●空に咲く花 夜空に流れる光の線。ゆったりと昇っていったそれは、やがて炎の花を咲かせる。 『牡丹』に『菊』、『柳』に『ひまわり』。火薬の組み合わせによって咲く花には多くの種類が存在する。昔から伝統のものもあれば、新たに生まれる種類もあるだろう。そこは職人の腕と発想、創意工夫の賜物だ。 そんな中、今年生まれたものの一つは、鳥の形を模していた。 昨今の出来事を考えれば相応しい流れだろう。不幸や痛みに苛まれたものの復興、そして再生の願いを込め、その作品は不死鳥と名づけられた。 ――某市、河川敷。 直径30cmにも満たない球状の物体が転がっていた。打ち上げのイベントはとうに終わり、機材も人も既に姿を消している。 ただ周りに存在したのは、灰に姿を変えた花火の残滓のみ。 それが薄っすらと輝き始めたのは、一体何時ごろだったろうか。 見る者など誰も居ないその場所で、空に咲き、散っていったはずの不死鳥が、光と熱を帯びてゆっくりと舞い上がっていった。 ●神秘の炎 「このような時間に申し訳ありません。緊急事態です」 天原和泉(nBNE000024)が、どこか眠たげな表情で一同に告げる。時刻はまさに深夜というべきだろうか、こんな時間まで仕事とは感心な話ではある。 「本日の花火大会には行かれましたか? 私は生憎ここで仕事中でしたが……ともかく。花火大会の跡に、アーティファクト化した花火の玉が発見されました」 アーティファクト化したものがここに取り残されたのか、ここに取り残されたものがアーティファクト化したのか、その辺りの前後関係は不明。カレイドスコープが映し出した情報は一つ。そのアーティファクトを核に、エリューション・エレメントが発生するという事実だ。 「発生するエリューションは、火の鳥と呼ぶのが相応しい形状をしています」 発生直後のエリューションは、しばらくは足元の灰を啄ばんでいるようだが……放っておけばじきに飛び立ち、どこかしらで事件を起こすだろう。そして、いずれはフォールダウンを引き起こすことになる。 「我々は発見されたアーティファクトを『アンカ』と呼称します。あなた方は発生したエリューションを打ち倒し、残っているならば『アンカ』を回収……されても迷惑ですから、確実に破壊してください。 なお、破壊の際には爆発的事象の発生も予測されます」 元が花火なのだから、それも当然だろう。遥か上空や、水中で破壊する等何かしらの対策は必要になるだろう。 「アークからはアーティファクトを一点貸し出します。必要に応じて使用してください。 ……以上、健闘を祈ります」 欠伸をこらえるような沈黙をはさんだ後、和泉はリベリスタ一同を送り出した。 ●追加情報 ・『火食い鳥』 不死鳥の形をした炎、火のエリューション・エレメント。翼を広げた全長は4m程。実際の物理現象である火からは変質しており、物理的な作用にあまり影響されない。水をかけてもあまり効果は見られない。物属性の攻撃も然り。 火そのものや灰を食う、または取り込む事で大きく再生、成長する。基本的にそれを求めての行動を取る。 攻撃方法は炎の身体での接触(神近単)、火の玉を吐き出す(神遠単)、炎の羽を降らす(神遠範)等が予測される。 ・アーティファクト『アンカ』 アーティファクトと化していた花火。内に神秘の炎を宿しており、それを放出する事でエリューション『火食い鳥』を発生させた。 現状はエリューションの核として作用している。『火食い鳥』が消滅すると『アンカ』だけが残り、三十秒程の時間経過、または一定の衝撃から発火して再度『火食い鳥』を発生させる。 一定量の物属性ダメージを与えることで破壊可能。ただしその際、宿した熱量を花火として発散する。 ・アーティファクト『砲台』 アークより一時貸し出し。 中に入ったものを無傷で最大300m上空まで打ち上げます。上昇高度は加減可能。人間一人くらいなら入るんじゃないでしょうか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ハニィ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月24日(水)22:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●火喰い 敵の発見は容易……というか、今回の場合見落とす方が難しい。夜の帳が下りた河川敷に、眩い炎の鳥が生じている。 「キャンプファイヤー、というにはちょっと物騒かしら」 煌々と燃える炎の大きさは丁度それくらいだろうか、眩しさに目を細めつつ、『プラグマティック』本条 沙由理(BNE000078)が敵をそう評する。 「火の鳥……エリューションでなければ、綺麗なのに……」 眩しさでは無く眠気で目をしょぼしょぼさせていた『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)がそれに頷き、頭を振る。ようやく眠気が飛んだのか、彼女の表情が少し引き締まった。 「だが、花火としては風情が無い」 咲いて、潔く散ってこそだと主張するのは、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)だ。そんな事を言いつつも、エリューション・エレメンツのヒクイドリが足元の灰を啄ばんでいる内に、リベリスタ達は遠巻きに包囲体勢を取る。 「僕達が、この夜空に散らせてあげる!」 頃合を見計らい、『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)の掛け声と共に、彼女等は一斉に攻撃を開始した。 「一夏のアバンチュールに、無理矢理にでもつきあってもらうわよ。逃がしはしないわ」 「多重符、展開!この数の鴉をかわしきれるかな!?」 一点狙いの攻撃、そして式符から生まれた鴉が縦横に駆け、ヒクイドリへとぶつかっていく。揺らめく炎からはダメージの有無を読み取り辛いが、撃たれたヒクイドリは驚いたように飛び上がる。物理的な面よりも神秘的な力に拠る攻撃は、確かに炎の鳥に影響を与えていたようだ。 「やはり、飛べるエリューションというのは厄介なものですね」 飛翔するヒクイドリを目で追いながら、『第14代目』涼羽・ライコウ(BNE002867)が一同を守護結界で包み込む。ライコウの懸念は、あのエリューションが飛べるという一点。攻撃が届かないだけならまだしも、あのまま逃げられた場合、追うのは非常に困難なのが分かっているからだ。 リベリスタ一同の攻撃は、どれもヒクイドリの気を引く意味もこめられてはいたのだが……今のところ、釣れた様子は無い。 「大丈夫、俺に任せておきなって!」 そんなライコウに胸を張って宣言したのは、一人だけやけに大荷物だった『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)だ。どさりと地面に下ろしたのは、アークから支給された大砲型のアーティファクトが一点。そしてそこから少し離れ場所に、鍋。 そう、鍋だ。 「霧島俊介3分クッキング!」 「……はい?」 おもむろにそう叫んだ彼は、隣のライコウを完全に置いてきぼりにした。 「材料は読み終わった雑誌が一冊、固形燃料を一掴み! それらを鍋に放り込んでマッチで着火します!」 「夏ニ焚火……アツイナ」 鍋の中で燃え上がったそれに尻尾で風を送りつつ、うんざりしたような表情で『音狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が言い……急加速してその場を離れる。 あまりの俊足に目を丸くしていたライコウも、すぐにその状況に気が付いた。すぐにリュミエールの後を追おうとし、逡巡。 「その通り! どうか熱い内に……」 「霧島さん、来てます。来てますってば」 全速力で駆けてきた雪白 桐(BNE000185)が合流し、向き直ったライコウと二人で俊介の脇を抱える。 「めしあがれなんだぜー!」 どーん。 彼等が飛び退いた一瞬の後、翼を広げて急降下してきたヒクイドリが燃え立つ鍋へと飛びついた。 ●炎の心臓 吹き荒れるのは火の粉と熱風。炎を纏うというか、炎そのものであるヒクイドリの翼は、振り回されるだけでも十分な凶器となり得る。 「そ、そんなに美味そうだったか?」 「さぁ……?」 肌を炙る風を伏せたままやり過ごし、俊介がライコウに渇いた笑みを見せる。勢いで色々と口走ったが、炎そのものを美味しく食べられても反応に困るのが実際だ。 鍋に頭を突っ込むように咀嚼して、ヒクイドリの翼が大きく燃え上がる。 「暑苦しいな、涼しげな氷像になってしまえ」 炎の成長と共に上昇した気温に苛立ちを見せながら、ユーヌが氷の雨を呼ぶ。降り注ぐ氷雨は鍋に止まったヒクイドリをまとめて打ち据えるが、鍋の中の火種さえも消し去ることは無かった。 雨を払うのは炎の風。ヒクイドリの翼が風を起こし、火の断片とでも言うべき羽が撒き散らされる。降った氷を全て蒸発させながら、荒れ狂うそれがリベリスタ達を呑み込んだ。 火の海とは行かないまでも、一帯を撫でていくそれは全員の足を止めるのに十分な威力を伴う。生き物の焼ける臭いが微かに上る中、ヒクイドリは悠然と空へ。 ……が、流れる歌声がそれを阻み、翼に一つ穴が開く。 「食事中に失礼だったかしら?」 俊介の詠う天使の歌はリベリスタ全員を一度に癒し、立ち上がった沙由理が飛ぶことを妨害したのだ。 このエリューションに感情が存在するのかは不明だが……沙由理へと首を向けたヒクイドリの目には、敵意と言うに相応しいものが宿っていた。 「歓迎するわ、でもできるなら優しくしてね……っ!」 獲物を狙う目で舞い上がったヒクイドリを、沙由理は正面から迎え撃った。 沙由理に向けられた攻撃は、吐き出された火の玉だけに留まらず、空中からの体当たりまでもが追撃として放たれる。 回復が間に合わず、命すら奪いかねないそれを、桐が身体を張って阻んだ。 「大丈夫か!?」 俊介が二人の回復に回る横でリュミエールが駆け、走り抜けるようにしてヒクイドリを切り裂く。さらに、攻撃は脇からも次々と加えられた。 「もっと魅力的なものが、こちらにあるだろう?」 「つれないな、もう少しゆっくりしていったらどうだ?」 那雪のピンポイント、ユーヌの鴉をはじめ、その大半は遠距離からの攻撃だ。それも敵の気を引けるもの。攻撃対象を変えさせながら、リベリスタ達はヒクイドリの体力を奪っていく。 「不死鳥を捕らえようだなんて不遜もいいところなのでしょうけど……」 「飛び立たれては困るのでな」 頃合を見計らい、沙由理と那雪の織り成す気糸がヒクイドリの翼を絡めとる。翼の自由を失うことは、鳥にとっては致命的とも言えるのだが。 「くぅ……!?」 そう簡単にはいかなかった。ヒクイドリが再度翼を打ち振るい、炎の羽を舞い散らせたのだ。熱量を伴う突風が二人を吹き飛ばし、付近のリベリスタをまとめて薙ぐ。 しかし、その熱量は随分と低下していた。俊介の天使の歌は、熱風の影響を無かったことにするほどの冴えを見せ…… 「待って!」 だが畳み掛けようとする仲間達を、アンデッタが制止する。ここですぐに追撃をかけ、仕留める事はできるだろう。だが、位置が悪い。 ヒクイドリを倒したところで、大本であるアーティファクトを破壊し損ねればまた火の鳥は復活する。距離の離れた、しかも空中でとどめを刺しては、誰も落下するアンカを受け止められないのだ。 アンデッタの意図を汲み、ライコウが式符を放つ。 「飛べ、ヘレブ」 風を切って飛んだ鴉は、ただヒクイドリの顔の周りを飛び回り、視線をこちらへと移させた。 「ほら、こっちだよ!」 そこには、手にしたマントに火をつけ、炎を掲げたアンデッタの姿があった。エサにして、命の源。そんな熱源を感知し、ヒクイドリはアンデッタの目の前へと飛び込んでいく。 「大した火力だね、けど火葬場の炎はもっと熱いよ!」 神秘の炎に包まれながらも、彼女はヒクイドリの懐へと潜り込む。彼女の身体は焼かれはしても、燃え移る事はない。そして大地に降り立ったヒクイドリに、リベリスタ達がとどめを刺す。 「花火としての役割、全うさせてあげる」 沙由理のピンポイントと、飛び込んだ桐のメガクラッシュを受け、ヒクイドリの身体が霞のように揺らぐ。そして残光の軌跡をその場に残し、神秘の炎は消失した。 必要なのは仕留めるタイミング。そして姿を見せた『星』を素早く捉える事。 「――取ったぁ!」 掻き消えた炎の向こう側、一転して訪れた暗闇の中のそれを、アンデッタは見逃さなかった。神秘を纏い、神秘を宿した不死鳥の心臓を空中で掴み、派手に胴体着陸。タッチダウンと言いたい所だが、掴んだそれはきちんと両手で掲げられている。 「危ない危ない……」 両手を伝わり感じる熱は、脈打つ命を感じさせる。再発火まで時間は無い。アンデッタからアンカを受け取り、桐が駆けた。誘導の成果もあり、向かう先はそう遠くない。 「こっちだ!」 アーティファクトの砲台を調節し終えた俊介がの声に応え、疾走した桐が軽やかに跳ぶ。ミニスカートの裾を靡かせ、美脚を披露しながら宙を駆け、砲台の中へと着地する。 まぁ、そんな風に目の前を横切られると目のやり場に困るものだ。相手が男だと分かってはいるのだが。 「準備OKですよ?」 「あ、ああ。頼んだ!」 何か複雑な表情を浮かべつつ、俊介はアーティファクトを起動。どん、と地面を揺らす爆音と共に、桐は容赦なく300m上空へと打ち上げられた。 ●再点火 耳栓のおかげで発射音はさして気にならなかった。その後の一瞬の事は、よく覚えていない。風圧の中、目指す夜空が近くなったかどうか桐には判別できないままだ。だが見下ろせば地面は遥か遠く、元居た場所すら分からない。 感じる風は上昇による風圧か、それとも上空を吹く風か。踏みしめるべき大地は遠く、平衡感覚と姿勢制御が噛み合わない歯車のように軋む。 「さて、打ち上げましょうか?」 そんな中で桐は抱きかかえていたアンカを手放し、剣をそれへと思い切り叩きつける。 が、浅い。状況の悪さが災いしたか、彼のギガクラッシュは秘めた威力を出し切る事無く終わる。球体には深く傷が刻まれていたが、それはアーティファクトの破壊には至っていない。 もう一歩踏み込めれば、確実にとどめはさせるだろう。だが空中ではそれも叶わぬ話だ。 一歩届かぬその場所で、アンカが眩い光を帯びる。吹き零れるそれは花火としての炎ではなく、神秘の灯火。生まれ出でつつあるのは新たなヒクイドリだ。 雛は火種程度の身体を震わせ、以前と同じ大きさに成長―― 「!?」 しなかった。 息付く暇も無く放たれる砲台の第二射。それは保険のために飛び込んだリュミエールだった。落下制御を身に着けている彼女は極々自然に桐の後を追っていき―― 「オー……風ガ気持チイ」 言い切る前に進路上の火の玉に激突した。 どこか爽やかさを感じさせる重低音とともに、夜空に巨大な不死鳥が翼を広げる。噴き上がる炎ではなく、色とりどりに燃える火薬で構成されたそれは、紛れも無く一つの『作品』だった。 「かぎやー」 どこかほっとした表情で夜空を見上げ、沙由理が言う。エリューションとは違い、夜空に咲いた花火は、数秒後には消えてなくなる。それはつまり、事態の決着を意味していた。 「綺麗にはじけ飛んだな」 「だねぇ……おっと、見惚れてたら桐がミンチになっちゃう」 ユーヌの言葉にアンデッタが頷き、二人はいそいそと砲台を準備する。砲弾代わりに打ち出すのは、黒い翼を畳んだ那雪だ。 「怪我させるわけにはいかない……」 狙うは先程よりも下方、落ちてきているであろう桐を受け止めるべく。 「それじゃ、行ってくる」 那雪がひらひらと手を振るのを合図に、アンデッタが盛大に号令を出す。 「風向き良し、角度よし! スターライト氷雨、発射!」 「た~まや~」 ●花火の後 重力に代わって桐の手を引き、那雪が翼を広げて落下速度を殺す。 「怪我は大丈夫?」 「……ええ、これくらいなら」 「ヨユーダー」 受け止められた桐と、落下制御で二人に追いついたリュミエールが順に応える。二人とも服やら髪やらがあちこち焦げているが、逆に言えばその程度で済んだという事でもある。これならば、エリューションのヒクイドリに焼かれるよりはよっぽどマシなレベルだろう。 「それより、助かりました。ネタで落下するには流石に怖い高さですから」 桐の言葉に一つ頷き、那雪はゆっくりと地面に降り立つ。そして、そこで限界が来たように俊介にバトンタッチした。 「これで……完了、ね。後は、よろしく……しーくん」 俊介とユーヌの二人が花火の被害者を癒し、労う。 「那雪嬢、お疲れさんな。家に帰るまでがお仕事だぞー?」 「……ん、無理……」 それを見届けた那雪は俊介に欠伸交じりに応え、地面に座り込んだ。スイッチが切れたと言うべきか、恐らくもう夢の中だろう。 「……あー」 連れ帰るのは、多分彼の仕事になるのだろう。 「そういえば、今年は花火見てないんですよね。……こんな形で見るとは思ってませんでした」 どことなくしみじみと、ライコウが夜空を見上げる。咲いて散ったそれは、日本の風情を分かりやすく示すものでもあるのだが。 「さあ、次は誰が飛ぶ?」 「いや、花火ってそういうものでは……」 次弾を装填したくてうずうずしているアンデッタに、その理屈は通用しないようだ。 そんな様子を微笑ましく見ていた沙由理は、最後に夜空を仰ぎ見た。 最早眩い花火の痕跡は残っておらず、暗い空には星の瞬きだけが僅かな光源として散っている。 「それじゃ、また」 けれど不死鳥は何度でも蘇り、翼を広げ飛び立つもの。ゆえに、きっともう一度会う事もできるだろう。 一年後、この場所で。勿論、今度はただの花火として。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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