●『味』で味方を増やす穏健派 「こ、これは!? な、何だ!! 何が起こっ――ぐふぇあ!?」 流れ料理職人である『武装料理長』ゴッデス・ムッシュ・田中は、凄まじきアッパーカットを受けた様に、輝く黄金色の空へ放り出された。 ムッシュの目に映るものは、何十メートルかという巨大な菩薩。咲き乱れる蓮の花。向こう側には光り輝く天竺が見える。 「な、何だ! 何だこれは!?」 浮遊感は失われている。足元を見ると巨大な菩薩の掌に自らは立っている。狼狽するムッシュに対して、巨大な菩薩は、慈愛に満ちた微笑を浮かべるのみ。 たちまち、ぐるぐるぐると、この光景が流転した。ムッシュの頭上から巨石が降ってくる。 「ば、馬鹿な! このムッシュが! このムッシュがぁぁぁぁ――わびゅっ!」 巨石はぐんぐんとやってきて、数秒後にはムッシュをプチっと押し潰したのであった。 ――ここで、菩菩薩も、蓮も、幻となって消えていく。 全てが立ち去ったその場所は、ただのファミリーレストランであった。 テーブルにはムッシュが一口食べたホカホカのカレーライスが鎮座する。ムッシュ自体は、座っていた椅子をひっくり返して、後頭部を強打して泡を吹いている。 経緯としては単純――これはレストランを貸し切って行われた『料理勝負』であったのだ。 結果は、『武装料理長』の完敗。 これまで多くの料理人やらを、物理的にも味的にも地獄に叩き落してきた元・裏野部『武装料理長』であったが、必殺の『鮫節カレー』がまるで歯が立たず敗れ去ったのだ! 「――自壊したか。審査するまでも無さそうだねえぃ」 狐目の女が首をすくめる。この度、審査員として呼ばれた恐山派フィクサードである。 狐目は自らの口をサッ拭いて立ち上がる。息を殺しているギャラリーに達に向かって手刀のような形の片手を高らかにした。 「勝者。横須賀 麗華」 「ヒャッハァァァ! おっとミスりました」 ポニーテールで、みっひろきぃと書かれたエプロン姿を装備した女が歓喜の声を上げた。 狐目の審査員は、腕を組んで言葉を続ける。 「尚、本勝負を行うにあたり、横須賀 麗華からは『全店舗』が。ムッシュ田中からは、破界器『斬鯨刀』が賭けられていた。よって破界器は横須賀 麗華の所有となるね」 ギャラリー達から拍手が起こる。ちなみにギャラリーも全員革醒者である。 程なくして、麗華のカレーはギャラリー全員に振舞われた。歓談といったムードで、勝利を祝う。 狐目の女は、カレー皿を片手におかわりを貰いながら、麗華に一つの懸念を言った。 「……ところでさ、あんた。三尋木の総会の話を知ってるのかぃ? ずいぶんとのほほんとしてるみたいだが」 「知ってますよ。私、反対派なんだと思います!」 ライスとカレーを山盛りにした皿を差し出しながら、屈託無い笑みを零す。 「……素直に上に従っておいた方が良いって思うかねぇ?」 「この前、賢者の石を納品したんですが――何か悪いお薬作るのに使われてたりするって聞いたんですよね」 頬を掻きながら麗華は続ける。 「あと上海に転勤を言われていて、誰かを不幸にするようなお薬カレーなんて作りたくないって考えなんです」 「上海ねぇ……難儀なもんだぁなぁ」 横須賀 麗華というフィクサードは、カレーさえ作っていれば幸せで、誰かに食べて貰って喜んで貰えて――そこに幸せを感じる人間である。 大して出世欲も無い。 以前に最高級豚の窃盗を働こうとして正義の味方に説教されている。異能に目覚めた高揚感と万能感と、この豚さんでカレー作りたいという気分の盛り上がりの結果だったが、その説教以来は自制している。 「日本を離れたくない理由はもう一つあります。きっと何処かに、私より凄いカレー作る人がいるような気がするんです。日本の料理ですから、外に出たら巡り合える可能性が減っちゃいますよね!」 これに、狐目の女はしばし黙る。 狐目の審査員は、三尋木の新体制の事情を良く理解していた。 反対勢力を炙り出してからの排除が目的だ。或いは黙らせて吸収。そもそも吸収するかどうかの吟味も含まれる。これが本質だ。 多少の説得も用いられるだろう。説得が効かなければ引きずってでも連れて行くだろう。手に負えなければ制裁以外無い。 結果、執られる手段は『武力』に落ち着く。 アークとの協力体制が敷かれた故に、ここに集まったギャラリーが抵抗しても怪しい。 狐目が口を動かす。 「しかしアークか。三尋木も三尋木で、賛同派の構成員がどうなってもいいのかね?」 「どういう事ですか?」 「アークって連中は、友軍だろうが顔見知りだろうが、フィクサードなら斬るって事さ」 ファミリーレストランの歓談は、まだまだ続いている。 ●合同作戦 「アシュレイさんが居なくなったのに乗じて、ついでにオサラバするかどうか企て始めていた訳ですが、斎翁お爺ちゃんにメッて言われて、今日も三高平で元気にタンバリン叩いてます。まあ、そんな事どうでもいいですが、結構面白い話が来ましたぜ!」 『変則教理』朱鷺子・コールドマンは、サラッと不穏な事を言いながら、端末を叩いてタンバリンも叩く。 プラズマスクリーンに映るものは『みっひろきぃ』と書かれたエプロンで、ポニーテールの女である。 「三尋木派、『地獄カレー』横須賀 麗華を排除します――或いは、今回の友軍として来る、三尋木部隊側をぶん殴っても良いです」 国内のフィクサード組織、穏健派の三尋木からの打診により、上層部も同意の上で合同作戦を執ることとなった経緯があった。 今回の敵は、三尋木のこの体制に反発する者達の勢力との事だが、友軍を倒しても良いとはどういう事か。 「そこらへんは、リベリスタ的な対応ですよ。三尋木派に煮え湯を飲まされた人も居る訳ですし、フィクサードを倒して何が悪いのかって所ですね。どうするかは任せますよ。お咎めなんてありません。結果を三尋木に報告してオシマイです」 次には友軍として来る二人のフィクサードの顔が映る。 ビジネススーツの長髪の女とマスクを忍者風と女である。 「三尋木賛成派――友軍は『High Nansense』 継木ナナイ、『華麗忍者』羽柴 京子。横須賀 麗華とは仲良しだった二人で、話し合いに行く訳ですが、麗華が折れる事はほぼないです。結局力づくになるんですが、そうなった時に麗華の周りのフィクサードが何するかはわからんです。反対派については麗華のカレーに心酔してる、三尋木内外、寄せ集めの連中です」 三尋木の言っている事を飲んで、横須賀 麗華を召し取るなら、賛成派の勢力が味方となり、逆に賛成派を倒すなら、反対派の寄せ集め達が仲間として働いてくれることだろう。 続いて画面に地図が出る。 「場所は、よくあるファミレスですね。なんか貸しきっているらしいので、乗り込んでドーンでどうぞ。テーブルや椅子で多少足場は悪いです。視界は明瞭」 ここで資料を眺めていたリベリスタの一人から疑問の手が上がる。 「何で恐山がいるんだ?」 「直前に料理勝負してたっぽくて、ジャッジに来てたようです。恐山の中でも精鋭の部類です。カレー食ってるだけで中立維持しようとしますねぇ。キレさせなければ」 不穏な一言が付け加えられる。朱鷺子は無表情でタンバリンを叩いて、中腰でサイドステップを刻む。 「ま、誰かを見てすぐキレる事は無いっすね。私の怪しくない情報網としては、お爺ちゃ――恐山の首領はアークとのパイプを太くしたい様で。そこは安心してくださいな。あと無茶しないでくださいね!」 なお、流れ職人とやらは、到着時点でも泡吹いて伸びているとのことである。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月25日(土)22:35 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●反対派 リベリスタ達がファミリーレストランに入ると、中で繰り広げられていた歓談の空気が一斉に白んだ。 チンピラやスーツ姿といったギャラリーの視線が集中する。また、目的である横須賀 麗華は驚いた様な顔をしてリベリスタ達と――三尋木賛成派を交互に見た。 「あ、どうも、賢者の石の件では……あれ? 京子さんとナナイさんも?」 たちまち場が湧き上がる。ギャラリーが得物を出し始める。 奥のテーブルでは様子を伺っているだけで、加わろうとしない連中が見られる。恐山のシマと目された。 「僕達は武力による解決を望んでいない。まずはカレーを食べながら話し合いがしたい」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が一歩前に出るように、言葉を告げる。 「くそ、よりにもよって何でこんな奴らが!」 「ぎええええ!? やっぱりアークの精鋭じゃないですか!?」 反対派のギャラリーの中でも、声が大きい人物達の額には脂汗が浮いていた。 彼らに危機感を抱かせるには十分過ぎる程に、この場にいるリベリスタの知名度が効いているのである。 「悪い話じゃないと思うし、聞くだけでもどうかしらね?」 『狐のお姉さん』月草・文佳(BNE005014)は、万が一の戦闘には備えている。 既に雰囲気として、『交渉は優位な立場からするもの』が成っている。ならば警戒するべきは中立派の恐山だ。 「ほ、本当に話し合いに来たのか……?」 「言ったとおりよ。――あと、カレー食べれるなら、後学のために食べとこうかしら、辛さは中辛ぐらいで」 文佳がぴらぴら飄然と言った次に、横の席の方から朗らかな声がした。 「麗華ねーさん! こっちにも辛口ひとつー! ご機嫌麗しゅう」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)はちゃっかり着席して、開口一番に注文を飛ばす。 反対派のギャラリーが脂汗を浮かべたり、狼狽を繰り返しているのに、麗華はといえば。 「ええと、夏栖斗さんは、辛口カレー。そちらのお姉さんは中辛カレー。他の皆様は?」 今は昔。夏栖斗は、麗華が革醒者になった原因ともいえる事件での面識がある。麗華の危機感は割と真剣に皆無であり、やはりマイペースに注文を取り始めた。 「甘口と……ちょびっと辛口下さい」 注文を取り始めた麗華に、『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)が夏栖斗に続く。席にもつく。得物は出しておらず、手ぶらである。 「いい匂いね。美味しいものを食べながら……穏便にカタがつけばいいわね」 漂っているカレーの匂いに、何とも食欲をそそられる。 自然と綻んだ笑顔を浮かべて、笑顔を彼等彼女等に向ける。 ここに夏栖斗とシュスタイナの行動で、反対派ギャラリーも武器を下げ始める。 第一段階は完了したと、悠里も加わり。 「僕は甘口で」 向こう側で恐山の女がブフッと吹き出し、咳き込んだ様な光景が見えたが、きっと気のせいだろう。 「ごめんね、シュスタイナちゃん。付き合ってもらって」 ううんとシュスタイナは首を振った。 『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)も、威風堂々と着席する。 「やれ、三尋木も難儀なものだな」 芝居懸かった風に、指をパチンと弾く。 「まぁ良かろう。とかく我々はカレーをどうにかするが先決。となれば勿論中辛が至高であろうか。――中辛ッ!」 気合の入った中辛ッの声が響く。 「承りましたー」 次に、とシビリズは三尋木賛成派の方を向いた。 「そちら(賛成派)も如何かな。討つ、あるいは捕える以外道なし、と言われるなら致し方ないが。無為に血を流すは、そちらも本意ではないかと思うが」 これは賛成派に問うというよりも、『賛成派も話し合いがしたい意向』なのだと、反対派に知らせる目的の言葉であった。シビリズに促される様に着席してカレーを注文する。 『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)は、腕を組み、解しかねる様に首を軽く捻りながら、誰も着いていないテーブルの所へつーっと歩いて行く。 「誰かに喜んで食べてもらえれば幸せ……か。なんでフィクサードをしてるんでしょうか」 三尋木に拘りがある訳でも無さそうだ。 確かに過去の事件で豚を盗もうとしたそうだが、改心しているのならフィクサードで居る意味がまるで無い。 「まぁ、どのような結果であれ頼まれた依頼をこなすまで――ですが」 交渉中は暇になる。人数分の珈琲でも用意する心算だった。 聖は幻想纏いから本格的な珈琲の器具を取り出し、他のテーブルに並べる。 器具はドリップ式のものである。普段はサイフォンを用いるが、人数が多い事を事前に考えて止めにした。粛々と淹れていく。 『アカシック・セクレタリー』サマエル・サーペンタリウス(BNE002537)は、何かを探すように店内を見渡し、とことこと隅っこへ行く。 「ムッシュ、ムッシュ起きて。Curry頂戴」 転がっている男。典型的な裏野部顔の男――ムッシュ田中の頬をぺちぺちと叩き回復を施す。 禿頭で頬が痩けていて、側頭部には刺青。服装は白衣で料理人風の男は「ひゃっはー!?」という声と共に覚醒した。 ムッシュのカレーと横須賀さんのCurryをどっちも食べるという目的の他には何もない。 「僕、お肉のCurryが食べたい。頂戴」 「承りましたー。お肉ごろごろカレーですねー」 サマエルは麗華に対して頷き、ムッシュに肩を貸して、ようやく席へと移動する。 「ムッシュむらむら」 『かれーの女』春津見・小梢(BNE000805)が、ぽつりと呟き、首を傾げ、次には首を正して、ふらふらと着席する。 交渉の場が出来た時に、言いたいことはただ一つだ。まずはカレーが並んでからだ。 「オススメのカレー、たくさん」 だらだらだらーんとした感じは崩さず、今はぐっと堪えるのであった。 注文のカレーは程無くして出て来くる。スパイシーな香りが広がり、同時に珈琲のやわらかい香りが全員の鼻孔をくすぐっていく。 ●交渉≒カレーライス 「だめ、だ。勝てねえ……絶対だ、レベルがちげえ……」 ムッシュ田中は、着席したもののガタガタと震えている。 「どうしたんだい、ムッシュ?」 サマエルがムッシュの禿頭をゆさぶる。 「……あ、味わいの奥底からにじみ出てくる黒い……絶望は何だ……!?」 気にせず。皆で『頂きます』が唱和された。 白ご飯からホカホカと湯気が上り、茶色のカレールウと半々。お野菜がごろごろ、決して煮崩れもなく味も十分染み込んでいる。 一見、何の変哲も無い日本式のカレーライスである。 しかし、一口目を頬張れば香りが口に広がり、咀嚼して飲み込めば香りそのものが喉を上って来て、鼻孔の奥を内側から刺激する。 味も素晴らしく、工夫が凝らされている。 辛口カレーは、カッと辛味を感じた後に、すぐに辛さが引いていく。存分に旨辛を味わえる。 中辛カレーは、後を引く辛さだが辛口カレーに比べて辛味が抑えられている為、十分に旨辛い。 甘口カレーは、脂の甘さ、白飯の甘さ、ルウの塩辛さと辛くないスパイスの香りが存分に楽しめる。 辛さをミスった人の為に、聖がチーズや卵などのトッピングも用意している。 天下の逸品と評しても良いカレーライスに加え、何とも至れり尽くせりであった。 食が進むうちに、三尋木賛成派――代表のナナイと麗華との間で問答も始まっていた。 「やっぱり麗華は上海に連れて行きたいのよ」 「いくらナナイさんでもそれだけはヤです!」 「どうして。あっちでもカレー作れるわよ?」 「カレーを作っていれば幸せで、作ったカレーを食べてもらえる事も嬉しいですけれど――」 問答は平行線である。 しばらく聞いているだけだったシュスタイナは、口を上品に拭いて席を立つ。 「さて、私は鴻上さんのお手伝いでも」 シュスタイナが珈琲を淹れている聖の手伝いへと赴く。途中で麗華の横で一言を加える。 「私は、こうやって言葉を交わすことで終着点が見出せたらいいなって思うわ。どなた様も傷つかずにね」 すると、三尋木賛成派の京子も席を立った。 「そう思う……私も珈琲を運ぶくらいは手伝おう」 夏栖斗が両手を後頭部にやって背を椅子に預けながら言う。話が平行に続いている中で痺れを切らせる。 「あれだよね、ぶっちゃけ、京子さんもナナイさんも、麗華ねーさんのこと好きだから、離れたくないとかそういうの? だとしたらやりにくいけど」 悠里が、此度のアーク側の結論を付け加えるように切り出す。 「僕達は平和的解決の為に、麗華ちゃんが日本でカレーを作れるという状態を作りたい」 「ちょっと! アーク! 何をいきなり!?」 ナナイが憤慨してテーブルに乗り出す様な格好をする。同時に反対派のギャラリーも驚く様な声を漏らす。 ここで聖とシュスタイナ、京子が珈琲を運んでくる。 「ブルーマウンテン――丁度、中々良い豆が手に入りましてね」 感情が熱くなりやすい交渉の際は、冷たいものを出す――ささやかに見えながらもこれが実に効果があるのだ。 ナナイはアイスコーヒーをストローから飲んで、一旦着席してフウと一息ついて頬杖を作る。 このまま襲いかかりそうな剣幕は鳴りを潜める。 「――分かってるわよ。アークのやりたいこと。けど私達も色々事情があってね。正直な所、麗華は上から有能って見られている訳。だって『あのアークのリベリスタ』に協力してもらって『賢者の石』獲得してるんだもの」 ナナイは、夏栖斗と悠里と小梢を見る。 組織の内外に味方を作りうる麗華の能力を証明した者は、他でもなくアークのリベリスタであった。 「『力ずくでも何でも連れて来い』『最悪、レシピだけでも回収しろ』な方針よ」 「本人の意向を無視する事を是とするのかね? 血を避けられるならばそれに越したことないのではないか?」 シビリズがアイスコーヒーを啜り、人差し指で卓の上をトントントンと叩く。 「それは……」 言葉に詰まるナナイから、麗華に視線を移す。 「今日に至りて反対派は粛清の危機にある。これ以上、一つの組織に留まる理由は無い様に思うが? アークに来れば良い。カレーを作るだけならば三尋木でなくともよかろう?」 麗華がアホっぽくうんうん唸って質問をする。 「…・…お金儲けしているフィクサードって、アークのリベリスタさんから攻撃されるんですか?」 恐らく問われるだろうと予想して、答えを用意していた者は文佳である。 「アークはフィクサードだから倒す、わけじゃないのよ。言ってしまえば『卵が先か、鶏が先か』になるかもしれないけど、『悪さをするからフィクサードだと認識するし、その悪さを止めるなり防ぐなりするために倒す』ってだけ」 人様に迷惑かけない範囲でカレー作ってるだけならアークの討伐対象になどなりはしないのだと説く。 「フィクサードやめて、アークの社員食堂のカレー担当になれば、もうリベリスタよね?」 煮え切らない態度の麗華に、サマエルが後押しする。 「命のやりとりをせずに自分の利を突き進みたいなら――多分、それが最善」 サマエルは、アークという組織に一寸考えた上で言った。 とても短絡的な組織だ。考えるより殴るし、楽しければ流れる。だからこそそこには、フィクサード組織と別の色が交じっていることもわかる。こう評する。 「アークに来てカレーを 作 ら な い か」 小梢が永遠なるカレー幻想を身に纏いカレー風味に話しかけた。いよいよである。 鬼気迫る威圧、いやさ華麗に迫ると形容できる座った目であった。 「日本から離れる必要もないし、珍しい食材も手に入れやすそうだし、私だって毎日食べに行くよ、いやマジで! どうしてもと言うならカレー勝負を挑みます!」 カレー勝負という単語を発した途端、今まで震えていたムッシュが激昂するようにテーブルに上体を乗り出した。 「馬鹿な、やめろ! この女は圧倒的過ぎるんだ! そして自分が作るカレーより美味しいカレーを食ったことが無い絶望に満ちている!」 「こう見えてもカレーには一家言ある身、カレー勝負やるっきゃナイト」 小梢がグッと拳を握る。 「世間知らずみたいなので言いたくなかったのですが、『自分のカレーライスより、美味しいカレーライスを食べたことが無いのですよね』」 麗華の傲慢極まりない発言であるが、根本的に素だ。悪意も何もない。 三尋木は穏健、金持ち集団。凄まじいグルメもいる。三尋木派として存在した理由は、ここだったのだと一同が解釈するに至る。 「ふむ、美味しい物を作るのに、所属は関係ないでしょう。私も麗華さんと同じく、自分が淹れた珈琲を喜んで貰える事は幸せに感じますよ」 食後のアイスコーヒーを運びつつ、聖がさりげなく言うと。 「えーと、分かりました。アークにいきます!」 ●フォーアンサー 麗華に提案はあっさり受け入れられる。 最終的には三尋木賛成派であるナナイ、京子の立場が危うくなる事については、落とし所が決まらない。 「お願い麗華。私達を助けると思って――」 「ナナイさん達も、アークに来れば良いじゃないですか?」 そうも行かないと三度四度繰り返される。 ナナイは苛立ちを隠せなくなってきている。 サマエルが、殺気を感知する。ここしかないと、言葉を選んで一言ずつ唱える。 「でも殺す事は、アークの人いい顔しないよ。アークがフィクサード足り得ないのは、死が作るものに敏感だから」 サマエルの言葉に、ナナイは戦意を喪失するようにがっくりと項垂れる。 「死によって人を救い、死によって痛み悩む。だから『手を汚すことを厭わない』という力を振りかざしもする――皆臆病なんだよ。Yakuzaさん達が全部意見を一致させたいのも、僕達が闘うのも」 言い終えると、途端に、離れた席の方でガタと椅子から立つ音がした。 視線は自然とそっちへ行く。 何の意図か。恐山。 「(――何故、此処で動くんだ)」 悠里は項を焼かれるような焦燥感を覚える。 リベリスタは一斉に幻想纏いに手を伸ばして警戒心を強める。 「何の用?」 文佳が問う。 「そう殺気立つな。単なる野次馬さ」 「そう? できるだけ戦闘にならない様に配慮している事は、分かって貰えてたわよね?」 「カレーのおかわり貰いたいだけさぁ」 狐のビーストハーフの覇界闘士は、のらりくらりと化かす様に応答する。 「割とあたし、殺傷力高いほうなので、できるだけ殺したくないなーってことで」 「キレ所を探っているのかねぇ? 簡単だよ。お前等が友軍を裏切る様な真似したら、私はキレるんじゃないかな?」 悠里が拳を強く握る。 シビリズが再び、ふむ、と唸る。 「(……ああ係長か)」 何も言うまい。と黙考する。 悠里も、ここで係長の一件の話を出す事は、爆弾に火を点けるに等しいのではないかと窮する。 シュスタイナが、悠里の様子をジッと見る。眦を決して恐山に言う。 「私達に悪感情を持っていると聞いています。でも私達は無闇矢鱈に人を傷つけたりしない。利害関係であっても妥協点を探す努力は絶対に怠らない」 シュスタイナとキツネ目の間に奇妙な空白が生じた。 程なくして、キツネ目は腕を組んで首を捻る。 「――ホント訳が判らんが、これがアークってやつの面白い所なのかね?」 帰る。とキツネ目は短く言って恐山は撤退を始める。 「……佐藤田さんの事は、すまないと思ってる」 「気が済まん部分もあるから、そのうち一回真面目にしばき合うかねぇ」 キツネ目はつかつかと去っていく。 「話の腰を折に来ただけ――嫌がらせの類ね」 文佳はピリピリとした緊張を解き、シュスタイナもフウッと安堵をついた。 夏栖斗が、話の腰を修復すべく身を乗り出す。 「麗華ねーさんのカレー好きの皆さんも、協力してよ。僕もねーさんのカレーは食べたい。本当に美味しいもん」 「そんな都合の良い事……」 「遠い所にいたってラインとかメールとかはできるよ。友達のやりたいこととか無視したら上手くいくものもいかなくなる」 夏栖斗の言に、三尋木は折れる。 「いえ。それが一番よね」 調息した悠里は、改まって案を出す。 「少し考えたんだけど、こういうのはどうだろう」 ●カレーライス 「麗華さんがアークの傘下に入った場合、三尋木とは協力関係にあるわけで、反対派は存在しなくなることになります!」 小梢カレーが出る。 麗華がつくったスパイスを調合しなおしたものだ。 「カレー食べてお帰り下さい。あ、一緒にアークでカレー作りたいというのなら歓迎しますよ♪」 「案は持ち帰って検討するわ」 ナナイと京子、賛成派はここに撤退する。 悠里が出した案は『形の上では「アークが反対派を武力制圧して捕縛した」という形を取って貰っても構わない』あるいは『三尋木の窓口、橋渡しとして日本に残ってもらう』。 これは、上との相談となることだろう。 「本当に有難うございました。いただきます!」 小梢カレーを一口食べて、麗華は目を見開いた。 どうだとばかりに小梢は胸を張る。 かなり良質のスパイス。そのスパイスの配分を少し改良するだけで想像を超えるカレー道。 小梢の配分は、麗華の長年の夢もまた、成就させたのであった。 「――ヒャアア!」 なおムッシュは少々こわれたままである。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|