● 「きのこ狩りだ。エリューション化したきのこが大量に発生する山が発見された。 昼の間にきのこを取ってきてくれ。なに、革醒した人間にはただのうまいキノコだ、大丈夫。 ちょっとこう雨で土が崩れやすくなってる場所があるから、それだけ気をつけろよ?」 ――先日、そんなことを『まやかし占い』揚羽 菫(nBNE000243)が言っていた。 資料に書かれた日付を見れば、10月なかばのある日が書かれている。つまり、今日だ。 山に分け入ったリベリスタたちの先陣を切って『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)が何やらはしゃいでいる。なにを言っているのかよくよく聞いてみれば、あたまのいたくなるはなしだった。 「ツチノコって、つまりエリューション化したキノコの一種でしょう? じゃあ、今日この場に発生する可能性だってあるということなのだわ!」 誰だあのカラスに変なことを教えたやつは。 「あのな、ツチノコは――」 ぼこり。 突然の異音に、訂正を言いかけたリベリスタの声が途中で途切れる。 「っきゃあああああああああ!!??」 あ。梅子が足元の土ごと崖の下に落ちた。 「おーい、生きてるかー」 たった数メートルではあったが、不意の事態に泥にまみれて倒れた梅子の返事はないが、目を回しているだけのようだとは見て取れた。 やれやれと、肩をすくめてリベリスタは己の行動を決める。 このままキノコ狩りに山を登るか、降りてそういや21になった梅子を構ってやるか――それとも。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年11月03日(月)22:02 |
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■メイン参加者 16人■ | |||||
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● Q. 秋深き 隣は何を する人ぞ。 A. キノコ採ってます。 ――というわけで、山の中である。アーク職員の先導のもと、紅葉も美しい木々の間を抜け、道中に草をかき分け木の根を掘り返し、採るに採ったりキノコ山盛りカゴいっぱい。普通のキノコ採りならば見つけたキノコが食べられるものか、はたまたそもそも触っていいものかなどを調べながら採取する必要があるのだが。そこはそれ、今回のキノコはエリューションである。そのあたりを気にする必要なく、革醒しているものだけを選べばいいのだから難しい話ではなかった。 「きのこって、素人が勝手に取って食べちゃいけないものだと思ってたけれど……。 エリューションきのこの場合はどうなのかしらね?」 つまり、シュスタイナ・ショーゼットの気にしたそのへんはクリアされている問題なのである。エリューションに関してなら、リベリスタは素人ではない。安心! 「図鑑データ見て安全なものを選べば、素人でも大丈夫だろ。……とはいえ」 そう言って普通のキノコを探そうとするカルラ・シュトロゼックだが、それよりもとにかくエリューションキノコが大量なのだ。普通のキノコを探すまでもなく、見た目が普通のE・キノコだけでお腹いっぱいになれること間違いなしである。 ところで、知る者も多かろうことではあるが、あえて書く。キノコというのはこれで案外、毒を持つものが多いのである。食用のものと見分けがつきにくいものも多く、割るか噛むかしないと食用キノコかそっくりな毒キノコかわからないなんてのもある。(げんじつせかいの)厚生労働省によると平成25年の毒キノコによる食中毒事件は9月から12月の間で37件、患者数108人死者1名。キノコ狩りを行う時には、知識をきちんと身に付けてから行いましょう。以上、注意終わり。 「肉厚な椎茸ならお刺身も出来ると聞きましたけど、これはどうでしょうか……」 すごくしいたけっぽいE・キノコを摘んで伊呂波 壱和が首を傾げる。 E・キノコにはなんだかんだ言って普通のキノコ似の形が結構多かった。 普通のきのこと同じように石突を取って汚れを落とし、塩を溶かしたぬるま湯に10分ほど漬け込む。 「いくつかはきのこの炊き込みご飯にしましょう。お焦げが美味しいのよね」 借りてきた飯盒セットを手にしたシュスタイナの口元がいくらか、期待にほころんでいる。 火の上にかけられた鍋の蓋を開ける。湯気が立ち上り、辺り一面に広がった。 それはスパイスと自然の恵の調和――茶色くとろりとした液体の醸す芳醇な匂い。 カレー。それはボトムチャンネルが誇る食文化の極み。 よく煮こまれたキノコが、艶すら感じさせる香りを漂わせている。 「きのこはいっぱいあるからね、カレーもいっぱい用意せねば。いっぱい用意したら、いっぱい食べねば」 呟いて、春津見・小梢はキノコカレーをひとさじ、口に運んだ。 完璧だ。 ここには宇宙が在る――全てを辛さで包み、調和させる、カレー神の御業が。 「日本にくるまで、あんまり食べたことなかった、けど。 しいたけって、英語でもshitake mushroomだよ……ね?」 そう呟きながら、シエナ・ローリエは金網の下で揺れる火を見た。 シエナがやっているのはしいたけ似のE・キノコをじんわりと網焼き――つまり、火の加減がもっとも大事なのだ。香ばしい匂いが鼻をかすめる。頃合いだろう。 ぽちっとお醤油をたらしたそれを、はふっと食べる。 以前には名前だけ聞いたことがあったかも程度のシイタケは、今ではシエナのお気に入りだ。彼女の選んだE・キノコたちは、外見だけでなく、味もシイタケとよく似ていた。 「ん……とってもジューシー。そう、ジューシー。お鍋や煮物とは、違った風情……だね。」 どことなく嬉しそうにそう言うと、シエナは麻袋に手を伸ばす。 中には、めいっぱいのE・シイタケ(?)があった。たいりょう。これどうするんですか。 「もちろん、全部食べる、よ。大丈夫、ポン酢もあるから、飽きない……よ?」 瓶持参。やりますなシエナさん。 炊き込みご飯、唐揚げ、串焼き、鮭ときのこのホイル焼き。 レジャーシートの上に広げられた様は、さながらパーティーだ。すごく頭をよぎったが、決して女子会、とは呼べない。カルラは男性だし、壱和は――どっちなんだ。ともかく。 壱和は刺身風に切ったキノコをかじった。噛む度に山の匂いがする。壱和の尻尾が知らず揺れるのを、カルラがおっと、と止めた。 「尻尾、気をつけてな。火の粉とかもあるし」 七輪をなでそうになっていた尻尾をあわあわと抑えた壱和が、そういえば、と話題を変える。 「カルラさんは家でも料理するんですか? 手際見てた時に、手慣れててすごかったのです」 「料理は一時期毎日のように練習して慣れたんだが……最近は減ったかな。一人の生活だと保存が辛い」 少しだけ考え込んだカルラの返答に、ああ、と納得顔を浮かべてシュスタイナは箸を動かす。七輪の上ではキノコが良い匂いを放っていた。それをぱくり、と。良い塩梅だ。 「作りすぎかしらと思ってたけれど――どれも美味しい。壱和さんもカルラさんもお料理上手よね」 「シュスカさんとの料理も楽しいですけど、三人でやるのも新鮮ですね」 壱和が小さく笑って、そう返し、カルラを見た。自分へと向いた視線に、口の中にあったものを飲み下してからカルラもそれに同意をする。 「みんなで作って食べてってのは、気分良くできるな。 量も作れるし手のかけ甲斐があるっつーか……自分だけの時とはやる気が変わる」 「三人でお喋りしながらお料理作るの楽しかった。 またご一緒しましょうか。楽しい事は何度あってもいいでしょう?」 微笑んだシュスタイナに、カルラも口の端を上げる。これは確かに何度あってもいい。 「日本で酒が飲める歳までは生き延びてみようかって気にはなる」 ● 「……え? 落ちたのか? マジで?」 ぽかーんと。ジェイド・I・キタムラがまさにそう表現したくなる顔で呟いた。 「うめこー、お前さー、羽根あるなら飛べよ!」 崖下を覗きこんだ御厨・夏栖斗が、呻きながらも目を開けた梅子に声をかける。少し時間を要したが、状況を把握するなり梅子は喚きだした。犬が水をかぶったような勢いで羽をぶるぶると振って。 「何よこれ!? やだもう泥だらけなのだわ!!」 しゅたり、と崖をさほどの音もなく降り立った結城 "Dragon" 竜一は人差し指を口の前に立て、短く呼気を吐いた。 「おちつけ、うめこ。騒いでいると、ヤツに気付かれるぞ」 「へ?」 シリアスな表情の竜一に、梅子は怪訝な顔をする。何に、と問われるより先に竜一は続けた。 「なぜ、ツチノコが今の今までロクな目撃情報がないと思う? ヤツに出会った人間のほぼすべてが消されているからだ……。 だが、安心しろ。 何があっても、俺が、必ず、お前を守る」 「消され……って、そんなまさか! キノコ……でしょ!?」 衝撃を受けた顔で、梅子がよろめく。ツッコミ不在。 「それに、そんな泥まみれの恰好じゃあ、せっかくの誕生日が台無しだ。 ちょうど、うめこへの誕生日プレゼントがある。着替えてくるといいんだぜ?」 キメ顔で可愛らしいく梱包された「それ」を、梅子に渡す竜一。少し頬を赤らめたようにも見えた梅子がそわそわとその中身を確認し――袋ごと腕を振り上げ、地面に叩きつけようとして躊躇する。 「泥だらけのうめこもチャーミングだが、誕生日ぐらいは着飾るといいんだぜ?」 「ぬ……ぬ……ぬがーーー!! 剥いでやる、もういっそ剥いでやるのだわー!!!!」 わなわなした梅子は追い打ちを掛ける竜一の頭を問答無用で掴み、髪をひっぱりぐしゃぐしゃにした。 あ。中身はシマパンでした。 仕切り直し。 「まあ、四六時中羽使って浮いてるワケじゃねえだろうから、しょうがねえか。 あーあー、泥だらけじゃねえか。ほれ、濡れティッシュだ。まずは綺麗にしろ」 「あ、ありがとう……」 梅子を気にして崖を降りてきてくれたリベリスタたちの前で、差し出されたのを素直に受け取った梅子は少し逡巡した後とりあえず手と顔の泥を拭く。ところでその間に、誰も梅子に教える様子がないので離宮院 三郎太とセッツァー・D・ハリーハウゼンが簡単にツチノコについて説明してくれたりしたわけだが。 「誕生日だし、何か渡そうかとでも思ったがね。出先だしお祝いは街に戻ってからか……ふむ」 ジェイドは軽く顎を撫でてから、思いつきをなんとなく口にする。 「そうだなあ、今日は一日わがままに付き合うって事にしよう。 ほれ、プラムのお嬢様。ご命令をどうぞ。――おっさんに傅かれて嬉しいかは知らねえがよ?」 折に触れ『イケメンに傅かれたい』とかのたまっている梅子だが、これにはさすがに目を丸くした。 「あれだろ? つちのこ(笑)探すんだろ? 手伝ってやっから」 「……今、かっこわらいってニュアンスじゃなかった?」 「気のせい気のせい――そうだ、うめこ。 あっち、なんかヘビっぽい動物が這っていったあとあるんだけど、掘ってみたら、巣穴とかあるんじゃね?」 聞き捨てならぬとばかりにジト目を向けた梅子に、夏栖斗はしれっと話をそらし、少し離れた地面を指差す。蛇の巣穴だったら夏栖斗がなんとかしてよ、とか言いながら見に来た梅子の前で、なるほど示された付近はどういうことか土の色が少々違う。 「もしかしたら! ここに、伝説のツチノコが!」 テンション高く、土を掘り返し始る梅子。さっきまでツチノコが何なのかも知らなかったくせに、とは言ってはいけない。さっき確認ついでに梅子の認識を問うたところ、『見つけたら報奨金が出る』程度しか知らなかったのだから、笑い話だ。やがて梅子の指がなにかにぶつかる――紙で包まれた箱の手触り。 怪訝な顔と、期待の顔。半々の表情で箱を開けた梅子の目にうつったのは、小悪魔の羽根の髪飾り。 「掘り起こしてもらえなかったらどうしようかってちょっと神様に祈っちゃったじゃん。誕生日おめでとう」 夏栖斗がにっかと笑ってそう言った。 「う、嬉しい、けど……今は、つけられないのだわ、その……泥、ついちゃうから。 …………って、そうじゃない! ツチノコ、ツチノコはどこ!?」 はたと周囲を見回した梅子を、新田・快はいろんな意味であたたかい目で見た。 「うん、つちのこ見つかるといいね。それはそれとしてお誕生日おめでとう。お祝いに梅酒とかプラム・ブランデーを持ってきたんだけど、よかったら一緒にどうだい?」 快がそう言っておもむろにグラスを取り出すのを見て、梅子が首を傾げる。 「持ってきてたの?」 「ここは日本。花見でお酒を飲むんだから、行楽でお酒を飲まない理由は無いよね」 のんべえだ。のんべえがいる。知ってたけど。 「上のキノコが余ってたら、それをもらって肴にするのもいいね。 ――いや、一番の肴は、この秋の景色に包まれた山そのもの、かな」 グラスに注いだアルコール越しに、紅葉の風景を覗き見る、快。 「これが大人の休日。――そんな大人の休日を、梅子さんへの誕生日プレゼントに贈るよ。 ハッピーバースデー。これからもよろしくね」 そのグラスを梅子に渡して、快は笑う。 梅子は何やら言いたげに口元をもごもごとさせていたが、最終的に気恥ずかしさが勝ったらしい。照れを隠すようにグラスを一気に傾けた。もう21、されど21。未だ酒の飲み方はうまくならない梅子である。 「あ、ビーストハーフの梅子さん。お久しぶりです。……えっとカラスでしたっけ?」 「違う!? あとなんとなくスルーしてたけどやっぱりみんな梅子って呼んでるのだわ、プラムよ、プラーム!!」 面接着で。崖下の騒ぎに気がついたか、シンシア・ノルンが悠々と崖を地面と水平に歩き降りてきた。即答で(しかし今更)否定した梅子の悲鳴が聞こえているのかいないのか、考えこむように首を傾けた。 「え、梅子じゃなくてプラム? プラムってスモモの事ですよね。 しかもスモモって、酸っぱい桃だからスモモって言うんでしたっけ。 スモモさん、酸っぱいんですね。というよりスモモさん、食用だったんですね。 ああ、そうだ、スモモさん、誕生日でしたね。 誕生日おめでとうございます。誕生日祝いのスモモケーキです――共食い、頑張ってくださいね」 あ。梅子が涙目になってる。 ● ツチノコー! とかわめいていた梅子が、しかし結局のところ実質リタイアしてしまっているわけだが、それでも数名のリベリスタが、どーいうわけかツチノコを探しに向かっていた。 妙に渋い顔をして、翔 小雷が草をかき分ける。 「リベリスタである以上一蓮托生。 となれば梅子は姉も同然――弟や妹はいたが年上とは関わることが少なかったから……な」 しかしどうしても顔から渋みが抜けない。 クノイチかぶれのフュリエも己よりひとつつ年上だったというのに、梅子はさらにもうひとつ上だと聞いて、何かこういやに落ち着かないものを感じてしまうのだ。リベリスタなら、外見や言動が実年齢に伴わないものなどざらにいるわけで、そのあたりだと思い込めれば腑に落ちるのかもしれないが。 「梅子のためにつちのこを探してみるとするか。見つけたらきっと喜んでくれるだろうな。 ――ツチノコとはどんな味がするんだろうか」 呟いてから、意味などないとわかっていても首を振る。どんな味か、気になっただけだ。 食ったところで、蛇肉の味と大差ないのではないか、『うますぎる!』とか叫ぶようなものでもないのではないかという思いが過ぎる。普通の蛇肉というのも、鶏に似ているとか、淡白だとか、諸説あるのだが。しかしツチノコであれば、普通の蛇とは違った味が想定されても不思議ではなく。 「……やはり蒲焼きか」 小雷の結論はそこに至った。 「つかつちのこってどうやって探せばいいんだ……? ……とりあえず草むらの影とかそういう所をさがしてみっか」 頭を掻いて、鬼蔭 虎鐵もまた草を茂みを覗きこむ。 しかし行けども行けども草木ばかりでは――そこまで考えて、ふと思い当たる。 都市伝説として耳にしたことのあるツチノコの噂では、多くは蛇とは似て非なる移動方法をとると聞く。曰く、尺取り虫のように屈伸をするだの、曰く、尾をくわえて輪のように転がるだの。そして何より、ほとんどの話に共通するのは、奴が常の蛇より太いということだ。であれば、蛇のように草の根の隙間を縫うような移動はしないのではないか――? つまりは。 立ち上がり、周囲を見回す。目当ての物はすぐに見つかった。獣道。 (……絶対みつかんねぇ気がするんだけどな!) そんなことを思いながらも、虎鐵はにぃと笑みを浮かべて歩を進める。 偶にはこういう戯れも必要だよなっと、と自分に言い聞かせたりしながら。 「最近はつちのこは妖怪扱いされてるんだよね!」 正直、あれ子供にわかるんだろうかってネタが多いのは気のせいだろうか? 公園で遊ぶ子供が『妖怪・天狗のしわざだ!』 って叫んでるのを今日本当に耳にして、ちょっと絶句した。ともかく。 「だいたいの事はもう妖怪の仕業ってことでいいんじゃないかなってワタシ思う。 エリューションの仕業だ! な、なんだってー! と同じだよね。便利便利」 きっと来年の夏ぐらいに発売予定に違いない。E・ウォッチ。時村玩具あたりで。 「まあそれはさておき! アイドル☆UMA探索番組! アイドル明奈、つちのこ捜索レポートをお送りいたします!」 イェイ! って感じでポーズを取る明奈の、目線は左手のハンディカム。自撮り。キーワードは低予算。 「さーてどこかなー……うわー枝に服が引っかかっちゃったぞー☆」 …………。 「ダメだこの路線、普通にやろう」 迷走するアイドル。こうなりゃもう原点回帰的に歌謡曲とかどうだろう。他の捜索者たちをハンディカムで撮影していると、フレームの端に土煙が上がったのが見えた。思わずそれをカメラで追う。それが何なのか、リベリスタである明奈には視認することができ――『あ。こりゃお蔵入りだわ』といった表情で、ハンディカムの電源を落とした。 土煙の主は、司馬 鷲祐だった。 (奴も所詮爬虫類、俺の同族だ。自ずと場所は見えてくる――まずは全速力で山の頂へ!) キノコ狩り組を追い越して。途中でカレーの匂いとかが鼻をくすぐるが、今はそんな場合じゃない。 熱源を見通し、速度に任せて縦横無尽に山を駆け巡る。 登りきれば、あとは下るだけ――さあ、人の手が入った場所や、今リベリスタたちがいる場所以外に目を凝らせ。探しだせ。誰も踏み入らぬツチノコBlueOceanが有り得るはずだ! わしすけは、違った鷲佑は山を疾走りまわる――! そして彼は、ぴたりと足を止めた。 目を眇めて体を低くし、なるべく音を立てぬように草をわける。 胴の太い、蛇のようなものがいた。 「アオジタトカゲ――ツチノコはこれの見間違いという説があるな」 尻尾まで太いその姿。鷲佑は爬虫類の矜持(?)にかけて間違えたりはしなかった。 ● 今日は随分と騒がしかった。 いつもはひとなどまるでこないこの山に、数日前から異様な空気が漂っていたのを、とつぜんやってきたひとの群れがあっという間に蹴散らしたのか、もうおぞましさは消え失せていた。 いい匂いがしたり、楽しそうだったりという空気は、静かな木々の中には異質で――それでも、まだこのあたりにひとたちが住んでいた頃のようで、彼は些か陽気な心持ちでもあった。 しかし、またこの場所にひとがくるのであれば、そろそろ塒も変える頃合いかも知れぬ。 そう考えると一抹の寂しさとやらもなくはないが――なに、ひとはどこにでも足を伸ばしてくるものだ。また出会うこともあるかも知れないし、それならまたその時に、それからどうしたものか考えればよかろう。 彼は尾をくわえて輪の形になると、斜面を転がるようにその場を去った。 あとにはただ、鱗のある轍が残るばかりである。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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