● 御前崎の灯台に凭れかかったエリューションは切なげに眉を寄せて溜め息を吐いた。 屈強な腕を生やしたエリューションのその表情を今迄誰も見た事が無かったのだろう。 彼が連れる生物たちが心配そうに「カバ」だとか「パカ」だとか鳴いている。 「もう十年か……」 そんな言葉に意味がない事をエリューションは知って居た。 切なげなエリューションの傍で涎を垂らしたカバと猫が混じった異質な存在が「カバ」と語りかけた。 「よせやい」 言葉が通じて居た。涎を垂らしたカバネコ(仮)は再度「カバ」と語りかけ、切なげな吐息を吐き出した。 エリューションは屈強な脚で灯台近くの土を踏みしめて、「相棒、別れの時が近いな。俺は、彼女に会えないまま、か……」とアルパカへと囁いた。 切なげに眉を寄せたアルパカは「パカ」とハードボイルドな感じに鳴いて――いや、泣いている。 エリューションは、屈強な腕で顔を覆って、よせやいともう一度呟いた。 配下に連れるのがアルパカと猫耳が生えたカバである事からしても異質なのだが、エリューションはそんな事は気にしない。 はむはむと噛み続けるアルパカの戯れに何処か照れくさそうに笑った、彼は。 彼はがんもどきだった。 ● 「皆、大変! 野生のがんもどきが現れたの! ちなみに革醒したのは三日前よ。 どうしてがんもどきなのか、何故今がんもどきでなくてはいけなかったのか、それは私にも分からないわ。分かってはいけない気もする……。でも、確かにそこにはがんもどきが現れたの」 その白いかんばせに悲し気な色を乗せた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は、長い睫を伏せるように視線を落とした後、言葉を続けた。 「がんもどきは、加工品。そうでしょ? がんもどきは……加工品なんだもの。 それがどんな自由を夢見た所で、最後にはご家庭の食卓に並べられるのは摂理だわ。 だから……だからね、野生のがんもどきなんて存在しちゃいけないと思うの。本当に駄目だと思う。 私、養殖がんもどきだったら許せるけど、野生のがんもどきって許してはいけない……。 それが人間なら悪戯に叶わない夢を見るのもいい。 この世界の何処かには優しさが残っているかも知れないから。 でも、彼のみならず――多くのがんもどきを『絶望』に浸す、野生のがんもどきとか許してはいけないとおもう……だから! 倒しましょう!」 閑話休題、どういう状況なのかを『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) が悩ましげに眉を寄せたまま解説する。 「ええと、つまり三日前に――がんもどきがもう十年って言ってたけど革醒したのは三日前だぞ――スーパーの袋から転がり落ちたがんもどきが革醒したんだ。 その時、拾ってくれたアザーバイドのカバとネコの混じったカバネコさんとバカ……じゃない、アルパカさんに救われたらしいけど、エリューションだし、放ってはおけないなって……感じなんです、はい、ごめんなさい」 けれど、と隣に立っていた世恋が眉を寄せる。 「彼、恋をしたそうなの……」 「こい? がんもどきが?」 「ええ……スーパーで彼を買った女の子に、ひとめぼれしたの。落とされたけど。 そんな彼女が居るのは御前崎……彼女を追いかけて行ったがんもどき。悲恋ね! あ、でもエリューションだし。一般人が神秘事件に関わっても良い事は無いものね。叶わぬ恋だわ……」 早口で告げた世恋は「淘汰しなくちゃ、いけないのね……」と切なげに囁いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月27日(月)22:25 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● ふるり、と身体を揺らした『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)はエコバック片手に御前崎の灯台に立っていた。潮風が身体を更に冷やす気はするのだが、ゴシック・ロリータファッションに身を包んだ彼女の胸には何処か可笑しな闘志が宿されているのだから気にもならないのかもしれない―― 「へくちっ」 寒くなったからかは解らないが持参した鍋とカセットコンロが微妙な存在感を放っている『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は『おでんの汁(\198)』を携えて御前崎の灯台に愛用の綺沙羅ボードⅡを掲げている。 「寒いしね」 「はい……寒いですし、今晩のご飯はおでんに決定です。 ねーさまにおつかいぐらいしっかりできる子だって所を見せ付けなければ……。 少しおでかけしようとするだけで、あれこれ心配するねーさまは少しうざ……ごほっ、過保護なのです」 「ねえ、今、本音」 「いえ……過保護なのです(強調)」 愛しのお姉様の心配性っぷりに悩ましげなリンシード。それはそれとして嬉しいのでしょう? 『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) の突っ込みなどスルーしてリンシードは小さく頷く。 「と、言う訳で……あとはがんもどきだけでお使い完了です……」 リンシードと綺沙羅の視線の先には1.5mのがんもどきが立っている。ニヒルな笑いがナウでヤングな少女の心を擽りそうながんもどきが、立っていた。 「なんでがんもどき?」 がんもどきは御前崎の灯台に凭れかかって居た身体を起こし、小さな溜め息をついている。 「ねえ、なんで? なんで、がんもどきなの?」 「そりゃ、俺ががんもどきだったからだよ――お嬢ちゃん、そう首を傾げてくれるなよ」 白い歯(?)を見せて笑ったがんもどきに何とも言えない表情を浮かべた『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の背後でマクスウェルを手にした『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が機械化した眼球に何とも言えない色を宿している。 「謎の丸くてごつい生物」 「見た目通りだよ。俺は野生のがんもどき、さ。そんじょそこらの養殖モノじゃない」 「野生の……がんもどき、アルパカ、ネコのようなカバ……。 あれ? これって月鍵様を頭の病院に入れる依頼では無いのですね?」 「どうやら違うっぽいっすけど、突っ込み所が多過ぎて頭が痛くなってきたっすよ……」 確かめるように呟いたあばたに『無銘』布都 仕上(BNE005091)が頭を抑えてがんもどきを見詰めている。何故か装備したパンツ二種類の意味よりも何よりも目の前のがんもどきとアルパカとネコっぽいカバが仕上の心を惑わせているのだろう。 「その様子じゃ、俺の境遇知ってんだろ……? 此処は見逃してくれないか。『あの子』が――」 「10年あれば、ある恋は薄れ、ある恋は募る……。 貴方の生き様が偶々後者であったからといって、誰が責めることなどできましょう。 ……がんさん。いや、友よ」 『ホリゾン・ブルーの光』綿谷 光介(BNE003658)の言葉にがんもどきは「……羊よ」と囁き返した。 ● つっこみどころの多さに頭がぐるぐるとしている仕上は「十年」と繰り返す。 フォーチュナは言っていた。「革醒したのは三日前よ」と。如何考えても、可笑しい。 「アレっすか、賞味期限10年前なんすか?」 「失礼な! 現役だ! 彼女と行き別れてから10年の月日が経った気がしたが、そうか、三日前か!」 えらく長い時間を過ごしていた気がする野生のがんもどきに「賞味期限大丈夫っすか!」と仕上が殴りながら続ける。 ピチピチの現役がんもなのだと憤慨するがんもどきにドン引きする仕上。 風の様なスピードでPrism Misdirectionを手にしたリンシードがカバなのか猫なのかよく解らないもふもふふかふかでゆるキャラ系かばねこさんへとダイブした。 両手を一杯に広げて、猫耳を生えたカバへと飛びかかるリンシード。もしこの場に彼女を溺愛する者が居たならばシャッターを連打したことだろう。 「ああ、素晴らしきかなー……広い背中、ふかふかの毛並み。うへへ、うぇへへー……」 「リ、リンシードさん」 「ハッ、いえいえ、これはちゃんと弱体化させる為ですよー……? うへへ、良きかなー。 このもふもふ……堪らない……いえ、弱体化させる為なんです、決してもふもふしたい訳じゃないんです」 もふもふろ大きなかばねこに飛びつく彼女を誰が責められようか。責めはしないけれど弾丸は飛んでくる。 「カバッ!?」 「子供向けガンシューティングゲームなら、こんな景色なのでしょうか!」 超カッコイイポーズをとったあばた。二丁拳銃を手に取ったのはゲームの超必殺技を真似たポーズだった。 痛そうにもだもだするかばねこさんをなでなでしながらリンシードは「大丈夫ですよ……うへへ~」と相変わらずの破顔っぷりだ。どんな顔をしているのかはきっと正面に立っていた旭が見て居る事だろう。 素早く動く事でそのポーズをとり、がんもどきを打ち続けるあばたの謎の格好よさは「こういうとき、どういう顔したらいいか分からないの」という心境をそっと隠してくれている様である。 (・´ェ`・)<いたいやないか! 弾丸が柔らかな毛を貫通してアルパカが非難の一声を発した。正式には「パカァッ」である。本物のアルパカはパカァッって鳴かないが、彼はアザーバイドだ。仕方がない。パカァって鳴く時だってある。 「よせ! どうしてこの恋の邪魔をするんだ! それに相棒やかばねこさんを傷つけるな!」 「仕方ないんすよ!望みを叶えて女の子が筋肉モリモリマッチョモドキを見ることになるんすよ! がんもどきだからって銃を持って! 銃(ガン)・モドキの心算かもしれないっすけど、お前はどう見ても筋肉モリモリマッチョモドキっす!」 トラウマ製造機を止めるべく結界を張り巡らせた仕上ががんもどきの体へと一撃を叩きこむ。 掌に感じるちょっとぬめっとした感触に14歳少女の表情は、凍った。 「筋肉モリモリが好みかもしれないじゃないかァァァ――ッ!」 泣き叫ぶがんもどき! その様子に表情を曇らせた旭が切なげに眉を寄せた。前線へと飛び込んでバトルドレスの裾を掴み上げ優雅に一礼した旭が「がんもどきさん……」と囁いた。 「すきって気持ちはだいじだよ。わたしも、だいすきなひとがいるの。だから、わかるよ……」 「なら……!」 「でも、だめなの。あなたの『すき』は、叶えられないの。 伝えるだけでもよかったら……出来るだけのことは、するから……ごめんなさい」 悲しげな旭の目の前で筋肉モリモリマッチョモドキさんことがんもどきが唇(?)を噛み締める。 シリアス感丸出しの雰囲気で「お嬢さん」と囁くがんもどきの横面目掛けてカッコいいポーズをとった蒐の蹴撃が加えられる。 「あ」と旭が一声出したその目の前で光が炸裂しにこりともしない綺沙羅がアルパカへと向き直った。 「少しでも友情を感じてるんならあいつがあんたの知るがんもである内に終わらせてやるべきなんじゃない?」 「パカァ……」 「カバッ……」 意志疎通が出来る綺沙羅の声にカバとアルパカが神妙に声を漏らす。 どうやら「そうだな」と「わかってるんだ」と答えたようだ。綺沙羅にしか分からないけれど。 がんもどきとカバとアルパカ。二匹と一体は別の種類なのだとアルパカは理解していたのだろうか……。 「ガンさん。ボクらはこれがなきゃ始まらないでしょ」 ほら、と光介が投げ渡したウイスキー瓶。光介が手にしたのはどうやらがんもどきに手渡したものとは違うようだが、それは彼が未成年だからか、それとも中身が『飲む』ものでないからかもしれない。 「乾杯。御前崎の風に。貴方の最期の恋に」 琥珀に色付くその中身をぐいっと呑んだがんもどきが「いい出汁だな、友よ」と光介へと囁いた。 目指せ、無駄にカッコイイ効果上乗せ。その雰囲気にアルパカと蒐が「かっこいい」と声を漏らして頷きあって居る。更に訳が分からない状況だとあばたが真顔になった。がんばれとは言ったものの良く解らない状況ではある。 「勝てば良かろうなのだァ! 仕上ちゃん中学二年生、中二病拗らせたポーズでも何も可笑しくないっすよ!」 がんもどきの腹(?)を殴りつけ仕上が決めた必殺ポーズ。続く様にキーボードを連打して綺沙羅が召喚した影人が何故かカバを撫でまわして居る。上に乗っかるリンシードの「うへへぇ~~たまらない!」という声をより近くで聞くかのように。 「いいか、よく聴け。賞味期限が好きたがんもどきなんてがんもどきじゃない。ただの生ゴミだ……!」 ビシッと指差されたがんもどきが「なッ……」と声を漏らす。衝撃の事実を付き付けられたかのようにピタリと動きを止めたアルパカが長い首をぶんぶんと降っていた。 「でも、今のあんたならがんもどきとして死ねる。あんたの初恋の彼女に食べて貰うことだって夢じゃない……」 「そ、それは――」 苛烈なかばねこさんとリンシードと影人の戦い(なでなで)が続く中、綺沙羅がしっかりとがんもどきを見据えて居る。 「散弾。それは涙のオルタナティヴ」 何処からか所有したモデルガン。30度斜めに傾いた身体、そして瞑目の射撃ががんもどきを襲う! 腕を大げさに振る光介の隣で二丁拳銃をその中らは想像もつかない速度で打ち込み続ける何もしなくったって『カッコいいポーズ』のあばたが地面を踏みしめる。 「勢い余って倒してしまうかもしれませんからね?」 「あ! 危ない、光介さん! わたし、今日は過保護する」 ( ÒㅅÓ)キリッ アルパカの愛のキッスが襲い来るのを避ける様に旭が身を捩る。 「だ、だめ、それは心に決めた人が居るの! 愛のキスは駄目だよ!」 恥ずかしながらのろけを発し続ける旭に(・´ェ`・)という切なげな顔をしたアルパカが「そうか」と言っている気がする。実際は「パカァ」と言ってるが、それに構えないほどに死に物狂いで避けて居る彼女の様子は珍しさ満点だ。 シリアスに「わたし、あなたのことがわからないよ……!」と言っている旭なら稀に見れるが必死にアルパカの愛のキッスを避けて殴っての日曜の朝のヒロイン的ポーズを取り続ける旭など記録に残したいほどだ。 「年齢的に! ちょっと! だいぶ! はずかしーけど!」 「仕上ちゃんの様に中二になればいいっすよ!」 時は無情なのです。中二病なら、今からなれるかもしれないけれど。 お腹が空いたと胃のあたりを抑えながら過保護にされてる光介は「タフでなければ……!」とやせ我慢的な表情を見せている。 「見た目的にアウトっす!」 「ぐふっ!」 あからさまに殴り飛ばされたがんもどき。しかし、近付くアルパカには幸せそうに仕上はもふもふ。 扱いの違いがここまでだと哀しみを抱えるしかないがんもどきだが、本物の銃を構えたあばたには何も言えずに彼は深く膝をついた。 「酷い扱いだろ……」 「割と全員めんどくさいので、さっさとくたばって下さい」 冷静だった。彼女はあくまで冷静だったのだ。トランジスタグラマーな少女(?)の冷たい瞳にがんもどきは項垂れた。 「あんたはがんもだもの」 髪をフサァ――と払い、降らした雨。真顔の綺沙羅の言葉に『がんもどきであることがいけないのだ』とがんもどきは気付いてしまった。本末転倒だった。野生のがんもどきだから駆逐されるのかと思いきや自分ががんもどきだから駆逐されるのだ。がんもどきとしてのプライドが、ずたずただった。 「初恋の彼女に食べて貰えるようにしてあげる。それが思いを伝えるってことじゃないの?」 「言うじゃぁないか……!」 がんもどき的に下げられてあげられた気がして、綺沙羅の好感度が少し上がった。 もし初恋の彼女が居なかったら自分はこの子に恋をしてた気がするがんもどき。惚れっぽい。 「摘み食いする困った子扱いはゴメンですからね……! さっさと捌かせてください!」 切っ先が恐ろしい勢いでがんもどきへと突き刺さる。『お使い途中に猫見つけて道草食うこども』モードから抜け出したリンシードの恐ろしい一撃だった。 「がんさん……!」 小説の読み過ぎか、コートの襟を立てハードボイルドっぽい光介が手を伸ばす。しかし、ぽん、と肩をたたいた旭が「駄目だよ……」と静かに囁いた。 「がんもどきさんは、ここで終わりなの……」 そう言いながら殴りつける旭。運命力(じょしりょく)が渾身の一撃を繰り出して居る。 膝をがくがく震わせながら「パカァ」と鳴くアルパカの愛のキッスを向けられる仕上ちゃん(中二)とあばたさん。華麗に避けるあばたの動きに仕上が「あっ」と声を漏らしたと同時―― 「だ、駄目駄目!」 あばた指示『がんばれ』の蒐がストップを駆けていた。 果たしてストップ出来たのかどうかは解らないが、もふもふし続けた仕上が「帰り道へ送るっすから」とアルパカに説得を続けている。勿論通訳の綺沙羅が仲介役に存在しているわけだが。 もふもふを倒すのは忍びない――だから、先にがんもどきだけ殺しておこうと何とも『扱いの差』を見せつけるリンシードが切り刻み、タッパーを構えている。夕飯の為の戦いは苛烈極まりなかった。 「今日のお夕飯はおでんです」 「無数の骸の山どころかがんもの山が出来そうっすね……」 切り刻まれ、凄まじい勢いで爆音と共に撃ちこまれて行くがんもどきを見据えながらぽつりと呟いた仕上が頬を掻く。 やたらとハードボイルド感溢れるがんもどきの目が光介へと向けられて、屈強な腕が振られているのが彼の視界へと入る。 「がんさ……ッ!」 「光介さん! 駄目だよ!」 ←過保護。 旭のストップに動きを止めた光介の目の前で無残にちょっと冷凍保存されて切り刻まれて穴のあいたがんもどきが、鍋の中へと倒れていった。 ● 「野生は夢荒野。せいぜい飼われているうちが幸せなんですよ。がんもどきも……羊も、ね」 深くかぶったソフト帽。「がんさん」と呼んだ声に返る言葉は何もなく、無心にがんもどきを切り刻み続けるリンシードとマスクウェルを下ろしたあばたの姿が光介には見えて居た。 「静岡なので黒はんぺんを買ってきました。さっき、スーパーで売ってたんです……」 ほら、と差し出した黒はんぺんを食べながらアルパカが「パカァ」と嬉しそうに泣いている。解説員の綺沙羅さんは「醤油が欲しいっていってる」と付け足した。 「よしよし、お腹いっぱいになったらお帰り願えませんかね……?」 かばねことアルパカをすっかり手懐けていたリンシードに「ぱか」とアルパカが答えて居る。 (・´ェ`・)<おっしゃ、帰ったろ。 千里眼を駆使し周囲を見回すあばたが「あの辺りかな、そうでもないかな」と指す。 御前崎の灯台の潮風に煽られながら、海に程近い場所に意味深な穴があいている。『穴』が開いていた。 「それにしてもアザーバイドを返す穴って表現が卑猥ですね。いやらしい」 「え?」 「いいえ、何にも」 ふるふると首を振るあばたに蒐は首を傾げるだけだった。思う存分カッコいいポーズをとった蒐は満足そうに背を向けるがそれを阻んだのはアルパカとかばねこを送りかえしゲートを閉じた仕上だった。 「がんもどき鍋っすよ」 がんもどきの欠片を拾い集めながらリンシードは「ねーさまに褒めて貰おう」と頷く。 今迄生きて居たエリューションの欠片だと言う事を隠せばお使いが出来る子と認めて貰えるだろう。 先程までの気持ち悪い……失礼、筋骨隆々ながんもどきだということを、知らなければ――……。 「そういえば桜庭はがんもどき食べた事無いっすよね? 新鮮ながんもどきっすよ。さっきまで生きてた野生のがんもどきっすよ。 養殖じゃない。とれとれぴちぴち。ほら、食べなよ(←命令)」 「ひっ、やめて、仕上さん! やめっ――アッ!!」 鍋とカセットコンロ持参の綺沙羅によって出来上がったがんもどき入りのおでん。 先程まで筋骨隆々だったがんもが鍋の中に切り刻まれて浮いている。がんもどきだけのおでんに綺沙羅が御前崎の灯台に訪れて居た少女を呼び「食べない?」と誘いをかけていた。 熱々のおでんを差し出されてやだやだともがく蒐に仕上が「新鮮っすよ? 野生っすから」と口へ運んでやろうと持って行っている。 「助けて、あばたさん!」と懸命に誰かに押し付けんとする少年にあばたは丁重に断って後片付けを始めて居た。 異様な空間に招かれたと肩を竦めて落ち着かないそぶりを見せる少女へと綺沙羅はきちんと煮込んで出来上がった鍋の中身を指差して息を吐く。 「今日は冷えるから……何も言わずに食べてやって……」 「え、あ、はい……」 驚きにがんもどきをはむはむと食べ始めた少女へとほっと胸を撫で下ろす光介と綺沙羅。彼女の隣にそっとしゃがみ込み、旭は切なげに眉を寄せた。 「あなたに伝言を預かってるの。そのひとは遠くにいっちゃって、もう直接会う事はできないけど……」 好きなんだって、と囁いて。瞬く少女に旭は突然でごめんね、と笑いかけた。 聞くだけでいいんだよ、と旭は困った様に囁いた。誰なのかを伝える事が出来ない事は辛いけど、がんもどきを食べて行ってねと彼女は促した。 誰か分からないけれど、しかも何故がんもだけのおでんを作ってるのか解らないけれどと頷いて少女はがんもどきをもう一つ頬張って居た。 「……おいしい」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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