● 蘇る死体 瓦礫の山は、とある災害の名残である。崩れた土砂や、家屋の瓦礫の名残だ。 瓦礫の山の片隅に、女性が1人立っていた。 虚ろな目をしたその女性は、きょろきょろと周囲を見渡して『ここらでいいか』と呟いた。 頭に冠布、衣は道袍と呼ばれる導師のそれに似たものを纏っている。顔の右半を、この世界には存在しない文字の書き込まれた呪符らしきもので覆い隠しているのが、彼女の纏う異様な雰囲気をますます不気味に仕立て上げる。 一目見て分かる異様さと、関わり合いになりたくないと思わせるだけの異質な雰囲気を彼女は備えていた。コスプレか、映画のキャストのような格好をしていながら、それら遊びやフィクションとは一線を画す、所謂「本物」らしさを纏う。 本物の、導師。 かつて映画を通して世界中にその存在を知らしめた、死体使いの名前だ。 それ以降、様々な創作作品に登場しているフィクションの世界ではポピュラーな存在。 Dホールを通ってこの世界に現れた彼女が操るのも、例に漏れず「死体」である。 顔に貼付けていた呪符を一枚ひっぺがし、瓦礫の山へと貼付ける。呪符を通して、彼女は瓦礫の山へと自身のオーラを送り込んでいるようだ。彼女が行っているのは、簡易のDホールを開く行為に他ならない。 土が、岩が、木っ端が、まるで意思を持つように蠢き、つぶれ、混ざり合い、そしてそれは肉へと変わる。 灰色の肌を持つ、死体である。ボロ布を纏い、硬直した四肢をピンと伸ばした、映画に出て来るキョンシーそのままの外見。額や、胸など、体の中心近くに呪符が貼られている。 その大半は、極々普通の人間らしい姿のそれだが、中には牛のような角を持つ者や、体長3メートルを超える巨人、頭が2つ存在する者、目が1つしかないもの、腕の代わりに触手じみた怪腕を備えたものなどが混じっている。 恐らく、彼女の元いた世界ではない、別の世界から集めた死体も混じっているのだろう。 だとすると、彼女がボトムにやって来た理由は優秀な死体探しか。 世界崩壊の危険や、争いの絶えないこの世界には、優秀な死体がゴロゴロしているだろうから……。 特に、リベリスタや神秘に目覚めた者の死体など、彼女にとっては絶好の収集対象だろう。 『硬直してるか。……まぁ、暫くすれば硬直も解けて、まともに動けるようになるだろう』 ぴょんぴょんと、飛び跳ねるようにしか動けない死体(キョンシー)を一瞥して、彼女はふぅと溜め息を零す。 もっとも。 この状態でも、力ない一般人を殺戮する程度なら問題なく行えるのだ。 『さ。強い死体を探しにいこう』 そう言って、彼女は歩き出す。 無数の死体を従えて、ゆったりと、まるで散歩でもするかのように。 ● 死者と歩く導師 「わざわざ死体を連れ歩くなんて、趣味の悪い相手ね。アザーバイド(白骨婦人)。映画で見かけるようなキョンシーを操る能力と、式符による攻撃を得意としているわ」 死体集めに来たようね、と言う『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の眉間には皺が寄っている。白骨婦人は、瓦礫や土砂の集積場から街の外れ、そして街の中心部へと、手ごまとなる死体を増やしながら進行していく心算らしい。 「接近戦はあまり得意ではないみたいね。常に自身の周囲には何体ものキョンシーを配置して、護衛させているわ」 キョンシーに戦わせれば、自分は直接手を下す必要などないのだろう。式符による遠距離支援で充分なのだ。それに、人間を遥かに凌駕する力を持った、アザーバイドの死体ばかりで揃えた部隊だ。ボトムの住人では、通常手も足も出ない。 「キョンシー達は、肉体が硬直しているから今はまだ動きが硬いけど、そのうち普通に動けるようになるはず。そうなったら、戦闘能力や速度は幾分上昇するでしょうね」 出来ることなら、死後硬直が解ける前に早目に殲滅してしまいたい。 最も、現在確認できるだけでもキョンシーの数は20ほど。速攻で倒してしまうには、少々多い。 「硬直中は、動作が鈍い代わりに防御力が高い。攻撃自体は、ブレイクやノックBの効果を持った力任せの打撃ばかりだけど、そっちにだけ気を取られて、白骨婦人の呪符を喰らわないように気をつけて」 死体を増やし、持ち帰る。 危険な思想の相手だ。Dホールはまだ開いているようだが、無理をしてまで送還する必要はないのかも知れない。 「無益な犠牲は出したくないけどね。ボトムの犠牲はもちろん、たとえ、アザーバイドでも。任せるわ」 そう言ってイヴは、仲間達を送り出した。 死体で編成された、不気味な軍勢の待つ戦場で、彼らは導師と相対するだろう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月30日(木)22:04 |
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■メイン参加者 4人■ | |||||
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●異界転生 彼女が死体の額に式符を貼ると、死体は動き出し、自分の命令に従うようになる。そのことに気付いたのは、どれほど昔のことだっただろうか。それ以来、彼女は自身を白骨婦人と名乗るようになった。どこか異世界から流れ着いた書物に出てきた、死体を操る怪異の名前だ。 死体を操る行為と、他者から向けられる怯えを含んだ眼差しに優越感を覚え、彼女の死体収集は始まった。異世界からの迷い子を見つけては、殺害し、コレクションに加えた。それだけでは飽き足らず、異世界に自ら足を運ぶこともあった。もちろん、気に入った死体を見つけ、収集するためだ。 そんな彼女が今回訪れたのは、このボトムの世界。配下のキョンシーを引き連れ、街へと向かう。この世界の人間はか弱い。しかし、その中に何故か、奇妙に強力な力を備えた者たちが存在しているのを、彼女は知っている。 『さぁ、くるがいい……』 くっくと押し殺した笑みを漏らし、彼女は呟く。 配下の死体を後ろに従え、ゆっくりと、焦らすように、或いは恐怖を与えるように、彼女は街へと向かって歩く。 ●キョンシー殲滅戦 ゆっくりと、キョンシーの軍勢が迫ってくる。先頭に立って歩く不気味な女が、今回の騒動の首謀者でもある(白骨婦人)だろう。廃棄物集積場から街へと彼らが攻め込むには川を渡る必要がある。川にかかった橋の上に、4人のリベリスタが並ぶ。 迫りくる死者の群れを、この場で迎え撃ち、殲滅する心算なのだろう。しかし、リベリスタの存在を確認した婦人は、にたりと不気味で不快な笑みを浮かべた。 『みぃつけた』 彼女の狙いは、あくまで死体。それも、強力であればあるほど、価値がある。リベリスタの死体こそ、彼女がこの世界で真に求めているものだ。両手一杯に式符を挟み、白骨婦人は足を止める。 両者が睨みあっていた時間は、数秒程度だったろうか。 婦人が式符を放つと同時、橋の上に業火が走る。業火の波を先頭にして、婦人の連れてきた死者の軍勢が駆ける。硬直した身体で飛び跳ねながらリベリスタ達へと襲い掛かった。 飛びかかってくるキョンシーを迎え撃つのは、まんぼうに似た奇妙な形状の剣だった。風を切り裂き、大きく一閃。雪白 桐(BNE000185)の放った斬撃が、先頭のキョンシーを切り裂いた。腕の骨がへし折れ、あらぬ方向へと曲がるが、相手は死体だ。怯むこともなく、前へ前へと出ようとする。 「大人しく回れ右をして速やかに元の世界に返ってくれるなら争わなくてすむのですが?」 キョンシーを指揮する婦人に向けて、桐はそう告げた。婦人からの返答はない。口元に凶暴な笑みを浮かべ、式符を放った。火炎の波が、桐を襲う。 だが、婦人の火炎は桐の元へは届かなかった。 「敵対的アザーバイト死すべし、慈悲はない。キョンシーも白骨腐人だか婦人だかも叩きのめしましょう! れっつ★まれうす!」 空に展開された巨大な魔方陣。降り注ぐのは、鉄槌の如き流星群。『ラビリンス・ウォーカー』セレア・アレイン(BNE003170)の大魔法により婦人の炎は掻き消された。衝撃の波に押され、数体のキョンシーがバランスを崩し、その場に倒れる。硬直した身体では、体勢を立て直すのも時間がかかる。 倒れ込んだキョンシーに群がる、影人間達。『影人マイスター』赤禰 諭(BNE004571)の召喚した影人だ。 「お人形遊びですか。まったくゴミからゴミを生み出す才能だけは有り余ってるようですね」 諭の放った式符は、空中で炎の鳥へと変化。身動きを封じられ、回避も防御もできないキョンシー達を飲み込み、焼き尽くす。肉の焼ける不快な匂いが辺りを包む。 配下を指揮し、式符による攻撃で追撃を行う諭の戦法は、白骨婦人とよく似ている。ならばこそ、次の婦人の行動は迅速なものだった。 キョンシーを指揮し、自分の前に壁を作ったのだ。 術者、あるいは指揮者を狙うのが常套手段。炎の鳥の影に隠れ、桐と数体の影人がキョンシーの間を駆け抜けた。キョンシーの壁にぶつかり、停止を余儀なくされる。キョンシーの壁の間を抜けて、新たな式符が桐の眼前へと迫る。 式符から解き放たれた冷気が、吹雪を巻き起こし、周囲を氷の世界へ変える。飲み込まれた影人は、溶けるように消えて行った。 『ちっ……。逃した』 舌打ちを零し、婦人は視線を上へと向ける。翼を広げ、空を舞う桐の姿がそこにあった。 「私個人の信念として、貴方にこちらの世界の人を殺させるわけにはいきません。この世界では、貴方の行為は受け入れられないと思いますよ」 桐に翼を与えたのは『蒼の』オーガスタ・アンカーソン(BNE005097)だ。翼の加護で得た羽を使って、桐は滑空。大上段に掲げた剣を、婦人めがけて叩きつけるように振り下ろした。 白骨婦人の、顔に張られていた式符から、数十匹からなる無数の蛇が飛び出した。蛇はうねり、絡みあいながら桐の剣へ、さらには桐の身体へと巻きつき、その動きを無理矢理に止める。転がるように婦人は後退。代わりに前に出たキョンシーの拳が、蛇ごと桐を叩きのめす。 桐の身体を突き抜ける衝撃。浮遊感。桐の身体が宙を舞う。キョンシーの攻撃で、翼が掻き消え、さらに内臓に幾分かのダメージを受けたようで、口の端から血が溢れる。 前線で壁役を担っていた桐が弾き飛ばされたことにより、一気にキョンシー達がリベリスタ達の元へと駆け寄ってくる。さほど広さのない橋なので、一列に並べる数は少ないが、しかし全員揃って同じ動きで迫ってくるキョンシー達に圧倒され、思わずオーガスタは頬を引きつらせ、数歩後ろに後じ去った。 しかし流石は歴戦のリベリスタといった所か。乱れた思考を繋ぎ直し、即座にEP回復のために、意識を集中させる。桐の怪我の具合にもよるが、今はまだ、激化するであろう戦闘に備え力を温存することを優先すべきだと、そう判断したのだ。 諭の呼び出した影人が、キョンシーの前に立ちはだかる。 影人を一掃すべく、婦人は新たな式符を放った。式符から呼び出された吹雪と、氷の刃が影人を襲う。 「死体が動いて御苦労なことです。葬儀場でもお探しですか? ならば火葬で始末して差し上げましょう。御代は結構、全てサービスです」 火炎の鳥が、婦人の放った氷の刃を飲み込んだ。諭の放った式符による攻撃。相殺し、水蒸気を撒き散らす。次の瞬間、真白い霧に包まれた橋の中、小さな悲鳴が上がった。 悲鳴の主はセレアであった。水蒸気の壁を抜け、セレアの眼前に異形のキョンシーが飛び出したのである。目の前の生者の息の根を止める。それがキョンシー達に与えられた指示である。指示に従い、キョンシーは目の前のセレアの細首へと腕を伸ばした。 キョンシーの冷たく固い手が、セレアの首を絞める。ギシ、と首の骨の軋む音。喉の奥から、呻き声が零れる。出会い頭の不意打ちに近い強襲は、セレアに対し有効に作用したようだ。 脳への酸素供給が減少し、意識が遠のく。セレアの意識が途切れる寸前、飛び込んできた小さな影が、セレアの身からキョンシーを引き剥がした。 白髪をなびかせ、大剣を振り回すのは桐である。地面に膝をつき、咳き込むセレアの身体を淡い燐光が包み込んだ。セレアの傷が癒え、体力が回復する。オーガスタによる回復術だろう。 前線に復帰した桐が、キョンシーの軍勢を薙ぎ払うように剣を振るう。 その隙に、杖を掲げ、セレアは呪文を唱えはじめた。 「死体をどんどん作って兵力増やせばいいと思った? 残念! こっちはそれ以上の速度でぶっ潰していきますよ!」 流星の如く降りしきる、鉄槌の如き魔力の塊が次々にキョンシーを撃ち抜いていく。セレアの放ったマレウス・ステラは対軍団戦において無類の威力を誇る。衝撃波に押し流され、橋を覆っていた濃霧は晴れた。 にへら、っと嗜虐的な笑みを浮かべるセレア。 婦人とセレア、2人の視線が交差した。 大上段から、全力を込めて振り下ろされた一撃は、圧倒的かつ暴力的な衝撃の渦を発生させた。周囲に居たキョンシーを、衝撃が飲み込み、その身をズタズタに切り裂いていく。暴君の名を持つ一撃。桐は、惜しみなくキョンシー討伐に全力を注ぐ。 「まったく迷惑な人ですね。早々にお帰り願いましょうか」 手近に居たキョンシーの胴を、桐の剣が叩いた。骨がへし折れ、肉が潰れ、キョンシーの身はまるで弾丸のように後ろへ吹き飛ぶ。 「かけ直します!」 桐の背に、光の翼が付与された。オーガスタによる支援を受け、桐は再度、空へと飛んだ。空いた射線に大砲の弾が撃ち込まれ、キョンシーの接近を妨害する。諭及び、彼の呼び出した影人による援護射撃だ。 婦人は式符を放ち、火炎の海を呼び出した。 だが、空から降り注ぐ魔力の鉄槌が火炎と相殺。炎は、大きくなることなく消え去った。 数の不利を補うのは、やはり数だ。広域攻撃や、影人による壁と戦力の増強。さらにはオーガスタの支援と回復も相まって、キョンシーの軍勢はすでに半数以下にまで減っていた。 しかし……。 『そろそろか……』 と、そう言って、白骨婦人は笑うのだった。 上空から、まるで矢のように滑降し、桐は婦人へと斬りかかる。キョンシーの動きはあまり速くないので、速度をつけて強襲すれば障害もなく婦人の懐に潜り込めると判断したのだ。 剣を振り上げ、婦人のもとへ。 しかし、次の瞬間桐の視界は180度反転していた。 「っ!?」 困惑。ついで、腹部を襲う鈍い痛み。キョンシーの蹴りを腹に受けて、体勢を崩したのだと理解する。と、同時にさらなる追撃が桐の胸を打ち抜いた。 心臓が跳ね、骨が軋んで、意識が遠のく。 「な、っ……」 キョンシーの回し蹴りが、桐の背中を捉えた。強引に、桐の身体を地面へと叩きつける。 先ほどまでとは打って変って、桐を襲ったキョンシーの動きは、まるで武術の達人みたいに、無駄がなく滑らか、そして力に満ち満ちていた。 死後硬直が解け、キョンシー達の動作は素早いものに変化した。先ほどまでの状態は、言わば待機モード。防御重視の、硬直状態。しかし、今は違う。 降り注ぐ流星の如き鉄槌を回避し、影人の放つ砲弾の合間をすり抜け、道を塞ぐ桐を蹴り飛ばし、キョンシーのうち1体がオーガスタの眼前へ辿り着いた。 拳を振り上げ、斧のように振り下ろす。オーガスタは、きつく目を閉じ衝撃に備えた。 「う……っぐ」 呻き声をあげたのは、オーガスタでなく諭であった。両手を広げ、オーガスタとキョンシーの間に割り込んだのだ。「諭さんっ!?」と、悲鳴をあげるオーガスタ。諭は、口元に笑みを浮かべ問題ないという風に、静かに首を横に振った。 「不味いですね。冷え切ってとても飲めたものじゃないです。粗悪品を選ぶ才能だけは上等ですね?」 キョンシーの腹に掌を押しあて、諭は呟く。力を吸いとられたキョンシーが、よろけながらも数歩後じ去った。 キョンシーを囲む影人が数体。重火器の砲身をキョンシーに向け、一斉掃射でその身体をバラバラに粉砕する。 「私は後方支援しかできませんが、できることは全力でやって、とにかく結果を出さなくては……」 胸の前で手を組んで、まるで祈るかのようにオーガスタは魔方陣を展開させる。飛び散る淡い燐光が、仲間達のもとへ。傷ついたその身を癒していく。 先ほど、オーガスタを庇って負った諭の傷もあらかた治った。失われた体力まで全開とは言い難いが、これでまだ戦いを続行することは可能だろう。 『面倒な』 と、白骨婦人は呟いた。 ●死人の遊戯 白骨婦人の指示で、キョンシーは駆ける。残りの数は少ないとはいえ、先ほどまでとは比べ物にならないほどに動作が迅速で滑らかだ。代わりに、先ほどまでよりも防御力が下がっている。 「あたしはネクロマンサーとかじゃないので、死体を弄って動かすことはできないけど」 セレアの降らせた流星が、纏めて2体のキョンシーを撃ち抜く。腹部に大きな風穴を空けながら、しかしキョンシーはなおも動こうともがき続けていた。チラ、とそれを一瞥し、セレアは婦人に視線を向けた。 「白骨婦人は玩具にできそうねぇ。剥製にして、暇な時に釘を刺して遊ぶのに良さそう?」 『それはお断り。遊ぶのは私』 十数メートルの距離を隔て、2人の視線が交差した。 しかし、セレアは見逃さない。 青白い白骨婦人の頬を、一筋の冷や汗が伝ったことを。 婦人は確かに焦っていた。コレクションを増やしにやって来て、すでに十数体の死体を失っている。こんなに手間がかかる相手だとは予想していなかったのだ。自分は圧倒的に強者であり、獲物を狩る側だと信じて、疑わなかった。 だが、どうだ。 蓋を開けてみれば、目の前に現れ、目的を阻むのは歴戦のつわものたちではないか。 「さて、斬り合いましょうか」 最前線で、キョンシーの攻撃をその身に浴びつつ、それでもなお戦い続ける小柄な人影。まんぼうに似た剣を振り回す桐である。キョンシーの攻撃を浴び続けたせいだろう。露出した肌には紫色の痣が浮かび、ヒビでも入っているのか右の腕は赤く腫れあがっていた。 口の端から血を零し、視線も虚ろ。戦い続けていることが不思議なくらいに満身創痍。 それでも桐は、目の前に立ちはだかるキョンシーを、大上段からの一撃で粉砕し、ゆっくりと婦人の前に歩み寄る。 配下のキョンシーはすでに全滅。式符を取り出し、しかし婦人はそれを放つことをためらう。 このまま戦闘を続けることに意味はあるのか、と疑問を感じたのだ。 「まだやりますか?」 掠れた声で桐は言う。剣を支えに立っているが、その身は小さく震えていた。口の端から、血が零れ、桐の足元を真っ赤に汚す。内臓にもダメージを負っているのだ。 沈黙は十数秒ほど。 『わ、わかった。帰る。帰るよ。大人しく……』 圧倒されたのだ。桐をはじめとした、リベリスタ達の覚悟に、婦人は恐怖し、降伏を選んだ。 婦人は、地面に一枚の式符を置く。式符を中心に、影が伸び、周囲に散っていたキョンシーの残骸を飲み込んで行く。キョンシーを全て回収し、婦人はゆっくり立ち上がる。両手をあげ、降伏の姿勢。 セレアの、諭の、オーガスタの視線が突き刺さる。ゆっくり、リベリスタに監視されながら婦人はDホールから元の世界へ返っていった。 それを確認し、桐はその場に膝をつく。 体力の限界だったのだろう。意識を失っている。 力尽きた桐を抱き起こし、オーガストは小さく「任務終了」と、そう呟いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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