●悪魔、という存在 異世界。 あまりに単純で分かり易く、それでいて現実味を伴わない言葉。 それでも……その言葉を以てでなければ、それを表現する言葉は無かった。 明らかに、この世界に存在しない筈の存在。 世界を超えて、世界を壊す存在。 境界を超える……越界の、悪魔。 ●試練の迷宮 「アーティファクトの調査の事で、皆さんに協力をお願いしたいんです」 以前から調査に協力して頂いているアーティファクトの件ですと前置きして、マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)は話し始めた。 アーティファクトの名は、試練の迷宮。 試練を望む者を、モンスターやトラップの配置された迷宮へと転移させる修練型のアーティファクトである。 大きさは掌に収まるくらいの立方体で、材質は金属か何かのように見えるが、詳細は不明。 「これまでの情報から遥か昔、何者かが修練の為に造り出したのではないかと推測されています」 罠やモンスターによって負傷などはするものの、命を落とすような仕掛けは迷宮内には存在しない。 酷い負傷をした場合は、強制的に迷宮の外へと転移させられるという仕組みになっているようだ。 そして迷宮に挑んだ者が一人でも目的を達成できれば、試練を乗り越えたとみなされる。 「前回のデータを基に調査を行った結果、最深部へと向かう迷宮が現れたのだそうです」 調査に協力という形でその迷宮に挑んでもらうというのが依頼の内容ですと説明して、フォーチュナの少女は集まっていたリベリスタ達を見回した。 迷宮内の基本的な構造は、これまでの迷宮と変わらないようだ。 アーティファクトの呼びかけに応じれば、応じた者たちは迷宮の入口へと転移させられる。 「入口は門のようになっていて、強制転移以外でも迷宮から出る事は可能になっています」 迷宮の天井や壁、床などは石のように見えるが、戦闘を行っても傷付かない不思議な素材で出来ているようだ。 「内部は物理的にだけでなく空間そのものも隔てられているようで、壁や天井、床等を透視で見通すことは出来ません。透過の方も、壁や床の厚み分くらい潜る程度のことしかできないんだそうです」 内部ではモンスターのような敵が複数出現するが、造られた存在で生き物ではないらしい。 生物のような外見や動きをするものはいても、あくまで創造物でありプログラム的な何かで動いているようだ。 「因みにこれまでの迷宮は、ボスらしきモンスターを撃破する事で試練を乗り越えたと判断されてきました」 今回も同じようですと説明してから、マルガレーテは迷宮についての詳細を話し始めた。 ●迷宮の悪魔 「今回の迷宮は前々回までと同様の、見た目が石造りという感じの内装になっています」 前回は一見地上のような造りをしていたが、今回はそうではないようだ。 5m程度の四辺を持つ石の板が繋ぎ合わされたという外見の迷宮は、通路と幾つかの部屋に分かれ……最後には広間のような大部屋へと続いているという。 「迷宮内部はモンスターが徘徊しているものの、今回は罠等の類は設置されていないようです。ただ……今回の迷宮は二層構造になっているのですが、階段などの移動手段が設置されていない箇所があるみたいで……手段が確保できない場合、ボスの部屋へと向かう経路が制限される形になります」 試練踏破とみなされるボスへの部屋も、移動手段が限られる形になるらしい。 「迷宮の深部に大広間があるのですが、広間の周囲は開けた吹き抜けのようになっていて、広間の入口の上にもバルコニーのような場所がついていて、そこにも広間入口と同じような大扉が付いているんです」 内部は同じような造りの部屋になっているが、そこで待ち受けるボスはそれぞれ異なる能力を持つようだ。 「どちらかを倒せば試練を乗り越えた事になりますので、飛行等の能力を全員が使用できるのであれば戦い易い方を選ぶのが良いと思います」 そういってからマルガレーテは、いつもと順が変わりますがと前置きして、それぞれの部屋で待ち受けるモンスターに付いて説明し始めた。 今回の迷宮に出現するモンスターは、伝説などに登場する悪魔のような姿をしたモンスターなのだそうだ。 「広間にいる悪魔は、どちらも巨大で強い力を持っています」 膂力や敏捷性、耐久力に優れている事に加え、ダブルアクションを更に強化したような能力で3回の行動を行ってくるようだ。 「麻痺等の効果を与える事で体の一部の動きを鈍らせる事もできますが、それでも行動の回数を減らす事が出来る程度で、完全に動きを封じるというのは難しいようです」 呪いや精神系の攻撃への耐性も持っているようなので、搦め手の仕掛け難い相手と言えるだろう。 「上層……飛行や面接着等の能力を使用しなければ辿り着けない階層の悪魔は、物理と神秘の両方に優れているみたいです」 単体や近接複数への物理攻撃と、遠距離や全体への神秘攻撃を駆使して戦うタイプのようで、それ以外にも精神を操る魔法のような力も操るようだ。 「対して下層、皆さんが到着する吹き抜けの正面の広間にいる悪魔は、物理に特化したタイプになります」 神秘的な力も多少は用いるものの、それらは自分を強化する為だけに使用する。 「巨体に相応しい大きさの剣を持っていて、それに炎を宿して戦います」 攻撃は武器や肉体に頼った物のみとなるが、強力な単体攻撃や離れた対象も狙える範囲攻撃、そしてダメージを与える状態異常等、多彩な攻撃を使いこなすようである。 神秘的な攻撃に対する攻撃にはやや弱いものの物理攻撃に対しての高い防御力を持ち、多少のダメージなど物ともしない耐久力を持つようだ。 「総合能力的には同等程度の戦闘能力を持つと思います。どちらと戦うかは、皆さんの適性や戦法などを考えて判断して頂ければと思います。また、ボス達は皆さんが迷宮に挑戦を開始した時点から、徐々に耐久力を高めていくようです」 部屋や広間等の扉で仕切られた区画に滞在する間は増加は一時的に止まるらしいが、区画を出ると再開されるのだそうだ。 「できれば早めに挑んだ方が倒しやすいと思います。ただ、もちろん無理は禁物です」 そういってボスに対しての説明を締め括ると、フォーチュナの少女は迷宮とその内部を徘徊するモンスターたちの方に付いて話し始めた。 ●深淵の迷宮 「上下2層構造になっている迷宮は、数ヶ所にある階段と吹き抜けで繋がっています」 高低差は石畳の1辺分、約5m程度。 「床の厚み分の誤差はあると思いますが、あまり気にしなくて問題ないと思います。また、この上層と下層は床板で分けられているだけなので、透視等で見通したり透過で移動する事が可能なようです」 その点も、今までの迷宮と異なりますとマルガレーテは説明した。 「壁の一部に関しても、同じように壁の反対側が別の通路になっている箇所があるようで、そういった部分は同じく透視や透過が可能なようです」 幸いなことに徘徊するモンスターの中には、そういった能力を持つ個体はいないようだ。 もし用意する事が出来れば、索敵や移動などの面で大きく有利に働くだろう。 「各所の吹き抜けの構造は、上層部の一部の通路の床部分が無いという感じのようです」 幅は通路と同じ程度で、長さの方は5m区切りで場所によって異なるようだ。 「石畳1辺分ならば皆さんなら飛び越えられると思いますが、それ以上ですと越えるには何らかの手段が必要だと思います」 落ちた場合はダメージを受けるかも知れないが、慎重に降りるのであれば怪我などはせずに移動できそうだ。 ただ、登る事は何らかの手段が無ければ難しいだろう。 下手に時間を掛けたり音等を立てれば、徘徊するモンスターを呼び寄せる形となってしまう。 今回の迷宮は造りとしては単純だが、探索という点においては複雑かも知れない。 「迷宮内に幾つか存在している部屋の方ですが、こちらは木材に似た外見の素材で作られた扉で仕切られる形になっています」 広さは全て20m四方程度で、ボスの居る大広間のみ40m四方程度の造りらしい。 大広間に関しては出入口は1ヶ所のみだが、他の部屋は場所によって1ヶ所から4ヶ所の出入り口があるようだ。 「扉に鍵は付いていませんが、この扉が閉じられている限りモンスター達は室内へは侵入できないようです」 室内にいるモンスターを追い出したり弱体化させるような効果はないが、リスクのない安全地帯の存在は迷宮探索において大いに役立ってくれる事だろう。 「モンスターの方ですが、詳細は不明なものの種類の方は5種、確認できました」 生物を模して造られプログラムのようなもので動く存在で、撃破されると消滅するという点も今までと同じだ。 「1種目は、これも悪魔のような存在です」 山羊のような頭部と下半身を持つ人型の怪物は、背に蝙蝠の翼を生やしている。 「腕に生やした鉤爪による近接攻撃と、魔法のような力による遠距離攻撃を用いて戦います」 魔法的な力はダメージを与える効果が主で、特殊な効果は無いようだが複数を狙えるような攻撃らしい。 「2種目は体の黒くて頭部の3つある大型犬のような姿をしています」 牙や体当たりによる攻撃の他に、炎を吐くことで離れた場所にいる相手を攻撃する事もできるようだ。 「知性は低めのようですが、攻撃力と耐久力に優れています」 3種目は、無数の針金を捩り合わせ人型にしたような外見をしているらしい。 「物理無効と神秘無効に似た能力を持っているようで、直接的な攻撃は効果がありません」 ただ、状態異常や自身の攻撃の反射等に対しては防御手段を持たず、ダメージを受けるように作られているのだそうだ。 「攻撃の威力の方は低めですが、命中精度は高いようです」 近接ではあるが物理と神秘の両種類の攻撃が行えるようなので、倒す手段が用意できない場合は面倒な相手といえる。 「4種目は、3種目に似た外見をしています」 個体ごとに物理か神秘のどちらかの攻撃を無効化する力を持っており、無効化を持つ属性の近接攻撃を行ってくる。 「攻撃の精度は3種目と同じくらいですが、攻撃力の方は1種のみのせいか、やや高いようです」 最後の5種目は、前述の4種と比べると小型のようだ。 「1体は拳くらいの大きさの浮遊する個体ですが、移動時は複数で集まって人間のような形状を取っています」 攻撃能力は全く持っていないが、受けた攻撃の一部を攻撃者に跳ね返す能力を持っているようだ。 「戦闘時は味方を庇う習性があります。ですので、他の種類のモンスターと現れた時の対処は一気に難しくなると思います」 マルガレーテはそう言ってから、最初と最後に挙げた2種は飛行能力を持っていますと説明した。 吹き抜けに関しては探索だけでなく、モンスターへの対処という点でも考慮する必要があるようだ。 「今回の迷宮は今までの迷宮と比べると、モンスターに関する事前の調査等が行い難くなっている感じでした。大まかな情報は挙げた通りですが、詳細が不明である以上、今まで以上に戦闘には警戒した方が良いかもしれません」 そう言って説明を終えると、集まったリベリスタ達を見回してから。 今回も宜しくお願いしますと言って、フォーチュナの少女は頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月29日(水)23:06 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●深淵に向けて (試練、ね) 「わざわざ苦労したがる物好きは、どこにでもいるってことかな」 アーティファクトによって造られた迷宮内を、目の前に広がる風景を眺めながら。 『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は呟いた。 挑戦者に試練を与える迷宮と、その中を徘徊するモンスターのような創造物。 「ま、なんだろうと、負けたくはないけど」 試練は乗り越えてこそ、である。 困難であろうと……困難であるからこそ、意味がある。 意味を見出せるのだ。 「迷宮探索、うん、面白い!」 対照的に、と表現すべきか。 言葉通り……本当に楽しそうな調子で口にしたのは、青島 由香里(BNE005094)だった。 「敵も程よくいて、最後にボスがあって、ってゲームみたいよね」 (作ったのはそうとう昔の人だって言うけど、やっぱりこういうのは冒険の王道なのかしら?) アーティファクトの事について色々と思いを巡らせながら、興味深げに……楽しそうに、由香里も目の前に広がる風景を眺める。 興味深げにという点においては、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)も同じだった。 試練の事を考えないという訳ではないが、彼女の好奇心を刺激するのは、この迷宮を創り上げている破界器の構造である。 「中に異空間があるタイプのアーティファクトは何度か目にした事あるけど、 これはどういう仕組みになってるんだろうね?」 それについて調べたいと考えた綺沙羅は、調査に役立ちそうな資料を頭の中に叩き込んできていた。 「何か要になりそうな物品や文様とか無いかな?」 呟きつつ彼女は入口から見える壁や床、天井などを丹念に観察する。 「今回は再び迷宮かぁ」 (……とはいえ前と違うようだし、用心しないと) 今回も無事に迷宮を突破できるように。 『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)は用意してきた装備を、 出発前にと再確認した。 暗さ対策に準備した暗視ゴーグルの他、マッピング用にとメモ帳や筆記具等も準備している。 戦闘も大事だが迷宮内を歩き回る際には、そういったものの方も大事になるのだ。 違いがあるとはいえ、基本的な部分は変わらない筈である。 「破界器の迷宮も終焉が見え始めたかな?」 コンパスや方眼用紙等も用意してきた四条・理央(BNE000319)も、念の為にとマッピングの準備をしつつ……今回の迷宮の事について、考えてみた。 最深部、というのであれば……これまでは触れられなかった、明かされなかった謎等が解明されるかも知れないのだ。 「終点には何があるか、意地でも見に行きたいね」 呟きながらも手は止めず、彼女も出発の準備を完了する。 暗視の能力を使用して、周囲を照らす迷宮の照明の先……暗闇の中を見据えながら。 (ブリーフィングでの説明を聞く限りでは、一筋縄ではいかないようで) この先に待ち受ける試練に想いを馳せながら…… 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)は呟いた。 「まあ、やるだけやってみますかね」 ●大広間への路 迷宮内では出来る限り戦いを避け、ボスのいる広間への最短経路を進む。 戦うのは上層の、翼の悪魔。 それが6人の決めた基本方針だった。 その為には如何するかという部分も色々と決めてある。 ただ敵と戦うというだけでなく、モンスター達の徘徊する迷宮を進む事になるのだ。 地図作成の準備をした智夫は6人の隊列を確認した後、千里眼を使って後衛から周囲を見渡した。 今回6人が選択したのは、前衛と後衛それぞれ3人ずつ横に並ぶという陣形である。 前衛を務めるのは、義衛郎、涼子、由香里の3人。 後衛に位置するのは、理央、綺沙羅、智夫の3人だ。 前衛と後衛で1人ずつ、涼子と智夫が千里眼の力を持ち、暗視の能力は前衛後衛合わせて4人が準備している。 それ以外にも音を察知する能力等、さまざまな能力をリベリスタ達は準備していた。 ボスの部屋に達するまでに出来る限り戦いを避けたいと考えての事である。 こちらが先に敵を発見できれば、戦闘を回避できる可能性は高くなるのだ。 逆に敵の方が先にこちらを察知した場合……戦闘を回避する事は難しくなるだろう。 そうならない為に。 涼子は智夫と手分けするようにして周囲を確認した。 迷宮内は所々、壁ではなく空間そのもので通路が隔てられている場所がある為、遠くまでを見通す事が不可能な造りとなっている。 とはいえ見通せる範囲は千里眼を用意しない場合と比べれば、それこそ雲泥の差だ。 6人が位置しているのは、二層構造の迷宮の下層側のようだった。 天井が見通せ、逆に床は透視できないという現状から判断しての事である。 暗視を使用して義衛郎は、通路の先の暗がりを警戒しながら歩を進めた。 由香里も同じく暗視の能力を使って周囲を警戒する。 自分たちの周囲は薄い明かりに照らされているとはいえ、それ以外の場所は闇に閉ざされたままなのだ。 (トラップがないかも一応チェックしておきたい、事前情報が全てじゃないし!) 用心を重ね、敵への警戒以外にも……床や壁等に注意をしながら、由香里は通路を進んでいった。 綺沙羅も自身の持つ魔術知識に照らし合わせながら、迷宮内を進んでいく。 「何か要になりそうな物品や文様とか無いかな?」 周囲への警戒も行いながら、彼女は壁や床、天井などを興味深げに観察した。 石によく似た、しかし異なる存在。 リベリスタが全力で力を揮っても壊れない何か。 そして、造られた迷宮内を徘徊する創造物(クリーチャー) 考えれば考える程、新たな疑問が湧き上がってくる。 それらについての何かが、今回は分かるかも知れないのだ。 千里眼を使う2人を頼りにしつつ、問題があった時の為にとマッピングを行いながら。 理央は後衛を固めていた。 式符で創りあげた影人は、今回も2体を傍に控えさせている。 影人の仕事は主に二つ。 その内の一つは、敵の誘導と戦闘の回避だ。 事前に敵を察知できた際に、近くを通り過ぎたり離れた場所で音を立てたりして、敵を遠ざけるというのが彼女の考えた作戦だった。 戦闘はできるだけ回避する。 それでも、避けられない場面は幾つも出てくる事だろう。 幸い、傷を回復する能力を持つ者は複数いる。 適度な休憩さえ取れればダメージが蓄積して強制転移という事態は避けられる筈だ。 休憩に使えそうな部屋の事について考えながら……理央は手早く方眼紙に筆記具を走らせた。 ●迷路と怪物 流れるような動きで踏み出した由香里が、巨大な黒犬の胴に鋭い突きを放つ。 「敵を後衛に近づかせないのが前衛のお仕事なの!」 (その上で余裕があればダメージを与えるのも大切ね?) 攻撃を受けた獣は唸り声をあげて、牙の生えた口を大きく開いた。 だが、その口で散らついた炎が大きくなる前に智夫の投げたジャベリンが突き刺さり、幻惑するような動きから義衛郎が放った刺突が守りの薄い急所を貫く。 叩きのめすような涼子の一撃を受けて……地獄の番犬は力尽きたように迷宮の床に転がり、煙のように姿を消した。 後衛から迫ってきた針金のようなモンスター達に対しては、綺沙羅が神秘の力で創り出した閃光弾を投擲する。 直撃を受けた不壊者らしき存在は、閃光と衝撃によって一時的に動きを停止させた。 その間に6人は先へと進む。 迷宮内には多くのモンスターが徘徊していたが、まとまって動いている者は少なかった。 暗視と千里眼、集音装置などの能力を活用して一行はできるだけ早期に近付いてくるモンスターを察知し、出来る限り回避し、あるいは影人によって誘導する事で戦闘を回避した。 戦いを回避できない場合も、戦闘そのものは出来るだけ小規模に済ませられるようにと攻撃対象を限定し、それ以外の敵は一時的に封じる技を活用して離脱するという戦法を繰り返す。 智夫と涼子の千里眼は迷宮の構造を見る上でも役だったが、最も役に立ったのは敵の動きを察知するという点に対してだろう。 壁向こうの、そして上層から下層、下層から上層の通路にいる敵を確認できるというのは、戦闘を避けるという点において極めて有効だった。 前衛3人共が暗視能力を持っているというのも、不意を打たれないという点においては有効だったし、後衛の綺沙羅が音を感知する能力を用意していたのも大きかった。 理央の影人を活用した誘導も効果を発揮していた。 戦闘に関してはやはり、敵の動きを封じる力を揮える者たちの功績が大きかったと言える。 綺沙羅の閃光弾を始めとして、義衛郎の生み出す氷刃の霧や涼子の操る黒のオーラ、気を流し込む由香里の掌などによって動きを一時的に止められれば、距離を取る事は難しくなかった。 影人で追跡を妨害したり衝撃弾で敵を吹き飛ばすといった理央の援護も、戦闘からの離脱に効果を発揮する。 能力を多用する以上、消耗を避けるというのは難しかったが、敵を殲滅する為に費やす労力に比べれば皆の消耗は少なかった。 とはいえ蓄積していけばそれも馬鹿にはならない。 皆の疲労と負傷が大きくなっていると判断した智夫は休止を提案し、一行は部屋のひとつで休息を取る事にした。 涼子が扉がしっかりと閉まっているかを確認し、智夫は皆の消耗を癒した後で理央と分担して傷付いた者を回復させる。 短い休息を終えると、6人は探索を再開した。 徐々にだが地図の方も完成しつつある。 それによって一行の進むべき路も、定まり始めていた。 ●決戦の間へ 吹き抜けを上層へと向かう時は、智夫が全員に翼の加護を使用する。 対処が厄介な不壊者と半不壊者は、それで振り切る事ができた。 戦闘を避け逃れた敵が集まりつつあるが、まだ囲まれるほどには纏まっていない。 たどり着いた上層にも敵の姿は無かった。 念の為にと涼子は智夫と手分けをして周囲を確認する。 それを終えると一行は休む間もなく移動を再開した。 「ちょっと色々冒険してみたいけど、安全第一は仕方ないわよね」 落書きも兼ねて壁にマーキングを施しながら由香里が呟く。 手違いで同じ個所を回らないようにというのも勿論だが、千里眼を使う者の目印になればというのも思いも彼女にはあった。 これまでの探索の結果で、ボスのいる大広間までの道は判明しつつある。 行程を短縮できる吹き抜けが逆に進路を迷わせる事もあったが、それも作成した地図と千里眼の突き合わせや目印等によって解明できていた。 消耗も抑えられている為、戦闘が発生した際の対処にも抜かりはない。 迷宮の探索そのものには少々の時間は掛かりはしたものの、一行は一人も欠けることなく大広間のある吹き抜けへと辿り着いた。 複数を相手とする激しい戦いはあったものの、危機と呼べるような状況には一度として陥らずに、である。 それは全員がそれぞれの能力を活かして探索に臨んだ結果だった。 迷宮を熟知していた者たちの貢献もあるが、6人の連携が無ければこれだけ消耗少なく広間へと辿り着くことは難しかっただろう。 とはいえ、これで終わりではないのだ。 智夫が皆に翼の加護を施し、リベリスタ達は宙へと舞い上がる。 目的地は大広間の上、翼の悪魔が待つ上層の広間だ。 6人は上層広間の入口である両開きの扉の前、バルコニーのような狭い床へと降り立つと素早く自分たちの状態を確認した。 この場に敵はいないが、飛行能力を持つ下位悪魔と群集者の数体が下層から一行を追いかけてきている。 休息するのは難しいだろう。 ダメージに関しては理央と智夫の手によって殆んど回復しているし、消耗も決して大きくは無い。 そう判断した綺沙羅が即座に広間への突入を提案すると、残った者たちは其々の言葉で同意を示した。 義衛郎が即座に動けるようにと構えを取り……涼子と由香里が両開きの扉へと手をかける。 リベリスタ達に応えるように……木のように見える頑丈な扉は、軋むような音を立てて。 大広間に向かって……開かれた。 ●悪魔との戦い 広間の中央にそれはいた。 部屋を照らす薄明かりを浴びて、どこか金属に似た光沢を放つ外皮と、背から伸びた蝙蝠のような大きな翼。 巨大だが人間のように見えて人間とは違う、獣のように見えてどのような獣とも似ていない……そんな存在。 翼の悪魔。 その巨大な敵が動く前に、3人が動いていた。 リベリスタ達は他の敵の存在を警戒していたが、少なくともこの部屋には最初から敵は存在していないようである。 真っ先に動いた由香里は、そのまま翼の悪魔、巨大な怪物へと距離を詰めた。 他に敵はいない以上、悪魔1体だけに集中できる。 そのまま間合いまで踏み込むと、由香里は怪物に向かって掌打を放った。 そして掌底を当てた箇所から敵の体内へと破壊の気を叩き込む。 浸透した気は強靭な外皮に影響されることなく、内側から対象を破壊するのだ。 智夫は由香里と対峙する翼の悪魔に意識を集中させると、エネミースキャンを発動させた。 敵の基本的な能力は把握しているが、更に詳しい能力が分かれば戦いを有利に進められるかも知れない。 詳細な身体能力等に関しては難しかったものの戦闘で使用する能力について、智夫は幾つかを確認できた。 全体の神秘攻撃は氷の嵐を呼び起こすもので、ダメージの他に対象に凍傷を負わす効果がようだ。 また、精神系の能力に関しては混乱させるものと不幸にして行動を失敗させやすくするものがあるらしい。 それらは吹雪と比べると射程は同程度だが範囲は狭まるようだ。 分析できた能力を、智夫は即座に仲間たちへと伝えた。 義衛郎他、能力によって異常を無効化できる者もいるが、それ以外の味方が充分に戦力を維持できるかどうかは、智夫と理央の働きに懸かってくるという事になりそうだ。 その義衛郎の方はというと、気の糸を生み出しそれを操る事で悪魔へと攻撃を開始していた。 敵を牽制する攻撃によって悪魔の意識を自分たちへと向け、後衛を狙わせないようにと考えての事である。 もっとも悪魔の方も機敏な動きで容易に直撃は許さない。 唸るような、吼えるような声と共に片腕を掲げると、悪魔は大広間の中央に氷の嵐を召喚した。 生み出された冷気と氷の刃が、リベリスタたちに襲い掛かる。 そのまま動きを止めることなく、悪魔は鉤爪の生えた腕を振るって由香里を襲いはしたものの、彼女は機敏な動きで凶暴な鉤爪を回避した。 扉がしっかりと閉まっているのを確認すると、涼子も自負と信念を力へと変えながら翼の悪魔へと距離を詰める。 後衛に位置する綺沙羅は、高度な符術を用いてによって四神の朱雀を創り出した。 擬似的な存在ではあっても、その力は並の式など比べ物にならぬほど強力である。 広間を焼き尽くすかのように現れた炎が、悪魔を中心にして渦を巻くように収束してゆく。 その間に理央は邪気を払う光を放って、仲間たちを包み込む冷気を打ち消した。 由香里は攻撃を躱しながら掌底を放って悪魔の力を確実に削いでゆく。 皆が異常を打ち払ったと判断した智夫もジャベリンを悪魔に向かって投擲し、義衛郎は更に自分を加速させながら気糸で悪魔を狙い続けた。 攻撃は悪魔の心を乱す事は無かったが、意識を向けさせることには充分に効果があったようである。 涼子は敵が動き難いようにと纏わり付くように周囲を動きながら、己の拳ひとつで悪魔と対峙する。 綺沙羅は敵に与えた朱雀の炎が打ち消されないかを観察しながら、敵の身を蝕む鴉の符を打ち出した。 理央は智夫と声を掛け合って仲間たちの状態を確認しながら、陰陽の技で悪魔に不幸の力を押し付けようとする。 不吉をもたらす力は悪魔に直接の効果を発揮しなかったものの、呪いの力を高め悪魔の身を傷付ける。 前衛たちへの攻撃は効果が薄いと考えたのか、翼の悪魔は後衛たちに向かって手をかざし、混乱させる煙を創り出した。 攻撃をまともに受ける事になったのは、理央と綺沙羅である。 とはいえ智夫が直撃を逃れた事で、2人の混乱は大事には至らなかった。 前衛たちが妨害するように動いているので、遠距離攻撃があるとはいえ敵は容易に後衛たちを狙えない。 そして義衛郎と涼子の2人は、悪魔の用いた異常を受け付けない能力を使用している。 由香里の方はそもそも悪魔の攻撃そのものを躱し、あるいは命中しても直撃させない程の機敏さを有していた。 後衛は狙い難く、前衛たちは打ち崩せない。 少々の傷ならば智夫や理央らが回復できるし、前衛たちも多少のダメージなど物ともしない体力と防御力を持っていた。 翼の悪魔そのものが、搦め手を持っているが為に直接的な攻撃力に乏しかったというのも理由の1つだろう。 戦況に大きな変化という物は、無かった。 押し切るという形でリベリスタ達は堅実に戦いを進めていく。 由香里の掌打によって動きを鈍らせたところに、涼子の渾身の一撃を叩き込まれ。 崩れ落ちた悪魔は、そのまま空間に溶けるようにして……姿を消した。 「中々興味深かったかな」 広間を見回しながら呟いた綺沙羅の、そして皆の内に……直接、語りかけるように。 「見事だ、汝らは試練を乗り越えた」 挑戦を問うた時と同じ声が、響く。 その言葉の後、少し間を置いて……声は更に話を続けた。 「汝等であるならば、彼の脅威に抗する事ができるやも知れぬ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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