以上、女性に格好悪い姿を見せたくないと言うのは男性の心理だろう。 「……夏郷ちゃんもお化け、きらい? お揃いだ」 「……おばけなど、怖くない」 「……怖いんだ。大丈夫、一緒に頑張ろう。こわいけど」 かちこちに固まった睡蓮の隣でいちるが小さく頷いた。恥ずかしそうに歩く彼女の仮装はなんとも可愛らしい。そんな彼女の前にすい、と通り過ぎた存在に思わず肩が跳ねた。 「兎に角進むか。もう戻っても距離は同じ位だ。……どうしても怖いなら目を瞑って居ると良い、僕が手を引こう」 「あ、え、うん……て、手を捕るのは恥ずかしい、から」 控え目に服の裾をきゅっと握ったいちるの目の前に、「ばぁ」とお化けがこんにちは。思わず息を飲んだ睡蓮の隣、目を必死に瞑り腕をぎゅっとしたいちるに睡蓮が驚いた様に又も息を飲む。 「ご、ごけんね。歩きづらいよね……」 「だ、大丈夫だ。……お化けどころでは、なくなってしまったな」 困った様に頭を掻いた睡蓮にいちるは困った様に俯いた。恥ずかしさなんてお化けの前にはなくなりました。 「休憩ターイム! 順調かなって思ったけど……もしかして知らないうちに迷ってる!?」 はぁ、と息を吐いてベンチへと腰かけた真独楽にユーヌは何処となく悩ましげに「ふむ」と呟いた。 「奇妙な迷路の中の割にはまともだな。それとも攻略させない為の罠なのか?」 そうは言いつつも楽しい事には違いが無い。ふわふわと浮かぶ南瓜お化けにユーヌと真独楽は顔を見合わせ、「トリックオアトリート」と手を伸ばした。 笑顔の真独楽は「お菓子頂戴!」と楽しげな雰囲気を感じさせるが、常の通りの無表情で告げるユーヌに南瓜お化けも驚いたのか手をふりふりと振って居る。 「ふむ、不思議な形だな?」 「まこのはー……む、ユーヌのとは違うね?」 手にしたお菓子を見比べて「真独楽のとは違うな」とユーヌも頷く。不思議な形のキャンディとチョコレイト。形の違いを感じとって顔を見合わせた二人は同時に頷き会った。 「このコたち、何種類あるんだろ?」 「折角だ、何種類あるか試してみようか。どちらが変なお菓子をゲットできるか」 無差別に始まったトリックオアトリート。勿論言われたお化けたちは其々手渡してくる。 小さな二人の両手に抱えきれんばかりのお菓子の山が出来上がる頃、二人揃ってベンチに腰掛け、満足そうに頷いた。 「えへへ、いっぱい貰っちゃたねぇ♪ コレすごい色……あーん、でも美味しいー!」 「む、これは結構スパイスがきいている。形の割には、意外と美味しいものもおおいな……」 手にした焼き菓子の味を確かめるように一つ一つ感想を言い合えば、何だか一緒に食べた気がして楽しくなる。 「はぅっ、こっちのは如何にも甘そうなのに、食べたら辛いよぉ……」 ふる、と身体を震わす真独楽にユーヌも「辛いな」と頷いた。お化けの悪戯心に直撃したのだろうか。うっすらと涙を浮かべた真独楽が拗ねたように唇を尖らせればユーヌは何かに気付いた様に桃色のお菓子を手に取った。 「何だか笑っている形に見えないか? ピンクのクリームが髪に見える……真独楽っぽいな」 「このクッキーは真っ黒いお目目で、なんだかユーヌに似てるぅ。じゃ、これはユーヌにプレゼントねっ♪」 真独楽ケーキにユーヌクッキー。互いにそっくりのお菓子を交換し合えば、お腹も心も温かくなる。 迷路は暫し後回し。過ごしやすいこの空間で沢山のお菓子を食べながら過ごすのだって良いだろう。 「腹が減っては……ってゆーし。そぉだね、ここでしっかり休んじゃおう!賛成~♪」 美味しいお菓子とだらだらハロウィン。そういう過ごし方だって、偶にはいいだろう。 「お疲れ様、だな」 「……わあ、可愛い。ありがとう」 金平糖を舌で転がしておいしいとへんにゃり笑ったいちるに睡蓮が柔らかく笑って頷く。 クッキーの御礼だと言うそれに嬉しそうないちるを見ながら驚いていた様を思い出し、茫とする睡蓮。 「……?」 思わず、きょとんとしたいちるはきっと、悪くは無い筈。 同じ頃にゴールした義衛郎が「難しいは伊達じゃなかった……」とお疲れモード。黒のゆったりとしたローブに黒い三角帽子。本年度は魔法使いの義衛郎は目の前でうろうろとする薄桃色の翼を発見し、「おや」と呟いた。 「こんばんは、月鍵さん。お誕生日、おめでとうございました」 「あ! こんばんは、義衛郎さん……じゃなくて、魔法使いさん。ありがとう!」 去年は仮面を付けて登場し「誰だー!?」とツッコミとも取れぬ言葉を受け取った義衛郎。今年は素顔のため、「誰だ!」を無事にクリア。 嬉しい、と跳ねる赤ずきんに義衛郎は誕生日に何もプレゼントして居なかったなと悩ましげに唇へと指を当てた。 ハロウィンの前日生まれのフォーチュナをお祝いしたはいいけれど、何もプレゼントは用意していないな、と家で焼いた南瓜のシフォンケーキを差し出して。 「今年も何もしていなかったですね。お詫びにもなりませんが、男手が必要になったら、何時でも呼んで下さい」 「え! ううん、お言葉だけで嬉しいわ。……それじゃ、お言葉に甘えて今度お呼びしようかしら」 なんて、と笑うフォーチュナに義衛郎は小さく頷いた。二人の談笑に「世恋さん」と声をかけたのは華やかなドレスを見に纏った旭の姿。 薔薇色のミディ丈のドレスは大好きで大嫌いな色を思わせる。腕や足、首から頬にかけてタトゥシールで張り巡らせた茨も旭の美しさをよりアピールしている様に見えて、「綺麗だわ」とフォーチュナは笑った。 「こんばんは、どの道を通ってきたの? わたしは桜が見たかったから、簡単な道抜けてきちゃった」 「私も簡単な道を。お化けに会うと、怖いからあーちゃんを引っ張って此処まできたの」 へにゃりと笑う旭に世恋も頷く。ドレスにハイヒールは歩き辛いと告げた旭はそれにね、と含んだ様に笑った。 「ここなら確実に、世恋さんに会えると思ったから」 「ふふ、ときめいちゃう」 冗句めかして笑うフォーチュナに旭は「世恋さん、とりっく、おあ、とりーと?」とこてんと首を傾げて笑う。 お菓子を楽しみにしていたから、きっと答えは分かっていると旭は後ろ手に何かを隠して柔らかく微笑む。 「はい! 私から。簡単なお菓子だけれどね? 旭さん、とりっくおあとりーと!」 「はい、どーぞっ! お誕生日おめでとぉ♪」 差し出したキャンディの代わりにお手製スイーツがたっぷり詰まった大きめのバスケット。 瞬くフォーチュナが「有難う」と恥ずかしそうに呟けば、旭は義衛郎にも声をかけ、一緒に食べようと微笑んだ。 ● 迷路を抜けた先に開けた場所が見え、猛は「こうなって居るのか」と物珍しそうに呟いた。 傍らのリセリアも「随分、変わった景色ですね」と瞬いた。夜の迷路、橙色トロンプルイユ。そう名付けられた騙し絵の様な空間には春を思わす桜とハロウィンの飾り付けが同居している。 そんな『不思議』な空間に存在するのはこれまた不思議な南瓜お化け。瞬くリセリアに「見てみろよ」と指し示す猛は浮かぶ南瓜お化けに楽しげに笑いかける。 「トリックオアトリート! 俺にも一つお裾わけ頼むよ」 確かに可愛い、と頷いたリセリアもおずおずと「お菓子をくれるのかな」と決まり文句を口にした。 ふよふよと浮かぶ南瓜は何処となく楽しげに不思議な形のキャンディを差し出した。味は食べてみたからのお楽しみなのだろうか。二人して顔を見合わせて小さく笑う。 「それにしても回りも皆コスプレしてたりして、雰囲気でてるよな。 俺は戦乙女の戦士、エインフェリア。リセリアは凛々しい感じで良く似合ってるよな……」 「実は、あんまり違和感ない、かも」 何処となく緊張した様に肩を竦めたリセリアは普段からも鎧を纏う事はあるのだと自身の姿を確認する様に見回した。 北欧の戦乙女の姿は成程、普段からも実戦で着る可能性が在るのだろうとリセリアは小さく笑う。 「普段の雰囲気にあってて良いと思う。それに――今日、この中で誰よりも綺麗だ」 照れ隠しの様に、小さく笑って眺める桜の花びらが一つ、落ちた所でリセリアが小さく笑う。 猛さんも似合ってますよ、と返した言葉に猛はそっと傍らの少女の身体を抱きよせた。「あ」と思わず漏らした声は、重なったそれに隠される。 瞬いて、「愛してる。俺だけの戦乙女様、ずっと一緒だ」と茶化したように笑えば、返ってきたのは照れ笑いだった。 「秋に桜、というのも珍しいですね……」 「一年に二回も花咲くって頑張り屋だよね」 こういう光景も素敵だ、と夏栖斗が告げる言葉に紫月は小さく頷いた。君と見るから更に綺麗なのだと気障ったらしい言葉は飲み込んだ。秋に咲く花の色を見詰めて、紫月は小さく息を吐く。 「最近はこうやってご一緒する事も多くなりましたね。 ……以前、自分は幸せになるべきではない、と。そう、仰っていましたよね?」 「あー……その話しは、誤魔化されてくれたんじゃなかったっけ?」 頬を掻く夏栖斗に紫月はあの場限りですと肩を竦める。柔らかな笑みを浮かべる彼女へと力なく告げる夏栖斗は困った様に視線をあちらこちらへと動かした。 澱へと深く沈みこんでいた自分が、少しでも前を向ける様になったのは彼女のお陰なのだろうと実感してから、どうにも彼女に頭が上がらない。 紫月はそんな夏栖斗を見詰めながら「私は、御厨さんに幸せになって欲しいですよ」と囁いた。 「誰かを助ける事を願って、傷を折って行く人間であればこそ、また別の誰かに救われるべきではないか、とも思うのです」 「あ、誤解はしないでね、紫月が居てさ、相棒が居て、仲間が入れ、みんな僕を今みたいに心配してくれて、……この状況がさ、幸せじゃない、なんて思わない」 けれど、と飲み込んだ言葉を察した様に紫月が彼の言葉を代弁する。一度手を離した時に感じた空虚をもう二度と感じたくないのだろうか、と。 「甘えてちゃさ、大事なものをなくすんじゃないかなって、幸せな自分はこれでいいのかって、怖いんだ」 ため息交じりに紫月は小さく笑う。ああ、莫迦な人と囁く様に、彼女は紫色の眸を細めて、只、笑った。 「本当、目の話せない方なのですね」 「ちょ、ば、ばっか、お前同い年なのに年上ぶるなよ……!」 「秋に咲く桜と言うのもとても、新鮮な感覚ね。つまり、桜が見えるハロウィン。ね?」 「桜ハロウィン……斬新ですね」 茫とした瞳を輝かせるリンシードに糾華は小さく笑みを浮かべる。桜に彩られた愛しい人を見詰めていたいのだとリンシードは一人、回想シーンに入りかけて、思い出した。 「なんだか、とっても素敵な予感がするわ」 「はい。かれこれ一時間位姉様を眺めてる気がしますが、まったく飽きません」 「ええ。……迷っているけど、ね。あ、あの、あのね、リンシード」 セットのコスプレ衣装。身に纏った糾華は何処か身体を揺する。大丈夫怒ってませんとリンシードが告げればほっとした様に糾華は奥に見える桜の花を指差した。 「満開な桜が見える広場がもう少し先にあるって聞いたのよ? そこのオバケの南瓜さんに……」 「はい……」 「そ、それで、そりゃ、調子に乗って難しいコースに入ったのは、私よ? やたら自信満々に進んで、迷っちゃったのも……私よ?」 「ええ……」 「でも、でもね、魔法瓶に、美味しいローズヒップティーをね、入れてきたのよ?」 慌てる糾華。実の所、「ねーさまなら大丈夫ですよ」とおだてて難しいコースに挑戦する様に仕向けたのはリンシード。更にはさりげなく遠回り遠回りの道を選んだのだってリンシード。 詰まり全てはリンシードの思惑通り……なのだが、そんな事、全く知らぬ糾華は無口なリンシードがお怒りなのではないかと慌てたように語りかけている。 (大丈夫です、姉様。可愛いです……。このまま永遠に彷徨っていたって大丈夫です……!) なんとも可哀想な状況だが、慌てる糾華は「だから、だからね?」とおずおずとリンシードの様子を伺っている。 「怒らないで、もう少し一緒に頑張りましょう? ねーさま、リンシードと一緒に紅茶飲みたいなーって……」 「はい、頑張りましょう、姉様」 「だ、だからね、一緒に綺麗な桜見ながら、一緒に飲みたいなっ……て」 「はい」 「ね、だから、もう少し頑張ろ?」 慌てる糾華にリンシードは内心、満面の笑みである。紅茶なんて如何でも良い。何処までもついていくし、困り顔の糾華を後ろからずっと見て居たって楽しい位だ。 怒るとは思ってなかったのとしょんぼりとする糾華を見詰めながらリンシードは「ふふ、うふふふ……」と意地悪な笑みを零して居た。 ――余談だが、迷路に迷い込んだ様に、糾華はそのまま不安げに迷路を攻略したのだった。 「こんなにファンタジックな迷路なら、それ程怖くないかしら?」 「幻想的ですよね。怖いより、楽しいって気持ちが強いです」 手にした橙色の提灯が揺れる。シュスタイナの言葉に頷く様に耳をぴこぴこと揺らした壱和は楽しげに周囲を見回した。 ジャック・オー・ランタンから漏れだす光りは幻想的で、何処となく優しい色を灯して居る様に感じる。 そんな壱和と同じ気持ちなのだろうか。お化けに驚かされるという恐怖心よりも好奇心が勝ったシュスタイナが楽しそうに唇を緩めて手を差し出す。 「今晩だけの迷路、楽しみましょうね?」 「はい♪ 今日をいっぱい楽しみましょうね」 ぎゅ、と握りしめたほっそりとした指先に満足そうに頷く壱和。跳び出す南瓜お化けや、お着物を指でつつき、二人揃ってほんのり明るい路を歩く。 シュスタイナはふと、壁へと手を当てて悩ましげに眉を寄せた。 「迷路と言えば、壁に手をついて歩くのが王道だけど、今回も通用するのかしら。……歩き疲れてない? 大丈夫?」 「大丈夫ですよ。のんびり歩いて、試してみるのも楽しそうですね。お化けさんも見ていて飽きないです」 尻尾が揺れるのに安堵して、シュスタイナは柔らかく笑みを浮かべる。見て、と指差した先に咲く橙色の花を見て、不思議だ、と指先でつつけば柔らかな光が舞い上がる。 不思議なモノに触れる時は二人とも手は離さない。温かい指先に、そこに居ると言う安堵を憶える事が出来て、なんて幸福。 「迷路を抜けたらおやつにしましょ。今日のお菓子はパンプキンクッキーよ」 「ボクはジンジャーティー持ってきましたから、一緒にティータイムですね」 にっこりと笑う壱和にシュスタイナは柔らかく微笑んだ。 折角のハロウィン。甘いもので幸せなひと時を過ごして、身体も心も温まる。ささやかだけど、そんな幸せな一時を感じられるから。 さあ、もうひと頑張りと、迷路を進む二人は楽しそうに笑い合った。 ――Trick or Treat! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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