● 両手に刃 その夜、普段は静かなその街にサイレンの音が響き渡っていた。慌ただしく行き交う警察官とパトカー、つられて顔を出す野次馬達。SNSを通して、その街の異常は、加速度的に拡散されていた。 曰く、顔の皮を剥がされた死体が、連続して発見されているらしいのだ。 次の被害者は自分なのではないか。 そんな恐怖を僅かに感じ、しかしそれ以上に事件に対する興味と、自分には関係ないという対岸の火事的な思考によって、街の人間は皆浮き足立っている。 野次馬根性に任せ、街を徘徊する者もいる。 事件の対応に追われる警官もいるし、被害者の身元確認のために病院へと呼び出された遺族もいる。 悠々と街を歩くのは、事件のことなど知りもしないネットを仕様しない類の者達と、それから異常とも呼べる連続殺人を今なお続行中の犯人くらいのものだろう。 狂気に走った何者かは野放しにされたまま、小さな街の、長い夜は更けていく。 殺人鬼か、野次馬か、はたまた哀れな被害者か。 深夜営業のコンビニの裏手で廃棄弁当を漁るホームレスの背後に立つ、パーカーを着た背の高い女性は、果たしてそのうちどれであろうか。 「……ねぇ」 と、蚊の鳴くような囁き。 答えは、次の瞬間に判明した。 一瞬。 女性の両手がキラリと輝き、閃く。 「……ん?」 と、体に走る違和感。疑問の声を漏らしたホームレス。だが、言葉は続かない。悲鳴をあげる暇もなく、喉を裂かれ、顔の皮を剥がされた。ほんの一瞬。迷いのない、残虐な行為。血の滴が地面を汚す。 ずるり、と剥けた顔皮を掴み、女性はする、と闇の中へと姿を消した。 倒れ伏したホームレスは、小さな呻きを漏らし、そのまま動かなくなる。 女性が姿を眩ます、その直前。 フードの影に隠れた、女性の素顔が月明かりに照らされる。 月明かりの下、露になった彼女の顔には、真白い包帯がぐるぐるに巻き付けられていた。 ● 顔を探して 「彼女の目的は、顔の皮を剥いでまわること。剥いだ皮をどうするつもりなのかは不明だけど、とにかくこのまま放置するわけにはいかない」 恐ろしい話だけど、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は頬を引き攣らせてモニターを見やった。 今回のターゲットはノーフェイスと化した女性だ。名前を(ミザリー)という。長身痩躯、真っ黒いパーカーと顔に巻いた包帯という比較的目立つ外見をしているので、1度人の目に触れれば補足は比較的簡単だろう。 もっとも、ミザリー自身もそれを自覚しているだろうから、それなりに警戒して動いているはずだ。人気のない場所を進む。或いは、人が極端に多い場所を選んで移動するなど、姿を隠す方法は多い。 「ミザリーは、剥いだ顔の皮を媒介に自身の分身を召還するスキルを持っているわ。犠牲者はすでに4人に達しているから、最低でも4体の分身を召還することが可能」 分身とミザリーでは、やはりミザリーの方が手強いはずだ。とはいえ、分身はミザリーと違って自身の命を心配しなくても良いという利点もある。 おとりや盾など、使い道は多い。 「ミザリーは刃物にオーラを乗せて、切れ味を鋭くする能力と、こちらの急所を的確に狙う技術を持っている。ノーフェイスと化しているから、身体能力も普通の人間とは比べ物にならないわ」 それこそ、リベリスタ相手でも十二分に渡り合えるほど。 「これ以上犠牲者を出したくはないけど、場合によってはそれも止むなし……といったところかした。出来るだけ早く、ミザリーの凶行を止めてきて欲しい」 そう言ってイヴは、仲間達を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月24日(金)22:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●皮を求めて 黒いパーカーに染み込んだ血液は、しかし夜闇の中では誰に気付かれることもない。服の内側に隠した包丁も、顔に巻いた包帯も、誰の目に触れることもない。人気のない道を選んで進み、或いは、人混みの中にあっても気配を消して誰からも気付かれない。彼女の擦れちがった者は皆、一瞬だけ鼻をつく鉄錆に似た血の匂いに眉をしかめ、しかし彼女の存在を認識はできない。 彼女がすでに、数名の人間を殺し、その顔の皮を切り剥がした殺人鬼だとは、気付かない。 そのことを知っているのは、彼女に殺された数名と、それから、彼女を探して街を駆ける8人のリベリスタ達のみである。 ●皮剥ぎミザリ―を探して 大通りは2つ。そのうち、西側の通りを『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)を先頭に4人のリベリスタが歩いている。道行く人々に声をかけては、今回のターゲットでもあるノーフェイス(ミザリ―)の特徴を伝え、見かけなかったか? と訊ねている。 「それにしても、顔に包帯、ねえ。顔を見られたくない理由でもあるんだろうか」 今のところ、ミザリ―に関する情報を得ることはできていない。義衛郎に続く『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)は、サングラスの奥に隠された瞳を見開き、千里眼でミザリ―の捜索を実行する。さすがに人の通りが多く、そうやすやすとは見つけることもできないだろうが、格段に捜索範囲が広がっていることに間違いはない。 「顔剥ぎねぇ……。随分いい趣味だな」 顔の皮を剥ぎ、持ち去るなど、異常な行動であることに間違いはないだろう。先ほどから情報収集を続けていれば、ミザリ―の凶行は噂話程度の信ぴょう性でもって広まっているらしい。噂話、というのは、つまり顔の皮を剥いで持ち去る、という行動の異常性が信じられてはいないからだ。都市伝説と同じく、尾鰭のついた嘘だと思われているのだ。 誰にも理解できないからこその異常性だ。 久方ぶりの異常者狩りだ、と結唯は自身の装備を確認する。 「皮を剥ぐのが、彼女の生きがい?」 そう問いかけたのは『トライアル・ウィッチ』シエナ・ローリエ(BNE004839)である。薄手のコートをなびかせて、人通りを観察する。超直感でもって、道行く人々の姿を観察し何か知っていそうな相手を探している。今のところ、有益な情報を得ることはできていない辺り、やはり気配を消して移動するミザリ―を、一般人が発見することは稀なのだろうか。 「解決は仲間の仕事。その完全な補佐こそ密偵の矜持。さあ調査開始だ」 鼻を鳴らして『スティファーノ』セイ・カズル(BNE005082)は路地裏を覗きこむ。微かな血の匂いを察知したのだ。匂いの濃さからして、血の匂いの主がここを通ったのは幾分前の出来事であろう。血の匂いの主がミザリ―だと確定したわけではないが、これもまた手掛かりの1つだ。 捜査開始から数十分。今だにミザリ―の姿は発見できない。 「焼け爛れた顔を包帯で隠した女が失った美しい肌を求めて夜な夜な彷徨っている……とかだったら都市伝説っぽいよね」 感情探査を駆使して、周囲を行き交う人々の感情を拾う『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)の脳内に、感情の波が注ぎ込まれる。不快な感覚に眉をしかめ、しかし感情の捜査を止めはしない。視界の外からも感情は流れ込む。その中に、ミザリ―が混じっているとも限らない。 「かようなキチクを屠るのもわれら秩序を守っちゃえるワル……アーク一派の仕事であーる」 引導を渡さねば、と『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)が剣に手をかけ、視線を走らせる。超直感で感じ取った僅かな敵意は、果たしてどこから向けられたものか。 「ああ、おっさんが好みそうな話だ。まったく、人使いの荒いおっさんめ……」 緒方 徨(BNE005026)もまた、麗香が感じたのと同じ敵意を察知していた。血の匂いもまだ残っている。口元に僅かな笑みを浮かべ、1人別行動をとっている、フルフェイスヘルメットの仲間へと想いを馳せた。 一瞬、思わず殺意を漏らした。瞬間、奇妙な格好をした一団がそれに気付いたように思う。目的の邪魔をされるわけにはいかず、即座にミザリ―は路地裏へと姿を隠した。 踵を返したその瞬間「やぁ」なんて気楽な声が投げかけられる。 「……もしかして、お宅も顔が無いのかね。まあ、おっさんは顔どころか…脳髄及び感覚器(なかみ)一式すら無いんだが。まるでシュークリームの皮みたいな……それはいいや」 アハハッ、と軽い笑い声。フルフェイスのヘルメットを被ったスーツ姿の長身の男だ。両の手に、奇妙な銃器が装着されているのが確認できる。明らかなる異質を、その男、緒方 腥(BNE004852)から感じ、ミザリ―は両手に包丁を構えた。 殺意を撒き散らし、呻くような声を漏らしながらミザリ―は駆けた。包丁の先を地面にこすりつけるようにして、低姿勢で這うように。人間離れした動きと速度に、一瞬腥は呆気にとられる。人間の形をしている以上、いくらノーフェイスといっても人間らしさをもっと残しているのかと思っていたが、そうではないらしい。 まるでゲームに出て来るクリ―チャ―のような動きだ。 「うおっ!!」 腕を掲げ、自身の武器でミザリ―の包丁を防いだ。真下から、顔か首を狙って跳ねあげるように包丁を振るうミザリ―。左右の刃が交互に腥の顔を狙う。 腥の前蹴りがミザリ―の胸をとらえる。バランスを崩し後退したミザリ―の顔面目がけ、腥の拳が放たれた。 「わくわく中身拝見のお時間ですよー! 盛大に血と腑をブチ撒けて逝くがいい、きっと楽しいぞう?」 軽い口調とは裏腹に、明確な殺意の込められた一撃。ミザリ―の胸元に、傷を刻みこむ。鮮血が腥のヘルメットを赤く濡らした。しかし、それと同時に放たれたミザリ―の斬撃が腥の腕から肩にかけてを切り裂く。腥に呼ばれたのだろう。綺沙羅、麗香、徨の3人が路地裏に駆け込んできたのを見て取って、ミザリ―は素早く踵を返す。包丁を壁に突き刺し、まるでトカゲかなにかのようにビルの壁面を這いあがって、逃走していった。 「もしもし? ミザリ―を発見したよ」 ミザリ―の逃げ出した方角を見定め、綺沙羅は西側を捜索している仲間へとミザリ―発見の報を伝達する。剣を抜き、喜々としてミザリ―の追走を始める麗香と、三線を抱え直しその後に続く徨を見て、腥はやれやれと頭を掻いた。 綺沙羅からの報告を頼りに、ミザリ―が逃げたと思われる方向へ足を向けるリベリスタ達だったが、敵の居場所は思いの外簡単に判明した。麗香や徨、腥が追いまわすのでそれから逃げるのに必死で、姿を隠す余裕もないらしい。 ミザリ―の後を、リベリスタ達が追いたてる。 人混みを外れ、ビルとビルの間にある小さな駐車場にミザリ―が駆けこんだ。近くに人が居ないのを確認し、義衛郎は剣を引き抜き駐車場へと駆け込んで行く。 「その包帯、顔に傷でも負ったか」 幻影を生み出すほどの剣伎でもって、義衛郎はミザリ―に接近。その身を深く切り付けた。確かな手ごたえ。しかし、致命傷には至らない。 たたらを踏んで後退するミザリ―。追い打ちをかけるべく、結唯が前へ。しかしその瞬間、傍に止まっていたワゴン車の屋根を飛び超え、もう1体のミザリ―が飛び出して来たではないか。 「神秘化してから異常性を発現、もしくは増強してる奴が多いな」 人間離れにも程がある、と結唯は呟き、ミザリ―へと銃口を向けた。恐らく、剥がした顔の皮から作った分身体だろう。放たれた弾丸が、ミザリ―の身体に穴を開けるが、それでもミザリ―は止まらない。血を流しながらも結唯に接近し、その身に一瞬で無数の斬撃を叩きこんだ。 「かはっ!」 よろめく結唯へ、包丁を振り上げたミザリ―が迫る。 いつの間にか、周囲には4体のミザリ―が居た。シエナは、周囲の状況を確認しつつ自身の身体の周りに魔力のシールドを展開した。 「干渉領域、因子算定――calculation」 あくまで、ミザリ―の攻撃を受け切るつもりであるらしい。表情に変化は見られないが、彼女なりに考えがあるのだろう。気糸を放ち、ミザリ―と斬り合いを続ける義衛郎を助けに入る。 そんなシエナに飛びかかるミザリ―。そのミザリ―を迎え打つのはセイだった。 「皮集めは趣味かい? 集めても叶わないものは叶わないさ」 ミザリ―の包丁を鉄扇で受け止め、セイは言う。ミザリ―の攻撃を受け止めながら、式符を取り出し影人を召喚した。呼び出された影人を盾に使って、セイは鉄扇を振り抜いた。確かな手ごたえ。ミザリ―のあばらを数本へし折る。けれど、ミザリ―は止まらない。分身体だろうと本体だろうと、すでにミザリ―は人間を捨てた身だ。痛みよりも、殺意を優先するのも理解できる。 ミザリ―の放った刃が、セイの腕を切り裂いた。 逆の手に持つもう1本の包丁が、今度はセイの首を狙って振り下ろされた。しかし、刃が届くその寸前、ミザリ―とセイの間で、閃光弾が弾け周囲を真白く染め上げる。 「見つけた。もう逃がさないよ」 閃光弾を放ったのは綺沙羅だった。すでに陣地作成は完了しているらしい。ミザリ―たちは、この駐車場に閉じ込められたということだ。 スカートの裾を翻し、綺沙羅は駆ける。セイの援護をするように、式符を構え、閃光に目を焼かれたミザリ―の動きを牽制する。 綺沙羅だけではない。麗香は結唯の加勢に割り込み、腥と徨もまたミザリ―のうち1体を相手取って戦っている。 8人のリベリスタと、4体のミザリ―が狭い駐車場を駆けまわる。小さな街の、小さな駐車場で、これほどまでの戦闘が繰り広げられているなど、誰が想像できるだろうか。 ●ミザリ―の選択 結唯の弾丸を弾き、麗香の剣伎を捌き切り、ミザリ―の刃は大きく旋回する。つむじ風のような斬撃が、2人の身体を大きく切り裂いた。飛び散る鮮血がミザリ―の顔を赤く濡らす。ダメージを気にせず突貫してくる命知らずの相手ほど、やり辛いものはない。 「その包帯、顔に傷でも負ったか。他人の顔の皮を剥ぐ理由が、それくらいしか思い当らないんでね」 駐車場の中央付近。目にも止まらぬほどの速度で繰り出される、剣と包丁による斬り合いが続く。義衛郎の剣を包丁で受け流しながら、ミザリ―は彼の身体、特に首を狙って鋭く重たい斬撃を叩きこんでいる。 激しい攻防の末、両者は同時に後ろへと飛び退った。一瞬、2人の視線が交差する。先に動いたのはミザリ―だ。地を這うほどの低姿勢で、弾丸の如く飛び出した。キリリ、と地面を引き摺る包丁が甲高い金属音を鳴らす。 「っく」 義衛郎が体勢を立て直すよりも速い強襲。大きく仰け反るが、回避も防御も間に合わない。 しかし、ミザリ―の包丁は義衛郎に届かなかった。 「あなたの刃(ことば)、受け切りたい……から」 淡い光でその身を包んだシエナが、2人の間に飛び込んだのだ。防御力を上昇させているとはいえ、ミザリ―の包丁を受けて軽傷とはいかない。胸から肩にかけて、深い裂傷が刻まれる。真っ赤な鮮血が、地面に零れた。 シエナの身体から包丁を引き抜こうとするミザリ―だが、どういうわけか腕が動かない。 『…………?』 首を傾げるミザリ―。よく見れば、その身に無数の気糸が絡みついていた。シエナの放った気糸が、ミザリ―の動きを阻害する。それから逃れようともがくミザリ―の眼前、一瞬閃いて見えたのは、義衛郎の放った鋭い斬撃だった。 綺沙羅の放った式符が、火炎で出来た鳥へと変わる。四獣の朱雀を模した業火が、辺り一帯を包み込む。動きの速いミザリ―に対抗し、逃げ場のないほどの広域攻撃を展開したのだ。 「何で人の皮を剥ぎ集めてるの? って聞いても無駄かな。感情を感じないものね」 目の前のミザリ―からは感情の波を感じない。すでに感情らしい感情を失ってしまったのか、或いは分身体に感情はないのか。判然としているのは、目の前の敵はただ顔の皮を狙って襲ってくる怪物だということだけ。 火炎に追われ、ミザリ―が跳んだ。大上段に包丁を振り上げ、そのまま綺沙羅へ襲い掛かる。 だが、ミザリ―の刃が振り下ろされることはないままに終わる。綺沙羅の放った閃光弾が、ミザリ―の視界を白く染め上げたその瞬間に、弾丸のような速度で飛来した一羽の鴉が、ミザリ―の首を撃ち抜いたからだ。 「鴉に気をつけなよ皮剥ぎミザリー。お前さんの貴重な残り皮も、引っぺがされてしまうかもね」 そう呟いたのはセイである。血を流し、地面に落ちて動かなくなるミザリ―を、セイは一瞥した。顔に巻かれた包帯の下にあるのは、ミザリ―本人の顔か、それとも剥がされた誰かの皮なのか。確認しないまま、2人はミザリ―の死体に背を向けた。 防御を無視した拳のラッシュがミザリ―を襲う。腥とミザリ―の攻防を、少し離れた位置から徨が見ていた。呆れた様子でありながら、要所要所で腥の援護にまわる。 「隠すならズタズタに暴くまで。腑ごと見せておくれ?」 腥の拳がミザリ―の胸を捉えた。ミザリ―の包丁が、腥の腹部を切り裂いた。腹を押さえ、腥は後退。追ってくるミザリ―を前蹴りで牽制し、背後に控える徨へと視線を投げた。 「全力でサポートしようじゃないか! ……まあ、何より俺も顔皮を剥がされたくない。聞くだけでいたそうじゃないかね……」 三線を掻き鳴らし、苦笑いを返す徨。しかし仕事をさぼるつもりはないようだ。鋭い視線をミザリ―へ向ける。ガクン、とミザリ―の身体から力が抜けた。アブソリュート・ゼロ。戦闘中の脱力は、即座に死へと繋がる。 腥の拳が、ミザリ―の首を掻き切った。鮮血が吹き出し、腥の身体を赤く濡らす。 力なく倒れたミザリ―の傍へ、大量の霊符を手にした徨が歩み寄る。 「徨ちゃん? その両手いっぱいの霊符は何かね」 「犠牲者の弔いだ。おっさんも手伝いたまえ」 ミザリ―の死体を前に、腥と徨とは弔いの儀式を執り行うのだった。 結唯の弾丸が、手足を穿つ。麗香の剣が、脇腹を切り裂いた。痛みはとうに感じていない。彼らは自分をミザリ―と四分が、それだって本名ではない。本名すら、自分は忘れてしまっているのだと気付き、しかしそんなこと、すでにどうでもよかった。 事故で大きな傷を負い、二目と見れない顔になったことが原因で、彼女は外の世界に出るのが怖くなり、家に引き籠る生活を始めた。それでも、テレビに映る美しい顔の女性や、外から聞こえる他人の声が羨ましかった。羨望はやがて妬みへ変わり、ある日とうとう彼女は外へ。その頃からの記憶は曖昧だ。気付いたら、包丁片手に立っていた。濃厚な血の匂い。今と同じだ。身体をべったりと濡らすこの血は、自分と相手、どちらのものだろう。 「弱点を狙わせてもらう」 どうでもいい。ただ、目の前にいる相手の、顔の皮を剥がしたい。振りあげた包丁が、結唯の胴から胸にかけてを切り裂いた。意識を失い倒れる結唯が、最後に放った弾丸が肩を撃ち抜く。 「お前は、なぜ皮を欲する?」 結唯とは逆方向から、麗香の剣が迫る。鋭い一撃に、ミザリ―の右腕は切断された。構わない、まだ左の手が残っている。跳ねあげるように包丁を振るう。真空の刃を生じさせるほどの斬撃が、麗香の全身に無数の裂傷を刻む。 倒れた2人の皮を剥ごうと、ミザリ―は残った左手で包丁を振り上げた。視界が赤く染まる。この瞬間こそ、至福の時間だ。顔の皮を剥がす感触が、忘れられない。 2人とも、美しい顔だ。 麗香の傍らにしゃがみこんだ、その瞬間、ミザリ―の喉に背後から剣が突き立てられた。顔に巻かれた包帯が赤く染まる。力を失い、倒れるミザリ―。トドメを刺したのは、義衛郎だ。 皮剥ぎミザリ―は、こうしてこの世から、誰に知られることもなく消えた。一夜の凶行は、犯人不明のまま、闇に葬られることになるだろう。 彼女の起こした連続殺人が、都市伝説として語られる日が来るのは、数年後の話だ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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