● ケラケラと笑い声が聞こえたならば、すぐにその場を離れろ。 昔からこの山に伝わる話だった。 神隠しと言うものもいた。天狗と言うものもいた。 ――それは怪螺怪螺様が来る合図だから。 ケラケラ笑う怪螺怪螺様は、その笑い声を聞いた人間を連れ去ってしまう。 小さい頃にかすかに聞いた話が、半分本当で半分嘘だと知ったのは、たった今のことだ。 けらけらけらけらけらけらケラケラケラケラケラケラ怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺。 それは笑ってはいない。 ただ、虫が立てる音が鈴の音に聞こえるとか、その程度のことに過ぎない。 みきりと人の足が茂みを踏み拉いた。べきりと人の掌が枝を折った。 巨大な百足の肢は、全て人の腕や足と同じだった。 所々に張り付いたコケのようなものは、人の髪の毛。 ぼこぼことできもののように生えているのは、人の頭。 鋭い歯が並んだ口は、一ヶ所だけに留まらず全身の到る所に存在し、葉や枝を食んでいる。 けらけらけらけらけらけらけら。 その口の奥から、人の笑い声に似ているだけの音が流れていた。 怪螺怪螺様は人間を連れ去ったりしない。 この化け物は、人間を食うだけだ。 そう知った時には、もう遅かったけれど。 ● 「さて、皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンが一応聞いておきますが、多足類は平気ですか? これを聞いた時点でお察しと思いますがはい、苦手だとしてもモニターに映しますので覚悟してくださいね」 一応三秒だけ待った『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)はそう告げてモニターに画像を表示した。 人など丸呑みに出来るであろう巨大なムカデ。……に、似た、よりおぞましいもの。 百足の歩脚は全て長さも太さもばらばらな人の腕や足であり、体節の狭間から伸びているのは人間の髪だろうか。 「えー……アザーバイド『怪螺怪螺』様。出現場所付近の集落で細々とした噂が伝わっている事から、かなり以前から複数回こちらの世界に顔を出しているものと考えられます」 山の中で笑い声が聞こえたならば、すぐ逃げろ。 怪螺怪螺様に連れて行かれてしまうから。 「特徴としてはその巨体と、並外れた強靭さです。体力と防御力が高く、一部の不利益をものともしない。再生能力にも優れ、周辺に毒液も撒き散らします。……この世界に居付いていなかったのはまだ幸運ですが、相対するには幸いとは言い難いですね」 集落に伝わる話を聞く限り、頻繁に現れる訳ではない。 精々が数年から十数年に一度……だからこそ、討伐も難しかった。 「今回はうまい事予知に引っ掛かりましたので、こちらから迎え撃てます。ただ注意して欲しいのは、怪螺怪螺は自力で穴を開けられるという事です。――つまり、ただ元の世界に帰してしまうと再来の危険性があります」 次の襲来がいつか分からない以上、犠牲を抑えるにはここで仕留めておくのが得策だ。 再来の時に予知がうまく捉えられるとは限らないのだから。 「とは言え先の通り、アザーバイドとしても強力な部類に入ります。意思の疎通や友好的遭遇、慈悲は望むべくもありません。……もしもの際は自らの身を一番に考えての行動を」 ギロチンはそう告げながら、地図を差し出す。 離れた場所に集落を示す印のある、山間の地図。 「それでは、『怪螺怪螺様』が噂話のままであるように。こんな悪趣味な存在が顔を出していたなんて事、嘘にしてください」 ぼくを嘘吐きにしてください。 ふう、と息を吐いたフォーチュナはまた一つ笑って、軽く頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年11月08日(土)23:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●笑い声来たりて人消える 此処では昔から、山に入った人間が稀に忽然と消えていなくなるのだという。 失踪にしては余りにも唐突に、事故や獣に襲われたにしては死体も見付からぬ。 ただ、いつだか誰かが聞いたのだ。ケラケラ笑うその声を。 不気味だと里に下りた一人は助かって、興味本位で探しに行った者は帰らなかった。 だから人は囁きあった。 ケラケラと笑う声が聞こえたならば、すぐに山を下りねばならない。 さもなければケラケラ笑うそのものに――怪螺怪螺様に連れ去られるぞ。 「妖怪の伝承の何割かはエリューションかアザーバイド関連……ありきたりだね」 「山中での音の怪は民話のセオリーではありますが……正体がこんな有様なのは初めて聞きました」 古杣に天狗笑い、やまわろの仕業。『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)に答えた『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が思い浮かべるだけでも、日本各地に存在するその手の噂は枚挙にいとまがない。その内のどれだけがエリューションかアザーバイドなのかは分からないが、少なくともこんな見た目であるものはそう多くないだろう。そうであって欲しい。 「螻蛄っつうよりムカデだよなあ。それも、B級ホラー映画のムカデと来た」 怪螺怪螺様。ケラケラ様。多少なりとも愛嬌のある螻蛄とは似ても似つかない可愛げのない形状。『ウワサの刑事』柴崎 遥平(BNE005033)は肩を竦めた。山に出る定番……狐狸の類であれば胸に仕舞った煙草の煙で払えようが、今回はそうもいかない。 「虫であったならばまだ良かったでしょう。ただ、あれはもっとおぞましい」 平素からあまり朗らかとは言えない『蜜蜂卿』メリッサ・グランツェ(BNE004834)が表情を僅かに渋くした。あの手足は、頭は、獲物を引き寄せる為に模倣しただけなのか。それとも喰らった犠牲者のものなのだろうか。考えたくもない。歪んだ体。 「ふむ、ハロウィンを彩るには少々不細工だが、お化け屋敷の飾りには丁度良い」 とは言え『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)などにとっては常日頃と何も変わりはしない。感慨もなく嫌悪もなく、ただただ世界に有害故に黙って消えろ、速やかに。 答えた訳ではなかろうが。 鳥の声が止まった。 風さえも止まった気がした。 ケラ。 ケラ。 ケラ、ケラ、ケラ、ケラ、ケラ。 「笑い声が聞こえる。近いかな……、覚悟して行こうか!」 得物を構えた『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が不敵に笑った通り、代わりに響くは笑い声。 笑い声ではない何か。 綺沙羅がその居場所を探ろうと感覚を巡らすが、感情探査は強い感情でなければ引っ掛からない。ケラケラと笑う声が本当におかしくて笑っているのならばともかく、単なる鳴き声に過ぎないのならば、虫の羽音のようなものに過ぎないのならば、……恐らくそこに強い思いなど存在しないのだ。 ただ、ミキミキと木を倒す音が近付いてくるのははっきりと分かる。 倒れた木が他の木を巻き込んで倒れている様で、まるで囲まれているようにも聞こえた。 「こっちに何度も来てるってことは余程お気に入りなんだな……人間の肉が」 おぞましいその姿を思い出し、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)は囁くように呟いて相棒に指を掛ける。巨大な百足だとしても気味が悪いというのに、相手は悪趣味の上乗せをしてくれていた。喰らった獲物はうまかったか。幾度も顔を出すほどに。ならば次はこちらの番。一方的では不公平。 みきり、と目前の木々が倒れた。 男の女の裸足が、手が、枝を踏みしだく。 比べればあまりに小さな『剛刃断魔』蜂須賀 臣(BNE005030)は色の違う目を細めた。金眼は化け物の印などと言うが、この醜悪な怪物の前では可愛いものだ。 さあ殺したまえ怪物を。討ち給え異世界の暴虐を。一般的な倫理観や善悪にかかずらってばかりはいられないリベリスタの仕事において、これは分かり易い『正義の味方』の構図だろう。 顔を出した。全身が遠く木々の合間に見える。 けらけら。けらけら。けらけらけらけら。 ああ。これは確かに、虫に似ていた。雰囲気がそうだと告げていた。 獣ほどに知性も有さず、情も持たず、本能に従い事を成すままの――人にとっての化け物である。 「『剛刃断魔』、参る」 ならば蜂須賀に、躊躇う理由は塵程もなし。 臣が振り被ると同時、風の如くメリッサが地を蹴った。 ●百足に足らず百足に在らず けらけらけら。けらけらけら。けらけらけら。けらけらけら。 枝を葉を食む口の奥から笑い声。怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺。 この化け物が現れた時から僅かに感じる気分の悪さ。周囲を冒す毒素はじわじわと獲物の動きを弱める為だろう。回復を専門とした者もいなければ、長期戦は分が悪い。ならば早目に仕留めるのみ。 沈みかけの夕日を照り返したメリッサのTempero au Eternecoは、煌きの残光を彼女から溢れ出すオーラへと変え、岩より硬い化け物の体へヒビを入れんと急襲した。 「これ以上、誰一人として犠牲は出しません」 日の橙を受けて黄色に見えるメリッサの瞳は敵を見据えて動かない。人のように見える手足も酷く硬く、柔らかそうな肉の質感は見た目を裏切るものでしかなかった。けれど、それならば砕けるまで突くだけだ。蜜蜂の針は一発限りなれど――麗しき蜜蜂卿の針は砕けない。 メリッサがすい、と体半分の位置を動かした所に踏み込んだのは、臣の足。 「チェストォォォオオオ!!」 人の身では持ち上げられぬ程の重量に乗せられるのは、人外の全力さえも超えた120%。地面を踏み砕く勢いを以って放たれる一撃は臣の体の限界さえも超えるものだが、元より長らく立っていられるとも思っていない。年若くはあれどその覚悟は並のものではなく、己を見詰める歪んだ眼球も、ぞろぞろと蠢く手足も一切合財考慮に入れず絶ち振るう。 火力に秀でた戦士達の攻撃を受け僅かに針が揺らめいた気がしたその瞬間、雨の様に液体が降った。 びしゃびしゃと顔に張り付くそれをユーヌは手の甲で拭い、まるでそのままハンカチを投げるかのように放った符が、彼女が厭う翼の如く真っ白な鳥と化して怪螺怪螺の尾を飲み込んだ。体を巡る血が酷く熱く痛い気がしたけれど、動きを止める事は敵わない。 「臭いが酷ければオブジェにするにも役立たず。ケラケラと虫螻の如く潰れて消えろ」 「超怖いとか言ってる場合じゃないくらいに有害ですね、これは」 ユーヌと同様、アークの誇る技術にて動きを止められる事を防いだうさぎは毒に冒された息を吐き出した。その間に迫った胴が、うさぎの体を後ろに弾き飛ばす。 怖ぇ。普通に怖ぇ。胴が迫った瞬間に、人の頭を模したと思われる器官と目が合ったが、その顔は――もう顔と言っていいのかも分からない。二つの目がとろけて一つに繋がって、鼻はなくて口は片頬を裂くように伸びていた。半端に人に似ている形をしているだけに、そのおぞましさは際立った。 けらけらけら。ケラケラケラ。怪螺怪螺怪螺。 「ああ、もう! その耳障りな笑い声を止めて下さいな!」 けれど怖がってはいられない。これは仕事だ、滅さねば。 カメラのフラッシュライトのように瞬いた光が、うさぎの影を映し出し全てに力を与える。叩き付けられる刃の波、怪螺怪螺の注意が完全にそちらに向く前に――。 「こんにちはーケラケラ。黄桜とあそぼ! 黄桜は美味しいかもしれないよ、一口かじってみるぅ??」 一人『頭』と呼ばれた方へと躍り出た魅零が声を掛ける。 さて、果たしてこの生物に骨はあるのだろうか。外骨格を骨と呼ぶならばそうなのかも知れない。この殻が果たして外骨格なのかも分からないが。けれど生き物ならば殺せるだろう。殺せるものは怖くない。 とはいえ強大な敵に一人立つ、それ自体に何も思わぬ訳ではない。鼓動は激しく脈打っているし、自分も死を隣に待たせた生き物である事に変わりはないのだ。 けれどその高揚を愛して止まない女であれば、刃に呪いの奈落を宿し振り上げる。 叩き込む。次の瞬間、巨大な顎が目の前に開いていた。咄嗟に大業物を構えるも、それすら飲み込むように開いた顎が、魅零の上半身を覆い隠す。 鋭い牙に肌を引っ掛かれ血を流し暗闇に視界を閉ざされる中、機械化した背骨が、ごぎゅっと嫌な音を立てた気がした。 皆からやや離れた位置を取った遥平にもその音は聞こえたから、僅かばかり眉を寄せたものの……まずは尾を狙い打つ方針に従い、毒針以外は届かぬ場所からLAWMANS' 2.5インチリボルバーに魔弾を込めた。 「こんなもんに誰かが犠牲になる必要はないんだよ」 両手で握った銃把に唱える詞(ことば)、周囲に展開した魔法陣の力を宿した弾丸は味方の隙間を縫うように弾けて尾を貫く。尾に向けて振り向こうと『つ』に似た形を取っていた怪螺怪螺の頭をも巻き込むように。 注意を引かれて頭を向けた怪螺怪螺の半開きになった口から、魅零が落ちる。 けら けらけらけらけらけら けらけら。 ケラ けら。 立ててる音には過ぎずとも、その音は人の笑う声に本当によく似ていた。 「都市伝説とか妖怪伝承とかは嫌いじゃないけどね」 どうしてそうなったのか。たまたまそうであったのか。神秘の世界はかくも不思議で面白い。とは言えそれを蟻の巣箱の様に眺めている訳にもいかないから、綺沙羅の白い手は宙へ符を放った。 死に掛けの夕日とは比べ物にならない程の赤い炎が渦を巻き、叶う限りを巻き込もうと紅の鳥は森を焼かずに虫を滑る。綺沙羅の目は巨体に巻き込まれる木々にも注意深く向いていた。倒れたばかりの木の匂いがするけれど、毒に塗れたこの空気の中では大きく吸い込む気にもなれない。 「お前が食い散らかしてきた分、今度は俺様たちがお前を食い散らかしてやる!」 人の頭に似たものが、木蓮を見ていた。目の機能は果たしていないのだろうから、見ていたとも言えないのかも知れない。それでもどうしても、人の形をしたものにはそう思ってしまうから――木蓮は躊躇わず引き金を引いた。 宙で弾けた弾丸は雨霰、先ほどの毒液の雨にも負けんとばかりに降り注ぎ、怪螺怪螺の体を穿ち食い荒らそうと打ち付ける。 怪螺怪螺から見ればそれこそちっぽけな虫螻の抵抗であったとしても、リベリスタはその手を休めない。 ●怪螺怪螺怪螺怪螺 けらけらけらけらけらけらけらケラけらケらケラケラケラケラケラ怪螺ケ螺怪ら怪螺怪螺怪螺怪螺ケらケラ怪螺怪螺け螺怪ら怪螺。 鳴き声が耳につく。幾度目かの刃を振るったばかりの臣を、影が覆った。 呼吸を整える間もない。ただ無数の人の足に、腕に、鋼鉄以上の硬さを持つそれに踏み潰された。小さな指が肉に食い込む感触がする、骨がひしゃげる音がする。体液を撒き散らして潰される虫のようにあっさりと、臣の体は潰されて――足がそれを蹴飛ばした。 「丁度良い。体の調子が戻った」 それでも何でもないように、運命を燃やして立ち上がる。蹴飛ばした隙間を縫って這い出た少年は、己が撒き散らした血液の上を滑るようにして位置を整えた。 そう、毒針の攻撃を幾度か受けたものの倒れずに済んでいる後衛も良い事ばかりではない。辺りを冒す毒霧は確かに彼等の力を殺いでいる。 だが、それがリベリスタ達の手を緩めさせる原因にはならない。 「無残に潰され死ぬは虫螻ばかりだろう。虫螻に非ずば、でかいだけが取り得のウドの大木に食われる理はあるまい」 先程集中を重ね胴に不利を与えたユーヌの符、臣の背に張り付き落ちたのは癒すためのもの。 ユーヌは目礼した臣に首を振り、既に機能を果たさない尾を踏み拉いた。 「イイネイイネ、黄桜はこういう『死』のすぐ近くがだーいすき!」 ひゅう、と喉から漏れた息は血の匂いを孕んでいて、魅零はうっとり目を細める。一人で防ぐのは困難と察したうさぎが攻撃対象を分散させるべく救援に来てくれたけれど、彼女は誰より早く運命を燃やしていた。それでも恋の様に胸は高鳴り続けているから、呪いを宿した刃を突き刺し……幾度目か分からないそれが、怪螺怪螺の頭の動きを止めた。 「神隠しの、正体見たり――然様なら」 そこに無表情の瞳を一度瞬かせたうさぎが駆け込んだ。「黒蜘蛛」と名付けられた靴が五足、枯葉を踏み荒らし怪螺怪螺へと刃を抉り込ませる。 けら。けら。 けらけらけら。 頭は止まった。胴が鳴いた。 「頭を潰してもまだ動き回るのか……ボトムの百足みたいに神経節があるから、なーんて訳じゃないんだろうな」 弾き飛ばされ枝葉にも傷付けられた木蓮が、髪についた葉を落とした。 頭と言う表現はこの世界の者に分かりやすく例えただけで、この生物には『頭』という概念そのものがないのだろう。口と人の形を模した器官ばかりで目も存在しないこれが何でリベリスタを、人を判別しているのかも分からない。何の役にも立たない人の頭を何故生やしているのかも分からない。異世界の存在を、自らの世界の尺度で測る事自体が無意味なのかも知れない。 だからと言って只管攻撃に回るばかりが人ではない。 その動きを、攻撃を、少しでも読み取れないか目を凝らした。 「頭だけと言わず全部潰してやるぜ、遠慮すんなよ!」 目標が一つになった銃口は、針の穴をも通す正確さで胴を貫く。 足になっていた腕の一つが飛んで、落ちた。 「もうちょいか、だが安心しろ。――俺達は油断なんぞしてやらん」 蠢く胴の手足に鋭い視線を向けながら、遥平は惜しげもなく朱雀を呼び続けた綺沙羅へとその魔力を分け与える。陣地は先程張ったばかり。逃がさない。その心はこの場に集ったリベリスタの共通の思いであれば、綺沙羅は小さく頷いて、炎の翼を持つ神を呼ぶ。 すっかり日の落ちた山に赤々と灯る炎に飛び込んだ蜜蜂は、落ちることもなく鈍る事のない切っ先を異形の怪物へと。 「怪異は怪異のまま、ここで朽ち果てなさい!」 純白のアームガードが赤に染まったとして、怯む事など一つもない。刃は破壊の闘心を纏い、髪の毛の様なものを斬り散らしながら硬い体を傷付けていく。 けらけらケラケラ怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺怪螺。 胴が再び鳴いた。周囲を震わせる笑い声。それに伴う見えない衝動。 だとしても、臣はそれに頭をかき乱されたりなどはしない。 「この世界を害す者は――蜂須賀の正義が許さん!」 癒しを受けた体を再び酷使し、臣の放った斬撃は……地面を抉りながら、異形の胴を断ち割った。 ●暗き穴の底にて 傷付き痛む体を引き摺り、怪螺怪螺が来たと思しき方向に足を向ければ開きっぱなしの虫食い穴。 来た時に開けて行ったのか、長らく開いていたのかは分からないけれど、閉ざしてしまえばそれで終いだ。そう思いながら、ふと覗き込む。 土臭いような香り以外、暗闇で何も見えはしなかったけれど――いや。 ケラ。 木蓮が危惧したように、あれの番いだったのか。 或いは臣が想像したように、あれは数多存在する群れのただ一つに過ぎなかったのか。 分からない。けれど遠くから、確かに微かな笑い声。 ケラ ケラ ケラ ケラ ケラ ケラ ケラ ケラ ケラ ケラ ケラ。 笑い声が一瞬止まった瞬間、うさぎはゲートを叩き壊していた。 気付かれてはいない。いないはずだ。よもや塞がれた巣穴の一つを掘り返す知恵はあの虫怪螺にはあるまい。だからきっとそう、これで終いだ。 けれどけらけら笑うあの声ばかりは、暫く耳に残りそうだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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